● 「アークの皆様、お変わりありませんこと? お話したいことも沢山あるのですけれど、取り急ぎお知らせしたいことがありまして、ご連絡差し上げましたの。 『ナーシサス』というアーティファクトが、もう一つあるのをご存知かしら。 これも、香水のアーティファクトなのですけれど、これをかけられると、他人が自分に見えますの。 実際に変わる訳ではありませんのよ。 視覚混乱型ですわね。 私、それも手に入れようとしていたのですけれど、売れてしまいましたの。 いえ、皆様のお手を煩わせる気はありませんのよ? どの辺にあるのかだけ教えていただければ。 え、そちらで対処なさる。いえ、かまいませんのよ。 通報は良識ある市民の義務ですわ」 ● 「蛇の道は蛇」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、感慨深げに言った。 「去年仲良くなった革醒者から、アーティファクトの情報が入った。事が起きる前に、未然に防いで回収」 モニターに映し出されたのは、乳白色のガラス細工の壜だった。 ギリシア彫刻っぽい感じで、題材は青年。 手に花を持っている。 楚々とした感じで、触れていいのか、ちと迷う。 「これ、香水ビン。中の香水の名前が『ナーシサス・ライト』……察しついてると思うけど、『ヒュアキントス』というアーティファクトと作者が一緒」 画面をよく見ると、花の部分がふたになっている。 中には確かに液体が詰まっている。 『ヒュアキントス』あるいは『サフォー』。 同性限定に効く惚れ薬兼相手を意のままに操るアーティファクト。 耽美趣味のフィクサードによって、美少年同士が感情を伴った恋愛劇を繰り広げさせられちゃうとか。 百合好きのLKK団によって、美少女同士が感情を伴ったきゃっきゃうふふを繰り広げさせられちゃうとか。 今まで、そんな野望を打ち砕きつつ回収してきた訳だが。 まだ、あったのか。 ただ、これ、今までのとちょっと形が違う。 なんか、噴霧器みたいな形してないか? 「この香水と壜が両方ともアーティファクト。『ナーシサス・ライト』の匂いを嗅ぐと、見える人間が全部自分に見える」 あくまでも見えるだけですね? 「五感と対象混乱系。自分に見える対象にラブラブになる」 おっしゃっている意味がよくわかりません。 「例えば、私が「ナーシサス・ライト」の影響下で、沙織を見たとする。そうすると、私は沙織を沙織っぽい私と認識し、ラブラブ。それを傍から見たら、私が沙織にラブラブにしか見えない」 パパが泣くね。 「今回怖いのは、発動対象が限定されないってこと。老若男女、みんなに効く。バラまかれたりすると――」 目に飛び込んでくる人全てにラーブラブですね。 で、お互いの目には、お互いが自分に見えてるんだァ。 「まあ、コレ恋愛感情じゃないあたりがまだマシかな。なんというか、親密度MAXだと思ってもらえば――」 個別エンディング見られちゃう程度の仲良しになっちゃうんですね。 何、そのカオス。 「よく言うじゃない。大勢の前でお話するとき緊張してる人に、「みんなかぼちゃだと思いなさい」って。人見知りのパーティ主催者のためにこしらえられたんだって」 みんな自分なら怖くない。 「だから、周囲に影響甚大」 こわぁい。 「これ、とある香水コレクターが所有。現在アークで回収のため、購入交渉中……だったんだけど」 イヴは言葉を切って、はあとため息をついた。 「とあるフィクサードに先に買われちゃった」 え~!? またぁ~!? 「マニアは動きが早い」 いやぁねぇ。 「買ったのは、『LKK団』」 またあいつらか!? イエス・アリス、ノー・ロリータ、パニッシュメント・イン・ロリババア! 幼女のためなら、世界なんか滅びちゃってもいいんじゃないかな。とか考えている、困った革醒者の集まり。 東に幼女っぽいアザーバイトがいれば行って怖がらなくていいと言い、西に幼女なフィクサードがいれば行ってその悪事の片棒を担ぐ。 幼女や少女の色気を完全否定し、その無垢性を崇拝するダメな人達。 幼女に触れるのは、お鼻チンとか、ほっぺのクリームフキフキとか、危険から緊急離脱とか。 一切の性的欲望を排して、ただひたすら無償の愛を注ぐことだけが共通している。 嗜好の多様性のため、非常に多くの派閥を抱え、一枚岩ではないため、壊滅が難しいフィクサード集団だ。 「『同化派』」 はいぃ!? イヴは無表情。というか、魂の抜けそうな目をしている。 がんばれ。 「だから、幼女と一緒に本気でおままごととか、お人形さん遊びとか、キャッキャウフフのティーパーティを、「同じ目線で」楽しみたい派閥」 どうしてそういう思考を持つに至った。 無理だろ。 百歩譲って「お兄ちゃん」とか「おじちゃん」だろ。 あいつら、キモオタじゃないところや見た目で分別できないあたりで、逆に害だ。 「でも、これを使うとできる」 あ、幼女が影響下に入ると、幼女にとっては、みんな自分によく似た女の子(ラブラブ)になるのか。 「あいつら、幼女にとっては、この上なく安全と言ったら安全なんだけど」 幼女最優先で、自分のフェイト投げうつからね。 「今、フィクサードがウロウロしてると、「楽団」にお持ち帰りされる可能性がある」 あ~。 「ので、今回は、速攻アーティファクトを奪取。速やかに、捕縛」 モニターに映し出されたのは、ほっそりとした体躯。 涼し気な目元。透き通るような白い頬と、何より匂いたつような気品。 まさしく、水仙の如き美少年。 「並木ヒサシ君、16歳。高校一年生。本気で小学校二年生くらいと遊びたいお年頃です」 ――ほかにいくらでも道はあったろうに。なんでこんなになるまでほっておいた。 イヴは無表情。 表情に現したら負けだと思っているようだ。 「現場は、私設美術館の中庭。童話のお姫様のオブジェがいっぱいあって、いかにも女の子が遊んでいると可愛いらしい。芝生とかもあるしね。で、ちょうど幼女が三人中庭に近づいている」 確かに、アリスやハイジや赤毛のアンとかがいそうなところだ。 「先回り。幼女を安全に保護。LKK団に更生の道を」 まだ、やり直せるかもしれない。不法行為に手を染める前だし。 イヴは、念のためと前置きした。 「アーティファクトは作戦終了後、速やかに別働班に渡すこと。私用で使ったのが確認されたり、持ち逃げを試みた場合、速やかに追っ手を差し向ける。みんなはそういうことをしない清廉なリベリスタだと信じている」 悪堕ち、厳禁。 「それから、中身だけ別の壜に移し変えても意味ないから、念のため。中身と壜一体で『ナーシサス・ライト』」 最後に。と、イヴ。 「できるだけ『ナーシサス・ライト』をかぶらないように気をつけて。何しろ、ブレイクフィアーとかイーヴィルは効かない」 なんで!? 「BSじゃないから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月13日(日)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「小学二年生?」 『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は、資料を凝視している。 「ロリっていうかペドではないかでござる……」 ペドフィリアは幼女の、ロリータ趣味とは少女の無自覚な色気を愛でるものであり、幼女や少女に一切性的衝動を持たないLKK団とは相反するものである。 テストに出ます。マークつけておいてください。 LKK団ほど、幼女・少女に安全な存在はいません。 ただ、それを最優先にするため、時々世界をないがしろにするだけです。 (拙者、ロリコンなだけでござる。否、ただひたすらに雷音を愛しているだけでござる) 「そんな拙者は、ちゃんとめっをしないといけないでござるな!」 「無害そうで無害じゃないようなロリコンってどう対処したらいいのかしら」 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は、さらりと疑問を口にする。 「悪いロリコンは、殺処分でいいけれど」 いいのか。 「この人にはしっかり反省してもらいましょう。願いを叶えたいのなら道具に頼らない努力が必要よ」 幼女に、『僕、幼女!仲良し!』 と誤認させるようなアーティファクトで、一緒にキャッキャウフフしようという根性が許せない。 「またコイツらですか……自慢じゃないですけど、アークの中で一番LKK団に関わってる気がします……」 大丈夫だよ、リンシード、そんなことないよ、多分。 今まで、二十回ちょっとあった内の、たった五、六回くらいに関わっただけだよ。 きっと、君以外にも関わった幼女や少女が広い世界のどこかにいるはずだよ。うん、多分、非実在的に。 「LKK団の名前久しぶりに聞いたね……」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)の素直な物言いに、リンシードの心臓の鼓動が跳ね上がる。 (あれ、やっぱり、私、あいつらに関わる頻度、高い?) 「大人しくなってたし、真面目になってくれたかと思ってたけど……」 アーリィが、ね。というのに、相槌を打たないわけにいかない。 だって、アーリィにとってはそうなんだもん! 「なんか出会うLKK団いつもプロアの気がするです? プロアの地位がじわじわとおちていく、ゆるせん」 『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)、それは気のせいだ。 (いつまで経っても壊滅しませんよね……楽団よりよっぽど増殖力あるんじゃないんでしょうか……?) いや、リンシード、世の中そんな性癖のお兄さんやおじさんばっかだったらやだなと思わないか。 「対して被害が出てないとはいえ……悪いことは悪いことだし……うん……ちゃんと反省して貰わないとだね」 アーリィの意見は至極もっともだ。 LKK団に対する認識の異なり具合を実感しつつ、リンシードは深く頷き、呟いた。 「滅します。間違えました、めっ、します」 今後の遭遇確率を下げるためにも。 そんなリンシードに、胸キュンの『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)。 (憧れのリンシードさんとご一緒できて、りんは感激しています。これは頑張らないと、ふぁいと、おー!) ● ふわふわのコートや手袋やイヤーマフ。厚いタイツで包まれた棒のような足。 幼女が三人、かくれんぼするため、モニュメント一杯の中庭へ。 それを見る『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)の手にスタンガン。 (ごめんね! ごめんね! どかーんと気絶させちゃう!) ――って、それ普通に犯罪ですから。新聞に載るから。事件になるから。あなた、少女A。リ一撃で気絶するレベルってすごく痛いんだぞ。やけどするんだぞ。トラウマになるだろ。ノンリーサル・ウェポンだぞ! 幼女に優しく! 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)氏は、「どのようなときでも」冷静かつスマートだった。 暴走しがちな14歳に、「それはいけない」と首を横に振る。 忌避、美少年に弱いけど、おじ様の素敵なお声にもちょっと胸キュン。 「中庭は急な撮影が入ったらしく、関係者以外の人物が入るなと怒られてしまった。休むなら他の場所がいいだろう」 妹のフォローは、姉がする。意識しているかどうかは別として。 『芽華』御厨・幸蓮(BNE003916)は、幼女たちに話しかける。 「連れて行こ……あげる、ね」 日本語、難しい。練習中です。大目に見てください。 幼女、優しそうなおねえちゃん好きです。 (落ち着いたらこの場をセッツァー氏に任せ、そっと離脱し中庭へ向かうとしよう。私が着く頃にはナーシサスが使われてそうだが……) 幼女に自腹で買ったマシュマロココアを渡しながら、幸蓮は仲間に思いを馳せた。 ● 「ああ、アークの『私刑の前のご馳走』か」 並木ヒサシは、雪のやんだ朝、陽光を弾く真白の水仙の如き美少年だった。 「君たちが来たということは、僕と遊んでくれる女の子たちは現れないということだね」 憂いを帯びた白皙の顔ばせ。陽に透ける素直な黒髪。 なのに女性的な印象はないという、どうしてLKKなのと詰問したくなる逸材だ。 「糾華ちゃんも、エリエリちゃんも、中学生になったね。立派なロリータだ」 なんですか、その終わってしまった初恋の相手を見るような目つきは。 LKK団は、イエス・アリス。ノー・ロリータ。 さよなら、僕のお姫様。大人の階段を上っておいき。 「リンシードちゃんも、輪ちゃんも、アーリィちゃんも、春が来たら中学生。もう僕の手の届かない所に行ってしまうんだね」 ま、まさかの賞味期限切れ間近宣告っ!? いや、お前高校一年だろ。 むしろこれからだろう!? ランドセルから卒業してきて、ようやく恋のターゲットレンジに入ってきたってとこだろう!? 「みんな、できれば、八年くらい前に会いたかった」 まだ、幼稚園児だよ。馬鹿野郎!? もう、虎鐵おじさん、懸命に、めっせざるを得ないでござる。 「幼女だけはやめておけでござる。14~16の少女ならまだしも幼女は本当にやめておくでござる! 粛清されるのはおぬしでござるよ! 社会的にも殺されるでござる。ロリもいいものでござるよ! 同意があれば、多分大丈夫でござる」 美少年が耳を塞ぐ真似をする。 打算的な大人って、汚い。 「今回のメンツを見るでござる! このよりどりみどりなロリ達を! とても可愛らしいでござろう? いいでござるか? ロリは至高でござる。保護欲をかき立てるその姿、上目遣いで言うその視線が堪らないのでござる!」 うわぁ、なんだろう。すごく褒められているのに、全然嬉しくない。 虎鐵、口を開けば開くほど、墓穴が深くなる。 「僕にとっては、彼女達は巣から飛びたっていったオデットさ。みんな、彼女達が好きな人のところにまっすぐ飛んでいって、素敵な恋をして、幸せになるといいと思うんだ」 というかさ、幼女なら見守るだけの恋愛対象外で、少女を見る目は、過ぎ去ってしまった初恋の相手ってことは、君のリビドーはどこに向かってるのかな!? まさか、離宮院 三郎太(BNE003381)くんか、ショタか、そっちか!? 「それにしてもボクはショタじゃないですよ……違います、違いますったら」 そうとも、もう中学生だ。ショタじゃないぞ! でも柔らかそうな金髪眼鏡気弱系、花にたとえるなら福寿草のような三郎太くんは、水仙のようなヒサシと並べるとなかなか絵になるけどな! 「――そんなもの、感じたこともない」 絶食系か!? 人類、緩慢に滅びちゃう! 「僕みたいなイレギュラーが少しくらいいても大丈夫。だって、大地は母だから。きっと、僕の分まで肉食系の連中が頑張ってくれる。僕は――」 無駄にキラキラしい。 「僕は、ただ、女の子達と遊んでいたいだけなんだ」 なんかいいこと言っているみたいですが、単なる恋愛ヘタレです。本当にありがとうございました。 「もう16歳なんですよね……現実を見ましょうよ……普通に一緒にお茶会ならまだしも……同じ目線なんて絶対無理です……」 リンシードが、音速で言葉によるボコリ。安心せい、峰打ちじゃ。 もう、とっくにその季節を通り過ぎてしまった。僕は大人になってしまった。 もう、子犬のしっぽとか風船とか爆竹では出来てないのだ。 「そうだね。だから、これが役に立つ。つかの間、僕と遊んでくれる?」 噴射。 ようこそ、登場人物がどこまでも自分のバリエーションの世界へ。 ● 「雷音を守るでござるよ!」 「それはもう、一所懸命雷音を守るでござるよ!」 シュプレヒコールを挙げる、虎鐵とエリエリ。 「とりあえず惑星同士の摂動による近似解の導き方!」 「人間心理に基づいた株価変動の規則性!」 「雷音最高!」 「わたしがあつまれば無敵。せかいをせいふくするのです!」 相手のいう言葉は自分の望む言葉に聞こえ、相手の姿は最愛の自分に見える。 (わたしは邪悪ロリ。そして天才!) そんな事態は受け入れがたいと考えていたエリエリでさえ、うっかりこの始末だ。 「あれ……こんにちわ、私……今日も綺麗なお洋服着てますね……?」 リンシードは、自分の目に写るリンシードの容姿ではなく「服」をほめる。 「あぁ、そうですね……これだけ集まったならお茶でも飲みましょうか……?」 皆、自分。好ましい自分。 だから、ヒサシが紛れ込んでいることも全く気にならない。 和やかなお茶会ごっこ。 「そういえば、最近色々服とか試したくなって……割と、派手めな服も…いいのかな……どう思いますか……?黒も好きなんですけど……最近貰った白も……案外悪くないかなぁって――」 着せ替えごっこ。たくさんの自分。一人がリンシードの手にブローチを載せた。 (りんは虫さんが大好きですりんが好きな人たちも当然虫さんが好きな筈ですからりんの自慢のこれくしょんを見せちゃいますよー) 輪の周りに、たくさんの輪。 「ほらほら、こんなにかわいいの♪」 蜘蛛やら蟷螂やら蜻蛉やら蜥蜴やら出してきます。 掌一杯の昆虫の交換。 「ほらほら、てんとうむし~♪」 アーリィの手の中に渡されたゲームパッド。 皆ゲームマニア。皆、アーリィ。 (何か……今なら……今なら……一狩りいっても連携ばっちりでボスモンスターも楽勝で勝てる気がするね!) たくさんのアーリィはにこやかに、アーリィにゲームソフトや攻略情報、アイテムを送信してくれる。 各々の手には、携帯ゲーム機。 「どうしよう?……どうしよう? やっても良いかな? 良いかな? 良いよね! やるしかないよね!」 れっつ・ぱーりぃ。はんてぃんぐ・たいむ! 「強がり」 糾華に向かう糾華の言葉 「意地っ張り」 素直じゃなく婉曲的で故に素直すぎる糾華への言葉 「なによ、自分一人で出来ますみたいな顔をして、全然寂しがり屋な癖に」 澄ました顔でいつも一人で頑張ろうとして心の中の孤独へは目を向けようとしない。 「馬鹿ね、貴女ほんと馬鹿」 そういう糾華に、たくさんの糾華は微笑み手を差し伸べる。 (そう、馬鹿だから、本当に私は馬鹿だから) 「でも、大丈夫、私だったらわかる。私だから、大丈夫わかる。わかってくれる。わかってあげられる。だって、私だから」 手を差し伸べ、抱擁しあう。 だって、糾華は糾華が大好きだから。 「一緒にいましょう。だから、寂しくない」 強く強く抱きしめる。目に映るのは糾華だから。誰よりも寂しがり屋の私だから……。 ナーシサスは、一方通行。 だからこそ、優しい夢が見られる。 皆自分が大好きだから、皆に優しくしてあげられる。 優しさを投げれば優しさが帰ってくる。 望むとおりの、欲しい形の優しさが望む分だけ返される。 自己愛の牢獄。 ナーシサス・ライト。 皆が仲良くしているけれど、誰も自分以外を見ていない。 ● 現場の中庭が見える回廊の向こう。 眠る少女に膝を貸す美少年。 「ハッ、ひ、ヒサシさま! び、美少年!!!! 忌避、美少年には弱いんだった!!」 忌避、苦悩。 「お、おお、お王子様! ダッシュでヒサシに近づいて、許されるならもふもふくんかくんかしたい! かじりつきたい!」 欲望に忠実だ。いや、噂のお父さんに似ているのかもしれない。 「……でもめってしたらこの人ともお別れになるのかな。ひぁぁぁあ、どうしよう!」 勝手に恋に落ちている。恋とは一方通行で成立するものである。 「するよ! 依頼だから! リベリスタとフィクサードは愛できないのね!」 その横を、幸蓮がつかつかと通り過ぎる。 運悪く、ナーシサス・ライトの吹き溜まりにつっこんだのだ。 (私がいっぱい。かわいらしい私には微笑みと歓談を。そして、もう一つの愛情表現――) にっこり微笑む。 (たくましい私には、殴り愛を! この拳を受け止めて!) 満面の微笑みを浮かべたまま、握る拳は、手近にいた「たくましい私」――ヒサシのあごを見事に捕らえ、空の彼方に飛んで行けパンチとなり。 その指から、からりと落ちる香水瓶。 魔法の時間は、あっけなく終わってしまった。 ● 「はっ、何をしていたんでしょう」 掌一杯の、昆虫やら、ゲームパッドやら、リボンやら。 さっきまでの宝物が、容易に納得できないものになっている。 「LKK団、やっぱりろくでもない集団ですね」 いや、どっちかというと、この場を恐怖に陥れているのは輪のポッケの中身だ。 「違うでござるよ、雷音。浮気じゃないでござる」 三高平の方向に言い訳する虎鐵。 「こっちの台詞ですよ。邪悪ロリが自分の次に愛してるのは家族姉妹ですよ!」 「拙者もでござるよ!?」 エリエリと虎鐵に妙な共通点が判明。 「うちの孤児院にも子供いっぱいいるし、お茶会もお人形遊びもしほうだいですよ?ヒサシさんはいい保父さんになれるとおもうです」 エリエリ、説得に乗り出す。 「どうしても同化したいなら『怪盗』スキルでも取るといいです」 その発想はなかったわ。 (けがれなき幼い子ときゃっきゃしたい。そういう気持ちわからなくはないです。わたしだってはじめは邪悪ロリではなかった……) エリエリの目が遠くを見た。様な気がした。 「並木氏の情熱は素晴らしい」 幸蓮は、とつとつと説教。 「だが互いの愛が永遠ではなく一瞬の作り物と成りはてるこの香水は、並木氏の求める純粋無垢な少女達を貶めるとは思わないのか?」 アーリィ、途中で立ち消えてしまった狩りの結果に未練を残しつつも、説得。 「え……えっと……わたしみたいな子供が、こんなこと言うのもあれだけど……こんな騒ぎを起こさなくても……真面目にアークに協力してくれたら仲間になれるんだよ?」 リンシード、ブローチだと思ったら蜥蜴だった事実をとりあえず脇において、説教。 「私の紅茶あげますから、落ち着いてください……さっきもあげましたが」 おままごとだが。 「もう悪いことしませんか……?」 リンシードは、こっくんと殊勝にうなずくヒサシに宣告。 「私についてきて貰います……私の家じゃなくてアークですよ。一応……最近は楽団が出没して危険なんですからね……貴方を思っての事なんですよ……?」 今、日本が革醒者にとってどれだけ危険か、きちんと把握しているのはアークと主要七派くらいのものだろう。 末端や弱小組織は、きな臭さを感じていても事態を把握するには至っていない。 「……こんな事してる場合じゃないんだよ……? お願いだから……大人しく投降して……それから、その香水もアークに保管させてください。決して悪い方にはしない……と思うからね」 アーリィのお説教。さっき倒した最終三段変形ボス戦と、みなで手を取り合って喜んだエンディングが幻だったなんて、そんな馬鹿な。 ヒサシの目からはらはらとこぼれる涙。 改悛の涙か、女の子たちに怒られておっかなくて泣いているのか、判断つきかねる。 「あ、泣かないで!? 別に皆本気で怒ってるわけじゃないからね……ヒサシさんを心配してる……だ、だと思うよ?」 アーリィがフォロー。 「……多分……」 だけど、その目線が泳いでいる。 今回、辛くも効果を受けなかった忌避、正気で突入。 「本当にどうしてこうなった一応経緯だけは聞いてあげるの愛をもって接するよロリにしてはグレーゾーンな歳なのはごめんねっどんなヒサシ様でも受け入れるよ今度きぃとあそぼうねっ!」 忌避のこの積極性が、子供らしくていいですマルとなるか肉食系女子怖いですバツとなるかは微妙なところだ。 糾華は、ため息をつく。 無様を晒した気持ちと胸の内を晒した清々しさが交錯する。 しかも吐露した相手は、ヒサシなのだ。 「仕方ないわね」 本心だから。 「並木さん、貴方達から見たらトウが立ってるかもしれないけれど、話し相手が欲しかったら、屋敷に来なさいな。説教込みで良かったら相手になるわよ」 糾華の物言いに、リンシードが真っ青になる。 「お話していても君は僕を見ていなかったね。こんなにむなしいアーティファクトだとは思わなかった。僕はこんなもの要らない」 見交わす二人。 (こいつ、何したの、お姉様に。あぁあ、その場にいたのに、認識が香水に毒されて、詳細がわからない) 「や、やっぱ貴方の事なんか思ってないです」 リンシードは、ふくれっつらだ。 「さっさとかえってください……土に」 かわいらしい嫉妬に、派手に青タン作った顔で、ヒサシは痛そうに顔をしかめながら笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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