● フリーマーケット。 ガラクタ市や蚤の市等の別名を持つその催しは、己が不要となった物を持ち寄り売り捌く露店の集まるイベントを言う。 商品が不要になった中古品と言えば聞こえは悪いが、その品や質は千差万別。フリーマーケットに情熱を賭ける御仁等は、自分にとって必要な品まで露店に並べてしまったりして後で後悔する怪しい魅力のある催しだ。 特に掘り出し物の中には、古美術等が含まれる事が多く、それと知らずに所有していた有名画家の絵画が売りに出されて発見された事もあるらしい。 そんな魅力的な催しであるフリーマーケットではあるが、この世界には見た目は普通の品と変らないが、怪しい力を秘める品が多く潜んでいる。 故に……。 「今回はフリーマーケットの調査に行って貰うわ」 集まったリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は告げる。 でもそれだけじゃよく判らないのでもう少し詳しい説明を。 「ええ、以前捕獲したフィクサードが、使用したアーティファクトをあるフリーマーケットで購入したと言っていたのだけど」 俄かには信じがたかったその発言だが、様々な手段で検査をした結果、特に嘘は無いと判断されたのだ。 そしてその定期的に開催されるフリーマーケットの開催日がもう直ぐ其処まで迫っているらしい。 「もし万一アーティファクトを見つけたら回収して提出して欲しい。なかったら好きに遊んで来てくれたら良いと思う」 じゃ、頑張ってと小さく手を振るイヴに見送られ、リベリスタ達はブリーフィングルームを、 「あ、お土産は断らないから。大丈夫」 ……後にする。 今回のフリーマーケット: 巨大な公園を貸し切って行われる大規模な物。フリマで良く見る古着や生活用品の露店から、コスプレ衣装の露店や、骨董品を並べる露店に、時計専門の露店まで様々な露店が雑多にひしめき合っています。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月21日(火)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)の細い指が、すっと会場内の見取り図をなぞり、 (ここから、ここまでが衣類を取り扱うコーナーです) 仲間達にターゲットであるアーティファクト『変化の布』が眠っている確率の高そうな地域を指し示す。 イヴの話によれば会場には他にも幾つかのアーティファクトが眠る可能性はあるのだが、門倉が狙う可能性が一番高いのがその『変化の布』になるそうだ。 それぞれに会場内へと散っていくリベリスタ達。 がやがやと人で賑わうフリーマーケットの会場内を、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、はぐれない様にと恋人である『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の手を確り繋いで歩く。 頭をキラリと光らせた僧侶と、繋いだ手に『くわわ……』と照れた様な、少し面白く可愛らしいリアクションを取る少女……、え、何この子ほんとに可愛いな。彼氏もげろ。……の、異色のカップルは異常に人目を引いていた。 女連れの坊様と言うだけでも珍しいのに、彼女の幸せ一杯と言わんばかり空気と反応が微笑ましく、並ぶ店舗からは引きっ切りなしに二人に呼び声が掛かっている。曰く、 「兄ちゃん彼女さんにこの服なんてどうだい?」「お嬢ちゃん、優しそうな彼氏さんで良かったねぇ」「うお、まぶしっ」 等々。 そんな周囲の人達からの好意的な呼び掛けに、アーティファクト探索自体は遅々として進まないが、それでも二人は怪しげな布を見つけてはサイレントメモリー等を用いて丁寧に調べていく。 一方、『合法』御厨・九兵衛(BNE001153)は探索自体は仲間達に任せ、自分の出番はフィクサードが出て来てからと言わんばかりに、 「蚤の市だ~☆」 フリーマーケットを満喫していた。見た目だけなら10歳程度にしか見えない九兵衛は、パーカーを羽織り、猫耳と尻尾を丸出しにしてふりふりとマーケット内を練り歩く。 可愛らしい少年姿の彼に対しても、矢張り店舗からの声掛かりは多く、そして若い女性に弱い九兵衛はその手のお姉さんに声を掛けられると大喜びで色々と買ってしまう為、彼のパーカーのポケットは既に両方ともが大きく膨らんでいる。 けれどある店舗の前を通った時、不意に九兵衛の纏う雰囲気が激変した。無邪気で可愛らしい少年から、獲物を見つけたハンターの目になった九兵衛の視線のその先には、……知る人ぞ知るレアなグラビア雑誌『月間湯の花美人・創刊号』。 と言うか何が『合法』なのか。このショタ爺。 ● 時は終戦直後、『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)は知人にあるアーティファクトの回収を頼まれた事がある。 そのアーティファクトの名は『天女の羽衣』。羽衣伝説と言えば聞いた事がある人も多いだろう日本各地に伝わる伝説で、羽衣によって天から降りてきた天女の物語である。 そして『天女の羽衣』はその話に出てくる羽衣に非常に良く似た力を持つアーティファクトだ。曰く、纏えば天を舞う事が出来る。曰く、纏えば自在に姿を消す事が出来る。 けれどこの羽衣にはもう一つあまり知られぬ力があり、ある条件を満たすとその力が発動してしまう。 そして桜姫はその知られぬ力に非常に苦い思いをした。その力とは、物語に出てくる天女の様に、人に近しい体積の生き物が全裸の上に羽衣を纏えば、天女と謳われたある絶世の美少女(恐らくはこの羽衣を纏って羽衣と共に革醒した人物)の姿に変化すると言ったものだ。 桜姫がかつてこのアーティファクトを発見した時、ある大型犬がこの羽衣を付けて走り回っていた。 彼女の記憶に深く刻まれたトラウマ。……四つん這いで走り回る美少女。 フリーマーケットの片隅で、その後のどさくさで見失った羽衣と偶然の再会を果した桜姫は、後世にまで恥ずかしい姿を残す羽目となってしまった美少女の為にも、一刻も早いこのアーティファクトの処分を誓う。 紆余曲折ありながらも、少しずつフリーマーケット会場の探索を進めていくリベリスタ達。 まず最初に目的のアーティファクトに最接近を果たしたのは、『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)だった。 ついこの間引越しをした彼女はまだ揃っていない生活用品等を物色しつつ、のんびりと会場内を歩く。そんな彼女の視界に、原色気味の色鮮やかな、実用性を無視した衣装達の並ぶ……簡単に言うとコスプレ衣装を販売する店舗が飛び込んで来たのだ。 興味津々で眺めるレイラインに露店の主が衝立を指差し、試着もOKと笑いかける。 かつての、革醒を果たす以前の彼女なら、そんな言葉を掛けられれば逆に怖気づいてしまって逃げ出していただろう。 けれど、今は違う。彼女はあの日に、若さを取り戻したその時に誓ったのだ。 「今のわらわなら、出来ぬ事なぞ何も無いハズじゃ!」 もう怖気づかない。勇気を出して自分のやりたい事を精一杯にやり、そして全てを掴むのだと。 回想が終わり、自分にGoサインを出したレイラインはウキウキと並べられたコスチュームを手に取り見比べ始める。 フリフリのフリルが付いたメイド服に似た何かに、際どく露出度の高いレオタードの様な衣装、しかし様々な衣装の中に一つ、一見何の変哲もない一枚の布が混じっている事にレイラインは気付く。 そしてその布の外見は、彼女が聞かされていた『変化の布』その物だった。 ● きょろきょろと物珍しそうに会場内を歩いているのは、『クレセントムーン』蜜花 天火(BNE002058)だ。 かつては闇の世界に生きていたおり、こんなに穏やかなイベントに自分が参加する事など想像も出来なかった彼女。 出来る事なら他の仲間達とのグループで動く事で彼女達の行動を参考としたかったのだが、勝手気ままな仲間達は既に会場内へ散り散りになっており、独りでの行動を余儀無くされている。 「しかし、人がいっぱいなのです」 ちみっこい彼女に会場の全貌は見渡せないが、それでも視界には常に人の壁があり、そしてその壁の途切れる事がない。大きいおっぱいも小さいおっぱいも沢山だ。 これだけ一杯人が居り、そしてコレだけの商品が並んでいるならきっと色んな面白い物もある筈だ。 例えば脱脂粉乳がアーティファクト化して風に乗り、吸い込んだ人は脱脂肪、つまりは巨乳好きを卒業してし、貧乳の良さに気付くアーティファクトなんてどうだろう? などと、貧乳が脳にまで回った妄想をする彼女の胸には成長と言う名の未来は遠い。 哀しい妄想に区切りを付け、改めて会場内の見取り図を思い出す天火。彼女の目当てはコスプレ衣装を販売する露店だ。折角の機会なのだから、同じ任務に就く事になった仲間達と御揃い魔女っ娘コスプレをして写真撮影とかも楽しそう。 しかし、そんな期待を胸にコスプレ衣装を取り扱う露店へと辿り着いた天火を待ち受けていたのは、変化の布を格安で販売するのと引き換えに、露出の多いコスプレ姿で売り子をする事になったレイラインだった。しかも写真をお願いされると妙に嬉しそうにポーズまで取ると言うノリノリの。 不意の遭遇に暫し呆然と見詰め合う天火とレイライン。 「にゃぎゃっ……!? み、見るな! こっち見るなぁー!!」 そして響き渡るレイラインの悲痛な叫び声。 レイラインが天火に必死の言い訳を行う中、何事かと集まった野次馬達の壁の向こう側で、コスプレ露店の主に対して交渉を行う一人のサングラスの男が居た。 「ああ、これだ。そうそう、売ってくれ。あの客寄せの為の取り置きの品だと? 心配するな。こちらは多めに金を出す。それでバイト料でもくれてやればその方があの売り子も喜ぶだろうさ」 店主を上手く言いくるめ、さっさと付けられた値段以上の紙幣を押し付ける事で有無を言わせずに取引を成立させたのはフィクサード・門倉十季だ。 電光石火の交渉でまんまとレイラインや天火の目を盗んで『変化の布』を入手した門倉は、さっと踵を返してその場を立ち去ろうとする……だが、門倉の試練はここから始まった。 不意に横合いから伸びた手が今正に懐に仕舞われ様としていた『変化の布』を掴み、ぐいぐいと引き寄せる。 「あ、あひる……! これ、これ……欲しいのに……!!」 その変化の布を掴んだ手の持ち主は、何故か薄っすら目に涙を溜めて門倉を睨むあひるだった。 何故この少女は自分を睨むのか、と言うより何故泣いているのか。拙い、目立ってしまう。様々な疑問と思考が交差し、軽い混乱状態に陥る門倉。 「いやいや、お嬢ちゃん。ごめんね。これはもうオジサンが買ったんだよ。お願いだからこの手を離してくれないかな?」 それでも必死に言葉を捜し、自分をオジサン扱いしてまで、まだ何も悪い事はしてないのにあひるに対して謝る門倉。 けれど、 「ちょっとあなた……! あひるが先に見つけたんだから、離しなさいよね……!!」 泣き落としは通じぬと見てバーゲンセールのおばちゃんモードに移行したあひるの前には、門倉の必死の説得も何ら意味を成さない。 本当ならば門倉はあひるを突き飛ばして逃げる事も出来たのだが、暴力を嫌う彼の性格と、バーゲンセールのおばちゃんモードであっても何処か小動物的の様な印象を受けるあひる愛らしさが其れを許さなかった。 更にあひると変化の布の引っ張り合いをしながら何とかその場を離れようとする門倉の背に、 「諦めろ! 一刻も早く諦めろ! お願いだから諦めろ!」 なにやら必死の形相でショタっ子プレイすらもどこかに置き忘れた九兵衛がしがみ付く。 ちなみに九兵衛の必死さの理由は、先程年齢を理由に売って貰えなかったグラビア雑誌が他の誰かに買われてしまわないかが心配で仕方がないからだ。 そして九兵衛以外にも次々と集まり来るリベリスタ達。彼等がこうも素早く動けたのには理由があり、それは沙希がハイテレパスによって受け取ったあひるからの門倉発見の報を、同じくハイテレパスで仲間達へと素早く届けたからだ。 超直観を用いる事で、出来る限り多くの仲間を視認出来る位置を保ち続けた中継役としての沙希の活躍により、門倉が事態の異常さに気付いた時には既に包囲は完了していた。 門倉の瞳が迷いで揺れる。空に向けて、あるいは地面に向けて彼の所持する攻撃技を放てば、恐らく人々は驚き、場は混乱状態になるだろう。それに乗じてアーティファクトを奪って逃げるのが彼が『変化の布』を手に入れるたった一つの方法だ。 けれど彼の信奉する力は、暴力ではなく金。その金を得る為の手段を暴力に頼ると言うのは彼の信条に反する行為だ。其れが故の迷い。 その門倉の迷いに答えを出させたのは、今回の任務に参加したリベリスタの最後の一人、何か凄い眉毛をした『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348)だった。 ディアストーカー型のアーティファクト『迷探偵の鹿射帽』を被り、露店で売っていたパイプを咥えた……まるで小説に出て来る名探偵そのままの姿となった守夜が門倉をビシリと指差し、大声で告げる。 「犯人は、お前だ!」 ……え、今更? 門倉と、そして守夜以外のリベリスタ達の想いが重なる。けれど、守夜のその身を張った馬鹿馬鹿しさが門倉に『変化の布』を掴む手を離させた。 仮に、リベリスタ達が愚直に力ずくで門倉を制圧、アーティファクトの回収をしようとしていたならば、門倉は周囲を巻き込んででも、信条に反してでも大暴れしただろう。 だがリベリスタ達は出来うる限り力づくでのアプローチを避け、自分達なりの方法で門倉からアーティファクトを守ろうとした。その行動が、門倉に素直に負けを認めさせたのだ。 ぱっと『変化の布』から手を離され、思わずよろめいたあひるを素早くフツが支える。その時には、既に門倉は踵を返して人ごみに紛れて逃げ出していた。 勿論追いかければ捕まえることは可能だっただろう。けれどその時には、流石の門倉も全力で抵抗しただろうし、それによって一般人に被害が出たり騒ぎが起きるかも知れない。その想いが、リベリスタ達に門倉の後を追わせなかった。 そして何より、門倉が然程危険度の高い相手でない事が実感できたのもある。 ● 任務が終わり、自由にフリーマーケットを楽しみだすリベリスタ達。 レイラインと天火は結局コスプレを満喫していたし、あひるは優しい彼氏、フツとのデートに幸せそうだ。そしてあひるの指にはフツが購入した、あひるの瞳と同じ色の小さなサファイアの石が嵌った指輪が光る。 そしてそんな仲間達の様子に心を和ませていた沙希は、ふと傍らの露店に古びた銀のペーパーナイフを見つける。 くすんだ銀の精一杯光を放つ様が、まるで自分に呼びかけている気がして、沙希の唇に自然と微笑が浮かぶ。 ちなみに、九兵衛が必死になっていたレアなグラビア雑誌『月間湯の花美人・創刊号』は、事件を片付けた九兵衛が仲間達の隙を見計らって戻った頃には既に他の人間……サングラスをかけた男の手に渡ってしまっていたそうだ。 フィクサード門倉の、ほんのささやかなリベリスタへの仕返し。 |
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