● ひとつ。音が鳴り。 ふたつ。音が咲き。 みっつ、よっつと音がふわりと飛んで行く。 明け方の空は東雲色。薄いグリーシァン・ローズが太陽の産声を知らせる時刻。 ラララ……とソプラノの声が澄んだ空気の上を走る。 同時に心地よいハープの音色が小さく鳴った。 その後から、ずるずると何かを引きずる様な音が続く。 まだ、人々が夢の中で遊んでいる間にハープの少女は踊りだす。 「ボクは『ギンユウシジン』? みんなにアイをカナでるアオイドス~」 タッタタ……靴の底から乾いた音を鳴らし軽やかな足取りで向かう先に『たんぽぽ園』と少しさび付いた看板があった。 少女はバタフライ・イエローの髪をふわりと揺らして「うーん?」と首を傾げる。 「ココは? ……ああ! バーナード・ホームだね! アイされなかったコドモが行く場所だ!」 身寄りの無い子供たちを集めて育てる養護施設。 にこにこと楽しげに少女はその門をくぐって敷地内に入っていく。 「大丈夫だよ。ボクがアイをあげるよ! とっておきのスペシャルパーティだ!」 響き渡るのは子供の悲鳴と泣き声。ゾンビが子供たちを襲う。逃げ惑う小さな命。 今まで一緒に暮らしてきた兄弟同然の友達が目の前でソンビに生きたまま食い殺される。 恐怖。絶望。 震え上がり、足が動かない。 ふと、見上げれば見知らぬ少女がこちらに手を伸ばしていた。 片手にハープを持った少女だった。バタフライ・イエローの髪が朝日にきらめいている。 「さあ、はやく! この手を取って! こっちから逃げれるよ!」 差し出された手を取ればこの地獄の様な場所から助かるのだ。 動かない足をどうにか立たせて、一歩を踏み出す。もうすぐ、手が届く。 暖かい手が自分の腕を掴んで出口へといざなう。 開け放たれた出口はグリーシァン・ローズの太陽の光が眩しかった。 安堵。希望。 これで、助かる! 嬉しさで、涙があふれてくる。 けれど、目の前に立ちふさがったのは、太陽の光をさえぎったのは。 ソンビだった。 助かるわけなんてなかった。視界がオックスブラッドに染まっていった。 「あははは! 感動的なワンシーンを君にプレゼント! どうだった?」 死体人形に引きちぎられていく子供を見て手を叩いて喜ぶ少女。 無邪気に、遊ぶのはアイリッシュハープを手に持った可憐な少女。 何が悪か正義か、そんなものはどうでもよくて。ただ、自分が遊びたかっただけ。 子供たちと一緒に歌い踊りたかっただけ。 残酷で無邪気な音色がアルパイン・ブルーの空に響いていた。 ●ポロロン。ブシャ。ポロロン。グチュ。 ブリーフィングルームのモニター脇にあるスピーカーから流れてくるのは爽やかな楽器の音色と肉を潰す音。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ほんの少しだけ眉を寄せて停止ボタンを押した。 「ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの『楽団』メンバーが動き出してる」 皆の中には既に遭遇している人もいるかも、とイヴは小さな口を動かす。 ケイオス筆頭に死体を蘇らせ操る能力『ネクロマンシー』に長けた楽団員たち。 その一端、『愛を踊る』イリアル・"アイリッシュハープ"・イノセントが養護施設を襲っているのだ。 数十人居た子供たちの多くはまだ寝ていたのだ。そこを阿鼻叫喚の地獄に塗り替えられた。 「もう、子供たちの半分は操られてる」 死体を出したら出した分だけ、敵の戦力が増えていく。子供の敵が増えていく。 そして、施設の子供たちと一緒に街へとパレードに出かけてしまうかもしれない。 殺戮のパレードへと。 「だから、止めてきて。これ以上犠牲はいらない」 緑紅の瞳は無表情で、ただブリーフィングルームの電子の光を映しこんでいるだけだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月08日(土)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 蝶がおどる。アイリッシュ・ハープを奏でながら、楽しそうに踊る。 妖精の様にふわりと舞い踊る彼女に悪意は無く、ただ、純粋に子供と遊びたかっただけ。 弦が、リロン……と余韻を残しながら、グリーシァンローズの空に飛んで行く。 飛んで行く先には、子供の悲鳴。 「次にボクのアイを受け取るのはだれかな?」 えへへ、と無邪気に笑う少女は、純粋で幼かった。きっと、彼女は破綻していた。 奈落の底から湧き上がるようなグラファイトの黒。『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が物憂げに小さくため息をついた。 楽団の女の子に会えると思って来たのに会えそうにないですね 屋上で舞踊るバタフライ・イエローに会いに行くのは出来ないと、残念そうに目線を落とす。 「大丈夫……私、可愛い子供も大好物ですから」 ふふふ、と眉を落として笑う彼女は、混沌で深淵だった。きっと、彼女はリベリスタだった。 那由他は愛を司るカードを持つリベリスタだった。 「愛の形は人それぞれだけどさ」 『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)が蘇芳色のキセルを咥えながら呟く。 一方的に愛を押し付けんのは、無理やり犯してんのと同じだっつの。 この子らの誰がンなコト頼んだってのさ。 はぜりもたんぽぽ園の子供たちと同じ様に幼い頃、家族を亡くしていた。思い出すだけで背骨の奥が軋む様な感覚に襲われる。恐怖と怒りが入り混じる惨劇。 「あんたらの目論見ぶっ潰してスッキリさせてもらうから!」 スペクトラム・レッドの瞳が強い眼差しと硬い意志を前へと向けた。 「今度は子供、か。まったく、手当たり次第だね」 響くアイリッシュ・ハープの音色を面白くないと『黒き風車を継ぎし者』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は言う。 フランシスカも親元から離れている身であり、子供たちと自分が重なって見えたのかもしれない。 「愛、な……」 無邪気さというのは残酷である、とは書物でよく見るが。 子供が楽しげに虫を殺す事を無邪気であり、残酷であると書架が語っていたのだろう。 『曖昧己MINE』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)はバトルシップ・グレイの鎧兜の下、ジョーンシトロンの視線を屋上へと上げた。 バタフライ・イエローのふんわりとした髪。蝶の様な服装でアイリッシュ・ハープを手にした少女がそこに居た。 「……まあいい、道理が判らぬならば教えてやるしかあるまい」 人を殺め、無理に踊らせることは遊びですらないということを! コーディの意志を表すようにヴォルカンの翼が朝日に照らされて強い輝きを内包していた。 愛というのは、少し分かるようになったばかりですが…きっともっと優しいもの 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)には大切な人が居た。女の子が大好きで怠け者だけれど、リリの事を誰よりも愛してくれていたから。 この死体人形と同じ様に組織に操られていた自分を変えてくれたのは大切な人達だった。 少なくとも押し付けたり、他の方を弄んだりするようなものではありません組織が間違っていたとは思わない。けれど、そこに愛はあったのだろうか。 リリはイリアルに怒りを覚えた。単純な怒りではない、複雑な感傷を抱いたのだ。 「……個人的な感情ですが、貴女が愛を語るのは極めて不愉快です」 さあ、『お祈り』を始めましょう。両の手に教義を、この胸に信仰を。 ――汝、死者と愛を冒涜するなかれ 「いくですよ! はいぱー馬です号!」(うまー パカラッパカラッ。 「おウマさんだ! すごい! わーい!」(ぺかー ポロンッポロンッ。 上機嫌にハープを奏でれば、グールが元気に動き出す。無邪気に陽気に笑顔。 イリアルはとても楽しげに踊っていた。 「結界を頼む」 コーディは『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)に結界を指示する。 「はいです! すーぱー結界です!」 愛馬に跨りアイゼン・ブリューテを掲げるイーリスの姿は正に勇者であった。 「なんか、カッコいい!」 イリアルは屋上で目をキラキラさせる。子供だったものが元気に動き出だした。 ● 「イリアルちゃん、あーそーぼー」 子供達の悲鳴が木霊する大広間に間延びした那由他の声が響き渡った。 グラファイトの黒のドレスは、シュネーの白。相反する色を纏い敵をひきつける。 流線型を描く剣から放たれる奈落の不吉。虚ろな瞳はエメラルドグリーン。 敵の注意が那由他に集まる。ゾルゾルと引きずる音が広間に反響した。 同じく前に出ていたフランシスカは一般人を護れる位置に立ち、内に眠る暗黒の獣の鼓動を開放する。 フランシスカのすぐ傍で小さな女の子がグールの手で首を折られた。 幼い命はとても容易く生命活動を終了した。 「動ける者はこちらへ来るのだ! 今助ける!」 コーディが大声を張り上げ、誘導を開始する。那由他とフランシスカに気を取られている敵から一般人を護る様に半円状に布陣したのだ。 訳が分からない大人たちと逃げ惑う子供。 リリは近くに居た男の子をグールの手から護り、布陣の中へ誘導する。 少しずつ一塊になっていく一般人。 「やだああああああああああああああ! コワいよおおおおおおおお!!」 けれど、子供達の恐怖は心の容量を上回っていた。 迫り来るグール、そして、さっきまで隣のお布団で寝ていた家族。 それが自分を殺しに襲い掛かってくるのだ。 ボロボロと涙が零れて、膝がガクガク震えて立ち上がれない。怖い、怖い、怖い。 「大丈夫」 はぜりが怯えて立ち上がれない子供を抱きしめる。そっと、優しく包み込む様に。 「もう、大丈夫だかんな。ほら、先生の所に行こうな」 布陣の中へ移動していた大人に、その子供を預けながら 「詳しいコトは後で話すから、この子らを支えたげてよ。心を支えてられんのは、あんたらだけなんだからさ!」 安心させる様に、スペクトラム・レッドの瞳が力強い笑みを見せる。 そして、大人たちは理解した。きっと、この人達が家族を救ってくれるのだと。安堵した。 広間には入らず右の通路の一番奥の個室に向かったのは『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)と『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の2名だった。 通路の前方に子供が居る。否、数分前まで子供だったものが居たのだ。 「オレだって孤児院出身だ、年下のガキ共を守ってきたンだよ」 その足の速さで自身が育った『家』を支えてきたヘキサは、イリアルが許せなかった。 「愛なんざ、そこら中に溢れかえってンだ」 互いに支えあって生きていた子供達を引き裂いた敵が。それを『アイ』する事だと言った敵が。 「だからこれ以上ぜってー殺させねェ。死なせてたまるかよ……ッ!!」 ミスト・ホワイトの三つ網を揺らし、子供だったものにありったけの感傷を叩き付けた。 ヘキサが敵を引き付けている間に、天井に舞い上がったクリストローゼのフリルドレス。 何人以上とか、そんなんじゃない。全員助けるの! 旭は障害の何も無い天井を伝い、一番奥の個室へと滑り込む。 身を寄せ合ったクローゼットの中、ガチャリと開いたドアに子供達は怯えた。 「もうダイジョーブ。出て来ていいよ。一緒に先生やお友達を迎えに行こ」 聞こえたのは見知らぬ女の人の声。けれど、それはとても優しげで子供達は一斉にクローゼットから飛び出す。 ひしっと旭にしがみついた子供達。 「こうちゃんと、ゆう君は? どこ?」 泣きながら家族の心配をしている子供達の頭を旭は優しく撫でた。 「おねーちゃんの仲間が守ってくれてるからへーき。信じて」 大丈夫、と一番小さな子供を抱きかかえ、窓から外へと避難させる。イリアルはまだ気づいていない。 太陽の光に照らされて、グラデーションショコラの髪が優しく揺れていた。 子供達にとってみれば旭の髪もキャンパスグリーンの瞳も輝いて見える。 「マリア様みたい」 たんぽぽ園に併設された小さな礼拝堂に居るのは旭の様な優しげな白い聖母だった。 地獄から救ってくれたのは、きっと聖母様なんだと子供達は思ったのだ。 「絶対守る。約束するから」 この子たちは愛されてるし愛し合ってる。貴方のアイは要らないよ 屋上で踊るイリアルに感傷をぶつけて、旭は子供達を連れて走っていく。 祈りと、学び。人生の全てがその2つに集約されてきたのはオリオン・ブルーの軌跡。 ラピスラズリを纏う聖職者。十戒の祈り、Dies iraeの裁き。リリが手に持つ二つの経口から放たれるオーピメントの弾丸は、一瞬にして一面をカッパー・レッドの海に染め上げる。 うち一つは先日強化したばかりだった。蒼と赤の揺らぎが広間を覆い尽くした。 リリが放った赤より、黒い赤にシュネーの白を染め上げた那由他はグールの攻撃に疲弊している。 それでも、彼女は笑みを絶やさない。 くすくす……。 おかしげに、まわり踊る。どこからか聞こえてくるハープの音色に乗って炎上の輪舞曲を踊る。 まるで、それが楽しいことである様に。 「あっは、私の溢れるほどの愛も受け取って下さいねー」 子供だったものを切り裂いて行く。家族の目の前で兄弟たちの成れの果てを串刺しにした。 迷子の皆も、ちゃんと送って上げるから安心してね? その美味しそうな身体、優しくばらしてあげる……。 二度と動けない様に四肢をバラバラにしていく。愉悦を込めて解体していく。 くすくす……。 グラファイトの黒は奈落炎上の序曲を、壊れた様に踊るのだ。それでも、彼女はリベリスタだった。 ● はぜりは呪印彫刻刀を前に構えた。中空に印を書き導べ、文字を穿つ。これは彼女流の回復術。 紅緋の呪印は那由他の肩口に張り付き傷がすぐに癒えて行く。 「動ける余地がなくなるまで、念入りにぶち壊しなよ!」 那由他は虚ろげな瞳で一瞥し、小さく頷いてからグールへと向き直った。 「真いーりすまっしゃー!」 布陣の間をすり抜けて来た子供だったものに、イーリスは容赦の無い斬撃を叩きいれる。 人は、いつか必ず死ぬのです。はやいか、おそいか、幸せか、不幸か。違い、わからないのです。 でも、私! 「上から、一方的に、勝手に、変えられたくないのです! だから! おまえの! それを!! 高慢というのです!!」 屋上に居るであろうイリアルに向かってイーリスは叫び声をあげる。 誰にも縛られること無く、あるがままに生きてきたイーリスと、何にも縛られること無く、あるがままに生きてきたイリアルはどこか似ていた。 けれど、全く違っていた。どちらも無邪気の属性を持っていたが、イーリスは『痛み』を知っている。 子供だったものが、黒く炭になって燃えていた。 「走って、跳んで、蹴ッ飛ばす!ってな!」 個室の廊下から戻ってきたヘキサが布陣の真ん中に飛んで現れる。 グールの攻撃を巧みに避けて、白のウサギが蹴りを叩きいれた。胴をへし折られてなお彼へと攻撃をしかけようとする子供だったもの。 ちくしょう、孤児院の皆の顔がチラつくぜ……。 「ゴメン、ゴメンな……オレたちがもっと早く到着してたら、お前らも救えたってのに……!」 この子供達と同じ様に、彼には家族が居た。貧しくも皆で差さえあって生きていた。 そこに沢山の愛情を込めて暮らしていたのだ。この子達だってそうだったはず。 ヘキサの心に子供だったものの悲しい声が突き刺さる。眦が熱くなる。 けれど、護るべき者を違えたりしない。生き残った子供達を助ける事が最優先だ。 この怒りは全て、屋上で喜んでいる敵に向けるべきものだったから。 子供達は見た。ヴァルカンの翼を持った天使様が敵を裁きの雷で撃退しているのを。 コーディはその姿で主に子供達の注目を集めた。 バトルシップ・グレイ鎧のを身に纏い、その紅き翼で戦場に雷を降らせるのは、きっと神様なのだと。 宛ら戦乙女と行ったところであろう。それでも、子供達は派手な威力に幾許の安心感を得る。 そして、轟音と共に壁をぶち破って現れたのは、朝日に照らされた紅い女神様。 「オトナは子供たちを助けて。一緒に逃げるよ! この子たちを安全な場所に連れていけるのは貴方たちだけなの。皆が助かるために、今は動いて。お願い」 キャンパスグリーンの瞳は力強く、子供達の心に安堵を与える。大人達の心も落ち着いてくる。 小さな子供が次々と外に飛び出していく。助かるんだと嬉しくなった。 「なんだか、楽しそう~♪ ボクも遊びたいな~?」 きゃぁ、きゃぁと。屋上から透き通る声が響き渡る。 イリアル・アイリッシュハープ・イノセントが天使の様な笑顔で立っていた。 バタフライ・イエローの髪を揺らして、朝日の光の中に佇んでいた。 ● 阿鼻叫喚。地獄絵図。血の惨状。 子供達を護るために、フランシスカが地に伏せた。 「これ以上犠牲を出してなるものか、絶対。こいつらの悪趣味な楽曲は終わらせてやるって決めたんだから!」 ティール・ブルーの瞳を、フェイトを燃やし立ち上がる。 安堵から突き落とされた奈落。恐怖は数倍に膨れ上がっていた。 「あはは、ボクのアイを受け取ってくれるんだね、うれしい♪」 先ほどフランシスカの傍で殺された子供が、ハープの音色で起き上がり近くに居た大人の足を噛み千切った。 「いやああああああああああ! 痛い、痛いいいい!!!」 耳を劈く大人の悲鳴は、子供に更なる恐怖感を与える。 「やだああああ! 先生、うわあああああああああん!!」 「先生!! せんせええええ!!!」 その場で動けない子供の手を取ったのは、コーディだった。 手の届く範囲で数人、子供を2人抱えあげる。敵の攻撃から庇うことは出来ない。 けれど、移動をさせる事は出来るのだ。攻撃が来ない可能性もあるのだから、コーディは考えるより先にその身を動かしていた。 この力で何かが救えるのであれば。今は、その手で子供達がすくえるのだから。 「大丈夫だ! 今、助けるからな!」 そして、大人に声を掛ける。 「……よく分らぬ状況だとは思うが、今は貴方達が頼りなのだ。子供達を守るためにも、頼む!」 その後ろで同僚がグールに引き裂かれた。 恐怖とはこういうものをいうのかと、大人達は理解した。それでも、家族を護るという気持ちはあったのだ。わが子の様に慈しみ育ててきた子供達を誰が見捨てることができようか。 「みんな、大丈夫! 先生について来なさい!」 4人の大人が子供を一人ずつ抱きかかえて逃げていく。少し年長の子供は自分より小さい子の手を引いて、先生の後を付いていくのだ。 その間にも数十対のグールや子供だったものは一般人目掛けて攻撃をしかける。 リベリスタは幾度と無く、攻撃を浴びた。 はぜりの回復も追いついて行かず、那由他が倒れ、イーリス、コーディも地に伏せる。 其々のフェイトが火を噴く。 とうとう、フランシスカが地に足を折り、意識を手放した。 ブラッドフィールドの阿鼻叫喚がグリーシァン・ローズの空に広がっている。 最後尾で子供を抱えていた先生がグールに腕を?がれた。腕の中の子供も同じ様に命を散らす。 屋上でハープを奏でるイリアルは楽しげに、踊っていた。 「あははっ! すごい! 追いかけっこしてるのかな~? たのしいね!!」 地上の惨劇は嘘の様に、本当に楽しげに笑う。 「今、生きてるんは全員、居るんかな?」 一塊に集まった一般人にはぜりが、確認を取る。 「いえ、まさや君となぎさちゃんが居ません」 逃げ遅れたのは小さな子供たちを逃がしていた2人の年長兄妹。 「お兄ちゃん、どこ! お兄ちゃん!!」 「何で戻って来たんだよ! 早く逃げろ!!!」 その声に真っ先に反応したのは、銀の兎ヘキサだった。大きな耳は敏感に兄妹の声を感じ取る。 次の瞬間には、身を光速に置き換えて戦場を最速で翔けた。 グールが兄妹に手を掛ける。そこに無理やり身体を割り込ませたヘキサ。 ヘキサの速さがなければ、割り込むことすら出来なかったであろう。 けれど、庇えるのはひとりだけ。一瞬の躊躇も許されず、残酷な天秤は下される。 ――『選択』はなされた。 ヘキサが選び取ったのは『妹』 なぜなら、銀の兎は『兄』であったから。 兄は妹を護らなければならなかったから。ヘキサは誰よりも、このまさやという少年の心が分かったのだ。 満足そうに殺されていく兄は、妹に笑顔すら見せていたのだ。 「ありがと……ごめ、んな」 グールによって少年の命が事切れる前に、その心臓を穿ったのはリリの蒼き軌跡の魔弾。 兄の身体は一瞬にして赤き炎に包まれた。 「兄が、ゾンビになる姿など……ッ!」 リリ自身も妹であったから。操り人形であった彼女を支えてくれたのは優しい兄であったのだ。 だからこそ、リリはその弾丸で優しい少年をを撃ちぬいた。操られぬ様に。 その身を裂く思いで焼いたのだ。 「イリアル。貴女はいずれ断罪します。必ず」 その光景を見たイリアルは、怒った様に地団駄を踏んだ。 「あー! もう! やだー!!! ボク、怒った! もう、帰るもん!」 途端、グールが撤退を開始する。 あっけなく、本当に何事も無かったかのように辺りは静けさを取りもどした。 今までの地獄絵図が嘘だったかの様に。 ――犠牲になった者に弔いを。 リベリスタは東雲色の空に祈りを捧げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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