●名は体を表すものとは限らない 「鬱だ……」 その男は、見た目にそぐわぬことを呟いた。 「死んでしまいたいほどに鬱だ……」 男。大男だ。高身長で、筋肉質。レスラーか何かだと言われても信じてしまうかもしれない。その半身を覗いては。 右半身。肩から見える何本もの太いケーブル。胴のそこらからはみ出した歯車は速度もばらばらに回転している。脚に絡んでいるのは自転車のチェーンだろうか。否、これを見たあとではその推測も間違いであったとわかるだろう。右腕全体を覆う、三枚刃の鋸を見れば。 チェーンソー。男のサイボーグじみた半身を一言でいえばそれだった。それでしかなかった。歪で無骨なチェーンソー。それが目的とする切断対象は、まさか木材などではあるはずもなく。 「そう、死んでしまいたい。それ程に俺は今意気消沈している。だのに、だとういうのに。どうしてお前らが今にも死にそうなのだ?」 男は見回して、転がるひとつを掴みあげた。頭を、片手で、宙吊りに。 「なあ、どうしてお前達が死にそうなのだ? わからない。死んでしまいたいと言っているだろう。どうしてだ? どうして俺を殺そうとしたお前達が今にも死にそうなのだ? ん? なあ、オイ」 「ひっ……」 無茶を言う。掴み上げられた男―――なるほど、あちこちから血を流し、折れた骨を数えるにも骨が折れそうだ―――の怯え様から見るに、この惨状は、大男によるものなのだろう。 惨状。その内に死屍累々と言い換えられるかもしれない。倒れている誰、それ、かれ、なにがしか。意識を失っているだけではなく、既に事切れた者もいるだろう。 「殺しに来たんだろう。殺しに来たんじゃあないか。なあ。じゃあ殺せよ。殺されているのではないぞ。なあ」 「ば、化物めッ」 たぁん。 乾いた音。戦場に出るのなら、戦闘経験したのなら。聞き慣れた音。銃声。この距離。この体勢。回避など叶うわけもなく、釣り上げられた男が放った起死回生は、間違いなくこの歪なサイボーグの眉間を穿っていた。 「…………は、はは、やった。やったぞ! ば、化物め! ひっ」 喜ぶのも、つかの間。気づいたのだ。自分の足がまだ地についていないことに、自分の頭を掴むこの手の握力が狭として緩んではいないことに。 「……たまたまだ」 大男の、声。負傷した者の声色ではない。だが、先程よりもその音に活気がついたように聞こえる。 「たまたま、それは俺の脳まで達しなかった。非常に残念だ。死んでしまいたいと思っていたのに。残念だ。だが、よくやった。よくやったぞ俺を殺しに来た奴その1。死にこそしなかったが、死んでしまうかと思った。ははは。楽しい、楽しいな。なあオイ、生きる気力が湧いてきたぞ!」 表情が変わる。落胆であったそれから、歓喜のそれに。変わる。声は大きくなり、みるみる精気が宿っていく。同時に歯車は回転を増し、背中に生えた排出口から煙があがる。 どるん。エンジン音。どるん。駆動音。 「よし、そうなったら生きよう。ああ、生きようじゃないか。生きたいなあ。うん、バイタリティというやつだな。そうだ、よく考えたらお前、俺を殺しに来たんじゃあないか。なんだそうか。よし、俺は生きたいからお前達には殺されてやらない。お前もそこで気を失っている奴も死んだふりしてやり過ごそうとしているやつも物陰に隠れている奴も今まさに走って逃げた奴も―――」 右腕に生えた三枚刃が、回る。掴んだ男の頭に、当然として川の字ができた。 「皆殺しだ! 生きるために殺そう! 人間ってそういうものだよな! ははは。ぎゃはは。げらげらげらげらげらげら!!」 ●名は定を導くものとは限らない 「以上の映像が、フィクサード・モヒカンマシーンよ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の操作により、これまで流れていた殺戮劇がリピートされていく。解説の邪魔になると感じたのだろう。画面の端にミュートの文字が見えた。 映像では、先程見たばかりのそれが繰り返されている。アフロの大男による、圧倒的な戦力差。 「モヒカンマシーン?」 耳についた単語を、思わず聞き返した。名前と髪型が、まるで一致していない。 「ええ、モヒカンマシーン。そう名乗っていたわ。名前と髪型はまるで違うけれど、気にしている余裕はないわね。目的はわからないけれど、被害は甚大よ。今の映像は、アークに属さない革醒者によるものだけれど。既に一般人にも死傷者が出ているわ」 映像が変わる。大男、モヒカンマシーンの全体を表したものへと。 2m前後ある体格に、そのアフロヘアーも相まって非常に巨大な印象を受ける。だが、やはり眼につくのは半身と融合したチェーンソーだろう。 「このチェーンソー。寄生型のアーティファクトね。モヒカンマシーンと完全に融合しているから、外すことは不可能。映像の途中で急に彼のテンションが上ったのもこれのせいじゃないかな」 映像がまた先程のものへ。丁度、頭を撃たれたところだ。 「生命の危機に応じて活性化。同時に筋力も肥大しているから、テンションと一緒に能力も上げているのかな」 映像に向いていた、イヴの視線がリベリスタ達へと戻る。 「映像からもわかるように、生半可な能力者では勝ち目がない。けれど、放置するわけにもいかないの。なんとしても、勝って」 それと、 「生きて帰ってきてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月15日(土)21:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●名は内を見透かすものとは限らない 生存率60%。何度見返しても変わらない中途半端な数字。ため息が出る。忌まわしい。忌まわしい。だから。だからだ。死にたくなる。嗚呼、死にたくなる。 火薬と鉄の臭い。その充満は、詰まるところ死に近い環境を示している。惨たらしく、恐ろしい。本来ならば回避したい、忌避すべき世界。それでも、そこに。それらに、足を踏み入れねばならぬ。死地に身を投げ出さねばならぬ。そんな理解しがたい。しかし言い表すならば、それを戦士だと。 「もう誰も死なせたくないから」 こんな世界に住んでいるのだ。『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)にも、それが夢物語に過ぎないことなど理解している。それでも、口にせずにはいられない。それでも良かれと、思わざるを得ない。理想を抱かず、未来を選ぶことなどできないのだから。切に願わず、諦めることを甘受などできないのだから。だからまだ見ぬ先を、信じてやまぬ。それをつかむために、努力している。 モヒカンマシーン。でもアフロらしい。全長が伸びるくらいには、立派なアフロだそうだ。なんだろう、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)には目前に餌をぶら下げられたかのような錯覚を感じていた。言いたい。指を指して正面から背筋を伸ばして言ってしまいたい。喉元まで出てきたそれを、しかし。 「でも、絶対にツッコミ待ちだろうから、俺は絶対に突っ込まないぞ! 突っ込んでやったら調子に乗りそうだしな!」 「ヒャッハー、モヒカン狩りよぉ~。悪いモヒカンはいねーかー。モヒカン……モヒカンじゃないじゃない」 あ、ツッこんじゃった。『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)はぼやく。 「何よ、紛らわしい名前付けちゃって、対モヒカン用にばっちり決めてきたのに」 決めてきたらしい。どういうことなの。 「名が体を現さないなんて生きてる価値が無いわね。自分で首掻っ捌いて死になさいよ、このポンコツが」 アフロなだけで、この言われよう。 「ああ、いわゆるサンドバックか」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が向ける敵愾心はいつも冷たいものだ。元より、敵に情を傾けてやる必要などなにひとつないのだが。不屈のアフロ。モヒカンマシーン。死ぬことで活性化するいかれたサイボーグ。どうせなら、自傷でもすればいい。 「セルフでラリって幸せそうだな。痛いのが好きなら自分を解体してしまえ。エンジンが焼け付くまで延々と回転数上げられるぞ?」 「右斜め45度から叩くってのは芸が良く判ってるよな」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は感心する。古いブラウン管テレビのような、敵の特有スキル名。昔の家電というものは、何かあるとまず叩いて直したものだ。実際のところ、寿命をさらに削っていただけなのだろうが。それでも、懐かしいから。昔の香りがするから。興味もわくものだ。 「敵ながら味わい深い芸風だよな」 寒空に、古い紙巻を咥えながら。 「シュールな名前のフィクサードですが、実力は侮れません」 モヒカンマシーン。風見 七花(BNE003013)にも、正直なところ、奇妙な名前だとしか思えないが。それでも、実力の程は悪ふざけで済むものではないらしい。止まった心臓は再動し、倒れた身体は何度でも起き上がる。極めて生存性の高い能力と、それを支え強化するアーティファクト。油断はできない。 「……死にたいなら周りに迷惑かけず首でも括ればいいのに」 「モヒカンなのかアフロなのか……ややこしいな」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)からしたって、思わず指摘せずにはいられない。モヒカンマシーン。歪な電鋸に寄生され、人間から逸脱したフォルムを持つフィクサード。 「しかし奴は道具を使っているのか道具に使われているのか……」 あるいは、どちらでもあるのか。共存。そう呼ぶにはあまりにも不自然で。 「まぁ良い。これ以上の被害は許さん、ここで朽ちて行け」 すっかり冷えて、例年更新する猛暑など遠い過去のようにも錯覚する。そんな季節。月と星の空の下。 吐いた息は、いつになく冷たい。いつもより厚着をして正解だ。明日の朝、雪が降っていても驚くまい。そう思うほどには、誰にでも冷たい夜だった。 ●名は誰と巡りあうものとは限らない 生存率40%。歓喜する。この不安定に焦りを抱かずにはいられない。だから、だからだ。生きよう。もっと生きよう。これが自分の考えでも機械の支配でもどうでもいい。生きたい。だから生きよう。生きよう。生きよう! 「死にたい……」 それをまさか、見間違えるはずもない。無論、初対面だ。お互いに面識はない。だがそれでも、半身がチェーンソーと融合した男などそうそう何人も出現するはずがない。 「死にたい。なあ、お前らはどうだ? 俺を殺してくれるのか? なあ、なあ」 どるん。 エンジン音。歯車が回りだし、男から発せられる気配に別の色が混じる。 彼らは知っていた、それをなんと呼ぶのかを。最早日常のひとつですらあり、常に向けられ、跳ね除けてきたもの。 「まあ……いいか。殺せばわかる」 殺意。それも極上の。死を感じずにはいられないほどの。 ●名は人と惹かれるものとは限らない トルク。ギア。エンジン。パイプ。スチーム。チェーン。オイル。コイル。トリガー。自分を構成する人でないもの。人でないところ。それでも人間。逸脱したフィクサード。自分を客観的に見ても、何もわからない。 「なんだお前、俺を殺しに来たんじゃあないのか?」 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)の腹を、フィクサードの腕が貫通していた。 「なあ、なあ。どうしてよそ見をしていたんだ。なあ、殺しにきたんじゃあないのか?」 痛み。痛み。痛み。悲鳴すらあげさせぬ極上の激痛が、彼に一言とて発することを許さない。強烈な電気信号。心臓が止まりそうなほどの衝撃に、やがては脳が伝達を拒否してしまう。 自分のことだというのに、希薄で、遠く。現実味が消えていく。何かを返したつもりだった。だが、相手が顔をしかめもしなかったところを見るに、きっと音になってはいないのだろう。 「あぁ、お前もういいや。退場、それじゃあな」 モヒカンマシーンの、腕の三枚刃が回る。肉と血潮をぶちまけながら、ディートリッヒはアスファルト上に放り捨てられた。 「冷水は如何か? ひとり露骨にテンション上げて売れない芸人のようだ。どん引きされて欠片も面白くない類のな?」 「酷い物言いだな。気持ちが沈む。ああ死にたくなってきた。早く殺してくれよ。じゃねえと死んじまうぞ」 ユーヌの生み出した凍獄の雨が降り注ぐ。フィクサードから這い出た機械の虫が、噛み合わぬ歯車のようないびつの悲鳴をあげた。 「ガタが来てるか、オンボロ機械。からから空回り、回し車の方がまだマシだな」 空に描かれた文字。列。陣。絡み合い、男に身動きすらも許さない。続いて送るそれもまた呪詛。不遇を塊にして押し付けたような、悪意でできた未来性。 それは一歩を進むことすら不安にさせる。足は自ずと転倒し、武を振るえば自信を害するトラジック。 「つまることろ、間抜けを作るというわけだ」 「いや、面白い。生存率の低下。著しいな。はは、なあオイ、見えてるか。見えているのか。死が近づいてくるぞ」 「整備不良の一種だろう。雑な扱いが極まってるな……ああ、マゾには丁度良いのか。それともマゾが言い訳か?」 仲間の攻撃が、フィクサードの体力を削る。削る。削る。削る。 七花はその一挙手一投足を見逃さぬようじっと、じっと見つめていた。 「収穫の呪いの切れ味、味わって下さい」 無論、ただ見つめてじっとしているわけではない。彼女の詠唱に応え、夜闇の虚空から生まれた死神が、モヒカンマシーンの機体を切りつける。 「物騒なモノはモヒカンだけで十分です」 アフロだけどな。 それでも、例えふざけた名前でも、これが難敵であることは理解している。相手の特性、それを理解した上で彼女はこの役割に就いた。 キーパーソン。戦場において兵の動く好機を見定めるその大任。怯えているそぶりなど見せない。見せられない。 さて、そろそろだ。 じっと見つめている。じっと、見つめている。自分の放つ魔導。仲間の振り下ろす剣戟。それらの総合。攻防。タイミングを見謝ってはならない。呼吸を整え、観察する。観察する。 一瞬、攻防に間があった。お互いに息を吸う瞬間。そのたった刹那。敵が小さくため息をついたのを、七花は見逃さなかった。 「今です!」 さあ、必殺が牙を剥く。 烏の銃弾が、モヒカンマシーンの脳天で弾けた。 一命を取り留めさせることを許さない、極死の弾丸。それ故に、一度穿たれれば滅びを回避する術はひとつ、奇跡の体現しかない。だから。だからこそ。 「だからこそ、今俺の頭に残っている銃弾はたまたま致命的な部位には当たらなかった。はい死んだ。でも死ねなかったね俺。俄然やる気が湧いてきた。じゃあ生きようか」 化物。それでも、烏は思わず口笛を吹いていた。それに対しての思いは畏怖でも強敵へのスリルでもない。感心である。「ああ、こいつはやるものだ」というやつである。 だって。だってこいつ、本当に右斜め45度の位置に銃弾が当たったのだから。 「うんうん」 満足だ。完璧だ。心の中でこっそり、師匠と呼ぼうじゃないか。 「だけど、だけれども。敵だわな。どうしようもなく、これ以上もなく敵だわな。それじゃあ、仕事をするとしよう。おおい、偽物のモヒカンよ」 「オイオイ、天パでも心はモヒカンなんだぞ!」 「そりゃ失敬。だけど気をつけなよ。おじさんの銃口は、髪の毛じゃなく土台の方に向いてるんだからさ」 起き上がる度に回転数を増すフィクサードのエンジン。攻撃は苛烈を増し、脅威は激烈を増す。資料としては聴いていた。覚悟もしていた。だが、 「おいモヒカンだが知らねえが、何やってんだ!!」 俊介は自身の言葉に治癒性能を乗せて味方に飛ばす。これから更に死中は深まるのだ。ここで余分な傷を残しておきたくはない。 「人はいつか死ぬ、遅いか早いかの違いだがな!! いつか死ぬなら早い方がいいぜ。人より早く、体験できないことが体験できる!」 「嫌だ、嫌だな! 俺は今生きたいんだ。生きたいから殺しに来たお前らを殺す。殺そう。殺すぜ、なあオイ!」 「ていうか、おまえはなんのために生きているんだ。生きたいから生き延びても、目的が無いなら仕方が無い。なんのために生きたいのか言ってみろ!!」 「オイオイ悲しいこと言うんじゃねえよ。人間の大半なんざなんとなく生きたいんだぜ! お前の方こそどうなんだよ色男!」 「俺は羽音と幸せにならないといけないからな。だからこんなところで死んでいられないんだ。生きる目的も無く、死ぬ意味も無いならいっそ死んでしまえ!」 「自分で死なないって言うんなら、あたし達がぶっ殺すしかないようね!」 杏が攻撃の手を止め、構えている。たった今、袈裟斬りにされて致死量の血液を噴出させたばかりの大男。だが、立ち上がるのだろう。まだ残機があるのだろう。 「さあさあ、早く倒れて起き上がってきなさいよ、起き上がった瞬間どたまぶち抜いてあげるわ」 「威勢のいいお姉ちゃんがいるなあ。いいねえいいいいねえ惚れそうだ。ここで殺すけどな!」 「うじうじしてるやつは大嫌いなのよ!」 奏でられる敵意のクァルテット。四種の害音からなる不協和は、傷ついた全神経で弦を弾く。 ここにきて、最早痛打以外の効果は意味を成さない。寄生主のリミットを取り除くこの電鋸は、その凶暴さを狂乱さを肥大させていく。 「もうそこまで届くんだぜオイ!」 モヒカンマシーンが腕を振れば、この距離ですら引き裂かれた。痛い。痛い。だが、繰り返される。胸を、腕を、首を、切り裂かれていく。 たまらず、膝をついた。血が抜けすぎたのか、力が入らない。切れた首筋を抑え、動脈の無事を確認する。 これもたまたま、か。 次を耐え切れる体力はなく、自身の血だまりに顔を伏せた。 一度剣を振る間に、三度、時には四度酷爪を這わせ。それでも気を後ろにして、勝てるような相手でもなく。 シビリズはその猛撃を前に、あえてその身を盾として、壁として、反射板として。晒していた。庇い立てていた。 モヒカンマシーンの一撃は重く、早い。だが、シビリズはそれ以上に硬い。己が傷つくのと同時、鎧の板金が、大槍の鋼鉄が、敵にもダメージを与え。蓄積させている。 「倒れん。倒れる訳にはいかんよ」 「いやすげえ、実際すげえなホント。なんで死なねえんだ? 教えてくれよそれ。俺も生きたいからさ」 「私の逆境、底力を見せてくれる。闘争において気が昂ぶるのはモヒカン、貴様だけでは無いぞ」 「ははは、ぎゃははは。すげえ、すげえ! よし殺そう。お前を殺してもっと生きられるようになろう!」 「命削られ立つしか無かろうと、立つ事に意味がある事。教えてやる」 どれだけ傷ついても、柄を握る手の指は離れることがない。どれだけ傷ついても、その顔に見られる戦士の眼差しが衰えることはない。 耳を劈く金属音の最中、耐え忍ぶ一心においてそれを呟いた。 「勝とう、諸君」 「ちっ……彼女も居そうにないツラのクセに調子に乗りやがって!」 「オイオイ、オイオイオイオイ! 今それ関係ないだろう! なあ、無いだろう!?」 「あるんですー、大いに関係あるんですー。っつかその返しだとやっぱいねえな! 早く倒れろよ、俺はユーヌたんにちゅっちゅや、七花たんにセクハラしたいんだ!」 「なんだそれお前モテ男か!? 古いかこれ! こんなこというからモテねえのか俺! どいつもこいつも子孫繁栄しやがって、子孫が出来る前に殺そう! 生きるために!」 三度。モヒカンマシーンの起き上がってきた回数を、数え間違いなどしない。軽口を叩いていてもこの場にある以上、成すべきは成している。リベリスタであることを全うしている。だから。 だから、だからまだ温存していた。撃ちこむべきこの瞬間を待っていた。四度の斬撃。筋の通った刃物ではない。ずたずただ。次はきっと堪えられない。だが。だから。これが最後の一撃。 竜一の渾身。振りかぶった最上段からの決死。全てを込め、その脳天に向けて叩きつけた。 「これでぇ、ラストォォォォォオオオオッ!!」 ●名は君の力になるものとは限らない 宿主ヘノ確認。未来ヲ消費シテ今ヲ生キマスカ? YESYESYESYESYESYESYEEEEEEEEEES!! 「ぎゃは、げらげらげらげらげら」 笑っている。男が笑っている。 「危ねえ。危ねえ! げらげらげら! もうちょっとで死ぬとこだった! ぎゃは、生きてる! 俺、生きてるぞオイ!」 「何で……?」 「ン? ああ、すげえ。すげえよお前ら。危なかった。本当に危なかった。だけどぎゃは! ちょっと火力が足んなかったなぁオイ! ははは、オイオイ不思議そうなツラすんなよ。俺だって運命に愛されてんだぜ、てめぇらの特権じゃねえぞこりゃあよオイ」 運命消費。革醒者のみ持ちうる特殊技能。だけど本当に、本当にあと一歩だったのだろう。だが、今やリベリスタに剣を振る力はなく。誰がこの生存戦争に勝利したかは明白であった。 が。 「…………ンだよ、こんな時に。もしもしこちらモヒカンマシーン様ァ。なぁオイ、レイディ。邪魔すんじゃ……チッ、わぁったよ。帰りゃいいんだろ」 端末を閉じ、男は歩き出す。最早興味もないというのか、おぼつかない足取りで、この場を去っていく。 追いかける力はなかった。アスファルトを叩く。悔しさで、血が流れるほど歯を食いしばっていた。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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