●穏やかな日々 高い山を越え、深い谷を越え、暗い森の中を延々と突き進んだ先。 本日の目的地は、そんな奥地にある寂れた小さな村。 荒れた屋根にガタついた木製の扉。そんな古びた家屋が数件と、雑な管理で雑草が生え放題の畑。 『廃村』 そう呼んで差し支えのない光景。 そんな雰囲気をぶち壊すように闊歩する骸骨。畑でせっせと働く骸骨。眠る骸骨。 一際大きな家屋の中には、人が一人とゾンビが一体。 出された食事には……いっぱい。 ●エゴの選択 「今日の仕事はここにいるエリューションの討伐」 いつもと変わらぬ様子の『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はここ、と地図の中央を指さした。 ここってどこだ。『3区』と大きく書かれた緑の地図を見て、リベリスタは呟いた。 「この村が見つかったのは最近」 つまり、人が住んでいるとは思われていなかったらしい。何の印も無い地図にも納得がいく。 「ここにはE・アンデッドが3体、または4体。生存者が1人、または0人」 彼女にしては随分と曖昧な言い回しだ。リベリスタは少なからず含みを感じた。 「付近の河原までは送るから、そこからは歩いて村へ向かって」 川を示す青い太線が地図を走っている。地図を見る限り、村はすぐそこだろう。 「村へ到着したら、見回りをしている骸骨型でフェーズ1のE・アンデッド2体が気付いて襲ってくる」 画面が切り替わり、さも当然のように歩きまわる2体の骸骨が映し出される。 「片方は槍、もう片方は棍棒を装備しているから上手く戦って」 「……村の内部には複数の骸骨がいるけれど、それは村で一番大きな家にいるエリューションが動かしてる」 生前の動きを真似ているだけだから襲ってくる事はない、とイヴは付け加えた。 そして画面は家の内部を映す。布団に眠る具合の悪そうな男性と、エプロンを付けた……ちょっとゾンビな女性。 「男の人が斉藤さん。もう片方が3体目のE・アンデッド、フェーズは2」 生前はお手伝いさんだったのだろうか。エリューションらしからぬ程に甲斐甲斐しく斉藤さんの世話をしており、見た目さえ気にしなければまともな光景にも見えてしまう。 「斉藤さんのいる家に近付いた時点でそのエリューションは気付くと思う。 気付いた時点でそのエリューションは家から飛び出して、斉藤さんを絶対に守ろうとする。 装備は包丁を持っている位だけど、毒攻撃をしてくるから注意して」 「それと」 画面に先程の見回りの骸骨よりも大柄な2体の骸骨が映る。 「そのエリューションとの戦闘に入った時点で、隠れていたフェーズ1のエリューションが2体参戦してくる。 武器は持ってないけど、大柄な分力は強いみたい」 ここまで言った所でイヴは口をつぐむ。リベリスタは『生存者が1人、または0人』というイヴの言葉を思い出した。 ●黒い天井、白い天井 「――生存者、斉藤さん。年齢は60くらい。この村の村長。 村長自体は代々継いできたものだから、家は大きいし何もしなくても生きていけたみたいだけど……住人と一緒に畑の手入れとかしてたみたい」 また、イヴは口をつぐんだ。数秒の沈黙の後、何かを決めたように口を開いた。 「斉藤さんだけど……助けてもいいし、助けなくてもいい」 意外な言葉。どういう事なのか、聞いたリベリスタへの返答はこうだった。 「斉藤さん、もうあまり長くない。 ……エリューションの有無に関わらず」 モニターに井戸が映る。ボロボロの屋根を見る限り、村の中にある物だろう。 「ここの水は、ほんの少しだけ汚染されてるの。 軽く飲む位なら問題はないんだけど、ずっと飲んでたら……」 少なく見積もっても50年。積もりに積もった毒が、その身体を蝕んだ事は容易に想像できる。要するに、『手遅れ』なのだろう。イヴの表情は少しだけ暗かった。 「加えて……このフェーズ2のエリューション」 更にイヴの表情が暗くなり、土間が映し出される。先程のお手伝いさんと思しきゾンビが料理をしていた。 そしてエプロンのポケットに手を入れ、白い調味料のような物を鍋へと振り入れる。 「毒」 イヴは小さくそう呟いた。 「斉藤さんは丈夫な人だったから、他の人よりもずっと苦しんだの」 映像のゾンビは辺りを見回した後、ポケットへと毒を仕舞う。 「……このエリューションは、生前斉藤さんの財産が欲しかったみたい。 『全部自分の物に』そんな考えで、斉藤さんを『守って』る」 怒りを口にしたリベリスタに、イヴが続ける。 「でも、斉藤さんは何も知らない。何も気付いてない。意識はあると思うけど、声も届かない。 だから――助けてもいいし、助けなくてもいい」 「……」 「もしも助けるのなら斉藤さんは室内の布団で眠っているから、そのまま病院に搬送できる。 もし助けないのなら、斉藤さんはフェーズ1のエリューションになって襲い掛かってくる。強くはないと思うけどそこだけは気を付けて」 最後にイヴは一つだけ聞いた。 「……貴方は、生まれ育った場所と見知らぬ病院。どちらがいい?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:源氏衛門 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)00:13 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●白昼夢 いくら幸福な未来を願っても、その村には悲運しか残されていない。ならばせめて……悲運の元だけは断たねばならない。 当日、朝。リベリスタを乗せたヘリは延々と続く森を抜け、ようやく目的の村を視界に入れた。 色の褪せた屋根に、意外と大きな畑。そしてわらわらと動く骸骨。何とも言えぬ光景がそこには広がっていた。 河原へと近付き、ヘリはゆっくりと着陸する。リベリスタもまたざらざらと音をたてる足場へと降り立っていった。 「……進む時と止まる時と、どちらが残酷なのでしょうね」 『永御前』一条・永(BNE000821)がぽつりと呟く。視線の先は木々に覆われ、その奥には……あの村がある。 「さて、周りの人が全て死に絶えてしまった状態か。話せる人もおらず、ただ死を待つのみ」 「1人で最後を迎えるのは、とても寂しい気持ちになると思う。斉藤さんが寂しくならないように、頑張るよ」 「……そうだな」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)、『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581) 。2人とも、意思は同じだった。いや、他のリベリスタもまた同じ事を考えていたのかもしれない。 「ここに残りたいと言うなら、最期に彼が見たい光景はなんだろう。見せられるなら見せておきたい」 『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)はそう言った。 「最期に見る光景、か。彼にとってどちらが本当に良いのかなんてわからないさ」 それでも、彼の最期をほんの少しでも彩る事ができたなら。と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は思う。 「もう少し早く見つける事が出来たら……」 もしも、を考える『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)。 「もっと、もっと早くにこの村の事を知れれば、こんな二択を迫られる事もなかったのかも知れぬ」 『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137) は少し落ち込んだ様子で言う。 少しだけ間をおいて、焔が何か覚悟を決めたように前を向く。 「やれる事は限られてる。だったら、その中で精一杯手を伸ばすだけよね」 「……決断しなければならぬな」 レイラインもまた、覚悟を決めたようだった。 ●掃除 慌ただしく走る。生前がそうであったように、死後もそうであるように。 ただの見張りが武器を持つだろうか。ただの見張りが侵入者へと近付くだろうか。誰も知りはしない。彼らも覚えてはいない。 それでもなお、彼らはこの村の見張りだった。 リベリスタが見張りに気付くのとほぼ同時、ヘリが飛び立つ。 少しだけヘリを見送って、見張りへと向き直る。走り続ける見張り。 ――レイラインが身体のギアを大きく高め、空気がぴんと張り詰める。それが、戦いの合図となった。 まずはエルヴィンが2体の見張りのブロックに入る。その動きを見た槍持ちの見張りが立ち止まり、手に持ったそれを構える。 「おっと」 一閃。放たれた一撃をエルヴィンが防ぐ。不発と見るやすぐさま下がろうとする槍持ち。 だが、遅い。智夫が強い意志の閃光を放ち、その輝きが2体を焼く。焔の腕が吹き出す畏怖すべき業火が薙ぐ。 その合間を縫って、フランシスカの生み出した瘴気が腕を伸ばし、握り潰すかのように追撃する。 それでも未だ怯む様子のない棍棒持ちの見張りが、立ち向かう義弘へ棍棒を豪快に振り下ろす。 みしり、と響く音。一撃を受け止める。重い一打を放ちながらも、棍棒持ちは軽々と棍棒を振り上げる。それは次の攻撃の予備動作であると同時に、大きな隙でもあった。 白銀とばかりに輝くメイスが破邪の力を纏わせ、敵を定める。 「お返しだ」 打ち込む。敵の込めた力、それ以上の力を込めて。棍棒持ちは辛うじて受け止め――打ち負け、膝をつく。 タイミングを見計らったかのように、槍持ちが大きく横へと槍を構える。 再度、一閃。数人が軽い傷を負ったが、エルヴィンが威力を殺した事により最小限と言って良い被害に抑えられた。 永が気を纏い、槍持ちへと狙いを定め歩み出る。精神を研ぎ澄まし……一撃、二撃、三撃。 呼吸を合わせるように『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が強烈なオーラを纏い、棍棒持ちへと破壊的な連撃を加える。 ふらつく2体、それでもしかと立つ。リベリスタの前へと立ち塞がる。エリューション故の頑丈さか……または彼らの強靭な意志か。 どちらにせよ、終わらせるべきだった。2人の仕事を。 レイラインが槍持ちの背後へと回る。そして攻撃が放たれる。 「見回りご苦労様、じゃが……今日でお役御免じゃ!」 終わらないかのような連撃、それは槍持ちの体力を削り切るには十分だった。 屈しないとばかりに倒れそうになりながらも槍を構える。……だが彼が攻撃を放つ事は無かった。何かを悟ったように槍を手放し――倒れた。 棍棒持ちには焔が向かう。 「貴方の役目はもう終わってるのよ。私が開放してあげる。だから、もうお休みなさい」 火炎に包まれた拳が棍棒持ちを打つ。彼もまた体力の限界だったのだろう、槍持ちを追うようにしてくず折れた。 どれ程の時間そうしていたのかは分からない。だがどんなに長い時であろうと……彼らは今、解き放たれた。 ●無為 「しっかし酷い話だよね。斉藤さんを守る理由が『財産が欲しいから』なんて。これがまだ彼に恩義があってとかだったら美談にもなったのにね」 「全くよ。欲望の為に食事に毒を混ぜて苦しめて……気に入らないわ」 呆れと怒りを言い表すフランシスカと焔。 回復を済ませたリベリスタは鬱蒼とした森を進む。石の敷かれた道、元々は河原にあったものだろうか。 そこにあるはずの落ち葉は脇に寄せられて、定期的に掃除をしているのだろうと思われた。勿論、その掃除の主は生きてはいないだろうが。 空から見えた通りその道も長くは続かず、すぐに村が目に入った。 生きているかのように動く骸骨はかつての生活を思わせ、まるで穏やかな日々が今も続いているように錯覚させる。 だが建物は確かにこの村が『死んでいる』事を示している。 ぼうぼうに生えた雑草。屋根は黒ずみ壁には蔦や苔が絡み、戸の外れている家に建物自体が崩れかけているようなものもある。 立てかけられた落ち葉の挟まった竹箒を横目に、リベリスタは大きな家へと近付いていく。 斎藤さんの家は立派と言える代物で、造りが違うのだろう、損壊の度合いはその他の家に比べ遥かに小さかった。 ――そろそろ気付かれるだろうか、そんな距離でリベリスタは戦闘態勢へと入る。 レイラインが再びその身体のギアを上げ、永が全身に闘気を漲らせた。 リベリスタをちらりと見やり、準備の整った事を確認してから、レイラインは呼び掛ける。 「お手伝いさん、出てきてもらえるかのう? お互い、斉藤さんに危害を加えたくないという点では一致してるはずじゃ。開けた場所で戦おうではないか……そこの大柄2人組みものう」 それを聞いてか聞かずか大柄な骸骨2体が家の影から顔を出し、お手伝いのゾンビが立て付けの悪そうな戸を開け放ち、飛び出した後立ち止まって……戸を閉めた。 ●味見 エルヴィンが大柄な2体の脇を抜け、ゾンビを抑えに行く。 大柄の2体がエルヴィンを止めようとするがそれにはもう遅く、背後から迫るレイラインに気付くのもまた遅かった。 レイラインの動きは影を生み出し、その影と共に痛打を与え2体の視界から消え去る。 1体は辺りを見回したが、彼女の動きを捉える事は出来ない。 もう1体は動じる事無く迫る義弘へと向き直る。義弘は武器を強く握り……込めた力を、破邪の輝きを敵へと振り下ろした。 腕を交互に構え防御する右の大柄。嫌な音を立てつつも防ぎきり、反撃とばかりに蹴りを繰り出す。 若干逸れた攻撃だったものの、十分な振動と痛みを盾が伝える。 援護するようにフランシスカが生命力を代償とした闇を放ち、大柄2体を撃ち抜く。 続けざまに焔がその腕に怒りの業火を燃やし、振り払う。 十分に燃えた大柄が、これ以上まとめて攻撃されるのを避けるように距離を置く。 しかし智夫の放つ輝きは、その全てを逃さない。 煙を上げるエリューション。更に永が雷を纏い、轟音を上げながら大柄へと痛烈な攻撃を与える。 違う大柄へはななせの打撃が雪崩のように打ち込まれ、その破壊力に敵は圧倒される。 ここで様子を見ていたゾンビが針を取り出し……投げる。もう一度投げる。2×2、計4本。 食い止めるエルヴィン。1本はがいんと針らしからぬ音を立てつつも防具で防いだが、もう1本は肩へと突き刺さる。 「っつ……そっちへ行ったぞ!」 残りの2本は永とななせへ飛んで行く。当たりそうな者を選別でもしていたのだろうか、実際それは的確な攻撃となった。 2人に直撃する毒針。強い痛みと同時に広がって行く毒は、決して『甘い』ものではない。 「……いたい」 「……」 呼応するように大柄が近くの義弘、焔へと攻撃を仕掛ける。先程よりも威力の高まった打撃に2人は後ろへずり下げられる。 「連続して受けるのは不味いか」 「痛いわね」 すぐさまエルヴィンが永とななせを蝕む毒を祓うと、智夫が呪文を唱え、傷付いたリベリスタを癒す。 「こっちじゃ!」 ゾンビの死角からレイラインが現れ、澱みのない連撃を与え再び死角へと消える。 怒りを刺激されたゾンビは一番近いエルヴィンに斬りかかる。何度も研がれた刃物特有の光沢がギラギラと輝き彼へと襲いかかる。 攻撃に重さは無い。それを補うだけの速さと手数でエルヴィンの急所を的確に狙う。 致命傷は避けているが、細かな傷が増えていく。そのまま追い詰めようとするゾンビだが、リベリスタはそれをただ眺めていてはくれない。 「どれ程必死でも貴女は所詮軽いのよ。恐れる理由が無いし何よりも気に入らない」 怒りの炎を拳に込めて。その力を拳に乗せて。 「足りないかもしれないけど、斉藤さんの痛みをアンタもその身で味わいなさい!」 その鉄拳をゾンビの脇腹へとめり込ませる。歪な呻きを上げながら、その斬撃も中断される。 「ありがとう、助かった」 「ふふん」 短時間で随分と傷の増えたエルヴィンと、少しだけ照れくさそうな焔。 動きを切り替えたフランシスカが義弘の抑える大柄へと近付き、手に持つ鉈に暗黒の魔力を込めて、断つ。 連携するようにして、永が再び雷気をその身に纏わせ雷のように一撃を放つ。 「もういいだろう、眠っておけ。これ以上縛られるな」 義弘の攻撃がとどめとなった。ばらばらと崩れ、骨の山となる大柄。 残る大柄は1体。 「これで終わりです!」 その鋼鉄の槌にのみ闘気を集中させ、打つ。大柄は吹き飛び、そのまま起き上がる事はなかった。 大柄は全て倒れ、残るはゾンビのみ。護衛を失ったそれに、分散していたリベリスタの攻撃が集束する。 「どんな理由であれ、彼が孤独でなかったのは貴女のおかげだ。 もう想いに縛られている必要はない、休んでいいんだ」 エルヴィンの声に心も折れたのだろうか、積み重なった消耗が限界を超えた。ゾンビもまた、力尽きる。 「おつかれさま」 ●芋煮 「こんにちは、失礼させていただきます」 エルヴィンが玄関で挨拶し、家の中へと入る。 布団で眠る斉藤さんはすぐ見える位置にいた。人の気配を感じたのか、身じろぎをする。 歩み寄り、ゆっくり穏やかに言葉をかける。 「僕達はボランティアのものです。お手伝いさんに頼まれて、お邪魔しにきました。 今日一日よろしくお願いします」 エルヴィンの言葉が聞こえた様子は無い、それでも雰囲気は伝わったのだろう。少しだけ警戒が緩んだ気配がした。 智夫が手を優しく握り、『お手伝いさんに頼まれて来たボランティアです』とテレパシーで伝える。 ――辛うじて、ノイズのような何かを感じ取る智夫。 「斉藤さんの言葉は上手く解らないけど、テレパシーは伝わるみたい。みんなの言葉も僕が伝えるね」 頷くリベリスタ。 「お料理を作って来たのじゃ、今温め直すからのう」 「手伝うわ」 土間へと向かうレイラインと焔。 「……薪を取ってこよう」 奥に見える扉の付いたストーブのようなコンロを見て、義弘が外にあるであろう薪を取りに行く。 土間から何かを片付ける音が聞こえ出した頃、智夫が『病院に行くのと、この村に留まるのと、どちらを希望するのか』を聞く。 『……』 やはり、ノイズに似たものが感じられるだけで、判断が出来ない。どちらにするか、他のリベリスタと相談しようとした時だった。 『……こ …………こ』 「!」 何とか聞き取れた二文字。疲れてしまったのだろうか、ノイズが止む。 智夫は『分かりました』と答え、この事をリベリスタへ伝える。 この村で……それ以上考えるのをリベリスタは止めておいた。 永が斉藤さんの体を丁寧に拭き、着替えさせる。 ――時間はもうお昼に近い。少し早いが後々の事も考え昼食の時間となった。 ふー、ふー、と冷まし、レイラインが斉藤さんの口元へと運ぶ。 「……おいしい?」 斉藤さんはゆっくりと食事をし、リベリスタもまた簡素に食事を済ませた。 ●青 寝たきりで硬くなっている身体を、エルヴィンがマッサージでほぐす。 回復スキルの補助を付けても、まだかかるだろう。世話をする班と村人の埋葬をする班に分かれ、数人のリベリスタが外へと出る。 倒した際に軽く移動しておいた元エリューション、お手伝いの制御を失った際にその場に崩れた村人。 ふと、お手伝いの着る服に目が行く。今では『普通』の事なので見逃していたが、斉藤さんの着る物と比べると妙に近代的である。 とは言っても、今になっては分からない事。リベリスタはそう諦めると、それらを簡素ながらも丁重に埋葬する。 ――それなりの重労働を済ませたリベリスタが戻ると、丁度永がミネラルウォーターを飲ませていた。 お疲れ様、と屋内にいたリベリスタが伝える。十分に働いたリベリスタも少し休憩する。 ……一段落付いた所でエルヴィンが聞く。 「良かったら、村を周ってみませんか?」 『……』 「うーん……嫌だとは言ってないと思う」 不明瞭な返答に、智夫の言葉もまた不明瞭となる。だが様子を見る限り大丈夫だろう。リベリスタはそう判断した。 エルヴィンが防寒具を着せ、義弘とななせが協力して車椅子へと乗せる。 焔が押す車椅子が、村を周りに出発する。 騒がしさの失われた道々を、雑草の生えた畑を、朽ちた家々を。見えているのかも分からない。それでもリベリスタは話しかけながらそれらを周る。 一通り周った所で智夫が一度だけ、『行きたい所はないか』を問う。 『…………』 ノイズが少しずつ大きくなり、ある所でぷつりと止む。 『川』 明瞭に。それまでの言葉が嘘のように明瞭に伝えると、再び沈黙する。 車椅子の方向は、最初に通った道へ向いた。 あまり揺れないように気を付けつつも、十二分にでこぼこした道を進んで行く。 緩やかな坂を降り、川へ。何の変哲も無く、綺麗という程でもない。 それでも、彼にとっては色々なものが詰まっているのだろう。 「ねぇ、斉藤さん。貴方はこれで満足できた?」 呼び掛ける焔。彼はゆっくりと夢へ沈んでいく、遠い夢へ。 呼吸もまた緩やかになり、血の気もまた薄っすらと引いていく。 澱んだ彼の意識が薄れる。不幸な真実に気付く事も無く、本人はただ穏やかに。 「おやすみなさい、せめて最期は安らかに……貴方は十分に頑張った」 「……おやすみなさい、良い夢を。」 永とエルヴィンの言葉と、暖かな陽の光を受けて。 時は2時頃だろう。青い、青い空の下で、彼は遠い夢の先へと旅立った。 そのまま、彼がエリューションと化す事は無かった。 エリューションの影響から逃れた結果だろうか。 ――それとも悲運にあった彼の、最期の幸運だろうか。 義弘が適度な大きさの石を運び、リベリスタは彼を埋葬する。 フランシスカが最後に声をかけた。 「さようなら、貴方が愛した村でせめて安らかに」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|