● 「買い物よ!」 堂々と宣言した『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)は何時も通りドヤ顔で、唐突で、そしていまいち要領を得なかった。 「新装開店なのだわ! 電車で15分! 車で30分! ショッピングモール!」 ――誰か通訳連れて来い。 いつも以上に興奮して支離滅裂な梅子をなだめすかし、落ち着かせてから詳しく聞いた所、どうやら三高平から電車で少し行った所に新しいショッピングモールができたらしく――。 「グランドオープンで、つまり今日! 開いたのよ!」 わかったわかった。 「オープンセールとか、催し物もやってるみたいなのだわ! 皆で買い物に行くってのは、どう?」 なるほど、分かって見れば簡単な話で。 ここの所続くフィクサード達との戦いの気晴らしとしても、この提案は決して悪く無い事のように思えた。 「クリスマスも近いし、プレゼントを選びに行くのも良いと思うのだわ。 どうしても良いのを思いつかない時も、実際にお店を回ってたら、ピンと来るモノもあるかも、だし?」 そう言う梅子の目が泳いでいる。 話を聞いていたリベリスタには何となく、彼女のこの提案の、理由が分かった気がした。 「い、言っておくけど? 私は別にただ買い物に行くだけなのだわ? ププレゼントとか別に悩んでないし、アドバイスとかいらないし、1人でも、ちゃーんと! 姉として! 桃子が感動してお姉ちゃん大好きとか思わず昔みたいな素直な事言っちゃうくらいのプレゼントを――」 もう良い……休め! もう良いから! 相変わらず、この自称大天才は周囲の誰からも一目瞭然な妹からの(少し屈折した)愛情に自分1人だけ気付いていないようだ。妹の方も、本人の前でさえなければむしろ結構気軽に姉さんハァハァとか可愛い声で(CDドラマ参照)言っていたりするのだが――閑話休題。 「そのショッピングモールってやっぱり時村の関連だよね?」 だったら幻視なしでいいよね、と続けたリベリスタに、梅子はきょとんとして首を傾げた。 「え? 全然関係ない所だけど」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年01月04日(金)22:06 |
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● 二十年以上前の映画だが――逆を返せば、ようやく高校生であるイヴはまだ生まれていない。 「けど、だいたいの話は知ってる。断片的にだけど、映画を見てる人を『見た』こともあるし」 少し戸惑った口調でそう言うイヴが見たのは、おそらく万華鏡越しのもの。この2年、彼女の姿はほぼ毎日ブリーフィングルームで見かけることができたし、それ以前なら時間があったかというとそうでもない。――ゆっくりと腰を据えて鑑賞したことはないのだろう。 そういえば娘をこうして連れて出たのはいつ以来だったかと、智親は顎に手を当てて唸った。 「ふむ。……まあ、別に気合を入れてみるような映画でもないしなァ……。いいじゃねぇかたまには」 ぽふり、とイヴの髪を叩く。父としての振る舞い方は得意とはいえないが、出来ないわけでは―― 「やめて、リボンがずれる」 しまった反抗期か。 その後ろの席で鬼蔭 虎鐵は、気付かれない様に耳を欹てている。 (分かる! 分かるでござるよ智親! 娘のツンな反応はとても悲しいものでござる!) 泥棒が頭の上に付いた火に悲鳴を上げているスクリーンそっちのけでイヴと智親を観察しているのだ。それも大柄な身体を縮こまらせて、こっそりと。 (別にやましい事はないでござる。 偶には他の親子をみるのも勉強になりそうだって思っただけでござるからな) もしかしたら義理の愛娘と仲良くする為の秘策があるかもしれない。そう思ってつけてきたのだ。 ――何ともアグレッシブなパパだった。 「って良く見ればそのリボン、この間買ったやつか。気にいってるならプレゼントした甲斐があるってもんだ」 「別に。今日着けてきたのは偶然」 (……世界は残酷でござる……) 一人ぼっちで尾行なんてしてる自分を鑑みて、虎鐵は思わず目をそらし、真白親子の隣の女性が目に付いた。静かにマナーを守って見ている様に少し感心してしまったからだ。 智親とは逆隣のイヴの隣に座っていたのは、遠野 御龍。 「……」 チケット売り場の前でイヴ達と偶然会った時は寧ろテンションが高かったし、『何度見ても飽きない。名作ってぇのはそういうもんだよぉ』と言っていたのだが、バケツサイズのポップコーンとコーラを抱え、時々口に入れたりストローで吸ったりする以外はほぼ集中して映画を楽しんで――いや、よく見ればやっぱりイヴの方を時折チラ見していた。 (と言うか、拙者も普通に一緒に観ると言えば良かったのでは?) 今更気付いても手遅れである。 ● 「年末の物資補給ー! 倉庫の底までかっさらえー!」 「わーい! ケーキを買うぞー。 なんたって、クリスマスと誕生日はケーキが食べられる日なのだからな!」 おー! とばかりに気合を入れる麗葉・ノアと石川 ブリリアントの二人を眺めて、出田 与作がへらリと笑う。肩をすくめて、レイ・マクガイアはブリリアントの頭にもこもこニットの帽子をかぶせた。 「歳末は色々と物入りだからね。皆でのんびり買い物と行こうか」 「ブリリアント、貴方も帽子を被りなさい。緑の髪は目立ちます」 「帽子? めんどくさいー。ってかぶせるな、かぶせるなーむごごー」 「時には普通の姿で出掛けるのも必要です。そう、人間である事を忘れない為」 もがもが言うブリリアントの、ぐしゃぐしゃになった髪を直してやりながら、レイはそう呟く。 「――いつもの三高平ではありませぬし、何事も程々に」 「あっ! 見ろ、レイ! アイスだ! アイス売ってるぞ! わはーい♪」 レイの言葉にうなずき、わずかに複雑な面持ちを浮かべたノアの心境を知ってか知らずか。ブリリアントはテンション高く疾走し。 「ブリリアント! 後でケーキを買ってあげますから走り回ら――、ああ……」 レイの声も一足遅く、しぱたーん! とすっ転んでしまった。 「うぐぐ……! だが私は泣かない……! 今日はケーキが待っていrふがが、やめろーやめろよー」 小走りに駆け寄ったレイが、鼻紙でブリリアントの洟を拭いてやる。はいブリリアント、はな、ちーん。 「たまには主張させて頂きたいのですが、本官も年頃のおなごでありますからなー……。 ……ふ。中学生から延々同じサイズのコーナーを探すこの身の寒さよ」 一方で、ノアはその騒ぎに気付かずいつのまにかじいっと店舗の案内図に見入っている。 「まあまあレイ君。元気なのは良い事じゃないか。ははは、元気だなあ」 「はあ……出田さんも笑ってないで手伝って下さい。 ノアさんはこういう時に限ってマイペースですし……」 「おとーさんおかーさんも大変だねえ、がんばれよ」 溜息を付いたレイに、通りすがった誰かがそんな声をかける。 思わず周囲を見回し――自分たちについて言われたのだと理解して。 レイと与作は顔を見合わせた。 「傍からは私達は家族のように見えるのでしょうか。父親と、母親と、子供。 ……私はそのような年齢ではありません。まだ相手も居ないのに」 帽子と幻視の下に隠れて、レイの、生体金属の髪がもぞもぞと動く。 「俺は丁度お爺ちゃんで割と適任だと思うけど……」 実年齢のことを呟く与作だが――25(ブリリアント実年齢)の孫がいる55はなかなかレアかと。 「家族の様に、か。そうだと嬉しいねえ。ずっと、家族も同然に一緒だし……。 ――焦らなくたって、きっと良い出会いが見付かるさ。 報いって、意外とマメに来るもんだよ。レイ君はちゃんと頑張ってるんだから、ね?」 リアジュウボクメツ、とか呟きかけたレイを与作がなだめる。 一方、ノアはまだ何か唸ってた。 「ええい、ミニスカ路線から外してパンツで攻めるかこんちくしょい」 「クリスマスのモールに即参上! なンつって。 今日はカップル狩りとかじゃなく表の仕事をしにきたンだ」 人の目につかないよう、駐車場から覗きこんだオークの姿は、なんといつもどおりである。 「幻視に期待してたのに? ブヒヒヒヒッ、残念だったな!」 メタな笑いを浮かべた悪豚Pことオークは特設ステージへと目を向ける。 ――そこには、3人の女たちがいた。 「知名度の無い駆け出しアイドルといえば、ドサ回り! アークと直接関係の無い所でアピールして、新規顧客を開拓だぜ!」 サンタシャツ+水着+黒ストッキング。どこにアピールしたいのか難しい服装(本人いわく、恐怖全部盛り)の白石 明奈。 「ファンを増やす為に最大の努力をするべし。ってプロデューサーが言ってた」 ノースリーブワンピース+ミニスカサンタコス+白ニーハイソックスの氷室・竜胆(本人いわく、「それが例え氷点下近くでという衣装でライブをする事であっても仕事はやる」) ああ、このふたりは、いい。まだアイドルだって言われたら納得する。寒そうだけど頑張れ。 問題は。 素肌にサンタワイシャツ+ホッケーマスク+何か赤いのが滴ってるような気がしなくもないバールのようなもの。――番町・J・ゑる夢だった。 ちっちゃい子泣くぞ。 「IWD……すなわち、アイス・ホワイト・ドリーマーズ! 即席グループだけど、それぞれの名前を覚えて帰ってね!」 マイクを握って、明奈が力強く声を張り上げる。 「箱舟芸能プロダクション所属、アイドル候補生ゑる夢ですよー。 さあみんな一緒に、メリーメリーブラッディクリスマース!」 「ポシティブ系らぶりーアイドル、ドラマティックアイス竜胆。いぇーい」 「ワタシは明朗快活元気全開、溢れるドラマティックホワイトこと白石明奈ちゃんだぜ! いえーい!」 バールのようなものを振り上げるゑる夢に、ネガティブかつダウナーな雰囲気を漂わせる竜胆。そして壇上でギリギリ見えないセクシーさをアッピール! な明奈。 『衣装はこンくらい過激な方がいいンだ。ちちしりふとももアピールアピール!』 「――ダンスは面倒。せくしー枠の二人に任せる」 インカムから聞こえるオークの声に、竜胆はふるふると首を振り、流れだしたクリスマス・ソングを歌うことに集中する。 『ダンス&シング! クリスマスソングだって歌っちゃうぜ! メリークリスマース! 皆幸せになっちゃえ!』 アンプ越しに響く明奈の声を耳にして、臼間井 美月が物陰から顔をのぞかせる。 「白石部員がアイドルショーをすると聞いて! ……部長として……と言うかその……と……と……と、友達として……!」 自分で口にしたその言葉をしっかりと噛み締め、もう一度、「友達、として……!」と繰り返す美月。 「晴れ舞台は是非見るべきだよね! ……けど、恥ずかしがりそうでね。 だから! 気付かれないように変装してきたよ!」 サングラスにとっくりセーター、ズボン。キャスケット帽とダッフルコート。 どこからどう見ても怪しい服装の美月はしかし、それを完璧な変装と信じて疑わない。 「うちの式神なんて、この格好の僕が僕だって分からずに丸っきり馬鹿を見る目で見てきたもの! ……分からなかったんだよね? ね?」 傍らの式神は――何も応えずステージを見つめた。別名他人のふり。 「……あれは――え、部長!?」 「……? おいおい、どうした明奈ちゃン、振り付け間違ってンぞ?」 ● 「おおおおお! お店が!! いっぱい!!!」 テンション最大ボルテージな梅子が鼻息荒く店内を見回した。 ――『新しい』。その一言にはなんと魔力が詰まっていることだろう。 NEWなのである。NEW。 おろしたてのシャツを着るときのあの無意識下の高揚。毎日開けてるはずの温泉の、それでも営業時間に一番乗りした時の静かな興奮。 そこに女性対象効果大呪文『セール』なんてものまで相乗効果されたらもう、大変なのだ。 「これだけ広いと、何処に何があるんだか……」 取方・多汰理は少し考えた末、梅子の買い物を後ろから見て回ることにした。自分の冬服も見たいが――そのうち梅子が立ち寄るだろうから、そのついでに見ればいいだろう。 「よう梅子ーメリクリー! プレゼント選んでるのかー?」 「プラm「ハイハイぷらむぷらむ」 クリスマスパーティーの準備だろうか。様々なパーティーグッズを大量に抱え込み、ツァイン・ウォーレスはテンプレートと化している会話をこなす。 「って、別にプレゼントなんて探してないのだわ!」 ぷーい、とそっぽを向いた梅子に、しかしツァインも気にしない――というか慣れている。 「そうだなぁ、ペア物とか喜ぶんじゃね?全く同じ物じゃなくてもいいし。 例えばー、桃子に梅のクッション贈って、梅子が桃のクッション持っておくとか?」 「だから、探してないってば!」 むすっと膨れてみせながらも、一瞬梅子の目が泳ぎ――右手がせわしなく携帯をいじり始める。もし携帯を覗き込めば、メモをとっているのがわかっただろう。『くっしゃん』と。目を逸らしているせいで、打ち間違えているのだが。 その梅子を見つけて、嬉々として駆け寄って来た青年がいる。カルナス・レインフォードだ。 「プラムちゃん買う物に悩んでいるんだって? それならウニ黒行こうぜウニ黒!」 「ウニ黒? そっか、今の時期なら熱技シリーズがあるのだわ」 「うんうん、姉妹なんだから改まってお洒落なプレゼントをするより実用性のあるプレゼントをした方が喜ばれるってぜったい!」 「だーかーらー!」 否定をわめきちらしつつ、メモを取る手は休めない梅子である。 神葬 陸駆はうろたえない。 「ご祖母堂にクリスマスプレゼントだ。コペルニクス的な逆転の発想が出来る僕は天才過ぎる」 こっそり貯めたおこづかい。予算、にせんえん。 「――梅子・エインズワース。貴様も買い物か。 よし、貴様も大天才だったな、同じく天才である者同士交流するのもいいだろう。 貴様、女子は何が喜ぶ」 「何がよろこぶ、って、そりゃあ……カワイイもの、とか?」 そりゃ自分の趣味だろ、と突っ込まれそうなことをしれっと言う梅子に、陸駆は情報を追加する。 「いや、御年はそれなりの淑女に似合うものを教授願いたい」 「それなりのとし――? ああ、おばあちゃんに、ね? それはなかなか素敵なのだわ。それこそ熱技とかどう?」 「贈り物は気持ちが大事とは言え、相手が喜び、有用な物を……と言うのが理想的だ。 いっそのこと、消え物でも良い様な気はするな」 うむうむ、とやたら頷いたベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァがその会話に割って入る。 「しこたまドーナツ買って、いつもよりちょっと手間を懸けて美味い茶を淹れて、2人っきりの静かな午後そのものがプレゼントなのだわ! ……とか、どうだろう」 「それは――」 ドヤァァァン、と胸を張ったベルカに、陸駆は「梅子へのアドバイスでは?」と言いかけ――ふむ、と呟いて伊達めがねをかけ直した。誰へのプレゼントであっても、大切なことは変わらないものだ。 「確かに、桃子・エインズワースは貴様からのものならなんでも喜ぶだろう。 強いて言うなら揃いで使えるものがいいかもしれない。貴様ら二人共嬉しくなるのではないか?」 「今はお互い忙しい身だ。ゆっくりと語り合う時間を、作れていないのでは無いだろうか。 今も昔も変わらぬ絆だからこそ、大事にせねばなるまい。二度と会えなくなってからでは、遅いのだ。これは私の実体験だがな。……まあ、同志桃子の愛情は不滅だと思うが……」 「だから! 桃子へのプレゼント!? 探してないのだわ!!」 頷き合うベルカと陸駆。もろばれしているお姉ちゃんは、それでも意地でも認めない。 シルバーアクセサリーのショーケースを前にして、鴉魔・終が見蕩れている。 「このチェーン……1つ1つのパーツがクロスになってて超かっこいいんですけど……。 むーん、かっこいいだけあってお値段も一級品……」 終の趣味の一つはシルバーアクセ製作。格好良いデザインは、見るだけよりも手にしてみたい。 「う~……あ、梅子ちゃんやっほー☆」 「あら、終。何見てるの?」 通りかかった梅子も、興味津々の顔でショーケースを覗きこむ。 「オレ的には双子ちゃんだし、ペアアクセとかお勧めだよ~☆」 「なるほど、これ組み合わせになってるのだわ……って、 あたし別にプレゼントとかっ!」 「参考までに☆ じゃあね☆」 ひとしきり頷いてから思い出したように怒りだした梅子を軽くいなし。 終はケツイの表情でクロスチェーンと財布を握りしめた。 「そしてオレは、誘惑に負けてくる……」 だって。格好良かったんだもん。 「もう、終まで! ……あ、ごめんなs――」 前を見ずに歩いていた梅子がぶつかったのは、カラフルなインコ(きぐるみ)。 絶句した梅子を、つぶらなプラスチックの瞳が見下ろす。 「やぁプラムさん、お探し物は見つかったかい?」 「……その声は」 きぐるみの中から聞こえた声は、短期アルバイト中のカイ・ル・リース(超幻視仕様)のもの。 (インコがインコ着てる……!) どこから突っ込めばいいのか混乱している梅子に、カイは黒っぽい鳥のぬいぐるみを手にする。 「これなんてどうです? ハシビロコウのぬいぐるみ、1点ものですよ」 でかいくちばし。殺意が篭ったかのような目。置物のように動かないその姿、そしてアホ毛。 ていうかこれぬいぐるみですよね。本物じゃないですよね。 ● びたーん、びたーん。 ちょっと妙な音が響いているのを、きょろきょろと見回し――音源がわからない、と不思議そうな顔を浮かべて立ち去る人だかり。 びたん。びたーん。 音を発てているのは、司馬 鷲祐――の、尻尾(幻視なう)であった。 「どうせ見えんのだろう」 「隠れてないって」 「ぐなっ!?」 どや顔をした鷲祐の尻尾を、結城 竜一が後ろからぐにっと掴んだ。幻視で隠した尻尾は普通の人々の目には見えなくとも、革醒者からは丸見えである。 「その手を離せ! ……このモールには高級ブランド店エルメェェィスがある。嫁にいいものを用意したくてな」 ワンピースとバングルを選び、現金払い(無職・専業リベリスタ)する鷲祐。 あえてここで余分な言葉を入れよう、鷲祐くん。 ――ツリーハウス再建おめでとう(コーポ参照)、そして漆黒のステーションワゴン(廃車)。 「俺も可愛い嫁へのプレゼントだ! ……ブランド品とかわかんねえよ」 「あの子だからな、なかなか難しい気もするが……。 お前のセンスで選んでやれ。盲目白痴の何かがいるんだろう!? そうしたら、きっとあの子も喜ぶ」 竜一も何を買うかと思案し、手近なアクセサリーショップを覗きこみ――何やら納得したように頷いた。 「俺はせっかくだからこの、写真を入れれるロケットを買うぜ!」(←高い声で) 「いいセンスだ」(←低い声で) 「そこに俺の写真を入れて、常に一緒! くくくっ、俺の中の原初の混沌が囁くんだよゥ……悪い虫は近づけないようにってなァ! シバも嫁さん大事にな!」 「いいからそろそろ尻尾を離せ!」 「男物のマフラーとニット帽と手袋3点セットでお勧めお願いします。シックな色合いで派手ではないの。サイズは高校生男子程度。ああでも手は多少大きいですかね鍛えてますし。で、暖かいのを。これ着けてりゃ風邪引くとかありえんって位暖かいのを。後、肌触りが良くて丈夫で長く使えて手入れが簡単で毛玉が出来なくて洗濯機で洗える奴で……」 ザ・嫌な客状態の犬束・うさぎが店をせわしなくうろつきまわっては店員をとっ捕まえてそんなことを聞きまわっているのが時折目に入る中、沙織はふむ、と少し唸る。 「ここでこの集客なら――」 「何の偵察なのです? なのです? あたしも一緒に偵察するのです」 沙織の横で、そう言って(`・ω・´)な様子の悠木 そあらの頭に、沙織が今買ったばかりの、深めで、つばの広い帽子をぽん、とかぶせた。 「頑張るそあらにプレゼント。今日は結構寒いからね」 「――あ!」 帽子の下で、そあらの柔らかくもふもふした耳がはねあがる。 「沙織の事だからはんば冷やかしでしょうけど――こんな風に沙織と出歩くのは初めてかしら?」 宵咲 氷璃は、幾らかの感傷を禁じ得ない。 三高平でも、時村系列でもなく普段なら絶対に避ける人込みの中。 (何も知らない一般人に囲まれるなんて私には、縁のない"普通の生活"――) 「でも、何処からか視線を感じるのは何故かしら?」 A・日傘。 「沙織、もう少し空いているお店が良いわ」 人目を疎んじたか、氷璃は沙織の手を引いて近くにあった雑貨店に滑り込んだ。 「あ、このアクセサリー可愛いのです。このお店はショーウィンドウのデザインも凝ってますねぇ」 予想外に『あたり』の雰囲気に、見回すそあらの検分する声も楽しそうにはずんでいる。 「――翼が生えてるけれど猫よね?」 見回した氷璃の目に留まったソレは、笑う黒猫のキーホルダー。 「なに、そいつが欲しい? どれどれ……『むがいなねこたん』?」 「欲しかった訳では無いけれど――」 そう言いつつもキーホルダーから目を逸らさない氷璃に、沙織が唇の端を片方上げた。 ● 「本屋のつもりが客と品物がすぐガチンコジャッジする戦場、それがヴィレッジセンドーシャ。 ――今日のSHOGOは店頭販促員。つまり、店先でダラダラ遊んで1時間あたり600円もらう仕事さ」 日本の最低時給を下方に突破して見せた靖邦・Z・翔護。レジに立つ彼の目の前には、伸暁が。 「さぁNOBU、イメージするんだ。……フフ、オレにはわかるぜ。キミの瞳の奥にくすぶる炎。 具体的に言うと「センドーシャ始めたいけどルールがわからない!」って意味合いのアレだよね? 今こそ11月17日発売の「おっぱじめようセット」3150円を手に入れる時!」 だん、とカウンターに置いたセットをしかし、NOBUは静かに横に退け――人差し指を立て、ちちち、と振ってみせた。 「このニューアライバルを――ボックスで。 デッキなら用意してあるぜ? さぁ、スタンダップ・即・センドーシャだ」 店員(SHOGO)が新たな勝負の予感にざわめいている間にも、来客はある。 「へえー、こんなトコにもヴィレセン入ったんだ」 「来たわねヴィレッジセンドーシャ。本屋と称して町中に潜むアヤシイお店……」 「クリスマスにグランドオープンか。よいタイミングなのかそうでないのかは自分には解りかねるが……色々とあるものだ」 おお、と声を上げた新田・DT・快と、エナーシア・ガトリング、そしてウラジミール・ヴォロシロフの3人が、いっそジャングルだと呼びたくなるあの独特な陳列の中に足を踏み入れた。 「俺、何度か入ったことあるけど、この店って絶対本売る気無いよね。変なもの屋だよね」 「店ごとに品ぞろえが全然違うから来てみないと何売ってるか分らないのだわ。 ……でもどの店にもあるのよね、麦コーラ」 妙にテンションの上がっている快に、エナーシアが頷く。 「一応、店ごとに推したい本があってそれに関連する物を集めてるみたいだけど――旬だからと言って蛙とか石仮面置かれても……此方が「何をするだァーッ!」なのだわ」 被れるサイズの石仮面を手にとって呟く、エナーシア。 「こっちは軍用グッズのレプリカ、こっちは……なんだこりゃ、日めくりならぬスカートめくり時計?」 くっだらねー! とゲラゲラ笑う快だが、その目線の前にトイカメラを見つけて馬鹿笑いをやめた。 「エナーシアさん、写真撮るの、好きだったよね。俺からのメリークリスマス、ってことで」 自分用の輸入スナックと一緒にレジ(担当は既に翔護ではなかった)に持っていこうとする快とエナーシアに、ふらりと戻ってきたウラジミールが飴玉型に包装された袋を渡した。 「メリークリスマスだ」 顎を撫で、幾らか満足そうにも見えるウラジミールの表情。 ● 「点心一個づつ単品フルセットで」 「メニュー全部ー」 ダンディドーナツにて、2つの声はほぼ同時。宮部乃宮 火車と小崎・岬のふたりが、え、という表情で自分ではない方の顔を見て――見知った顔に納得した。 「この店の点心は中華まん筆頭に結構好きなんだ」 何気なくそう言った火車に岬はふむふむと頷き、はふ、と溜息めいた呼吸をした。 「何か買い物に来たら馬鹿兄ィにフードコートに置いてきぼりにされた件についてー。 馬鹿兄ィはなんか食ってれば満足だとか思ってんだろなー」 「中学生ひとりで置き去りか」 「んー、でも服選ぶのとかメドイし、まあいっかなー。 馬鹿兄ィはこっちが大して持ってないと思ってんだろうけど、裏帳簿(※アーク給金)があるのだよー」 「梅のに付いて来たわけじゃないのか。――にしても梅はバカだなぁ、アーク連中なんだと思ってんだ。 先ず自分の羽全開してそうなヤツ筆頭だしよ」 何気ない世間話――カウンターの中は何か戦争めいた勢いだが。 「おーい、梅子!!!」 「お……噂をすればなんとやらってか?」 「おー梅子ちゃんだー」 呼び止めたのは、御厨・夏栖斗のようだった。 「梅子! 梅子! そこの三つ編みおさげの色黒梅子! おごってやっから」 「プラム! プラーム! プリティーでラブリーな小麦色! そういうのは彼女相手にしとくのだわ!」 恥ずかしがるだろう、と考えた夏栖斗の作戦だったが――恥ずかしさより怒りが優先したらしい。 「だって、うちの彼女甘いもの嫌いだから付き合ってくれないんだもん! けどなんか買いすぎちゃってさ、妹に土産でもいいんだけどせっかくだしね。 あ~手伝ってよ、食べるの」 遠目に白い悪魔の影を確認しつつ、夏栖斗は梅子にドーナツを押し付ける。 (へんな気はありませんよ~、あなたの妹に餌付けするだけですよ~) 小声で口にしておく。なんというか、気がついたら腕が腹をかばおうとするのだ。 「それなら、まあ――。……うん、美味しいのだわ!」 一瞬(だけ)躊躇して、ドーナツにかぶりついた梅子の表情が、嬉しそうにとろける。 「今日のボクは御大臣だぜー。一個好きなのあげるよー」 支払いを終えた岬がトレイいっぱいに載ったドーナツを運んできたが――やった、と言いかけた梅子がそこで突然、ぶんぶんと首を振った。 「って、いくらなんでも岬にもらうわけにいかないのだわ。 なんせほら。あたしのほうが、お姉さんだし?」 「えーいらないのー……」 と、言葉にしながら岬が、ゆっくり首を傾げて考えこみ始める。 「お姉さんだからって年上だったのー? 大体同じくらい度と思ってたよー。 むー二次性徴って誰にでも来るんじゃないんだねー……ボクにも来るか不安になってきたよー」 「い……! 今でもちょっとは育ってるのだわ!?」 両手で胸を抑えながら、涙目で成長を訴える梅子。 そして――少し疑わしげに梅子を見返した岬は、ふと、違和感を覚えた。 「あれ? 梅子ちゃんドーナツはー?」 「お待たせしました、本日の品物はプラムの食べかけドーナツです」 烏頭森・ハガル・エーデルワイスは謎の影へと歩み寄り、献上すべく膝を着く。 背後から聞こえる、梅子の『ドーナツどこ~!?』の悲鳴も心地よい。 (梅子が泣いても気にするな! 多分、腹パンチくらうだろうなぁ、うふふふふぅ!) しょげた梅子を見かけたジェイド・I・キタムラが、フードコートへと歩み寄る。 「どうだ、良いプレゼントは見つかったか? ピンと来てないなら相談に乗るぜ」 「だからプレゼントなんて探してないのだわ。――けど、話なら聞かないこともないのだわ」 少しむくれた梅子の横の席を、ユウ・バスタードがラーメンとマクガフィンハンバーガーを載せたトレイを置いて確保する。 「支払いはまかせたー、むしゃむしゃー。とかは、別に考えてないのですよ。 梅子さんにアドバイスをする為にですね……あ、これもおいし」 「って目を離してたらユウ、お前! 食い過ぎるなって言われたろうが!」 はああ、とこめかみを抑えながら軽く頭を振り、ジェイドは話を元に戻す。 「恐らくアイツなら何でも「姉さんのくれた物! ウッヒヒヒィ」とか言って喜びそうじゃないか。 特別な趣味というのも余り聞かないしな。そこで、だ。お揃いの物はどうかね? 既に同案出てるかもしれねえがよ」 「クリスマスに強烈な思い出を残すか、毎日使う物で日々思い出して貰うか……どっちがいいのかと言えば、後者かも。だって、家族ですもんね」 「ウッヒヒィって何ウッヒヒィって。人の妹にひどい言い方するわね」 幾らか眉根を寄せつつ、「やっぱりお揃いとかか、なのかなあ……」と、梅子は呟いた。 「……お揃いかー。ジェイドさん、私達も買いましょうよー。お揃いのリングとか♪」 「そうそう揃いの……なんでだよ」 ● 「ミリィとコイビトして遊ぶのだわ!」 なんだか百合百合な発言をぶちかましてみせたミリー・ゴールドだが、その実彼女には「恋人」と「友人」の違いを知らない。まあ、女子同士で出かけることを「デート」と称する人は嗜好を問わず実際結構いるので、そんな注意するようなことでもないだろう――と、ミリィ・トムソンは諦めの境地。 「けど、こういうところって何買いに来るの? 買い物とかするって聞いたから来てみたものの特に買う予定も無かったのだわ」 「うぅん……お洋服に、本、CD…後は必要に応じてですね。 新しいショッピングモールって聞くと、買いたい物が無くてもつい足を運んでみたくなったりしませんか?」 ミリーにあっちこっち引っ張りまわされつつも、ミリィはCDショップに足を向けてミリーの手を引く。 「ミリーさんは気になるものとかありませんか……?」 「シーディー? シード? なら購買部でも売ってるわよ! ……もしかして特別性? 是非チェックしとかなきゃ! 丁度良い強敵とか売ってるかしら?」 「って、わわっ!? 危ないですから急に引っ張らないで下さいよー!?」 「あ、蝶のサクセサリー。クリスマスツリーにこれも飾りましょうか」 セラフィーナ・ハーシェルはクリスマスの飾り付けを前に、さっきからあれこれと目移りしている。どれもこれも買うという訳にはいかないのだ。何しろ黒蝶館をクリスマス風味に、いっぱい飾りたてるつもりなのだから――家主に似合うものでなければ。 「糾華さんっぽくて良いですよね」 笑いかけられた斬風 糾華も、セラフィーナを微笑ましい様子で見守っていた。 「楽しみね、セラフィーナ。 クリスマス用品は前にも買ったけれど、家が広く大きくなったからちょっと物足りないのよ。 ――良いと思う物は買っちゃいましょう。黒蝶館ですもの、蝶の飾りも外せないわね」 そう言いながら糾華が手にとったのは、雪の結晶が連なったオーナメント。 「小さめでいいからクリスマスツリーも用意しなきゃですね」 どこにどういう飾り付けをしようかと考えこむセラフィーナを見て、糾華も少し思案する。皆でパーティをするのであれば、さっき見かけた小さなツリーをいくつか買っておいてもいいかもしれない。 「――あ、サンタさんの帽子!」 衣装として使えるタイプの帽子を見つけ、セラフィーナはそれを手に取る。そして、ぽふっ、と糾華の頭に乗せてみた。 「えへへ。似合ってますよ、糾華サンタさん♪」 「……似合うんだったら、このまま帰ろうかしら?」 サンタ帽をかぶりなおしながら、糾華が微笑む。 「今年の私は貴女達のサンタクロースになれるかしら?」 リュミエール・ノルティア・ユーティライネンは、ショーウインドーを覗きこんで考える。 (ミーノ絶対何でも欲しそうな眼でみるだろう……でも一番欲しそうなのは多分分かる) だから、一番欲しそうな感じがした奴を買ってやろうと。そう思って見ていたのだが――人の多い店内で、小柄なテテロ ミーノをいつの間にか見失ってしまったのだ。 「アイツふらふらするカラナー……チャント見てないと。 外、足場は雪だしコケねーよな? 世話がやける。 ……さっきの店、ロングマフラーあったな。アレで二人くるまれば勝手に動き回らないダロウな」 プレゼントをそれに決めて、もう一度店内を見回す。 「自分が欲しいもんってあんま考えた事ネーナ。 シッカシ……ミーノの奴どんなの私に渡す気だ。想像つかねーなあ……」 「りゅみえーるとクリスマスプレゼントのこうかんこするよっ!」 一方のミーノは、「でもでもまずはうぃんどーしょっぴんっ!」と、店内を楽しそうに見て回っている。 「くりすますしーずんのしょっぴんぐもーるはきらきらでわくわくでどきどきだからすっごいたのしいの~」 リュミエールには、ダンディドーナツで休憩がてら合流しようとは、連絡を入れてある。 ホットミルクと、砂糖のいっぱいかかったドーナツを思い浮かべ、ミーノの足取りが軽くなる。 彼女の手には、サンタブーツにつめこまれたお菓子のセット――プレゼントに買った物。 ミーノ自身が欲しいと思ったものだから、きっとリュミエールも喜んでくれるだろう。 「めりーくりすまーす!」 焔 優希がアンティーク雑貨の店に足を踏み入れる。彼の足取りは、常よりもゆっくりとしていて――彼の傍らを、逸れないようにと付いて歩いている三輪 大和にあわせている。 「マネークリップだったか?」 「はい。さて、何処でしょうか?」 優希の問いに肯定を返し、大和は店内をキョロキョロと探し歩く。目的の物は幸いすぐに見つかったが、今度は種類が豊富で、選ぶ贅沢ができてしまった。 「質実剛健も捨てがたいですけれど、華やかな物も……うむむ。 ねぇ、優希さん。優希さんはシンプルな物と細工の細かな物なら、どちらが好みです?」 「そうだな、シンプルな物は破損が少ないが、味気なさ過ぎてもつまらない。 シルバーベースでワンポイントの工芸技術の生きた……これはどうだろうか?」 優希の示したのは、霜の降りたようなざら目の長方形型の銀板に雪中花の掘り込みがあり、シトリンが埋め込まれているもの。 「後は贈る相手によって、厚みや重さを考えると良いだろうかな?」 その後も大和はいろいろと見比べたりをしていたが――最終的に選んだのは、先に優希の示したもの。支払い、包装されている間、優希は様々な商品が並べられた店内を見回していた。 包装された箱を差し出されて優希が緊張に目を白黒させるのは、もう数十秒後の話。 「いつもお世話になっているお礼です。受け取って……もらえますか?」 ● まだ考え込んだ様子の梅子が、ショッピングモールから出てきた。 徐々に帰りだす人も増える頃だろうか――電車が混みだす時間よりは早く帰りたいと思う。 「プレゼント、結局、決められなかったのだわ……」 お揃いのものも、悪くない。悪くないのだが――何か、他にもないかと探してみたかった。もちろん、これといった素晴らしい何かが見つかるなんて、梅子自身思っていない。何せずっと一緒にいる双子の姉妹なのだから――こういった行事は毎年あるぶん、どうしてもマンネリになってくるだけだ。 はあ、と溜息を吐いた梅子の視界に、ちょいちょいと合図してくる手が見えた。火車だ。 「梅。何やら悩みがあるそうだな? 良い事教えてやる。良いか? ちょっと耳貸せ」 「な、何よ? あたし別に悩んでなんかないのだわ」 梅子のつよがりには耳も貸さず、火車は梅子に耳打ちする。 「クリスマスに限らず梅から桃にだけ許された、必殺プレゼントを教えてやる。 一緒に選びに来て回ると最高に良い」 キョトンとした梅子が、怪訝な顔で聞き返そうとし、 「遊b――「おっと内容は口にすんな」 即座に遮られる。 「バレたら何一つ面白くねぇんだ。……ククク桃め、内緒話聞こえずヤキモキするだろう」 はっはっは、とやたら楽しそうに笑って帰路につく火車を、梅子は不思議そうな表情で眺めていた。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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