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<逆凪>Say hell-o to my ”LADY”

●愛を込めて死の果てで
 逆凪は謀略を是とする組織だ。
 利益と実力。採算が取れない作戦など彼らが行うには値せず、感情が先行する策など、首魁・逆凪黒覇が鼻先で笑おうと、その配下が許すまい。
 故に、感情『しかない』筈の阿瀬 省午の策は本来なら焼き捨てられ放逐されても仕様のないものであると言えよう。
 ならば、なぜ。その危険にすぎる提案が黙認され、あまつさえ部下を引き連れることを許されたのか。
 理由は、ふたつ。
 一つは、省午が『認めさせるに足る対価』を用意したこと。対価とは利益。利益とは、主流七派で云うところの『対立勢力の放逐』である。
 これは、比較的容易だった。直近数年の神秘事件としては秘匿されたアザーバイド、『レイディ』召喚を行うことで予測される被害は、場所を選べば制御された暴力と化す。
 仮に、それを目障りである勢力の只中に放り込めれば、それだけで得られる利益は逆凪勢力の被害を優に超えるだろう。
 もうひとつは、騒乱。
 神秘事件を起こし、被害を拡大させ、『逆凪』の名を殊更にアピールする。ここで重要なのは、『悪目立ちをしてはならない』ことである。
 逆凪らしく、効率と利益を加味し、徒に被害を催してはならない。重要なのは、利益を支出よりも高く持って行く事にある。

 その点で、彼は優秀だった。
 今までの不利を帳消しにする程度には――恐らく、阿瀬 省午という男は狡猾だったのだ。

 召喚の為に描かれた魔法陣は、今や絶え間なく周囲の魔力を奪い去る暴食装置と化している。
 それに近付けば、一般人なら幾ばくもなく命を失うということは直感で理解できる。
 逃げられるなら、であるが。
 そして、避けられるなら、であるが。

 高層ビルからなる大型ホテル中層、大会議室として使われるそこは、魔界に等しい状況だったといえよう。
 中央にあるが故に、上も下もを巻き込んでその魔法陣は奪い去る。
 そこに近づいてしまったのがひとつの不幸であり、そこの真上、もしくは真下に足を踏み入れてしまったのがひとつの絶望。
「その上下」すらも死を振りまく貪食は、何より絶望に満たされている。

「……アニキ」
「大丈夫だ。ここまでやって、やっと計画通りというところだよ。ここまでがデモンストレーションで、ここからが実現さ」
 不安げ、というわけではあるまい。上に立つものがどうであれ従うのが下にあるものの役目である。そして、鎌岩というこの男はその常識を偽らない。
 省午が何をしようと従った。何を考えようとついてきた。彼の言葉を受け入れる器になることが、鎌岩には出来たのだ。
 だから、『レイディ召喚』なる突飛な提案も鎌岩は従った。それが正しいというのなら、そのとおりなのだろう。
 省午の青写真がたとえ、逆凪の助力を引き出すためのものだとしても。
 完全にではないとしても、フェイクであることは彼とて理解していた。

 だから、これからアークが来るであろうということも。
 どう転んでも自分と、省午は死ぬのだろうなと分かっていても。
 止める気はなかった。止まる気も無かった。
 地獄の釜の蓋は、未だ固く閉ざされていたけれど、蠢く音は聞こえるのだから。

●死生・感傷・情動に狂え
「順を追って説明しましょう。先ず、『レイディ』というアザーバイドについてですが……正直、ことここに至って情報が未だ無いに等しいです。
 過去、そこそこの規模の神秘事件に出現し、ごく短時間で多くの被害を出したこと、そこに居合わせたリベリスタはその多くが死亡もしくは再起不能になったというのがまず一点。
 人間型で、理性を持ち、暴虐性に優れるというのが二点。最後に、その存在は不安定なため、ボトムに顕界するのは相当な労を要すというのが、三点。最後は有利な要素でしょうね」
「順を追うどころか、いきなり核心から入りやがったな」
 フロアマップを背後に、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の発言は最初から分かりにくかった、と思われる。
 何せ、その存在自体知らない者の方が多いのだから。

「ええまあ、もうちょっと簡単に言うと……この男、逆凪準幹部『阿瀬 省午』と配下『鎌岩』を始めとした逆凪のいち集団が、ホテル中層階に陣取り、アザーバイド『レイディ』の召喚を行おうとしています。目的は、言ってしまえば思慕です」
「……恋かよ、させておけばいいじゃねえか」
「それが誰にも被害が出ないなら、いいでしょうけどね。先程申し上げた通り、レイディというのはとんでもないアザーバイドです。阿瀬は、どうやら彼女が起こした神秘事件の生存者。意味もなく彼女に惚れ込んでしまったのでしょう。そして、彼女に殺されたいと願っている。今まで数回、その下準備と思われる事件を起こしているわけですが……尽く失敗に終わっている上で今回の行動です。止めても止まらないでしょうね」
「だから、実力行使ってことか。面倒な奴だな」
「きみのためなら死ねる、を地で行く根性論とか逆凪らしからぬ感じですが……ここ、周囲に軽易なフィクサード組織や個人フィクサードが陣取る区域なんですよ。どうやら、表向きの理由としてはそれらの放逐が目的なのでしょう」
 つまり、強力なアザーバイドを召喚することでそれを暴れさせ、周囲一帯に被害を与えることが目的である、ということか。益々、逆凪としては異常な行為だ。

「彼の所持するアーティファクト、及び技能についてはまだ若干謎が残りますが、概ね魔力干渉を主としたものであることが判明しています。魔力の消費、魔力の損逸を大いに衝くあれらの固有技能は、こと『現地』では有利に働くでしょう。召喚に用いられる魔法陣からして圧倒的ですから」
「まあ、言いたいことは大体わかった。で? どうすればいいんだ?」
「そうですね、目的は大事です。
 我々の目的は、一つに『レイディ召喚阻止及び阿瀬省午率いる部隊の壊滅』。仮にレイディが召喚された場合、『召喚領域から出さない』こと。概ねはそんなところでしょう」
「『倒す』とか『押し返す』じゃないのか。随分消極的だな」
「……そりゃあ、まあ。『召喚は完全には行われません』から。仮に、阿瀬の召喚をアーク側が止めなかったとしましょう。どう足掻いても、『レイディ』の顕界時間は百二十秒です。ただ、その間彼女は全力で猛威を振るうでしょう。辺り一帯を破壊し尽くし、暴れながら消えるでしょう。被害は甚大、神秘影響は絶大。それから駆けつけたって遅すぎます。ですから、出来ればその領域から出さないことが第一義となります」
 台風や地震、天災の類のように。
 世界が望まない形で、世界を破壊するそれはその後何を置いても重くのしかかる汚点となるべき事件を生むだろう。
 理解できていて放置するという選択肢はない。
 止めることで進まぬ悲劇と終劇があるのなら、それを掴みとるべきだろう。

「……最大限止めたら?」
「ゼロ。一切顕界しません。阿瀬達だけならまだ、かわいいものですよ」
 容易い敵とは彼は言わない。かわいいものではあるけれど。
 それだけで終るなら、幸せだったと笑えるだろう。
 終わらなくても、立ち向かえると不敵に笑え。
 リベリスタなら、やってみせろと、彼はいう。

●胎動
 悪夢の様に暴力的で、少女のように純朴で、天災のように唐突で、獄のように底がない。
 彼女の瞳を見たものは震え、彼女に触れられたものは狂う。
 狂気の夢魔は昼もなく夜もなく、目覚めの時に笑っている。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月16日(日)22:16
『レイディ』3話目にして最終話。召喚阻止、もしくは彼女の進撃を止めることが何より重要です。
(『"LADY"』がついたシナリオに関連しますが、読んでいなくても楽しめます)
●達成条件
1.召喚陣形中央アーティファクト『キイ』の5ターン以内の破壊
  └5ターン以降、10ターンまでの破壊は成功条件相当とする
2.『レイディ』顕界中に撤退条件or敗北相当の条件を満たさず耐え切る
3.『阿瀬 省午』及び『鎌岩』の撃破。ソレ以外のフィクサードの生死は問わない
(全ての条件を満たすことで成功)

●エネミー+アーティファクトデータ
阿瀬 省午:ジーニアス×マグメイガス。とある事情により『レイディ』に深い思慕の念を持つ。
         アーティファクト『魔喰の毒杭』を持つ。
         『二刀流』『起死回生』『誓約』などの戦闘スキルを持ち、『EX 斬十字呪』(神遠全・Mアタック強/脱力/?)を所持。
         かなり強力なフィクサード。
└『魔喰の毒杭』:杖型のアーティファクト。攻撃に『対象がその戦闘間消耗したEP分』をダメージとして追加する性能を有する。
           (総HPからの損耗率ではなく、チャージ等の回復値も含んだ総合消費値から算出される)

鎌岩:メタルフレーム×クロスイージス。
    アーク中堅クラスで、防御性能はかなりのものを持つ。アーティファクト『酷鉄仇』(こくてっきゅう)を所持。
    防御系戦闘スキル、アクティブスキルを有す。
└『酷鉄仇』:黒い球体型のアーティファクト。攻撃の追加効果としてノックBを誘発し、[反射]を有す。

フィクサード×5:ホーリーメイガス2、デュランダル、インヤンマスター、ナイトクリーク。アーク平均クラス。

『レイディ』:過去、とある神秘事件のトリガーとなったアザーバイド。相当に強力。
       結界砕き(魔術知識+αに相当)、恐怖制限(神遠単・混乱)、無造作(物遠ラ・崩壊など)などを所持。
       顕界時間は『キイ』の破壊ターンに依存。6ターン目以降から1ターンずつ増え、成功条件内では最大5ターン顕界。

『キイ』:召喚陣形中心に据えられた無形アーティファクト。耐久がやや高い。

●戦場
 高層ホテル中層階:大会議室跡。
 フロアの大半を占める広さを持つ。50メートル四方。
 中央に据えられた『召喚陣形』は直径22メートル。10メートル以内に入った場合、EPロスト(中)を被る。
 召喚陣形圏内に居る限りEPロスト(極小)を負う。
 中央が『キイ』存在位置であり、レイディ出現位置もここになる。
 阿瀬、鎌岩、他フィクサード面々は召喚陣形辺縁に配置。

 割とあれこれ騒々しいですが、やっちまってください。
 ご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
スターサジタリー
リィン・インベルグ(BNE003115)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
スターサジタリー
風宮 紫月(BNE003411)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
覇界闘士
伊藤 サン(BNE004012)
マグメイガス
匂坂・羽衣(BNE004023)

●Love is over
 夢想する。
 じりじりと焼け焦げるような熱がアスファルトを焦がし、落ちた汗すら焦がす日のこと。
 今でこそ毎年がそれを上書きする熱量の増加は、『あの年』に限って言えば遠い追憶でしか無い。
 故に、あの夏の只中で周囲が瓦礫に埋もれている世界というのはどうにもこうにも、居辛くて仕方がなかった。
 優雅に闊歩する少女の姿に、その背に蟠る闇の深さに、心の底から怯え震えたのは疑いようのない事実であり真実であり現実であった。
 だが、それと同じくらいに心打つ何かがあった。


 所詮この世は奈落の底だ。
 堕ちるべき獄が無い終焉の果てで足掻く様は、なんて惨めで酷いのか。
 考えたこともあり、考えないという結論に達した。

 ごんごんごんごんごん、と。まるで歯車が噛み合いウインチを巻き上げるが如き重低音が響き渡る魔力の暴食装置の膝下にリベリスタが現れたのはつい先程だ。
 逆に、随分遅かったようにも思う。もう少し早く来るかと思っていたのに、と。

「御機嫌よう。オレの事はもう覚えた?」
「……アニキ」
 恭しく、しかし朗々たる声音で自らの到来を告げる『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)の声に、鎌岩は警戒の色を強め、自らの前に立ち塞がった。
 愚直な男であると思う。損な役回りであると思う。だが、それが彼のあり方であることは上に立つ自分がこそ知っていた。故に、そうさせることを否定しない。
 少女も少女である。甲斐甲斐しくも繰り返し立ちはだかるその根性には驚きよりも先に呆れが浮かぶ。だが、少女の言葉がぶれた事実を、彼は知らない。
「僕だって馬鹿じゃあない。馬鹿正直に名乗りを上げた君達を忘れるほどじゃあないよ――無名の子猫ちゃん」
「御機嫌よう、早速で悪いっすけど地獄に堕ちてくれないっすかね?」
「こっちのセリフだ。馬に蹴られて地獄に堕ちりゃいい」
 五月に沿うように現れた『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)の言葉に反応したのは、しかし鎌岩。先刻の戦いに於いて、守りに徹し攻めに甘いリベリスタを攻めきれなかったのは何より痛かった。
 だが、それ以上に力の鬩ぎ合いに持ち込んだ相手に感じるものがあったのだろう。鎌岩が構えた『酷鉄仇』の微振動に反応するように、五月の刃の色が深みを増し、フラウの持つナイフに巡る魔力が強くなったようにも思えた。
 それが、彼らなりの挨拶であるかのようだ。

「いひひ、好きな子に会いたいが為に行動を起こす。そういうの好きよ」
「……君が言うと額面通りには取れないものだね」
『Trompe-l'œil』 歪 ぐるぐ(BNE000001)の言葉に僅かに混じる(と、彼は感じた)感情に、僅かばかり省午は眉根を寄せた。
 彼女の悪戯じみた面は、実際のところ多くのフィクサードが知りうるところだ。それと同じくらいに厄介な存在であることも、彼は理解している。
 そんな手合いが見透かしたような感情を自らに向けてくる、その事実が我慢ならない。ともすれば、見透かす以上に愚弄を交えて要るのではないか、と。錯覚めいた感傷を覚えても居た。
 ……もっとも。当人であるぐるぐは欠片ほどもその様なことを考えて居なかったのはある種の冗談とも言えるだろうか。
「愛か」
「そう、愛だ」
 無骨で愚直な『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)――通称『伊藤』の問いに、省午は簡潔に応じた。単調なようでいて、核心を衝いたやり取りでもある。
 愛である。それ以上、それ以外の選択肢は何処にも存在し得ないくらいにどうしようもなく深遠な愛。膨大な経験と過去が生み出した歪みは、その実単純な感情論だ。
 奇しくも。絡め手を好むぐるぐと直線的な感情を何より己とする伊藤の言葉が、内情が同列にあることは驚異的な状況でもあった。
 恋路を邪魔するつもりなど無い。だが、それが結果として人ひとりの命を犠牲にしないと到達しない悲願であり彼岸なら、彼らが悠然と構えている道理はないと。
 それ以上に積み上げられた屍も多い。崩れ落ちた悪夢もまた多い。それだけの状況が、そこにわだかまっていることの証左。

「貴方の“愛”の形は私には理解出来ませんでしたが……それもまた、一つの形なのでしょうね」
「愛の本質を理解しなければ、どんな形であろうと理解できないだろうさ、お嬢さん。故に、君では早すぎる」
 愛の象徴たる古代神に由来する弓を手にする『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)に向けるには、その言葉は余りにも鋭く、下と見る趣を感じさせる言葉だった。
 だが、決して軽んじているわけではあるまい。実力の意味では、少なくとも油断ならぬと理解はしている。それでも、やはり本質的には届かぬ、相容れぬと理解している相手だからこそのその態度か。
 所詮は異端たる自らの慕情だ。理解しようとしてここへ来たなら大きく裏切られることとなろう。ならば、理解しなければいいものを。
「やれやれ、君は一体何処まで愚直なんだろうね」
「……そっから一歩でも近づいてみな、その張り付いてる表情分からねえ程度にコマにしてやんぞ」
 まるでそこに立つことができるのが当然かのように歩を進めた『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)の足元に、魔力で編み込まれた矢が突き立てられる。
 広大な空間の中心に無用心にも踏み込もうとした彼は、或いは省午の悠然たる態度がなければ、一瞬の後に彼に攻撃を殺到させていただろうことは想像するまでもない。
 状況は寡黙にして余談を許さない。足運びひとつ誤れば、徒労にすら終わるほどに。

「嗚呼やっぱり……貴方は、恋しか出来ないのね」
「君の主張はそれだけかい? なら、それ以上の言葉は必要あるまい」
 自分の為に相手を望み、相手の望みを自分に沿わせる。どこまでも一人よがりな行為は、決して誰も幸せに出来ない。だからそれは愛ではないわ、と『帳の夢』匂坂・羽衣(BNE004023)は薄く笑う。
 一生愛を覚えぬまま終わればいいと思う。結末が何処へ向こうと、あの男は幸福な結末など許されないし至れないのだから。
 そんな言葉に、しかし否定する言葉を持たず、理解する温情もない省午の声は冷めたものである。
 語らなくとも、状況は進む。結果が全て自分を許す。
 その証明は、何れに於いて必要なのだ。

(奴の心に焼きつく程に鮮烈な狂気の淑女……クリエイターとしては、見てみたくもある)
 心の底で脈打つ探求者の衝動は、如何な義理や信念でも押し隠せるものではない。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の葛藤はしかし、リベリスタとしての信念が上回る形となるだろうことは明らかだった。
 ゆらゆらと陽炎じみて揺れ、その姿をぼやけさせるアーティファクト『キイ』の存在感は、そのまま悪意と運命の坩堝に足を踏み込んだことを思わせた。
 ……既に、何名もが魂を奪われ絶命しているのだ。この局地で。それ以上を、どうあって許せるものか。

 夜も無く昼もなく、世界を包む悪意が渦巻いて。
 誰ともなしに、戦いの幕はゆっくりと。

●True lovers
 まっすぐに、正面から飛び込んだフラウの頭蓋にカウンターめいて迫ったのは、鎌岩の酷鉄仇だ。
 最初から省午狙いで、最速が襲いかかるのは自明であったがためか、判断力の勝利か。芯の据わった固定物に超速度が加われば、只のダメージで済むはずが無いのは明らかだった。
「……五月!」
「鉄球か、面白いな」
「てンめぇ――!」
 爪先を捻り、軸をずらしながらフラウが叫ぶのと五月が両者の接触点に割って入るのとは、ほぼ同時だった。
 弾き飛ばすことを目的とした両者の一撃が、ぶつかり合い弾き合う。
 一気に遠距離の間合と化した二人を他所に、フラウが省午へとナイフを叩き込む。
「……成る程、ここで君が来るか」
 楽しげにナイフを杖の柄で受け止める省午だが、言葉ほどには余裕が無いようにも見えた。
 実力はどうあれ、速力が乗った一撃は悠然と受け止められるものではないことはわかりきっている。軸心をずらすことでクリーンヒットを逃したとしても、そうそう打ち合いを続ける手合いではない、と。
 返す毒杭を受け止めたフラウも、舌打ちする。魔力の弾丸を受け止めただけだというのに、僅かに産まれた魔力の隙に滑りこむように叩きこまれた『毒』の威力は、長期化すれば看過できないダメージになることは明白だ。
 彼らの戦闘の合間を縫って、ぐるぐが宙を舞い、直接突入を果たそうとする。
 先んじて飛び上がっていたことが奏功したとは言え、十分な距離への侵入にはやや遠い。
 高所の優位は即ち、接近するまでの隙を作るということでもある。
 相手にブロックの余地を与えず、その位置に滑り込んだことは重畳ではあるが、しかし魔力が削り取られる感触は、看過できるものではないのも確かである。

「全力で往きます、全力でどうぞ」
「ッの野郎ァ…………!」
 伊藤が、両腕を掲げ砲門を開く。辺り一面を蹂躙する勢いで砲弾を吐き出し、ひたすらに破壊を尽くす。フィクサード達を狙うには十分すぎる威力と射程は、確かに面攻撃としては優秀だった。
 何故なら、その攻撃を悠然と流すことができる者など、ここではごく僅かだったから、でもある。
「止まれオラァ!」
「嫌だね、僕は止まれない」
 ナイトクリークが放つ気糸の精度は、油断ならぬものだった。だが、伊藤の歩みを止めるにはやや浅い。避ける為に、十分な身の捌きを見せつけ、尚も砲門は次弾装填シークエンスに移る。

「貴方が恋を遂げたい様に、羽衣は皆を護りたいわ」
「随分と素敵な言葉だ。少なくとも、『言葉』は」
 陣形の外縁を食むように突き進む魔力の電撃は、最外縁まで距離をとった一部には届かずとも、十分な威力を誇っている。
 そこに潜む感情の奔流を見逃さぬ省午は、直感的に悟っている。同じ魔術の極致を目指しながら、求める位階が異なる相手の行動を。
 故に、彼は羽衣の言葉を理解しながら否定する。綺麗事だと、片付けて。

「踊れや、クソがァ――!」
「く……!」
 十分に弓を引き絞り、渾身の一射を放とうとしたインベルグを襲ったのは、デュランダルの猛然たる一撃だった。
 先んじてある程度は近づいていたとはいえ、キイまでの射界を拓くには未だ遠い間合いからの一射――本来なら、フィクサードの多くに打撃を与えるに足るものだったのは明らかだ。
 だが、メガクラッシュにより弾き飛ばされた位置から、暴発めいて放たれたそれが射界に収められたのは、辛うじて、の範囲で半数。
 全力で叩きこまれたら一溜りもあるまいが、フィクサード達を一網打尽にするには僅かに足りないか。

「ぐるぐ、わかってると思うけど」
「はいはい、警戒はできてますよ。後はお任せあれ」
 十分な距離から閃光弾を放り、ホーリーメイガスが一人とインヤンマスターをまとめて閃光に叩き込んだ綺沙羅が叫ぶ。
 十分な高度をとったぐるぐなら、召喚陣形の弱点を、ひいてはキイ破壊の鍵をつかむことができるかもしれない、と。
 自分にできることはといえば、相手方の後衛を出来るだけ弾き、バランス的劣勢を削ぐことにある、と。
 そのためには、省午の行動にも気を配らねばなるまい。
 危険な相手であるがために、未知であることは許されない。

「……目標確認、狙い撃ちます──!」
 紫月の目的は、飽くまでキイだけだ。先んじて破壊しなければ、暴虐のアザーバイドの顕界を許してしまう。
 そうなれば、必然として自分たちが劣勢に立つ。それだけは避けなければならないことを、彼女は特に理解していた。
 幸いにして、というべきか。命惜しさか、或いはキイの強度への信頼か。後衛に立つ者達がキイの護衛に立つことはしていない。
 即ち、がら空きの状態に寸分違わず一射一射、確実に打ち込めるということでもある。
 加えるならば、フィクサード陣営の攻撃力は看過できないとしても、彼女が気に留める程ではないのも確か。ジリ貧ではないだろうが、後方に控える羽衣に対し信頼し得る程度ではある、ということ。

「鎌岩、オレは小細工は苦手だ。己の思うがままこの力を振るおう」
「小娘が上等カマしやがって、そのクソみてぇな感情――」
 受け止めろ、と打ち壊す、がぶつかり合う。淡く光る鎌岩の胴に、吸い込まれるようにして放たれる斬撃は魂全てを叩き込む如き圧力を以て襲い掛かる。
 だが、一撃ごとに大きく弾き飛ばされる打ち合いは決して、対等ではないことは明らかだった。
 覚悟の、度合いが。

「どこの馬の骨とも知れん輩にウチのレイディはやれんな」
「全く、噂に違わぬ冗談ぶりだな君は!」
「……どこ見てるっすか。余所見する暇あったらうちの相手してくれないっすか?」
 どこからとも無く鼻眼鏡をかけ、挑発行為に及ぶぐるぐ。だが、その腕は止まらず、無形であるキイの弱点に緻密にして大胆な連撃を叩き込む。
 銃とナイフ。既にその原型すら失って久しい両手のそれを自在に繰り、漏出する魔力に気を留めず与え続ける彼女の動作は淀みない。
 魔力漏出による息切れは、精密射撃の合間を縫って魔力充填を行う紫月が居る。このまま行けば、あと幾許もなく破壊できるのではないか、と。
 苛立ち混じりに省午が構えるが、進路は巧みにフラウが塞ぎ、ナイフによる超速攻撃を浴びせ続けている。
 数的優位、立場での優位は明らかながら、目的面に於いてジリ貧であることは否めない。

「アアア……!」
「……!」
 叫び声の残響を残し、崩れ落ちたデュランダルを前にして、インベルグの頬を冷たい汗が伝う。
 壁際にまで押し込まれ、あまつさえ壁を砕かん勢いの連撃。回復の波長も届くまい遠距離にまで己を押しこみ、半ば死を覚悟して突っ込んできたこの手合いの限界を見誤った。
 それは、認識を改めさせるに足るものだったと言えるだろう。運命を削り取るほどの覚悟。命懸けの意味を、格下から身を以って叩き付けられるという、現実。
 だが、それを恥じるにはまだ早い。勝利は、未だ手中から溢れる気配はないのだから。

「ねえ、羽衣素敵な歌を覚えたの。貴方の為よ、聞いてくれる?」
「…………やはり違うな、君は」
 癒しの波長は、確かにリベリスタ達を癒していく。
 フィクサード二人をして羽衣が如き旋律はおそらく生み出せまい。
 二人が三人であろうとも、威を超えたとて意を掴むことは出来はすまい――それだけは確かに、そこにあるのだろうと。

「僕は殺しに来たんじゃない! 僕は人間でリベリスタだ!」
 叫びをそのまま砲弾に変え、伊藤は尚も斉射を辞めない。五十秒――過ぎた。相手方の回復がアーティファクトに響いたか、罅が多くとも未だ破壊に至らぬキイだが、それでも陣容は鎌岩、そして省午を除いて倒れ伏した。辛うじて息のある面々も居るが、死の帳に飲み込まれた者も少なくはない。
 殺したくはないけれど、死んでしまったのだ。救えなかったけれど、まだ救えるのだ。
 なんて幸福。目の前には可能性が転がっている。

「こ――の――!」
「マズイっす、これは……!」
 フラウが叫ぶ。間近なら十分に理解できる。この威力は、『まずい』。

「来た来た来た、見せてよ……最高純度の君を!」
「今度こそ――」
 ぐるぐは歓喜と共に拳を構えた。命すら燃やす最高純度の拳を、省午の『最高純度』に合わせ。
 綺沙羅は覚悟する。絶対的な対抗心に。
 そして、毒杭の脇から振るわれたナイフが、空間を切り裂いた。

 魔力を吸い上げるような破壊。
 膝をつかんばかりの脱力感。
 だが、それを受けてもぐるぐの覚悟は、揺らがなかった。
 崩れ落ちるように、覆い被さるように、振り下ろされた拳はキイのどまんなかを貫いた。
 そして、空間がはじけ飛ぶ。

●漆黒憐憫の悪徳少女
 ぽつんと、現れた少女は緩く微笑んだ。それだけで、その場全ての革醒者が自らの心臓を握りつぶされるが如き悪意を感じ、縮み上がるだろう……そんなレベルの存在感。
「やだ。前も後ろも敵だらけ」
 省午へとバックステップで戻ろうとするぐるぐは、目が笑っていない。
「鎌岩よ,君は省吾のこの欲にも付き従うのか。他者を巻き込む愛情は恋とは言わぬ」
「……知るかよ。アニキの覚悟に、俺、が」
 覚悟の量と、意識の重さ。五月の猛攻は、鎌岩が受け止めるには重かったか。それとも、レイディの存在に最後の一閃を潰されたか。
 少なくとも、彼女に体を預けた彼の呼吸は、途絶えて久しい。

『レイディ。そいつはあんたの事を慕い、あんたに会う為だけに生きてきた』
「オイ、省吾。不本意ながらアンタの望みが叶ったぞ」
 綺沙羅が、異界の言葉を扱って少女に語りかける。
 フラウが、省午をけしかけるように、言葉を紡ぐ。

「死んだら全部なくなっちゃうんだぞ、好きって気持ちも、愛してるって気持ちも、思い出も、これから出会うかもしれない気持ちも! だから――」
 伊藤の言葉は、届かなかった。無邪気な少女は、片手に集めた漆黒を爪に変えた。
 禍々しく黒い爪が、省吾を飲み込む。闇に消える省午と共に、少女が霞のごとく消えはじめ。
 最後に、軽く揮った爪が壁を、砕いた。

 寄り添うように消えて行く。夢も希望も未来も、全部。
 伸ばした指は、果たして届いたのだろうか。

「――さよなら、省午」
 愛してあげられなくて、ごめんなさいねと。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 戦場情報は重要だと思うです。
 それ以外、感情のあらゆる矛盾は美しいフレーバーだったと思います。
 結果としては色々と残るものがあるかと存じますが、誰一人非難されるべくもなく『成功』です。
 恋路の果ては、皆様の心のなかに。

===================
レアドロップ:『酷鉄仇』
カテゴリ:アームズ
取得者:梶・リュクターン・五月(BNE000267)