●一年の計は元旦にあったりなかったり 縁結び承ります――新年は当神社へ是非お越し下さい。 そんな煽り文句の付いたチラシを片手に『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)はと言えば、 これはもう、見事な位に途方に暮れていた。途方に暮れるの見本市である。 果たして何故こんな事になってしまったのか。或いは何故こんな所まで来てしまったのか。 どうして人生というのはこれほど試練ばかりなのか。 そんな深淵かつ現実的な問いを自らに投げ掛けても結局何も変わらない。 良い加減悟りの境地に達しつつある彼女はそれでもどこか呆然と、自分の衣装を見つめていた。 私服でも無ければアーク職員服でもない。白無垢に緋袴――即ち巫女服以外の何物でもないその姿を。 今日は自宅でゆっくりと、新春特番でも見ながら炬燵に入ってのんびり過ごす予定だったのに。 一年の計は元旦に有り、と言う言葉が本当で有るならば、今年はもう詰んだに等しい。 「新年そうそう、どうしてこんな事に……」 因みにエフィカ・新藤(18)勿論神職等とは全く一切完膚なきまでに関わりがない。 発端は暫し遡る。場所は東京都内某所。 とても首都圏とは思えないほど下町然とした町並みに紛れ、その神社は存在していた。 元々はそれなりに霊験の有ったろう門構えは裏寂れて久しく、 遂にはちょっとした事件すら引き起こした挙句最終的にアーク管理下に置かれたその寺社。 名を『〆芽神社』と言う。 さて、この神社。どうも余り良く無い物を鎮める為に建てられた物らしく、 何もせず長期間放置しておくと・フォースが発生すると言う性質を持つ。 流石に看過し難かったかついお節介を焼くアーク。しかしこれが想像以上の難物であった。 何せ参拝客も居なければ、管理人も居ない神社である。誰かが好んで赴任して来たりもしない。 と言って、打ち壊しと言う訳にもいかないのだ。何が封じられているとも知れない以上は。 改善される気配はなく、と言って壊す事も出来ない。 管理開始時点で、それはもうアークにとって空前絶後の不良債権だった。 しかし当然。或いは若干名にとっては不幸なことながら―――― 其処で終わるアーク。それを許容する時村財閥ではなかったのである。 ●もしドラ(もしもアークのマスコットがドラマティックに初詣を開催するとしたら) 何所か時代を感じさせる鳥居は新たに塗り直され、新しく狛犬が置かれている。 神社仏閣もリニューアルを必要とする御時勢とでも言うのだろうか。 そして神社の境内で立ち尽くしているエフィカとリベリスタ6名。他には誰も居ない。 素晴らしい位の過疎っぷりである。匠による劇的なビフォーアフターすらもこれでは報われない。 「ええっと……」 矯めつ眇めつチラシと風景と一緒に仕事を押し付けられた面々へ視線を泳がせていた、 エフィカが意を決して声を上げる。真冬の寒風が冷たく吹き抜ける。唇が若干青白い。 「こんにちは皆さん! 今回のお仕事は初詣ですっ!」 初詣。大凡大晦日から新年三箇日にかけて行われる神社仏閣の一大行事である。 しかして、既に年は明けたと言うのに『〆芽神社』には参拝客の“さ”の字すら見えない。 「どうも、この神社をお客さんで一杯にしないととっても悪い事が起きるみたいなんです」 ブリーフィングルーム滞在中の『リンクカレイド』真白イヴ(nBNE000001)曰く。 “具体的には年始のお休みが全カットになる位” 福利厚生に篤い特務機関アークとは思えない世知辛さである。 「なので、えっと……初詣を、開催出来る様にして頂きたいのですがっ」 だがそれには決定的に足りない物が有る。人手であり、広報であり、そして何より神社関係者である。 「人手の手配は室長が、広報は私がイヴちゃんと一緒にチラシを刷る事で解決しました」 しかし神社関係者ばかりは流石に一朝一夕ではどうにもならない。 「と言う事で」 引き攣った様な笑顔で、エフィカが神主服と巫女服を人数分。 賽銭箱の前に置かれたテーブルに並べ始める。ここに来て、嫌な予感しかしない。 「皆さん、演技はお得意ですか? あっ、接客経験者さんとかいて下さると嬉しいですっ」 振り返ったマスコットは笑顔である。人は涙を流さなくても泣く事は出来るらしい。 「……」 沈黙するリベリスタ。そして更に沈黙するエフィカ。 お互い牽制するような間が暫し流れ、そして。 「今回のお仕事は、皆さんに初詣を“成功”さて頂くこと……らしいです」 初詣の経験位誰にでもある。だが初詣を開催する、となると既に意味が分からない。 けれど俯きがちに呟く彼女を前に、果たしてどんな言葉を掛ける事が出来ると言うのか。 アークの無茶振りは、新年も変わらず絶賛平常営業中⌒☆ |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月15日(火)22:29 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●どうしてこうなったのか 漆黒より尚深い闇の中。点滅する光源。静かに響くキーボードの音。 ディスプレイを見つめる『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)の眼前で、 瞬きの間に一定のルールに従った文字列が流れては消えてゆく。 穴場スポット見つけたはwww 1: 番組の途中ですがBNEです : 2013/01/0X(金) 19:39:57.02 ちょw巫女さんはいてないwwwww 2: 番組の途中ですがBNEです : 2013/01/0X(金) 19:41:31.78 >>1。 正月早々クソスレたてんな 3: 番組の途中ですがBNEです : 2013/01/0X(金) 19:42:38.03 >>1 釣り針大き過ぎるからw 4: 番組の途中ですがBNEです : 2013/01/0X(金) 19:42:49.92 >>1 kwsk 「……次」 たまには、こういうのも悪くない、かな。そう思っていた時期が彼女にもあった。 だが現在彼女は一人。淡々と、淡々と、その役割を遂行する。 密やかに、静かに、けれど確かに、誰も知らぬ世界に情報と言う毒が浸透して行く。 ほっしー@BNE_Ark すっごい可愛い巫女さんが居る神社発見。記念写真OKとかメイド喫茶かよ() 閉じる 返信 リツイート お気に入りに登録 ■■■■■■■■■■ 22件のリツイート 2お気に入り 「……、……次」 だが、それは時に己をも傷付ける諸刃の剣である。 彼女は幾度も葛藤と自問自答の上に、無数の己自身と言う屍を積み上げて行く。 本当はこんな事がしたい訳じゃなかった。そんな戯言に果たしてどれだけの意味が有るか。 その虚しさを天乃は必要以上に良く知っている。 2013-01-0X(Fri) イケメン好き集まれー>< 冬休みも終わって初詣・ω・ でも人混みばっかりで嫌になっちゃう(ノx; そんなほしのんですけど、今日はとっても良い事がありました★! 何と! 近所で働いてる人がイケメンばっかりの神社を発見したのっ(*ノノ 「……」 かちかちかち、ッターン! 軽快に動いていたキーボードの音が止み、椅子の背に凭れながら無感動に天井を仰ぐ。 「……終わっ、た……」 やり遂げたと言う達成感。その一方で、自分は何をしているんだろうと言う喪失感。 だがこれもまた1つの闘争で有ったと言えるだろう。世は弱肉強食、情報もまた奪い合う物だ。 人は何かを失わず、何も得る事など出来ないのだから。 誰にも報われぬ、己自身との戦いとも言える果てしなく徒労感に満ちたその作業。 人はそれをステルスマーケティングと呼んだ。 ●何で誰もとめなかったのか 「此処に来るのも、2年ぶりかあ」 遠く響く雀の声。冬特有の薄く広がる陽射し。爽やかな声と共に改装の終わった境内を振り仰ぐ。 その風景はかつて見た物とは一変しており、人の手が随所に入った事を示している。 温故知新。それもまた、時の流れによって変わり行く物と言う事か。 思えば遠くに来た物だ。『デイアフタートゥモロー』新田・DT・快(BNE000439)がそう一人ごちたとして。 誰がそれに異を唱える事が出来たろう。かつての彼にはミドルネームさえなかったのだから。 「明っけましておめでとーう! よーし! 皆で初詣を成功させようぜー!」 さて、普段目にする事の多い鎧姿から一新。藍色の紋付袴と言う如何にも和風な姿で鬨の声を上げたのは、 金の御髪も鮮やかなツァイン・ウォーレス(BNE001520)である。 異国情緒漂う風貌と服飾のミスマッチは、けれど神社と言う景観も相俟って奇妙なバランスを保っている。 あまつさえやる気も十分、仕事に対する真摯さは彼らの美徳と言えるだろう。 「……まぁ、前向きに考えましょう。ロクに仕事にもありつけず年を越した人だっているのです。 元旦から仕事があるなんて流石は時村財閥、不況知らずですね、と言うことで」 とは言え、誰もがそこまでポジティブに事を捉えられる訳ではなく、 苦笑い混じりに語った源 カイ(BNE000446)のその声に肩を落とした受付天使の姿を幻視する。 「ああ。この神社とは縁もあるしな。やるだけやってやろうじゃないか」 真新しい神主服に身を包んだ快がそう告げれば3者3様、既にセッティングされている舞台を眺めたか。 参道の左右に立ち並ぶ屋台は既に準備を始めており、境内中央には神楽舞台の用意が終わりつつある。 祭の始まり。まるで朝の冷気に芯を通すかの様に、震える様な熱の予兆を感じさせるその一時。 「あ、そういや女性陣は?」 「女性の準備には何かと時間がかかる物らしいですよ」 そんなやりとりがあったかどうかは定かでないものの。 しかして、もう一方の主役達はと言えば―― 「笑顔とか、接客とか……ものすごく、苦手……なんですが」 「接客とか私もよくわからないけれど、愛想振りまけば良いのよね? 多分何とかなるわ、余裕よ」 更衣室、と書かれた紙の貼られた神社内の一室。その一角で仲睦まじく戯れる2人の少女。 『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)と『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390) 元々仲の良い2人ながら、けれど人目に対する反応は見事に対極を示していた。 見られる事に然程抵抗がない糾華に対し、リンシードはとにかく自分に自信が無い。 手元に開いた巫女服を前に、迷い迷って既に10分が経過しようとしていた。 「それは、糾華お姉様は余裕かもしれないですけど……」 「大丈夫、ちょっと無愛想でもリンシードは可愛いのだから。いけるいける」 拗ねた様な声音に、愛猫を可愛がる飼い主の様な微笑を浮かべぽふぽふと撫でてみせる糾華。 どちらもが未成熟ながら何れ劣らぬ花である。寄り添い励まし合う様は微笑ましくもある。 「そ、そうでしょうか……お姉様がそう仰るなら、私……!」 手を取り合うその様が、どうも若干仲が好過ぎる気がしないでも無い等と言う事情は、 それ故に、実に瑣末な事情であり。 (……エフィカ、何で、隠れてるの……?) (えっ、いえっ! その、何か邪魔したら不味いかなってですねっ!?) そのあからさまな2人の世界に入り込めないエフィカと天乃が、 既に着替え終わっているのに更衣室から出て行けない理由の一端もそんな所に有った訳であるが、 これもやはり、瑣末な問題であるのだろう。多分。 かくも女性の身支度と言うのは得てして男性陣の想像を絶する物なのである。 ●巫女達の場合 「いらっしゃいませーっ」 それぞれ彩り異なる4人の巫女が声を上げる。午前と言う事もあってか人の入りは疎らである。 とは言え、誰であろうとその光景に目を引かれぬ者は居ないだろう。 見目の良い人間と言うのは引力を伴う。これはもう理屈ではなく、老若男女を問う物ですらない。 自然と集まって来た人々は徐々に集団と言って良い生垣を形成しつつあり、 その中で働く少女らはと言えば予期せぬ流れにてんやわんやである。 「い、いらっしゃいませっ! 〆芽神社へようこそっ! おみくじ2つと、絵馬2つですねっ」 流石に、接客が本職と言うだけはあるだろう。 受付嬢として長いエフィカの応対は卒がなく、笑顔も声も及第点を十分上回っている。 けれど――窓口は3つあり、実の所綺麗に人が捌けていたのはその1箇所のみである。 「いらっしゃいませ、ありがとうございました? ……こうかしら?」 エフィカに細かなコツだけ尋ねながら、隣で淡々と業務をこなすのは糾華である。 赤いリボン結い上げ、濃緑の蝶の簪で留めた髪をふわりふわりと揺らしながら、 焦ることなく応対するその様は見た目の幼さを補って、意外と堂に入っている。 難点が有るとするならば笑顔の乏しさか。とは言え彼女自身巫女装束と言う物に興味があった事も相俟って、 普段よりも柔らかな、楽しげな雰囲気を纏っている事でその欠点は概ねクリアされている。 とは言え、彼女も本来ならば自分の窓口だけで手一杯なのだ。 其処に来て、本日最も参拝客の耳目を愉しませている少女の裏返った声音が境内に響く。 「わ、私はなるべく裏方……ひゃっ、あ、ありがとう、ございまひた……!」 リンシード、実に噛み噛みである。 見た目的に最も幼いこともあってか、それ以上に彼女は接客と根本的に縁がない。 その慌てっぷりを若い夫婦等が微笑ましく見ていたりもするが、何処にも心無い人間と言うのは居る物である。 「おいおい、急いでくんないかなあ」 「こっちおみくじまだー?」 方々より上がる声。例え年始であろうと忙しないのは日本人の国民性か。 慣れぬ業務に完全にテンパっているリンシードからすれば泣きっ面に蜂も良い所である。 「ああああああありがとうごじゃましたっ」 無理に笑顔を作ろうとする為頬が引きつり涙が目尻に滲む。 緊急事態を告げる様にリンシードの髪留めがちりんちりんと二度ほど鳴いたか。 「おみくじですね、ありがとうございます。ちゃんとお参りもしていってくださいねー?」 そこにすかさず糾華のヘルプ。しかしそれはそれで彼女の窓口が滞る。 接客とは連携である。一筋縄では行かないのだ――が。そこにひょこりと顔を出したのは、 これもエフィカと御揃いの巫女服に身を包んだ天乃である。 その瞬間、春風が吹き抜けた。黒髪である彼女はこの場で最も巫女然とした風貌をしている。 その上、その身に宿す力がまずかった。異性を魅惑するその神秘。 テンプテーションが半ば無理矢理に声を上げていた男性らを制圧する。 「……欲しい物、これと、これ?」 視線を先読みしてか、そう小さく呟いた天乃に燻っていた炎が爆発した。 「ちょ、ちょっと良いですかっ!」 「写真! 写真1枚! カメラ目線こっちでっ!」 「いえあのっ、そういうサービスはですねっ!?」 「こうかしら? 綺麗に撮って下さいね!」 「えええ――っ!?」 勿論、望むか望まざりてか、意外とノリノリな糾華はともかくとして。 エフィカとリンシードも巻き込まれるのはどうしようもない必然としか言い様がない。 かくして巫女達による撮影会は窓口を2つに絞らざるを得ない事態を引き起こしつつ、 引き攣った笑顔の2人をさておき実に昼過ぎまで続く事となる。合掌。 ●神主達の場合 「ありがたやー」 そんな巫女達を両手を合わせて拝むツァインの手元には、 たこ焼き、甘酒、林檎飴と言った品物が軒並み並んでいる。 サクラと販売管理を兼業するツァインは恐らくこの場で最も初詣を満喫している1人だろう。 隣でチェックリストを片手に店舗の運営状況の確認と、クレーム対応を行うカイに比べ、 明らかに気が抜けている。勿論その辺りは生来の真面目さのなせる業だろうか。 「おーう、トイレはどこにあんのけぇー?」 「あ、こちら御案内します」 あっちへこっちへとせっせと動き回るその姿は接客業本職の本領発揮と言った所か。 どちらかと言うと戦う事に特化しているツァインから見れば驚くほどに効率良く場を捌く。 「たこ焼き屋さんはココ、林檎飴は向こうでお願いしますねー」 とは言え、ツァインもまた別に暇を持て余していた訳ではない。 「ああ、てめえ何ぶつかって」 「っせえな何もしてねえだろ」 正月休みとなれば酔客も多い。発生するトラブルは留まる所をしらない。 況や、この神社の性質を考えれば。そして―― 「まままっ、落ち着いてオニーサン方、メデタイ日じゃ御座イマセンカッ よく言うでしょう? めでたい日はブレイコー、喧嘩はブレイクォー! ナンツッテー!」 突然割り込んで来た外国人。その明るく、あっけらかんとした声に毒を抜かれてか、 一触即発だった参拝客らの間の空気が雲散霧消する。 この手の問題はツァインの十八番である。伊達にM・G・Kを名乗っては居ない。 互いに互いを補い合うと言う意味で、両者は見事に販売管理を成し遂げる。 とは言え。 「はい、はい、ええ。それではその調子でお願いします」 その間にもお雑煮とおしるこの屋台を出し日銭を稼いでいた辺り、 やはり接客分野ではカイに一日の長があると言う事だろう。 唖然としたツァインに対し、彼の微笑は流石としか言い様がない言と共に刻まれる。 「忙殺結構、接客業の端くれとして腕の見せ所です」 さて、しかし徐々に徐々にと人が増えて来ると、 互いの連携等に力を割く余地は必然的に減って行く。特に境内の混雑具合は順調に。 そう、いたって順調に悪化の一途を辿っていた。 「はい、そちら割り込まないで下さい。神様もご覧になられてますよ?」 神主姿の快がこれもやはり全身全霊を賭けて行列整理に混雑状況確認にと、 七面六臂の活躍を見せるも喜ぶべきか哀しむべきか、口コミで集った人々は想定以上に多い。 「な、なんでこんなっ!」 「エフィカさん、人の煩悩を甘く見ない事だ……!」 ヘルプで回されて来た受付天使の困惑に、DTが正に彼だから言える言の葉を紡ぐ。 要約すれば、美少女巫女が大勢居る神社とか人が来ない訳ないだろう、である。 「あ、それとこれカンペ。覚えておいてね」 「えっ、あっ、はいっ!?」 その上、渡されたぺらっとした紙に記されている内容がエフィカの行動までセーブする。 無駄に凝った御本尊の『設定』に、え、これ本当に大丈夫? と言う眼差しが向けられるも、勿論当の快はそれどころではない。 「麻子神社へようこそー」 「おにいちゃん、あしゃこじんじゃって何?」 「うん、それはね?」 エフィカが手にしている紙にはかくとある。 『当〆芽神社の御祭神は「麻子比売神(あさこひめのかみ)」。 静岡県三高平市の総本宮から分霊を勧請して創建され、 天満宮が天神様と呼ばれる様に麻子様や麻子神社の別名で親しまれている』 「…………」 何故かエフィカの目のハイライトが危険信号を発していた理由は、きっと誰にも分からない。 ※実在のSTとは一切関係ありません。多分 ●つわもの共がゆめのあと 時は粛々と流れ宴も酣。人混みが集う神楽舞台。 その舞台裏で、リンシードが絶句していた。いったい何時の間にこんなに人が集まったのか。 見渡す限り、人。人。人。決して大きくない境内には人が大勢。それも8割男性である。 「ど、どうしましょう、お姉様、お姉様っ!」 がくがくと揺らされる糾華の表情も僅か硬い。初詣は成功している。成功し過ぎている程に。 けれどその分のプレッシャーが少女2人に圧し掛かっていた。 練習はした。大丈夫の筈だ。そうは思っても、緊張で体躯が強張る。 「……大丈夫」 それでも、糾華はそっとリンシードを抱きしめる。大丈夫と、自分にも言い聞かせる様に。 「私達ならやれるわ……ね?」 唇が触れそうな程間近で交わる視線。揺れていた灰色の瞳が閉じ、改めて開かれる。 「……はい、いけます」 「ええ、一番良い舞で皆を魅せましょう!」 手を取る。手を引く。2人の巫女が輝ける舞台へと。 仕事の合間に繰り返したその練習の成果が如何であったかなど、問うは無粋だろう。 快の祈祷と共に奏でられた舞と静寂が、歓声と笑顔に変わるのは、もう少し後のこと。 「2人とも、お綺麗です……」 ――舞台袖、見守っていたエフィカがほっと息を溢す。 無事成功を収めそうな初詣に思いがけず気が抜けたか。 同じく舞台を見学していたツァインへと視線が巡ったのは偶然か、必然か。 「あ」 視線を辿ってみれば向けられているのは自分の衣装。 そもそもが彼が自分に着せた物だと思い出し、それに纏わる諸々も思い出し、 流石のエフィカも思わず自分の体躯を隠しそうになったのは、もう日頃の行いと言う物だろう。 「や、えーとその……」 だからこそ、ツァインにしては妙に歯切れの悪いその言葉の意図も分からぬままに。 「何度見ても良く似合ってる……可愛いから自信持ってくれ、保証する……!」 そんな言葉を耳にして、思いも掛けず、面映く、どうにも照れてしまったとしても。 「きょ、今日は普通に着けてますからねっ!」 それはきっと、その衣装の所為だろうと結論付けられてしまうのは、 これも恐らく、日頃の行いの所為であるに違いなかった。 ――かくして。 祭は終わり、静寂の戻った境内。兵共が夢の跡。 リベリスタ達は非日常の衣装のままに、賑やかさを取り戻した神社の本堂へと手を合わせる。 波乱に満ちた日々、暗雲立ち込める未来。けれどそれでもこれからの、良き一年を寿いで。 今年も良い事があります様に。良き闘いと巡り合えます様に。 少しは笑顔が出来ます様に。この良縁がどうかいつまでも続きますように。 何気なくも掛け替えの無い私たちの日常がずっとずっと、続きますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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