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<三ツ池公園大迎撃>殺戮行軍。「キル・ユア・フレイム」

●I'll KILL you,FireWheel!!
 その日、三ッ池公園には殺意と暴力が満ち溢れていた。
「おら゛ァアアアああぁア!! 死ねやゴラァアアア!!!」
 手当たり次第。暴力のままに。力の限り。
「全くフレッドはボキャブラリーがド貧弱だなぁ」
「張り切ってるなー」
「ボヤいてる暇があったら働け」
 殺意に溢るる同僚に続く六道の研究員達は各々に、キマイラに指示を出しながらも刃を振るう。
 しかし、先陣を切る男の殺意の高い事高い事。彼、フレッド・エマージは自らの顔を焼いたリベリスタを火を憎み憎み憎み憎む彼はとうとう余りにも憎たらしい故に、自らに寄生させているキマイラを改造して『燃えない不定形の氷』としてその身に纏ってしまった程だ。
 だが殺意の理由はそれだけでない。

 ――愛しの姫君はいけ好かない逆凪のアイツと行動を共にした。
 閉じ無い穴を手に入れるべく、世の崩壊を加速させるべく、キマイラをより『完璧』にさせるべく。

(腹立だしい!)
 それに加えて、我ら六道の邪魔をする『楽団』の存在。ハイエナ共め。腹が立つ。折角、紫杏の護衛に抜擢されたというのに。
 なのに、自分に課せられたのは一つの任務。それは単純明快すぎる程にシンプルだった。

『エマージ、皆殺しにしてらっしゃい』

 そんな一言、たった一言。嗚呼、嗚呼、嗚呼! それでもそれでもだとしてもだ! どんなに不満だろうが、彼女の言う事ならば!
 巨大なキマイラを引き連れて行軍し、侵略し、侵攻する。殺戮の行軍。容赦なく見境なく見敵必殺。
「いいかお前ェ等ァ! 片っ端から殺せ! 殺しちまえ!
 アークだろーが! 楽団だろーが! 紫杏様の邪魔をする奴ァ誰一人! 生きて返すな!
 殺せ! 殺せ! 殺せ! ブッ殺せ!!

 命という灯火も、憎たらしい『火』も、消してやる。この絶対零度の氷で。凍て切った殺意で。

「殺す……殺す……どいつもこいつも!! ぶっ 殺す !!!」

●イワレナキリベンジ
「――こちらメルクリィ。皆々様、ご健在ですか?」
 三ッ池公園に展開したリベリスタ達の通信機に飛び込んで来たのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の声だった。
「ご注意を、六道のキマイラ勢力がそちらに向けて侵攻しております! 彼等は紫杏様直属の研究員とキマイラで構成された小隊ですぞ。
 彼等は遊軍的に戦場を巡り、手当たり次第に被害を撒き散らしとります。どうやらこのままだと皆々様の所にブチ当たりますな」
 さて、と機械越しの声が一つ区切り、説明する。『手当たり次第』という随分『作戦的』でない行動なのにその進軍が止まっていないのは、それだけ彼等が『強力』だという事を。紫杏直属、というのは伊達じゃないらしい。
「彼等。文字通り『全身全霊』ですな。そりゃあもうやる気に満ち満ちてます。キマイラも今までの実験の成果を全て注ぎ込んだ傑作のようですし」
 当然だろう、彼等の『主人』の事を考えれば。彼女、六道紫杏は本気でここを攻め落とすつもりだ。力を余らせる余裕なんてない。尤も、それは此方にも当てはまる事なのだが。
「非常に危険度の高い任務です。彼等の殺意は非常に高く、特にフィクサード達は倒れた者へ積極的にトドメを刺そうとしてくる事でしょう。……お気を付け下さいね。
 ですが、このまま彼等を放置する訳にもいきません。――彼等の進軍を止めて下さい。何としてでも」
 『楽団』の不穏な影が蠢く中、被害は最低限に抑えねばなるまい。
 防衛戦。何の因果か、かの日のジャック・ザ・リッパーの様に。

 ――そう言えば、あの日も寒い冬だった。

 凍て付いた空気は血の臭いを運んでくる。
 敵を待ち構えるリベリスタ達。そんな彼等に、フォーチュナは一間を開けて声をかけた。
「大丈夫。皆々様なら、きっと大丈夫!」
 顔こそ見えないが、彼は笑んでいた。勇気付ける様に。或いは、己の不安な気持ちを押し殺す様に。
「私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ!!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月26日(水)23:27
●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性がございます。

●目標
 六道ユニットの撃退

●登場
『悪夢蛆』フレッド・エマージ
 顔を包帯でぐるぐる巻きにしているメタルフレームの男
 後述する心臓マゼンタ改を自らの心臓に寄生させ、半一体化している。故に身体能力が高く、氷系BS無効&常時ブレイク不可のリジェネ状態。
 一般戦闘スキルに火炎無効、非戦スキルに痛覚遮断を活性化
 自他問わず触れた血液から氷蛆虫を作り出す能力をもつ。作り出す数は血液の量に依存する。
 全ての攻撃に凍結、氷結、氷像がランダムで付与される。
・氷点下災厄:P。10m以内に接近した者に毎Tダメージ小+EPロスト小、5m以内に接近した者へ毎Tダメージ中+EPロスト中
・マゼンタα超改:近単、弱点、必殺
・マゼンタγ超改:遠2複貫、物攻無、失血
・マゼンタΩ超改:全、ショック、ブレイク
・Exベルゼビュートの召使い:遠域、HPEP吸収、呪殺、流血

キマイラ『心臓マゼンタ改』
 フレッドの心臓及び血液に寄生し、彼と半一体化している液状のキマイラ。超低温の冷気を放っている。
・氷蛆虫
 心臓マゼンタ改が血液から作り出した極低温な蛆虫状の赤いゲル。人の頭部大
 個々の能力は低め。飛びついて動きの阻害・噛み付きによる持続ダメージ、凍結・氷結付与を行う
 3T経過で赤いゲル状の極低温な蝿となり能力値アップ。強力な吸血攻撃(HPEP吸収、流血付与)と凍結付与攻撃を行う。
 開始時に氷蛆虫は10体、氷蝿は5体。

キマイラ『デス谷さん改』
 メタルフレーム×クロスイージスのフィクサードでサイコキラーだった。
 様々な機械が合体したような巨人。全身からアンテナめいた棘が生え、包帯めいた生体装甲が身体を覆っている。
 高防御。自己再生能力があり、生命力が強い。ブロックに3人必要。
・親友/殺意システム:P。防御無視の攻撃を受ける毎に攻撃力が上昇する。
・親友/生産工場:1T溜める事で『ジャンクソルジャー』を3体作り出す。
・親友/パーフェクト基盤シールド:自己付与。近接攻撃をヒットさせた対象に雷陣付与。反。
・親友/サインポールミキサースピア:遠2貫。ノックB、失血
・親友/荒ぶるチェーンソー:近範、圧倒、重圧、流血

キマイラ『ジャンクソルジャー』
 機械と肉を混ぜ合わせた様な厳つい人型のキマイラ。両手がチェーンソー状となっており、攻撃に出血か流血が伴う。
 開始時は3体

フレッドの同僚フィクサード×3
 ジョンソン(デュランダル)、マイケル(覇界闘士)、トーマス(クロスイージス)。紫杏の直属研究員で実力はそれ相応。
 戦闘不能者に対して積極的にトドメを刺そうとしてきます。

●場所
 三ツ池公園の開けた箇所。

●重要な備考
『<三ツ池公園大迎撃>』はその全てのシナリオの状況により『総合的な結果』が判定されます。
 個々のシナリオの難易度、成功数、成功度によって『総合的な勝敗』が決定されます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●STより
 こんにちはガンマです。
 オーバーキル。
 皆様の本気と覚悟をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
デュランダル
義桜 葛葉(BNE003637)


 復讐は何も生まないんだ、なんて良く聞くけれど、それは嘘だと思う。

●Dead or Death
 冷えた空気。冷え切った空気。
 三ッ池公園。其処彼処が死に、暴力に満ち満ちて。
 ある者は思う。あの時――『伝説の殺人鬼』と戦った時も丁度この時期で。何の因果か、この度『迎撃』するのはこちららしい。
「決戦てなもんですなぁ」
 生々しくておどろおどろしい戦いの雰囲気に『√3』一条・玄弥(BNE003422)は「くけけっ」と奇っ怪な笑い声を漏らした。
「蛆に蠅にごきぶりにとドブの最低決戦ですなぁ。ま、あっしには相応しいってなもんですがっ」
 いつも通りやらせてもらいやしょ、と。常通りの悪びれない卑屈冷笑。金色夜叉の鋭利な刃が不穏な薄闇にぎらりと光った。
 そんな皮肉屋の言葉に、「は」と自嘲めいた溜息を漏らしたのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)。よりによって六道の精鋭とぶち当たるとは、どうやら『運命』という気紛れな女神様は彼と死神の恋のキューピッドになる事に御執心らしい。
「ああ良いだろう、此処まで来た以上は相手になってやるさ」
 自動拳銃ナイトホークを握り直して彼方を見澄ます。恋人との約束もある――こんな所で死んでやる程、この命は軽くない。
 リベリスタは敵を待ち受ける。緊張の中、布陣し、武器を握り直し、乾く唇を舐め。一瞬で、それでいてやたら長く長く感じる空白時間。
 しかし、されど、直後。
「……!」
 ぴくり、と『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の狼耳が反応した。集音装置。猛速で接近してくる足音、物音、息遣いと――
「……まるで躾のなっていない犬の様な語彙の無さだな」
 殺すだの、殺すだの、ぶっ殺すだの。喧しさに品の無さが相俟って非常に耳障りだ。眉根を寄せ、火縄銃を静かに構える。
「喧しくて敵わん。とっとと黙らせてやれ」
「あー、言われんでもそのつもりだ」
 後頭部を雑く掻き、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は盛大に溜息で返事をする。あぁ、もう、害虫駆除をし損ね続けた結果がコレだ。一体あいつは何処に向かおうというのか。
「害虫らしい害虫で最早清々しいわ。みっともなくって逆に笑えて来るぜ、あんなん一匹潰せんオレによぉ!」
 ははははははははは。はぁーあ。
「……にしても何か勘違いしてんじゃねぇか? 糞虫如きのツマラン氷に火が点かない?」
 再度の溜息の後に、気を制御する呼吸。ゴキリと鳴らす拳。彼方から吶喊してくる小隊を目認し、慣らすよう手指を開閉して――

 オレの火は消えない。

「消せない炎は燃やす! 焦がす!」
 殺意十分、上等だ。拳同士を搗ち合わせる。一匹でウジウジしている蛆虫にこの『火』を消すなんざ――あぁ、言ってやろう、大声で。「無理だね!」と。ご挨拶だ。視線が合った。
 ――『悪夢蛆』フレッド・エマージ。リベリスタの予想通り、彼を先頭にキマイラとフィクサード。殺意溢れる視線が火車を睨め付ける。嗚呼、これでかれこれ何回目だ? 嫌な因縁だ。きっとこういうのを『腐れ縁』って言うのだろう。腐りすぎててそりゃあもう愉快な臭いがする筈だ。
「宮部乃宮ァアアァ……!!」
「よ~毎度ぉ愉快な蛆虫君お元気ィーー? 今日も邪魔しに来てやったぜぇ!?」
 鬼暴で武装した左手でチョイチョイ、挨拶をすれば案の定――いっそ思った通り過ぎて笑えてくる――フレッドは殺意を前回にして弾丸の如く、火車目掛けて思い切り地を蹴った!
「今日がてめぇの最期の日だ宮部乃宮火車ァアアアアアアッッ!!」
「ご丁寧にフルネームで呼ぶんじゃねぇよド腐れのクソボケがァア!!」
 飛び掛り、拳を振り被り、互いの顔面に。業炎の拳と氷点下の拳が交差する。ぐしり。ごきり。揺れる脳とぶれる視界と噴出す鼻血と切れた口内と。
「ぶはッ……はは、ハハハハハひゃーっはははははははは!」
 ボタボタ血を垂らしながら火車は笑う。可笑しいから笑う。凍傷が刻まれた頬で笑う。フレッドの放つ冷気が体力を奪ってゆくが、それが何だと言わんばかり。
「てめぇ、何が可笑しい!! 面の皮剥ぎ取って死なすぞ!!」
「ちげーよアレだよ! ちょっとテメーに謝りてーんですよエマージ君!」
「謝るだァ!?」
「あぁそうだよオレがてっきりテメーを蛆虫君だと思ってた事だっつのぉ! 悪かったなぁ? マジごめん! ひゃはっぎゃはははは! ほんっっっと……毎度毎度笑わせるぜ! テメェは糞! って事ぉご存知でしたかぁ!!?」
「言わせておけばクソガキがぁああ゛あ゛ああァ今日と言う今日は今日は今日こそはお前をお前を絶対に絶対に絶対に絶対に」
「『殺す』ってかボキャ貧!!」
 言葉と、暴力の凄まじい応酬。言葉は火車の、暴力はフレッドの優勢か。強化したというのは事実らしい、その一撃は前にも増して重く、放つ冷気は居るだけで体力が奪われ、氷が火車を蝕む。
 しかしそれに抗う様に、飲み込んでブチ燃やすかの様に、燃え上がるは消えない火。真っ赤な炎。篭る熱に浮かび上がる『爆』の文字。握り締める拳。
「テメーはとっとと燃えてろや!!」
 マゼンタγ超改の鋭い刃に臆する事無く、前へ。前へ。振り被る炎。

 氷蛆虫と氷蝿が行動を開始するリベリスタ達に襲い掛かる。
「ったく……」
 踏み潰したつもりが瀕死になりながらも未だ動く。冷気と共に足へ喰らい付く。それをTerrible Disasterの弾丸でふっ飛ばし、『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は拳をゴキリと鳴らした。
「相変わらずやっこさんは宮部乃宮のニーサンにお熱だねぇ。気持ち悪いったらねぇなー」
 死ね、殺す、やってみやがれぎゃはははは、なんて聞こえてくる。まぁ、彼には仕留め損なった責任をきっちり取って貰うとして。
「他のお掃除といきますか。――あんま調子くれてっと痛い目見るって教えてやるよ」
 瞳に孕ませる暴力。睨め付け走り出すその先には。
 その先には。
「趣味悪ぃ形してんなぁ……。もうちっと見た目も気にしたほうがいいぜ」
 なんて、言葉を投げかけてみる。キマイラ。元人間。フィクサードだったそれ。今やただの馬鹿でかい機械の塊。その名はデス谷さん改。確かに瀬恋の言う通り、『悪趣味』と『俄かSF好き』を足して二で割った様な見かけ。
 ざーーーーっ、と。砂嵐を思わせる咆哮が響いた。既にシールドを展開させていたデス谷さん改のサインポールミキサースピアが轟と放たれ、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の肩口を抉り切り裂いてゆく。飛び散る赤。しかし彼女がその口唇で作り出したのは悲鳴ではなく、常の不敵な微笑。
「あら御久方ぶり。変わり無いようね……さっさと葬るべき、と云う意味でね」
「まさか改造されて出てくるとは、予想以上に愉快な方だったようですね」
 再戦時はより強くなってるだろうと予想はしていたが、こんな再会の仕方をするなんて。言葉を重ねた『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は諸手の刃を構える。
 数奇な運命。この機械の巨人こそ、エナーシアと彼女がかつて仕留め損ねた相手である。
 複雑な因果。されど、自分達だってあの日から随分と成長したのだ。
「マッドな連中が変に混ぜ捏ねしてないで良かったわ……貴方と共に逝くのは親友だけで十分」
「復讐に燃えてるのは貴方達だけじゃない。その殺意ごと、踏み躙らせてもらいます」
「もうリピートは無しとしませうか、デス谷さん」
「ここで、終わりにします」
 そして戦場を染め上げるのは白、ガーネットが放つ厳然たる閃光。
 そして戦場に響くのは銃声、マイケルの眼前に立ちはだかったエナーシアが周囲の敵影に放つ集中を重ねた神速の早撃ち。
 容赦はしない。出鼻を挫かんと最初から本気。

「フレッド・エマージに、デス谷、ね……」
 戦いを始めた仲間達を、戦場を見、もう一人のレイチェル『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は呟いた。名前は聞くが、自分には因縁のない相手。故に、彼女は皆のサポートをするだけ。いつも通りに全力を尽くすだけ。
「熱がある人は、熱く燃えたらいいわ。相手が相手なら、なおさらじゃない」
 そして戦う仲間を支える事が、彼女の戦い方。白き魔法杖キュベレ・改を掲げ、詠唱を以て皆に施すのは翼の加護。白い羽が皆の背に生え、その行動を僅かながらも『羽の様に軽く』。
 その背後、体内魔力を活性化させた『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は「物騒だなぁ」と呟いた。
「殺す殺すって……そんな簡単に殺されてたまるもんですか!」
 高らかに、謳う声にて顕現させるは聖神の慈愛。殺伐とした戦場を吹き抜ける清らかな風がリベリスタ達を癒し、鼓舞し、痛みを払拭する。暴力に抗う力。アリステアはきっと六道勢力を睨め付ける。
 ――かわいそうな生物を作り出す組織なんて、壊れてしまえばいいのに。
「命を冒涜するなんて許せないよっ!」

 響く健気な声。
 されど六趣の者共は笑う。

 暴力的なまでに振り回されるデス谷さん改のチェーンソーが『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)を捉え、その脇腹を切り裂いた。激痛。肉を引き千切られる感覚に噛み締めた歯列から苦悶の声が漏れる。
 されど――これしきの痛み、覚悟の内。例え相手が縁の無い者だろうと、この公園をアークから分捕ろうというのであれば容赦無用。それに因縁を持つ仲間の手助けを少しでもしなくては。
 戦気を漲らせ、身構える。
「……来い、デカ物。お前の相手は俺がやってやる。義桜葛葉、推して参る……!」
 強く地を蹴り、その刃に纏わせるは氷点下の激情。それと同時に冷徹な殺意、彼と同じくデス谷さん改の前に立ちはだかる櫻霞がナイトホークより放つ数多の気糸。
「さあ、望み通り……殺しあおうか。思い通りに進むと思うな」
 夜に舞う気高き鷹は獲物を決して逃がさない。邪魔な有象無象を切り刻まんと繰り出されるそれは超越させた思考の下――戦場を奔る。葛葉、櫻霞とデス谷さんをブロックする瀬恋の弾丸と、マイケルをブロックするエナーシアの弾丸と、ガーネットの閃光と。
 集中砲火を浴びるのは玄弥の眼前、大盾を持つクロスイージスの六道フィクサード、トーマス。容赦のないリベリスタ達の猛撃に彼は酷い手傷を負っていたが――全力防御。黙って殺されてやる筋合もなく、裏野部の様に暴力主義者でもない。纏うオーラの反射によってリベリスタに僅かな手傷を負わせながら、そのままじりじりと後退している。一番狙われているからこそ、自分を狙う者を引きだす心算か。
「袋だたきですなぁ、おぃ」
「全くだ。困ったものだ」
 玄弥の金色夜叉が紅に染まり、その命を貪らんと振り下ろされる。盾の間隙を微かに縫い、血を吸う刃。反射の防御陣が反撃しては玄弥の肌を赤く切り裂く。
 トーマスは全力防御とオートキュアーで何とか持ち堪えているが、長くは持たないだろう――片膝突きの姿勢、火縄銃の照準を合わせる龍治は思う。
(一先ずは『作戦通り』だが――さて)
 至高と視線は冷静至極、隻眼で狙い定めるや引き金を引く。生家にて代々受け継がれてきた古銃から放たれるのは流星の様な弾丸、アークリベリスタトップクラスの命中精度を以て後衛陣目掛け襲い掛かってくる氷蛆虫と氷蝿を撃墜した。
 だが。
「ハッハァー!」
 フリーであるジョンソンが大鉈を振り回して後衛陣へ吶喊を仕掛けてきた。一人だけでなく、3体のジャンクソルジャーに『ついて来い』と指示を送り。
 それに真っ先に反応し――揺れる黒猫の尾。しなやかに迅速に、ガーネットがジョンソンの前に躍り出る。
「――行き止まり(デッドエンド)ですよ」
 振り上げられる鉈を真っ向から見据え、構えるのはWryneckとCait Sith。漆黒の二振りで叩き下ろされたデッドオアアライブを受け止めた。鈍い音、堅い音、飛び散る火花。
「っ、」
 重い、重い衝撃。ただ受け止めるだけでは押し切られる――判断した瞬間にはその軌道を変える様に得物を往なす。致命傷こそ免れたものの、黒猫の身体が赤に染まる。
 お返しだ。歯を食い縛って痛みを堪え、踏み止まりつつ翳す掌。激しい閃光。
 その正確な精度の衝撃波に蹌踉めきつ、されどジャンクソルジャー達は進行を。
「往かせるか……!」
 その一体を龍治の火縄銃から放たれる気糸の網が絡め捕る。他二体、一体は龍治へ。一体は回復手へチェーンソーを振り上げる――
「下がって!」
 アリステアをその背に、スノウフィールドはキュベレ・改を防御に構えた。電鋸の駆動音。脳を焼く痛み。纏う白鎧タイプ・レアーの雪色に血華が咲く。
「そう簡単に……やれるって思わないでよね……!」
「絶対に負けないよ。全員で生き残るんだから。皆でアークに帰るんだから!」
 スノウフィールド、アリステア。敵が眼前に迫ろうと二人のホーリメイガスの目に諦めや恐怖は無く、紡ぐのは癒しが為の聖譚曲(オラトリオ)。清らかな祈り。

 同刻。それぞれに、ブロックをしている。だが、一部の者を除き攻撃をするのはトーマス。そして『眼前に居る者』は他の敵に意識を向けるリベリスタに対し一切の容赦をしない。
「そっちがそうするならこっちも好きにやらせて貰うぞ」
 エナーシアにブロックされているマイケルが繰り出すのは虚空、貫く蹴撃で眼前の彼女ごと回復手たるアリステアを狙う。六道勢力は執拗に後衛を、特に回復手を狙っていた。その思惑は一つ、『リベリスタの生命線たる回復手の撃破』。常道でいて被る側には危険極まりない作戦。彼らはそこいらのエリューションの様に知性の無い存在ではなく――研究員、寧ろインテリジェンスな連中であった。
「……っ!!」
 血が、散る。削る。アリステアの運命を。痛い。それでも、未だ。まだ。負けない。倒れて堪るか。痛いのも傷を負うのも嫌だが、仲間を失うのはもっと嫌だ。優しい聖女は歌う。ただ、仲間達の為に。
 その気力。リベリスタ達は、フィクサード達の想像よりも遥かに粘り強い。
「チッ――おい、エマージ! 偶にはこっちも手伝えって!」
「っせぇなぁア! 言われなくっても全員皆殺しだァアアッ!!」
 ジョンソンの言葉に、エマージが掌を翳す。360度、放つ零下の衝撃波。凍り付かせる全体攻撃。
 ――リベリスタの戦意は十分、士気も高く、各々の力を発揮していた。作戦通りに行動、されど、しかし、だ。その作戦には弱点があった。ブロッカーが一人でも行動不能になると、デス谷さんは或いはマイケルは、後衛への進行を開始する。

 後衛陣は、酷く損傷が激しかった。
 肩で息をして。彼方此方から血を流して。何度目かの閃光が瞬き、振り回すチェーンソーで後衛陣を切り刻むジャンクソルジャーが沈黙した。
「はぁッ――はぁッ――」
 蹌踉めく脚に力を込め、紅目は真っ直ぐ前を見据え、ガーネットは双刃を構える。その目前には返り血で染まりきった大鉈を持つジョンソンが、神気閃光の衝撃に僅かふらつきながらも一歩。前へ。往かせるか。ガーネットの鋭い視線が彼を射抜く。
 一方の龍治も、飛来した蹴撃に喰らい付かれ。防ごうと構えた腕に、身体に、深手。切り裂かれて。迸る。一閃の赤、ぐらつく意識。
「……ッ!」
 一歩、二歩、後方に蹌踉めいた。三歩。踏み止まる。四歩目は無く、食い縛る歯。運命を代価に意識を引き寄せ、射手は戦場を見る。酷く切り裂かれた片手の感覚が無い。上手く動かせない。だが、もう片方の手がある。銃を握れる。人差し指がある。引き金を引ける。
 片手で火縄銃を構え、片目で獲物を狙った。

 ――お伽噺の火器と侮るか。ならばその身を以て知れ、それは過ちだと。

「そこだ……!」
 引き金を引いた。撃った――発砲の衝撃が肩に伝わる。弾丸は目にも止まらぬ速度で戦場を一直線に、一直線に駆けて、有象無象の合間を擦りぬけて――トーマスが構えた盾の間隙すらも精確に通り抜け、そして。
「ぐ、がっ……!?」
 彼の口の中に飛び込んで、後頭部を突き抜ける。逃れる暇すら――否、『回避せねば』と脳が反応する猶予も与えぬ正確無比な射撃だった。
 リベリスタ達の集中砲火を浴び続けた彼が緩やかに倒れる。
「おいおい、つれないのぉ」
 なんて、冗句。トーマスのブロックに当たっていた玄弥はせせら笑った。トドメは、刺すまでもない。頭をブチ抜かれて生きている人間が居るっていうなら話は別だが。
「さて、まぁ、滾ったきたんで殺りまっさ」
 死体を拝むのはそこそこに、黒闇の武具をその身に纏う。走り出す。ガーネットへと幾度か目のデッドオアアライブを振り下ろすジョンソンへ。声もなく、横合いから放つのは己が命を削って生み出す不吉な黒。僅かに遅れた防御、されど踏み止まったジョンソンが玄屋へと向く。
「いててー。次はお前か?」
「くけけっ。まぁまぁ、そうそうつれなくしないでおくれぇな、おぃ」
 かっ、とその顔目掛け吐きかける唾。躱される。返されるのはまた冗句。
「口に入ったらどうするんだお前~ある意味物防無だぞー!」
 へらへらした奴だが、撃破するまで玄弥は一片の油断もしない。徹底抗戦。殺し切るまで。切り結ぶ。刃物と刃物がぶつかり合い、擦れ合い、キリキリキリと不愉快な不協和音をがなり立てた。
 玄弥とジョンソンが戦っている間にガーネットは二人から離れ、荒れた息を整える。その身体を優しく包むのは聖なる息吹――はて。どうも回復効率が落ちている。まさか。振り返る。
 アリステアが力尽きていた。血沼に沈む彼女を護る様に立ちはだかるのはスノウフィールド、しかし彼女もまた無傷ではない。容赦なく飛来する斬撃。生み出されたジャンクソルジャーが、蛆虫と蝿が、吶喊してゆく。
「やらせないよ。死なせたりしないし、私も死なない!」
 何度目かの詠唱が戦場に響く。その声は戦闘音楽が響く戦場では掻き消されてしまいそうだが、祈りはしかと『高位なる者』へと届いた。それに応え、その者が優しい掌でリベリスタ達を撫でてゆく。

 傷は癒え、そして刻まれ。血が止まり、また流れ。
 後衛陣が磨り潰されるのが先か。
 リベリスタが敵を撃退するのが先か。

「獲物はアレだ、闇よ食い潰せ」
 デス谷さん改のチェーンソーに全身から大量の血を流しながら、櫻霞は気高き銃の引き金を引く。放たれるのは生命を蝕む漆黒の光、機械のキマイラとキマイラ人間を強襲する。
 しかし直後、返されるエマージのマゼンタγ超改が彼の胸を貫いた。極寒の温度が意識をも凍て付かせる。黒く。だが、まだだ。己の帰還を信じ待っている者が居るのだ。この程度の相手に殺される訳にはいかない。
「だからこそ俺はこんな所では終われない!」
 冷たい氷をそれを上回る殺意で、運命を燃やして、振り解き。睨ね付ける。鋭い視線。殺意を込めて。
 未だ、戦える。
「貴様は、我が拳で此処にて貼り付ける……! 例え……障害があろうとも止まらぬ、覚悟の拳……止められる物なら止めてみせよ!」
 切り裂かれ、肉を抉られ。それでも葛葉の凛とした眼光から戦意の輝きが失われる事は無い。彼が立つこの地は、様々な思いが募る場所。容易くくれてやる訳にはいかない。
 護る為、勝利の為、彼の拳は在る。彼は戦場に立っている。覚悟。最後まで立ち続け、拳を振るい続ける決意。
「我が心、空なり。空であるが故に……無!」
 ふっ、と息を整えては、化物へと何度目かの吶喊を仕掛けた。おおおおおおお、と胆から張り上げる鬨の声。
 倒れやしない、負けやしない。只々無心――境地を目指さんと。

「……我が拳、存分に浴びるが良い……!」

 振り抜いた冷気の拳。凍て付かせる戦意が、覚悟が、致命的命中を叩き出す。氷が化物の進行を時間ごと止めてみせる。その代償に激しい雷撃が葛葉の身体を撃ち抜いたが、覚悟の上。傷付く事など恐れない。

 食い合う様に戦い合う。削り合う。殺し合う。
 火縄銃の発砲音が遂に途絶え、戦場に伏す者がまた一人。
「げっほ、がはッ……!」
 一方で――火車もその仲間入りせんたる状況であった。仲間がフレッドの氷点下災厄に巻き込まれぬよう立ち回る代償に、血みどろの身体。立っているのが可笑しい程の傷。せり上がる血反吐をブチ撒けて、拭う余地もなく拳を構える。必殺の一撃を喰らい、既に削れた運命。
 窮地。
 だが、『逆境』でこそ火車はその真価を発揮する。おそらく己はあと一歩で倒れるだろう、だがその『一歩』は、譲らない。
 そして彼と相対するフレッドもまた、決して無傷ではなかった。トーマスが倒れた今、リベリスタ達の集中砲火の殆どは彼に向いていた。自己再生能力があろうとも、今や損傷速度は回復のそれを上回っている。
 互いに血みどろ。しかし火車は不敵に笑い。
「どぉしたボキャ貧? あんだけコロスコロスほざいてて誰一人殺れてねぇなぁ……?」
「や、か、ま、しいわ死にかけがぁあああッ!!」
 氷の棘が、放たれる。
 それを構えた腕で防ぎつつ――さて。瀬恋は思う。本音を言えばフレッドの火車の壮絶な殴り合いを眺めていたいのだが、ま、これも仕事だ。
「横槍ぶち込んで悪ぃけど、サクっと死んでくれや」
 横合い。構えた最悪な災厄より放たれるのは敵対者に極刑を下す断罪の弾丸。着弾の衝撃にその上半身が大きく仰け反る。
「ぐぉあッ!?」
「よー。てめぇ、六道のお姫さんに夢中なんだって? やめとけやめとけ。あのお姫さんは完璧が好きなんだろ? そのマズイ面で完璧とか思ってんのか?」
「ぐごがぁああああどいつもこいつも! この俺を! 馬鹿にしやがっ「実際バカじゃねぇかテメーはよぉおおおお!!?」
 フレッドが瀬恋へ振り向いた瞬間。火車の猛烈な左ストレートが彼の顔面に突き刺さる。
「蝿! 糞にしか集らないッ! 解んねぇのか? テメェ頭脳がマヌケだな? 蛆蝿集らせてるテメェは糞ってこった! 理解したか? ド低脳がぁ!!」
 突き立てる中指。吐き捨てる暴言。反論せんとフレッドは口を開くが、その猶予は左胸を狙うエナーシアの弾丸が許さない。一歩蹌踉めいて、立て続けに櫻霞の気糸がその身を穿つ。
「大切な人の命令だから、嫌でもその通りにするしかない。難儀ね。……まぁ、分かるけどね。ほんとにさ。キツイよねそういうの」
 戦況を見澄まし、スノウフィールドが呟く。されど、そこまでの激情、そこまでの殺意、ここまでの行為を看過はできない。
「ごほ、ごほ」
 フレッドの口から垂れる血。キマイラを寄生させた心臓が疼く。包帯が燃え落ちれば、かつて火車の炎に焼かれできた火傷が晒される。
 死ぬのか? 死ぬのか? 死ぬのか? こんな所で――こんな奴等に――殺される? 俺は死ぬ?
「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふっざけるなァアア! どれほど貴様を憎んだと思ってる! どれほど紫杏様に憧れたと思っている! 殺してやる! 絶対に!!」
 荒れ狂う殺意のままに己の血から大量の氷蛆虫を作りだす。それを十字砲火からの盾にしつつ、足掻く。手を前へ。
 ああ。ああ、この動作! 笑っちまう! 火車は踏みだし、振り被った。両の拳に火を纏い。その手を、挟み込む様に一撃。
「拳銃なら暴発だわなぁ?」
「ッ!?」
 逸れる、狙い。ベルゼビュートの召使い。ブレた軌道。それは火車を捉える事は能わず。
「またまたやらせて貰ったぜぇ?」
「それがどうした……次は俺の番だッ!」
 顔を顰めながら言い放つ、瞬間。火車の動きが止まる。否、止められたのだ――脚に纏わり付く氷蛆虫達。氷結させて縫い止める。
「貴様だけは――貴様だけは赦さねぇ、宮部乃宮ぁああああ!!」
 ぞぶり、と。至近距離。ごぶり。大量の血。氷の長棘が何本も、何本も、火車の身体を貫いた。
「――、」
 ゆらり。がくり。力が抜ける。血を流し過ぎて寒いという意識すら通り越して。
「……何度目の正直だ? えぇ?」
 その手で、氷点下の血棘を掴む。
「テメェの性質に気が付けよ? 糞虫に氷は似合わんぜ?」
 フーーッと噛み締めた歯列から息を吐けば、白く立ち上る。
「似合ってんのは! この! 身をも焼く炎だ!」
 握り、潰す。拳から立ち上る業炎が火車の顔を赤々と照らし出す。
 火力全開。大炎上。
 咄嗟に回避すべく後退するフレッドだったが。その背を、瀬恋のギルティドライブが強かに叩いた。
「宮部乃宮のニーサン、やっちまいな!」
「ったりまえだろぉが! ――アホ面晒して笑ってろぉおっ!! 全潰しだダボがぁ!!!」
 逆襲に出る。両手から伸びる火の二枚羽。
 迫る。
 迫る。
 見開かれたフレッドの目に火が映る。憎くて憎くて嫌いで嫌いで堪らない、夢の中ですら消えない、あの火が――

「―― ……!」

 貫いた。火車の左の拳が、フレッドの左胸を。心臓と、それに寄生するキマイラごと。
 赤。飛び散る、飛び散る、血。
 信じられない、と。フレッドは己の胸を貫いた彼の腕と――そして、目前に在る彼の顔を見た。
 ごふり。吐いた血が火車の頬に散る。
「……ぁァアあああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
 断末魔。最期の、最後の、執念。振り上げた手。まだ死にたくない、まだ死ねない、こいつを殺すまでは――
 だが火車は、逃げる事をせず左手でその首を掴み。

「寝ぼけてんなら……眠ってろぉあああっ!」

 僅か、横に逸らした頭部。刹那にフレッドが見たのは、離れた位置にて――銃を構えたエナーシア。
 BlessYou! と、彼女が唇の動きで紡いだ気がした。
 その瞬間には、弾丸が。螺旋を描いて飛びゆく弾丸が。火車の頬を微かに掠めて、フレッドの眉間にめり込んで、頭蓋骨をかち割って、頭の中に入り込んで、

 爆ぜた。

 正確な、的確な、クリティカルヒット。
 最早そこに在ったのは、頭部を失った一人の男だった者。一つの死体。だらりと力は無く、下顎から上だけが奇麗に無くなっている。残った舌が言葉を紡ぐ事は、二度とない。
「えらくサッパリした姿になったじゃねーか。そっちの方が似合ってるぜ――あばよ、糞虫君」
 永遠にな。火車が腕を引きぬくとフレッドだったそれは緩やかに倒れた。血溜りができてゆく。そして火車もまた、自らの血沼の中へと倒れ込んだ。

「うわわ、うわわわわ、エマージ死んじゃった」
 まさかやられるとは、と六道研究員達の衝撃は大きい。
 敵の主力一角を落とす事に成功したリベリスタであったが――代償に、被害も甚大。デス谷さん改を抑える櫻霞は力の限り奮戦するもキマイラの凶悪な攻撃の前に遂に力尽き、フェイトを使用した者も多い。それでもリベリスタ側に一人も死者が出て居ないのは、彼等の気合も然る事ながら、戦闘不能者を逐一後衛よりも後ろへと少々荒っぽいが放り投げ護っている為であろう。
「ここが正念場だ……皆、勝つぞ!!」
 鼓舞の声を張り上げて、葛葉はデス谷さん改へと挑みかかる。ブロッカーが一人欠けた事で回復手への進行を開始した化物を殴りつける。雷撃に穿たれながらも、歯を食い縛る。止めてみせる。こいつも、こいつらも、兇姫の野望も。
「今です、畳み掛けてください!」
 仲間と声を掛け合い、ガーネットは回復の間隙を埋める為に癒しの歌を紡ぐ。最中にも戦況確認――戦況は混沌。圧し切れるか。押し切られるか。戦いが終わる気配は未だ見えない。
 と。デス谷さん改と目があった……様な気がした。彼が自分を覚えているかは分からない。Cait Sith、突き付ける黒。言い放つ言葉。
「待っていて下さい。今度こそ、お友達と同じ鉄クズにしてあげますね」
「お待たせしてるわね。……変わりないと言ったけど、貴方は狂っていながら狡猾だったわ」
 デス谷さん改から生み出されるジャンクソルジャー達を、マイケルへ発砲しながら見遣りつ。エナーシアは思う。諾々と命令を受ける今に残っているのかしら? と。

 続く戦い。流れ続けてゆく血。

「好い加減あんさんの面も見飽きてきたわぁ」
 切り結ぶ音。遠回しに『死ね』と言いつつ、玄弥はジョンソンと相対する。互いに負傷している。だが、玄弥の方が度合いが大きいか。あぁ、この血、全部売ればナンボになるんかねぇ、なんて脳の片隅で思う程度には守銭奴。
「そろそろくたばりな!」
 そこへ瀬恋がジョンソン目掛け銃指を構えた。瞬間――デス谷さん改が振り払うチェーンソーが彼女の腹を引き裂き薙ぎ払うも、ドラマを支配し死を拒絶する。転がりながらも狙い定めて、放つは殺意を込めた断罪の魔弾。
「まだだ――まだだ! その程度でこの拳は止まらんぞ!」
 振り払われたチェーンソーに巻き込まれたのは瀬恋だけでない。葛葉もまたボロボロの身体で、己を奮い立たせて立ち向かう。
 一方で、美学主義者。幸運の方の度合いが高いとはいえ、運命の悪戯。エナーシアはジャムを起こした銃のリカバリーを終えるや鋭く狙いを済ませた。さぁ、銃火の祝福あれ。猛烈な早撃ち。足をブチ抜かれたマイケルが蹌踉めいたその刹那、玄弥が放つ暗黒が彼の咽を貫いた。血潮と、倒れる音。
「いっこ儲けや、くけけっ」
 嗤い、次へ狙いを定める玄弥。
 されど――リベリスタ側もまた一人、倒れる。遂に仲間達を強力に支え続けていた優しい息吹が、潰える。
 あたしが立ってるより、もっと立ち続けて欲しい人がいるもの。と、笑んだスノウフィールドの全身は真っ赤に染まっていた。既に魔力は枯渇した状態。ジャンクソルジャー達のチェーンソーからガーネットを庇い、護り、盾として――そして。
「っ、」
 ガーネットはすぐさま彼女をその後ろに護り、彼女の代わりに癒しの歌を紡ぐ。まだ戦えるか? 戦ってみせる……
 誰も彼も、消耗しきっていた。ライフラインたる回復手も二人倒れ、半数の者が倒れ、――危機、という状況なのだろう。
 リベリスタ達は果敢に戦った。死力を尽くした。強力な敵すらも撃破してみせた。
 だが、だが、だが。
 誰もが薄々、勘付いている事実。
 それを口にしたのは、果たして――
「これ以上は、危ないよ……一度、下がる事も、考えよう?」
 げほ、げほ、と咳き込みながら、僅かながら意識を取り戻したアリステアは仲間達の背に呼び掛ける。その周りには、彼女と同じく尽力奮戦の果てに力尽きた者。
だが、まだ生きている者。
これ以上戦えば、これ以上被害が出れば、どうなるか。その先を――優しい少女は考えたくない。
 だからこそ、涙を堪えて、声を。
「……死ななければ、取り返すチャンスは絶対あるから……!」
 誰も喪いたくないから。
「まぁ、死んだら元の子もありまへんわな」
「止むを得ないわね」
 アリステアの言葉に、ジョンソンの戦鬼烈風陣を掠めながらも往なす玄弥が、部分遮蔽の心意気にて直撃を免れたエナーシアが飛び下がる。滴る血。更に間合いを開けて。
「――撤退するわ! 動ける人は負傷者を!」
 エナーシアの声が戦場に響いた。撤退。アイコンタクトを交わし、リベリスタは迅速に行動を開始する。
 だが、相手はそれを黙って見過ごす連中ではなかった。戦闘不能者は確実に殺そうとしてくる彼等である。今が好機、逃がすか、と勢い込んで吶喊を仕掛けてくる。
 『逃がすな、殺せ』と命ぜられたか。速度を上げて、デス谷さん改が襲い掛かってくる。フィクサード達も殺意を増して武器を振り上げ、射撃攻撃を繰り出して。
「……っ、」
 撤退の為に駆けていた葛葉であったが、それを見るや方向を変え。地を蹴る。デス谷さん改へ。
「往かせはせん!」
 葛葉の魔氷拳が追い縋るデス谷さん改に直撃し、その動きを封じ込めた。今の内。走り出す。負傷者を抱えて。
 エナーシアと瀬恋は牽制射撃を行いつつ、ガーネットは走る皆を天使の歌で支えつつ。走る。走る。生き延びる為に。
 背後でキマイラの咆哮が響いた様な気がした。戦場音楽。銃声が、悲鳴が、剣戟の音が、魔法の音が響き響く戦場を直走る。

 そして――……

●戦火は消えぬ
 息も上がり尽して、疲労も限界を超えて、倒れる様に足を止めた時にはもうキマイラの影は無かった。後方部隊に辿り着いたらしい。取り敢えず、誰一人駆けなかった事に安堵する。
 手当てが施されていく中――されど、立ち上がったのは瀬恋とガーネット。通信機から鳴り響くエマージェンシー。
 それは、丘の上広場に『敵の大将』が現れた事を意味していた。
「……じゃ、ちょっくら往ってくるわ」
「往ってきます。大丈夫、必ず帰還しますから」
 気を付けてと返した仲間達へ振り返り。そして――二人は再び、戦場へと。生きて帰る約束を交わして。

 増してゆく戦いの激しさを、肌で感じた。


『了』

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様ですぞ……! どうか、身体を休める事を最優先して下さいませ」

 だそうです、お疲れ様でした。

 リプレイに込めさせて頂きましたが、一点だけ。
 知性のない敵と知性ある敵は違います。思い通り行動するものではありません。

 ご参加ありがとうございました。