● 三高平南の一角にその神社はあった。 小規模ではあるが、小さな祭りが開かれ、新年にはそれなりの参拝客もいる。そして、その神社には新年に祭りと共に行われるとある行事があった。いわゆる「福男選び」だ。 その1年の福を願って、参加者は表門から本殿まで走るのだという。そして、3着以内になったものが福男と呼ばれるのだ。ちなみに、女性であっても参加は可能。 もちろん、大事なのは速さ。しかし、走り切る体力や難所を見切る判断力も必要とされる。心技体が問われる競技と言えるだろう。 年の初めの自分試し。 今年の福を掴むために参加してみるのはどうだろうか? ● そんな説明が『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)の口から語られた。どうやら、町内会の人々に頼まれたらしい。その割に普段よりも舌が滑らかに感じられる。彼も慣れてきたということだろうか。 「まぁ、それとは別に祭りもやっているからな。そっちも十分楽しめると思うぜ」 新年に冬の風の中での縁日と言うのも、中々に乙なものだ。夏場のそれとはまた、違った楽しみ方が出来るだろう。リベリスタはなんとなく、気になって守生がどうするつもりなのか聞いてみた。すると、守生の表情が暗いしたものに変わる。 「それなんだが……福男の順位決める条件って知ってるか?」 首を振るリベリスタに守生が説明する。 本殿では神主が待っており、抱き付いた順位が福男選びの基準になるということだ。そして、今年は神主の体調が思わしくなく、革醒者で耐久力はあるということで守生が買って出たのだ。 「そんな訳だ。参加する場合にはお手柔らかに頼むぜ」 守生は妙に覚悟が決まった顔をしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月23日(水)22:17 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 21人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 正月の神社にも屋台は並ぶものだ。 三高平市内にあるこの神社もその1つ。 年明けの冷たい空気の中、賑やかに屋台が並んでいた。それに、今日は年に1回の大きなイベントを控えているのだ。売る方だって、そりゃ本気を出す。 そんな本気に惹かれてか、紗理も神社を訪れた。 (お祭り、子供の頃に行った気がしますが、ずいぶん昔のことです) 人が多いのは苦手だから避けていたが、今日は何となくそんな気分だった。売っていたりんご飴を舐めながら、屋台を覗いていく。すると、そこに落ち着かない雰囲気の守生が通りかかったので声を掛けてみた。 「こんばんは……どうかしたんですか?」 「えっと、黒乃だったな。いや、福男選びの手伝いやることになったんだけど、参加するあいつら(リベリスタ)が凄い殺気を放っててな。楽しんでいるのは間違いないんだろうけどさ」 「あぁ、皆さんも祭りを楽しむんですね」 普段、戦いに明け暮れるリベリスタが祭りを楽しんでいるというのは意外な話だ。だから、ふと気になって紗理は聞いてみることにした。 「お祭りって、何が楽しいんでしょうか……?」 「難しいな。いや、待てよ」 急な問いかけに守生は悩むが、少し考えて答えを出す。それを聞いて、紗理は納得の表情をした。 「そうですね、何となくわかります……」 「じゃ、俺は失礼するぜ。あと、今回も焦燥院が屋台を出してたからな。行ってみると良いんじゃないか?」 「そうですね、それでは失礼します」 そう言って再び屋台周りを再開する紗理。 「よおおおし! たーべーるーぞー♪」 その横をブリリアントが全力ダッシュで駆け抜けて行く。右手にわたあめ、左手にりんごあめ。どちらも食い切れるのか不安になる程立派なものだ。 時刻は夕方。 祭りは始まったばかりだ。 ● 福男選びのために選手が並ぶ表門は、一種異様な気迫に包まれていた。 縁起物ではある訳だが、実際に競い合う競技と言う一面も持っているのが福男選びだ。普段は仲間として協力しているリベリスタ達。しかし、その心の奥には戦士としての本能が眠っている。その場にいる全員の表情から、「負けたくない」という意地が感じられた。 「目指せ! 福男! おー!!」 準備運動を終えて終は大きく伸びをする。 気合は万端。 頭の中のシミュレートも万全だ。 「賞金なんて無粋なものはいらない、とにかく思いっきりだね」 夏栖斗もウォーミングアップに余念が無い。アークでも指折りの実力を持つ覇界闘士は、鍛えに鍛えた実力を存分に発揮するつもりのようだ。 周りを見ると、一般人達は既に観戦モード。 興味の対象は、この三高平で戦うリベリスタ達の誰が福男になるのか。そこに絞られている。 そんなリベリスタ達の様子を、守生は不安の表情で眺めていた。 (革醒者にとって、一番の敵ってのは同じ革醒者ってことか……) どいつもこいつも本気の表情だ。 守生は中途半端に革醒した自分の身体を恨めしく思う。いっそのこと、メタルフレームとかだったら、彼らの本気をぶつけられても大丈夫だという自信が持てたものを。 「おーっす! どうしたんだ、辛気臭い面して」 「みんな全力でやるっぽいからな。自分の身が不安になったんだよ」 声を掛けてきたのはツァインに守生は苦笑で応える。 「はは、確かに全力出せる機会だもんな。しかし、この行事、1つだけ欠陥があるぞ」 「欠陥……? それは?」 笑っていたツァインの表情が真剣なものに変わる。守生もつられて、真剣に聞き入ってしまう。前にも似たような展開あったのに。 ツァインは一呼吸を入れると、魂の叫びを口にした。 「なんで抱きつく相手が巫女さんじゃないんだよッ!!」 「女の子だと危なすぎるだろうが!」 参加したリベリスタ達が内心思っているだろうことを、堂々と口にするツァイン。 大変ごもっともな意見ではあるが、本家の「福男選び」でもそのようになっているのだ。元々、「抱き付く」というのも、出来る限りフェアに福男を選ぶために作られたルールなのだろう。加えて言うと、本来神事である以上、神主が出てくるのが筋なのだ。 「巫女ならここにおるぞ? 抱き付いてくるものがいれば、ドロップキックじゃがな」 声のする方を見てみると、普段の黒い和ゴス姿から、すっかり雰囲気を変えて白い巫女服に着替えたシェリーの姿があった。 「何だよ、その恰好は?」 「うむ、妾は走るのが苦手じゃ。よって、妾が担当するのは実況じゃ」 自分の能力は自分がよく分かっている。 だったら、やりたいことをやるのが一番だ。と言うか、ちゃっかり町内会長も説き伏せて実況の席を用意させ、オマケに映像を撮影する準備も終えていた。 「良いであろう、邪魔をするわけではない。一緒に福男を祝おうぞ」 「終わった後で俺が生きてたらな」 「うむ、楽しみにしておるぞ」 その時、福男選びの開始10分前を告げるアナウンスが鳴る。 それを聞くと、シェリーは足取り軽く実況の席へと向かっていった。 ● 修羅達が戦場に集っている頃、猛とリセリアは楽しく縁日を回っていた。 定番の射的では苦戦しながらも、なんとか景品をゲット。正月デートとしては幸先が良い。 「さて、次は何処へ行こうか?」 猛が周囲を見渡すと、なんとなく目に入ったのはおみくじだった。 「と、そうだ。くじでも引いてみるか? 年初めだし、運が回って来るかも知れねえ」 「そうですね。せっかく神社に来たんですから」 猛の提案に頷くリセリア。 「おっちゃん、俺とこの子で1回ずつね。はずればっかじゃないよなぁ?」 「さて、甘いものは早々入ってないけどね。良いのが出るのを祈ってるよ!」 巫女さんもおみくじを売っていたが、あえて神主の方に向かう猛。冗談を交わして おみくじを受け取ると、2人して一緒に開いてみる。 「えーっと、俺は吉か」 「私は中吉ですね」 2人して広げられたおみくじを並べらてみる。 ひどいものになると、「十中八九死すべし」みたいなものもあるとの噂だったが、どうやら結果はまずまずのようだ。三高平のくじは基本、引く人に甘いものではない。 「アレ? 俺のくじの方が良いこと書かれているな?」 「えぇ、基本的に吉の方が中吉よりも上ですから」 「へー、紛らわしい話だな。お、あっちの屋台が騒がしいな」 くじを肴にアレコレ話し合った所で、騒がしい一角に気が付く。 「行こうぜ、リセリア」 明るい笑顔と共に猛が手を差し出すと、リセリアはクスリと笑ってその手を取る。 そうして、2人はさらに屋台の中に進んでいくのであった。 「着物よし、袴良し、前掛けよし。着崩れしていないですね、いざ出陣です」 リセリアと猛が向かった先にあったのは【たこぴろ】の屋台だ。たこ焼きとピロシキを売っており、屋台の看板には堂々と「たこぴろ」の文字が刻まれていた。 屋台に並んでいるのは、着物にエプロン姿の5人。 大和は正統派の和装美少女。 金髪に着物という取り合わせが逆に上手く働き、雅も可愛らしい。 「え、笑顔で接客だと、無茶を言う!」 文句を溢しながらも優希は笑顔で接客を行う。多少の不器用は承知の上だ。 一方、ウラジミールの動きに一切のそつは無い。着流し姿でピロシキを作り、手際良く準備を進めて行く。三高平でこれ程着流し姿が様になるロシア人もいないだろう。 そして、反則なのはフツだ。 着物をたすきがけにして、頭にはねじり鉢巻き。 優希に言わせると、「私服過ぎて困る」ということになる。 「とびきりの笑顔でヨロシクね!」 「あぁ、分かった。それは良いんだが、こんなに準備する必要はあるのか? 多すぎる気がするんだが……」 「いや、こんくらい用意しといた方がいいんだって。マジ、すぐ足りなくなるからサ」 仕込みの材料が並んでいる姿を見る優希。たしかに、多いように思える。しかし、以前にも屋台経験があるフツの意見は違った。 「そろそろ準備は良いだろう。それでは、作戦開始だ」 冗談とも本気ともつかないウラジミールの言葉と共に、日露屋台同盟の開店だ。 「いらっしゃいませ!」 「できたてのたこ焼きどうでしょうかー! あ、珍しいロシアの料理もありますよー!」 大和と雅が可愛らしい笑顔と共に呼び込みを開始する。 大和は元々、蛇神を祀る一族の出であり、この神社とは別のものだ。しかし、友人たちと共に盛り上げることに一生懸命だ。 自分のやっていることに驚いているのは雅も同様。まさか、自分がこうやって屋台を出す側になるだなんて思ってもみなかった。でも、やっている内にどんどん楽しくなってきた。笑顔なんて、自然に出来るものだ。 「ほら、優希とか無駄に硬いわ、もっと自然に自然に」 「クッ、できるだけ皆のフォローをと考えていたが自分に余裕が無いな」 しかし、優希も自分では気づかない内に顔がほころんでいる。これも祭りの魔力というものか。 フツは裏方に徹して、ひたすらタコ焼きを焼いている。汗も見せないようにしているのは、凄まじい集中力の賜物であろう。 そして、ウラジミールはやって来た客にピロシキを差し出す。いつものように紳士的に。 「そのままでもいけるが、カレー粉、醤油、ソースを付けるといいだろう」 「へー、これ美味しー」 「ほふっほふっほっふ」 「ピロシキ初めてだけど、結構良いなぁ」 あちらこちらから、聞こえてくる喜びの声。 それを見ればこそ、5人の勢いも俄然上がるというもの。 笑顔が笑顔を呼び、祭りの中に広がって行く。 日露屋台同盟の作戦は見事に成功したと言えるだろう。 ● 合図の空砲が鳴り、表門の扉が開かれる。 その瞬間、リベリスタ達は大地を蹴って駆け始める。 そう、福男選びが始まったのだ。 まず、門が開いた瞬間に、入り口近辺にいた一般人が脇に外れて、道を開ける。誰だって、リベリスタ達の全力にぶつかりたくはない。そもそも、一般人はフェイトの持ち合わせも無ければ、そもそも肉体の強化もされていない訳で。 「さすがに、この場は人が多過ぎるな。だが!」 シビリズは冷静に全体の様子を把握する。 たしかに一般人がどいてくれたお陰で道は出来たが、それでも多くのリベリスタが走っているのだ。どうしたって、場所は混乱する。 逆にスタートダッシュをかけたのはアラストール。 「全力で走り切る。たとえ転んでも推進力があれば問題無い」 体育の勉強をちゃんとした方が良い無茶な発言と共に、騎士様は先頭を走る。 騎士道とは突き進むと見つけたり。伝説にある『憂い顔の騎士』ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ卿もかくやという盲信っぷりである。 さすがに途中でバランスを崩して転んでいるが、神聖の加護を持つ聖騎士に与えられる清廉なる称号『敢然なる者』は伊達では無い。壁にぶつかって、無理矢理バランスを戻し、走り抜けようとする。明らかなE能力の無駄遣い。誰が直すんだ、これ。 「ураааааааа!!!!!!!」 アラストールの後ろから、猛追するのがベルカ。 周りのリベリスタには耳慣れない叫びだが、気合の雄叫びであることに疑いは無いだろう。犬は与えられた使命に忠実なものだ。 『うむ、接戦じゃ。ときに、女性が参加しても大丈夫なものなのか?』 『はい、「福男」と言っていますが、参加に問題はありません。募集要項には書き忘れましたが』 スピーカーからは実況のシェリーと解説の町内会長の声が聞こえてくる。もっとも、有名な「えべっさん」の福男選びでも2013年現在、女性の「福男」は現れていないとかなんとか。 「今年の蛇男は俺だ!」 いつも通りの叫びと共に姿を現わすのは竜一。蛇なのか竜なのか、どっちだよ。 彼が計算した通り、人が固まってしまい上手く走れない。だから、カーブで勝負を賭ける。あえてスピードを落とし、外側に列が膨らんだ隙を狙って内側に飛び出す。 蛇のように狡猾に、そして竜の如く誇りを持って。 結城竜一は勝負を賭けて大地を駆ける。 「何をやろうにも、トップを目指さなければ意味があるまい! 二位じゃダメなんです!」 「あぁ、同感だ」 外側から声を掛けるのは快。 彼は逆に厳しい外を走り抜けることを恐れなかった。 「ラガーマンは密集の中を走るのが、得意でね!」 まだ彼が神秘の戦いに巻き込まれる前、高校生だった頃にはラグビー部で鳴らしたものだ。その経験を活かして、リベリスタ達の中を駆け抜ける。神秘の戦いも日常の生活も、全ては繋がっている。お祭りだからこそ、全力でやらなくてはいけないのだ。 『どいつもこいつも粘ってくれる。この先は?』 『はい、坂ですね。ここで速度を維持できるかが勝負の鍵です』 中には転ぶものも出ているが、その程度で諦めるような奴はアークにはいない。と言うか、アークのリベリスタは諦めが悪いものなんである。 そして、リベリスタ達の前に坂が立ち塞がる。もちろん、リベリスタ達の身体能力は常人の比では無い。しかし、行きつく所に行きついているからこそ、無事に超えられるかは最終的な差に直結する。ここを乗り切れば後はダッシュで駆け抜けるだけ。 「やるからには勝ちに行く。負ける事には慣れているけど。負けるのが好きってわけじゃないからな」 普段はダウナーないりすだが、勝負事なら話は別。こうして走っていれば、寒さも気にならない。 「悪いけど、負けないよ」 「こっちの台詞だ。やる気、気合は十分! 参加するからには本気で優勝を狙いに行くよ!」 普段はマブダチである夏栖斗と悠里だが、こういう時は最高のライバル同士。 互いに限界を超えて力を出して、坂を上り切る。 悠里の頭に浮かぶのは恋人の面影。自分が福男になれば、彼女にも福を届けることが出来る。 「負けられないんだ! 愛ゆえに!!」 だから、死に物狂いで手を伸ばす。 「ふふ、負けられない戦い、ここにあり。後は小細工無しの勝負です」 翼は広げない。 だけど、自分の磨いた技ならば、決して負けてはいない。分身しているかのような速力でみるみる加速していく。 『いよいよ出揃いました。最後のスパートの開始です 『最終コーナーを抜けて、最後の直線。気力・体力・英知それらを駆使して、僅差で並ぶリベリスタ達。燃えてくるの。大差がついてしまってはつまらぬが……おや?』 カメラの端に映った男がトップ勢を目指して猛然とダッシュしている。 シビリズだ。 差が出来たからこそ戦える。 逆境だからこそ、本気が出せる。 今まで以上に全身に血が巡るのを感じる。 ここからが本番だ。 「うっぉおおお、今行くぞ、モリゾー!」 多少の傷も構わずに走るシビリズの姿に、皆気を引き締める。まだ、勝負は終わっていない。 そして、境内にいる守生は嫌な予感と共に、そんなリベリスタ達を見ていた。 これがリベリスタ達の「本気」である。 ラ・ル・カーナで見かけた巨獣も恐ろしかったが、あれよりもある意味恐ろしい。正直、今まで彼らの「これ」と戦ってきたフィクサード達には、同情の念すら湧いてくる。 「来いよ!」 やけくそ気味に守生は叫ぶ。 覚悟は決めた。 先ほど、紗理に答えたとおりだ。祭りはみんなで盛り上がるから楽しいんだ。だったら、自分も乗ってやる。 ただし、心のどこかに「フェイト使用」と書いておく。 「たとえ無価値でもやってみせるよ!」 「ヘッドスライディングで決めてやるぜ!」 「呼吸すら煩わしい……全てを、出し切れぇぇぇ!」 「新年一発目の運試し。やってやろうじゃないか」 「届けぇええ!」 リベリスタ達の運命の炎が燃え盛っているのが見える。 そして、誰よりもまっすぐ手を伸ばしたのは……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|