● 楽しい思い出だけを広げた虹いろのパレットと、辛い記憶だけを描いた混いろのキャンパス。 いくらシアンの絵の具を置いても、茜色の空を描こうとしても、全部汚い色に染まっていく。 ああ、私の心はとても醜くて、すごく滑稽だ。 手に取ったチューブはひまわりの様なシャイニー・イエロー。まぶしくて羨ましい。 床に転がっているのは、高貴なディープ・ローヤル・ブルー。触るのさえ恐れ多い。 「もう嫌だ!! ここから出してよ!!! 誰か助けてよ!!!」 ほら、また他力本願で。自分じゃどうしようもない現実を抱えて。のた打ち回る。 この世界から抜け出すことなど簡単なはずなのに、自分を変える事が怖い。 先が見えない不安と恐怖は、私を思考の海に引きずり込むのだ。 そのとき、窓の外から声が聞こえた。 見ると、光の中で天使がこちらを見ている。純白のヴェールを纏った天使が手を差し伸べた。 「こちらへ、おいで」 私はもしかして、幻覚を見だしたのだろうか。 毎日、毎日飽きるまでペインティングナイフを塗りつけていた代償か。 右手の中指に出来たでっぱりが、ここぞとばかりに自己主張し始める。すこし痛い。 じくじくと。膿んでいるみたいに疼く指。 「こちらへ、おいで」 2回目の声で、私はとうとう手を伸ばした。窓の外に居る天使に手を伸ばした。 枠から身を乗り出し、真っ白の世界へ。 私を呼んでいる天使がいるから。きっと、私は必要とされているから。 ふわりと体が浮いた気がした。……あとは、もう覚えていない。 ――カラン。と油絵用のナイフがイーゼルの側に転がり落り落ちた。 「綺麗だよ。椿の花の様に真っ赤に染まって。とても、美味しそうだ」 ●ひとくい 「人間を食べるアザーバイドを倒して」 第3ブリーフィングルームに召集されたリベリスタに端的な言葉を投げるのはアークの白い姫君『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 「弱った一般人を落として食べるのが好きみたい。もう、被害が出てる」 今月に入ってから行方不明になった人達の中に、このアザーバイドに食べられた者が居たのだ。 ボトムチャンネルに落ちてきた影響で相当の力を失っている為、人間を食い養分を蓄えているらしい。 今はまだ実力の半分も出ていない。 「倒すなら今しかない」 被害をこれ以上出さない為にも。未知数のアザーバイドの能力が完全に復活する前に叩く。 資料に書かれているのはアザーバイドと食われた一般人のE・フォース。 精神的に弱っていた所を空へと誘われた人たちは、もしかしたら幸せだったのかもしれない。 けれど、E・フォースとして出てきてしまっている以上、そこに無念があったはずだから。 アザーバイドを倒し、魂の救済を。 「お願いね」 左右の色が違う双眼は無表情にリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月19日(水)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『誰か』がこの嫌な場所から『救い出して』くれるのだと、少女は思っていたのだ。 「残念天使か・・・なんか小生、やきとりが食べたい。ちょうたべたい。よし。帰りに買って帰ろう」 『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)はリコリスの羽織を纏い戦場に、漆黒の刃をまき散らした。 スカーレットに染まる夕暮れ時に赤と黒の色彩がエアブラシで吹きつけたように広場に居るE・フォースへと迫り来る。 その黒が空気に霧散する前に、紫電の螺旋が『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)によって放たれた。 震える空気はシアンの光を帯びて広場を駆け上がる。 ストアの黒とウィスタリアの紫が広場に鮮烈な二重奏を奏でたのだ。 人の弱みに付け込んで落として喰う敵を放っておくわけにはいかないと。 「和解なんかも出来そうにないわね。軽くぶっ倒してやりましょうか」 そらの出席簿から繰り出される雷撃。二人の先制攻撃は天使の形をしたアザーバイドには届かず、広場に浮遊していた思念体へと向かった。 けれど、天使『グラジオス』の注意を引くには十分であった。少女から視線が逸れる。 ――赤色は好きだけど、神秘ってやつは大嫌いだ。 いつもいつも、善き人々を理不尽に踏みにじって弄ぶから。 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)のセレスティアル・シルヴァの髪が踏み出した事によって生まれる空気に流れる。 幼い頃から妹の側で神秘を垣間見続けた一般人。どうすることも出来ない己の無力さにその拳を打ち付けた事は一度や二度ではない。 リベリスタとして覚醒した後ですら、こうして理不尽は善良な者に容赦なく降り注ぐのを目にするのだ。 ロアンは窓からその身を乗り出した少女を助けるために、クラブ棟の側壁を駆け上がる。 少女の身がクラブ棟の4階から空へと吸い込まれていく。 ロアンは手を伸ばし少女を受け止めた。――しかし、加わる衝撃を相殺することができない。 壁から足が離れる。 地面に叩きつけられる事は確定的で、ロアンは少女への衝撃を少しでも和らげようと、胸にしっかりと固定した。 背中から落ちながら、空に浮かんでいるグラジオスを睨みつける。 しかも大嫌いな御使いの姿ときた。僕はそういうの信じてないし、何もしてくれない上理不尽な辺りまで本当そっくりで腹が立つね。案外ご本人かもね? 地面と衝突する寸前、ロアンごと少女を抱きとめたのは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)だった。 神秘探求同盟第八位・正義の座の名に相応しいヒーローぶりであった。 「大丈夫か?」 力強い黒曜石の瞳は二十歳になったばかりというのが嘘の様に威厳に満ち溢れている。 「ああ、助かったよ」 拓真によって抱きとめられたロアンも腕の中に居る少女にも傷は無い。ただ気絶しているだけだった。 「きゃー、カッコイイイケメンに救助されてる! きっとしあわせー」 その光景を見て可愛い声を上げたのは、『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)カレー好きである。 食べるならカレーにしたい。抱き止められるならカッコイイ人がいい。いや、カレーが大事。 彼女の中にはいろんな思惑が交差していた。 しかし、戦場は止まってくれない。 「少々気合いを入れよう」 ロアンは拓真に手を借りて、少女を安全な場所へと避難させる。 ほとんどの生徒が帰っているテスト期間中の放課後となれば、保健室も閉まっているだろう。 戦闘が終わるまでの間、なるべく廊下の奥まった場所に寝かせておくことにした。 「少し寒いけど、これで我慢してね」 ロアンは黒の法衣の上をそっと少女にかけて戦場へ戻る。 ●『自分』のせいでは無いと『周り』が悪いのだと。 「無念は晴らす、変身!」 掛け声と共に特務機関アークのマークが入ったアクセスファンダズムをスライドさせると、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)身体が七色の眩い光に包まれた。 迸った光の中でその姿を変えていく疾風。 閃光が収拾する頃には、疾風はバトルモードに移行している。 DCナイフ[龍牙]、PDRC[顎門]を両の手に携え、ARK・ENVGⅡが茜色を反射していた。 ゴゥと吹いた風がファイアー・エンジンのマスクド・マフラー[加護]を靡かせる。 疾風は地上へと降りてきたグラジオスの前に立ちはだかり、己の内にある気の流れを整えた。 セレスト・ブルーのオーラが疾風の周りに渦巻いている。 「俺達にお前の導きは必要ない。人間を、甘く見るな…!──リベリスタ、新城拓真……参る!」 その身に深く傷跡を宿す愛銃ブレイドラインを構え、疾風の斜め後方の視野の広い位置へとその身を滑らせる拓真。 オブシディアンの瞳が見つめる先。銃口から繰り出されるのは、祖父の双剣と道を分けた拓真だけの道筋、『迪拓者の黒弾』 E・フォース、グラジオスを巻き込んで轟く黒の傷音。 「こんな形でしか助けられない俺を、許せとは言わない」 夕暮れに吹く風が、穿たれたカーボンブラックの銃煙を押し流し、視界がひらける。 「だが──君達が生きる筈だった未来、それを俺は守ろう……!」 銃を構え拓真はE・フォースへと言葉を投げかけた。 天使って……実際はこういうものだったのかな……。 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)はグラジオスを一瞥して後方へと下がっていく。 ゲーム画面の如く先ほど拓真の攻撃を受けたE・フォースに向けて照準を合わせた。 ヘビーボウガンから撃ちだされたシュバインフルト・グリーンの矢は気糸の結集体。 寸分違わず、E・フォースの中心を一直線に貫く。 ゆらりと、茜色に染まる空にE・フォースの絶望の旋律が響き渡った。 疾風は数体の攻撃を交わしたが、残りの音色にダメージを受ける。 貴様にとってはただの食事なのかもしれんがな……。 「見過ごせぬ。見過ごせぬよ、我々にはね。では参ろうか。異世界の者」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364はエィンシャン・ゴールドの瞳をグラジオスに向け、その身に完全なる障壁を築き上げる。 普段の温厚そうな顔とは打って変わり、そこに佇むのは「狂人」の側面を持つ黄金の眼光。 小梢はターコイズ・グリーンの大きなスプーンとフォークを構えて、揺るぎなき『カレー好き』の防御壁を作り出した。 どこかからカレーの匂いがした様な気がしたが。たぶん、気のせいである。 「えーと、クジラさん、じゃなかったケジラミ?あれ、なんだっけ?」 ボディを狙ってこいと誘惑するように、ゆらゆらと揺れ動く小梢の身体。 グラジオスは疾風にブロックされており、小梢の所まで行く事ができずにいた。 「雑魚をいくら喰った処で、小生の飢えは満たされない。塵も残さず消滅させてやる」 いりすは再び漆黒のエアスプレーを茜色の空にばらまいていく。 戦場が見渡せる場所より弱った敵に的確に突き入れてくる攻撃。 不吉と言われる彼岸花が暗黒奈落の川縁に咲き乱れるように広場を舞う花。 げらげらと笑いながらオリーブ・グレイの髪と瞳が揺れ動く。 その小さな口から垣間見える歯はナイルワニの因子を含み、背中には鱗が走っているのだ。 紅涙の一族は誰しもが攻撃的。いりすもそれに違わない獰猛さでE・フォースを狩っていく。 受け継いだ記憶は、意志は誰のものなのか。そんな事を考えることすら面倒だから。 いりすは、その手を動かしてただ只管に獲物を狩るのだ。 強い敵を追い求めて戦場を漂う。 「こいつらも元は無関係な一般人、その無念の想い。今更、私がしてあげれることなんてないのよね」 だから、ソラは攻撃の手を緩めない。出席簿(2H)から繰り出される電撃は彼女の意志。 ソードミラージュというジョブでありながら、神秘攻撃に特化しているのは。 ソラの並々ならぬ強い意志のなせる技だ。普段は自堕落な生活を送ろうとも、真面目に敵と対等する時は真剣になる。 繰り出せコバルト・バイオレットの電雷螺旋。ソラ・ヴァイスハイトが断行する。 いりすとソラの二重螺旋はE・フォースを圧倒し、数体の思念体が消滅した。 その攻撃はグラジオスをも巻き込み、純白の翼に多少の傷を追わせている。 疾風は右手に構えた全長約39cm、刃長約24cm、刃厚約8mmの片刃の大型コンバットナイフでE・フォースと目の前に居るグラジオスを巻き込んで、怒轟の雷拳を放った。 アドリアティック・ブルーの輝きを纏った疾風の龍牙は壮絶な威力を持っている。 グラジオスの片羽は吹き飛び、辺りにカーマイン・レッドの花が咲いた。 そして、また数体のE・フォースが茜色の空に霧散していく。 ●それは、とても『幸せ』で。ひどく『不幸』であるというのに。 「私の美しい翼が……」 「あぁそうか、その翼は飾りか。いやこれは失敬。実に美しい“飾り”だ。無様に天を舞う、貴様に相応しい。誇れよその翼に。今が己を」 シビリズはグラジオスに挑発を仕掛ける。 「私の美しい翼を“飾り”と宣うか! いいだろう、下等なる者達よ。その身に聖藍の裁きを受けるがいい!」 それに乗ってきたアザーバイドは、自身の周りにいくつかの魔法陣を作り出した。 連なる形で巨大な魔法陣が出現する。 光が収縮していく。 ―――はじき出されるのは辺りを白銀に染め上げる神光。 元来の力を取り戻していれば、全てを焼きつくす爆裂なる光であった。 視界を白に染め上げ、見えない空間から飛来する幾つもの光弾。 広場にいたリベリスタが次々と傷を追っていく。 ――ブラッド・フィールドが作り上げられる。 アガットの赤の霧が夕暮れのオレンジをより一層、濃く深く染め上げていた。 風に飛ばされて血の霧が晴れる頃。 唯一、全弾を避けきったいりす以外のリベリスタが深い傷を負っていた。 その身に受けるのは死に至る毒。そして身動きすらできずに居る仲間たち。 特に後衛に居たアーリィの傷はひどいものだった。 自分に今できる事は回復しか無いというのに、肝心な所で呪縛によって動きを封じられる。 絶対に犠牲者なんて出したくないのに……! そこに、「大丈夫」と言うように肩をぽんと叩かれた。 隣を見れば、血を纏った紅玉が居る。最上の血の石を冠した男が、ロアン・シュヴァイヤーがグラジオスに向けて走りだす。 「さあ、懺悔の時間だよ。言い残す事はあるかな?」 茜色の夕暮れに際してなお、三日月の如く冷たく輝くファンタム・シルヴァの鋼糸が、E・フォースとグラジオスに迫り来る。 ロアンは聖職者でありながら神や教義といったものが嫌いであった。 妹を危険に晒し続けた神が、自分の子供ですら差し出す事を良しとした教義が。 疑心を持ちながらそれらに従ってきた自分すら、許せないのかもしれなかった。 ……だからかな? その使徒の様な姿に苛立ちを覚えるのは。 「嗚呼、ぐちゃぐちゃに捻り潰してやりたいな。君を潰したらどんな色になるんだろうね?」 ピジョンブラッドが血の輪舞曲を踊り狂う。天使と魂の意志を巻き込んで。 悲しみの思念体がまた一つ虚空に消えた。 「君達の無念は、晴らす。故にせめて安らかに……眠るが良い」 シビリズはペリドット・ゴールドの髪を揺らし、E・フォースへと攻撃を打ち込む。 その身はさきほどグラジオスから受けた攻撃により傷ついていたが、そんな事彼には関係の無いことであった。むしろ、そういう危険な状態であるからこそ、元来の狂気が高ぶる。 重い槍を自在に操り、最も弱っているであろうE・フォースへ絶大な膂力の一撃をぶち当てた。 音を立ててはじけ飛ぶ思念体がオレンジ色に薄まって消える。 ゴゥと愛槍を振り回し、離れた場所に居るグラジオスに向けて啖呵を切った。 「ひょっとすると逃げる事もあるかな?」 自分が下等なる者達と呼んだリベリスタに圧倒されて、逃げるのか? いいや、崇高なる天使様は逃げるとかいう卑怯な真似はしないよな? みたいな意味合いだった。 もちろん、挑発である。 「高貴な私が逃亡を図るなどと思ったのか、なめられたものだな」 とはいえ、両の翼はとうに無くなっており、その身を覆う白地の布は真っ赤に染まっていた。 しかし、それでもなお、強さはアザーバイドの方が上である。 油断をすれば、一瞬で重傷を負ってしまうだろう。 小梢は状態異常のかかったこの状況で、ブレイクフィアーを「ぺかぺかぺー」と使った。 カレーの匂いが辺りを包み込む! ……はずは無かったが、なんともゆるい感じである。 しかし、彼女のゆるさがあったからこそ、救われた面もあるだろう。 いりすとソラの攻撃により、E・フォースは全滅していた。 アーリィはそのパール・シルヴァの髪を揺らしてグラジオスとは別の清浄なる神々に祈りを捧げる。 彼女の周りにマナの奔流が溢れだし、エルブの薄い緑が漂い始めた。 ――フラン・ベルジュの名において聖心の神に願う。この身に流れるマナを依りべに、癒しの加護を施したまえ。 呪文とか必要ないかもしれないけど、ゲームで言ってたし、それっぽいし。とかいう理由で詠唱を唱えるアーリィ。 それに応えるのは、心優しい神々であった。 エルブの光を放ちながらリベリスタの傷が瞬く間に癒えていく。 「天使の見た目は見掛け倒しか」 もはや天使と言うのには憚られる程に憔悴しているグラジオスに向けて疾風は言葉を放つ。 それは翼を失った使徒にとってこの上ない屈辱であった。 「おのれ……! おのれぇええええ!!!」 天使は再び白銀の閃光を放とうと魔法陣を展開しようとした。煌めくライムライトの髪が揺れる。 しかし、それを許さぬ者がいた。 悩み迷い己の内側に常に道を問い続ける男。 自身が真とする道を拓けと託された黒曜を纏う迪拓者。新城・拓真が御使いの前に立ちはだかる。 愛刀二式天舞を携え、祖父に習った、否、僅かばかり記憶に残る祖父の剣技。それを真似た拓真独自の剣流。 「覚悟しろ……貴様が喰らった人々の無念……晴らさせて貰う!」 繰り出すのは吹き荒ぶ天舞を表したかの様な―――烈々たる横一閃。 グラジオスの影が、上下二つに割れる。その先、夕日に照らされて見えたのは黒の正義。 黒曜石の瞳が力強い意志を放っていた。 ●『本当の幸せ』をつかみとれ。 少女は不思議な夢を見た。 数人の人に囲まれ、悩んでいる事に対して次々に言葉を貰った。 親友も同じ事を考えているから謝る勇気を持ちなさいとソラや拓真、疾風が言った。 カレーを食べろと言ったのは、小梢である。流石、小梢。ブレない小梢。 アーリィは自分の友達が寂しそうにする事を語る。何も言わなけば、分かり合う事ですらできないのだと。だから、言葉に乗せて伝え、仲直りをして欲しいのだと言った。 ロアンは少女に優しく話しかける。 「絵を描くのが好きなのかな?」 絵を描くっていう事は、自分と向き合う事。 自分の醜さや無力さを自覚してなお、目を逸らさずに向き合い進もうとする姿はどんな絵の具の色よりも綺麗で素敵だよ。 真っ直ぐな性格だからこそ思い悩み、キャンパスに色をかさねていった少女の気持ちをロアンはゆっくりと解きほぐしていく。 「最初の一歩はいつも怖いけど、踏み出してみたらどうって事なかった、っていうのは結構よくあるものだよ」 閉ざされた世界に迷い込んでしまった、先の見えない不安を。踏み出す勇気が無かった少女を。 ロアンは優しげな笑顔で肯定し、その先の光の色を導いていった。 「……人生の先輩が言うんだから間違いない。頑張る君を応援してる」 僕は神様とか信じてないけど、励みとか後押しになるならそれでいい。 ――善き人々に、救いよあれ 「人の縁なんてモノは意外と簡単に切れてしまうモノだよ。それを繋ぎとめたいと思うのなら、相応の努力が必要なのさ」 いりすは辛辣に。されど、的確に少女を諭す。 まぁ、誰に言われなくても、君はもう解ってるんだろうからさ。 後は、ヤるだけじゃない?言葉にできないならさ。 「君は絵を描くんだろ。絵にして送ってみたら?」 部室に描きかけのキャンパスがあったはずなのだ。素敵な色を置いたパレットと紺色のキャンパスが。 その虹色のぱれっとに乗せた原色で作り出せるキャンパスは無限大の可能性が広がっている。 少女はその何にも縛られない、無限のキャンパスに色を引く事が大好きだったはずだ。 「好きな物に、あれこれ難癖つけて態々嫌いになる必要はないのさ」 ――好きだから好き。それでイイじゃない。 ああ、そうだ。好きなものは、どう頑張ったって嫌いになんてなれないのだ。 少女は絵を描くことが好きだった。 それ以上に、親友の事が大好きだった。とても、とても大切だった。 思い出したよ。意地はってごめんね。 明日謝りに行くよ、だから、また一緒に笑い合おうね。 少女がぎゅっと瞑った瞳を開けると部室に横たわっていた。 不思議な夢だったはずなのに。 鮮明に残る言葉とロアンが用意しておいた天使のストラップが少女の手の中にあった。 ―――虹色のパレットから生み出されたキャンパスは、混色であったけれど。 それは、少女の心を映しているように、とっても綺麗な『にじいろ』をしていたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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