●十文字菫と百田イズル 十文字菫と呼ばれるフィクサードがいる。 『達磨』と呼ばれた剣林のフィクサードの娘で、その性格は……まぁ、けしておとなしいものではなかった。 「数多いねぇ。とりあえず作戦考えますか」 「問題ない。火力で押し切る」 「ちょ、おま、菫ー!?」 ……。 「数多いねぇ。とりあえず作戦考えますか。……もう正面突破はなしですからねぃ」 「問題ない。陽動作戦だ」 「じゃあタイミングを合わせて……って相談もなしに突っ込んでいくんじゃねー!」 ……。 剣林が実力主義の組織だというのなら、確かに彼女は剣林のフィクサードだった。無茶をするのは『無茶をすれば勝てる時』であって、単にそれを説明するコミュニケーション不足だと気づいたのは幾度の戦いを超えてから。 そう、あの時も。 セリエバというアザーバイドがこの世界に召還されたときも『無茶をすれば勝てた』のだ。無茶の結果として、彼女はセリエバの毒に犯されて今現在も命を削られている。親である『達磨』は娘を治すためにセリエバ召還という暴挙に手を貸している。 そしてその『達磨』こと十文字晶に力を貸すフィクサードに百田イズルというものがいる。セリエバ召還の足場を作るために剣林を裏切る形で出奔し、海洋で準備を行っていた。彼はアークと抗争したのち……。 ●百田イズルと仮面の男 「久しぶりだな、良」 「イズ兄……!? いえいえ、俺は『氷原狼』というフリーのフィクサード、デスヨ」 「あー、うん、そうだな。『水原良という元剣林のフィクサード』ではなく『変な仮面かぶったフリーのフィクサード』の方に用がある」 「まさかカツアゲごふぅ!?」 「殴るぞ。W00の持つ『継ぎ接ぎ用の針』があればセリエバの毒の進行をを抑えられるかもしれない。だがまぁ、W00との交渉は何を要求されるか分からない。そして『達磨』さんはW00やバーナードと共闘していて、力づくでアーティファクトを奪うことはできない」 「すでに殴ってるよ!? ああ。つまりこうですかねぃ。『だがまぁ、剣林ではないフリーのフィクサードが針を奪ってしまえば、共闘関係を崩すことはない』……ところでこの話は誰の案ですかねぃ。『達磨』さんとは思えませんが」 「『達磨』さんはこの件を知らない。俺の案だ。……まぁ、向こうも同じようなことをやるわけだからお互い様だがな」 「へぇ。黄泉ヶ辻が何かするんですかねぃ」 「連中、菫さん……というかセリエバの毒を奪うために――」 ●アーク 「黄泉ヶ辻のフィクサードが病院を強襲します。これを防いでください」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「相手はW00と呼ばれるフィクサードの生み出したWシリーズの一人です。ナンバーはW01。病院内のある一室に向かってまっすぐに向かっています」 「なるほど。そこを迎撃するのか」 「はい。病院の人たちの退避は間に合います。 このフィクサードは、別の場所にもう一体存在します。その二体をほぼ同時に倒さないと、撃破することが出来ません」 和泉の言葉に驚きの表情をあげるリベリスタ。二体をほぼ同時に……? 「タイムラグは十分。微調整は必要ありませんが、片側の討伐が失敗すればもう片側も討伐できないようです」 つまり、別の場所に存在するW01にも攻撃を加える必要があるわけか。そうなれば大切なのはその『もう一方』の場所である。 「そちらにも一チーム派遣しました。あちらのほうは別命を帯びています。 こちらのチームの目的は『フィクサードの打破』と、もうひとつ」 和泉の声と共にモニターが写り変わる。様々な機械からのびるコードとチューブ。そのコードとチューブの先には一人の女性。おそらく病室だろう。別途に書かれた入院患者のプレート。そこに書かれた名前は、 「十文字……菫」 「セリエバ召還を行うフィクサードの一人、『達磨』十文字晶の一人娘です。現在セリエバの毒に犯されて指一つ動かすことができず、生命維持を行っています。 彼女の身柄を押さえれば十文字晶への交渉のカードにもなり、かつセリエバ被検体を研究することで、かのアザーバイドに対抗する手段が手に入るかもしれません」 淡々と和泉は事実を告げる。 剣林のフィクサードである『達磨』の戦闘力は高い。セリエバ召還を止めるなら、必ず障害となるだろう。彼の原動力である娘を押さえることができれば、何らかの抑制はできるかもしれない。 また、アークのセリエバ研究は遅々として進まない。検体がセリエバの枝一本のみでは、十分な研究ができない。だが、その毒に犯されている者を調べることができれば、あるいは。 「まさか、もうひとつの任務って言うのは」 「はい。『十文字菫への接触』です。そこで何をするかは、皆さんにお任せします。何もなくても構いません」 「無理やり身柄を奪ってこい、というわけではないのか?」 「上層部でも意見は分かれたようですが、最終的には現場の皆さんに任せるという結論になりました。 『運命に選ばれた者達の選択に従おう』……だそうです」 「……はっ」 運命の子(リベリスタ)に全てを任せる。アークの基本方針はそれだ。信頼と信用と、そして今までそれで勝ち抜いてきた経験。それが土台となっている。 肩の荷は重くなったのか、軽くなったのか。 何はなくとも、フィクサードを撃退しなければ意味はない。リベリスタたちはそれぞれの思いを胸に、ブリーフィングルームを出た。 ●百田イズルとW01 「待ちな。W01……いや、アイといえばいいか」 「お前は……百田イズル」 「『お前は施設から逃げ出した逃亡者。黄泉ヶ辻の追っ手を振り切るために病院に逃げ込んで『補充』するために病院内の患者に手をかける。その患者が、たまたま剣林の手のものだった。逃亡者のしたことなので黄泉ヶ辻には関係ない』……なんて筋書きか」 「さてな」 「双子の『生まれなかった』方なんだってな、おまえ。 『生まれた』方から存在やら命やらを切り取って、『生まれなかった』方の魂と融合させたとか何とか。双子になるまで何度も妊娠させて、堕胎させたらしいな。イカレてるよ、W00は」 「……父様の悪口を言うな」 「訂正だ。半端なくイカレてるぜ、W00は。 『弾丸言語』で説教してやるよ」 「あなたでは、私を倒せない」 「試してみるか?」 一秒の沈黙の後、銃声と殴打の音が病院に響いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月21日(月)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「護りたい者の為に動ける奴が、フィクサードとはな」 白いスーツの襟を正しながら、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)がため息をついた。これがいっそ解りやすい邪悪であるならこちらも気兼ねなく倒せるのだが、と。だが手を抜く気はない。 「フィクサードだって人間よね。護りたい者の一人や二人はいるものね……」 芝原・花梨(BNE003998)は鉄槌を手に百田と、そして廊下の奥にある通路を見る。『万華鏡』の情報によれば、そこには十文字菫と呼ばれる娘がいる。 「十文字さんて人が狙われるんですね」 『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)はのんびりと『大きなカレー皿』と呼ばれる破界器を構える。名前に違わぬ用途と形状だが、それを構えた小梢はまるで隙がなかった。 「うん。とにかくその人だけは守らないと」 小梢に守られる形で『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は戦場を見渡した。菫の病室を守るように立つ百田。そして、菫を狙う存在、W01と呼ばれるフィクサード。 「W01の性質は特異ですね。その力の在り様、運命の加護を持つ者よりも加護の外にあるモノに近しい」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)はW01をみて『祈りの鞘』と呼ばれる破界器を握る。彼女も運命のかごを持つ革醒者だったのに。 「セリエバの毒確保の為に同盟相手の行動源を潰すとか冗談でも性質が悪いぜ」 緋塚・陽子(BNE003359)はW01に命令を下しただろうW00の行動に、眉根を寄せる。剣林と黄泉ヶ辻。確かに仲良しというわけではないのだろう。 「皆が追っているセリエバの情報を入手できる機会。出来ればこの機会を逃したくはないのですが……」 さてどうしたものか、と『不屈』神谷 要(BNE002861)は頭を悩ませる。百田が守りたい相手をアークが確保すれば、セリエバの情報が手に入る。しかし、それは誰かを守りたいという気持ちを踏みにじることになる。 「溜まってる借りを、此処らで一つくらい返さないといかんし」 『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)は――いりす本人には剣林に借りはない。だがいりすはまるで彼等に借りがあるかのようにつぶやき、二刀を構える。 「アークのリベリスタ」 百田は苦虫をかみ締めたような表情をする。アークがセリエバの情報のために菫を確保する、というのは予想できた展開だ。W01を相手しながらアークと戦うのは、さすがに難だ。 「……」 W01は逆に余裕があった。その戦闘力ゆえか、そしてその不死身の能力ゆえか。 17時を告げる放送が鳴った。それを合図に、革醒者たちの戦いは幕を開ける。 ● 最初に動いたのはいりすだった。W01と百田の横を通り抜け、振り返る。まるで、W01を病室に行かせないように。 「君が此処にいるのは『君』の意思なのかな? それとも、そういう風にできてるのかな?」 いりすは闇を絡めつかせながら、W01に問いかける。どちらでもよさそうなうつろな瞳だが、その言葉には確かな熱があった。その熱に促されたのかW01は口を開く。 「私の意志だ」 「ならいい。君と戦う楽しみが増えた」 獣のような笑みを浮かべ、いりすの闇はより深くなる。 「此度、我等が敵は貴女だW01」 アラストールは剣を抜くと同時にW01に方に走る。『祈りの鞘』を防御のために構え、その構えを軸とするような攻めを行う。鞘で相手の攻撃を受け流しながら、そのまま流れるように交差して鞘そのもので打撃を加える。 「私の名前はアラストール・ロード・ナイトオブライエン。我が騎士道にかけてここを通さぬ!」 「はっ。お前達の目的は私とそう変わるまい」 「そうでもありませんよ」 W01の罵倒を要が否定する。 確かに十文字菫を確保できればセリエバの研究は進むだろう。そうなればかのアザーバイドとの戦いを有利に持っていくことができる。だけど、 「誰かを救いたいが為に戦うという思いを蔑ろにしたくはありませんしね」 要が仲間たちに神の加護を与える。軍神の如く雄雄しく、女神のように優しく加護は味方を包んでいく。 「百田イズル。私達の最優先目的はW01よ。あいつを倒すまで休戦しない?」 花梨は百田に休戦を求め、共にW01を倒そうと持ちかけた。そのままW01に向かって振りかぶっての一撃を放つ。鉄槌が轟音と共に振り回され、W01に叩き込まれた。そのまま花梨はW01を指さして大きな声で叫ぶ。 「あんたよりもそこの女よ! 病院をめちゃくちゃにしちゃってさ……あたしの前で悪いことをしてただで帰れるなんて思わないことね!」 「ただで帰れない、はこちらのセリフだ。邪魔立てするなら容赦なく攻めるだけだ」 「やれやれ。少しは加減して欲しいぜ」 福松は口の中の飴を舌で転がす。糖分が体を駆け巡り、思考がクリアになった。早撃ちでW01を追い詰めながら、百田に語りかける。 「とりあえず共通の敵であるW01を倒すまでは、互いの邪魔はしないって事でどうだ?」 どうだ、というのは花梨の持ち掛けに対する返事を待っているという意味で言っている。ここでもも多が交渉を受け入れてくれれば、戦いはぐっと楽になる。 「死の使いの刃、鱈腹喰らいな!」 陽子は百田の肩を叩いて、カードをばら撒いた。当たるか否かはギャンブルだ。しかし最近の自分はツイている。その流れが戦闘中も続いていた。ばら撒いたカードが風に流されるようにW01の背中に当たり、爆発が起きる。 「ま、勝手に肩並べさせてもらうぜ」 「……いいぜ。好きにしな」」 百田が休戦の承諾を返す。三つ巴よりもそっちの方がありがたいという判断があったのだろう。 「わーい、ありがとう!」 百田の答えに一番元気な反応をしたのはアーリィだった。そのまま大きく息を吸い、声に魔力をこめた。口から出た音は声となりそして歌になる。歌は心を癒しながら、同時にリベリスタの傷を癒していく。 「危なくなったらみんな言ってねー! どんどん治すんだから」 「そして私がどんどん守ります」 小梢が大きな盾をもってアーリィを守る。使い慣れた盾をもって深く構えながら、同時に視界を確保する。ぼうっとしているように見えて、小梢の守りはまさに鉄壁だった。回復の要であるアーリィに攻撃が届くとは思えない―― 「なるほど。そこが回復で、そいつが守る作戦か」 W01は軽くステップを踏む。大気を蹴り、相手の虚を突く神秘の武技。鉄壁の城砦を真正面からではなく砦の窓からもぐりこむような動き。 「アーリィちゃんには指一本触れさせませんよ」 「その守りは鉄壁かも知れないが、有限。私の攻めは、無限。どちらが強い?」 W01の声が廊下に響く。 アークのリベリスタと、フィクサード。今はただ目的のために手を組み、歪んだ少女に武器を向ける。 ● W01の攻撃はアーリィを主に狙うように飛ぶ。 接近しているアラストールか花梨か陽子、中衛にいる要か福松か百田、そのいずれかを巻き込むように拳を放ち、回復役のアーリィを狙う。 もちろんそれはアーリィを庇っている小梢に命中するわけだが、蛇のように隙を突く軌跡と防御を崩す一撃で大打撃を受けてしまう。 その崩れた状態を要の破邪の光で癒し、アーリィの神秘の調べで傷を癒す。アーリィのウs多による回復量は高く、並の革醒者の与えるダメージならすぐに癒しきってしまう。 しかし、 「……少し、退きます!」 体力に劣る花梨が回復を得るために一旦下がる。そこにW01の拳が飛んできた。胸部に叩き込まれた一撃に花梨は膝を屈する。運命を燃やして意識を保ち、鉄槌を杖にして立ち上がった。回復を受けて、その鉄槌を振るう。 「まだまだまけねーぜ!」 W01の生み出す刃に刻まれて陽子も意識を失いそうになる。賭けるは己の運命。そのチップを支払って陽子は戦場に残る。ばら撒かれたカードがW01に凶を告げた。矢次に叩き込まれる死神のカード。 「あー、とっても長引きそう」 小梢はアーリィを庇いながら、戦いが長引きそうになるのを予想していた。W01の与える攻撃の影響を自分も一緒に癒そうとすれば、アーリィへの防御を捨てることになる。そうなれば回復がいなくなるのだ。 「でも痛いんですよねー。これ」 のんびりとした口調だが小梢の苦手な角度から飛んでくる拳は、骨に響くダメージを与えてくる。 「小梢さん、大丈夫!?」 小梢に庇ってもらいながら、アーリィが仲間達に回復を飛ばす。常に全体を見回し、戦場を見ているアーリィ。大事なのは体力だけではなく技を使うための気力もだ。それが尽きそうな人がいればすぐにそれを飛ばすつもりだが……。 (そのためには一旦歌を止めないといけない) それは回復を中断することである。わずかひと時。そのひと時に回復がないことが致命的な状況もある。そうなる前にするべきか、それともぎりぎりまで待つか。思考に思考を重ねるのが回復役の常。 W01の攻撃力が増す。途端に動きが鋭く、強くなった。それは彼女をそれなりに追い詰めたことを意味する。空中で『真横に』立ち、そこを軸にして刃を、拳を飛ばしてくる。 そこに、 「見切ってるぜ、その『足場』!」 福松の弾丸が飛ぶ。経験と直感、そして観察力が生んだ未来予測。その弾丸に思わず足を崩すW01。そこに叩き込むように弾丸を放ち続ける。飛んでくる拳をストールで軌跡を逸らしながら、トリガーを引く、引く、引く! 鉄の暴力が連続でW01に叩き込まれた。 「その一撃は確かに強いです」 要はW01の与える一撃の残渣を取り払うのに手一杯だった。強い衝撃で防御を崩す打撃を邪悪を払う光で癒していく。余裕があれば弱っている人を庇ったり、あるいは前衛に参加したくもあったのだが、仕方ない。要がいなければ、とっくに怪我人だらけになっていた。 「ですが、私がみんなを守ります」 「無駄だ。Wシリーズ(わたしたち)は人間そのものを捨てさせられた兵器だ。ただの革醒者が束になったところで、勝てる道理はない」 「道理ならある」 応じたのはアラストール。刃と鞘を手にして、敢然とした態度でW01に言葉を向けた。開戦から最前線でW01と戦っていたアラストールの肉体はぼろぼろだ。だが心はまったく折れず。清廉な騎士は言葉を続けた。 「我等には信頼する仲間が居る。これが勝てる道理だ」 「数の優位性か? だがそんなものは――」 「違う。仲間がいる。絆がある。守りたいという意思がある。折れず屈さぬ心こそ勝利への標だ」 「戯言か」 「確かに戯言だ。だがまぁ」 折れず屈さぬ、というのは事実かな。いりすは自らの生命を削りながら、闇を刃に変えて飛ばしていた。『僕』は折れないし屈しない。やることはひたすら単純だ。浮かんだ微笑は誰の記憶の物なのか。ただその動きに迷いはなかった。 「何にせよ。相手が不死身だろうと関係ない。最悪、此処で殺し続ければ良いだけの事だ」 「やれるものなら、やってみろ」 吐血するW01。命の危機レベルまで追い込んだようだ。 もちろんリベリスタの消耗も激しい。体力、気力共に限界を訴えているものもいる。 不死身を謡う兵器は、体中の痛みに耐えながら笑みを浮かべた。 ● 「――畜生、こいつ本当に死なないぞ!」 陽子が何度目かのカードを突き刺しながら、悪態をついた。確実に倒した手ごたえはある。だがその度に蘇るのだ。 「理解したか。ならばこちらの番だ」 リベリスタの猛攻は確かにW01を追い込んだ。生死ギリギリのラインに追い込まれた彼女のギアがあがる。攻撃手段は変わらずの徒手空拳。しかしその切れ味はまさに死に物狂い。 「あーれー」 アーリィを守っていた小梢が倒れ伏す。再生の加護も付与していたのだが、それ以上の火力で責められて力尽きた。 「いい加減倒れなさーい!」 花梨の鉄槌がW01を穿つ。相手の芯を捉えた一撃。口から血を流しながら、W01は笑みを浮かべる。 「この程度で倒れるわけにはいきません」 開戦からずっとW01に接近戦を仕掛けてきたアラストールが膝を突く。運命を燃やして立ち上がる様はまさに威風堂々。この程度では負けぬという意志がその瞳にこめられていた。 「くそっ……!」 「……ッ!」 福松と要が体力を奪われ、意識を失いそうになる。ここで倒れる運命を削り、足を踏ん張ってW01を睨み返した。 「果敢なる運命の使途。それゆえにアークは恐れられている」 W01はリベリスタの攻撃を受け、復活しながら口を開いた。 「だが運命には限りがある。父様の与えてくれた不死性はその上を行く。 絶望し、身をゆだねろリベリスタ。そうすればお前達も同じように改造してくれるだろう」 「真っ平ごめんです!」 アーリィが叫ぶと同時に神秘の調べが戦場に響いた。絶望に染まる心を優しく包み希望を与えるソプラノの響き。 「言ったろう。殺し続けると」 いりすの二刀が十字に振り下ろされる。夜を想起させる黒の波動がW01を襲い、わずかに残った体力を削る……が、 「言ったろう。不死身だと」 痛みと衝撃に体を震わせながらW01は立ち上がる。確かに死なない。だがその傷の痛みが消えているわけではない。死に至る傷を何度も受け、死という経験を何度も繰り返し。耐え難い苦痛と恐怖が彼女を苛んでいる。しかしそれでもW01は父のために立ち上がる。 「不憫だな。その父親は、お前のことを駒としか思ってないのに」 百田の言葉はW01には届かない。届いたとしてももう互いに刃をおさえめれる状況ではない。 アラストールの目に映るのは父の愛を求めて足掻く少女だった。救う手段はない。せめて安らかな死を。祈りと共に剣が振るわれる。横薙ぎに払われた一閃は、W01の胸部を横一文字に裂いた。 また蘇る。そんな顔をしていたW01が驚愕の表情を浮かべる。『死』の手が自らに絡まった感覚。それに引っ張られるように崩れ落ちる。 「父様……ごめん、なさい」 まるで信じられないという顔で自らに迫る『死』を認める。その顔に浮かぶのは、許しを請う娘の表情。 「……歪で、哀れだ」 アラストールは静かに呟き、剣を収めた。 ● W01が滅び、そして病院の廊下にリベリスタとフィクサードが残る。百田は油断なく破界器に手をかけていたのだが、 「あんたのお姫様はあんたに任せるわ。あたしたちは正義の味方なの。病人に手を出す趣味はないわ」 「十文字の眠り姫をアークに持ち帰ろうが置いておこうが、オレはどっちでもいいしな」 花梨と陽子が破界器を納めて百田に告げる。他のリベリスタも概ね意見は一緒だった。 「……いいのか?」 「オレ達お人好しのアークは十文字菫を助けたいと思っている」 「セリエバの毒の情報は欲しいですが、あなた達の思いを蔑ろにはしたくありません」 福松と要が百田の疑念の言葉に応じた。たっぷり五秒ほど沈黙が続き、百田は構えを解く。 「『継ぎ接ぎ用の針』をこちらで手に入れれば、そちらに融通することもやぶさかではないのだが」 「いや、そいつは遠慮する。知っていると想うが、『針』の奪取のために俺はある男に賭けた。 ここでお前達の行為に甘んじれば、そいつを裏切ることになる」 アラストールの言葉を、肩をすくめて拒否する百田。十文字菫の生命を一番に考えれば、受けるべきカードだ。だが、最低でも自分が勝つと信じた仲間の結果を聞いてからだ。 「まぁ、『僕』のやることは変わらないわけだ。セリエバは倒す。達磨君の娘は助ける。んで達磨君を喰う。ついでに世界も守る」 いりすの物言いに、怪訝な顔をする百田。その言動、その態度に死んだと聞いた誰を重ねてしまう。その誰かの名を口にしようとして……口を閉じた。 「まあ、アークで保護できるようならしてあげればいいんじゃないですか。治る可能性の高い方で」 「向こうの結果しだいだよね」 小梢とアーリィが幻想纏いを手にして、みんなの注目を集める。 通信先は同時進行中の作戦現場。軽空母での戦い。聞こえてくるのは激しい戦闘音。 その戦いの終幕を聞くため、皆固唾を呑んで通信に耳を傾ける―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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