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「奥さん、今日はいい鯨が入ってるよ」


 ――王よ世界を遍く慈悲と愛と希望で満たす王よあなたの卑しい下僕への大慈大悲に感謝と我が信仰の全てを捧げこの身の全てを投げ出すことを改めて進言つかまつる光栄をお許し下さいああ私は幸せですおかげさまでレポートの進行もめざましく今度の培養具合はサンプルの品質均一化も一定以上の評価を頂いて自分がどうしてあんな部位に固執していたのかと撲殺してしまいたくなるけれどこの命の最後の一片までも私が害していいものではないああ遍く世界の全てに満ち充ちる我王の愛は遠く辺境に駐留する私の胸に常に赤々と萌えております駆動させる駆動させるどんどん駆動駆動肥大肥大もっともっと大きく動かしてサンハイ――。


 朝から晩まで。ボリュームが大きすぎるのだ。
 いくらまだ人が少ないからって、住宅地なのだ。それなりに考えて欲しい。
 朝から晩まで休みことなく「体操」と名のつく曲が定番、子供向けからマニア向けまでメドレーでずっと掛かり続けている。
 どういう趣味? 体操マニア?
 おかげで、こっちの頭の中は、常に八拍子。
 いちにさんしーごーろくしちはち。
 やってらんないから。
 全くうちでこんなにイライラしてるんだから、向こう三軒両隣はとっくに乗り込んでると思うんだけど。
 よく平気でいられるものだ。
 回覧板でもそういう注意なかったし。
 あれ、回覧板がこの間回ってきたのは、いつだっけ?
 ピンポンピンポンピンポンピンポン。
 ええい、今まで受けた騒音のお返し、ちっとは思い知れ。
「はい?」
 なんでこの寒いのに、夏用セーラー服なの、コスプレなの?
 あれ、ここんち、どういう家族構成だっけ。
 かけてんの、この子じゃなかったら意味ない。っていうか、この子けろっとしてるけど、この鼓膜にガンガン来る音、平気なの?
「うるさいんだけど! この音、止めてくれないかな!」
 な! と口を開けたところに、指を突っ込まれた。
 とたんに、両頬に灼熱感。
 にこおっと、とろけそうな笑顔を浮かべて指を動かす夏用セーラー服。
 口の中に灼熱感。
 首根っこを押さえつけられ、階段を昇っていく。
 うちと同じ建売住宅、おんなじ間取り。上に二部屋。
 引き戸を開けると。
 口からボンレスハムをはやしたご近所さんがずらりと並べられていた。
 時代劇のよく出てくる、穴を開けた板から手だけを出させられたのを付けられて、みんな必死の形相で、手の親指を回している。
 なんで、てのひらに鶏もも肉付けてるの?
 ボンレスハムが動いている。
 ハム?
 あれは、なに?
 叫びたかった。喉から空気が漏れた。
 首の後ろが熱い。
 鼻がつままれた。鼻で息ができなくなった。
 息が口で出来ない、肉が膨れて息ができない。
 動かさないと窒息して死ぬ。
 この部屋、なんでこんな煙臭いの。
 部屋の隅。
 中華鍋の中に、木がくべられてる。
 いぶい。
 燻製臭。
 膨れ上がった肉。
 舌。
 耳をつんざく音楽。
 イチニーサンシー、ゴーロクシチハチ。
 止めないで。
 酸素が足りない。
 空気が薄い。
 止められたら、その音に合わせて無理やり動かさなきゃ、息が止まって。
 舌が乾く。燻されてる。
 スモークハム。ベーコン。
 妙な連想。
 イチニーサンシー、ゴーロクシチハチ。
 もうぼうっとする。息が苦しい。
 耳をつんざく大音量。
 
 死ぬ。


「――失踪事件。警察は知らない。誰も通報してない。できない。住宅街の一区画、全部。根こそぎ」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情。
 が、底に嫌悪感が滲んでいるのが見て取れる。珍しく。
「昨年、この住宅地に現れたアザーバイド『ランカク少女』」
 モニターに映し出される夏用セーラー服にツインテール。
 バカみたいに突き抜けた笑顔と無表情の二つしかない顔。
 昨年の冬。
 若い女性の内臓――卵巣の未成熟な部分を全て成熟させようとしていた。
 何人かが犠牲になり、事前に察知したところで囮を用いてこれを殲滅したはず。
 戦闘映像が映し出されるモニター。
 ランカク女学生の中身。
 赤い寒天の上に肌色の寒天。
 その中に浮かぶ葡萄状の複数の人間の臓器。
 なまじ人と見分けがつかないばっかりに、異質さだけが前に押し出されてくる。
 気持ち悪い。
「エチケット袋」
 机の上にイヴの心尽くしが出される。
「同じ個体かどうかは意味がない。とにかく、コイツがまた万華鏡に引っかかった。ならば、殲滅」
 何度でも。何度でもだ。
「今回は、舌。と、拇指球」
 舌はわかりました。拇指球ってどこ。
「手の親指の付け根のぷっくりした所」
 なんでまた、そんなところ――。
 イヴが黙る。 
「なお、万一のことがあるので、今回は四人動けなくなったら必ず即時撤退」
 何をされるか、わからない。
「既に、犠牲者は出ている。喫煙者。口腔に疾患を持つ者、塗装業者。計6名。生存者は、アザーバイドにより肉体改造されている。既に、精神も破壊されている。マインドリーディングした先遣隊が軒並みやられて、現在カウンセリングを受けている――みんな、エチケット袋持った? 画面、切り替えるよ」
 生存者の映像。
 口からボンレスハム。
 両の手の親指の下がチキンレッグのように肥大している。
 なんでまたそんなところの答えがわかりそうになって、押し黙る。
 喉元までこみ上げてくる、にがすっぱいもの。
「体内にアザーバイドの因子が確認されている。今後、拡散性増殖現象の起きる兆候が確認された」
 アザーバイドの痕跡は、全て絶たなくてはならない。
「生存者、総勢8世帯14人」
 搾り出される、イヴの声。
「覚悟を決めて行って。あらゆる意味で。今回は、七緒を、同行させる」
 モニターに映し出される、『スキン・コレクター』曽田 七緒(nBNE000201)。
 クリミナルスタア。
 汚れ仕事に慣れている。
「――辛かったら、彼女に頼むといい」
 と、イヴは言った。
「七緒は、ちゃんとわかってるから」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月10日(木)23:08
 田奈です。
 お正月、yakigoteSTからのお年玉ですよ。海洋生物。
 田奈、鯨。
 ベーコンつながり。

 アザーバイド「ランカク女学生」
 *攻撃力、防御力に非常に優れています。
  回避、命中力はほどほど。
  DAに優れています。
 *ツインテールで夏用セーラー服を着ています。
 *戦闘スキルを使いません。攻撃は、近接・遠距離単体攻撃です。
 *色々するなら、面倒なことを終わらせてからゆっくりと思っているので、皆さんは心配しなくていいですよ。
 
 ノーフェイス・生存者×14人
 *底辺世界の住人として、取り返しがつかないくらい壊れています
 *拘束されています。抵抗できません。
 *ファンブルしない限り、攻撃はクリーンヒット以上の効果です。

 曽田七緒
 *皆さんから指示がない限り、独自の判断で行動します。
  彼女は、汚れ仕事に躊躇しません。
  浮世の義理は果たさなくてはなりませんから。

 場所・発展途上の建売分譲住宅街の建売住宅・皆寝静まっている深夜
 *二階に生存者。一階にランカク女学生。
 *呼び鈴を押せば、普通に出てきて、襲いかかってきます。そして、二階に連れて行こうとします。

 撤退条件
 *メイン参加者四人戦闘不能で、即時撤退です。
参加NPC
曽田 七緒 (nBNE000201)
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
プロアデプト
ヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)


 偉大なる王への礼拝を今日も今日とて間断なく続けられる幸福を噛み締め引き続きレポートの順調な進捗具合からお褒めの言葉をいた抱くに至ったこの喜びをいかなる言葉を用いればいいのかと卑賎な下僕はなけなしの脳を振り絞りこの辺境に生息する素材は運動した部分が需要に一致し一定の旋律と拍子を与えると非常に自発的に運動することに着眼しさらには周辺の素材が次から次へと飼育場に自発的にやってくるああなんて理想的な出荷体制ああまた今日も素材到来の音がするああ今日も王の御恵みに感謝し日々の勤めに邁進する所存です聖なるかな聖なるかな聖なるかな――。


 新興住宅地だ。
 真新しい分余所余所しく、閑散とした印象がある。
 いや、この辺りから人の気配がしないのは、仕方のない。
 深夜だし、住人が自分の家にいない。
「相手が何を持って収穫をなしているが知らんが、これは捨て置けん。速やかに殲滅するしかあるまい。それが汚れ仕事も含まれていてもだ」
 ヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)は、事態の早期収拾を目指している。
 アスファルトに響く靴音の高さがそれを物語っていた。
 それに、どんどん大きくなる常識離れした大きさの明るいメロディが、絶妙にマッチしている。
「さ、最近、動く死体とか猟奇事件とか、エグい事件が多いよね」
『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)は、たはは……と、あらぬ方向に行こうとするヒルデガルドの進路を修正しつつ、力ない笑い声を漏らす。
(お家、帰りたぃ……ってまだ帰っちゃダメだ。アザーバイドを倒して、拘束されている生存者を"何とか"しないと)
 ぶわぁっと視界が歪むが、激しい瞬きでごまかす。
 まだ泣いていい局面じゃない。
『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は、取り寄せた名簿に目を通している。
 この区画の住人名簿。そして、アザーバイド「ランカク女学生」が行った「品種改良」の概要。
 資料を閉じた糾華の所見。 
(理解不能)
 人形めいた頬に動揺の色はない。
(似た姿、似た思考、似た社会を持っていながら全くの『別』)
 戦闘映像の中のランカク女学生の目に感情はない。
(知っている。理解っている。ラ・ル・カーナに於いても、稀人たる私達は彼らとは全てを解り合えなかったでしょう?)
それ故、目の前の人の姿をした『何か』を殺さなければいけない。と、糾華は決断する。
(私達を家畜未満にしか見えないのであれば、私達の牙で拒絶しなければいけない。私達は私達の殺意を持ってこのおぞましさに抗しなければいけない)
 その存在を許容できない。世界が。だから。
「確実に殺す。私に必要な物は義憤でも何でもなく、明確な殺意」
 糾華の隣で、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は、その手元から目をそらす。
 暗くてよかった。見えなくてもそのせいにできる。
 昨年も、ちょうど今頃だった。
(また出現したのですね……もう2度と見たくないと思っていましたが)
 どろりと溶けた目。虚無のような口腔。
 切り口から除く赤い寒天白い寒天。
 叫び出したくなる衝動をあれほど抑えつけなくてはならなかったことはない。
 湧き上がってくる圧倒的な違和感。
「何度来ても到底受け入れられるモノではありません……速やかに排除します」
「ランカク女学生。セーラー服」
『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)の喉仏が動いた。 
 いかに可愛ければ男の娘でもぺろる竜一といえども、流石にあれは躊躇する。
(グロい事するアザバなんだ! 敵だ! いくらツインテールだからって、俺は騙されないぞ! でも、みんな真面目だろうから、俺一人こう、あそんでも……)
「うっわぁ、生唾飲んだよ、こいつ。結城の趣味の広さにだけは、感心するわぁ」
『スキン・コレクター』曽田 七緒(nBNE000201)は、あぁ、やだやだと声を上げる。
「いやいや!」
 そんなことはないよ。そういう生唾ではないよ。慌てて弁明。
「それに、遊んでられるような話じゃない。犠牲者が出てるんだしな」
 皆の目線がちょっぴり冷たい。
(いくら可愛いセーラーな女学生でも、許しはしない。言葉通じないんじゃセクハラしようもないし)
「誘い込むのは自称イケメンの竜一だったな? 期待してるぜ、頑張ってくれイケメン」
 押し殺した笑い混じりに、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)は、竜一を前に押し出す。
「ところでさあ、あたしピーラーで来てよかったのぉ? フィンガーバレットも使えるのにぃ」
 七緒が、ぽろっと今頃言う。
 何とも言えない白い空気。
「前の方でランカクが逃げないよう、ご自身も落ちないようお願いします」
『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が、場の収拾に七緒に指示を出す。
「命を大事に体はれって事ぉ? 了解~」 
 響き渡る大音量の。
 イチニーサンシー、ゴーロクシチハチ。  


(がんばるぜ、男の子だもの)
 背後では、智夫が仮初の翼を全員の背に召喚している。
 仲間がみな宙に舞い上がった。
 死角。二階の屋根の高さまで。いつでも地面に舞い降りて攻撃できるように。
 窓を揺らす大音量。
 生存者がいる部屋にはカーテンが引かれて、中の様子は伺えない。
 ピンポンピンポンピンポンピンポン――。
 背後に全力移動したい気持ちを抑えて、竜一はドアチャイムを連打する。
 中で何かが動く気配を感じたところで、背後の待機ポイントまで地面を全力で蹴る。
(女学生は機敏なようだし、即座に逃げるべき!)
 ドアが開く音がする。
(どうせ追いつかれて背中とかバッサリやられそうだけど!)
 考えてはいけない。可能性を招き寄せる。
 盆の窪に灼熱皮が爆ぜる濡れてる寒気嘔吐剥けていくたち割れていく嫌な振動びちゃびちゃ地面に落ちて生臭い匂いなんで自分の体を流れる大事なものなのに体の外に出るとこんなに疎ましいのか体の中にあるべきものが外にあるから嫌な感じがするのかと――。
(気にしない! 囮だもの!) 
 だから、竜一は不敵に笑う。
「かかったな、アホめが!」 
 ランカク女学生が、竜一の背中の皮をぶらんとぶら下げていても、両の手に刀と剣を構えるのだ。
 体の芯が定まらない様子の、ランカク女学生は、不自然に揺れている。
 薄く切った羊羹を無理やり立たせているよう。
 ふるふるふるふる。
「あなたを倒します。この世界のために」
(多くを語る必要はないと思います。わかり合おうとも理解しようとも思いません)
『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)の紺色の長い髪が、地に降りた瞬間、翼のように広がった。
(今は、ただ、この世を崩界から守るために戦います)
 巨大な白い長剣が、佳恋の戦気の全てを受け止め、ランカク女学生に生死を問う。
「貴方が痛みを感じてくれることを祈ります。何の解決にもなりませんが、それでも犠牲者の無念が少しぐらいは晴れるかもしれませんから」
 見た目を裏切る強靭な鋼の体から繰り出される重たい一撃を受け止め、ランカク女学生が崩れる。
 骨格も筋肉のない顔が自分を見ながらでろりと崩れる様に、嫌悪感が佳恋の喉元にこみ上げる。
「私達をどの様な目で見ているかなんて、おぞましくて興味はないわ」
 糾華が飛び出す。
 指の先から放たれる蝶が、縦横無尽にランカク女学生に襲いかかる。
 無数の蝶の口吻で、ランカク女学生の白い肌に無数の穴が穿たれる。
 人間にしか見えない。
 なのに、どうして、刺されたところは寒天にしか見えないのだろう。
 部分部分は明らかに偽物なのに、総体が本物にしか見えないのだ。
 矛盾する視覚情報がリベリスタの違和感を増長させる。
「――両の手に教義を、この胸に信仰を。天には栄光が、地には平和がありますよう――」
 信仰ある者は、幸いである。
「教義に従い、人と世界に害を成す神秘を滅ぼす為……そして、ノーフェイスの方を主の御許へお送りする為、此方に参りました。世界の為に成すべき事を、粛々と――」
 彼らが、迷いを感じることはない。
 既に信仰の道に入ると「選択」したのだから。 
(信じるは尊き教え。銃に込めるは祈りの弾丸。世界に害成す者への呪いとなりて、目前の敵を滅ぼさん。この身こそが、邪悪を滅する神の魔弾)
 聖なるかな聖なるかな聖なるかな。
 眼球直撃飛び散る寒天ぽかりと開いた虚骨もない肉もない流れ落ちてきもしない固い寒天。 
 撃たれた衝撃で、上半身がのけぞったままだ。
 地面に落ちた寒天のかけらが、虚空に飲まれる。
 気色悪さに震えそうになる舌を律して、智夫は上位存在に福音を請願する。
 すでに竜一が負傷している。
(強力な通常攻撃を持っている上に2回行動し易いから……)
 竜一に追いすがられたら、落とされる。
 それでなくとも、竜一は傷などお構いなしで、自分の肉体制御を外してしまったのだから。
 智夫に蓄積された戦闘経験が、怖気づく気持ちに喝を入れつつ最適行動を続けようとする。
 空から重力に逆らわず落ちてくる少女。
 水色と白いドレスのリンシード。
 ランカク女学生の間合いに無造作に入り込み、気をそらさせる実体は幻。
 死角から飛び込んでくる幻こそが実体。
 ああ、この感触は知っている。
 この斬り応えを、剣から伝わってくる不快感と違和感を知っている。

「「「「――だから、殺す」」」」
 リベリスタから吹き上がる、純粋な意志。
 殺意。
 

 感謝致します感謝致します滅多に現れない野性種がこんなにたくさん拿捕してよく運動させ燻蒸して薫蒸して加工して佳肴として謹んで王の御前に奉納させて戴きます聖なるかな生産凄惨聖餐素晴らしきかな素晴らしきかな辺境にまで遍く届く王の美心の奥深きを身の奥より感じ精進いたします精進いたします精進いたします――

 信仰ある者は幸いである。彼らに迷いが生じることはない。


 高められた戦闘計算能力、集中することで研ぎ澄まされる命中精度と行動所作。
 この場所しかないと死角から打ち込まれた気糸に、ランカク女学生の顔がぐるりとヒルデガルドに向けられる。
 撃ち込まれた気糸をたどって、片目を見開き、パカリと爆ぜそうなほど口角を吊り上げたランカク女学生が走り込んでくる。
 今はヒルデガルドだけが攻撃対象だ。
 振り上げられる腕。
 全力防御――攻撃直後に出来る訳がない。
 ヒルデガルドの一挙動のあいだに二度三度動くランカク女学生。
 喉から悲鳴がもれなかったのは、持ち前の自制心の強さと高く保たれた矜持からだ。
 何度も叩きつけられるごく普通に振り回された拳。
 銀の髪、白い軍服に赤い縞。
 ランカク女学生の指先に、髪の毛のついた肉片
 視界の隅が白くなるのを、ヒルデガルドは恩寵を代償に無理やり引き戻す。
 もたらされる福音がこれほど心強く思えるのも、珍しかった。
「俺の言葉は理解できるか? まぁ、どっちでもいいが言わせて貰う」
 隆明の拳は一直線。
「ボトムに来るべきじゃなかったな、てめぇの終わりはココだぜ。死ねよやあああああ!」
 鼻っ柱を叩き折る、蒼い残像さえ残すド正拳。
 不愉快な笑顔を浮かべるばかりだった顔面を形成していた白い寒天が裏返り、代わりに盛り上がる赤い寒天。
 つき込んだ腕が抜けない。
 長い長い地面につきそうなツインテール。
 隆明に突き刺さり、突き抜け、絡みつき、締め上げる。
 ぎりぎりぎりぎりぎりぎり。 
 隆明の口元を覆うマスクと頬の隙間、赤い筋が伝って、耳に溜まって、地面に落ちる。
 響き渡る福音。それでも、ランカク女学生の膂力が勝る。
 竜一が、刃を突き立て力任せに引きちぎる。
 黒い髪の毛の中まで赤い寒天なのだ。
 手の中でもぞもぞとうねるそれを、できるだけ遠くに放り投げる。
 とにかく気色悪い。
 残った髪束を引きむしるようにして、隆明が間合いを取る。
 ランカク女学生の顔の真ん中に、虚。
 のぞき込んではいけない。と、底辺世界の生物としての生存本能が叫ぶ。
「隆明さん!」
 中空から、智夫が真下を見下ろす。
 癒しの天使――男だが。
「おう。まだ大丈夫だぜ」 
 マスクをずらし、口の中にあふれる血反吐を地面に吐き出す。
 世界は、諦めの悪い者を愛している。
「こいつをぶち殺すまで終るつもりはねぇんだ」 


 ツインテールからベリーショート。
 体中穴だらけ、両腕は上腕から切り飛ばされ、顔はなくなり、足だってヒルデガルドが集中攻撃しているから、ソックスの先はグシャグシャに潰れて、足首だけで立っている。
 なのに、ランカク女子高生は倒れない。
 竜一は、剣と刀を叩きつける。ぎりぎりとめり込んでいく刃。
「逃がしはしねえよ、此処で殺す。うちの世界の住人を、文字通り、食い物にさせるわけにはいかないからね」
 ばごりと肩から腹をたち割り、足に抜け、膝を切り飛ばしても、まだ動いている。
 銃弾が、拳が、刃が叩き込まれる。
 赤い寒天が、動きを止めるまで。
「おぞましい……」
 リンシードがうめいた。
「貴方は、私の日常には、いてはいけないモノ」
 振り上げられる、更なる刃。
 誰も止められなかった。
 リンシードが、何度も何度も何度も何度も、動かなくなったランカク女学生を切り刻むのを。
 白と水色の可愛いドレスに跳ね返る寒天が、その表面で虚空に溶けていくのも構わずに。
 去年も完膚なきまでにゲートを破壊してやったのに。
 あの時手に残った気持ち悪さが気持ち悪さが気持ち悪さが。
 もう、来ないで。ここで、死んで。 
 止められなかった。
 遠くに投げられたツインテールの残りも虚空に消えるまで。
 完膚なきまでに、リンシードは、魔力剣をふるい続けた。 


「あんた達ィ、無理しなくてもいいのよぉ? あたしは、これのために来たようなもんなんだからぁ」
 若干すね気味の七緒が玄関ドアに手をかけて、後に続くリベリスタを振り向く。
「生存者の処分までが今回の仕事だ」
 隆明は、無理はしてねえ。と、ドアを蹴り破る。
「やりたくねぇ奴はやらなくていいんだぜ? 代わりにやってやるからよ」
「この現実から逃げたら、多分後でもっと後悔しますから……」
 佳恋が敷居をまたぐ。
「この程度の事、覚悟の上で来ているのだ。躊躇いなど微塵もない」
 ヒルデガルドはそう言って家の中に入り、うっかり台所に行きかける。 
「いつまでも聞いていると頭がおかしくなりそうです……」
 リンシードが二階に駆け上がり、古今東西の体操を流すプレイヤーを粉々に叩き割った。
 糾華が、締め切られていた窓とカーテンを開け放つ。
 煌々と点けられた白熱灯。
 舌と親指の付け根を動かすのをやめない、老若男女十四名。
 押入れの紙を茶色くべこべこにしている何かの汁。
 その匂いを曖昧にしている強烈な燻蒸臭。
 かろうじて一酸化炭素中毒を免れている、精神を破壊され、異界の因子を植えつけられた「生存者」達。
「日常から逸脱したものは、消えていただくしか、ありません……そうですよね……?」
 リンシードは気づいているだろうか。
 そうではないけど、そうしろと言われる場合もあることを。
 自分が、間違っていることは「したくない」と思っていることを。
 もう、人形では、言われたことをしていればいい子供では、いられなくなっていることを。
 糾華は、リンシードの手を柔らかく握った。
 資料の写真とその場にいる「生存者」を照らし合わせて、その名を呼ぶ。
 握られた手。振りほどくのは簡単なことだった。
 自由はリンシードに委ねられていた。
 糾華が名前が読み上げられる度、リリは復唱した。
「――、どうぞ、苦痛の遠のきますように」
 全員の名前の照合が終わる。
 リンシードも、糾華も刃を手にする。
「貴方達の事は忘れない。だから、さようなら」
 糾華は、決めている。悲しくても、泣かない。
「内薙智夫です」
 智夫はそう言って、生存者を見回す。
 誰もそれに反応を示さない。そんな暇があったら、舌を動かして息を吸う。
「僕もこんな死に方をしたら相手を恨むと思うから……、恨むなら僕を恨んで下さい」
「名前も分からなきゃ、恨みようがねえな。俺は、藤倉隆明だ。これも仕事だ、存分に怨めよ……じゃあな」
 隆明は、銃口を蠢くこめかみに押し当て、引き金を引く。
 竜一も、ヒルデガルドも、佳恋も。
 自らの得物で、一撃のうちに、痛みを感じる間もないほどに、黙々と仕事をして回る。
(絶対謝らないよ。セイギノミカタって、絶対に間違った事をしちゃいけないんだからね)
 智夫の持つ神秘に起因する技では命を奪うことはできないから、智夫自ら手を血に染めるより、生存者を眠らせることはできない。
「もういいよ、リリ」
 七緒が言う。ピーラーは血に濡れている。
 リリの銃口に蒼い炎の気配。
 いと高き方よ、永久の輝きとともに永遠の休息を。
 全身全霊を以て、焼き尽くされる歪められた魂と肉体。
(私は神の使徒であり人殺し。この罪と、貴方達の無念はずっと一緒に。持って参ります。全てを救えるその日まで)
 神秘の蒼炎は、「犠牲者」と「生存者」だけを燃やす。
 全てが終わった後、わずかに残る燻製臭。
 それも、すぐに風がさらうだろう。
 だけど耳に、いつまでも残っている。

 イチニーサンシー、ゴーロクシチハチ。
 大音量。体操。八拍子の号令。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 また、空からリベリスタが降ってきたよ、ママン。
 心優しいリベリスタに酷な仕事になりそうだったので、七緒を同行させましたが。
 
 生存者の無念を受け止めてくれてありがとう。恨まれてくれてありがとう。
 ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。