●それが彼の誇り ――俺には、兄さんが居た。 とは言っても、年は親子程に離れてたから、兄弟愛は無かったと思う。 でも、その代わりに家族愛があった。俺達には親が居なくて、だから、兄さんは俺を息子のように可愛がってくれたし、俺も兄さんを尊敬していた。 兄さんは凄い人でね、まず、剣道の有段者で、週に二回、近所の高校の剣道部に行って、特別講師として部員達に剣道を教えてたんだ。 それだけじゃあないんだよ。今だから言うけど……兄さんは、リベリスタだったんだ。 活動は個人だったんだけど、それにしてはかなり強かったみたいでね。世界の敵になるものと、時々戦ってたらしい。 流石に、周りには言っちゃいけないんだろうなあって判ったし、兄さんからも口止めされてたから、それを俺の友達とかが知る事は無かったけど。 それでも、それは心密かな俺の誇りだった。兄さんが頼もしかったし、自分の事のように嬉しかった。 俺は、兄さんの弟で、幸せ者だった――筈なのに。 ●幕開けは突然に 「……っ、兄さんっ!!」 一体どうしてこんな事になってしまったのか。青年――青柳玲人は、考える。 考えながら、向かってくる真剣の切っ先を躱すので精一杯だった。 「兄さん、剣を――」 収めて、と言おうとして、しかし遮るように、再び剣が振るわれる。 咄嗟に出した腕をその刃が霞めた。滲む血。刀にも付着したそれは一滴だけ、畳の上に零れ落ち、汚す。 「何で……」 兄が、深手を負って、ほぼ寝たきりで療養中だった筈の兄が、一夜にして完治して、挙句、まるで別人になったように、明確な殺意を持って、自分に斬り掛かってきているのだろう? 「っ!!」 重ねて繰り出される剣の一撃に、咄嗟に身を引いた玲人の周辺に、数本の剣が現れた。見た感じは儀礼用の剣のようであったが、どうやら彼を護るようにして陣を展開しているようだ。 それでも、玲人はかぶりを振った。 (駄目だ……) 突然の事態に困惑しながらも、兄を傷付ける事は出来ない。それだけは心の中にあった。この刀儀陣の消し方はよく判らないが、放っておけば兄に手は出さないだろう。 玲人は兄と違って、剣道を嗜んではいないが、運動神経はそこそこ良い方で、だから何とか今も兄の攻撃を避けていられる。それでも、逃げる事も出来るだろうにそれをしないのは、矢張り兄を止めたいからで。止められなくとも、今の兄を独り置いていくのも躊躇われる訳で。 自分でも甘いとは思う。けれど、矢張り兄は、変貌していようとも、彼の兄である事に違いは無くて。 けれど、それが命取りになる事も、玲人は知っていて――それでも、彼は、 ●声聞く時ぞ 「エリューションとの戦いで負った傷、ね……かなり強力なエリューションだったんだと思う」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、淡々と見解を述べる。 「多分そのエリューションの特性だったんだね。普通に療養してるだけじゃあ治らないようになってたの、きっと。そんな呪い染みた力に、彼は生存本能と運命の導きで、抗っていたのだろうけど」 だが、現実は残酷で、誰にも等しく、望むものを与えるならば代償を求めてくる。 「打ち勝った時には、フェイトは残されていなかった……なんて、皮肉」 憂いを帯びたその表情をアンニュイに俯かせて。しかしそれも一瞬の事、イヴはすぐにその顔を上げて、続けた。 「……今回の討伐対象は、ノーフェイス『青柳正士』。フェーズは、2。多分、リベリスタとしての強さが、経験が、フェーズの早期進行を促した」 召集されたリベリスタ達が、手元の資料に目を落とす。どうやら流石に生前のスキルは使用してこないものの、剣道家としての力と技術は残ったようで、剣による強力な攻撃を繰り出してくるらしい。 そして、その下に、救出対象の名前があった。 「今回、正士の弟の『青柳玲人』が現場で彼と対峙してる。実は、この交戦中に革醒するみたい。ジーニアスのインヤンマスター。これは防げないから、革醒を止める事は任務に含まないけど……それでも、覚醒したてで戦力には殆どならないから、護ってあげて」 成程、今回はエリューションとなった兄を討ち、革醒したその弟を救出すれば良い訳だ。 と、口で言うのは簡単だが、恐らくは玲人への説得も必要になるだろう。一筋縄では、いかないかも知れない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月29日(土)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呪詛 「さっさと始めて……さっさと終わらせましょう……」 「……え?」 兄であったものの、激しい猛攻に思わず一度退がろうとした玲人と入れ替わりに前に出たのは、『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)。 兄弟に縁の無い彼女にとって、兄弟愛・家族愛は理解の範疇を越えるものであるし、正直な所、正士が、玲人がどうなろうが、そんな事はどうだって良い事だ。だが、これも仕事。 身体のギア、特に加速のそれをぐんと上げて、彼女は前へ。唯、前へ。押し留める為に。 同時に、とっ、と軽やかに、『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が、仄昏き闇をその身に纏って躍り出る。危うさを全く感じさせない足取りで、彼ないし彼女は躊躇いも無く前進する。 「どうせなら生きてる内にヤってみたかったがね」 まぁ、仕方無い、と短い溜息ひとつ。 「願いは叶わないものだからな。んじゃ、ひとつ遊ぼうか」 あっさりとそう言い捨てて、刹那に生きる。その為に、目の前の敵のその前に、立ちはだかる。 二人からはやや遅れてだが、其処に『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)も続いた。振り下ろされる一刀を、その重厚なる騎士盾で、受け止める。 びりびりと腕が痺れる。重い。だが、防げない程ではない。 そう、自分の役目は二人と共に正士を抑える事だ。 (「……護って見せます、その上で、選び得る最良の結末を掴み取って見せます……!」) 凛とした強き意志が、瞳の光としてユーディスに宿る。 当然、呆気に取られる玲人。其処に更に、六人の人物が駆け込んでくる。 その内の一人、『トゥモローネバーダイ』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)が、玲人に向かって軽く頭を下げた。 「急に入ってきて申し訳ありません。私達はリベリスタです」 「リベリスタ……!?」 はっとしたようにその双眸を見開く玲人を確り見据えて、レナーテは確かに頷いて。 「貴方を、護りに来ました」 (「何と言う皮肉な運命か……兄は寵愛を失い、そしてその弟は世界に愛される」) 運命の女神は、酷く気紛れで、それ故に、時として残酷で。『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は唇を噛む。拳を握り締める。 玲人の気持ちが、少なからず痛い程判るから。そして、正士の無念もまた、然り。 (「……俺に、出来るのか」) 彼とて、信頼されて、任されて、此処に来ているのは事実。しかしいざ対面してみると、矢張り、それを考えずにはいられない。 刀の柄を握る手に、思わず力が入る。 (「俺にとっての祖父である、彼の兄を……この手で殺す事が」) 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)には、年の離れた妹が居た。 その妹には、結果的に怨まれる事になってしまったけれど。それでも、血の繋がった大切な家族だった。 (「既に理性をなくしたとは言え、さぞかし兄君は弟君の事が心配じゃろう」) それが、上の兄弟と言うものだから。 だからこそ、彼は思うのだ。 (「妹や弟という『存在』は護ってやりたくなるのう」) 悪癖だと、自分では思うけれど。その微笑の下に苦笑を隠して、彼は守護の結界を展開する。 運命は理不尽で、底抜けに意地が悪くて、無責任だ。 だから、『機械鹿』腕押・暖簾(BNE003400)はそれを厭う。 (「大ッ嫌ェだ、ンな不幸な神秘は、運命は」) それ等が幸福を呼ぶ事も、あるだろう。だが、今はその時ではない。今訪れたそれは幸せ等齎さず、不幸しか呼びはしないのだ。 (「他の不幸に繋がっちまう前に、幕降ろしてやらにゃあな」) 誇り高く見栄を切って、誓いを体現する。それがこの底意地の悪い運命に対して、彼が出来るせめてもの、意趣返し。 「術士で無頼の機械鹿――お前さん達の名誉の為に、いざ」 ●宿命 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE00562)によって、翼を得るリベリスタ達。 その時再び玲人に振り下ろされようとした刃は、拓真がその神秘宿す打ち刀で受け止め、鍔迫り合う。 「リベリスタ、新城拓真。……青柳正士、お前を止めに来た」 改めて、静かに名乗る。火花を散らして正士の刀を打ち返しつつ、拓真もまた刃を向ける。だが、まだ自ら打ち掛かりはしない。 (「相手の攻撃は、一撃の威力の高い物が多い。だが、剣士相手であればその技の出を見切る事は、不可能ではない……!」) 注意深く、その挙動を見極める。まだ手を出さないと決めている以上、被害は最小限に抑えたいものだから。 そう、完全に抑えに徹する闇紅といりすは除いて、残るリベリスタ達は、玲人に説得の言葉を掛ける。 「よォ青柳の弟さん、助けに来たぜ」 「あ、有難う」 間一髪の所で助け船を出してくれた事実に感謝して、玲人は暖簾達におずおずと軽く頭を下げる。しかしすぐに、その表情を曇らせた。 「……アーク、なんだね。兄さんから話は聞いた事がある。じゃあやっぱり、兄さんはもう……」 レナーテが、事情の説明に必要かと身分を明かしていたのが幸いしたか。玲人も矢張り、アークの介入によってある程度、最早兄が助からない事を、理解していたようだった。 そう、理解はしている。それでも、討つ事が出来ないのは、彼の中には確かな迷いがあるからで。 完全な救済等、兄を討つ以上無理だろう。それでも、リベリスタ達は少しでも、同じ志を持つ仲間には、玲人には、前を向いて欲しいから。 「そう、察しの通り……残念じゃが、兄君はもう戻れぬ」 「……っ」 咲夜に頷かれて、玲人はその細く整った眉を顰めた。 その間にも、正士の刀は振るわれる。闇紅の面に向けて、それは降ろされた。 だが、闇紅も茫洋としているようで、見る所は見ている。小柄な形には大凡不釣合いな盾を掲げて、その一撃を受け止めた。受けるダメージも最小限に抑えられる。 それでも伝わる衝撃をその身に感じながらも、彼女は思う。 (「リベリスタの成れの果て……明日は我が身……かしらね……」) そんなものだ。そんなものなのだ。運命の寵愛何て、そんなものでしかないのだ。一度失えば、呆気無さ過ぎる程に掌を返される。 それが他人事だ等と、どうして言えようか。 しかし、それでも彼女は。 (「ま、どうでもいいけどね……」) 動じない。あくまで、自分は自分なのだから。仮定等どうだって良い。それが、災原闇紅の理念。 「まあ、布団蹴り上げて、如何のなんてのは曲りなりにも、剣士だろうし、なさ気かしら」 飄々とした笑みは崩さずに、分散の為数歩後退した闇紅と入れ替わって、いりすが前に出る。絶妙なバランスで、ちょっと後ろに蹴飛ばした邪魔な布団を、拓真が吹き飛ばしたのを視線だけで認めて、正士に肉薄する。防御の構えも抜かり無く。 「ところでさ。玲人君だっけか」 振り向かずに声を掛けられて、玲人が微かに反応したのが判った。いりすは続ける。 「君のお兄さんが、何を思い。何を願い。何と戦ってきたか。小生には解らないし、興味も無いがね。君は、そうじゃないだろう?」 弟である玲人なら。否、玲人だからこそ。今、初めて相対したいりす達アークのリベリスタよりも、良く知っている筈だと。 正士が、何を思い。何を願い。何と戦ってきたか。 誰よりも、知っている筈だろうと。 「お前さんの兄さんは立派“だった”」 暖簾のその言葉に、玲人はぐっと息を詰まらせた。 「でももう過去形になっちまったンだ」 正士がリベリスタであった事実。それは確かなものだ。けれど、運命が彼を見放した事もまた、事実なのだ。現実なのだ。 「こいつは間違い無くお前さんの兄さんに見えるだろうけども、中身はもう、お前さんの知ってる兄さんじゃねェンだ」 「それは……」 判っている。 判ってはいるのだ。 判っているけれども。 判っているからこそ。 玲人は躊躇うのだと、レナーテは思った。 (「相変わらず世界は理不尽で、救えないものも多いわね……」) 世界は、そういう風に出来ている。そうは思うけれど、何とも遣り切れない。 理解と納得は違うのだ。それでも、そういうものなのだと受け入れなければやっていけない世の中だ。 だからこそ、レナーテは誓いを立てる。 (「助けられるものがあるなら、助けましょう。繋げられるものがあるなら、繋ぎましょう」) 優しくない世界の中で、そうする事が、そう出来る事が、恐らくは生き物達に残された希望だから。 その為にレナーテは此処に来たのだ。 もし、世界が、運命が、人に掛ける情けなんてものを、僅かでも持ち合わせていると言うのならば。 (「救いがあるとすれば、既に『青柳正士』としての自我が残っていない事か」) 玲人は、正士を慕い、誇っていたと聞く。ならば正士もまた、玲人を大切に思っていたのだろう。 彼等の培ってきた年月を知らないユーディスでも、それは判る。 (「仮に自我が残っていたら、玲人さんを手に掛けなどしないでしょう」) 他の何が判らなくても、それだけは、判るから。 (「貴方に玲人さんを……弟さんを殺させなどしません」) ●啓示 「そっち、行ったよ」 「!」 いりすが、此処に来て初めて振り返ると同時に、そう告げる。袈裟斬りによって生み出された風の刃が、リベリスタ達を襲う。 レナーテが玲人を庇い、また自分より前に出ぬよう動いていた事で、標的が彼となる事は無かったが、カルナと暖簾の身を斬り刻む。 カルナと咲夜が分担して回復――特に咲夜が、冷静に状況を判断・分析、オーバーキルを防ぐべく声を掛けながらその役目を全うしていたお陰で、布陣に未だ穴は無い。 それでも、正士の一撃は変わらず、鋭く重い。楽観視しても居られない。 敵の動きに気を配りながらも、ユーディスは後方に居るのであろう、玲人に呼び掛ける。 「このままでは、貴方の兄は貴方を殺し、殺戮を続けます」 玲人が息を呑むのが判る。このままにしてはおけないという思いは、彼の中にもあるのだろう。 「正士さんにそんな事をさせたくありません。彼を止めたい――倒してでも」 だから。ユーディスは、頼む。 「玲人さん、私達に……彼を止めさせて下さい」 「――!」 玲人の顔から、血の気が引いていくのをレナーテは、咲夜は見た。 「……仮に私が正士さんの様になったとしたら、早く殺して欲しいと思います」 それは元リベリスタであった事からの罪悪感か。――否。 「ノーフェイスになるって事は、つまり今まで自分が色んなものを切り捨ててまで護ってきたものすら壊しかねない事だから」 崩界を食い止める為。その大義名分の名の下に、リベリスタ達は多くのエリューションを、アザーバイドを、時には人を、葬ってきた。 それを正当化するつもりは毛頭無い。それでも、殺し屋との謗りを受けようと、彼女達には戦うべき理由があったから。 レナーテにとっては、それは護る為の戦いであった。無辜なる人々を、そして自分自身の大切なものを。 正士にとっての、玲人である所のものを。 「……正士さんがリベリスタとしての仕事に誇りを持っていたなら……同じような事を思うんじゃないかと思います。それがどうかは、ずっと見てきた玲人さんが一番判るんじゃないでしょうか」 「……俺は……」 唸る玲人。咲夜がその横に並び立つ。 「このままであれば、兄君はたくさんのモノを殺めてしまうじゃろう」 望む望まざるとに拘らず。生前の絆にも拘らず。 「それは……リベリスタとして生きた兄君の、望むところではなかろうて」 リベリスタとして。兄として。 「今の兄さんを置いていきたくねェンだろ、止めてェンだろ」 「……ああ」 頷く玲人に向き直って、暖簾は静かに、しかし力強く説いた。 「だったらお前さん、きっともう分かってるよな」 「……」 「兄さんの事止めてやりな」 ●祝福 玲人が頷く。 それを、リベリスタ達は確りと、その目で確認した。 そして、最前線で幾度も攻撃を受けながらも、戦線を維持していた闇紅といりすにもそれは告げられる。 「ん、ようやっとこっちから仕掛けられるのだね? じゃあ、余り時間も掛けてられないし。攻撃開始と行きますか」 いりすが、認識と同時に仕掛けた。 一瞬にして正士の死角へと回り込むと、黒き魔の力をその魔剣に宿し、奪命の一撃をその背に刻み込む。 「面倒な時間はもう終わり……さっさと片付けるわ……」 ワンテンポ置いて、闇紅もその小太刀を閃かせた。小刻みに、流れるように銀の煌めきは振るわれ、確実に正士の力を削ぐ。 咆哮。兄であったもののそれに、玲人はぐっとその拳を握り締めるけれど、リベリスタ達を止める事はしない。 「……俺にも、尊敬出来る人が居た」 ぽつり。拓真が、口を開く。 「あの人が居ればこそ、今の俺がある。……子供の頃の俺には、あの人が全てだった」 尊敬する理想の姿。彼は――拓真の祖父は、必ずしも最強だった訳でも、正義であった訳でも無い。 唯、拓真にとっては絶対的な存在だったのだ。 最強でなくとも、正義でなくとも、強く、正しくあろうとしたその生き様は、確かに今の拓真を形作っている。 「青柳玲人、お前に彼を殺せと……俺は言えない」 それがどれだけ残酷な事なのか。 自身がその立場に置かれた時、それを考えてしまうからこそ。 「だが、確実に言える事が幾つかある」 戦う仲間達の姿を、玲人と共に見据えながら。 「――戦い終えた戦士に、安らかな眠りを」 もう、戦う事は無いのだ。望まぬ破壊を、殺戮を、繰り広げる必要は無いのだと。 その為にも、正士を討つ為に。ユーディスは聖なる光輝の剣を振るう。 「さァ往くぜマリア――Sweetdreams!」 弾丸の代わりに、見えざる意志を籠めて。暖簾の放つ弾丸は唯、それはもう真っ直ぐに、正士だったものへと飛来する。 「ブチ抜いていく――ホラこっち見な、まだ倒れてやンねェぜ」 思惑通りに袈裟斬りが放たれる。それによって生じた傷は、呪詛は、咲夜が癒す。 レナーテと共に、玲人の方に気を配りながら。 「……本来ならこれは、正士殿の役目じゃろうが」 それが出来ないのなら、同じ兄と言う存在として、自分がその代わりを負おう。 そう決めて、咲夜は弟である存在を、玲人を、護る。 正士も黙ってやられている訳ではない。運命の寵愛こそ失ったとは言え革醒したその身体能力は半端ではない。 それでも、まだ戦線は持っている。まだやれる。 息を呑む玲人に、拓真は改めて向き直る。 「必ずしも、その遺志を継ぐ事がその人が本当に望んだ事だとは限らない」 結局、それは遺された者が決めるしかないのだ。 「だが――俺は、こうなった今に後悔は無い。あの人こそ、俺の誇りだったのだ。ならば、誇りこそすれ……後悔を得る事等、どうして有り得よう」 「!」 どんな道を選び取ったとしても。 本当に、誇っていたのならば。それを、憶えているのならば。その誇りを忘れる事は、無いだろう。 「俺からは、それだけだ。……後の選択は自身で選んでくれ、青柳正士が貴方に伝えたかったものは、此処にある筈だ」 自身の胸を叩いて示す拓真。そして、今一度、その剣を握り、構える。 (「俺はもう歩み出しているんだ、未来を切り拓く、その為ならば……!」) 最早小手調べは不要。 持てる全力を以て――打ち倒すのみ! 拓真が、吼えた。 正士の剣と、正面からぶつかり合う。 気魄と気魄が、ぶつかり合い、せめぎ合い、交差する。 そして――遂に、拓真の刃が、正士のそれを、派手に弾き飛ばした! 「今じゃ!」 「畳み掛けるとするか」 「ええ――討ちます!」 咲夜が、暖簾が、ユーディスが、一気に仕掛ける。 そして最後に、振り翳された、拓真の刃が。 皆の振り絞った、押し寄せる力をその一撃に乗せて、共に――正士の身体を、貫いた。 正士の遺体は、事情を知る葬儀屋に依頼し、葬って貰うと玲人は言った。 リベリスタ達が彼の為に出来る事は此処まで――なのだろうけれど。 ぽんぽんと、玲人の背を叩く者が居た。唯一の肉親を喪った彼の、励みとする様に。 「……良ければ、アークに来ると良かろう。そなたが、兄君と同じ道を進むのであれば、手を差し伸べてくれるものはたくさんおろう」 咲夜の誘いに、ユーディスも頷いて。 「革醒したならば……貴方も道を選ばなければならないでしょう。兄の遺志を継いで戦う意志があるのなら……」 玲人は力無く、しかし何処か肩の荷を下ろしたように、微苦笑を浮かべて。 「……考えさせて貰っても良いかな。……でも、そうだな。多分皆さんとはまた会う事になる気がする。前向きに検討してみるよ」 そんな彼に、暖簾は正士の剣を手渡した。 「お前さんさえ良けりゃあ継いでやったらどうかね、兄さんの意志をよ」 ンで気が向きゃアークに来りゃ良い、と。 「仲間が居ンのも良いもんだぜ」 「……有難うございました」 軽く頭を下げる玲人に別れを告げて、リベリスタ達は帰路に着く。 「正士さんの想いは、何らかの形で継いで貰えると嬉しいわね」 レナーテのその言葉に、ふむ、といりすは茜空を仰いで。 「思いの行先を決めるのは、何時だって遺されたヤツさ」 いりすは知っている。信じて。預けて。任されて。全力で事を成す。それが、『人間』なのだと。人は独りでは生きられないのだから。 「尤も。小生は人でなしの化け物なのだがね」 そんないりすは、そして玲人は、何を受け継いでゆくのだろうか。 「――さあ、なんだろうね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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