●倫敦の穴蔵は深く かつて全ての栄光を欲しいままにした日の沈まぬ帝国にも暗闇はあった。 多くの英雄がそこに居た。魔都は古くから多くの神秘を内在し、英雄は此の世為らざる事件を歴史の片隅に葬ってきたが、逆を言えば『彼等を英雄たらしめるだけの何か』が常にそこにあったのは事実である。 時代にさえ忘れされられながら消える事無き命脈を保ち続けてきた恐怖達は時に姿を隠し、時にその大いなる脅威を白日の下に表しながら――日の沈まぬ帝国の日の当たらぬ地下世界に赫々と存在感を示し続けてきたのだ。 何時の頃から『それ』の存在が語り始められたかは定かでは無い。 果たして『それ』が何者なのかを正しく把握している者も居ない。 ――『彼』は世界で最も有名な名探偵を『終わらせる』為に産み落とされ。 その宿願を果たす事無きままにライヘンバッハの滝壺に転落した。 誰もが知っていて、誰もが知っているが故に空想上の存在たる『彼』は本来、フィクション上の産物であり――『何処にも存在しない筈の人物だったが、現実にそこに存在している』。まさにこれは奇妙であった。 ジェームズ・モリアーティという男がそこに在るならば、果たしてセバスチャン・モランが実在している事に何の疑問を抱く理由があるだろうか? 「大佐、始まったようですな」 冷たい月を頭上に抱く――冬の夜。 騒乱に満ちた三ツ池公園の様相を温く眺めるモラン大佐に声を掛けたのは一人の男だった。 「予定通りだ。プランに差し障る何かがあるかね、ポーロック」 「特には。概ね現況は『モリアーティ・プラン』に沿っていますからね。 何せ、これだけ大きな騒ぎだ。多少のイレギュラーは已むを得ますまい。 大佐はいい場所を決めたものですな。この展望広場からならば、辺りの状況が良く分かる」 「あちこちに潜む鼠の姿もハッキリとな」 鷹揚に頷いたモラン大佐は迫力のある壮年の顔立ちを邪悪な笑みに染めていた。後退した額、痩せて尖った鼻、星のように輝く瞳。元ベンガロア第一工兵隊所属――『その肩書きは此の世の何処の記録を紐解いたとしても確認する事は出来ないが』彼が敬称の通り、高位な軍籍にあった事を物腰と雰囲気からは疑うものは居ないだろうか。 「しかし、なかなかどうして。ミス六道も頑張りなさる」 三ツ池公園に充満する危険な気配の持ち主は――大半が紫杏派のフィクサード達である。今夜の『主役』たる六道紫杏とその手下達はこの場所を我が物にせんと持ち得る限りの戦力を注いでいる筈だ。『教授の命令』を受けてこの場所にやって来たモラン大佐以下――『倫敦の蜘蛛の巣』の面々は数からすれば精々が『ディナーの添え物』に過ぎまい。尤も僅かな嘲りを口元に浮かべるポーロックは『質がそうである』と言ってはいないのだが。 何れにせよケイオス・“コンダクター”・カントーリオの『楽団』による三ツ池公園襲撃事件は六道紫杏の気持ちに火をつけるという意味では彼等にとって重畳だった。人間は怒った時、往々にして正しい判断力を失いがちになるものである。元々自信過剰な気のある歳若い天才の方向性を定めるのが他ならぬ『教授』に難しい仕事であるとは言えないが、事が順調に運ばれたのはそんな『外的要因』による部分も小さくは無い。紫杏はこの三ツ池公園を攻め落とす心算で居る。自身の研究成果である『キマイラ』を使い、その『キマイラ』をより至高の高みに近付ける為に。 「それで鼠……『楽団』連中は?」 「身の程を知っているだろうよ。死体漁り共も。 ケイオス卿の指揮に背くようであれば、その時に考えればいい」 戦場となった公園に存在する『第四の勢力』――死体を求めて暗躍する『楽団』もモラン大佐の中では大きな脅威の対象では無い。 「さて、どうなりますかね」 「全て『教授』の計算通りだろう。後は我々が『モリアーティの法則』を現実のものに変えるだけだ。彼がそうと計算しただけの働きをこの場に示すだけだ。難しい仕事では無い。『他の連中がどうしようと、どうなろうと我々の仕事は我々の仕事をすれば良い』のだから」 ポーロックの言葉に答えたモラン大佐は愛用の銃の調子を確かめるように撃鉄を上げた。 「いい音だ」 「フォン・ヘルダーの仕事は万全だ。俺も、滾ってきたぞ」 慎重に慎重を期して動く『倫敦の蜘蛛の巣』である。そのNO.2に当たるモラン大佐が陣頭指揮に動く事等滅多に無い。この作戦はそれだけの意味を持ち、それだけの価値を持っていた。 獰猛な獣は自身を充足させるだけの戦いをこの夜に求めていた。 慌しい気配が連続音となって駆け上がってくる。 展望広場に現われるリベリスタの顔、顔、顔に『ニィ』と笑い。 「――遅かったな。待ちくたびれたぞ!」 『倫敦で二番目に危険な男』が動き出す―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月30日(日)23:57 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●No.2 「また会ったナ、モラン大佐」 『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)の一言に目の前の男は――セバスチャン・モラン大佐はその厚い唇を僅かに歪めた。 「このイケメンインコ顔、忘れたとは言わさないのダ!」 「忘れたなんて言わないとも」 当人としては大真面目だが――何処か愛嬌のあるカイの台詞にモラン大佐は『見事なまでの日本語』で低く響く答えを返す。 「この俺は『狩る』獲物の姿を忘れない。見誤らない。それが虎であろうと、鳥であろうと」 「『原作通り』ならその通りじゃろうな」 淡々と呟いた『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)の表情には然したる驚きも無い。 成る程、セバスチャン・モラン大佐は『ホームズによれば』射撃の名手であると共に猛獣狩りの名人でもある……とされている。 「願わくば狩られるのはそちらにして貰いたいものだがのぅ!」 但しどうあれ――生臭い欲望を隠さず、荒れた公園の空気を非日常に侵すモラン大佐が只者であろう筈も無く、吹き付ける風は口にした冷たい予感に等しく、慈悲の無き夜にこれ程相応しいものは少なかろうと誰にも思えた。 「例えいかに強力な敵であろうとも怖気づく訳にはいかないのでござる」 しかし、リベリスタの恐れが大きいかと言えば否である。白い息と共に言葉を漏らした『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)はその先に浮かんだ言葉を口にする事を辞め、代わりに内心だけで独りごちるように呟くのだった。 (――不本意に『現役時代』を思い出すような風情でござるな……) 虎鐵は今まさに向かい合う男が抱く空気がかつて自分が嗅ぎ慣れたものである事を実感していた。 当然、力の大小の差はある。危険の深さは同じではない。さりとてそれは同じように臭うのだ。 「三ツ池公園は無法地帯と化したのじゃ。この鉄火場で命以外賭けるものなし。 この生存闘争に勝利せん! 何人たりとも勝利以外にこの盤場から降りる事は許さぬ!」 メアリの言う通り、否が応無く漂う鉄火場の香りは『そうある事を望まなかった』虎鐵に遠い日の自分を思い起こさせるものである。無論、愛しい娘の事を思うならばそれは――決別したい、しなければならない過去である。 「腕が鳴るのじゃ!」 「ここで負ける訳にはいかないのでござる。 ……カズトにまた馬鹿にされてしまうでござるしな」 威勢の良いメアリに応え、ある種の『懐かしさ』を袖にした虎鐵は僅かに頭を振って詮無い思考を自身の外へ追い出した。 「また時代がかった敵ね。この銃とどっちが古いのかな」 ポツリと漏らした『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は表情を歪め、吐き捨てるように呟いた。 「そんなに生きてて、あきもしないでよくニヤニヤできるよ。ムカつく、顔」 向かい合う敵と、敵。戦いに到る前の短い時間、互いに好機を計るような睨み合いはもう僅かばかり続くだろうか。 宣誓ないしは嘯くようなその台詞達はそれだけが全てでなくとも、或いは自身を誤魔化す為の意味合いを持っている。 事実は改めて確認するまでも無く事実である。今夜この場所で十人のリベリスタ達が背負う過酷な運命を意味するものである。 「この大切な時期に……イベント目白押し、さおりんとデートしなければいけないこの時期に! バロックナイツもフィクサード共も大暴れする必要はないと思うのです! もうちょっと空気読むといいのです!」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の言はある意味で的を射ているのかも知れない。 全くもって昔、大ヒットしたアクション映画さながらに―― どうも『クリスマスから年の瀬頃のこの時期』は少なくとも恋する乙女が大いに憤懣やるかたない程度にはツキが無い様子である。 かの兇姫、六道紫杏によって引き起こされた『人災』はこの三ツ池公園が凡そ一年振りの戦場に変えている。キマイラなる外道を突き詰めた彼女が更なる悲劇を撒く為に『閉じない穴』を望んだ以上は――この場所に戦わぬ者が無い事は分かっている。 しかし、この展望広場に在るのは遠くより響いてくる荒れた音、夜を攪拌し続ける戦いの空気とも全く異質な存在感であった。 そう、それは重圧。それは―― 「倫敦で二番目に危険な男でござるか……」 ――虎鐵の零した最も有名な代名詞が結ぶ圧倒的な現実である。 まさに不見識な敗北主義の始まりを知らぬ女が何を言ったとしても『二番目』は『二番目』であり、『二番目』でしかない。 『一番』と『二番』の間には単なる数字の序列以上に深く、大きな差が横たわっている。その差が大きいにしろ小さなものであるにしろ――例えそれが非常なる僅差によって生み出されたものであったとしても――二者の意味は何処までも違う。 『一番の景色』を知る『二番目』は居ないのだから当然の事である。 元より『二番』とは『二番如きを目指して到達し得る場所ではない』のだから当然の事である。 「……さぁて、しかし今夜はいい気分だ」 さりとて『二番目』を敢えて自認し、敢えて肯定する人間が今夜の三ツ池公園には居た。 遥かな時間の彼方より――誰もがそう知るその通りに――『二番目』の役柄に収まる事を是としたモラン大佐は極上の気分を隠さず、凄絶な笑みに染まった壮年な顔の邪悪な視線を駆けつけたリベリスタ達に向けている。 「待っとった、か。あんたも好きもんやねぇ」 呆れたように――それでも何処か沸く親近感は隠さずに頭をボリボリと掻いた『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が呟いた。 「まぁわしもあんたと戦うためだけに今日はこの公園におるけどな。 射手として、より高みに近づくために、あんたとの戦いがいる。そう思った。 あんた、『上手い』んやろ? 『強い』んやろ? なら――こりゃ楽しい戦いになるわ。しようや」 「フフ、その意気やよし。お前も、それを使うのか!」 互いに火器を極めんとする射撃手である。戦いを好むのも同じ。波長が合うと言えば合うのだろうか。 仁太とモランは不倶戴天の敵ながら、そこにはある種友好的な空気さえ流れているようにも見えた。 しかし……そういった『男臭い世界』は残念ながら女子に受けるものでは無かったようだ。 「相変わらずいやらしい顔つきなのです……」 「顔ダケで済メバイーケドナ!」 渋い顔で呟いたそあらの言葉を『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が混ぜっ返した。 彼の上に在るバロックナイツ『厳かな歪夜十三使徒』その第十一位に名を連ねる男――『ジェームズ・モリアーティを名乗る何者か』はホームズの宿敵たる闇の王を自称している。最悪と最悪は互いに惹き合うものらしく、その彼が紫杏が留学時代に師事した存在だった事が今夜という恐怖を引き起こした。モリアーティが遥か倫敦より紫杏に遣わした『援軍』がモラン大佐を含んでいなければ少なくとも今夜、この瞬間は有り得ない。 二人を含めた『倫敦の蜘蛛の巣』の正体は正味知れないが、『モリアーティにせよこのモラン大佐にせよホームズ・シリーズの語るフィクションが実在する筈は無いのだが』。現に目の前に現れられればその否定の方も取り敢えずこの場は無意味になる。 彼は悪で、彼は強く、彼は明確な敵なのだから―― (この大穴の先にはフュリエがいる。フィクサード達を通したらきっと殺されちゃう。 それだけは駄目。絶対に阻止しなきゃ。彼女達はアークの仲間で私の友達。必ず、この場所を死守するよ。 誰かを守るために戦う……姉さんの気持ち、今なら良く分かるよ。分かるよ。だから――) 少しずつビートを早める動悸に、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の決意が滲んだ。 「大佐」 「ああ、分かっている」 彼女の心を知ってか知らずか――副官格のポーロックがお喋りに呆れて声を掛ければ、モラン大佐は首を小さく鳴らしてリベリスタをぐるりと見回した。 「お喋りはこれまでだ。辺りも騒がしい。そろそろ、『お寒い夜』に火を入れる事としよう」 ざわりと噴き出す濃密な殺気。 それはこの魔人が並のフィクサード等とは完全に根本から――『違う』存在である事をリベリスタ達に直感させるもの。 純粋な力の総量は底が知れない。但し、隠し持つ量が浅いにせよ深いにせよそれは彼等と同じレベルでは無いだろう。 「……チッ……」 ナイフと髪伐を構えたリュミエールは舌打ちをして臨戦態勢を整えた。 「――蜂須賀弐現流、蜂須賀 冴。参ります」 今夜が相手でもあくまで冷徹に、あくまで淡々と――何時もの名乗りを繰り返した『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)も既に鬼丸の『冴え』を暗い夜に点している。漆黒の錫杖と名刀を二刀に備えた彼女は一分の隙も驕りも無く敵の姿を見据えている。 (大佐を冠する程の人物だ。胆力、知性、戦略、戦術、戦闘力、狡猾さ。 必ずしも全てとは言わないが、特出している能力がある筈だ。 飄々として見えるあの副官も油断なるまい――) 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)がカッとばかりに目を見開いた。 (だが、打ち勝たねば成らない。出し抜かねば成らない。 我々は敗北する訳にはいかない。我々が戦っているのは今もこれからも、倫敦と言った大小解らぬ括りの相手だけではない。 我々の世界を圧倒せんとする多元世界だ。これもその一片に過ぎぬではないか) 声を絞った。絞って、吠える。 「勝利するしかない! 全てこの時を得る為に!」 ――彼我、彼方此方も殆ど同時にその時が訪れた事を知っていた。 雷慈慟の指揮を従え、爆発的なスピードでまず飛び出したのはリュミエール。 Aika kiihtyvyys Olen nopeampi kuin kukaan ――時ヨ加速セヨ私ハ誰ヨリモ速イノダカラ―― 折れず曲がらず閃く“雷光”が夜を切り裂く。 傲然と語る少女の影は成る程、追いすがる者を許さない。 (サテ……気合入れて行くとスルカ……!) 敵影は瞬時に近付く。 一直線に肉薄するのは彼女が『抑え』にかかるのは「ほう」と漏らしたモラン大佐、唯一人! ●資料に従って…… 至近の間合いで火花が散る。 「倫敦で二番目ネェ……」 硬く鋭い音が連続して響き、合間に翻る『減らず口』が戦いを鮮やかに彩っていた。 リュミエールはパーティのプランに従い、まずは全力でモラン大佐を抑える為の戦闘を展開している。 「ジャックっつーバケモンにビビッて二番ドマリカ。オッカネー顔の割に情ケネーナ!」 「そう言えば、お前達は『三番目』と対戦済みだったか」 「速さならジャックより私の方が圧倒的に上ダ――!」 超を付けて尚足りない反応から更に自身をトップスピードまで引き上げた彼女は斬撃の飛沫(スプラッシュ)でモランを攻め立てに掛かるが――挑発めいた言葉と共にこれ等はモランには然したる痛痒も与えなかったようである。 「速いだけが一体何の武器になる。『三番』に届かぬそんな力が――この俺を、『二番目』を脅かせるか?」 あのジャックとモラン、どちらが勝るかは当人の言のみで測れる話では無いが『ホームズ』に従うならば『倫敦で一番危険な男』とは即ち彼の主人たるモリアーティその人を指すのだ。『実際にどうかはさて置いて』、『歪夜の使徒をその腹心が上回る可能性は低いとしても』、『ジャックの恐ろしさを知る』リュミエールの言葉も、モランの自意識の中では『三番目』なのだから意味は無い。 「……チッ……!」 もう一度舌打ちをしたリュミエールが短く小さなステップで僅かにモランから距離を取った。 爆発的なスピードも、手数も確かにひとかどのものはあるが、モランの身のこなしは射手であるとは思えない程に鋭い。 攻撃の幾らかは彼に僅かな傷を刻んでいたが、まるで効いたようには見えないのだ。 「ですが――!」 一番槍のリュミエールのスピードは出色ながら、高速戦闘を目論むのは彼女だけではない。 彼女がモランの抑えに出るなり、それに続くように動いたのはセラフィーナであった。 (いくら敵が強くても怯んじゃ駄目。私の役目を全うしなきゃ。強気に、不敵に……姉さん、力を貸して!) 言葉にすれば語るに落ちる、祈りにも似た想いと共に前衛に飛び出した彼女はすかさず――蜘蛛達が動き出すよりも一歩早く敵陣に心芯から揺さぶる魔的な挑発を叩き付けた。 「ロンドンの蜘蛛の巣。どんな組織かと思ってましたけど……大佐はともかく部下はどれ程のものでしょうか?」 アッパーユアハートによる釣り出し、敵の誘導と行動制限はパーティが立てた作戦の肝の一つだった。 モラン、ポーロックを除く敵の内――クリミナルスタア、ホーリーメイガス二人、クロスイージスを自身に引き付けんとするセラフィーナの考えは改めて説明するまでも無いだろう。『圧倒的技量』を如何なく発揮する彼女は当て、避ける事に特化しており、パーティの内の誰よりもこの役に適任であった。元より手強い連中に連携をされたら勝ち目は薄い。どちらかと言えば比較的『当てる事に優れぬ、或いは防御的な敵戦力』を彼女が選んで挑発したのは例え四人の猛攻に晒されようともそれは仇花、凌ぎ切って見せる、という強い自信――否、決意の表れであると呼ぶに相応しかろう。 「ふふ、貴方達程度で私の口を閉じる事ができますか?」 「抜かせ――ッ!」 逆上した敵陣がセラフィーナに釣り出される。 苛烈に加えられる攻撃を紙一重で避け、彼女はちらりと涼子に視線を送る。 「……ったく、よくもこんな時期にこんな事しにくるよ!」 悪態を吐いた彼女が飛び込んだ先はまさにセラフィーナが引き付けた敵達の最中である。 「潰れてくたばれ、糞野郎!」 全く口の悪い少女は――全く無遠慮にそう吠えて暴れる大蛇の如くセラフィーナに集らんとする敵達を叩きのめす。 激しい一撃を受けても叩き潰すには程遠い厄介な敵にも彼女は獰猛ささえ思わせる面立ちで強い視線を投げている。 この連携で已む無しなのは『セラフィーナを巻き込む』事だったが、それは御愛嬌。自身の能力を余さず発揮する彼女は周囲を薙ぎ払った涼子の強かな『暴れ』さえ涼しい顔で避けて逆に「ありがとうございます!」何て言っている。 「やるな」 短く言ったモランにセラフィーナは笑う。 「いいえ。私一人倒せないんですから、貴方の部下が雑魚なんですよ」 「クソ餓鬼が――!」 「いい調子でござるな……と! おぬしの相手は拙者でござるよ!」 一方で突撃しかかったデュランダルの機先を制し、その動きを止めたのは同じくパワー自慢の虎鐵であった。 敵の進行方向に巨体を滑り込ませ、阻む楔となった彼は同時に後方、敵ホーリーメイガスの一人を鬼影兼久を振り抜いた飛ぶ斬撃で猛襲せしめる。 幾ら上手とは言え、後衛である以上はその防御能力にも限界がある。 虎鐵の技量はその実、敵一線級の『戦士』を確実に仕留め得るという領域には遠く及んではいないのだが、敵が『術者』であるならば多くの場合その話は別である。ましてや彼の一撃の重さたるや此方は一級品と称しても間違いではないのだから。 「一気に行くのダ――!」 杖を構え十字の聖光を放つのはカイ。 全体の中衛に位置取りを済ませた彼は支援を中心に攻め手として機能するだけの準備を整えていた。 声を上げ、血の線をばら撒きながらぐらりと傾いだ所にカイの痛撃を受けた『仲間』の姿にポーロックが声を発した。 「成る程、成る程」 ……その反応は予想外のものでありながら想定内のものでもある。 鮮やかにパーティが展開した先制攻撃も彼等にとっては驚くべきものではない、という事であろう。 そして彼等が本質的にはその程度では驚かない事も『当のリベリスタ達も知っていた』。 (倫敦の蜘蛛の巣のNo2自らが陣頭指揮を取る理由は何か。 六道紫杏を援護するならば積極的に戦場へと赴くだろう。 純粋に見物客を気取るのならばこのような場所に陣取る必要はない。 このような場所に布陣するのは、まるで見つけてくれと言わないばかりではないか) 冴の考察は瞬間の回転で一つの推論を叩き出していた。 (或いは……アークのリベリスタと戦うという事それ自体が目的なのか。 であれば目的は……データの収集、か?) 冴には自身の推論が正解であるか否かを確かめる術は無い。 しかし、もし『そう』だとするならばポーロックの態度も事態に噛み合うのは事実だった。余裕めいている。改めて確認するまでもなく『倫敦』の力はアークのそれよりも上である。攻撃に傷んだホーリーメイガスですらもまだまだ倒れる様子は無いのだ。 「大佐」 「ああ。やってやれ」 そして――冴の思考に構わず、戦闘は次の段階へと加速する。 パーティの攻勢に対して黙ってやられている筈も無い。猛然果敢に反撃するのは『倫敦』も又同じなのだった。 「Don't look aside」 英語で発されたその言葉に虎鐵は咄嗟に反応する事は出来なかった。 正面に回り込み前を阻んだ敵が敢えて遠い敵を撃った虎鐵目掛けて渾身の一撃を叩きつけてくる。 全く全てを呑み食らう馬鹿馬鹿しい程の破壊力はデュランダルが持ち得る最大の武器に違いない。それはこの虎鐵の『馬鹿力』に比べても遜色無く、それ以上の精度で彼の巨体に突き刺さる。 「――――ッ!?」 悲鳴も声にならず、くぐもった重い音が夜に彷徨う。 殆ど同時に後方から放たれた黒鎖の濁流は見晴らしの良い戦場に各々の位置を取るリベリスタ達に次々と葬操の調べを送り込む。 「っ、のっけから中々加減が無いのう!」 大いに態勢の乱れたパーティの状況を辛うじて繋ぐのは声を発したメアリであり、 「――とにかくこの三ツ池公園からさっさと出て行ってもらうのですよ!」 敵の動きを察した彼女が要と頼み、咄嗟に庇ったそあらの存在であった。 とちおとめが暗闇に光を点せば、聖神の奇跡が戦場に静かに舞い降りる。 全ての邪気と痛みを払うには白き曙光とて心許ないが、少なくともパーティが大幅に態勢と体力を取り戻したのは事実であった。 黒鎖に咽ぶ冴も雷慈慟も仁太もその動きを取り戻したならば攻め手の方は万全である。 「――――」 姿勢を低く黒衣の少女が夜を駆ける。 冴は後方から魔力の矢を投げんとするホーリーメイガスに斬り込みかかり――ポーロックにそれを阻まれた。 「――私の相手は貴様か?」 「まぁ、そうなるみたいだねぇ」 「鬼丸に立ち塞がるならば――唯、斬り捨てる!」 斬人斬魔の少女には何ら躊躇というモノが無い。 唯、為すべきは正義の二文字ばかりであり、誇りに非ず。義務に非ず。愉悦に非ず。 自身が選んだ生き方の為だけに剣を振るい、血を浴びて、痛みの全てを己が内に喰らう事を選んだ女怪なのである。 示現流の流れを汲む蜂須賀が『弐現流』の一撃は名の通り必殺めいて冴えに冴える。裂帛の気合と共に二閃された生死を占う猛撃はポーロックのひょろりとした体躯に猛然と襲い掛かり、それを流れの中で受けんとした彼の全身を実に強かに軋ませた。 「やる、ねぇ」 それでも、口元を歪めた敵もさるもの。 極めて高い次元で力と技を融合させた冴の必殺の太刀さえも硬質のナイフの煌きで幾らか抑え込んでいた。 化け物じみた堪えなさを誇るモランに比べれば『手応え』の程は間違いないが、一筋縄でいかぬのは此方も全く同じである。 「戦力値の確かな上昇が確認出来る。しかし、まだ届かないな」 「……ッ!?」 予想以上の膂力で弾き上げられた鬼丸に引きずられて冴の態勢が乱された。同時に伸びたポーロックの膝が彼女の細い腹に深々とめり込んだ。小さな息を漏らした彼女の手足をくるりと回った彼のナイフが切り刻む。 圧倒的な連続攻撃にぐらりと揺れた彼女は混乱に叩き落されている。 (やはり、極力短時間で沈める他は無いか――) されど、冴の攻め手は無駄にはならない。彼我の数は辛うじてリベリスタ達に優位なのだ。 「利がある今だ! 叩くぞ!」 手の塞がった敵に対してまだ手数を残すパーティのアドバンテージは雷慈慟の言う通りである。 『フリー』となったのは彼ともう一人、 「――上を目指さんのはあいつに、この銃に失礼やしな」 かつて暴君戦車が備えた禍々しい巨銃を担ぐように構えた仁太である。 雷慈慟の放った精密な気糸が傷んだホーリーメイガスを更に貫く。 「これがわしのやり方ぜよ!」 仁太に到ってはまさにこれは破滅的な破壊力であった。 パンツァーテュランは容赦なく鉄の咆哮を奏で、蜂の巣を突いたような弾幕が戦場全てを制圧せんと暴れ狂う。 『お代わり』とばかりにリロードされた弾幕はやがて致命的失敗でその動きを止めたのだが――残した爪痕は半端なものでは無い。彼の狙いを上回る動きを見せた敵の幾らかは多少のダメージを軽減したが、防御力さえ飲み込んで必中に到る弾幕はその連続攻撃で確実に敵陣を削っていた。たまらずホーリーメイガスの一人が倒れ、運命に縋って立ち上がる。 「流石に効いた……」 ポーロックが顔を歪めて小さく漏らす。 「――いい、射手だ」 リュミエールと『じゃれる』モランはこの期に及び、漸くその銃を構えていた。 彼が視線を送るのは目前で自身を阻むリュミエールでは無い。丁度虎鐵がそうしたのをなぞるように邪悪な光を湛えたその双眸は派手なパフォーマンスを見せた仁太の方を向いていた。 「はは、わしか」 彼が一言漏らしたのとその弾丸が音も無く彼の頭に突き刺さったのは同時だった。 運命が青く燃え上がる。仰け反りながらも辛うじて運命に救われ、致命傷を避けた仁太は、 (……そうか) もう一度『静かなる死』が自身に牙を剥くのを――本能的に直感していた。 「っ!? 仁太さんッ――!」 セラフィーナの悲鳴が響き、血の海が夜の公園に横たわる。 敢えて行動を遅らせたモランはパーティの中で一番危険なのが誰なのかを吟味していたのだ。彼の放つサイレント・デスは寸分違いなく『仁太の同じ所』を撃っている。リベリスタがフェイトに頼る戦い方をするならば、必殺は元より二撃で為すべき仕事であった。 「後、九人か」 然して面白くもなさそうにモランは鼻を鳴らしていた。 リベリスタ達が仁太の安否を気にかけるよりも早く、彼は言う。 「殺してはいない。何故だか分かるか? アークのリベリスタ」 「さてな……」 この寒いのに首筋を流れ落ちる汗の冷たさを実感しながらメアリは応えた。 軽口を叩き合うその時間さえ凍りつくようなものだ。それでも彼女は揺るがない。 「どうせなら、聞かせて貰いたいものじゃな。カードでも真っ向勝負出来ない『イカサマ師』の理屈でも」 「俺は日本派遣に際して『教授』から資料を預かった。お前達とどう戦うべきかの資料だ」 「……私ラの事ナンテ調査済みってコトカ?」 「可も無く不可も無くだな」 リュミエールの言葉にモランはくっくっと笑いを漏らす。 その懐から地面に一冊の本を放り投げ、冗句めいたまま――言った。 「お前達は仲間の死とやらに過敏過ぎる狂犬共だ。全く理屈ではなく感情の起伏で戦闘力を上下する。 分かるか、リベリスタ。ならば俺はお前達を中途半端に殺さない。 一人残らず戦えなくしてから、ゆっくり丁寧に殺してやろう!」 地面に転がった本はこの国の誰もが知っている『非常に有名な少年漫画』である。 事実は小説より奇なり、かつて『三番目』が敗れたのも同じ理由ならば――モリアーティはそんな悪趣味な冗談も侮らない。 「味な真似を――」 セラフィーナは霊刀東雲を握り直し、霧を払うように声を張った。 「――フィクションの中へ帰りなさい、フィクサード!」 ●モリアーティ・プラン 「モラン大佐直々に出てくる作戦が小さなものであるはずがない。 それがこの世界を利するものである可能性は皆無。 倫敦より訪れし招かれざる邪悪共! 貴様等をここから帰す理由のあるものか!」 ボロボロの冴が吠える。ゆらりと立ち上がる雷慈慟が嘯いた。 「切り札は多い方が良い……カードとはそういうモノだったな」 かくて続いた戦いはリベリスタ達にとって非常に厳しいものとなっていた。 緒戦こそセラフィーナの引き付けを中心に敵の実効戦力、支援を減らしたリベリスタ達は『倫敦』側に良く対抗していたが…… 続いた戦いの中でモランが今度はセラフィーナを撃てば状況は劇的に変化せざるを得なかった。 「……ったく、そんなスカした音の銃をうれしそうに使う気が知れないね。 イカサマなしで賭けもできないような奴に、負けてたまるか」 気を吐く涼子は時に癒し手を庇い、時に敵陣を切り裂きながら縦横に及ぶ奮戦を見せている。 『敵にとって目障りに動く事』を身上に戦いにアクセントを点す彼女は確かに敵の苛立ちを煽り続ける存在である。 「残念だけど、その程度じゃ倒されないのよ。脳筋野郎」 加えてある種『堪えない』存在である涼子は我が身に満ちる幸運とドラマを武器に実に実にしぶとく執拗に立ち塞がるのである。 しかし、それでも状況が芳しいかと問えばそれは極めて否である。 パーティはモランの抑えをリュミエールに任せたが、彼女の実力をもってしてもモランの抑えになるには不足だったのである。つまる所、抑えとは防御に優れた者が受け持つものだ。同時に圧倒的な強敵に対して抑えを任された人間はある程度防御の方に意識が向くものである。それは今回の場合にも例に漏れず、少なからずリュミエールにも防御中心の意識があったのは否めない。正面の『抑え役』を自身の脅威足り得ないと認識したモランはこれに構う事をしなかったのである。その得手を近接攻撃ならぬ射撃に持つ彼はまさに虎鐵がやった以上にパーティの要石を自在に破壊し続ける戦いを選んだのだった。 (これはまずい展開なのダ……!) (色んなモン見て考エロ何か手があるかもシレネー!) カイは、リュミエールは内心で臍を噛む。 パーティの攻勢は確かに奏功し、『倫敦』側の戦力が傷み脱落しているのは事実である。 しかして、モランやポーロックが余裕めいて健在である以上は単純な引き算で見てもパーティの勝利は覚束ない。 「ええい、たまには攻めさせろなのダ! お前の目的ハ、阻止するのダ!」 比較的堅牢なカイは攻撃を受けながらも支援を続け、パーティを下支えする事に尽力していたがそれでも足りぬ。 彼の放つジャスティスキャノンは時に敵を脅かしたが、自身の言葉の通り戦いが逼迫すればする程に『彼が攻勢に出る余裕は失われた』。 「来るのダ――ッ!」 「そろそろ死ぬか?」 悲鳴に似たカイの警告にモランの邪笑が重なった。 両手の火器より放たれる連射がパーティ全体に弾幕となって襲い掛かる。 彼に掛かればその弾幕の一つ一つ――全てが容易なる死を呼ぶ凶弾魔弾の如しである。 「……倒れて、なるものか……!」 血を吐くような声で低く言ったのは何より誰より――『立ち続けなければならない』指揮者の雷慈慟。 圧倒的に重い弾幕に辛うじて『残った』仲間達を自身も深手を負い、血を流したメアリが激励する。 「三ツ池公園は死守以外ない。運命の力で盤面の不利をひっくりかえせ!」 「さおりんの……為にも……倒れる訳にはいかないのです……!」 辛うじて微笑みを残した運命に立ち上がったそあらが幾度目か奇跡のような傷痍の力を顕現した。 長いようで短い戦いだった。圧倒的に引き伸ばされた時間は瞬間に生死を交錯させ、正解を選び続ける事を強要するようであった。 セバスチャン・モランなる男を向こうに回した戦いはそれ程の意味を持ち、それだけの困難を要求し続けたのである。 「次は拙者もお相手致そう」 多大な消耗を犠牲にマグメイガスを辛うじて倒した虎鐵がモラン目掛けて斬りかかる。 「……ここで負ける訳にはいかないのでござる。 例え倫敦で二番目に危険な男だろうが拙者はその切っ先を鈍らせる訳には……いかないのでござる!」 「ナメルナ――!」 渾身の力を一撃に込めたのはリュミエールも同じだった。 攻撃を捌き損ねたモランが攻撃を受け大きく切り裂かれる。 衣装を破られその肉体を傷付けられ、ぴくりと眉を動かした彼は――しかし動かしたまでだった。 「お前等とは『出来が違う』のだ。無駄な事を……」 「……? それはどういう意味だ?」 傷だらけになりながらポーロックとやり合う冴がモランの言葉に怪訝そうな顔をした。 瞬時に異能を働かせた彼女は目前の戦闘に優先させて彼の心を探りに掛かる。 断片的に流れ込んできたモランの思考は六道紫杏、リベリスタ達への嘲笑と憐憫である。 (……やはり『倫敦』は何者の味方でもない?) 半ば感じていた違和感を肯定する情報に冴の表情が引き締まる。 「ポーロック!」 「――あんまり調子に乗りすぎるなよ」 モランの一喝を受けたポーロックが冴を激しく叩きのめす。 今度こそ地に伏せ、動かなくなった少女の頭を彼は踏む。 「――退けッ!」 弾かれたように拳を握り、強引に間合いをつめて唸る拳を振るった涼子におどけたように足を退かし、飛び退く。 「麗しい友情ってヤツか」 ポーロックは激しく終末に向けて加速する戦場を見回した。ホーリーメイガスにマグメイガス、クロスイージス。『倫敦』の足は潰れているが、リベリスタの戦力余力はそれ以上に逼迫しつつある。 状況は必然的に終末を望んでいた。 モランは動かなくなった全てを殺すと宣告し、リベリスタ側も勝ち負けは兎も角にして彼等を逃がす心算は無い。 全く今夜は誰かが死ぬにはいい夜だっただろう。 されど、『動いた』状況は『幸運と言うべきなのか』その決定を覆した。 「こちら『蜘蛛の頭』」 インカムで通信を受けたポーロックが嘆息を一つ吐き出した。 「大佐。六道派の一部は撤退の向きを見せているようだ。状況は十分です。 むしろ、『この辺りでこいつ等は解放した方が都合が良い』」 「面白い報せではないな」 「しかし仕事は叶った。モリアーティ・プランに従うならば潮時ですよ」 ポーロックはちらりと倒れた『倫敦』の面々を確認していた。 ポーロックは戦意に溢れるモランに比べ、己側の被害に意識を向けている節がある。 冴が掠め取ったその通りに――彼等には彼等の思惑があるのである。 この場のリベリスタが知っているかどうかはさて置いて――多くの戦場で『倫敦』が取った方針はこの場所でも変わっていない。 セバスチャン・モランとその部下達――否、モリアーティの部隊は今夜に『違う』目的を抱いている。 「ヘイト・コントロールも仕事の内か。運がいいな、リベリスタ」 鼻を鳴らしたモランは残るリベリスタ達を見回して言った。 未だ意気を保ち、戦闘姿勢を取り続けるリベリスタ達にとってそれは承服出来る台詞ではない。 到底、納得のいく台詞では無かったが――三ツ池公園防衛戦自体を考えるならば『もう関係の無い』連中を深追いする意義は、薄い。 第一どれ程に追いすがろうとした所で、勝ち目が薄いのは『始まる前から分かっていた』のである。 「リベリスタよ。精々祈っているがいい。再びこの俺に、セバスチャン・モランに出会わない幸運を!」 声に応える者は無い。 全く屈辱に塗れ、全く承服せざる通告を突きつけられ、しかしそれでもリベリスタ達は仕事を果たしたのは間違いない。 『倫敦』の最大戦力はこの時間、確実にこの場所に繋ぎ止められた。敵の思惑は知れずとも、作戦が果たされた事にたった一つの間違いもない。 不明だらけのこの夜に、それだけは――確かだったけれど。 「倫敦の蜘蛛の巣……!」 因縁は新たな因縁を呼ぶ。 倫敦の毒と二度目邂逅したモラン大佐なる人物の傲岸な笑みをカイは暫く忘れられそうになかった―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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