● 不出来な未来でも、善かったんだ。 世界が私たちを嫌っていても、 運命が私たちを拒んでいても、 それでも、唯、共に在れる事だけ。 それだけが、ただ、幸せであったのに。 「――――――」 かちん、と、音がする。 きらきらの剣を鞘に収めて、暗くて、真っ赤な視界の中、唯その人は、私を見ている。 ……答えを聞こう。 そう、言われた気がした。何を問われたのか、私は覚えていなかったけれど。 けれど、 けれど。 伸ばされた手が、其処にあって。 伸ばして欲しかった手は、もう、何処にもなくて。 「……ぁ」 ゆら、と。 覚束ず、さまよっていた手が、かつん、と、何かに触れる。 大きな爪を生やした、虎のような、手。 人一人を包めてしまいそうなその手の主を、たいせつなひとの顔を見て、 私は、今更になって、涙を零していた。 「あ、ぁ……」 どうすれば、良かっただろう。 どうすれば、善かったんだろう。 不出来な未来でも、善かったんだ。 世界が私たちを嫌っていても、 運命が私たちを拒んでいても、 それでも、唯、共に在れる事だけ。 それだけが、ただ、幸せであったのに。 ――信じたかった『ひと』は、それすらも、許してくれなかった。 ……気づいたら。 伸ばされた手を、私は掴んでいた。 縋れるものがないのなら。 縋るほどのものなど、捨てたいのなら。 この、何もない人に、全てを擲ってしまいたかった。 それだけの、理由で。 「……」 なまえは? そう、聞こうとして。 喋るほどのコトバを、いつの間にか、失っていたことに、気づいた。 けれど。 「……常野」 その人は、私のこころを、当然のように、受け取っていた。 「……常野、剛志だ」 ● 「ノーフェイスが出現した」 淡々とした言葉と共に、依頼の説明にはいるのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 瞑目と共に紡がれるコトバは、今日も感情を見せず、それ故に。 何処か、何故か、物悲しくて。 「フェーズ2。どちらかというとE・ビーストとも取れる外見に変質した『彼』は、とあるフリーのリベリスタチームに倒された」 「……? それが?」 「問題は、ここからだった」 ふう、と息を吐いたイヴは、それと同時にモニターを展開した。 映っているのは、とある民家の一室。 夜方なのだろう。月と街灯の光を窓から漏らして、其処には照らされるものが多く存在した。 例えば、血に浸された化け物。 例えば、肩で息をする戦士。 例えば、呆然と座り込む少女。 例えば、其れを守るように佇む――剣士と、少女達。 「……」 何時か、 彼の剣士の、その姿を、悲嘆に摩り切れた顔を、見たような気が、した。 「倒されたノーフェイスには、一人の妹が居た。 彼女は幼い頃から兄以外の身寄りが無く、故にその兄は、幼くとも兄なりに彼女を一生懸命育て続けてきた」 「……けれど、その兄はノーフェイスとなって、死んだ」 「うん」 陳腐な話だった。 よくある話だった。 ただ、それが『神秘に触れる者』に於いてのものでなかったのなら。 この話は、それで済んだであろうに。 「……兄の変貌自体は、彼女も理解していただろうにね。それを理解しても化け物と呼ばず、傍に居続けただけ、彼女はちゃんと愛情を以て育てられたんだと思う。 それでも――それは、『倒さなければならない存在』であったのなら」 そうして、 少女は、こわれて、くるって、なくした。 たいせつなものを、 たいせつなじぶんを、 たいせつな、なにかを。 「フリーのリベリスタ達は、その場で彼女に記憶操作を行い、撤退する予定だったみたい。 けれど、そんな――少なくとも、道徳的には、ね――理不尽な結末を、『彼』は許さなかった」 「……このままだと、どうなる?」 「敵は『彼』――『執行者』常野剛志に加え、『思考(フギン)』『記憶(ムニン)』と呼ばれる双子のフィクサードを連れて行動している。 リベリスタ達は合計で五人。リソースはほぼ全て使い切って、フェイトも消費済み。数の差があっても、そんな状態で勝てるわけがない」 「……」 苦悩、だろうか。 使命感と、リベリスタなら抱く、理想との軋轢の形。 此度の戦場は、正しく、それを体現したような。 「……お願い、ね」 イヴは。 『見るだけの少女』は、それに何も応えられず。 ただ、祈ることしか、出来なかった。 ● 「ういーす。そーいうわけでちゃちゃっと済ませてきてくださいな常野様! まあ今回はテストとしては楽な方かと!」 「……此方はお前達の取引相手に護衛を依頼されたのだがな」 「うちのあるじ様方兎に角リベリスタ嫌いですからねー。今はフィクサードとは言え、貴方を早々信用できないって事でございますよ。うん」 「……面倒なことだ」 「こっちも流石にそれじゃ非礼が過ぎるからってその子ら貸したので、それでどうぞ一つお許しを。そいでは!」 「……借りを返すには大きすぎると思うんだがな、『ソードマスター』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月17日(月)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 振るわれた剣は断生の其れであった。 無様に転がる五人の内一人。その首を正確に狙い、刎ねようとしたその軌道は、しかし。 「お節介で悪いが、邪魔させて貰うぜ」 「――――――ッ」 突如、乱入した『復讐者』 雪白 凍夜(BNE000889)が、その腕を犠牲とすることで止められた。 骨まで至る剣、黒の装束を易々と切り裂いた其れを血が濡らすも、傷んだ当の本人は苦悶の中に笑みさえ覗かせていて。 「……アークの、リベリスタか」 「如何にも。で、ある以上、軽挙がヌシの苦境を招くことは解るであろうよ。常野?」 対し、笑うこと一つ無く、現れたのは『必要悪』 ヤマ・ヤガ(BNE003943)。 彼ら二人だけではない。残る影、合計六つが常野剛志を始めとした三人のフィクサードの前に立ち塞がり、その存在自身を以て彼らの動きに牽制を掛ける。 が、その中で、一人。 「常野様、お久しぶりです。まおです」 「……」 「また会えたのとで、まおは嬉しいです。 今日はリベリスタ様達に撤退して頂くお仕事をしに来ました」 毒気など一切無く、行儀良くお辞儀をする『もぞもそ』 荒苦那・まお(BNE003202)の姿に、彼自身も小さく鼻を鳴らす。 武装の一切を幻想纏いに収め、警戒も何もないその態度は、少なくとも彼の態度を軟化とは言えずとも、硬化させることを阻止した事は確かであろう。 「記憶操作が許し難いのは分かるよ。でもそれは未遂だ。 お仕置きするのは早いんじゃないかな、常野剛志さん?」 何処か悪戯げに語る『0』 氏名 姓(BNE002967)然り、 「一応、話だけでも聞いてくんない? ああ、リベリスタのご一行さんも動かないことをお勧めするよ? 信じるかは自由だけど、そっちさんが死なないように来ただけだから」 淡々と告げる『ハティ・フローズヴィトニルソン』 遊佐・司朗(BNE004072)然り、 見ても解るとおり、リベリスタ達が最初に取った行動は『一先ずの停戦と交渉』である。 常野剛志、元リベリスタであるという彼の経歴と、本依頼の肝心があくまで現在呆然と座り込んでいる少女の心の行き先である以上、舌鋒で相手を止められることが出来れば、被害を最小とすることも可能、という彼らの考えがその理由だった。 が、 「断る」 「……!」 対する当人の返答は、予想を超えて手厳しいものである。 「……理由は?」 「言わねば解らんか?」 憮然とした表情が向かう先は、『奔放さてぃすふぁくしょん』 千賀 サイケデリ子(BNE004150)。 正確には、彼女が治癒を施そうとする、その所作に対して、である。 「……駄目ですかね?」 「相応を以て返しても構わんなら別だがな」 にべもない返答に、肩を竦めて経典を閉じるサイケデリ子。 形状的には自らの身体で隠せるサイズの経典を以ての隠れた治癒。だが当の本人はそれすらも――恐らくは何らかの非戦能力で――見通した以上、無茶な行動は行えない。 ――リベリスタ側としては、自身らが説得を行う最中にフリーのリベリスタ達の回復、攻撃、逃走態勢の構築を行う予定であったが、それは流石に都合が良すぎる。 個々の力量に差は有れど、手数の多さでカバーしきれるそれらを以てすれば、リベリスタとフィクサード勢の戦力はほぼ互角である。 で、有るが故に、現状以上のリソースの確保を、敵方が許す道理もない。 (……嗚呼、本当に厄介なケースだ、が) 嘆いていても始まるまい。そう嘆息した『カゲキに、イタい』 街多米 生佐目(BNE004013)は、武器を幻想纏いに収め、両手を挙げて敵意がないことをアピールした。 他の面々も同様にして、だが其れに応じて剣を収めた剛志は、その柳眉から険を落としてはいない。 錆び付いた歯車は軋みを上げながら、それでもゆっくりと廻転を始めた。 ● 「もし目の前で大切な人が死んだとして、その瞬間の記憶がないってどうだろう」 訥と呟いたのは、『闘争アップリカート』 須賀 義衛郎(BNE000465)。 他の仲間達が剛志との会話を勧める最中、彼はリベリスタ達を相手に自らの主張と、願いを伝えるべく話しかけていた。 「オレは良い気分ではない。けど、君たちが君たちなりに思うところがあって、彼女の記憶を操作しようとした理由があるんだろうとは理解できるよ」 「……。あんたは」 「だから、話して欲しい」 掛けられた言葉を止めて、義衛郎は吃と言う。 「記憶操作を行おうとした理由を、彼に。……相互理解が重要だろ? こういうのって」 言った後、戯けたように、少しばかり冗談を交えた義衛郎に対して、リベリスタは言った。 「あんたは、何を言ってるんだ?」 「……何、を?」 「言葉通りだ。あんたは其れが原因で、あの子が心を壊しても、俺達に対する復讐鬼になったとしても、それでも何の対処もしないべきだと言いたいのか?」 「……」 「第一、俺達はリベリスタだ。『神秘は隠匿すべし』という定義は、可能な限り守る義務がある。 あの子が今回の件を受け入れ、口封じに納得したなら記憶操作の必要はないかも知れない。だが、今のあの子が本当に、俺達の行為を納得してくれるとあんたは思ってるのか?」 舌鋒に容赦はなかった。 義衛郎は返す言葉を失い、リベリスタの側は懐疑的な視線を隠すことなく向け、決定的な問いを放つ。 「あんた、本当にリベリスタか?」 ● 硬質な音が、二度響く。 武器を幻想纏いに収納したアークのリベリスタの中で、其れすらも行わない者が二名、居た。 「……何の真似だ」 「武器を抜かないで欲しいと言ったのは私だしね。これくらいは必要だろう?」 「別に手前だってそう利口じゃねえだろ」 姓が捨てた武器、凍夜が捨てた幻想纏い。 それに対して無貌を変えることなく、剛志は視線をリベリスタ達に向け直す。 「……貴様らの要求は何だ?」 「一つだけ。彼らに対する『報復』を、止めて欲しい」 生佐目の言が、静穏な室内に響き渡る。 傷ついたリベリスタ達は、その言葉に「何故」と視線で問い、反論を上げかけたが、 「はいはい、体力も無い状態であのヒト達に攻撃なんてしないでくださいねー? ……あのヒトの名前は常野剛志。プロトアークの執行者、ですよ」 「っ!!、あんたは……」 拳をとんと抑えたサイケデリ子によって、その檄は抑えられた。 回復等のサポートや攻撃態勢が拒まれた以上、リベリスタ達に出来ることは交渉役を除いて限られている。 ヤマは一歩退いた状態から戦場を観察し、司朗はただ剛志の傍に留まっている双子のフィクサードに視線を向け続けている。 「……?」 双子は、その視線に気づいたように、彼の側へ顔を向けた。 塞がれた瞳が彼を捉えることはない、筈だが――正確に此方を『見ている』二人の姿に、彼は言い様のない不快感を覚える。 「……先に言おう。俺が今回受けた依頼は、此処の少女の確保だ」 それらにも注意を払いつつ、剛志もまた淡々と言葉を返した。 「従って、彼奴らの殺害はその条件には含まれない。 俺が奴らを殺す理由は――単純に、今の俺の主義を殺すものであるという理由だけだ」 だが、それこそが、今の彼の生きる柱なのだ、と。 リベリスタ達は、其れを知っているが故に、無碍に取り入ることはしない。 「なあ『執行者』手前が此奴らをどうしても殺すってんなら、そりゃもう手前の勝ちだ」 「……」 「でも、本当にそれで良いのか。 殺して、黙らせて。それで手前の守ろうとしたもんは救われるのか?」 先に口火を切ったのは、凍夜。 『復讐者』と言う自身に近い性質を持つフィクサードに対して、己が言葉よ響けと叫ばん限りに、凍夜は自らの思いを叩きつける。 「世界を守る為に掲げた理由。その子の兄は、その礎に、犠牲にさせられた。 けど、『それって己を悪者にしたくないだけでしょ?』って、思う時があるよ」 姓も、同様。 武器を捨てた位置からとんとんと歩いて、歩みの先には、泣き濡れて呆けた少女の姿。 「お嬢さん。 お兄さんの事、存在が許されないとか言われて傷ついたと思う」 取り出だしたハンカチが、涙の残滓をすっと拭った。 光のない瞳が其処に向けられれば、対する姓もまた、穏やかな笑みで言葉を放つ。 「私はお兄さんは悪じゃないと思う。 彼は誰も殺さずに済んだ。罪は負ってない」 「……そんな、ことは」 「けどね」 どうでもいい、と。 返され掛けた言葉を制して、姓は膝を折って、座り込む少女と目線を合わせた。 「もし自分が恩寵を失った時は、躊躇い無く殺して貰いたい。 『罪無き者を殺す前に』、『誰かを悲しませる前に』、罪を負って悪となるのは嫌なんだよ」 「――――――、」 語る言葉は、自らの事ではない。 君のお兄さんも、そう思ったんじゃないの? 本質は、きっと届いたのだろう。 失せた涙を、二度ぽろぽろと零して、少女は声を上げる。 何よりも悲しく、辛く、 それでも、人としてのココロが込められた、嗚咽を。 ● 「……救い、か」 少女の泣き顔を見た後、フィクサードは訥と呟いた。 返された言葉は、自虐のような、それ。 「久しく、考えもしなかった言葉だ。 ああ、救いか。救いになるか成らないかなど、考えたこともなかった。此はただ乱暴に簡潔に示すのであれば、俺が『気にくわなかった』から殺す。それだけの理由なのだから」 「……っ」 凍夜が、彼に向き直る。 自嘲。それを如実に表した、歪んだ笑みを浮かべる剛志の顔を、彼は見た。 「奴らを殺して何になる? 俺が満たされるだけだ。 此の少女すら喜ぶまい。否、今殺された少女の兄を除けば、喜ぶ者など誰一人居ないであろうよ」 「過ちは刃でしか、殺すことでしか正せねえのか!? そいつが嫌で、手前は世界を捨てたんじゃねえのか!」 「……奴らの行動はあくまで世界総体から見たら『善』だ。正すというその言葉は間違っている。 だが、その上でその言葉を借りるのであれば、そうだな」 視線が、フリーのリベリスタに向けられた。 「正すことは出来ずとも、これ以上の歪みは抑えられよう。 今後、奴らが同じ事を行わない可能性は、決して低くは無いのだからな」 ……リベリスタ達は思い違いをしていた事が一つある。 彼――フィクサード、常野剛志は、『少女のためにだけ』リベリスタ達の殺害行為を行うわけではなく、『自身のためにも』リベリスタ達の殺害行為に及ぶという点である。 故に、凍夜は『少女を守る彼』に対して言葉を発しており、 姓は、少女自身に殺害の停止を語らせる為の言葉を告げようとしてた。 けれど。 「俺はフィクサードだ」 常野剛志が、言い放つ。 抜き放たれた剣は曇りしか無く、それは彼の心をそのまま投影したようにすら思えて。 「自らのために悪を為す。それがフィクサードの定義であるならば」 「……不器用な生き方してるね。常野さん」 苦笑のように、司朗が言った。 戦闘の気配を察して、癒し手であるサイケデリ子をかばえる立ち位置に至った彼は、そうして次の言葉を紡ぎ出す。 「否定する気はないよ、ボクもたった一人ために戦場歩いてるわけだし。 それでも――ボクにだって『出来れば』程度の寛容はある。君はそれを働かせることが出来ないの?」 「それは『嘗ての俺』の時に、捨て去った感情だな」 頭を振る彼に対して、司朗は哀惜のような感情を、微かながらにも抱いた。 「……テストと、言うておった故な。退かぬとは思っておった。 まあ、やりたくない仕事をし続けた男だ。受けた仕事を気分で投げるとは思えぬ」 「理解しているのなら、有難い」 「ああ。だがよ、常野」 小さく笑んだヤマが杖を構えながら、静かに、静かに呟いた。 「余り無茶して死んでくれるな。仕事が噛み合っておる故対立はするが、ヤガはヌシの怒りが好きでの。 自分は正しいと胸を張って殺す輩よりは、余程好みだ。殺しは、悪ゆえな」 「……何れであろうと、その本質が悪であることは変わりがないだろう。俺も、お前も」 「それを自覚できる分だけ、ヌシは真っ当だと言うことさ」 年の功とでも言おうか。嘆息した剛志に対して、ヤマはからからと小さく笑った。 「……思考(フギン)、記憶(ムニン)。退け」 「………………」 「退け、と言ったぞ」 繰り返す剛志の言葉に、双子は互いの顔を見合わせた後、とことこと部屋を去っていく。 怪訝な顔を浮かべた一同に対し、剛志は次いで言葉を告げた。 「其処の男」 「……なんだ」 「一分待つ。其奴らを連れて早々と逃げろ。追いつけば殺す」 告げる相手に凍夜を選んだ理由は、彼の手に握られるべきものが無いことを知ったが故だろう。 些かの沈黙、その後に少しばかり皮肉げな笑みを浮かべて、彼はリベリスタ達を連れて行く。 「行くぜ」 「おい、待て! 一人になった以上、協力してあいつを……!」 反駁したリベリスタに、ぱん、と軽い音が響く。 「空気を読めよ。彼奴の殺しの理由、全く解らないなんて言えないだろ?」 「……ッ」 義衛郎の平手に激昂しかけたリベリスタであるも、自身の状態を思い出したリベリスタは、それを以て動きを止めた。 彼らは確かにリベリスタであっても、その思考、方針はアークと同じでない。 ただ自身の理念によって、リベリスタを殺害しうる可能性を秘めた以上、眼前の常野剛志はその出自や動機によって許されるような存在ではないという彼らの考えを、しかしアークのリベリスタ達は情によって押しとどめたと言うこの状況は、正しく彼らの怒りを掻き立てていた。 仮にサイケデリ子が、姓が回復を行っていれば、此処で一悶着が発生したかも知れないが、そう言う意味では剛志の却下は或る意味正解だったとも言えるだろう。 大人しく凍夜に連れられていく五人のリベリスタを見届け、きっかり一分が経った後。 「此処からは、此方の好きに行動させて貰う」 再度、剛志が剣を構えた。 「お前達が耐え切れれば此方は奴らを負い、一人残さず殺害する。 耐え切れれば、此方の負けだ。大人しく依頼にのみ従い、撤退しよう」 そう語る彼であれど、現在に於いて戦力差は七対一である。 結果は分かり切っているとまでは言えずとも、分がどちらに偏っているかなど、自然のこと。 「一応聞きますが、これは本気で言ってますか? それとも単なる振り?」 「上等だ。やれるものならやってみろ。無名」 「……良くも言ってくれますね。 駆け出しにだって……矜持ってもんがあるんですよっ!!」 もてあましたトラックのキーを、ちゃり、と弾いて。 サイケデリ子が構えた経典が光を放つ。 其れが、幕間。 児戯に等しい諍いの、始まり。 ● 「……聞きたいのですが、常野様はこの子をどうするつもりですか?」 時は、そうして後に進んだ。 傷を負った彼と、総体としてみればそれ以上に負傷したリベリスタ達。 未だどうにか立つことが出来ているまおが、其処で剛志に問いを向けた。 「学校のお友達や、家族の知り合いの人から、無理矢理引き離してしまうのでしょうか。 この方は常野様にとってヒトですよね。それなら、どうかその心がこれ以上壊れないように護ることをお願いしちゃっても、いいでしょうか?」 ――視線を向けた先には、怯えた表情で剛志の傍らに在る少女が居た。 先ほど、自身を説得した姓との殺し合いを見た(戦場から引き離す者が居なかったこともあり)以上、この人物は悪人ではないのかという懸念は、未だ彼女の思考から離れはしないらしい。 だが。 「……アークならば、此奴には身寄りがないことは知っているだろう。 其方が預かれば、大凡三高平の学園に通う事になる。此方で適当に身元引受人をでっちあげ、此の家で独りでも生きていけるようになるまで、俺が預かるだけだ」 嘆息と共に剛志が告げ、少女の手をゆるりと握った。 「常野様は、この方を誰かに引き渡すつもりではないのですか?」 「俺が受けたのはあくまで『確保』までだ。その後の扱いまでは指定されていない。 仮に奴らが検体にでもしようものなら、殺す。それだけのことだ」 子供が言うような屁理屈に対しても、まおは「そうですか」と、真面目に頷いた。 「常野様だったら、この方をもう二度と、リベリスタや神秘の事件に利用されたり、傷つかないようできると、まおは信じてます」 「……期待には、添おう」 言って、剛志は歩き出す。 双子のフィクサードと共に、夜の闇に消えようとした彼らを、けれど、最後に。 「常野剛志」 生佐目が、止めた。 ぴたり、止まる歩調であるも、振り返ることはない。 言葉を待っているのだろうと思った彼女は、其処で彼に問うた。 「殺さずの剣に業を持ちつつ、誰かを断罪しようとする、今のお前の姿勢には、どこか不可解なものを感じる。 じっくり止めを、という趣味を持っているようには見えないのだが?」 「……下らない話だ」 生佐目の言葉に、剛志は笑った。 幾度となく浮かべた、あの、自嘲の笑顔を。 「理想を求めていた頃に欲した力が、理想を失った今になって完成した。故に、其れを『利用』している。それだけの話だ」 ――結果として、リベリスタは今回の依頼を成功に導いた。 それと同時期、某街で発生した『殺人、失踪事件』は暫しの間騒がれることとなったが、幾日かの後に沈静化を辿ることとなる。 全てが完全と言えずとも、それは確かに、一つの平穏な終結だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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