●あぁ、オペラ座……。 53枚のトランプ達は、闇夜に紛れて逃げ出した。向かった先は、夜の劇場。街の住人からは、「オペラ座」の愛称で親しまれている。それというのも、数十年前にこの劇場が建てられた際、初めに公演された劇が、それだったからだ。 ジョーカーを筆頭に、4体のキングと、それぞれハート、クローバー、スペード、ダイヤの部隊。 巨大な劇場に逃げこみ、そこに潜む。 元々がトランプで、非戦闘時には薄いカードの状態で行動できる彼らにとって、隠れる場所が多い劇場は絶好のアジトとなっているようだ。 幸い、現在は補修工事の関係で警備員は常駐していない。今のところ、人的被害は0であるが、しかし、翌朝になれば工事の為に、人がやってくるだろう。 既に、時刻は深夜0時を回っている。 残り六時間。潜んだトランプは53体。 好き勝手に劇場内を駆けまわる彼らはしかし、有事の際にはキングとジョーカーを筆頭に統率のとれた動きをする、一個の軍隊でもあるのだ……。 ●トランプ劇団。 「フェーズ2のジョーカーを筆頭に、全部で53体のE・ゴーレム達。通称「トランプ劇団」が劇場内に逃げ込んだ」 見つけて、殲滅してきてと『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。モニターに映ったのは明りの消えた劇場。そのステージと客席の様子だった。 「ハート、スペード、ダイヤ、クローバーの四種類のトランプがいて、それぞれキングの指示で動いているみたい」 キングを筆頭に、13体。 「通常はトランプの状態で移動しているけど、戦闘時は人間大の兵士の姿をとるみたい。槍とか剣とか、そういった武器を持っている」 囲まれると、厄介な相手だろう。 「また、ハートは炎。スペードは氷。ダイヤは雷。クローバーは毒の影響を受けず、また攻撃の際も、それらの状態異常を付与してくる」 それぞれ、兵士の状態では額にそのマークが付いている。判断する際は、そこを見ればそれがどのトランプ兵なのかは、一目瞭然だろう。 「また、ジョーカーはランダムに、どれかのマークに変じることができるよう。トランプ劇団の総指揮はジョーカーだから、ジョーカーさえ倒してしまえば、後は楽だと思う」 もっとも、向こうもそれは分かっているので、ジョーカーを守るように動くだろうが。 「それじゃあ、行ってきて。暗いから、気をつけてね」 そう言って、イヴは小さく手を振って仲間たちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月15日(土)21:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●トランプたちの劇場 暗闇に包まれた劇場。その観客席に足を踏み入れた途端、肌に感じる無数の視線。突き刺すようなそれは、しかしどこから向けられたものかは分からない。 例えば、椅子の下。例えば、カーテンの裏。例えば、頭上に下げられた照明の間。 トランプの姿をしたそれらは、その身体の薄さを活かし、いくらでもどこにでも潜むことができる。だからきっと……。 この劇場を支配しているのは、彼らトランプなのだろう。 「53枚のトランプが潜伏とか厄介極まりないですね」 やれやれ、と剣を片手に溜め息を吐いた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が、懐に劇場の見取り図を仕舞い込んだ。 「ゲームとかなら面白いんだけど……流石にこれは迷惑なだけだよね」 電源、どこかな? なんて小首を傾げて『ゲーマー人生』ア―リィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は観客席を見渡した。恐らく、電源は舞台の裏か制御室か。どちらにしろ、まずは客席を突っ切るのが早いだろうか。 「数は暴力さ。蟻だろうが数さえ揃えば獅子を殺す」 面倒な事この上ない、と『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)は刀とナイフを両手に持って、一歩前へと踏み出した。途端ガチャガチャ、と甲冑の鳴る音が周囲に響き渡った。トランプ劇団のもう1つの姿。それがこの兵士の姿である。 兵の額にはそれぞれ、トランプのマーク。刻まれた数字。 「トランプが相手ならばマジシャンの私の出番ですね!」 高らかにそう宣言し『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)が杖を振るう。杖の先端で光が弾け、それはそのまま翼となって仲間達の背に張り付いた。 楽の行動が合図となったのか。 剣や槍を構えた兵士たちが、リべリスタ達へと一斉に襲い掛かる。 ●トランプによる演目は……。 『トランプね……。神経衰弱とか嫌いじゃなかったわ』 仲間達の頭の中に直接響く澄んだ声。『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)の声だ。視線の先では、別の出入り口から劇場に踏み込んだ仲間達に襲い掛かるトランプ劇団の姿。助けに行くべきか、と一瞬迷ったものの自分達の役目を果たすため、その場を後にする。 「まぁ、なんにせよ放っておくわけにはいかないけれども」 二階席から階下を見降ろして『chalybs』神城・涼(BNE001343)がそう呟いた。このまま、二階席を調べて、向かう先は舞台裏の予定である。あくまで、狙うのはジョーカーのカード。しかし、そうそう上手くことが運ぶはずもなく……。 「うーん、面倒な所に逃げこんだものですねぇ………っとお!?」 椅子の下を覗きこんでいた『ブラックアッシュ』鳳 黎子(BNE003921)が、血相を変えて背後に飛んだ。バランスを崩す黎子の背を沙希がそっと受け止める。 黎子の頬に伝わる一筋の血。さっきまで黎子の居た場所には、銀色の刃が伸びている。椅子の下からガチャガチャと音を鳴らして這い出る甲冑の兵士。とてもじゃないが、椅子の下になぞ納まる体格ではないのだが……。 「まるで遊ばれている気分ですね」 槍を手に前へ出る『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)。突き出した槍と、兵の剣が交差する。リーチの差だろう。突き出された槍が、兵の喉元を貫いた。しかし、兵は止まらない。槍を喉に突き刺したまま、剣を突き出し前へと跳んだ。 「う……おぉ!?」 勢いに押され、兵諸共二階席から落下する生佐目。それを追って、涼が飛んだ。楽の付与した翼を羽ばたかせ、落下する生佐目を抱きとめる。 兵はそのまま、一階へと落ちていった。落下する直前、元のトランプに戻って消える。それ以降、動き出す気配がないのは、既にE・ゴーレムとしての生を終えたからだろうか。中心に大きな穴の空いたハートの3は、そのまま床に落ちていった。 「一体一体確実に仕留める……」 眼前に居た兵の首を切り飛ばし、いりすが笑う。兵がトランプに戻ると同時にポケットから一枚、持参したトランプを取り出し地面に落とす。 「これで何体です?」 宙を舞いながら懐中電灯で周囲を照らしていた楽がそう訊ねる。いりすは、さぁ? と首を振った。少なくとも10に近い数の敵を既に殲滅し終えた筈だが。 視界に現れた数体の兵へと、刃を向けるいりす。刃の周囲に闇が纏わりつく。じわ、と範囲を広げた闇が、兵を数体、まとめて飲み込んでいった。 「照明の裏にも、2体いますね」 すっ、と頭上を指さす楽。透視を使っての索敵が、彼の主な役割となっている。楽の指示を受けてア―リィがボウガンを掲げる。射出された矢が、性格に照明と、その裏にいたトランプを1枚、撃ち抜いた。 「よし! 頑張って残らず退治しようね!」 グッ、と拳を握るア―リィ。 残ったもう片方のトランプもヒラヒラと落ちてくる。描かれているのはスペードのキング。 トランプ達の指揮をしている1枚である。 落下しながら、トランプが姿を変える。現れたのは、金色の甲冑に身を包む王だった。他の兵より一回りほども大きな剣を持っている。剣に冷気が巻きついた。 宙に浮いていた楽を弾き飛ばし、落下する王。 「これ以上侵攻する前に、推し戻させてもらう……っ!」 アラストールが大上段に剣を掲げ、宙へ飛んだ。アラストールの構えた剣が眩く輝く。 空中で、王とアラストールが交差する。閃光と冷気がぶつかって、一瞬、劇場を明るく照らす。アラストールの胴から血が噴き出した。 「………更に1枚」 それを見ていたいりすが、ポケットから出したカードを1枚、床に落とす。同時に、崩れる王の身体。真っ二つに裂けたカードが床に落ちた。 「きっちり倒しにいこうぜ」 涼の放った弾丸が、兵の眉間を撃ち抜いた。剣や槍しか持っていない兵からしてみれば、拳銃を手にした涼のような相手は相性が悪いのだろう。ジリジリと後ろに下がる数体の兵。 にや、っと笑う涼。しかし、それも束の間、兵たちは剣や槍を高く掲げるとそれらを自身の甲冑に擦りつけはじめた。甲高い音が鳴り響く。突如襲い掛かる脱力感に涼と沙希が床に膝をつく。そんな彼らの頭上から、2枚のトランプが落ちて来た。 トランプは、槍を真下に向けた兵へと変わる。 しかし……。 「劇場を壊さないと約束はできませんね!」 落下してくる兵士の頭上に、黎子が飛び出す。両手に構えた大鎌を、遠心力を利用し振りまわす。兵の身体や壁を蹴って、踊るような動きで斬撃を放つ。斬りつけられた兵はそのまま床に落下。 「遊び道具と言えど、自分達も遊んでみたいと見えますね」 落ちて来た兵へ槍を向ける生佐目。槍から放たれた暗黒が兵を飲み込んでいく。後に残ったのは、あちこち破れた2枚のトランプ。ふん、と槍を一振りして生佐目が顔を上げた。 そんな生佐目の顔の横を、光弾と銃弾が通り抜けていった。目を見開く生佐目。彼の背後で、1体の兵が床に倒れた。 『油断禁物……ね』 薄く笑う沙希。その手に握られた万年筆の先端が、淡く光っていた。 それより、と通路の先を指さす沙希。現在彼女達は、舞台裏へと続く通路に居る。指さした先には制御室と書かれたプレート。 『電源、あるんじゃないですか?』 頷いて、制御室へと向かう4人。しかし、そんな4人の向かう先からガチャガチャと兵の足音が響いてくる。現れたのは、巨大な槍を構えた金色の甲冑を纏う王。額のマークはクローバーだ。頭の上で槍を旋回させる金色の王。無言ながらも、その身から放たれる圧力はただの兵とは格が違う。 「先制攻撃、させて貰うぜ」 銃口を王へと向け、引き金を引く涼。銃声と共に硝煙の臭いが辺りに弾ける。放たれた弾丸は、まっすぐ王へ。しかし、王はゆっくりと槍の先端を動かし、弾丸の起動を逸らした。 それなら、と黎子が飛び出す。一瞬遅れて、生佐目も。突き出された槍が黎子の肩を貫いた。血が飛び散る。黎子の手から鎌が落ちた……。それでも黎子は笑っている。 「私のカードは人の真似は出来ませんが、もうちょっと鋭くて凶暴ですよ」 肩を槍に貫かれたまま黎子は笑う。黎子の顔色が急速に悪くなっていくのは、毒に侵されたからだろうか。冷や汗を浮かべながらも、黎子は両手を広げて見せた。瞬間、彼女の周囲に無数のカードが現れ、踊り狂い始めた。カードは王に突き刺さり、その命を削り取っていく。 トランプが消えると同時に、生佐目が槍を突き出した。黎子から槍を引き抜いて、王もまた生佐目へと槍を放つ。 「今の内に、電源を……」 槍と槍が交差し、お互いの胴に突き刺さった。その隙に沙希が制御室へと飛び込んでいく。それを見届け、生佐目は笑う。 「本命は、こっちです」 「殴り倒してやんぜ!」 生佐目の背を蹴って、涼が飛んだ。大きく振りあげた拳を王の眉間に叩き込む。王の身体が傾いで、トランプへと戻っていった。 数秒の後、通路に明りが灯る。制御室に行った沙希が、ブレーカーを上げたのだろう。 『治療……しませんとね』 制御室から出て来た沙希が、万年筆を手にそう言ってほほ笑む。 客席に明りが灯る。眩しさに仲間達が目を細める中、楽だけはしっかりと辺りの様子を確認していた。マスクをしていたおかげだろうか? 「………見つけましたよ」 楽が呟く。視線の向く先は舞台の上だ。何かのセットだろうか。舞台中央には、城の形をしたオブジェクトが置かれている。その頂上に立つのは道化。トランプ劇団の指揮をするジョーカーのカードだ。 パチン、とジョーカーが指を鳴らす。城の真下に2体、金色の甲冑を纏った王が現れた。ハートとダイヤの王だ。炎と雷を纏った剣を持っている。 王が剣を頭上に掲げる。と、同時に劇場のあちこちから無数の兵が姿を現した。椅子の下、カーテンの裏、照明の後ろに床の隙間。至る所から現れる兵に、楽は目を丸くする。 冷や汗を流しながら、楽は杖を振った。周りに立つ仲間達が淡い光に包まれ、その傷が癒えていく。先ほど、王に切られた胴を擦ってアラストールは「うむ」と頷いた。コンディションは良好らしい。 「全部、始末してしまおうよ」 ポケットから取り出したトランプを、いりすは全て放り投げた。バラバラと宙を舞い、床に落ちていく無数のトランプ。刀とナイフを両手に構え、いりすはにやりと笑って見せた。 タン、と軽い音。同時に飛び出すいりすとアラストール。2人の進路を確保するように、ア―リィが矢を放ち、兵の動きを阻害する。とはいえ、敵の数が多い。完全には阻害できない。 「まだ隠れているかも! 不意打ちとか、気をつけて!」 ア―リィが叫ぶ。頷いて、楽が周囲に視線を巡らせた。隠れている敵がいないか、探しているのだ。駆けていくいりすとアラストールの前に、数体の兵が立ちはだかる。 『そのまま駆け抜けて!』 2人の頭に、澄んだ声が響く。沙希の声だ。兵へと向かって駆けていく2人。槍と剣が2人に向く……が。 「おお、っらぁ!!」 2階から飛び降りて来た涼が、拳を掲げて兵の中に飛び込んだ。涼に続いて、無数の光弾も兵を襲う。2階席から飛び立った沙希の放ったものである。 空いた空間を駆け抜けるいりすとアラストール。2人を迎えうつように剣を構える2体の王。 武器を構えるいりすとアラストールだが……。 「構わないで、ジョーカーを討ってください」 「こっちはまかせてくださいね」 舞台の左右から飛び出した生佐目と黎子が、王へと飛びかかる。剣で2人の攻撃を受け止める王達。その隙にいりすとアラストールは、城の真下に辿り着いた。 舞台の上は混沌としていた。或いは、そう言う劇のようにも見える。無数の斬撃と、ジョーカーの投げるカードが飛び交う。 そんな中、生佐目は冷静に槍を掲げてハートの王と向かい合っていた。振り下ろされる剣を槍の先で捌き、距離を保ったままその動きを観察する。 「逃げようとは、しないのですね」 それなら、と一歩前に踏み出す生佐目。ジリジリと、生佐目の頬を炎が焦がす。剣を引きもどし、王はそれを下段に構えた。生佐目が更に一歩、踏み込むと同時に下段から剣が襲い掛かる。咄嗟に槍の柄でそれを受け止める生佐目。だが、しかし王の斬撃は止まらなかった。炎の軌跡を描きながら、舞う剣。それを受け止めながら、生佐目は前へと踏み出していく。あくまで冷静に、致命傷を負わないように少しずつ身を捻って、剣を回避する。とはいえ、完全に避けきることは出来ず、その身に無数の切傷と火傷を負っていった。 頬から左目にかけて、剣に切り裂かれる生佐目。これには流石に押されたようで、大きくバランスを崩す。瞬間、生佐目目がけ突き出される剣。 「そうはさせねぇぞ!」 ガァン、と鳴り響く金属音。剣の軌道が逸れ、生佐目の肩を切り裂いた。剣の軌道を逸らしたのは、客席から涼の放った弾丸である。 「こんなところで倒れるのはな? ちょっとカッコ悪いだろ?」 生佐目に向け、笑って見せる涼。生佐目は一つ頷いて、槍から手を離した。槍の柄を蹴って、飛び上がる生佐目。片腕を前に伸ばす。その手の平には、漆黒の光が纏わりついていた。 「薄紙同然にしては、よくやりましたよ」 王の頭部に手を伸ばす。漆黒の光が撃ち出され、王の頭部を撃ち抜いた。 「ア―リィさんは、舞台の真下を! 沙希さんはジョーカーを撃ってください!」 杖を振り回し楽が叫ぶ。楽の指示を受けア―リィは矢を、沙希は光弾を放った。 「物影って怪しいよね!」 ア―リィの放った矢が、たった今姿を現したばかりの兵を撃ち抜く。一方、沙希の放った光弾は、ジョーカーの投げたトランプと相殺し、弾けて消える。それは不吉なトランプだった。 客席から、ジョーカーを守る為に舞台へと駆けていく兵の前に楽が回り込む。振り下ろされる剣を、杖で受け止め兵の身体を蹴り飛ばした。しかし、別の兵の突き出した槍が、楽の脇腹を貫いた。口の端から血を流す楽。楽に駆け寄ろうとするア―リィを、このままでいいと制止する。 「それより、キングを止めてください」 血の泡を吐いて、楽が言う。顔色を蒼白にさせたア―リィは、しかし一つ頷くと舞台上で黎子と戦っているダイヤの王へと手を向けた。 音もなく宙を駆ける無数の気糸。キングの振りあげた剣を絡め取り、その動きを止める。 ピタ、と一瞬王の動きが止まる。バチバチと電撃を撒き散らす王の剣を、黎子の鎌が弾き飛ばした。 両手に持った鎌を上下左右に振り回す黎子。金色の甲冑を切りつけ、削っていく。 「不運と悪運がお似合いですよう?」 にやり、と笑う黎子。上段から大鎌を振り下ろす。 ガチン、と金属のぶつかる音。黎子の大鎌を王が受け止めたのだ。そのまま、鎌を黎子から奪い取ると、返す刀でその刃を黎子に叩きつける。黎子の胴に鎌が刺さった。 しかし……。 「そろそろ終わりにしましょうね」 なんて言って、黎子が無数のカードをばら撒いた。カードの嵐が王を包み込み、その命を奪い取っていった……。 ●悲しき道化 「鬱陶しい……」 ジョーカーの作りだした幻影に、剣を突き刺すアラストール。無数に居た幻影もこれで最後。それを見て、ジョーカーは笑う。余裕の現れなのか、それともそれ以外の表情ができないのか。 ジョーカーの投げたトランプは、空中で沙希の光弾とぶつかって消える。 カカカ、と気色の悪い笑い声。ジョーカーの笑い声だ。無数に居た兵たちも、残り少ない。圧倒的不利な状況に追い込まれて尚、ジョーカーは笑う。 それが、道化の役割だから。 「逃げられては、面倒だからね」 城を切り崩し、その残骸を蹴り飛ばすいりす。城から降りたジョーカーは、やっと2人と同じ舞台に立ったと言える。カカカ。再びジョーカーは笑う。額のマークはスペードへ。冷気を放つカードをばら撒き、カードの嵐を巻き起こす。 このままでは、近寄ることも出来ないだろう……。 だが、カードの嵐に構わずアラストールは前へと踏み出した。身体を切り裂くカードの嵐。傷口に氷が張り付いていく。 す、っとアラストールが剣を掲げた。強い閃光が剣に集まり、十字を描く。 「我ながら、不甲斐ない……」 無数の傷を負って、やっとのことでカードの嵐の中心付近に辿り着く。カカカ、とジョーカーが笑った。笑い顔しか道化にはないのだ。 十字の光が弾け、周囲のトランプを焼き尽くした。ボロボロと炭が散っていく。カードの嵐が消滅したのを確認し、アラストールは床に膝を付いた。ド、っと溢れた血が床を汚す。 そんな中、紅い衣を翻しいりすが飛んだ。刀とナイフをジョーカー目がけ振り下ろす。 「数では太刀打ちできない、圧倒的な捕食者の存在を教えてやろう」 刀とナイフがジョーカーに突き刺さる。溢れる暗黒の魔力が、ジョーカーを内側から蝕んでいった。ジョーカーの身体が大きく何度も痙攣する。それでもジョーカーはカカカと笑い続けた。傷口から闇が溢れる。最後に一度、にやりと笑って、ジョーカーの身体は弾けて消えた。 後に残ったカードも、闇に飲まれて消えていく。 これが、トランプ劇団の最後だった……。 『ジョーカーはいつも憎まれ役よね。もしも人生を物語に例えるなら……』 誰にともなく、沙希は言う。 『私はいったい、何の役かしら?』 スケッチブックに筆を走らせる沙希。そこには、舞台の上で劇を演じる楽しげなトランプ劇団の絵が描かれていた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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