● ピン……と弾き上げられたコインがライトに照らされてカスティール・ゴールドにその身を染める。 手の中に落ちてくる感触は冷えきって男の心を表している様だった。 男の脳裏に浮かび上がるのはノイズ掛かった映像。 ザザ……。再生されるそれは壊れたテレビの様に不鮮明で断片的だ。 切り捨てたの家族の顔か、それとも切り刻んだ実験体の顔か。 インク・ブルーの空に浮かび上がる、デッド・ムーン。男にとって死の光。 「さて、行くとしますか」 隣に居るのは相棒と呼ぶべき巨体。自身が最高の技術と知恵で作り上げた生物兵器。 己の道を極める「六道」のフィクサード海音寺政人とそれに従うキマイラの姿だった。 自身を取り巻くすべてのものを排除して己の研究の為に生きる。 そう決めたのはいつだっただろうか。 妻も子供も居た様な気がするが、もう顔など覚えていない。 ――ああ、妻は一番初めの実験体に使ったんだったか。子供は……。 ノイズ掛かった映像と共に生涯の伴侶を切り刻んだ記憶と子供の寝顔が闇の底から浮かび上がった。 あの頃は幸せと呼べたのだろうか。 研究に没頭するあまり家族を全てを失った男。 アーティファクトを手に入れた時から全てが狂いだした。 自身の愛する妻を研究の為にキマイラのパーツにした時から、彼の心は壊れた。 否、全てのしがらみから開放されたのだ。 今は時々こうして断片的なノイズとなって走る程度の記憶しか留めておけない程に。 彼は壊れてしまっていた。 自嘲する様に口の端を上げた男は12月の冷たい風にコートの襟を寄せる。 「私は求道の六道。何にも縛られない」 今宵繰り広げられるであろう、カーニバル・レッドの戦場に男は想いを馳せた。 ● 『六道紫杏が研究員とキマイラの大群を引き連れて三ツ池公園に押し寄せてくる』 その緊急事態はアーク本部を不安感と緊張感に包み込んだ。 リベリスタ、フォーチュナ共に足早にブリーフィングルームへと歩みを寄せる。 三ツ池公園『閉じない穴』は去年の今頃、ジャック・ザ・リッパーとの死闘で勝ち取った崩壊奈落の停止。 崩壊レベルを留めたいアークにとって絶対死守すべき、重要拠点であった。 しかし、崩壊度が上がる度にキマイラがより完成に近づく事を発見した六道紫杏にとって『閉じない穴』を奪取することは、最も効率の良い道。 己の道を極めるために、リスクを払って三ツ池公園へと侵攻する。 「アークも迎撃をする」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタへ今作戦の目的を告げた。 黙って六道に奪取されるままにするはずもなく、アークも相当な戦力で布陣し迎撃をする。 閉じない穴の陥落はキマイラの強化につながる。すなわちそれは、甚大な被害が後に続くということだ。それだけではない。後ろにちらつくジェームズ・モリアーティ教授、バロックナイツの気配。 単純な戦いではない。それぞれの思惑が交錯する戦場で、アークは戦うのだ。 「資料を見て」 端的な言葉でリベリスタ達に指示を出すアークの白き姫。 資料に書かれているのは数体のキマイラと六道のフィクサードの名前。 それと、アーティファクトの詳細だった。穿たれている刻印は、W・P。 『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュが刻む呪いの標だった。 「かなり危険なアーティファクトだから、気をつけて」 カーニバル・レッドの戦場に、紛れ込んだ『毒』が今宵、狂いながら踊るだろう。 ●漣 誰が為、己が為。突き進む代償と痛みを忘却の対価とするのは軽薄。 狂気と血祭を其の身で贖うのならば。止まること無く揺蕩う、わだつみの様に。 ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月26日(水)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ザザ……。それは、テレビ画面のノイズに似ていた。いつも、聞こえてくる音。 この音は何だっただろうか。……ああ、そうだ。海が鳴いている音だ。 『さざなみ』が頭の中に響いているのだ。 その声は世界で一番愛おしい『―――』によく似ている。 「『―――』……?」 「なあに? あなた。ほら、あなたの研究は素晴らしいものよ。あなたの頑張っている姿は本当に素敵よ」 「そうかな? 君にそう言われると張り切ってしまうね」 そこに居ないはずの妻の声に対して男は嬉しそうに応えていた。 三ツ池公園『水の広場』は本来であればクリスマスのイルミネーションがあったのかもしれない。 しかし、冷たいシルヴァの月が照らす水の広場は凍える程に寒かった。 リベリスタが六道のリベリスタ海音寺政人の姿を捉えた瞬間にその場は彼の領域と化した。 海音寺から舞い上がった青の気糸は前に出ていた『牙持つ者』ジノ・カランガ(BNE004142)と『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)の急所を的確に喝破する。 重くのしかかるプレッシャーと回復の効かない楔が2人に穿たれた。 スカーレットに視界が染まり、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)はペール・ライラックのドレスを早々に赤く染める。 『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)の漆黒の髪がはらりと空中に舞った。 鮮烈なる攻撃に対して直ぐさま行動を起こしたのは幸成。 モリオンの黒を纏いこちらの後衛目掛けて猛進してくるダッチアザーの巨体の前に立ちはだかる。 この戦場で一番完成度の高いキマイラを後衛に近づければ、甚大な被害を巻き起こすことは容易に知れる。 だからこそ、幸成はその身を張って敵の前に立ったのだ。傷を負う事は覚悟の上で。 行く手を阻まれ前に進めないキマイラは、目の前の幸成に向け流河を放つ。 彼の影舞闘着を持ってしても避けきれぬ痛烈な水圧咆哮を伴った攻撃。幸成が水上歩行を持っていなければ、足元から掬われ致命的なダメージとなっただろう。 ジョニーはその傷ついた身体を物ともせずケープに向けて走りだす。 拙者は個人の趣味や研究を否定することはせぬ……。だが、家族を大切にしない者は決して許さぬ。 敵の行く手を阻んだジョニーはフィニックス・レッドのマントを靡かせ土の拳をケープに打ち込んだ。 「このキマイラは、確かに敵であるが、同時に狂人による被害者でもある」 特にケープは、海音寺の妻。となれば、おそらくモーヴは……。 彼女らを救ってやりたいのはやまやまだが、それは叶わぬ。せめてその魂だけは救わねば! しかし、出来損ないといえど六道の生物兵器キマイラである事に変わりはない。 ジョニーの攻撃は痛打にはならず、多少のダメージを与えたのみであった。 (海音寺政人……彼はボクの対極にいるのでしょうか?) 『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)は黒いコートを纏った男を想う。 狂って行く過程で家族を切り捨てた海音寺と、家族に縛られ続け狂った光介。 梅雨の終わりに蛍の火が怖いと恋人に吐露したのは、そこにまだ家族が居るのではないかと思っていたからだ。 それ程までに自責の念を抱いて、亡き家族への償いのためだけに癒し手を続ける自分は、海音寺を責める事ができるのであろうか。 それでも相対する敵に向かっていく少年。その心は未だ弱く、揺れ動いているが、清らかなホリゾン・ブルーの瞳は光を失っていない。 先の攻撃で重傷を追っているジノに向け、光介は天使の息を施した。ペール・アクアの光が仲間を優しく包み込む。 光介が回復を終えた一瞬の隙を突いて、その身体にモーヴの放った霧が纏わりついた。 『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)と『Anemone』七月・風(BNE004135)をも巻き込み毒霧が広がって行く。 その霧が晴れる頃、暗闇の中から黒の黒を引き連れて愚者がやってきた。 ―――己が為、突き進む代償と痛みを忘却の対価とするは軽薄 然り、望みの為に全てを賭す。それは道理、至極必然。 倫理?常識?正義?秩序?実に下らない。 己が身命、世界すらその贄へ捧げずして何が得られよう。 渇望するとはそういう事。狂気に堕ちる事すらが逃避。私はそんな欺瞞を許しはしない。 男が一歩を踏み出す度に暗黒の蛇が地に爆ぜる様だ。 それほど迄に『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は“異彩”を放つ。 未知を知る。その為ならば己が命すら惜しくないと。及ばざる者が持つべきでは無いと断罪しながら。 「さあ神秘探求を始めよう」 ――――神秘探求同盟第零位・愚者の座が闇の中から戦場へと現界した。 ●ザザ……。 「あなた、いつもご苦労様。……でも、子供達の誕生日ぐらい一緒にお祝いして欲しかったわ?」 「えっ、今日は子供達の誕生日だったのか? すっかり忘れていたよ。すまない」 最愛の妻は「仕方が無いわね。もう2人共6歳になったのよ」と子供部屋を覗きこんだ。 双子の兄妹はすやすやと寝息を立てている。 「そうか。まさやとなぎさも、もう小学生か。大きくなったなぁ」 子供の頭を両の手で撫でてから、妻をそっと抱きしめた。 「子供達と君が居てくれるだけで、俺は幸せだよ」 「あなた……」 「『―――』……」 ザザ……。ザザ……。ザザ……。 「あなた、いつもご苦労様。……この調子で頑張ってくださいね?」 「ああ、君の為にも頑張らないとね」 男の記憶がまた一つ、塗り替えられていった。 モーヴのブロックに回るのはグラファイトの黒。『珍念』那由多・エカテリーナ。 彼はもう戻れないんですね。 妻を切り刻み、子供も捨て置いて。それでも己の研究を追い求めた海音寺。 アーティファクトによって記憶や思い出が改竄されていく。敵には研究しか残っていない。 くすくす……。 グラファイトの黒が纏った瘴気の狭間から笑い声を響かせる。 「何て滑稽なんでしょう」 他人が壊れていく様は、安い紙芝居の如く無様で滑稽。哀れで可笑しいのだ。 カランガの戦士ジノは卑怯を疎んじ、誇りを守り、戦に死す者だった。 その脳が集中領域を拡大させていく。 「人をこのような姿に歪めてまで……そうまでして何を得たかったというのだ!」 3体のキマイラを見つめ、コーディはジョーンシトロンの瞳で憤慨していた。 家族を知らない否覚えていないコーディだったが、己の内に響く声が告げるのだ。 家族を犠牲にする事などあってはならぬと。だから、コーディは紫電を放つ。 「求道の六道だと? ではその求道の先には何があるというのだ……!」 海音寺はコーディの叫びに一瞥をくれた。その瞳は冷たいリッド・ブルー。 その先に、何を見ている! 海音寺政人! 出来損ないと言われたキマイラが目の前のジョニーにしがみつく。 重くのしかかるその攻撃を交わすことができない。じくり、と治らない傷から赤が流れだした。 風は牡丹一華の種子を呼ぶ。 生きる為や目的の為に邪魔になるんだったら、いっそ捨てた方がいいものって色々ありますよね ボクもそうやって捨ててきたものがありましたっけ……もう思い出せない気持ちとか。 風の周りにルネッサンスヴァイオレットの残像が垣間見えた。 「こっちに来て初めてのお仕事ですが…何だか大変な事になってますね」 ドルフィンブルーの瞳でキマイラを見つめ。語る事も無い過去の出来事から、彼女は割り切りが得意であったから。 「まあ、どんな事情があれ、ボクのする事は同じです。安くない報酬を頂くんですから、その分の働きをしなきゃいけません」 紫の思考が切り替わる。 ザザ……。あなた、あなたあなたあなたあな……ザザ。ザザ。 「私の作品に触れるな!」 戦場に木霊したのは海音寺政人の声だった。それは明らかな怒気を孕み隠せない苛立ちが瞳に浮かんでいる。 出来損ないを何故戦場に連れてきたのか、何故処分出来なかったのか。 心の歪みが見て取れる様だった。故にフィクサードは壊れていたのだが。 ケープへと攻撃をしかけていたジョニーに対して、彼の動き全てを掌握した至近距離からのボディブロー。 神秘を帯びた手甲から繰り出される連続攻撃。とてつもない痛打だった。 フィクサードが前衛にでてくるはずが無いとリベリスタは思い込んでいたのだ。 ジョニーは連続攻撃に追い詰められ混乱状態に陥る。 幸成は篭手の下に仕込まれた鞘から飛び出す刺突用小刀と、その柄に結びつけた気糸でダッチアザーを抑えようとしたが強靭な巨体を拘束することが出来ない。 幸成の目の前でキマイラが身を反らせる。「何かが来る」と感じた瞬間に飛来したのはシャドウ・ブルーの揺らめき。 リベリスタを覆った紺海が爆砕し、辺に雷の如く轟音を響かせた。 光介以外の全員がその身をカッパー・レッドに染めている。 羊少年が立っていられたのはルネッサンスヴァイオレットの残影が彼を守りきったからだった。 風は誰よりも身体を血に汚している。その身体がガクンと折れた。 しかし、彼女は立ち上がる。 「……ボクの運命で埋め合わせましょう。ボクの運命なんて安いものです!」 風の紫色の運命が燃え上がった。 リベリスタがダッチアザーの攻撃により疲弊している中、ジョニーの混乱はまだ解けていなかった。 その逞しい筋肉から繰り出される攻撃は仲間であるジノに命中する。 膝を付くジノは獅子の雄叫びを上げ己を奮い立たせた。橙色のフェイトが燃えていく。 光介は魔導書「迷える羊の冒険」の一節を唱えた。それは上位神の元まで届きその息吹がリベリスタに降り注いで傷を癒していく。 モーヴは霞橘による刺突で那由多とコーディを捉えた。これが風に当たっていればその場で戦闘不能になっていただろう。 イスカリオテの暗黒とも思える光が敵全体を包み込んだ。 モーヴ、ダッチアザー、海音寺にダメージを与えている。しかし、ケープは無傷であった。 「何故……」 その声はフィクサードのもので、咄嗟に出来損ないのキマイラを庇った自分が信じられなかったのだ。 ●ザザ……。 ぐちゅぐちゅと腹をかき回した。一般人の女をキマイラにした時の記憶。 その顔は愛しい『―――』そっくりだった。 ザザ……。 ザザザ……。 いや、そんなはずはない。『―――』はこんな所に居るはず……。 「あなた、突然ごめんなさい。お弁当を入れるの忘れちゃって、届けに来たの」 ザザ……。 コレはいつの記憶だ。ダレの記憶だ。分からない。 ―――愛おしい『みさき』はどこへ行ったのだ。 出来損ないのキマイラが那由多の攻撃でドロドロに溶けて行った。 予想していたよりもかなりの時間を掛けての討伐。 くすくす……。 海音寺の動揺が可笑しかった。グラファイトの黒が那由多が嘲笑う。 「あ、あ。貴様、よくも私の作品……、ぐう、違う、あれは。あれは」 「うふふー、政人さーん。苦労して作った作品が壊されるのって、どんな気分ですかー?」 那由多がフィクサードに言葉を投げかけた。笑いを含みながら、蔑みながら。 「私の予想だと最高かなー。だって、まだまだ改良の余地が有るって分かったんですから!」 くすくす……。三日月の唇が笑っている。 海音寺は出来損ないを殺した那由多に猛烈な連打を浴びせた。 しかし、グラファイトの黒は混沌奈落。混乱にはならないのだ。 那由多の瞳を見、漣が興味を示した。その混沌の色、瘴気のグラファイトの黒を。 『くすくす……。良い色。ぐちゃぐちゃにしてあげたい』 「くすくす……。私もあなたをぐちゃぐちゃにしてあげますよ」 海音寺の瞳を通し、漣との刹那の邂逅。逸脱の青はグラファイトの黒に詩興を得た。 幸成はダッチアザーに麻痺をつける事に成功した。巻き付いた気糸が絡まり巨体が身動きを止める。 W・Pのアーティファクトに魅入られ堕ちた者がまた一人、で御座るか……。 道を外れた道を往く者に、我らの道を妨げられるわけにはいかぬな。 多くの命をこの手で奪ってきた。時には無実のノーフェイスを。友好的なアザーバイドを。 百戦錬磨のフィクサードを。赤き戦士達を。殺してきたのだ。 それでも、正しいのだと言い聞かせて進んで来た道から外れるものには容赦はしない。 アークは世界の崩壊を防がなければならないから。 黒装束に身を包んだ幸成は己の手を汚すことも厭わない、非情な忍びなのだから。 ジョニーはモーヴにその拳をめり込ませる。しかし、痛打にはならずにいた。 ジノがモーヴの攻撃によってとうとう膝を付いた。そのまま意識を失う。 前衛であるジノを失った事により、度々後衛に攻撃が届くようになっていった。 それは回復役の光介も例外ではなく、その度に庇いに入った風の体力が削られていく。 ● 前に出ていたイスカリオテは海音寺へ挑発の言葉を投げる。 「さて実に見事な失敗作、醜悪な未完成品だ」 ケープが溶けていった後の海音寺の攻撃は静謐を欠いていたのだから。 「これは貴方の妻だったそうですね。それを切り捨て至った頂きが、これですか」 見下したクリムゾンの瞳で。 「実に無様だ、才能が無い。何よりもこの程度で壊れる心では、既に終わりが見えている。違いますか漣よ」 フィクサードの瞳の奥、逸脱の青に語りかける。海音寺と漣を二重に煽る。 『くすくす……』 「少なくとも私であればもう少し楽しませてみせますが」 『この攻撃で自分を見失わなければ、その言葉信用するわ』 挑発に乗った海音寺の正確無比な連打は漣の能力が重なり、イスカリオテを混乱奈落へと誘う。 灼熱の砂嵐が赤を纏いリベリスタに吹き荒れる。 愚者の座でありながら渇望するのであらば、今回のカードは逆位置であっただけの事。 赤の砂塵から光介を守りきった風はその身を地に伏せた。 「すみません、後は頼みます……」 光介の回復が届くより先にアネモネの花が散る。 風の穴を埋めるよに光介の盾と成る為、幸成はダッチアザーの前から離れた。 敵の攻撃で、ジョニー、コーディ、イスカリオテがその膝を折っている。 未だ2体のキマイラとフィクサードは健在であった。時間だけが流れていく。 モーヴの攻撃がコーディを貫いた。 ヴァルカンの翼を赤黒く染め上げコーディはバトルシップ・グレイの鎧を破砕している。 血を流し、息も絶え絶えでそれでも 「何にも縛られない? アーティファクトに心を、思考を、行動を制御された者が寝言を言うな!」 激高を抑えることが出来ない。冷静でなどいられない。 「お前が研究を始めた目的はなんだ! 集中するならば、そちらではないのか!」 海音寺が研究を始めた理由は家族を養う為だった。給料が良ければその分幸せにできる。 心優しい父親であったから。それももう、全ては失われてしまったのだが。 否、子供達は健在であった。モーヴの中には居ない。両親を失った兄妹はどこかの孤児院に引き取られていたのだ。今はもう中学生になっているが海音寺には知る由もない。 コーディは4つの魔曲を響かせる。きっとこれが戦場に立っていられる最後の攻撃だから。 全てを投げ打って、モーヴに叩き入れた。―――4つの色彩が螺旋を描き、モーヴに襲いかかる。 中身をぶちまけながらよろめくキマイラ。これは、誰も予想もしていなかった痛打だ。 モーヴがドロドロと溶けていく。それと同時にコーディもバタリと倒れていった。 ジノがコーディが、自分を庇い続けてくれた風が戦場に倒れている。 光介は悔しかった。目の前で仲間が傷ついていくのを防ぐことができない。 それは、同じ癒し手である恋人も戦場で想ったことである。彼女も自分に焦燥感を覚えていた。 ダッチアザーさえ倒せれば……。 しかし、戦力を欠いた状態で戦い続ける事は全滅を意味するのだ。 家族を失った光介にはそれが出来なかった。―――だから、苦渋の決断をした。 「……撤退しましょう」 彼は冷静であった。この戦場で誰よりも、状況が読み取れていたのだ。 幸成はジノを、那由多はコーディを、イスカリオテは風を担ぎ上げ、ジリジリと後退していく。 それでもジョニーは一縷の望みを持ち海音寺に斬風脚を繰り出した。 その疾風は止まる事はなく海音寺の肩を掠めていく。 代わりにフィクサードはジョニーに攻撃を叩き込んだ。 鍛えられた身体が地に沈んで行く。 ジョニーが身を呈したおかげで、リベリスタは攻撃圏外へと移動することが出来た。 しかし、ジョニーはいまだ取り残されたまま。 駈け出した光介は海音寺の前に立ちはだかった。青と青の瞳が交差する。 光介の姿が息子の『まさや』と重なった。全く似ていないというのに。 ノイズが、漣の音がどんどん酷くなっていく。 『あなた、もう良いんじゃない? 帰って研究を続けたほうが有意義よ』 「ああ、そうだな」 光介は海音寺に問いたい事があった。 ―――家族を忘れて、本当に開放されたのですか、と。 それならボクも……。 次に現れたのなら、問う機会もあるだろう。だから、今は戦場を後にするのだ。 リベリスタが撤退して行くのを見届けて海音寺政人はダッチアザーと共に踵を返した。 ネイヴィブルーの夜空には冷たいシルヴァの月が見える。 男はカスティール・ゴールドに染まったコインをピン……と弾き上げた。 「みさき」 つぶやきは白い息と共に消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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