● 「クリスマス。公認カップルデートデー」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、優しい。 「ここのところ、辛い戦いが目白押し。心の絆がみんなの生存率をあげるなら、積極的にお膳立てする」 うわぁい、身も蓋もない。 モニターに映し出される。 「これ、ライトピラー。とあるビルとビルの間の広場なのだけれど、クリスマスの夜に、人工的にこれを作り出す」 そもそも空気中を漂う微細な氷の粒に太陽光線が反射して、柱嬢の輝きが見える現象のことだが。 「ミストを散布して、ライト当てるんだって。ベンチも一杯あるし、賛美歌とか流れて。隠れたデートスポット」 あれ~? なんか映ってる人に見覚えがあるんですけど。 「これ、去年の作戦映像。『テラーナイト・コックローチ』って知ってるでしょ」 ああ、本人はたいしたことないけど、制作物の蟲が猛威を振るう、逃げ足早くて、ラジオジャックが趣味の非リア充。 「あいつが、ライトピラーの代わりに、刺されると死ぬほど痒い蚊柱立てようとしたのを、銀色の顆粒に加工した殺虫剤を散布することで阻止。一般人に蚊の被害はなく、偽装カップルのいちゃつきっぷりでテラーナイトに精神的ダメージをくれてやり、散布した殺虫剤がたまたまライトを反射して、見事な銀の雪っぽくなったりして、一般客大喜びの見事な結果を生み出したんだけど――」 確かに映像で見ても、うわあ……と言いたくなるほど美しい。 「――今年は、それを意図的に起こすイベントになってしまった」 はい? 「だから、このスペースで、クラッカーをぽんとやって、光の雪を楽しむイベントが催されるの。クラッカーの中身は殺虫剤じゃないし、散布用の特大じゃなくて可愛い通常サイズ。似たような粒子だけどね。時村関連企業謹製」 さては、イベントの仕掛けも時村だな。 せいぜい繁盛して、アークにつぎ込むがいい。 「ホットドリンクの屋台が出てるし。シークレットイベントもあるらしいよ」 楽しんでくるといいとドリンク引換券を配る女子高生、マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月29日(土)22:11 |
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■メイン参加者 23人■ | |||||
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● アラストールは、はたと気がついた。 (相手とか居ない。というか、恋とはどんなものだろうか。恋愛感情という物は、良くわからない) それって、人生をかなり損してるっぽい? (とりあえず、恋愛とか理解する努力をしよう) 唐突に、そんなことを考えた。 ● 雷音は、真上に向けてクラッカーの紐を引いた。 可愛らしい音を立てて、ふわふわと銀の雪が降りてくる。 重力を感じさせない、羽根のような雪。 「メリークリスマス」 微笑む最愛の少女に、虎鐵は感動に打ち震えるしかない。 (ああ……クラッカーを鳴らしてる雷音も麗しくてかわいいでござる……) 「虎鐵もやってみるといい」 雷音に促され、虎鐵も紐を引く。 それに合わせて、幻視で隠した不可視の翼をはためかせ、銀の雪を舞わせる。 重力を忘れ、ふたたび空へ登る銀の雪。 くるりと一回転すれば、気分は雪の妖精だ。 「簡易・一面の銀世界っといったところだろうか?」 日頃はきちんとしていようとする少女のお茶目は、義父の心の臓を直撃だ。 (雷音が天使行動をしてるでござる!) 「雷音かわいいでござふぅ……天使でござる! 間違いなく拙者の天使が今ここにいるでござる!!」 虎鐵さん。ここ、三高平じゃないのよ。 親バカですめばいいけど、そうでなければ犯罪よ。 (雷音の可愛さに、拙者発狂してしまうでござるうううう) 身悶えする義父に、雷音、我慢の限界。 「虎鐵! ステイ! 静かに! もう少しクラッカーの美しさを楽しむとか、そういうの! ステイ! ハウス!」 「ござぁ」 ちょんと正座する、いかついおっさん。 ああ、ちゃんと身内みたいだなぁ。と、通報はされなかった。セーフ! (去年に比べてオレもグンと成長した。もう去年のような無様をさらすことは無い) 風斗は、うさぎに騙されています。 対テラーナイトへの精神攻撃の一環だと思ってます。 (うさぎが男であることは確定的に明らかなのだ) そんな事象は観測されていない。 (それがどんな格好をしてこようと、何も動じることはない……さあ、どこからでもかかってこい!) お着替え終了。うさぎさん、現場入ります! 「風ちゃんライトピラーですよ!今年も綺麗ですね!」 ごひー。 (ば、バカな! 奴の女子力が以前と比べ物にならんだと!?) 風斗には、うさぎが去年よりずっとキラキラして見える。 ちなみに、うさぎは「去年と同じくかわいくしてる」と認識している。 何、この認識値の誤差。 (いや勘違いするな楠神風斗! 奴は男! 女子力とかおかしいから! いつものタチの悪い冗談の延長にすぎん! 冷静に深呼吸だ……) 冬の空気は、心身滅却にちょうどいい。 「嬉しいな! 今年も風ちゃんとこれが見れました! 凄く嬉しい!」 風斗の腕をグイグイ抱きしめる当ててんのよ。 跳ねるポニーテイル。 今年一年分を今振りまくぞ的、笑顔。 わ~い、俺の親友、すごく可愛い。 周りからも、「去年も来たんだー、仲良しだー」と暖かい目が注がれている。 「……だから風ちゃん。来年も、一緒にこの風景を見て下さいね?」 風斗、口からエクトプラズム。 だって、上目遣いで見上げてくるんだもん。 「絶対、一緒に! 約束ですよ?」 ちょっと上の空の風斗の耳元で、うさぎのちょっと大きな声。 はっと正気に戻りかけた時、風斗の頬に柔らかい何かが触れた。 (今のなんだ!?) 反射で風斗は頬に手を当てる。 手のひらに付着したキラキラは、うさぎの唇を彩っているそれで。 「ヘッヘー! 油断してるからですよ!」 「こ、このっ――うさぎーっっ!!」 ストイックも、クールも、全部吹っ飛ぶ、瞬間沸騰。 「あははは!」 うさぎは、楽しそうに笑う。満面の笑顔で。 風斗だけが、うさぎをそんな風に笑わせる。 ――親友、だから。 竜一は、笑顔で一人でベンチに座っている。 (ぼっちです!周りはカップルだらけです!) だって、そういうイベントだから。 (正義のリベリスタとして、この皆の笑顔を守れているということ! それはとても素敵な事だと思います! 僕たちは、この、みんなの笑顔を守るために戦ってきたのだと! そう、いくら僕がぼっちだからといって、みんなが幸せならいいのです!) 竜一だって三高平に帰れば愛されすぎてて君の貞操強奪しそうな妹と、口に悪魔が住んでる普通の彼女がいるだろう。 だが、今この瞬間いないなら、脳内嫁と同じだ。 「正義? 知ったこっちゃないね! クラッカーを連射して、このロマンス溢れる雰囲気をぶち壊して……」 「必殺! 銀色の三連星!! 超絶必殺!6連ガトリング!!!!」 ぽぽぽぽぽぽん♪ 「わーい☆ 銀色の雨~☆ きれーい」 きゃ~! と、一人でも十分満喫。 子供のように歓声を上げる終、来年成人。 (ティンカーベルの燐粉ってこんな感じかな?? 今ならピーターパンごっこができそー♪) 実際に飛べるけど自重……。と、自らを律する気持ち、大事。超大事。 (そう言えばイブちゃんが人に向けちゃダメって言ってたけど……やっちゃダメって言われると……やってみたくなっちゃうよね☆) キラッじゃない。 クラッカーを自分に向け、突然の自爆。 「……シルバー星人爆誕☆」 げっほげっほとむせ返りつつ、渾身のちょき。 (雰囲気とか関係無い☆ だってぼっちだもん) こっそり、ラブ空間破壊テロ!? (でも、しがないぼっち道化なオレが結構好きです) そんな君が好きって言ってくれる人、来年は現れるといいね。 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ。 妹さんもびっくりの銀粉弾幕。 アラストールが小脇にカップル観察ノートを挟み、竜一を銀色人間にしたのだ。 「あれ? あ、アークの職員さんチーッス!」 わらわらと、見たことのある笑顔の人たちが竜一と終の腕を両方から抱え上げる。 「ちょっ、二人共。一晩、臭い飯を食べに行きましょうか」 アラストールは、それは綺麗な笑顔を浮かべた。 「な、なんにもしてないッスよ!」 うんうん。わかってるよ、大丈夫。 「いーーーやーーーだーーーー! リア充爆発するんだーーーーーい」 アハハ、竜一君はおちゃめだな。 「このクラッカーいいなぁ……購買で販売してくれないか後で聴いてみよ~☆ 」 アハハ、終くんはおちゃめだな。 ――こんな騒ぎ起こしたら、多分ダメだろ。 鷲祐が青い。 と、ミカサは思った。 髪じゃなくて、顔色が。 おもむろにポケットからやっとこのような片手持ちの金属具を取り出して――、 「……なんだ、ミカサもいたのか」 力なく笑おうとするコモドトカゲ。 「――司馬さん、具合悪いの?」 「いや、別に。健勝そのものだが。……何もないぞ」 何かある人に限って、そう言うよ。 「……それより早速やるとしようか」 パッキャラマドなら壊れたクラリネットだが、パキャ、パキャって。 破裂音じゃなくて、破砕音だから。 ぼろぼろと落ちるのは銀の粉ではなく、茶色い殻だ。 「……ん? なんだ?」 いくら僕でもさ。こういう時なんて言ったらいいのかなって悩んじゃうんだよ。 クラッカーってそれじゃない、って突っ込み入れたいけれど。 「ああ、くるみだ。食べるか? マカダミアナッツも、多分割れるが」 「司馬さん、それさ――」 「……クラッカーだろ?」 ナットクラッカー――くるみ割りじゃない。クリスマスっぽいのはいいけどさ。 「ちゃんと鳴らしにきたんだ、問題あるまい。それに、美味しい森の味覚を楽しめるぞ」 割ったくるみを口に入れたよ。神速の人。 「うん、そうだね」 (いつもより青ざめた顔の司馬さんを目にしたら気の毒で仕方が無い……相当、家が壊れたのがショックだったんだね) 詳細はウェブで。 (こんなにブルーな司馬さんを見るのは初めてだ) 今にもぶわっとかしそうなミカサ。 これで結構涙腺ゆるい。 「……だからなんでもないって」 「うん、そうだね」 でも、このWアクション発動してる勢いの高速パキャパキャ聞いてると……。 「ねえ、辛い事があったら力になるから」 (ダンボールとかさ……) うん、ミカサの店には、納品されてくる奴、いっぱい、ある。ね。 ● 空高く打ち上げられるクラッカーが銀色のレースドレープを作るのを真下から見るのもいいが、横から見るのも悪くない。 広場の端には、ドリンクスペース。 クリスマス寒波の前では、ホットドリンクが飛ぶように出ていく。 旭と霧香は、ライトピラー眺めながらガールズトーク 旭のドリンクは16番・ジンジャーメープルミルクティー。当然ホットだ。 とろりと甘くて、最後に舌がピリリとする。 「……あ、おいし……♪」 霧香のは78番、柚子茶だ。 「霧香さん、こっちも飲んでみる?」 女同士の気安さ。 「それにしてもキレイだねー。こんな幻想的な光景、神秘でも中々見られないよ」 「うん、ほんときれー……」 夜の帳の中、銀色の雪だけがキラキラと光を反射している。 近隣の木に取り付けられたとりどりのイルミネーションが反射して、複雑な色彩がおりなされている。 「神秘がみんな綺麗でたのしーモノならいーのにねぇ。そしたら毎日おまつりだもん」 それは、なんて幸せな世界だろう。 「宗一君も誘えばよかったかなぁ」 「あは、宗一さんってどんなひとなんだろ。霧香さんのカレシさん会ってみたいなぁ。いつかダブルデートとかできたらいーよね」 いつもボロボロになって帰ってきて、ハラハラさせる人だよ。とは、なかなか言えない。 「霧香さん?」 「ね、旭ちゃんにも大切な人って居る? あたしはね、宗一君もそうだけど、他にもたっくさん大切な人居るよ。えっとー……」 指折り数え上げられる、大事な人達。(名前挙げながら指折り数え) 「――勿論、旭ちゃんもね」 「あは、霧香さんいっぱいだー。でもわたしもいっぱい。勿論霧香さんもたいせつだよう」 抱き締めると、甘いドリンクの匂いの中、優しい温もりが伝わってくる。 来年は、ダブルデートでこれたらといいね。 四人で来れたらいいね。 「12月も末となると冷え込みも厳しいな」 そうですね。と、相槌を打ちながらも、櫻子の頬は上気している。 (とても寒いですけど……櫻霞様が一緒だから今日は寒くないのです♪) 櫻霞が手袋をはめなおすと、櫻子はチケットを取り出した。 「櫻霞様、二人で飲み物の交換しましょう♪ 」 「そういえば屋台なんてものがあったな」 互が互いに何を選ぶかは内緒だ。 待ち合わせのベンチで待ちわびる。 櫻霞に櫻子が渡す飲み物は、風味付けに洋酒を入れたホット珈琲。 櫻子に渡すのはホットチョコ。 「酒類は入れんぞ、酔いやすいのは解ってるからな」 受け取るチョコは、指先にも甘い。 「こうやって綺麗な場所でのんびりするのも良いですね」 「最近はまともに息抜きすら出来てなかったし、休憩がてらに出掛けるのもアリだな」 頭を撫でつつ。 「強いて言うなら寒いのが難点か?」 実際、櫻子はぴったり張り付いている。 櫻霞の膝をチラチラ。落ち着き無くそわそわ。俯いてもじもじ。 櫻子は、口ごもりながら言う頃には、ホットチョコはなくなってしまった。 「櫻霞様……えっと、その……お膝に座りたい、です……」 我侭を言ってみましたと消え入るような語尾。 「その程度の我侭なら喜んで。俺も暖が取れる」 おいで。 膝どころか、桜霞の胸も腕も桜子を包むためにある。 くまのポンチョ、うさぎのイヤーマフ、もふもふマフラー。 今日のルアのふわふわファッションを指先で楽しみながら、ルアの髪を撫でる。 ルアの髪が一番触り心地がいい。 「可愛いね、とてもよく似合っているよ」 嬉しさを表すためのクラッカー。 ぽん! 夜空に向かってクラッカーを鳴らす。 (キラキラしてとっても綺麗なの♪) ルアが差し出すクラッカーを、スケキヨも鳴らす。 今日の仮面は顔の半分を覆うタイプ。 口元はスケキヨの素の顔のはずだ。 ルアよりずっと高い位置からキラキラが降り注ぐ。 「わーい♪」 と、両手いっぱいに銀の光を抱いてはしゃぐルア。 「何だか異世界にいるような気分だね」 夜の黒に吸い込まれそうだ。 「……ルアくんと二人で眺める景色は、それだけで、どんなものでも特別に変わるんだよ」 夜空を見上げるスケキヨのお腹にぎゅうっと抱きついて。 15歳。 もう、子供がじゃれついているようには見えない。 「だってね、今日は久々のデートだから。いつもよりスケキヨさんと居る時間が楽しくて嬉しくて」 沢山の笑顔をスケキヨにあげる。 「こんな風に二人きりで過ごすのは久しぶりだね」 「寂しかった……もん」 わがままを言わないいい子から、少しだけはみ出す。 涙がぽろりと落ちる。 つま先立ち、祈るような指。触れるだけのキス。 「ボクは頼りないかもしれないけど、これからも一緒に居てくれるかい? ルアくんが側に居てくれる事が、ボクには最高のクリスマスプレゼントだよ」 ぬくもりを確かめるように抱きしめて。 「スケキヨさん、大好きなの」 ● ワインに、お砂糖、ハーブやスパイス、たくさんの果物を入れて温める。 グリューワイン。 クリスマスの飲み物には最適だ。 「任務じゃなくてデート。いつもの呼び方でよろしかろう」 義衛郎が言うのに、嶺が頷く。 公務員って割と気を使うのだ。 市外だからいいよね? 髪に、コートに銀の粒子。 「可愛く鳴らせているかは微妙ですが、面白いですねぇ」 角度によって、散り具合が変わるのを発見してしまった。 「うん。体が冷えてきたから、飲み物もらいに行こうか」 「グリューワインがいいですよ?」 「れーちゃんお薦め? えっと、それじゃ、それで――」 オレンジ、シナモン、生姜、蜂蜜を入れてもらう。 「れーちゃんの、色が違う」 「私は白ワインベースで、リンゴの風味の効いているものを」 ベンチに並んで腰掛ける。 イルミネーションは綺麗だ。手も繋いでる。けどやっぱり物足りない。 「隙間風が寒い」 だかられーちゃんにぴったり引っ付く。うん、ぬくい。 「寒くてどうしようって、思っていたところですよ。」 こうしている方が暖かいですものね。と、笑う嶺。 引っ付いてる内に、二人きりだし。 義衛郎は、我慢できなくなって、嶺の唇を奪う。ちょっと長く。 「……甘い」 林檎の香りがした。 「ふふ、ただ甘いだけじゃないですよ?」 (後で、改めて確かめます?) 耳打ちされた言葉が、嶺のグリューワインには入っていない蜂蜜のように甘い。 快とレナーテが屋台で貰ったグリューワインを片手に、手を繋いでライトピラーの中を歩く。 「会場を端から端かで歩いてみよう。それ以外の面白いモノも見られるかもしれないしね」 面白いといえば、連行される銀色人間、顔を赤白させるいつもは髪が白黒人間。 くるくる表情を変えるいつもは無表情。べったりカップルに粘着する性別不詳の美形。 フロム・三高平シティ。 いえ、あの人たち、他人です。 レナーテは、全力で目を背け、快をずるずるそっちじゃない方へ引きずっていく。 「シークレットイベントもあるんだって? 何でしょうね。楽しみだわ」 そうそう、そういう方向の面白いのだよ。 「イヴちゃんがさ、『心の絆がみんなの生存率をあげる』なんて言っていたけど。最近、本当にそう思う」 本人の性分と周りの期待が、そのへんの気のいい兄ちゃんをアークの守護神にしてしまった。 「……また急な話ね。まあでも確かに、そう思う事はあるかな」 「運命の加護の量とかそういうんじゃなくて。戦いから逃げ出すことは出来ないけれど、 またレナーテとこうやって過ごすために、必ず生きて帰ろうって、心とか決意とかそういうものが、こっち側に踏みとどまろうとするっていうか」 死神を振り払うのは、絶対的な生への意志だ。 「大事な人の事を思えばこそ負けるわけにはいかない……そういう気持ちがあったからこそ何とかなった、なんて場面、多分いっぱいあるわ。無意識で動いてると思うけどね」 いつのまにか、気がついたら歴戦の戦士だ。 普通の人だったのに。 共通点の多い二人がいつの間にか寄り添うようになったのも、必然かもしれない。 「だからね、レナーテ。俺は、これからも必ず、帰ってくるから」 繋いだ指に力がこもる。 「だから、君も、どうか」 待っていて。ではない。君も帰ってきて。だ。 レナーテも、アークの不沈艦隊の一人だ。 あまりにも似ているから、能力を全うさせるため、互いの背中を見送るように、別の戦場に身を投じるのだ。 「ええ、勿論。快もね。帰ってこないと許さない。貴方が危険な任務に行く度、私は半ば覚悟を決めてるのよ。ああ、今度こそはもしかしたら、って」 最後に見るのは、背中になるかもしれない。 この指をほどいたら、もう触れ合うこともないかもしれない。 いつだって、突然の終わりの匂いがする。 「行くな、なんて言わない。言えない」 レナーテも征く。待ってはいない。時には、快を待たせるのだから。 「でも、帰ってきなさい」 誓って。 レイチェルと夜鷹は、喧騒から離れた少し後方、人気の無い空間に。 側に寄り添い、夜空に向けてクラッカーを。 わずかに出てきた風が、銀の雪を流星に変える。 「来年も、こうやってふたり並んで居られたら素敵ですね」 「来年か……」 微笑みながらも影を感じさせる夜鷹の表情に、くすっと笑って、レイチェルは覚悟を決める。 この人は、たった一週間先にクリアできる約束も躊躇する。 (……本気だよ、私は) 背伸びして、唇にキスを。 夜鷹の目がつかの間見開かれ、その触れる甘さに酔うことを自らに禁じて目を閉じる。 「俺はね、自分に自信というものが無いんだ」 動かせば、また触れる距離での独白。 「人を愛する事も愛される事も本当の意味で理解していないんだよ」 それなのに、どうして応えることができるというのだろう。 「だから、レイが本気だと言ってくれるのは嬉しいんだ。けれどそれが本当に続くかどうかなんて確証はどこにもない」 大事な君の本気には、世界中で一番素敵なものを返さなくてはいけないのに。 「俺は本当に卑怯で臆病なんだよ。そうすることでしか生きてこれなかった」 なのに、こんなあやふやなものでは贈り物にならない。 「臆病だとか、自信がないとか、そんなのとっくに知ってるよ。今私は、貴方の側をなにより心地よく感じてる、それだけじゃ不満?」 捕える手。 頬を包み込む、レイチェルの手。 「私は貴方に縛られる気なんて無いの。私が、貴方を捕まえようとしてるんだよ?」 レイチェルは優しい。 再び夜鷹の唇を塞ぎ、それ以上の言葉を封じてくれる。 「……今日はこの辺にしといてあげる」 赦して。 夜鷹は、彼を捕獲しようとする者の手を取り、祈りを捧げる。 その言葉がくれる時間に安堵している俺を赦して。 身に覚えのない記憶。 銀色の粉に激しい既視感。 去年、「彼」はここで仕事をして、そのあとの約束に胸を高鳴らせていた。 「奴の遺品からこんな物が出てきた」 婚約指輪だと、記憶が言う。 (……どうしろと) 目の前にいたら殴りたい。呪詛を吐きたい。全世界に向けて土下座したい。 引きずられる感覚に、違和感。 (いやまて。何故俺が罪悪感を感じなければならないのだ) それは、彼の記憶から伊吹が「捏造」したものだ。 そんなものは不要だ。 (死んだ人間が生きていく人間を縛ってはいけない。俺1人の胸に納めるべきかもしれない) これを手に入れた時の彼の高揚にも、受け取ってもらえないかもしれない不安にも、蓋をして。 (だが、奴が最期の最期に残していった気持ち。それではあまりに不憫だろう……) だから。 『うさ子さん、これもらって下さいますか?』 と言いながら、うさ子が返事をする前にいそいそと左手の薬指にはめてしまう予定だった指輪。 「最後くらい、言って欲しかったな」 まだ、その指輪は今後の成長を見込んで、今のうさ子には若干大きい。 指輪は、チェーンに通して首にかけられた。 「ねぇ、ヴィンセントさんの話を聞かせて。私の知らない昔の彼」 そう言われれば、教えない訳には行かない。 「私が知ってるのは、節分の恵方巻き、お化け屋敷とか」 格好いい彼も、可愛い彼も。 うさ子は、全開で惚気ける。 (私は嘘つきだから。自分だって騙し通して見せるの。彼のことは傷にしたくない。何もかも、大切な宝物だから。だから笑って、ひとつひとつ取り出すの) 伊吹は、聞かれたことに答え、ほとんどをうさ子の話の聞き役に徹する。 一つ一つが楽しそうで、うさこが何一つ嘘や誇張をしていないのは、内なる記憶からも明らかで。 (恨み言を言われた方が、まだ……) 伊吹を楽にしてあげられる余裕は、うさ子にはない。 「いつか迎えに行くの。彼が嫉妬するくらいのいい女になって、指輪を嵌めてもらうの」 そう言って微笑むうさ子に、伊吹は何を言えばよかったのだろう。 『うさ子さんのこれから先、全部いただいていいですか?』 幻聴だ。 あのバカがいたら、殴ってやりたい。 指輪を服の中に大事に吊るす彼女のために。 「アラストールさん、そろそろいいですか?」 にっこり笑うアークの人は、ナイアガラバックスタブ的近距離で、観察観測メモを取るアラストールさんを確保しますた。 「共通事項を羅列していけば恋愛事象のテンプレートを作成できるはず――と思ったのですが」 「はい」 手に残るクラッカーとドリンク引換券。 それを誰かと楽しむ自分が想定できなかった。 「結局、理解出来そうにありません」 アークの人は、にっこり笑った。 「ある日、いきなり世界が変わるそうですよ?」 いきなり、空が真っ白に包まれた。 シークレットイベント。 空に浮かぶ、大きなオーロラ。 大量の銀の粒子をスクリーンにした。ホログラム映像だ。 クラッカーの粒子が充分行き届くのを待っていたのだろう。 そう考えると連帯感まで出てくる。 「ふむ、世の中一つ位は判らない事があっても良い、そういう事ですね」 アラストールは、光の帯を見上げる。 いつか、来るかもしれない、来ないかもしれない。 世界のありようの転換期。 大きな底辺世界を守る者の心を守るのは、半径1mにいる誰かの為なのだ。 願わくば、今この間だけでも、闘う者たちにやすらぎあらんことを。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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