●火龍の祭典 あたたかな赤い灯火に彩られて、夜の中華街は幻想めいていた。 これは市街地を何千、何百という中華風ランタンで飾りつける冬のお祭りだ。 行き交う人々は楽しい催しを満喫している。 親子連れやカップル、仕事帰りの一団におひとりさまのおねーさま。 中華街らしい香ばしい匂いがそこかしこから立ち昇り、これぞまさしくお祭りという賑わいだ。 万華鏡の導き出したる未来は、煉獄火炎の祝祭。 中華街は燃えていた。 夜の色を煌々と赤に染めて、火炎は舞い踊る。逃げ惑う人々を追い立てて、あざわらう。 泣こうが喚こうが逃げ場はない。 ひとり、またひとり、炎熱と黒煙によって落命する。 地獄絵図の地上を見下ろして、龍は満足げに炎の眼を滾らせる。 『昇レ焔ヨ、夜天ノ果テマデ』 ● 「死傷者十七名、行方不明者三十五名、消失二百七十軒。中華街ランタン祭り、大火災事件――。これが我々が介入せず敵エリューションが暴れ狂った結果、訪れるであろう最悪の未来です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は次の作戦資料を表示しつつ、説明を続けた。 「作戦目的は『敵エリューション全ての撃滅』および『火災被害を最小限にせよ』の二点です。 敵はエリューションゴレーム:フェーズ2通称『ドラゴランタン』と」 ホログラム上の映像が浮かび上がる。 龍だ。 オレンジ色の中華風ランタンを連結させ、龍を象ったオブジェだ。原型時の映像らしい。このままでも独特な意匠や作り込まれた頭部や爪などは迫力がある。 映像が、革醒後のものに切り替わった。 より生物めいた有機的フォルムに変貌している。紙製の提灯が、立派な龍鱗の胴に様変わりしている。名残は残っていても、ちゃちな出来ではない。オレンジ色の提灯が十六連結された全長はかなりのものだ。その上、歯牙や爪などは炎を纏っている。 「その眷属たるフェーズ1『コドランタン』四体が、今回の敵です」 コドランタンは一言でいえば小型版だ。提灯四つからなる小龍である。小粒といっても大物に眷属までついてくるとなれば厄介だ。 「この火龍提灯たちは、中華街そのものの炎上を目的に破壊行動を繰り返します。その性質、行動原理は極めて凶暴といえます。人間を喰おうという考えは薄いらしく、人を襲うより火災を撒き散らすことを優先するようです」 その結果が、件の大火災というわけである。 「敵を全滅させても、多大な人的・物的被害を出しては作戦は失敗です。被害をゼロにしろ、というのは無理難題、アークの方針としては必要最低限の死傷者はやむをえないものとみます。 なお、こちらも万全のバックアップ体制を用意させていただきます。 一般市民の避難誘導や消防組織に事前待機してもらっての消火支援などを行います。 しかし今回はエリューションの招く神秘による火災です。みなさんも作戦中や戦闘終了後、消火や救助、怪我人の回復などにあたる準備は有るに越したことはないでしょう。 詳細は、こちらの資料にまとめておきました」 天原和泉は一呼吸を置き、神妙な面持ちで貴方たちの表情を確かめる。 今回は、事が事だ。和泉は精一杯、気を落ち着けようとしているのかもしれない。 「すみません、あまり上手な言葉は見つからないのですが――」 一瞬やや弱気な、困ったような表情を見せた和泉は、意を決したように表情を正して最後にこう締めくくる。 「作戦、成功させましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月21日(金)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●腹ごしらえ 「やってる?」 昼間。『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(ID:BNE002333)は、中華街の一角にあるこじんまりとした食堂を訪ねていた。 「なんだあんたか、ちょいと待っとくれ」 忙しそうに鉄鍋を振るう婦人のぞんざいな物言いに苦笑いして、牙緑はカウンターに座った。 「さくらカレー、おかわりです」 『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(ID:BNE000805)は口の端をちょんとカレーで汚したまま、綺麗に空っぽの皿を差し出した。 「げ」 「なんだ、あんたら知り合いかい?」 はいよ、と婦人は片手でカレーのおかわりを差し出しつつ、もう片方で野菜炒めの中華鍋を豪快に振るっている。何気に達人だ。ちなみに牙緑はまだメニューに目を通してないし、注文を言った覚えもない。 「ははーん、さてはデートの待ち合わせかい? よしとくれよ、うちみたいなボロっちい店にゃ洒落たムードを期待するのは無理ってもんだ」 黙々とマイペースにカレーをはむる春津見。言葉を失った牙緑。 「おばさま、大事なのは誰と食べるかではなく、何を食べるかです」 普通、そこは逆である。彼女のカレー好きは魂の根っこにどろりと染みている。 「特にこのじっくりと煮込んだ桜肉、馬スジのとろみが素晴らしいです」 「おい待て、否定も肯定もせずにカレーの味を語るな!」 牙緑がすかさずツッコミを入れると、 「共食いはスルーですか?」と逆にダメ出しされてしまった。 カウンターの釣り銭を受け取り立ち去ろうとした牙緑は、つい足を止めてしまった。 「なぁ、おばちゃん、今夜……」 「ははん、さては宴会だろう? この時期はどこもかしこも忘年会や飲み会で繁盛時だ。お祭りもやってるしねぇ。今日は予約もないからね、友達さそって呑みに来ちゃどーだい」 宴会、か。 「そんじゃ、そのうち祝杯でも挙げにくるよ」 ●火龍乱舞 夜の中華街は灯火に彩られている。 冬の祭典、ランタンフェスティバル会場は活気づいていた。広大な中華街がまるごとドレスアップされているのだ。イルミネーションとも異なる趣のあたたかな赤い光は、異世界に迷い込んできたかのような気分にさせてくれる。 数多の商店が軒を連ねる中華街は、まさしく人々の営みが根づいている。 重圧は大きい。 『死傷者十七名、行方不明者三十五名、消失二百七十軒。中華街ランタン祭り、大火災事件――』 残酷な言葉がリフレインする。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の未来予測は、最悪の事態がいかに深刻かをリベリスタ達に覚悟させている。 それにしてもこう明るいと懐中電灯の使いどころも限られそうだ。サーチライトのような強力な照明器具でなければ、よっぽどランタンの方が明るい。翻って、それは主戦場が表通りではなく、狭苦しく生活居住空間の多い裏路地を中心とすることを意味していた。 疾駆する。 夜の煌びやかな中華街を疾駆する。 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(ID:BNE002411)はポニーテールを揺らしながら寒空の下を駆けていた。 『数名ならば死者が出てもアークは成功とみなす』 レイチェルは重く圧し掛かるものを背負い、なお全速力で駆ける。 火龍提灯ドラゴランタンは優雅に空を舞い踊っていた。 灯りの乏しい裏路地は商いより住まいが多い。煌々と紅蓮の炎がくべられて、狭路は燃え盛っていた。野良猫が逃げ惑い、轟々と建物が黒焦げてゆく。遠くではサイレンが鳴り、避難誘導を促すアナウンスが流れている。 連なる十六の提灯が織り成す火龍の舞い。そばには四匹の小龍が侍る。美しくも禍々しい光景だ。 一番早く辿り着いたレイチェルにつづいて、続々とアークのリベリスタ一同が集結する。 「ったく、せっかくのお祭りが台無しだな」 虎 牙緑は軽やかな身のこなしで屋根伝い、街並みを見下ろす。 「翼よ!」 レイチェルは翼の加護を仲間たちに与えた。空を舞う炎龍たちと渡り合うためには必須だ。 牙緑が跳躍する。そのまま燃え盛る火龍へと飛びつこうとした。本来、それは自殺行為だ。 「水も滴る良い男ってなぁ!」 直前にバケツまるごと水を被った牙緑は、無茶を承知で背中へ乗ってみせた。幸いにして背部にまで火炎はなく、炎熱は徐々に身を焦がしても耐えられないほどではない。 「うわっとっと」 ドラゴランタンは振り解こうとするが、面接着を心得る牙緑の足はぴたりとくっついて離れない。牙緑もロデオに精一杯で、すぐに攻撃はできないでいた。 『親不知』秋月・仁身(BNE004092) は眼鏡を正しつつ、暴れるドラゴランタンのさまを一笑した。 「炎の竜? 母さんが戦った異界の火竜に比べれば炎の蛇と言ったところですかね?」 魔弓に矢を番い、一体のコドランタンに狙いを定め、射た。軌跡を描いて魔弾は小龍の頭を貫く。炎で象られた頭蓋が消し飛んだ。 「回復手から潰す。戦いの基本ですね」 しかし小龍は損傷箇所をパージして、三つの提灯が連なる形になることで頭部を復元した。意外にしぶとい。秋月は軽く舌打ちした。 『クォォォォン』 突如コドランタン達は東西二手に分かれて移動をはじめた。他の、ランタンや街灯のない暗い区画に炎をつけてまわろうというのだ。移動速度はゆったり緩慢に見えてもそれなりに早く、地形を無視して屋根の上を素通りするのだから追いかけるのは大変だ。 「どうする?」 悩む間もない。早くせねば、距離を 当初の予定では、各自コドランタンを優先撃破する手筈だ。即座に、二手に分かれて各個追撃という選択が下される。 東と西へ。 リベリスタ達はとっさに編成を三分して追撃する。牙緑とレイチェルは中央に留まった。 ●小龍撃滅 東 コドランタンを追撃すべく、光の鳥翼によって宙へ舞い、屋根の上を駆けてゆく。 『人生博徒』坂東・仁太(ID:BNE002354)と春津見・小梢、秋月・仁身の三名だ。敵の別行動は想定外、とっさの編成だ。クロスイージスを双方に一名ずつ、残りは消去法である。 「全く、ぬかった!」 火龍たちの行動原理を読み違えていた。能率的に火災を起こすには、炎龍と小龍はバラバラに動くべきだ。逃げた場合、何かしら移動制限や挑発を課す手段もあったものの、先に移動されてしまったがために射程圏を逃れられてしまった。 戦術の読みが浅かったのだ。戦力を分散せねばならなくなった場合、どう動くべきか方針やチーム分けを決めておくべきだった。結果、タイムロスが生じてしまった。 コドランタンは飛翔と火炎放射をいっしょに行い、火災範囲を着々と広げてゆく。 消火する余裕は皆無だ。素通りして、ようやく二頭のコドランタンに追撃を掛けることができた。 「そがいな炎の使い方して、すべてを焼き滅ぼすだけやないか」 坂東は巨銃パンツァーテュランを連射する。暴虐に等しい威力の反動が肩の骨を軋ませる。二頭のコドランタンの胴を成す提灯に風穴を開け、計三パーツを損壊させた。 「じゃっどん、この破壊しかでけん“暴君戦車”も破壊する力を破壊すれば守ることになるんよ」 春津見と秋月も仕掛け、迅速にトドメを刺そうと奮戦した。 急がねば。これは時間との戦いだ。 ●小龍撃滅 西 おや、コドランタンたちうのようすが……? なんと! コドランタンは合体した! 「き、キングコドランタン!」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082) は驚愕した。 双龍はお互いを分解させ、なんと七連結に再構築した。 「どこがキングなのですか?」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(ID:BNE000024)は“お約束”がさっぱり分からない。テレビにさえ未だに慣れないのだ。ゲーマーとは住む世界が違いすぎる。 「見掛け倒しだ! フェーズは同じ、強さも大差ない」 『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900) マコトは攻撃と防御、二つの効率動作を教導・共有させ、指揮を執る。 屋根上の低空での戦いは、高空より戦いやすいが家屋への被害も生じる。それでも敵が迎撃より火災を優先する以上、主導権を握れない。 「応!」 雄々しく凛々しくアラストールは先陣を切って飛翔、鞘を構えつつ至高の堅守を発揮、七連小龍へ迫った。つづけざま、アーリィは正確無比な気糸裁きを披露する。顔面を打ちぬき、苦悶のうめきをあげさせた。 勝負は一進一退だ。アラストールは火炎放射を難なく凌ぎ、跳ね返す。一方あちらも巧みに身をくねらせてひらりと剣撃をかわしてみせる。 戦闘はやや長引いた。 マコトの式符・鴉が巧みに小龍を翻弄、怒りによって気を引く。炎の爪で襲い掛かろうというところをアラストールが躍り出、直撃を受けるもブロードソードを叩きつける。しかし運悪く当たり具合が浅く、一節を叩き斬るには及ばない。すかさずアーリィの気糸が敵を鮮やかに射抜く。 小龍は部位を失いつづけ、次第に弱体化する。猛攻を重ね、マコトの式神とアラストールの一太刀が見事に残る二節をぶち抜いた。 墜落したコドランタンは自動車のボンネットをひしゃげさせ、爆発炎上する。 「急いで戻るぞ、本丸を攻める!」 「パタPもう解けちゃいそうだしね!」 三者は翼の加護によって先を急いだ。ところが途中で加護が解けてしまったではないか。それは予想外に時間を費やしていたことを意味する。 炎の渦巻く街を苦々しく見下ろしながら三人は元凶の元へと急ごうとした。 マコトの超直感がささやく。 「……待て!」 主戦場まであとすこしというところで不意にマコトは足を止めた。 マコトの観察眼は、意図せずして逃げ遅れてしまった人々の気配を察知した。それはアラストールも同じくだ。しかし、彼女は足を止めることなく先を急ぐ。アーリィは不安げにマコトの横顔を見つめる。 「い、伊吹さん、あの……」 「――わかってる!」 伊吹 マコトは跳躍した。力強く、アスファルトの屋上を罅割れるほどに踏み抜いて。 ●灼熱の祝祭 主戦場は死闘と化していた。 虎 牙緑は火龍提灯とのロデオを続けていた。レイチェルは浄化の鎧を与えて支援に徹する。 牙緑は面接着によって暴れまわる敵の背にぴたりと張りつき、その頭を狙う。これも卓越した平衡感覚あってのことだ。 火龍は暗がりに沿って北上する。 身体をくねらせ、飛翔しつつ火炎を撒き散らしてゆく。時おり自分の身体を建物にぶつけ、虎 牙緑を振り落とそうともした。めげず、豪壮な頭飾りに辿り着く。 虎的獠牙剣を手に、牙緑は渾身の気迫と共に極限の闘気を込めて振り下ろした。 直撃だ。 爆裂する剣撃は火龍の首を爆ぜ斬り捨て、地表へと叩き落とした。 『グォォォォォォォォンッ!』 怨嗟のうめきをあげ、炎を撒き散らしつつ火龍の首は断末魔の叫びを挙げて果てる。裏路地の夜闇を、燃え尽きゆく炎が照らす。 「……っしゃーっ!」 牙緑は歓喜した。 『焔ハ絶エヌ。祭リハ終ワラヌ』 牙緑は驚愕した。火龍提灯は健在だ。十六連結のパーツのうち、たった一箇所を破壊されたに過ぎなかったのだ。いずこから聴こえるとも知れぬささやきに怒鳴り返そうとして、言葉を呑む。 このままでは定食屋の方角へと到達する。冷静になれ、最善を尽くすのだ。 『オマエは祭の見世物だろ? ははっ、竜頭蛇尾もいいとこなのに頭が失せちゃ見世物失格だな』 アッパーユアハート。言霊が響く。神秘を帯びた言動は的確に敵の心を揺さぶり、かき乱す。 『グルルルルガァ! 貴様ヲ先ズハ灰ニ帰シテヤル!』 火龍提灯は頭飾りを失ったまま、炎によって仮初の頭部を象り、頭上の牙緑を抹殺せんと一気に全身へ炎熱の鎧を纏わせた。そして炎の爪が牙緑を捕まえた。 「は、離せ!」 『灰塵トナリ果テヨ』 苛烈炎上。両爪が深々と身体を刺し捕らえたまま、獄炎は一挙に燃え上がった。 「牙緑ゅーーーっ!」 レイチェルは必死に浄化の鎧を行使する。光の加護が折り重なる炎の責め苦を払い除ける。しかしだ。ドラゴランタンの尾が豪快に牙緑の全身を締め上げ、更なる灼熱地獄へと誘った。 「早く……早く!」 刹那。 二条の魔弾がドラゴランタンの双腕を撃ち抜いた。それは坂東と秋月の巨銃と魔弓の一撃だ。 「ふたりとも!」 「ここからはわしらに任せろ」 「それに、僕たちはふたりだけじゃないですよ」 きらりと輝く、大きなフォークとスプーン。春津見・小梢は屋根伝いに跳躍し、「てやぁぁ!」と火龍の尾に重打を浴びせてみせた。しかし頑強なのか当て損ねたのかビクともしない。 『――手遅レダ』 火龍は豪快に尾を振るい、アスファルトへと火の玉と化した牙緑の身体を激突させた――。 ――薄明だ。 薄明かりだけの世界に牙緑は倒れていた。薄弱とした意識の中、目を凝らす。 赤い。 街が、赤く燃えている。 ――立ち上がらなくては。 右腕を杖に立とうとする。ザァッと音を立てて、右腕は灰になって崩れた。 『貴様ハ、何モ救エヌ』 火龍の首が嘲り笑う。 『運命ハ、イツデモ残酷ダ』 だったら――その運命をも斬り捨ててやる。 虎的獠牙剣を杖に、牙緑は立ち上がった。 頬を泣きぬらしたレイチェルが、唇を震わせて言葉を紡ぐ。 「ダメだよ、死んじゃうのは……」 言葉が選べず、牙緑は一言ちいさく「すまん」と返して、炎の踊る中華街を見渡した。四方八方が炎の災禍に見舞われている。阿鼻叫喚の地獄絵図である。その方角は――。 牙緑は愕然とした。 戦いは優勢に推移する。 やや遅れて合流した三名も併せて、戦力は十全。 ドラゴランタンは十六連結の提灯で織り成されている。その性質上、一箇所ずつ破壊してゆけば徐々に戦力が減ってゆき、追い詰めるほどに弱体化する。そして既に回復手段を断っている以上、リベリスタ達の勝利は確実であった。 巨銃が、魔弓が、剣が、弩が、超電磁砲が、銀食器が、牙剣が――。総攻撃は熾烈にして劇的だ。 輪舞する火龍は次々に己を形作るパーツを失ってゆく。反撃を試みるが弱体化しつづける火龍に、マコトの指揮とレイチェルの回復、春津見とアラストールの防御陣形は突破できない。 「うおぉっ!」 戦線に復帰した牙緑の虎的獠牙剣が閃く。一刀両断、残り四両を二分してのける。 総攻撃、再び。 最後のひとつ、哀れな姿に成り果てた提灯に秋月とアーリィが魔弓と大弩の狙いを定める。 「言い残すことはあるかい?」 『グウ、炎ノ記憶、恐怖ハイツマデモ人々ノ心ニ焼キツイテ消エヌ。我ハ不滅ダ――』 「ごめんね、終わらないゲームは無いんだよ」 二つの飛矢が災厄の命運を断つ。 ●長い夜 長い夜だった。 いかに革醒者といえど大火災、たった八人で救える人の数には限度がある。戦いの裏舞台にて奔走していた現地の消防組織などの活躍は目覚しかった。幾人かは消火を手伝おうとするが放水車の前には出る幕もなく、代わりに逃げ遅れた人々の救助に奔走した。時に火中へ踏み入って。 救急救命の出番でもある。レイチェルとアーリィは治癒の神秘によって陰に日向に幾人もの命を救うことができた。 「早くこっちに連れてきて! ぶっ倒れるまで癒して癒して癒し尽くすんだから!」 「合点しょーち!」 魔法じみた劇的な消火手段はない。できるだけのことを精一杯やりとげ、空っぽになるまでリベリスタ達は全力を尽くし、やがて朝を迎える――。 ●一夜が明けて 春津見はそっと霊安室を後にする。 「……レシピ、聞いとけばよかった」 虎の、虚しき咆哮が無機質な白い廊下に反響する。いつまでも、いつまでも――。 『中華街ランタン祭り大火災。死傷者五名、行方不明者十二名、消失九十軒』 新聞を一読すれば、表向きの事件の顛末は一目瞭然だ。 「作戦は無事、成功です! アークは組織として、今回の火災被害を最小限に留めることができたと判断いたしました。みなさん、大変おつかれさまでした」 天原 和泉はどこか励ますように告げる。空回りを知りつつも。 「わしらは神様やないからな」 三高平のとある食堂にて、たぬきそばをすすりながら坂東はつぶやいた。 流れで同席してしまった秋月少年の元に、きつねうどんが届く。 「あてつけか!」 無視し。 「及ばない、僕はまだ母さんには届いてない。そういうこと、なのかな」 湯気に曇った眼鏡の下で、彼はどんな表情をしていたのだろうか。 『今回の火災について、市長は――』 とある社員食堂にて、マコトは会社の同僚や上司らと共に食事中、ニュースを見かけた。 「箸が止まってるよ、伊吹君」 「いや、すんません、ニュースをちょっと」 上司はテレビを見やり「それで今度の商談についてだがね」と話を戻した。――やるせない。 マコトは上司の言を上の空で聴きつつ、脳内彼女のくれる励ましの言葉に耳を傾けた。 『行くぞ! 我々に勝利の美酒はまだ早い!』 傷だらけのアラストールは火龍の撃滅後、回復の時間も惜しいとばかりに救助活動に奔走した。無論マコト達もだ。あの時、マコトが後回しにした一般人は無事レスキュー隊に救助されていた。あの判断は正しかったのだ。 ――なまじ希望のあるばかりに、絶望は深みを増す。救えないと分かっている命ならば、マコトとて無関心でいられただろうに。 「伊吹君、なにを笑っているんだね?」 「いや、なんでもないっすよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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