● 「死体漁りは飽きたんだなぁ~」 「貴方が構わず食べるから数が減るのです!!」 フルートを持つ楽団員、エルヴィーノは発つ。 聞く所によれば神奈川のある場所で、楽しい楽しいお遊びが始まるのだとか。 死んで終わりの死体を再生利用する救済を行う彼にとってこれほど良い機会は無い。 それに加え、相方とも言える先輩が数を考えずにそれらを食べるので、補充する機会に恵まれるなら、神のご加護かと飛びつきたい程にまで飢えている。だって、あればある程良いのだから。 「どさくさに紛れて強力な死体でもあればお持ち帰りするわたくし、ふふ、イイッ」 「オラも行くんだなぁ~」 重い腰をあげた、同じく楽団員のグレゴリアはエルヴィーノの後に続いた。 まだまだ序曲を奏でる彼等。だが、序曲からの流れが良ければ良いほど、メインというのは煌びやかになるものだ。 そのための、音達を集めておいて損は無い。 「ふふふ、救済です。死という無駄から、我等の手足となる……このわたくしに使われる救い」 笑いながら、エルヴィーノは一つの楽器を用意した。それは楽器でありながら、拷問器具でもある――『ファラリスの雄牛』。 ● 繰り返し、繰り返し、実験を行ってきた。それでもまだ足りない、決定的な何か。 今まで助手は沢山居た。ちらほら言葉が飛び交った研究室でも、もはや今は生き残りは独り。その意味は、材料という二文字が全てを語る。 我らが姫は、とってもとってもお怒りの様だよ。 姫が大切だと言うのなら、僕にとっても大切なもの。 欲しいっていうなら、僕も欲しい。要らないっていうなら、僕も要らない。 そうさ、僕は空っぽさ。だからこそ姫の意思は僕の意思でもあるのさ。 で、今回は。 「お姫様の言う事は聞かなくちゃ絶対絶対ぜーったい、ね」 そうだよね? 四二(シニ)。 それは合わせに合わせた、混ざりもの。仲間も敵も恋人も獣も、食べさせて合わせてくっつけて混ぜて。 奇堂みめめはそんな愉快過ぎる娘を見ながら、朝ご飯であるパンの中に指を突っ込んだ。 抜いたそこに着いた真っ赤なジャムを舐めとり。どれもこれも、血の味だ。 強いキマイラには、こんな血と肉と、悲鳴と絶望が必要なんだ。 「ああ、もっともっともっとこうさぁ~。 手頃な所に絶望予備軍とか転がってないかな。希望予備軍でもいいや、絶望に落とすからさぁ」 ● 「集まりましたね、時間が惜しいので説明を始めます」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は、ブリーフィングルームにリベリスタ全員が集まった瞬間に間髪いれずに説明を始めた。 「キマイラ……と言えば分りますよね。 兇姫と、その部下達が三ツ池公園に攻めてきました。アークはこれを迎撃します!」 『六道』首領六道羅刹の異母兄妹、『六道の兇姫』こと六道紫杏と、その部下が三ツ池公園を強襲してきた。つい先日、楽団の『モーゼス・“インスティゲーター”・マカライネン』からの攻撃を受けたばかりで、警戒を強化したこのタイミングで何故攻めてきたのか、その詰まる所は解っていない。 おそらくでの話だが、キマイラ研究には三ツ池の閉じない穴が大きく関わっているだとか、楽団がアークを狙い、その消耗の皺寄せが来ている今を狙ったのかもしれない。 それに、バロックナイツのモリアーティ教授の組織が援軍を派遣しているという。これをアークがどうして見逃す事ができようか。 「この対処にアークは全力を尽くしますので……恐らく死体は出ますでしょう。その意味が、解りますよね」 今、楽団が死体を漁っている状況で、この戦争を彼等も捨て置く事はしないだろう。 「だから、どう考えても楽団は来ます。三つ巴という事を念頭に戦闘して下さい」 「六道よりも早くリベリスタは現場に到着します。皆さんが担当する場所は里の広場です。此処で、奇堂みめめとそのキマイラを相手にします」 ついに研究員が戦闘する。数では一人と二体で少なく見えるが、安易に見れば後悔するだろう。 「キマイラは識別名バジリスク。みめめは42と呼んでいます。 これは蛇型ですが、今までに飲み込んできた人やエリューションが重なって形を成している……もはや何が混ざっているのか解らないです。でもこれ、攻撃したらその部分が崩れるのです……完璧では無いのですかね」 しかし、キマイラならではのリジェ能力と防御力は健在だ。 何よりモニターから見える、その大きさが異常だ。尾を振っただけでも後衛まで十分に届きそうなほどまでに。 「見た目の大きさのように攻撃力が異常です。それと……捕食攻撃には気を付けて。詳しい事は資料に載せておきました」 「それで……楽団ですが、みめめと戦闘している間に戦闘に加わるかと。 ですが目的はやはり死体だと思われます。なので、それが不可能だと感じれば速やかに撤退するはずですし、命をかけてまでの戦闘はしないかと思います。それは頭に入れておいてください」 未だ本気を出すべき場所では無い――と言った所か。どうにもこうにも頭にくる奴らだが、今回は三ツ池の死守が最優先。それは間違えてはいけない。 「ただ、一つ危険な楽器を持っているのが視えましたので、お気をつけて」 名は、『ファラリスの雄牛』。 「古代の拷問器具であり、楽器です。これはE能力者のフェイトを無視する殺人器具です。詳細を纏めてて杏里は気持ち悪くなりました。どうか、戦えないと思ったのであれば撤退を……してくださいね。皆様が生きて帰る事を、願っています」 しんとしたブリーフィングルーム内。その中で、一年前の戦争で敵味方構わず燃やした彼女――クレイジーマリアが前に出てきた。 「そう、また……クリスマス前なのね。足がすくんでマリアはあそこには行けないの」 聖夜は近い。それまでには、終えたい戦争がまた一つ。 「生きて帰って来る事ね。絶対に、死んではいけないわ」 小さな小さな体で、遠くを見て彼女は言う。その面持ちは十数年しか生きていない少女とは思えない、女の顔。 「潰して来なさい。耳障りな歌を、反吐の出る存在を。アークが誇る戦士達よ」 今だけ、糞みたいな神様に祈りを捧げて待ってる、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月30日(日)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闘争 敵が来るより早く、リベリスタは里の広場に集った。 また一年前のこの場所か。そう思った者はどれほどこの八人の中に居ただろうか。終わった時間にそれぞれ思いを巡らす事さえ許されず、敵は容赦無くやってきた。 人やら獣、機械やゴミが重なり混ざり合って構成されている大蛇――識別名はバジリスク。それが地面を削りながら血走った目で迫り来る。 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は煙草を吹かしながら、呪いで大蛇を縛ろうと札を繋ぐ。その網に大蛇が掛る、が、呪印の線はいとも簡単に破られてしまうのだ。 (そう簡単にはいかないようやな……) はぁ、と。白い煙と共にため息を吐いた椿。此処で気づいたがそういえば、何か足りない。 「なんや、キマイラさん一体やろか?」 リベリスタから見える位置からは正面から大蛇が一体。嗚呼、どうした事か、フィクサードは何処? 「そんでも、フォーチュナが間違えるはず無いっすよ」 『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)は言う。仲間と見えない糸で繋がって、その身体の動作をサポートしようとする。 その直前で、大蛇の尾が椿の懐に叩き込まれた。吹き飛ばされながら、あまりの威力に胃液が口から零れ軌跡がひとつ。 「……アホ、威力ゃん!!?」 奥歯を噛みしめながら、椿は体勢を立て直す。この時点で椿の体力の半分近くが無くなった。 「ランディの兄さんと光さんは右側を、殺人鬼君は俺と左だ!!」 「あぁ」 「解りましたよ!」 「はぁーい」 入れ替わるようにして『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)、『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)、『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が、進行を続ける大蛇の身体の凹凸を掴んで、進行方向とは逆方向に引っ張りあげた。そして『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)はキマイラの真正面から両手で胴を押さえて止めようとする。 「っく、う……重い」 かるたの両足が、里の広場の地面を抉っていく。後方に位置していたマコトや『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)でさえ更に後ろへと引く始末だ。 少しずつだが大蛇の進行はスピードを落し、そしてようやく止まった。すると。 「ふぁぁん!? なんで急ブレーキいっぱいで止まってんのさぁあああああ、あのさぁ僕さぁこんな所で止ま……」 遥か頭上から声がした、愚図る子供の様な声が。声の主は大蛇の後頭部の方から顔を出し、左見て、右見て、また左見て、もっかい左見て、更に左をガン見て。 「あ」 目が合った。 八人のリベリスタを認識したと言うよりかは、一目惚れの相手を見かけたような。嬉しげな顔に表情が崩れていく――奇堂みめめ。 「おォォォオオぎィィィィィイイだァァァァアぎゅーーーーーーん!!!!! 久しぶりだねっね!? みめめーぇ超うれぴー!! あげぽよーーーっ!!!」 手をすっぽりと覆う程に大きな白衣を引きずって、はち切れんばかりに両手を伸ばして振って、奇堂みめめは因縁有りきで愛しの葬識へと跳躍からの、降下。 「ジャムパン、食べてくれたの? 俺様ちゃんも会えて嬉しいよ、いつもいつも千里眼ごしのキミに」 葬識は迎え撃つ。心に博愛を、顔に微笑みを、両手に血塗れた鋏を装備して。 みめめの長すぎる白衣の袖からキラリと光ったのは、医療用メスだ。 そして距離はほんの数センチに差し掛かる。先に攻撃を被弾したのは葬識だ。落ちてきた勢いのままに、身体を捻りながら繰り出されたメスは、葬識のフードを突き抜け、右の喉を通過して左の喉に突き抜けた。瞬時、彼の喉の部品が口から溢れてきたため、隣の義弘がギョっとした。 だが葬識もこれで終わる訳で無い。吐息がかかるほどに近づいたみめめには、鋏が口を開いて待っていた。それは紛れも無く首を噛み千切ろうとしていて。 「やっばばやばばっば、やっばーい! 痛そう!! ヤダヤダやめてぇえええ!! なんちゃってー!」 「縁が重なゴボッ、るのも三度目だとゴフッ、運命を感じる……ね? ゲホッゲホッ」 そして閉まりゆく口――バッチン☆ メスを離し、腰を下に落したみめめは、髪の毛が綺麗にカットされただけで済んだ。 自らに刺さったメスを抜き取り、殺人鬼は彼を見た。そして両人、ほぼ同時にこう思った。 ((……絶対愛(ころ)そう)) 三ツ池の状況は戦火の中。周囲からも戦闘らしき音に加え断末魔まで聞こえる程だ。 派閥の本気を出した死にもの狂いの争奪戦。それは眠れない三ツ池の呪い詩。 ●説得 「君まで42たく無いでしょ? ギブアンドテイク、取引しない?」 「えっ、何々超興味アリアリなんだけどぉ!! みめめちゃん超聞いちゃうけど聞くだけかもねー?!」 リベリスタによるみめめの説得は唐突に始まった。未だに葬識の足下で転がったままの、これでもかなり実力者な六道。首を落とし損ねた鋏で、大蛇に繋がった女の首をバッチン切り落とす。 だがその背後に居る42たる、大蛇は止まってはくれない。 「なんやー!? チートなんちゃう!!?」 なかなか椿の呪いが上手いようにかかってくれない。さりとて、これは椿の命中が悪いというよりかは運の問題。 無数の鳥を食いちぎるように抜けた大蛇は尾びれを野球バットの様に撓らせて右側のランディから、中央のかるたまで扇型に吹き飛ばしていった。後方に居座ったマコトと七海にも届く、それほどまでに『でかい』大蛇。 地面に足をつけ、土を抉りながらノックBを止めていくかるた。彼女の武器の重さにも助けられた面はあったかもしれない。そう、彼女の武器である重火器とは、装甲で敵を殴るもの。おかしい……かるたは一年前は純粋に剣を振っていた気がしたんだが。 さておき、かるたは身体を回転させ、Trapezohedronを遠心力で大蛇の腹を打ちつけた。その潰された部分、大蛇を形どっている人や獣の死体が、劈く様な悲鳴をあげる。 「なにそれ、材料生きてるんちゃう?!」 「生きてない生きてない!」 椿が言えば、みめめは即座に返答した。生きているよりは、動かされている方だと。 あの『ケイオス』の子飼いである楽団が三ツ池に来ている事を簡潔に話した葬識。大穴に生かせる訳には行かないが、利益を以てして帰還すればプラマイゼロなのだと。つまり、楽団を倒し、楽団の死体をみめめに壌土するという。 「俺様ちゃんたちに新しい絶望。今じゃない未来の望みを絶ってよ」 それはその場しのぎの選択だった。 「楽団は不死者を自称していて、事実彼らの頑丈さは並みじゃないっす。 何処にでもいるリベリスタよりも材料としての価値があるんじゃないっすかね?」 マコトも説得に加わった。ネクロマンサーというプレミアムを逃すのは惜しいと。だが更に強さを増したバジリスクを誰が処理するのだろうか。 「なんなら俺様ちゃんの心を読んでもいいから」 頭を指さして、葬識は言う。しばらくしてから読まれたと悟った。というのも、みめめの挙動がおかしくなったからだ。 「……っづ!!?」 振り落とされた尾の威力は最高威力。義弘でさえ、体力を三分の一を一気に持っていかれてしまった。 マコトと七海が集中して癒すが、それでも複数攻撃で削られた時は回復が回りきらないのだ。 「こ、の! そろそろキれるで!?」 体中、特大の痣だらけになった椿が呪印を組む。何度も打ち掠ったそれを、マコトのドクトリンに乗せて。幾重にも呪いを編み込んで、これでもかと。 縛られた大蛇に振り上げられた斧。ランディの赤の目立つ身体とは真逆に、その切っ先は蒼い冷気を纏っていた。 「んの、野郎……!!」 断頭台如く、体重と力を斧にかけて。ランディは横腹の絡みついた部品達を縦一文字に切り落とし、その傷痕は白く凍る。 切られ、叫びながら落ちた凍った女性。 「なんだ……こいつ」 ランディは、大蛇から斧を引き抜きながらその女性が眼に入った。それは、地面を這いずりながら動き、大蛇の一部に戻っていったのだ。 「合わせ過ぎ……だろ、キマイラ」 『フォーチュナが言っていた、崩れるっていうのはこういうことっすかね』 ランディのAFから唐突に聞こえたマコトの声に、ランディはそうだろうなと返した。そしてまた斧を振り上げる。 かるたは再び大型の武器を振り上げていた。それを大蛇の胴に突き刺し、また横へと一閃。弾き飛ばされる部品達を見る。もはやこうなってしまったものは仕方が無い、憐れなキマイラ。 「ならば、早々に眠れ」 「フェラリスに焼き殺されたくなければ、共闘するべきかと思いますが?」 ファラリス――それは楽団の楽器。その効果も恐ろしいもの。七海は顔だけみめめに向けながら、弓を撓らせ炎の矢を撃ち飛ばす。 「ね、奇堂ちゃん。絶望が欲しいんでしょ? 俺様ちゃんたちがそれになる」 返答は如何に。みめめはこう言った。 「……ペルソナ。君の心は信用できない」 葬識はおかしいと首を捻った。ペルソナとは本来バレる事は無い。が、何故バレた。 簡単だ、彼以外のリベリスタの心をこじ開ければ良い。 何度飛ばされても、何度穿かれても、けして諦めてやらない。 光がゆうしゃのつるぎを大蛇を形どる一部の獣へ突き刺し、そのまま横に引いてその部分を削る。 「まだ、もう一回!!」 もう一度。大蛇に剣を刺し。苦しいと喘ぐ大蛇の尾が横から飛んできても、光は大蛇を削る。 「七海さん! お願いします!」 「これは……」 光が投げた大蛇の一部を、七海が炎の矢で燃やしあげる。 もし燃やさなければ、先程の様に蠢いて一部に戻っていくから。これも体力を削るという行為には直結しているのだ。 七海は奥歯を噛む。多くの犠牲に成り立つ存在に、それを作る六道に腹が立つ。もう一度弓を持ち、禁忌の存在に火を放ち――。 「僕が良いタイミングで裏切る? ファラリス? 楽団に……あとマリアって誰」 読まれた、椿。それは彼女も気づいている。 身体を揺らしながら、みめめは抑えていた心が限界に達した。吹き出す笑い。 「ぎゃはははははは!!!! 超バロス!!!!!! みめめちゃんのぉ、研究捗るから一緒に楽団を倒してほーしーいいいい??? あのさぁ、ちょっとさぁ、それは……――僕、アークにはがっかりさせられるとは思わなかったよ」 大蛇に矢を射るその手に無数のメスが刺さった七海。だが七海だけで無い。椿にも、光にも、義弘にも、全員に。特にマコトには心臓を刺された。 「六道を侮るなよ、夢見がちな箱舟風情。 僕が研究材料にするための死体は僕が選ぶ。横槍で汚すな。口を出すな」 六道とは、神秘の探究の亡者である。そこには己のプライドと、人生を賭けている。怒るのは、当たり前かもしれない。 今流行りの『楽団』は勿論、みめめは知っていた。それが今近くに居るのは予想外として。 「僕は君達の遥か後方まで辿り着いた方がよっぽど利益になると踏んでいる、お姫様が言うからね」 葬識に迫り、その距離を縮める。額が触れる程、近づくまで。 「楽団の死体? そんなの僕は欲しない」 結論的には交渉の失敗。 今まで千里眼と身振りで話をしてきた二人は、今や眼前。 みめめの後方で振り上げられたその尾は、心臓に刺さったメスを更に穿つように、マコトを叩き潰し―――まるでタイミングを図ったかのように、横から『怨霊の弾丸』がトドメをさしに来ていた。 光輝く武器を舞わせていた義弘。彼でさ、体力が削れ荒い息が見える。そして、彼のESPが騒いだ。何かが、此方に来た――。 「楽団だ!!!」 AFへ義弘は叫ぶ、すれば聞こえた太い声。 「美味しいモノをもらいに来たんだなぁー」 ●対策 「はい、吸って吸って」 手でぺしんぺしん。楽団員――エルヴィーノがファラリスの牡牛を叩く。すれば、マコトの戦闘不能を理解してか、入口から黒い触手状のものが飛び出してきた。 牡牛とリベリスタの距離はぎりぎりの50mであり、効果発動の範囲内だ。 「これは痛いですよー、うふふ、つんざく悲鳴を聞きたいです……」 だが、エルヴィーノは待てども待てども、戦闘不能者は来なかった。むしろ触手が残念そうに戻ってくるだけ。 「こないですねー」 「テメェはぶち殺したくて仕方ねぇが……」 「怖いんだなぁー」 両手に特大のシンバルを下げたグレゴリオに、ランディの額に血管が浮き出る。だがすぐにランディは顔を振った。いくら恋人の敵であれ、今はそれどころではないのだ。 「マコトくん!?」 ぐったりしたマコトに、義弘が呼びかけても返答は非ず。なおかつ、目の前にはゾンビの群れとグレゴリオが一人。 「ファラリスは、遠くですか」 「その近くにエルヴィーノってのも居るみたいですね」 光は駆け出し、七海は矢を撃つ。 矢と交差した触手は、マコトに向かいう――。義弘がマコトに盾になるように立つ、だが触手は神秘か。義弘の身体を突き抜ける。 「駄目だ、止まらないか……!」 義弘は走った。楽団へと――いや、その奥へと。 だが、触手は微妙な場所でぴたりと止まった。これ以上、伸びないと張りながら。 みめめが人差し指を立てていた。 無音だ。突然マコトの身体が近くで爆発でも起きたように跳ね上がり、10m後方へと飛ばされたのだ。 「そのなんちゃらが50m先? そこに向かうまでにゾンビの群れのブロックと、硬い硬いファラリス相手にしてたら捕まった子、死ぬ死ぬ死ぬ?」 ファラリスの射程はでかい。それをわざわざ近くに置いて壊してください!と言わんばかりな事はしないだろう。 リベリスタは大蛇のブロックを解き、ファラリスに向かおうとしたがやはりゾンビに阻まれる。もし、みめめがファラリスの射程からマコトを離脱させなかったら、死体がひとつ増えていたのだろう。 とてつも無く唐突だが、リベリスタは一つの共通事項を思い出す。 ファラリスのある状態で、一人、戦闘不能が出た場合には撤退。 それは懸命な判断と言える。みめめが共闘しない今、一人の手が減った状態で二人目の戦闘不能者が出たらその該当者は間違いなく死体になるのだから。 「残念ですが、ここまでですか……」 光はゾンビの一体に切り込みを入れてから後方へ下がり、七海がマコトを抱え上げた所。 「ランディさん……行きますよ」 「……ああ、だが」 復讐は好かないのだと、彼女は言うのだろう。 だが、けじめくらいはつけてもいいはずだ。ランディは撤退するその直前で、軽々と斧を振る。 起きた爆風はまるで嵐。戦気の風の中、見えたグレゴリオを見据えながら――銀色のスプーンは煌めいていた。 「奇堂ちゃん」 去り際、葬識が言う。 「なんで助けたの?」 大蛇に乗ったみめめは、笑い。 「……面白いものを、魅せてくれたからだよ。葬識きゅうんっ」 ●理由 心を読んでも良いよとか言うから。見えた葬識の心は、ペルソナ混じり。 リベリスタへの殺意で満たしなよ 君は空っぽじゃないよ ――愛してる 「…………」 葬識の愛は自分の手で首を狩りたいという、かなり殺伐とした愛である事を先に断っておく。それを知っているみめめ。 戦場で挙動がおかしくなるもの無理は無い。ダイレクトに来た一撃だもんで。 「愛してるかぁ」 傷ついた42に乗りながら、白衣で額の血を拭う。頬が赤いのは、何のせいか。 「面白いなぁ、僕はまだ愛されてt――?? あ゛……?」 何かを言いかけ、出しても出しても、声が、音が上手く出ない。首を触れば、図太い針が声帯に刺さっていた。瞬時、吐血。 (そんな!!!? まさか、おまえらが!!!!!?) 42を止め、周囲を見渡す。状況はもはや――脱出不可能か? 身体が焦りで、急激に暑い。 (こんな所で、こんな所で――くそっがぁぁああああああ!!) 「葬……ッ、しッッ」 助けを求めた訳では無いものの、撤退していた方が良かったのかと。 口は自然に名前を呼んでいた。 振り落とされてきた刃に対抗せど――彼が大穴に辿り着く事は無い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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