●ほこり 「そう言えば自分の誕生日すっかり忘れてました」 危ない危ない、とコートにマフラーを完備してほくほく温まりつつ苦笑する『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)。最近まで風邪引いてたもんね。 今朝、プレゼントが届いていて漸く思い出したのだとか。有難うございます。 それはそうと、そんな訳で両親に何が欲しいか、と聞かれたので。 「親戚の経営する温泉旅館を貸し切って貰いました」 ――はい? 「ホテル程ではないんですけどね、結構規模が大きくて雰囲気も素敵でね。丁度今寒いですし雪見で温泉っていうのも風情があるかなあって」 おい ちょっと 待て。 「温泉卓球にお料理もありますよ。あ、お料理はお鍋とか懐石とかお刺身とか和食がメインですけどね、味の保証はしますから――」 だから待てと言うに。 そんなお金何処から出して貰ったんですか貴女。 「何処からって……両親ですけど」 いやそれは判る。判るけど親にどれだけ負担掛けたんだと。 「大丈夫ですよ、あの二人……当然ながら室長程じゃあないでしょうけど結構お金持ってるので、多分本気出せばもっと豪華なホテルとか貸切に出来る筈なので。……あと何だかんだ言って私には甘いので、二人共」 笑顔が黒いぞお前。 ●ほわり 「まあ、詰まる所其処で私の誕生日を祝って欲しいと言う事です」 まだ何か要望があるのかい筝子お嬢様よ。 そんな視線をリベリスタ達が向けると、しかし筝子はふるふるとかぶりを振った。 「いえ、私の誕生日は建前と思ってくれて大丈夫ですよ。そんな事は抜きにして楽しんで頂ければそれで」 要するに、自分の誕生日に託けて一緒に遊びに行こう、と言いたいらしい。 「今は皆さんと一緒に楽しめる事が、嬉しいので」 だから、一緒に来てくれませんかと。 水仙は笑う。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月27日(日)00:11 |
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●\突然の温泉/ 「知り合いの旅館とはいえ丸ごと貸し切りにしちゃうなんて筝子ちゃん恐ろしい子……(><)」 そう、今日は筝子の誕生日という事で、温泉旅館丸ごと貸切なのです。 かく言う終もそんな誘いに乗った口で、男湯にてアヒルちゃんとのんびり温泉なう。 が、その数のやけに多い事。 (オレのアヒルちゃんは108式ある!!) いや、本当は数えた事無いけど。取り敢えずボストンバッグ一杯分。 「あ~いい湯だね~。やっぱりアヒルちゃんと入る温泉は最高! 日本の風物詩だよね(>▽<)」 アヒルちゃんフォーエヴァー☆ そんな彼が一頻り温泉withアヒルちゃんを堪能し、上がってきた所で。 入れ替わりに、雪佳が入ってきた。 終に軽く頭を下げるだけの挨拶を交わしてから、中へ。 露天風呂に行く者が多いからか、別の場所で『戦』をしている為か。 ともあれ、この時間男湯に人は居ない。 (決して人と関わるのが嫌な訳ではないさ。寧ろ、自分一人の力に限界を感じたからこそアークに来たんだ) 自分が人から学び培うべき事が多くある事は自覚している。 けれど、己の足元を見下ろして――コンプレックスと言う訳ではないのだが、開けっ広げに人目に曝け出すのは憚られたから。 それでも、身体を洗ってその脚を外し、湯船に浸かってみれば。 「あぁ、風呂は……いいな。ずっとこうしていたい位だ」 寛いで、リラックスして。また明日からの活力にしていこう。 一方、女湯はそれなりに賑わっていた。 四人の乙女達は、身体を洗い清めてから、湯船へ。 編み込みカチューシャを解いたミュゼーヌ以外は、髪は確り結って上げてから入ります。 「はふ、気持ちい……あったまるー」 優しい熱に、旭は心地良さ気に浸る。 「友達と温泉なんて、いつぶりだろうなぁ……」 「こうしてゆっくり浸かるのはいつ以来だろうな」 しみじみと零す霧香。 杏樹は少し恥じらうけれど、それでもほっとする。 「温泉大好きだし、皆さんと一緒ならもっと楽しいひと時だわ」 ミュゼーヌも、この一時を楽しんで、穏やかに笑む。 「ん。ゆったり浸かると、ほっとする」 「そうね、とても良いお湯……肌に染み渡るわね」 「ほんと、温泉って生き返るよねぇ〜……、年寄り臭い? しつれーな!」 「女の子ならお風呂大好きで普通だもの、年寄り臭いなんて事ないわ」 「生き返る感じも分かるな。すごく落ち着く」 霧香に同意を返すミュゼーヌと杏樹。 それから、話題は髪の話へ。 「杏樹さんは金、霧香さんは銀、ミュゼーヌさんも優しい色。みんな髪きれーだよねぇ」 「本当。みんな綺麗。手入れとか頑張ってそうだ。濡れると色も映えて見えるな」 「ん……確かに、あたしもこの銀髪は好きだよ。元々は黒髪だったんだけどね。革醒した時に変わったんだ。刀の、刃紋の色。境遇のせいかなぁ、落ち着くんだ」 霧香の言葉に、旭は彼女の境遇を知らないと気付く。 「あたしの境遇はー……ま、その内にね。長くなっちゃうし」 「私は生まれつきの地毛ね。お母様が、丁度杏樹さんの様に綺麗なブロンドだったから……」 其処に父の色が混ざったのだろうと。 「お父様の黒髪とのブレンドと思うと、誇らしくなるわ」 「ミュゼーヌさんの髪はご両親の証なんだ。えへーすてきなの!」 「私も地毛かな。昔のことはよく覚えてないけど」 でも、と杏樹は続けて。 「神父様が褒めてくれた色だから好きだ」 「杏樹さんも地毛? ……うん。好きなひとに褒めてもらうのって、すごくうれしーよね」 楽しげに皆を称賛していた旭自身はと言うと。 「わたしのはね。染めてるだけでふつーの黒だから。ちょっとうらやましーかも」 「でも、旭ちゃんの黒髪もちょっと見てみたいな。黒って、日本人らしい髪色じゃない」 もっと大事にしても良いと思うんだ、と。言ってくれる霧香に、旭は照れ臭そうにはにかみ。 「そ……そお? ありがと……♪」 やっぱり、自分の色を褒めて貰えるのは嬉しくて。 「あのね、黒髪の頃のお写真とかね、あるよう!」 「写真? 見てみたい!」 帰ったら見よう、と。 おずおずと、旭が切り出す。 「ね、上がったらわたしドライヤーしてもいーい? 触ってみたいのー」 「触るのはいいよ、勿論。その代わり、あたしも旭ちゃんの髪触ってみたいな」 悪戯っぽく、けれど確かに頷く霧香。 「あは、わたしの髪でよかったらどーぞなの」 「やった。えへ、優しくするからね?」 そんな二人に、杏樹とミュゼーヌも。 「ミュゼーヌの髪を下ろした姿も新鮮。折角だから、上がったら櫛を通してみたい。精一杯愛情込めて優しくする」 「人に触れてもらうの、好きだから……ふふ、優しくお願いね」 仲良くなるには裸の付き合いから。 と言う事で、リンシードもアーリィを連れて温泉へ。 色々雑談に花を咲かせつつ、リンシードは気になっていた事を思い返す。 (アーリィさんって……私の大事だった人そっくりなんですよね) だから、問う。 「あの、アーリィさん……私と初めて会ったの……アークで、ですよね?」 「え? ええっと……多分、アークに来てからだと思うけど……ごめんね……わたし、昔のことあんまりはっきり覚えてるわけじゃなくて……」 もしかして忘れちゃってるのかな、と真剣に首を傾げるアーリィ。 「いえ、いいんです、変な事聞きました……忘れてください」 尚も考え込むアーリィに、リンシードは誤魔化す様に、不意打ちでお湯を掛けてみたり。 「えいっ」 「わわっ!? リンちゃんひどいよ……お返し!」 そうしてお湯の掛け合いが始まったけれど。 「捕まえましたー……手も足も出ないでしょう……? 私に簡単に当てられると思わないことです……」 「うぅ……リンちゃんに本気で捕まえられたら勝てるわけないよ……」 回り込まれて羽交い絞めにされたアーリィがジタバタともがく。その耳元に、リンシードが囁きかけた。 「……一つ、お願いが、あります……大きな声で言いづらいので……」 「って、え? お願い……? な、何かな……?」 改まって言われて、ドキドキしながら言葉を待つ。 ――アーリィ、って……呼び捨てにして、いいですか……? 「え? あぁ……何かと思ったよ……」 そう言われて、断るアーリィではなく。 「うん! いいよ! そっちの方が友達っぽいしね!」 振り向いて、破顔した。 (水着も風情ありませんし、……というのもありますが) 胸中で謙遜しつつも、佐里が女湯に居る理由はそれだけでなく。 そして此処にも、同じ理由で女湯に居る少女が。華奈である。 たまには家から出て、のんびりと温泉を楽しむのも良いものだと誘いに乗っては見たのだが。 (混浴? 絶対いきません、恥ずかしいですし) 露天風呂に興味はあるけれど、ちょっと男性が苦手なのだ。 だから女湯に居るのだけれど、それでもやっぱりまだ少し恥ずかしくて、湯船の隅の方でぽつり。 佐里は、暫くは湯船に浸かって伸びをしたりしていたけれど、華奈の姿を見かけて、話し掛けてみる。 「初めまして、一条佐里です。お一人ですか?」 「あ。……はい、玖澄華奈……です」 少し気恥ずかしげに身体を丸めて、それでも挨拶を返す華奈。 それから、ぽつぽつと他愛の無い雑談を始める。 年も近そうだし仲良く出来ると良いなと思う佐里。そんな彼女を、私よりずっと大人っぽい人だなぁと、ちらちら見てしまう華奈。 けれど佐里は気を悪くした様子も無く。 「ね、今度お出かけしましょうか。私も、まだ三高平に来てそんなに経ってないので、一緒に街を見て回りましょう、くらいの意味合いですけど」 「……はい。本屋の場所とか知りたいですし、1人だと迷子になりそうですし。……決して方向音痴じゃないですよ?」 「あはは」 少しずつ、打ち解けてゆく。友となる日も遠くないかも知れない。 そんな女湯の一角、何故か高く高く積み上がっている桶のピラミッド。 「ん……いや、ちょっとだけじゃ……うん」 どうやらシェリーが、少しだけ少しだけと思いつつ積んでいる内にのめり込んでしまった結果と言うか成果らしい。 「まったく、なんで妾がこんな子供みたいなことを……、おぉ……こうやって重ねると積みやすいに見栄えが良いな」 何だかんだ言って、楽しそうだった。 そして高く積み上げて形にしたら、その天辺によじ登って。 ――崩れた。 「な、なんと……時村室長に勝るとも劣らないこの財力! すげえ!」 従業員以外に見知った顔しか居ないというこの状況に、ベルカも驚きを隠せない。 そんな彼女は女湯へ。髪を纏め上げてGO! 豪華料理も気になるが、また後で。今は身体を休めたい。 (最近も大きな戦いがあったばかりだし……) ふと、視界に露天風呂へと続く扉に向かう筝子を捉える。 「あ、同志成希! この度はお誕生日おめでとう。そして、素敵なお招きに感謝する!」 「此方こそ、ご一緒して頂いて有難う御座います」 「この1年が、貴様にとって幸多からん事を祈ろう。そうか、17歳かー」 皆、こうして新しい一年を迎え、日々成長していくのだ。 筝子を見送り、ベルカは再び湯船に浸かって。 「さて、主催者と裸の付き合いも出来たし。後で露天風呂の方にも行ってみようかな。最後は当然フルーツ牛乳でシメだ!」 この風情を、今日を堪能して、明日の活力へ。 ●ほっこりしていきましょう 露天風呂へと出た筝子を、クルトが出迎える。 平然と(当然水着着用だが)此処に居るクルトだが、欧州の温泉施設では混浴は珍しいものではないのだ。 寧ろ驚いたのは筝子が此処までお嬢様だった事なのだが、本人が大丈夫と言うので気にせずのんびりする事に。 日本の露天風呂は景色が良いのだ。 「改めて、誕生日おめでとう。今年で17歳か」 此処がクルトの故郷――ドイツであれば、ビアホールに誘って奢る所なのだが。 日本では20歳まで禁酒だから、仕方が無い。 「Andere Lander, andere Sitten. 飲めるようになる3年後まで待つとするさ」 その時は俺のお勧めのドイツビールと悪酔いしない酒の飲み方を教えてあげるよ、と。 その言葉に、筝子は心底嬉しそうに笑って。 「それは、是非。楽しみにしてますね」 別の一角では、雷音と冴。白と黒のセパレーツが対照的なこの二人、先日友達になったばかりだ。 「雪景色と温泉両方楽しめるの面白いな」 「そういうものですか。景色を鑑賞する習慣はありませんでしたね」 まだ友達になって日も浅いから、少しぎこちなく、付き合い方もまだ手探り。 それでも、友人と思い出を共有出来るのが雷音には嬉しいから。 「日本は四季折々の良さがあるとおもうのだ。侘び寂び、だな」 その言葉を受けて、ふむと冴は考え込む。 確かに、特別美しいと言う程ではないけれど、見ていて落ち着くような、そんな気がする。 「少しずつ見聞を広めるといいとおもうのだ」 「そう……ですね。今までは正義を貫く事だけを考えていました。ですが、見聞を広める事も必要かも知れません」 冴の家庭の事情は、資料伝ではあるが雷音も知っている。だからこそ、少しでも戦い以外のことも考えられるようになれば良いと思う。 例えばそう――感情の表し方、とか。 「!?」 途端、冴の表情が強張り、びくりと肩を跳ね上がらせた。 「……びっくりした、かな?」 にっこり笑う雷音。その手には僅かに溶けた小さな雪玉。どうやらこれを冴の背中に当てたらしい。 「……はい。驚きました」 と言いながらも、冴もお返しとばかりに手を組んでお湯を発射。雷音の顔へ。 「! 冴も、なかなかにお茶目だったのだな」 「……友人ですから」 だからこそ、戯れる。 「露天風呂わくわくなのだ。ほかほかするのだぞ!」 「温泉って言ったらやっぱり露天っすよね!」 メイとフラウも意気揚々。 「メイ、ちゃんと水着は用意してきたっすか?」 「水着……この日の為に買ってきたのだ」 そう、折角一緒に温泉なのだから、新しい水着を。 「うちは……ホラ、去年のがあるっすから。特に体型も変わってないし、別に問題無いっすよね?」 「フラウは水着似合うな、いいな……大丈夫、フラウは何時も細いのだ」 と言いつつ、それぞれ自分の姿を確認してみたり。 そしてフラウがメイの手を引いて、胸を高鳴らせながらいざ温泉へ! 「水着、とっても似合ってるっすよ。コレなら何処に出しても問題ないっすね?」 可愛い娘は何を着ても似合うとはよく言ったもの、とフラウに褒められて、メイも自然と笑みが零れて。 「有難う。フラウと並ぶと子供っぽいかなって少し思ったのだ。けど、フラウとセットで見れる様にもっと鍛錬? するのだ!」 そう言って、微笑み交わす。 寒風の中でも一緒に温泉で温まればへっちゃら。のんびり湯船に浸かる。 サルを探してみたり、綺麗な場所を見つけてみたりして。 「ほら、メイ! アッチとか凄い綺麗っすよ!」 「雪ってどうしてこうきらきらして見えるんだろうな。フラウ、もっと色々探そう! 素敵な物がいっぱいだぞ」 雪見で温泉。そして温泉饅頭に温泉卵。冬太りは困ったものだとむうと唇尖らせるメイだが、やっぱり楽しい。 筝子自身は建前で良いと言うが、矢張り祝っておかねばと。 拓真と悠月も水着に着替えて、筝子の居るであろう露天風呂へ。 悠月は和風の花柄リボンビキニ。拓真はシンプルなトランクスだが、パートナーの美しくも凛とした姿に微かに目を細め。 「ん、今日の水着も似合っているな。綺麗だ、悠月……では、行くか」 二人、手を取って筝子の下へ。 見つけた筝子が纏うは淡い黄色の無地のビキニ。深緑色のパレオと相俟って黄水仙のよう。 「こんにちわ、成希さん。先日が御誕生日だったとは知りませんでした」 「いえ、私自身すっかり忘れてましたし」 大丈夫か筝子。 「遅くなりましたけれど……御誕生日、おめでとうございます」 「誕生日、おめでとう。それと、今回の誘いに感謝を。楽しませて貰っている」 「それなら何より。お祝い有難うございます」 「成希の水着姿は初めて見るが……似合っている。今の俺は両手に花と言う奴か」 冗談を言って、笑い合う。 「新たな一年も、宜しく頼む。……頼りにさせて貰う。君も、俺達に頼ってくれ」 「今年も、宜しく御願い致します。……皆で共に歩みましょう、成希さん」 「はい、此方こそ、これからも宜しくお願いしますね」 握手を交わし、今日を祝い、未来を誓う。 「良い所ですね、此処は。……この露天風呂も、とても趣がある」 「星も良いが……雪を見ながら、というのもまた風情があって良い物だな」 「そうでしょう? お誘いして良かったです」 見上げれば月天、広がるは淡雪の原。 「幽幻ね」 ひとり、ぽつり、糾華が呟く。其処に、声。 「あの……月が綺麗ですね」 見えずとも刻まれた傷を意識し、つい身構える糾華。 「リリさん……」 依頼で良く共闘するその少女。恐らくは勇気を出して声を掛けてきたのだろう。 そんなリリに、糾華は茶目っ気を籠めて返す。 「夏目漱石は『I love you』をそう訳したそうよ」 糾華の姿に漏れる浅い感嘆の溜息。 美しい景色の中、美しい糾華が佇んでいる様は絵になる。 (近くで見ると、本当に綺麗な方で、それでいて、心の強い方) 彼女の戦い方、言葉から、学んだ事も少なくない。 自分には無いものを、彼女は沢山持っている。リリは緊張を覚えていた。 しかし当の糾華でさえ、思う。 (信仰の力。彼女には迷いがない、胸に支える軸を持って戦うのは心強いのでしょうね) 徐にリリが呟く様に告げる。 「私も貴女のように強くありたい」 驚きに目を丸くする糾華。 「……な、何だか急にすみません。私ったら」 けれど、糾華はすぐに微かな笑みを浮かべ。 「私は、いつも迷い、いつも選び、いつも諦めた振りをしていた。信じるモノは私が定めた。選ぶのは自分。棄てるのも自分」 それでも。 「私は強くないから。臆病だから、一人はもう嫌だから。だから、私は割り切れたふりしてるのよ」 自嘲する様な彼女に、しかしリリはかぶりを振る。 「一人は寂しいです、きっと誰でもそうです。一人になる必要はありませんよ。私の方は、貴女を大切な仲間だと思っています」 「ありがと。リリさんも私の大事な……友達よ?」 「お、お友達……! わ、嬉しいです」 私達はお友達、ですね――そう言って笑むリリは本当に嬉しそうで。 「あと……その胸はズルい。水に浮くなんて聞いてないわ……」 「む、胸……ずるいのでしょうか……すみません……」 「あ、謝らなくて良いからっ」 戦友であり、友達。彼女達は独りではない。 「筝子さん、お誕生日おめでとう。今日は有難うね」 「此方こそ。楽しんで頂ければ幸いです」 主催者である筝子に祝辞と礼を。そんな祥子は、義弘と露天風呂。 (男の人と温泉なんてえっちぃかなって思ったけど、水着着てるしプール感覚よね) 祥子も水着着用。義弘も本来なら邪道かとは思いつつ、紺のトランクス完備。 子供扱いしている訳ではないが、何となくそうしたくなって、義弘は祥子の頭を撫でた。 「うん、似合ってる」 それに対して、と彼は自らの身体に視線を落とし。 (毎回生傷だらけだが、皆で風呂に入ると流石に目立つな。女性も居るのだから尚更か) だが、祥子が驚いたのは傷でなく。 「わ、ほんとに筋肉スゴイのね、鍛えたらこんな風になるの?」 精悍で引き締まった身体は、鍛えている男性特有のもの。 そんな自分の背をぺたぺた触る祥子に、義弘は僅かに笑みを浮かべ。 (寒い日に入る露天風呂は気持ちがいいな。横に女の子が居るのはなんとなく妙な気分だが) それでも、祥子なら。いつでも良いとすら思える。 「あたしもこれでもけっこう力こぶできるのよ」 義弘の胸中を知ってか知らずか、一般女性並の二の腕の筋肉を披露する祥子。 そんな彼女に義弘は、くすくすと笑いながら、空いた手を握ろうとして――握り返された。 驚き。けれどすぐにまた微笑んで。顔を見合わせ、笑う。 (もう、のぼせそうに熱いけど雪が冷たくて気持ちいいわ) だからまだこのままで。 「ふはー気持ちいいでござる!」 同じく精悍な身体つき、しかしウエットスーツ姿でのんびり寛ぐのは虎鐵。 「拙者温泉大好きでござる!」 疲れも癒えるし贅沢な雰囲気。 加えて露天風呂だ。広々と寛げると言うものだ。 「やはりこれが温泉の醍醐味でござるな」 肩を揉んで、足を揉んで、腰も揉んでおく。凝った身体を解すのだ。 もう各所バキバキである。以前は此処まででも無かったのだが…… 「もしかして……これって……年の所為でござるか!?」 それはやばい。 (拙者も偶には運動をして色々と改善をするでござるかな……) 矢張り戦闘だけでは無理があるか。寧ろそれが原因か。 ともあれ、虎鐵に新たな決意が生まれた様であった。 静けさの中、アリステアは物思いに耽る。 (早く大人になりたいなぁ……) 水着がスクール水着だからとかいう事ではなくて。 戦いの中、彼女は癒し手である。それ故に、敵に狙われ易い。 (小さいのが後ろでうろうろしてるからって、よく狙われるんだよね……) 後ろで皆を支えたいだけ。なのに、先に狙われて落とされたり、庇ってくれる味方に酷い怪我を負わせたり。 それは自分の望みでなくて、結果的に自分は何をやっているんだろうと思う事も一度や二度ではなくて。 それが堪らなく悔しくて。だから、心も体も、もっと成長したいのだ。 (うーん……成長っていっても、何したらいいかわかんないんだけどね……) 途方に暮れつつ、のんびりしていると。 「筝子たんは誕生日おめでとう」 「有難うございます、楽しんで行って下さいね」 一人は筝子。もう一人、何やら際どい水着着用のその人は。 「竜一おにぃちゃん。奇遇だね……きゃ!?」 ひらりと手を振ったかと思えば、抱え込まれた。 アリステアが物思いに耽っているらしいと知り、様子を見に来たらしい。お兄ちゃんとして! 何だか只管撫で撫でされている。 「よしよし、何も言わなくていい。ゆっくりと、いろいろと考えるといい」 それは少女の特権だから。 「思うようにしたらいい、失敗もするといい。いろんな経験をするのが大事なことさ」 上手くいかない事も多くあるだろうけど、それを何時か糧に出来る様。 「人は悩んで考えて成長するものだからね」 そして、最後にこれだけは。 「君がどんな道を選ぼうとも、お兄ちゃんはいつでも君の味方さ」 頭を撫でて頬ずりして。それでも少女の邪魔にならない程度に。竜一とて兄貴分を自負する身だ。 少女の成長は嬉しくも有り、巣立っていくのが物悲しくもあり、少しだけしんみりしながら。 アリステアは突然の出来事に驚きつつも、話は確りと聞いていただろう。 「成希君、はじめましてでございますよ」 「あ、はい。初めまして」 杯片手に雪見酒。そんな様子の海依音が、筝子に声を掛けた。 実り豊かな四肢に情熱的な赤のビキニ姿は妖艶だが、顔が僅かに赤い。 アークに身を寄せて早速の福利厚生に感謝ですよ、ああ、今日なら神に感謝を祈ってもいい気分ですよ、なんて。 「ご生誕ということでしたねぇ~。水仙の君に祝福を、かんぱーい」 「うふふ、有難うございます」 そのままもう一献。そして今一度、言葉を紡ぐ。 「成希君、この箱舟は希望を乗せて何処に行くんですかねぇ。ゴフェルの木であるワタシ達は何を救えばいいんですかね」 軽やかに、口では神を讃え。 「神を引き裂くワタシらは、淆亂の塔の様に神の雷を受けないようにしてーところですよね」 驕れば神は罰を下す。正義の名の下に。それを大義名分に、リベリスタは常に“選択している”事忘れる無かれ。 尤も。 「誕生の日に贈る言葉にしては剣呑じゃあありますが、酔っ払いの戯言。軽く流してくださいな」 彼女がどんな意図でその言葉を贈ったか、何処まで本気なのかは、計り知れないけれど。 (向こうで白熱している卓球も気になるのじゃが、まずは湯治じゃの) ――何やら凄い事になってるんですね、向こうは。 ともあれ、魅ヶ利もまた露天で雪見を楽しみつつ、朗々と歌っていた。 「ハァー♪」 石川県の温泉地の座敷歌なんか気分良く口遊みながら。 その歌は、露天風呂内のBGMになっていたかも知れない。 煌々と輝く月と星の下、照らされた雪の中。夜鷹とレイチェルも露天風呂でのんびり。少しだけ、雪見酒。 杯に口を着けつつ空を仰ぐ夜鷹の横顔を、ふとレイチェルは覗き見て。 そっと、その手を握る。 「……もっと、側にいってもいい?」 「ん、どうぞ?」 腕が触れる程に、近く。 その姿を夜鷹は見る。 愛すべき、穢れ無き妹分。けれど彼女の『本気』を知った。 今着ている愛らしいボーダーのタンキニだって、少しでも自分に良い印象で見て貰いたい一心で纏ったのだろう。 それでも傍に置くのは、そうしたいのは。 (俺のエゴ以外の何物でもない) 嗚呼、何て自分は醜悪な存在。その隣に純真なレイチェルを置いておく事に罪の意識を覚える。 けれど、この繋いだ手の温もりがいつまでも在り続けて欲しいと思ってしまうのは。 (俺の心が弱いせいなのだ) 夜空に在る輝きに、雪と、隣に居てくれる黒猫は照らされて。 壊したくないと思うのに。だから早く、去って欲しいと思うのに。 「でないと俺は……」 抑制が、歯止めが、利かなくなる―― 「……っ!」 時が止まった様な錯覚、その後に。 レイチェルは気付く。頭から抱き込まれ、髪に口付けられている事。 しかし我に返った夜鷹は弾かれた様にレイチェルから距離を取る。 何をしているんだと自責して、彼は髪を掻き上げて放れてしまう。 その背に、レイチェルは声を掛けた。――それだけに、留める。 「……風邪、引かないようにね?」 気持ちは同じ方向を向いているのに。 夜鷹は失うのが怖いから。レイチェルは知りつつも、自分の事で苦悩してくれている事が嬉しくて。 胸中で互いに謝罪する。罪は無くとも、そうせざるを得なかった。 「冬はやっぱり温泉だよねえ、雪見風呂とは風流だなあ」 確り水着着用、七もほっこりしに来ました。 (今年はあんまり温泉行けてない気がするから、ここぞとばかりにゆっくり浸かって堪能するのだ) 折角の機会なのだから、楽しまなければ損だ。 寒い時期はゆっくり長くお湯を楽しめるのが素敵な所。 (夏でも勿論入るけどね……!) 時々のぼせない様に、湯船の縁に腰掛けて景色を楽しみつつ。 ふと、筝子を見つけて。 「成希さん、お誕生日おめでとうー。それにしても旅館貸し切っちゃうのは凄いよねえ、よっぽど大事にされてるんだなあ……」 「有難うございます。ちょっと我儘言い過ぎたかな?」 悪戯っぽく笑う筝子。まあ、偶の我儘なら良いだろう。 「わたしたちとしては誕生日っていうめでたい日に温泉堪能させて貰って有難いけどね、ふふ」 学校指定の水着に身を包んで、七花もいざ露天風呂へ。 端の方でのんびりと、流れる時の流れに身を任せ、癒しと景色を楽しむ。 柔らかく降る雪の結晶は六花。一足せば自分の名前だなあ、なんて。 そんな事を考えながら、時を過ごす。 (温泉、露天、混浴! これだよこれ!) 別の一角では、日本酒の徳利と杯を桶に浮かべつつ、楽しげな隆明。 (女性の柔肌を合法的に見られる桃源郷、それが混浴! 美人の柔肌、雪景色、どちらもたまらんね!) だからと言って、勿論手を出す何て野暮な真似をする訳でなく。 (それを肴に日本酒をを飲むってのがまた良いんだ、あぁ、うめぇ……この光景、素晴らしいぜ……) 堂に入った所作で、くいっと一杯飲み干すと。 「どうだい? あんたも一緒に飲まねぇか?」 「わ、私ですか?」 急に声を掛けられて、驚く七花。 とは言え、彼女は未成年なので――何処からとも無く取り出した、リンゴジュースで。 二十歳になったら夜空を肴に露天風呂で雪見酒とかやってみたいなあ、なんて考えていた彼女に、少し早い予行演習。 水着に着替えて、焔も準備万端。 「温泉って言ったらやっぱり露天よね! 誘うような相手は居なかったけれど、温泉でのんびりって言うのは魅力的よね!」 そして主催者である筝子の下へ、誘いの礼と、誕生日の祝いを告げに。 「今日はおめでとうと、ありがとね。初対面だけど、こうして温泉を楽しめるのは筝子のお陰だから」 「そう言って貰えて嬉しいな、此方こそ、有難うだよ」 色々と話してみたい事はあるけれど、それはまた今度。 「こうしてアークで過ごしてたら、機会なんて幾らでもあるでしょうしね」 そうして筝子と別れて、改めて湯船に浸かってのんびりまったり。 (此処一月、思い返せば戦ってばっかりだったし、シッカリ休んでおかないとね) 近々大きな動きもありそうな事だし。 今は英気を養って……あ、でものぼせない様に気を付けて! 「卓球って何が面白いのかしら」 湯船の中ぬくぬくしつつ、ぽつりと呟くいりす。 「ボール打ち返して、相手に叩きつけて戦闘不能にするゲームって聞いたけど」 あれ何かバイオレンスなゲームになってる!? 「戦闘不能にするなら、らけっと叩きつけた方が早いじゃない? 良く解らんね。じゃぱにーず文化。不思議だね。じゃぱにーずしびりあん」 じゃぱにーず文化(?)について行けないいりすは露天風呂へ。 (露天はいい。景色も見れるし。涼しいから長湯できるし。混浴だから、性別もばれないしな) 誰に気を遣う事も無くまったり出来る。 更衣室どっち使ったの、とかは、ほらアレだよ。神秘だからふっしぎーでわからないのです。 (筝子くんには感謝をせねばならんね。ぶるじょあすげぇ。しゅくじょすげぇ。足を向けられないね) 所変わって、人気の少ない一角。龍治と木蓮ものんびり、雪見酒。 と言うのも、龍治の身体にもまた、戦場で負った傷痕が刻まれていて、否応無しに曝け出されるそれを人目に付かせる事に抵抗があったから。そして、もうひとつ。 (木蓮に目を向ける者は少ない方が良い、しな) 木蓮の方もそれを察して、布地の多い水着を選んで着てくれてはいるのだが。 ともあれ、木蓮の酌を受け、龍治は盃を煽る。 「七月頃に温泉へ入りに行った時のことを思い出すなぁ……」 木蓮が呟く。尤も、当時は夏で雪は無かったけれど。 「ちょっと出てる部分はひやりとするが、こういうのも乙なもんだぜ」 「ああ、雪見の風呂というのは、やはり素晴らしいものだ。確かに気温は低いが、この景色を楽しむなら我慢も出来る」 何より、今はお互いが隣に居る。 (木蓮の酌で酒を楽しみながらであれば、もう言う事はない) 満たされてゆく。満ち足りる。幸せだ。 「……も、もう酒は終いか」 「……ん、おかわり要るか? けど湯で酒の回りが早くなるし」 「問題はない、あと一杯……!」 「あと一杯だけなっ」 そうして最後の盃を空にすると、龍治はゆっくりと立ち上がる。 「さあ、のぼせん内に出ねばならん。成希に手渡したいものがあるのだろう?」 その言葉に頷いて、二人、その場を後にする。 それから、着替えて、合流して。プレゼントも持った。 「筝子、誕生日おめでとう! なんか後輩の誕生日みたいで嬉しいぜ」 「有難うございます、こうして色んな方にお祝いの言葉を頂けて幸せです」 此方も湯上り、ほくほくと嬉しそうな筝子に、祝いとプレゼントを。 誕生花のクロッカスのチャームが付いたブックマーカー。読書好きな筝子にと、木蓮が選んだもの。 「わあ……嬉しいです、大切にしますね!」 「へへー、また良い一年を!」 ●人、それを卓球と……言うんだろうか ――卓球とは戦、とは誰が言ったのであろうか。 「さぁ行くぜ優希! 俺達の連携を見せてやろうぜ!」 「フッ、ツァインよ、解っている。一気呵成に攻め落としてくれる!」 ツァイン&優希チームと。 「しょーたん、わたし達の連携、見せてあげよ! 負けないぞー!」 「おう、俺達の連携の良さを見せてやろうぜ」 壱也&翔太チームが。 今此処に、真剣勝負を――あれ? よく見たらそのラケットとボール、AF製じゃあ―― 「この射線、読み切ってみせよ。迅雷スマッシュ!」 「って、何!? 速攻だと……」 開始の合図を待たずに優希がすぱかーんっと打ち始めてました。スマッシュって……てかボールが雷纏ってる!? その後も、的確に護り隙を突くツァインと鋭くも勢いのある優希の連携が続く。あー、寧ろ相手倒した方が勝利なんですね、これ。おっけ理解。 「そこだ! リーガルショットォ!」 「くっ……!」 初撃でダメージを負った壱也が食いつき、速さを生かして翔太もフォローしているが、まだ相手には余裕が見える。 そして翔太が返した球をツァインが身体の中心で捉え――ってラケットの役割何処へ! 「そろそろ決めるぜ! 受け取れ優希ぃ!」 それを受けて高く舞い上がった優希。炎の輝きをその身に宿し燃え上がる様は不死鳥の如く――其処に不動の鉄の山を背景に立つツァインのラケットも重なって。 「砕け散れぇ!」 「塵と化せ!」 「「奥義! 裏式ッ・不動鉄山ッッ!!」」 重なり合ったラケットが撃ち出す、赤熱した弾が――もう『弾』で良い気がしてきた――一切の揺るぎ無く撃ち出される。疲弊した壱也と翔太は為す術無く弾き飛ばされる――筈だった。 (くそぉー! しょーたんはやらせない! ここはわたしが食い止めるっ) 「い、壱也!?」 「はしばしーるどおおおうおおお!!」 Σええええええええええ!?←ガチでビビる西条 まさかの身体を張って全力防御。散る火花。 「うおお、頑張れいっちー! 俺も後ろから支えるぞ」 「しょーたん!? ありがとう!! 二人で止めよう!!」 魂が輝く。その鮮烈な輝きに、運命の女神すらその目を細めた。 (壱也が守ってくれた……この戦いは負けられねぇ!) 何と、とても二人では支え切れないと見えたツァインと優希の弾が、止まったのである! 「次はこっちの攻撃だ! このまま一気にいくぞおお!」 壱也は全ての力を。翔太は全ての速度を、己がラケットに乗せて、重ねて――一息に、撃ち込む! 「「ハイスピードクラッシュ・オーバーリミットォォオオ!」」 超剛速球とも言える弾丸が――もう『弾丸』で良いよね――光の飛沫すら纏って、飛ぶ。 「な、何ィ? その技を……組み合わせるとは……バカなぁぁああアア……アァ……ッ!!」 諸に喰らったツァインは、受け止めきれず弾き飛ばされた。余波で、優希も膝を着く。 「そうか、これが真の連携……俺を越えていけ、選ばれし者よ……」 がくりと動かなくなるツァイン。優希も傷だらけの我が身を哂う。しかし何処か清々しげに。 「フ……まさかここまでの手練れであるとはな。アークを……いや、地球を。頼んだぞ」 強敵との戦いを乗り越え、壱也と翔太はハイタッチ。 「この勝負、俺たちの勝ちだー!」 「これが、わたし達の卓球だ!!」 結論:卓球は戦。西条おぼえた。 舞台は卓球場の一角へと移る訳だが。 「金髪メガネ、僕らが勝つ! チームワークみせてやろうぜ!」 「やってやろう! 色黒ヘタレ!」 この時点で既に一抹の不安を感じないでもない。 ともあれ夏栖斗と悠里、チームを組んでいざダブルス戦。 「あの時見せたようなチームワークを見せてあげるよ!」 びし、と。悠里がラケットを突き付けた、その相手は。 「あはは、そりゃ楽しみだ~」 「……義兄さん」 緑とロゼの義兄妹。 「僕らの勝利は確実だぜ! って少しはやる気だして?!」 相変わらずマイペースな緑にのっけからペースを乱されている夏栖斗である。 「オレが審判を下してやろう。安心して望め」 審判は火車でした。どうしよう何かもうカオスになる予感しかしない。 当の火車は、コイツ等がこないだの過保護な馬鹿が狙ってたって奴等か、と緑とロゼを見遣り。 「はーん? まぁ……アホ共々楽しんでそうで何よりだ」 「「?」」 「ほれ、んじゃ始めっぞー。新参チームvs色黒ヘタレバカメガネチーム、勝負勝負ー」 先ずは夏栖斗の先制サーブ! それをひょいと軽めに打ち返す緑。 何合か打ち合い、ロゼが甘い球を返す。絶好球! 貰った、とばかりに球の下へ向かう夏栖斗――と悠里。 まあ、案の定ぶつかりましたよね。 「わーい一点入ったよやったね、流石ロゼ~」 緑が兄馬鹿を発揮している間、夏栖斗と悠里は。 「ぶつかってくんなよ! チームワークだろ?!」 「痛い! 今のは僕のボールでしょ!?」 「……うむ、モノの見事に噛み合ってねぇな」 その後も更に続けるも、いよいよ喧嘩が始まる始末。 「ばっか、悠里、そっちになんでいくんだよ! バカメガネ」 「そっちこそ何でもかんでも突っ込みすぎなんだよ!」 「お? カズト良い暴言だな2点。悠里も負けてねぇじゃん、大人の余裕なし-5点」 「火車さん投げ遣りですね……」 「そっちの二人は台下で蹴りまで入れてんじゃん……」 ロゼは兎も角緑まで呆れ顔。何かレア。 「火車の審判適当過ぎでしょ!?」 「火車きゅんもやじ飛ばさないでこっち応援してよ」 危惧された通りのカオスになりながらも、その結果は。 「楽しんでる新参チーム100点ー。勝ちー」 何だかんだありながら、運動後の休憩タイム。 「ほらよ。炭酸、果汁、何でもござれだ」 新入り二人も有難く頂く。 「緑、ロゼ、アークはどう? 楽しめてる?」 「うん、良い所だよね。俺、もう少しで監視解けそうなんだ」 「マジで!?」 ほらもうすぐ一年じゃん? と笑う緑。 「二人共、結構馴染んできたよね。アークを好きになってくれたみたいで嬉しいよ」 今度は弟も連れてこようかな、と悠里。 (アホ共に限ったこっちゃねぇ、新参二人もなんだかんだで勝ち取った時間ってこった) アークは、そういう場所だから。 まだ、嵐山は緑とロゼを狙っているのかも知れないけれど。 二人が幸せなら、守れて良かったと。そう、悠里は思うのだ。 「二人がここに来てよかったと思うのならそれに勝る喜びはないんだけどね」 「そっか、ありがとかずっち」 にへ、と顔を見合わせて笑った。 「んで? 罰ゲームはなんにする?」 ――あっ。 「……ふぅ、良い湯だった。中々、卓球の方も盛り上がってるみてえだなぁ」 白熱した戦いの数々を、珈琲牛乳片手に観戦する猛とリセリア。 折角だから軽く運動しに行こうと立ち上がるリセリアに、猛も頷いて続く。 「こんにちわ、緑さんロゼさん。強いですね二人共」 「リセリアさん。こんにちは」 「あ、りせりーぼんじゅー。そっちは?」 「葛木猛。リセリアの未来の旦那だ、宜しくな」 「へー」 笑顔でそんな挨拶をする猛とによによする緑に、流石のリセリアもちょっと困り顔。 ともあれ本題。 「ちょうどよかった。卓球しようと思ってたんですけど……」 「んだな、丁度相手を探してた所だ。お願い出来ねえか?」 「ん、おっけー。お相手させて貰うよ」 「宜しくお願いしますね」 「決まりだな。ダブルスで勝負と行こう、負けねえぜ?」 猛は見る。緑とロゼの強さは、恐らく互いを理解している所から来るのだろう。 (中々、勝つのは厳しい相手みたいだが……こっちもチームワークじゃ負けねえ。悪いが、勝たせて貰うぜ!) 試合開始! 緑のサーブ。中々に早いがリセリアならついて行ける。彼女を主軸に、猛はそのカバーに回る。 (勝つ為に勝負……という訳ではなく、楽しく行きましょう) とは言え、負ける気で挑む訳でも無く。トリッキーな緑は兎も角、堅実な動きを見せるロゼの方は翻弄されているように見える。 その隙を、猛は見逃さなかった。 「其処だっ!!」 鋭く突き刺さった球を、ロゼは返し切れず。 この一点が決定打となって、試合は猛とリセリアの勝利! 「負けた~」 大袈裟に床に倒れて見せる緑。そんな様子にリセリアは僅かに口元を緩め。 「こういう『勝負』って……どうですか?」 彼が、今の生き方を心から楽しめているのなら。 「……うん。悪くない。……楽しいよ」 その言葉を聞けて、その笑顔を見られて。良かったと思う。 「次があったら、またやろうぜ?」 「はい、是非。今度は、負けません」 (成希の誕生日に託けて湯治に来た訳だが) 何故か卓球台の前に立っている美散。 目の前に相対するは、快。 「縁さん、ロゼさん。審判お願いできるかな?」 「あいよー」 互いに温泉卓球正装(浴衣にスリッパ)で気合十分(?)だった。まあ湯上りだしね。 「来いよ。お前の求める『戦い』がココにある!」 「良いだろう。『戦い』である以上、全力で行くぞ!」 そんな訳でガチ卓球勝負をする事になった二人。 美散はフルーツ牛乳の瓶を置くと、徐に懐からラケットを取り出す。Myラケットだと!? 対し、快は相手の出方を推測。美散は恐らくスマッシュやドライブを多用してくる強打型だろう。 ならばと快はカットマンスタイルで迎え撃つ。 台から離れた位置で構え強打に備える快。美散もその意図に気付いた様だ。 (強打に備えているのなら備えごと打ち破るのが礼儀――) 初手は美散の強烈なサーブ! しかし快もそれを受け止め、回転を掛けて思いっ切り端へと返す! だが―― (イメージしろ。守護神の盾を穿つ我が槍の一撃を!) 何度振られても、がむしゃらに喰らい付く美散。 無茶な体勢からでも横っ飛びで打ち返す。思い切り床に頭を打ち付けるもその甲斐あって球は激しく突き刺さり、一点先制! しかし快も負けてはおらず、粘り強く回転やバックスピンを駆使し、美散に疲弊の色が見えた所でスリッパ蹴散らしてのジャンプショットを炸裂させ反撃! 一進一退の攻防は続き、そして。 「「Love Beer! 」」 大戦後はお互いの健闘を湛えて、黒いラベルのビールで乾杯! 「ぎゃー!!?」 館内で、突如悲鳴が上がる。 何事かと駆けつけてきた者が見れば、牛乳瓶片手に泡を吹いて倒れている者が居た。 数十秒後、人気の無い、何も無い所から現れる旅館の従業員――否、エーデルワイスだ。変装して悪戯を仕掛けては、物質透過で逃亡していたらしい。 で、その悪戯はと言うと。 「当旅館からのサービスです! どうぞ、お一つ♪」 ああ、その牛乳に細工している訳ですね。 そんな訳でハバネロ牛乳だのゴーヤ牛乳だのドリアン牛乳だのの脅威で館内が良い感じ(?)に阿鼻叫喚と化す中。 ――がしっ。 「あれ?」 「あはは、悪戯猫さんにはお仕置きしないとね?」 首根っこひっ捕まえてるのは、緑さんでした。笑顔だけど目からハイライト消えてる。 こういう時一番傍観してそうな彼が、何故こうも怒りを露わに彼女を捕えているかと言うと。 エーデルワイスが積み上げていった犠牲者達の亡骸の中に。 ロゼが、居た。 ●雪見とご飯時 「こんばんは、そして遅れながら誕生日おめでとうございます成希さん」 「ああ、こんばんは亘君。有難う」 「ふふ、スケールの大きい誕生日会ですね」 「そうだね、折角だしちょっと我儘を言ってみたんだ」 クスクスと、笑い合う。 「あぁ、そうだ。宜しければお話しませんか? 散歩……だと冷めちゃいますね」 「じゃあ、何か羽織ってテラスに出る? 和風旅館でテラスって言うのも変な感じかもだけど、寒くなったら中に入れるし」 筝子の提案に亘は二つ返事で応じて、柔らかく六花舞うテラスへ。 「ふふ、成希さんの最近のオススメ本とかありますか? 自分は推理小説……特に現代的トリックが出るのにはまってます」 「最近多いものね。発想が斬新で結構吃驚させられる事が多いよね」 「昔とはまた毛並が違う現代だからできるトリックって面白いですよね」 こうして話が出来るのが、楽しい。友と過ごせる時間は尊い。ひとつずつ重ねていければそれは重畳だ。 所変わって宿の一室。 (ふっふっふー。私は知っているぞ。お誕生日はごちそうが食べられるということを!) 緊急連絡を受けてやって来たブリリアントは、目の前の鍋、そして用意された具材にその双眸を輝かせた。 「寒いからあったかいお鍋がしみるなー。鳥! 豚! 魚! 目移りしてしまうな!」 温かくて美味しいものが沢山食べられる幸せ。 この場を用意してくれた主催者に感謝の念が湧いてくる。 「あ……そうだ、あとでおたんじょうびのひとにお祝い言わないとな。お風呂でおめでとー♪ ってしておかなきゃ!」 ご馳走を堪能したら、ちゃんと伝えに行こう。 (懐石料理に旬のお刺身! 味わうように色々と食べてみたいですね) 並べられた料理に目を輝かせるのは、ミリィも同じだった。 「……!? べ、別に腹ペコとかそう言うのじゃないのですよ? こ、これは……そう! 懐石料理をあんまり食べた事が殆ど無かったので、この機会に色々と……ですね」 「そっか、やっぱりこういう機会は貴重だよね」 気さくな笑顔を向けて来るのは、同席した玲人だ。爽やかな面立ちと相俟って正に良いお兄さんである。 (玲人さん、会うのは初めてですが、グルメという事なので参考にしながら色々と食べるのです!) 実際、彼が選んで食べているものをミリィも口に運んでみれば美味しかった。 「あ、他の料理を食べすぎて、デザート食べられないなんて事にならない様に気をつけないといけませんね。目指せデザート制覇……です!」 「あはは、やっぱり女の子だね、可愛いなあ」 そしてお待ちかねのデザートタイムも終えて、ミリィは改めて玲人と話を。 ミリィが直接関与した訳ではないが、報告を受けて気になっていたのだ。 「覚悟は、目指すべき道は決まったのかどうか……」 「……」 一瞬、玲人は寂しげに微笑んで、けれどすぐに、穏やかに瞼を下ろした。 「正直、まだ決めきれてない所はある。兄さんの遺志を継ぎたいのは確かだけど、やっぱり不安もある」 だけど、と笑って。 「此処は良い所だし、戦っていく内に見つけていくのも悪くないと思ってるよ。君の様に、こんな俺でも気に掛けてくれる人も居る事だから」 それは、十七年前に水仙の咲いた、肌寒くも温かな一日の出来事。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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