●電球で灯す先には 「……で? この辺なのダワー?」 光る電球が薄暗い路地裏を照らし出す。はい、と頷いた二人の部下に電球頭のメタルフレームはじっくりと周囲を見渡した――ここ数日、動く死体の目撃情報が頻発している所だ。上からは『バロックナイツ』の存在も聞かされているが、さて。 「……私達のシマの近くで、ナメ腐ったマネをしてくれるのダワー」 手にした金属バットで肩を緩く叩きつつ。言うや、得物を正面の闇に突き付けた。 視線の先。照らした光の先。言い放った「出て来るのダワー」という言葉に、果たして返って来たのは――くつり、くつり。含み笑い、それから、ノスタルジックなハーモニカの音色。コツリコツリと足音と共に、現れたのは少女だった。 「噂に名高き、『楽団』さんなのダワー?」 「うん。貴方達は、三尋木の人ね」 「御名答! で、何の用かしら」 「そうなの、それなの。あのね、あのね、バレットさんがね、覚醒者を殺して、操ると、素敵なのって、言うの。素敵よね」 「ふーん。そりゃ~仕事熱心さんなのダワー。でも、私も仕事熱心なのダワー」 「あ、気が合いそうね、私達」 「そうね。そう言う訳で、ちょっとボコボコにされるのダワー!」 地を蹴った。飛び掛かる。振り下ろす金属バット。だが、それは物影より現れた何かにどちゅっとブチ当たる。飛び散るとびきり不快臭――死肉だ。腐った体液だ。死臭だ。そして、正面に、右に、左に、後ろに、わらわらわらわら。死体。死体だ。死体だらけだ。 「ボコボコ? いやぁよ、殴られるのは、嫌いなの」 少女は笑う。死臭の中で。死者の群に囲まれて埋もれてゆく彼等を眺めながら。薄桜の口唇に宛がうハーモニカ。 ぷぁーん。音色はノスタルジック。 ●だわわ 「さて、ケイオス様率いる件の『楽団』事件ですぞ皆々様!」 事務椅子をくるんと回し、一同を見遣った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は単刀直入にそう言った。 楽団――それはバロックナイツ『厳かな歪夜十三使徒』第十位、『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが率いる私兵集団。彼らは死を操るというネクロマンシーの能力を用いて、『死者が蘇り生者を襲う事件』を頻発させているのである。 「此度はその楽団の一メンバーことニコレッタ・ブランジーニと、彼女が率いる死者の群の出没を察知致しましたぞ。 出没地点はひと気のない路地裏ですが、街中である事に変わりありません。彼女等を放っておけば、街にて被害が発生する事でしょう。 皆々様に課せられたオーダーは、この被害を食い止める事ですぞ! 楽団の能力は未だ不明な点が多いですが、あのケイオス様の私兵集団。実力はそれ相応でしょう、お気を付けて」 モニターに映っているのは一人の少女だ、ハーモニカを持っている事から彼女が『楽団』である事が推測できる。その周囲には、死体、死人、腐肉ばかり。 「ニコレッタ様が操る死者ですが、御覧の通り『数の暴力』ですぞ。その上、非常~にしぶとくてしつこいです。御油断なく」 それからモニターの視点が移動してゆく――死者の群、その最中には、3人。生きている。襲い来る死者の波に抗っている姿が。 「彼ら三人は三尋木所属のフィクサードですぞ」 黄泉ヶ辻――日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の穏健派。といっても、『穏健』という文字を辞書で引かせてやりたくなるような集団だが。 「どうやらニコレッタ様の狙いの一つは彼ら三人の殺害が含まれているようでして。えぇ、御察知の通り、殺して死体を操りたいそうです。 で、彼等三尋木面子ですが。『発光脳髄』阮高同――この人は過去にもリベリスタと接触をもった人物でして、リベリスタの皆々様を見かけたからと行って急に襲い掛かって来るような方ではございません。……まぁ尤も、敵になるか味方になるかは皆々様の出方次第でしょうが。 彼らはモニターの通り、死者の群に襲われている真っ最中ですぞ。早く到着する程に彼らの消耗が少ない状態で接触できるでしょう」 彼らの対応は皆々様に一任致しますぞ、と締め括り、サテ。メルクリィは機械の目玉で一同を見渡した。 「死者達には安らかな眠りを。皆々様、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月16日(日)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●そんなセレナーデ 夜風、寒風、指先までもがシンと冷える。 「どんなに素晴らしい演奏も、押し付けられたんじゃあ……ね」 白い息と共に呟き、『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)は纏った背広を引き寄せる。『楽団』。影に蠢く不穏な旋律。全くだと『足らずの』晦 烏(BNE002858)は同意と共に顔を顰めた。 「どうにもな、押し込まれっぱなしというのも性に合わねぇ」 局所々々で反撃といこうじゃないか。咥えた煙草。吐き出す煙。 「さて、反撃と行きますかね」 二四式・改を構えつ、最中にも駆ける脚は速度を緩めず――それは他のリベリスタ達も同様。『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)は息を吐く。楽団。ケイオス。ジャックとは違って、かなり準備が入念だという印象。 「このまま兵を増やされると、かなり大規模な戦いになりそうだ……削げる戦力は削げる時に削いでおかないとね」 「本当に、楽団は見境なく襲うッスね。いい加減、反撃したいッスし、同さんいるなら気合入れてくッスかね」 通行止めキット――『工事中』の看板に赤いコーン――を設置し、頷いたのは『Line of dance』リル・リトル・リトル(BNE001146)。彼女、と形容したくなる彼の言葉の中に登場した人物は、彼に『技』を教えた三尋木のフィクサード。不思議な因縁。敵なのに味方だけど敵。 やれやれ面倒だ、と黒い髪を靡かせる『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は呟いた。どうやらフィクサード同士の愉快な潰し合いは静観できないらしい。 「まぁ、生かすならマシな方。生ゴミを撒き散らす不届き者には躾が必要だ。……話が通じる相手なら楽で良いな? 今暫くは共闘できて」 若い頃の苦労は買ってでもしろというがその言葉を作ったのは売る側であって。嗚呼、仕事だ。動く死体ではなく、動かない死体を作るのお仕事だ。仕事を増やされては堪らない。 「許さねェ。許さねェぜ楽団」 一方で『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)はブラックマリアで武装した拳を握り締める。一回目は苦汁を嘗めた。二回目は逃げられた。三回目は――今回は、必ず、必ずや、潰してやる。 「そろそろ序曲もフィナーレか。なれば、その序曲のコーダをこの天才がつけて見せよう」 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)がヒュル、と振るうのはタクトのように細い剣身を持つ魔剣ハイドライドアームストロングスーパージェット。ぼくのかんがえたさいきょうのけん。始めよう、『始まりの終わり』。ふざけた雑音はもう聞き飽きた。 そんな仲間達の様子に、『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)は一つ頷く。たとえ『敵』でも困っていたら助ける、それが彼の矜持故。徐々に近付いてくる剣呑な気配に表情を引き締め、前を見据え、言い放った。 「――んじゃま、人助けにまいりますか」 ●歌うから謳う ざわ、ざわ、不穏な気配。濃密な死臭。死者の波がたった3つの人影を飲みこまんと雪崩れかかる。その中で、呻き声の狭間に聞こえてくるのは『ぷぁーん』という何処かノスタルジックなハーモニカの音色――その音は死を汚し死を玩ぶ旋律。 瞬間。迸ったのは厳然たる閃光。染め上げる視界、白。 「――!?」 3つの人影――三尋木のフィクサード達は突然の出来事に驚きつつも、今の光が神気閃光という技である事を知る。そして同時に、それが『自分達に向けて放たれたのではない事』を知った。 何故? 援軍? 迫りくる死体を蹴り飛ばし、同が振り返ったそこには。 「どーも、こちらも仕事熱心なアークですよっと」 「アークの御厨夏栖斗だぜ! 助けに来た!」 「手を貸すっすよ、三尋木」 「よォ阮、ドカンにボカン。援護する!」 掌を翳していた烏、結界を張り死体へ突撃しながら大声を張り上げた夏栖斗、リベリスタだけでなく三尋木一同へも攻撃教義を授けるマコトに、印を結んで楽団勢力へ冷たい雨を降らせる暖簾の姿が。 「アーク……!」 フィクサード達は「どうしてここに」なんて質問は投げかけない。カレイドシステム。それから彼等がアークである事に疑いも持たない。日本に於いて、夏栖斗を知らないフィクサードは殆どいないであろう。 「一般人が操られててこの戦力っすから、革醒者が操られればどうなるか……言うに及ばずっすね。今、この場における利害は一致すると思うっす」 「我々が貴方達以上に彼等を放置できない立場なのは御存知だと思います。目的が同じな以上、協力或いは利用し合うが効率的かと。 昨今の類似事例から、彼らは早期に撤退逃走する傾向が強い。逃がさない為にも、お互い手数が必要です」 「俺達は楽団を潰してェ。お前さん達はシマ荒らすコイツらを潰してェ。俺は仲間も阮達も誰も楽団なンてふざけた奴らに渡したくねェ。……頼りにしてンぜ、お三方?」 マコトは言葉を続け、与作は皆の言葉に重ねて説き、暖簾はニッと口角を吊った。 「まぁ、なんだ、援軍の押し売りは如何か? 拒否権はないけどな」 答えようにも死者の群の対応で手一杯な彼等に声をかけつつ、ユーヌのアッパーユアハート。死んだ鼓膜と死んだ脳味噌にこの声が届くかどうかはさて置き。死者が振り向く。どいつもこいつも死んだような目をして……あぁ、死んでたっけこいつらは。 普段は『中二が嫌』という理由で隠している翼を広げ、ユーヌが手を手を伸ばしてくる死者を踏み付け彼等を引き付けているその間隙。陸駆は死者の並の合間からなんとか同と目を合わせ―― 『三尋木の阮高同だな、ネクロマンサーのことは知っているだろう。貴様のような天才っぽい電球を死なせたくないので助けに来たアークの天才だ。そちらに攻撃する意図はない! 共闘できるか?』 「勿論なのダワー!」 テレパシーに対して間髪を入れず、同は部下が様子を窺ってくる前に大声を張り上げた。掲げた片手、親指を立てて――躊躇の余地は無い。生きててナンボ。後でどんな交渉を突き付けられようが、死んでいては意味が無い。このままだと確実に死ぬ。正に九死に一生を得た状況。藁にも縋る思い。 「さぁ! 御卓は結構! 何だろーがどうなろーが協力してやるのダワー!!」 『うむ。まずは合流だ』 「この死人共を何とかするのダワー!!」 「んじゃま、どーんと任せとけって。……狭い場所でぎっちぎちなんて、僕の得意分野じゃん?」 最前線、牙を向き来る死者共を黒鋼製のトンファー√666で押し払い、夏栖斗はニィっと吸血鬼の牙を剥き笑う。 「同! ドカン! ボカン! 君達、僕の虚空は当たりそうなら避けてね! こっちも気をつけるけど」 言葉が終わった瞬間には身構え、刹那。『空を裂く』蹴撃。目にも止まらぬ軌跡。放たれた蹴撃は見えぬ刃となって死者達を切り裂き、引き裂き、腐液を散らす。 「義を見てせざるは勇無きなりってな! 貸しとか借りとかどうでもいいや、とりあえずこの場はなんとか切り抜けるようにしようぜ!!」 蹌踉めいた死者を押しのける様に進軍する。リルもその間隙を縫う様に、踊る様に、軽やかな歩調で前へ、前へ。夜風に靡く踊り子の衣装。 「――」 LoDの刃を振るい――視線。電球を光らせ、気糸で死者を穿つ同へ。 「あ! リル――」 友人、とまで言えるかどうかは知らないが、リベリスタの中では『お気に入り』の彼。ゆっくり会話している暇はない。が、 『お久し振りッスね』 マスターテレパス、脳に送られてくる言葉。 『先ずは、共闘ありがとッス。今から全力で”迎え”に行くんで、それまで持ちこたえて欲しいッス。 それから、楽団。あいつらはネクロマンサーッス。複数対象を麻痺させるスキルと、付与をブレイクする単体スキルを使ってくるッスよ。リル達は同さんと合流出来たら、ネクロマンサーをボコる予定ッス』 「そりゃ素敵なのダワー! 喜んでご協力するのダワワー」 言葉の最中にもリルは死のステップを踏む。タンバリンの内に仕込まれた凶爪が煌めき、光り、魅せつける。死体の波を掻き分けて。 『それにしてもなんか、同さんこの時期はよくからまれてるッスね。……ボコったらどっかでお茶でもしないッスか?』 少しずつ近付く距離。間隙の最中にニッと笑えば、電球頭も笑った気がした。顔は分からないけれど、そんな気がした。言葉なき『YES』の表明。 「同君はビッグ・マム親衛隊隊長なのだから、楽団の件を報告して貰わないとな。何せ、ビッグ・マム親衛隊隊長なわけだし」 「大事な事なので二度言ったのダワー? ふふん、頑張るに決まってるのダワー」 「頼もしいね、宜しく頼むよ」 そう言う訳で烏は不敵に笑みつつ、再度の神気閃光を放ち前へ。 (話し合いの余地所かこちらを自分達の芸術表現の材料としか見ていない彼らに比べれば……ね、比べるべくも無いよね……) 犯罪者であれ、七派は一定の秩序を持ち交渉が可能。尤も、裏野部や黄泉ヶ辻なんかは論外だが――与作は息を吐き、吸い込み、地を蹴った。多重の残影と共に振るうにはK-3R“ACONITUM”、金属の牙。『猛毒を持つが如く、ただの一突きで死に至らしめる精度を』と言う理想。死者を薙ぎ払い、切り払う。 しかし死者達はしぶとく、頑丈だ。切り裂かれようと、潰されようと、穿たれようと。リベリスタに喰らい付き、組み付き、剥がれた爪で掻き毟る。生温かい血が滴り落ちる。雪崩れ込む死。 それでも、生ある限り死に抗う。血みどろになろうと、傷だらけになろうと。攻撃の手を緩めてやる理由は無い。暖簾は粛々と印を結ぶ。 「死より冷てェ雨を――Sweetdreams、さァお眠りお前さん方。術士で無頼の機械鹿、推して参る!」 降らせる雨。局地的で冷たい温度。 戦場に満ちる閃光、雨、不可視の刃。それは死体だけでなく、その『操り主』をも対象に含んでいた。 だが操り主、ニコレッタは傷一つ付いていない。周囲の死人に悉く護らせている。表情を作らずに戦況を見守っている。 そんな彼女の心を読もうとリルは『覗き込む』。その心を。頭の中を。表情の裏を。そして。そこにあったのは。 「……楽譜……?」 ズラズラズラ。流れる。溢れる。音符。符号。ららららら。マトモな情報は入りそうにない。それから、心を読まれた事に気が付いたニコレッタがリルを見た。ニッコリ。手を振る。 そんな少女に、次いでマコトが声を発した。 「バレットさんって、どんな人?」 「かっこいいひとよ。わたし、バレットさん大好きなのっ……!」 「君達が『不死』と呼ばれる秘密は?」 「あのねぇ、……ナイショ!」 「ケイオス・”コンダクター”・カントーリオの能力は?」 「すごい能力よ。すごいからすごいの」 言い終わって、ぷぁーん。相変わらず死者に自分を護らせながら。生きている者と違って逆らわないし文句も言わないし、ただの死体だし。ぷぁーん。次に声をかけたのは夏栖斗、飛翔する蹴撃で死体の首を刎ねながら。 「チャオ! ニコレットちゃん後機嫌麗しゅう。これ以上日本で大騒ぎされちゃあ、迷惑なんだよね。聞かせてよ、何がしたいかさ」 「Buona sera.わたしはバレットさんのために一生懸命なのよ」 「ふーん、嫉妬しちゃうねぇ。こんなところじゃなかったら、そのハモニカで。リクエストしたいんだけどね。賛美歌とかさ」 「あなた、死体になってくれたら、いくらでも演奏してあげるのに」 「調子乗ってンじゃねェ、殺しに殺して来たお前さん達を許さねェ! ンな死体が欲しいならお前さんがなりな!」 悠長な。だからこそ、泣きっ面に唾を吐きかけてやりたい。殴られるのが嫌いなら存分にくれてやる。暖簾は夏栖斗の言葉にのらりくらりと答えたニコレッタに術符を投げ付けた。 「ホラ、俺に攻撃してきな死体愛好家。こっちの土俵でも殴り合おうぜ!」 それは一羽の烏となり、一直線。されど、その嘴は令嬢を庇いに入った死体の目玉に突き刺さる。 じりじり、アーク勢と三尋木製の距離は徐々に詰まっていた。しぶとくしつこい死体を押しやり蹴り飛ばし切り飛ばし、そして生者には命の祝福を。マコトが召喚した聖なる息吹が仲間を包み、激励する。 その最中で、陸駆は指揮者の如く魔剣を振るった。言い放つ。 「僕の戦略演算にかかればどんな案件もあっという間だ――天才ファントムレイザー!」 戦略演算によって編み出した最高のタイミング、最高のポイント、不可視なる刃の嵐が吹き荒れる。それは正確に敵だけを切り裂き、死した体液を路地裏にぶちまけた。切断されたパーツがボトボトと落っこちた。ニコレッタと目が合う。瞬間。陸駆は天才な頭脳をフル活用して天才眼鏡をキラリと光らせ天才的な洞察眼でニコレッタの分析を試みる。 「劇的な瞬間を支配する力……?」 ドラマを引き寄せる。その力。断片的に知った能力。と、状況を裂いたのはニコレッタの声。嫌悪感を孕んだ、「やぁね」の声。 「やぁね、いやだわ、のぞきが趣味なのかしら。やぁね、えっち! えっちなのは、きらいなのよ」 ぷぅ、と頬を膨らませ。――バックステップ。死者を盾にしながらも走り始める。攻撃の為? 否、後退の為。 「アンコールはないのか? 素敵な死体がまだだろう? 断末魔の音色響かせ果てろ」 すぐさまそれを察したユーヌは呪印の鎖をニヒルな言葉と共に放つ。虚仮にされたまま逃がすのも癪だ。もう演奏の時間は終わり。休憩時間をくれてやろう、黄泉路まで。 「くそ、待ちやがれ!」 暖簾も続けて弾丸を放つが――死体の壁。呪印に縛られた死体の頭が爆ぜる。舌打ち。まだだ。アイコンタクト。頷くと共にリルと与作が飛び出した。 「ダンスは如何ッスか?」 「ただで済むと思うなよ」 壁を蹴り、宙を舞い、煌めく刃。Line of Dance。Aconitum。冷たい死の毒と踊りましょう。交差する刃。空中武舞(ソードエアリアル)。 「――!」 ニコレッタを護る死者が切り裂かれ、切り刻まれ。今までのリベリスタ達の猛攻も相まって、一瞬――ほんの間隙――死体の壁が、無くなった。 「――墜とすぜ……!」 烏が狙う照準。二四式・改の引き金を引き――刹那。銃声。ニコレッタの身体が僅かに蹌踉めいた。肩口に命中した弾丸。 「いたい……」 しょぼくれた顔。が、それはすぐさま死体の壁に阻まれ見えなくなる。 ――アークユニットと三尋木ユニットはこのままだと合流するだろう。合流した後は、どうする? そんな事は子供にでも分かる。自分目掛けて猛攻を仕掛けてくるだろう。さて、自分は『玉砕してでもアークを仕留めて来い』と言われただろうか? 答えは『NO』。戦う理由も意味も無い。戦っても被害だけが出て無駄なだけ。更に死体なんて幾らでも手に入る――なんせこの世には人間がゴマンといるのだ。そして、なによりも。 「わたし、いたいのはきらいなのよ」 声を最後に遠くで羽音。撤退したか。追う事は能わず。 されどニコレッタが壁にする為に死者を使った為に、結果として同達とリベリスタ達の間を阻む死者達は少なくなり、程なくして彼等は合流する。被害は無い。何よりだ。言いたい事も沢山あるけれど、今は一先ず。 「ドカン、ボカン、おじさん達の後ろに下がってな」 「「合点了解、感謝する」」 援護射撃をする烏に従い、二人のフィクサードが後衛へ。傷だらけだが何とか生きている。それは同も同じく、ヤレヤレと息を突く彼(或いは彼女)へ。 「こンな所で倒れてらンねェだろ?」 暖簾の傷癒術。ウム、と頷き同は肩を回す。 「そうだ、阮。良けりゃリトルと合わせて魅せてくンねェかい、お前さん達の必殺革命をよ」 「ホホーウ?」 ニヤリ。笑った気がした。視線はリルへ。彼もまたニコッと笑い、頷く。 「Shall we dance?」 「Sure thing!」 差し出された手を取って。瞬間。地を蹴った。二人の姿がブレて、別れて、合計四つ。 「「必殺革命――Hai Bà Trưng!!」」 踊り、廻り、切り、斃し。死角を許さぬ完全攻撃。 「マリオネットって、操り糸が絡まるとあっという間にダメになるんスよね」 脚を絶たれ倒れ込む死体、それに躓き倒れ込む死体。伸ばす手を躱し、飛び退いた。 「さて」 魔力の言霊でこちらに只管手を伸ばしてくる死体達の頭を踏み付けて、ユーヌは静かにそれらを見据える。 「土は土に、灰は灰に、塵は塵に、だな」 結んだ印――冷徹な雫が降り注ぐ。それに加え、烏の光と暖簾の雨、陸駆の刃周囲を薙ぎ払う攻撃が立て続けに死者を襲い、損傷が蓄積され切った。それらが『二度と動かぬ』死体に、本来あるべき姿に戻ってゆく。 「これで粗方、終わりかな!」 それでも尚立ち上がる死体は、夏栖斗の虚空が。与作の刃が、トドメを刺す。 「うむ、取り逃がしも無いようだ。僕の天才的な観察眼に間違いは無い」 「一件落着、とは言い難いですが……任務完了、ですね」 周囲を見渡した陸駆の声に与作が息を吐きつ答え、誰しもが安堵の息を漏らす。 「全く……楽団、鬱陶しい奴等なのダワー。ま、アンタらも『操られないよう』気を付けるのダワー」 疲弊しきった同が言い、部下の名を呼び歩き出す。「同さんもお気を付けてッス」と言ったリルの言葉にちょいと振り向き、電球頭はこう言った。 「それから、良いお年を」 ヒラリ手を振り、足音は遠のいてゆく。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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