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Type : The Guardian

●Last Chance
 対峙するのは白と銀。
 擦り切れた外套を羽織った英雄。無骨な盾を携えた騎士。
 その邂逅は偶然だろうか。いや、恐らくそうではない。
 片や人々を救う為捧げられた命。片や全てを護る為紡がれた魂。
 時と場合さえ異なったならば、彼らは共に同じ戦場を駆ける事も出来たろう。
 両者は在り方からして近しい。思想も、目指す頂の先も。
 けれど、近しいが故に。

 抜かれた剣は銀と白。傷だらけの片刃と純白の諸刃。
 言葉を交わす余地もなく、2人――2柱は既に鞘を捨て去っていた。
 片や人々を救うが為に命を繋ぎ、祝福を失いし『無貌』の英雄。
 片や全てを護るが為に魂を賭し、世界を殺せし『理想』の騎士。
 残された時間はいずれにももう、然程ない。
 この場、この瞬間こそが終わりである事を両者は互いに解していた。
 最初であり、最後。己と言う存在の最果て。
 或いはこの場で生き残る事が決して。

 決して――幸いではないだろう事も。

 その両手は誰が為に。
 その能力は何の故に。
 その想いを、例え世界が認めなくとも。
 その矜持は――けれど唯の一分の澱みも無く。

 例え不可能であろうとも。ただ全てを
「救う為に/護る為に」

 交差するは白と銀。
 救済の剣と守護の盾。
 それはまるで運命であるかの如く。それはまるで悲劇であるかの如く。
 剣戟が鳴り響く。

●Judgment Day
「今回の仕事は、2体のエリューションの討伐」
 集められた面々へと視線を流し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が頷く。
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
 何時もの場所に集められたリベリスタの眼前では、モニターが既に起動している。
 剣を打ち合う2体のエリューション。そのどちらもアークの報告書内に名前が有る。
「E・フォース、識別名『守護騎士』。ノーフェイス、識別名『彼』」
 両者はまるで関わりのない任務に於いて、アークが取り逃した難敵だ。
 かつての事件よりの時間経過に従い、その危険度は以前より更に上がっている……
 その、筈だった。

「カレイドシステムの予測演算。この両名は今日の夕方遭遇し戦闘へ雪崩れ込む」
 発生したエリューション同士が争う事は、多くはないがまるでない程ではない。
 だが、遭遇戦となると話は別だ。余程の偶然でもなければ――
「偶然じゃない」
 けれど、イヴはその可能性すらも否定しモニターを指差す。
「『彼』は世界を壊す者を滅ぼす為に。『騎士』は強者も弱者も全てを護る為に」
 戦い続けていた。戦い続けて来た。絶え間なく、ずっと。ずっと。
 然程広くもないこの国だ。遠からず、相見えるは必然。
 そしてこれは吉報だ。アークは漁夫の利を狙う事で労せず2つの脅威を滅ぼせる。
 そうである筈なのに、イヴはそっと頭を振る。

「でもこのままだと、本当に誰も救われない」

 2人はどちらも限界だ。フェーズ進行が間近に迫っている。
 強固極まる意思で以って自我を保ち続けようと、祝福されざる命はいずれ必ず狂う。
 猶予はない。両者の決着を待っているだけの時間は――ない。
「だから割り込む」
 2体、強力なエリューションの戦いに。
 例えそれが運命の、因縁の邂逅であるのだとしても、
 アークはアークの摂理で以って秩序を敷く義務が有るのだ。
 世界を維持し、支えるが故の箱舟だ。万華鏡の姫はこの運命に終わりを告げる。
 それを傲慢と、誰に罵られようとも。
「2チームを編成した。つけよう」
 決着を。

●The Guardian
 これで君は自由だ、と。彼の創造主の去ったその後先。
 壊れ行く音が聞こえる。罅割れる己が体躯を見つめて苦く笑う。
 理想の限界を知る。一人の人間の想いで全てを護る事など出来はしない。
 だが、だから何だと言うのだろう。不可能だから、どうしようもないから。
 そんな理由で立ち止まっていられるなら、自分はきっと存在などしていなかった。
 それは叶わぬ願いだ。為し得ぬ夢だ。決して果たされぬ契約だ。
 理想と言う名の、死神だ。

 対峙した純白は、擦り切れ、汚れきり、けれど何所までも澄み渡って輝いている。
 これが英雄であると言うのなら、なるほど。この身は何所までも歯車に過ぎないのだろう。
 ああ、けれどそれで良い。
 この身は最後まで死神で良い。終わりの瞬間まで他愛も無い幻想で良い。
 全てを護る為に全てを殺し得る人の罪の具現で良い。
 世界を壊し続けるこの両の手が、もしも何かを護る術を持つと言うならば。

 それは――きっと。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月24日(木)23:45
 82度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 幕引きの為の一幕。シンプル純戦、以下詳細です。

●注意
 本シナリオは、あまの いろはSTの『Type : The Hero』との連動依頼です。
 本シナリオに参加する場合『Type : The Hero』への参加は出来ませんので、ご注意ください。

●成功条件
 E・フォース『守護騎士』の討伐

●E・フォース『守護騎士』
 初出シナリオ:<裏野部>理想と言う名の死神
 ガーディアン。「理想」のE・フォース。
 大きな盾と剃りの有る剣を携えた大学生程の男性。
 HP特化型であり防御偏重。その分攻撃能力に劣る。
 全てを護る為悲劇を未然に防ぐ者。守護者と言う理想を体現する死神。

 守護者:P.近接範囲の複数名をかばう事が可能。
 不可侵:P.精神無効、麻痺無効、呪い無効【追加効果】[反射]
 対立する者:P.HP30%以下で2回行動

 リバースクロス:
 物近単.高命中、威力+(物防/2)+(神防/2)【状態異常】[虚脱]
 クルエリティジャッジ:
 物遠範.中命中、被ダメージ割合でダメージ増加【状態異常】[雷陣]
 アスパイア:HP20%以下で使用可能。
 物近範.高威力、CT+100

 理想と言う名の死神(EX):HPが10%以下で使用可能。
 神遠全.溜1、高命中、特大ダメージ、反動大【追加効果】[不殺]

●戦場補足
 郊外の平野。周囲は森。足場は安定しており空は日暮れが近い。
 距離的に50mは離れて居ない地点にノーフェイス『彼』が存在している。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
スターサジタリー
★MVP
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
遊佐・司朗(BNE004072)

●残滓
 誰かが言った。
 それは、一人で背負うには重過ぎる物だ。
 けれど騎士は独りで在り続けた。
 願わくば他の誰にも、その重みの伝わらぬ様に。

 誰かが言った。
 前しか見ず、守られる者を見ようともせずどうして全てを護れるのか。
 けれど騎士は背を向け続けた。
 いつか守り抜いたその人が、己の姿を思い出さぬ様に。

 誰かが言った。
 その姿は挙げ句の果て。ユメに成りはてた哀れな幻想にしか見えないと。
 けれど騎士は選び続けた。
 痛みの荊を、傷だらけの荒野を、何も救い得ぬ戦場を。

 無様に、惨めに、不恰好に、愚かに、それを――望むべき物として。
 誰も、己に想いなど馳せぬ様に。
 誰も、こんな理想を描かぬ様に。

 ――どうか誰も、全てを護りたい等と望まぬ様に。
 誰より多く傷つくその道程の果てが、例え道化に過ぎないのだとしても。

●交錯
 立ち止まったその体躯は銀の鎧に包まれて、ただ昂然と其処に在った。
「さよならを言いにきたわ」
 『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の声が風に乗って響く。
 一瞥を向けたのは彼らとは異なる場で抜かれた純白の剣。
 交わる筈だった守護と救済は、その道を別たれる。それもまた、運命と言うべきだろうか。
「この先へ、通す事は出来ません」
 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が後を接ぐ。言わずとも、断らずとも理解していたろう。
 その騎士が世界に祝福されざる物である以上、終わりは必ずやってくる。
 何所か見慣れた戦友を思い起こさせるその立ち姿。けれど、手など抜ける筈もない。
「もし貴方が世界に愛されたなら……本当に、残念です」
 1度は共に戦地を駆けたとも聞く。その性質は決して悪と言い切れまい。
 源 カイ(BNE000446)はかつて“守れなかった”側の人間だ。
 だからこそ眼差しに滲む想いは切実である。その力を求めた事が無い何て――到底、言えはしない。
「……どうだっていいんですけど」
 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は淡々と。
 そんな感傷は何所吹く風よと己が武器をその手に生み出す。
 本来人に向けられるべき物ではないその“対戦車ライフル”は圧倒的な重量感を以って場に君臨する。
 アークの武装開発部門と凌ぎを削るコーポレーション『大御堂重工』の開発室室長であるモニカにとって、
 今回の戦いはあくまで特定の仮想敵を想定した戦闘パターンのテストに過ぎない。
 そう、彼女の組み上げた一撃必殺のプランを阻み得る物としてこれ以上の相手は居ないだろう。
 彼女の最も信頼に値する守護者が尚、梃子摺ったと言う前評判に偽りがないのであれば。
「哀れな」
 けれど、その誰とも異なる心情を『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は抱く。
 祖国を護る為と言って、命を散らした戦友が居た。
 多くを守る為に、囮となって帰って来なかった同僚が居た。
 その姿は彼の知る戦士と幾分の違いも無い。それは死ぬべき時に死ねなかった戦士の亡骸だ。
 理想などとは程遠い。誰かが引導を渡してやらなければならない孤独な死神だ。
「戦士に休息を……――任務を開始する」

 想う所は幾つもある。伝えるべき言葉も幾らもある。
 けれど、今となってはもう過ぎた事だ。
 あとは鉄と硝煙だけが語ってくれる。
「――来い。“人間”共」
 だからこそ。騎士は敢えてそう告げた。
 まるで痛みを堪える様な苦い笑いを噛み殺し。けれど何所までも真摯な眼差しで。
 理想を担う死神は。鈍く輝く刃を抜く。
「一気に行く!」
 動いたのは赤き暴虐。『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)
 傍若無人の極みとも言うべき巨大な光弾が撃ち出され、受け止めた銀の騎士を飲み込み爆ぜる。
 爆音と爆風。濛々と上がる土煙。冗談の様な力の顕現にさしものリベリスタ達とて息を呑む。
「生憎俺はその手の類はクソ喰らえなモンでな」
 だが、攻撃を放ったランディは確信と共に言葉を紡ぐ。こんな物ではまるで足りない。
 それが彼の知る誰かの“理想”であるならば――
「理想何てヒロイックに流されての自己犠牲なんざ、無意味だ!」
「やれやれ……言ってくれる」
 声と共に、晴れる視界。駆け出した騎士の姿にランディが荒い笑みを浮かべる。
「さて、それじゃ、手合わせ願おうか騎士さん」
「行かせません、止めてみせます!」
 『ハティ・フローズヴィトニルソン』遊佐・司朗(BNE004072)が流れる様な動きで距離を見極め、
 その間隙を縫って拳を握ったカイが銀の騎士の間合いへと跳び込んだか。
 握った義手、纏わり付いた漆黒の闘気と共に放たれたその拳が高く澄んだ音色と共に防がれる。
 硬い。手堅く、安定したその有り様には今この瞬間も壊れつつある予兆などまるで感じられない。
 けれど、恐らくそれはそう言う物なのだろう。
「ほんとは私の柄じゃないんだけど」
 ウーニャの放った嘘吐き道化(ライアークラウン)の札が突き刺さる。
 理想を詠うも、理想を殺すも、それはきっと彼女本来の在り方ではない。
 そういう綺麗な。青臭いほどに暑苦しい言を紡ぐのはもっと別の人間の役割の筈だ。
 けれど、それでも、だとしても。
「それは私達が求めて止まないもの。これからも追い続けていくもの。だから――」
 だから、私達が決着を。

「――――ああ」
 騎士の刃が鋭く十字を描く。鮮血が荒野へ降り注ぐ。
 けれどその眼差しは何所までも何所までも遠く。あたかも殉教者の様に。

●幻想
「来るぞ!」
 指先が描く十字架。空より降り注ぐ残酷なる審判。
 傷つけば傷つく程に。痛めば痛む程に。その光は輝きを増す。
 ウラジミールの声に身構える面々にも理解出来てきていた。これは消耗戦等ではない。
 彼らが対峙する者は鏡だ。己が揮った打撃。与えた傷をそのままに返すだけの。
「なあ、何でだ?」
 だがその程度で身を折るほど、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)の守りは浅くない。
 いや、この場の誰であれ。騎士の揮う攻撃に精細が欠けている事に気付かぬ者は居ないだろう。
 元より彼は守護者なのだ。その背に負う者が居ない今、彼の一撃は例え重くとも致命打にはなり得ない。
「……何でだよ」
 けれど、だからと言うべきだろうか。
 ツァインの眼に映るその騎士は、余りにも誰かに良く似ていて。けれど、決定的に違っていた。
(何であんたが、そんなに辛そうなんだよ……)
 剣と剣を打ち合わせる。返る手応えは頑健極まり、鉄壁の守りは錬鉄の如く。
 守護者として自身の遥か先を行く存在との交戦。思いがけず笑みすら毀れそうになる。
 けれど、騎士の眼差しがそれを許さない。全身で以って言っている、こんな在り方は誤りであると。
「救われませんね……こんな終わり方では何一つ」
 伏せた魔術師の瞳と共に、描いた魔陣が連鎖的に反応する。
 放たれたのは魔術の基礎の基礎とも言うべき魔力の礫弾。
 だが、それも歴戦の魔術師が使いこなしたなら狙った獲物を最小労力で穿つ必殺の魔弾と化す。
 突き刺さり、爆ぜる度に騎士の体躯か削れていく。徐々に、けれど確実に。
 だが、それ以上に重大な影響を与えていたのは丸きり射程外より放たれる一閃の死神――No13である。
「幾ら頑丈でも、単体では良い的ですね」
 モニカの視線が戦場を冷徹に分析する。守護者と言う存在は何所まで行っても守勢を本分とする。
 であれば敵陣を突破する等愚考にも程がある選択だ。
 騎士に良く似た顔馴染みであれば、こんな戦い方は決して選ぶまい。

「いい加減、とまりなよ」
 一足。間合いを詰めては放たれる氷の拳。
 司朗が前に出ても問題無いだろうと判断する程に、戦況はリベリスタ優位に進んでいた。
 いや、或いはどうせ巻き込まれるのであれば前衛も中衛も然程変わりはないと言うべきか。
 放たれる審判は相応に痛烈である。だが、脅威はと言えばそれだけだ。
「そこまで走り、戦いづづけてどうすんのさ」
 けれどだからこそ、解せない。これではまるで遠廻しな自殺――いや、自死だ。
 皮肉屋で冷淡な彼をして、怪訝の色を隠し切れない。
 或いは、彼が枯れ果てた残滓であるならばまだ受け入れられたろうに。
「理想や護る、なんて言うのは格好良いさ」
 そう口にした、ランディへと向けた瞳は触れれば燃える程の熱を秘めている。
 ならそれを押し殺してまで、何故こんな意味の無い事を続けているのか。
「だが、自分を犠牲にしか考えない安い野朗に負けてやる気はねえ!」
「――同感だ」
 ランディが振り下ろした大戦斧。
 凍て付く墓掘りの銘を持つそれから放たれた衝撃波に騎士の鎧が罅割れる。
 だが、その痛みを潜り抜け、その糾弾を請け負って。騎士の表情が、変わる。
 その手には光が宿っている。灼ける程に、瞬く程に。視界を引き裂く烈光の刃。
「全てを護りたい等と言う理想は自己満足に過ぎない。
 その理想を旗印に、例えば万人を結び付けられたとしよう。それは『支配』と何が違う」
「違う、それは――!」
「多くの者の理想を束ね、弾かれた者を排斥するならそれは『拒絶』と何が異なる」
 理想を共有する事が出来ないなら。その幻想はどこまでも孤独だ。
 理想を共有する事が出来るなら。他を抑圧するその幻想はどこまでも残酷だ。
 ウーニャの放った気糸の投網が騎士の刃に引き裂かれる。

「では、優れた能力があるから“全てを護れる”のか?」
 立ち塞がったウラジミールが問う。孤独なる騎士は確かに優れているのだろう。
 或いは他者を必要としないほどに。或いは他人にその願いを押し付けずに済む程に。
 だが、果たしてそれで。“彼”に何が護れたろう。
「ただ一人の存在に世界が救われるなど御伽話でしかない」「どれだけ理想を並べようとそんな物は人間の在り方ではない」
 ウラジミールの答えを、騎士が引き継ぐ。互いに、辿り着いた結論は同じだ。
 けれど皮肉と言う他あるまい。彼らは同じであるが故に、決して相容れはしない。
「ならば戦士よ、理想と共に朽ち果てて行くが良い!」
 振り下ろされた破邪の刃には僅かの曇りも無く。それはウラジミールと言う個人の在り方を体現している。
 だが、それを甘んじて受けた騎士もまた。其処で膝を折るならばこの場に立っては居なかったろう。
「皆さん、下がって――」
 カイの声が悲鳴の様に罅割れる。光は“前”に立つ3人を等しく呑み込み――そして。

●夢の果て
 その技に――“希望”と言う銘が付いていたのは如何なる諧謔か。
 例え火力に乏しくとも、文字通り完全な形で放たれた騎士の刃は、前衛3人に手痛い爪痕を残す。
 護りも何も在りはしない。真っ向から相対する事が悪い夢の様に思える鮮烈なる一撃。
 けれど、
 けれどだ。
「俺だって……」
 視界を染めた銀光を瞳に焼き付け、けれど男は立ち上がる。
「俺だって、憧れるよ。あんた等は、凄い……俺じゃあ足元にも及ばない」
 だが、言葉ほどにその心は沈みはしない。もしそうで有るならば、どうして此処で立ち上がれようか。
「でも、一個だけなら俺にも誓える」
 その理想は、きっと騎士のそれとは違っていただろうけれど。
「何度膝を折ろうとも、挑み続ける事を諦めない」
 その誓いは『挑戦』彼は何時だろうと諦観しない。一度敗れようと、十度敗れようと、百度敗れようと。
 それを甘いと評するだろうか。それでは何も護れないとその想いを否定するだろうか。
 ――否。
 まるで眩しい物を見た様に、騎士の眼は細められる。
「所詮理想は……理想だ」
 軍服をぼろぼろに汚しながら、ウラジミールが立ち上がる。人は、夢を食んで生きてはいけない。
 其処に如何なる理念が有ろうと、其処に如何なる利害が有ろうとも構わない。
「現実には合わない……人は仲間と共に歩むものなのだ」
 それでも繋ぎ合わせて実利を取る。そんな『現実』より優する『理想』など有りはしない。
 その舌鉾、一体如何なる盾が退けられよう。
「この手やこの力は確かに破壊を産むだけのモノなのかも知れない」
 カイが血を吐き、無骨な義肢で地を踏み締める。
 自分の中の闇を理解し、それでも出来る事が有ると信じ続けて来た。
 彼の失った物、捧げて来た想いは、決して理想などに押し潰されたりはしない。
「それでも……信じたい。これは死神を生み出すだけの物じゃないと!」
 力があるから、護るのか。力がないから、護らないのか。
 己に問い質してみれば答えは簡単だ。答えは、何時だってその両手の中に有った。

「あなたは一人で全てを守れるから、独りで全部背負ってしまう」
「――ああ」
 ピンクの髪の少女が告げる。
「けれどそれでは、果たせない。不可能と悟って尚、理想の果てへと歩み続ける」
「それが、この身の全てだ」
 魔術師の娘が継げる。
「でも人は。あんたが守ると、背負うと言った存在は、
 守られなくちゃ生きられないほど弱いわけじゃないからさ」 
「……それでも、手を伸ばせば届くなら」
 手を伸ばさない事など、出来はしなかった。
 その矛盾を、途方もない背反を、御伽噺ではない不都合を、見て見ぬ振りをする事も出来ず。
 だから足掻き、藻掻き、衝突し、全てを投げ打って……その先に、何もないのだとしても。
「それで、満足か?」
 いいや、そんな綺麗事は許さないと。男の眼差しは言っていた。
 ランディ・益母は妥協を許さない。中途半端な結末など絶対に御免だと己にも他者にも憚らず猛る。
「仮にも俺が認めた男から生まれたんだ、奴を踏み越えてお前の理想を示せよ」
 自分の方が“上”なのだと。その単純明快な挑発に――
 けれど騎士は何かを吹っ切る様に、恐らく“奴”ならば浮かべないだろう笑みを浮かべて応える。
「そうだな。正直に言えば――言いたい事を言いやがって、と言う感じだよ」
 歳相応と言うには、磨り果て、枯れ果て、けれどそれでも尚笑う事が出来る。
 偽りの『理想』である自分がそうであるなら、人と言うのはどれ程強い物だろう。
「せめて勝ち逃げといかせて貰おうか」
「させねぇよ。俺は勝つ。何を殺そうが! 絶望しようが!」
 振り被った剣の色が白銀より真紅に変ずる。禍々しくも冷たい血色の刃。
 だが、それを手にした騎士の表情たるや如何だろう。其処に浮かんでいるのは――
(……何も、違いません。貴方が今そうしているように)

 彼は何も残せなどしなかった。護りたかった物を護れたのかすら定かではない。
 けれど、その想いを果たす為に抗い築いたその道程を、例え騎士が望まなくとも。
 誰かが刻み、誰かが繋ぎ、誰かが引き継ぎ、或いは乗り越えて行く。
 それが、『理想』であると言うならば。

「此処に、『理想』を殺し死神を成す」
「――――それを、待っていました」

 真紅の旋風が吹き荒れる中、唯の一時も瞳を逸らさずに。
 全ての流れを想定しきった上で、見抜いてみせたのは恐らく。彼女が彼女であったから。
 利で無く、害で無く、情で無く。けれど、メイドとは与えられた役割以上を粛々と果たす者。
 彼女一流の拘り。或いは、ある種の理念で以って、モニカは死神(キング)を死神(クイーン)で刺す。
「チェックメイトです」
 旋風を引き裂き、響くは銃声。

●理想の終わり(ツヅキ)
 死神は絶え、騎士は果て。
 それでも、『理想』は在り続ける。
「Do you wish you still help it?」
(――それを求める者が居るなら、この手の届き得る限り)
 その答は、精々作り物の英雄めいていて。
 けれどツァインが最後に見た穏やかな瞳は、まるで写し絵の様だったから。
「理想のために理想を殺す。それはどんな絶望よりも深い絶望で」
「でも、その夢は僕らが継ぐからさ」
 ピンクの娘と白い狼は瞳を細めて見送った。
 手向けられた言葉は決して多くはないけれど、今はただ、その夢の終わりに。
 おやすみ、夢追い騎士さん。

 一人の英雄に救われるほど世界は決して軽くはなく。
 けれど独りが刻んだ足跡を、踏み締め、踏み越え理想(ユメ)は形を変えて在り続ける。
 何時でも世界を壊し続けるその手が、もしも何かを護る術を持つと言うならば。

 それはきっと――託すに足る道を刻むと言う、ただ一つしかないのだから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ノーマルシナリオ『Type : The Guardian』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

沢山の、溢れるほどの言葉をありがとうございます。
戦闘を卒無くこなしつつも、込められた想いに支えられ
一つの幕を引く事が出来ました。
MVPはその中でも究極と言う位酷い相性の噛み合わせだった、
モニカ・アウステルハム・大御堂さんへ。
見事な位の『理想』を殺す死神っぷりで御座いました。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。