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<黄泉ヶ辻>死戦交叉路

●CaseB
「これで、契約は満了と言う事だな」
「思いガケず随分ト長い付キ合い二なッテしまッタけレド、君の事ハ嫌いジャなかッタヨ」
 黒い魔人と、黒い怪人。大柄な体躯をコートで包む男と、タキシード姿のピエロが相対す。
 過日、欧米よりの響いた緊急の国際電話。その後に方々で発生し始めた『生ける屍』の目撃証言。
 北欧に居を置いた事のあるフィクサードにとって、この2つを結び付ける事は難しくない。
 53年前当時、黒い男はともかくも、狂える曲芸師は既に神秘の世界に身を浸していたのだから。
「混沌再来と言ッタ所かナ。二つ目ノ鐘ガ鳴った以上、ソろソロ監督がやっテ来ル。
 前座でアル僕ノ演目もそろソロ御仕舞いダ」
「歪夜――バロックナイトの“指揮者”か。死者を操ると言う意味では先達と言う事になるのだろうが……」
 呟く『屍操剣』に、顔半分をピエロの仮面で包んだ男が嘆息する。
 こんな極東の空白地帯に居れば、嫌が応にも視野は狭まる物だ。
 であればその恐れを知らない発言も頷けようか、けれど歪夜の使徒は――アレは、違う。
「興味ガ有っタとシテも、対面はシナい事をお勧メスルよ」
「是非も無い。元より俺の研究は一つの結果を見た。
 これより先は精々世話になった分の義理を返すとしよう」
「ソレは、『黄泉ヶ辻』らシク、かナ?」
 言も無く首肯するその仕草を裏付ける様に、暗い部屋の隅では一人の少女が鉛筆で何かを描いている。
 見た目健康そうな中学生ほどの姿。特に可笑しな所は見られない。
 これが3年もまるで動かず寝たきりだった病人だと、誰が言われても先ず信じまい。

 けれど、それは事実だ。彼女――黒崎綾芽の脳は、一度死んだ。
 それをもう一度動かす為に、黒い男。『屍操剣』黒崎骸は己の全てを賭して“死者の蘇生”の研究に打ち込んだ。
 その結実として、今こうして少女は動いている。生きている様にすら――見える。
 実の父親としては感無量と言った所だろう、道化である所のもう1人にはまるで理解出来ない物であろうとも。
 だが、その代価は決して少なくは無い。
「……パパ」
 少女が声を上げる。口調は拙く、酷く子供っぽい。小学生の低学年の様なそれ。
 そして如何にも目立つピエロを完璧に無視して、彼女は自らの父親に視線を向けた。
「お腹すいたな」
 ――代償。止まった脳を、死んだ細胞を蘇生させるにはそれを“別物に組み替える”必要が有った。
 その代替物を魔術的に制御する。その技術の確立の為に屍操剣は3桁を越える人間を犠牲にした。
 結果として、彼の“蘇生”は成った。死して直ぐか、心臓の動いている死体にしか効果が無いとは言え、
 それは未だ医術の至る事無き地平。神を冒涜する異界の技術である。
 だが、その施術は患者に一つの嗜好を絶対的に強制する。
 “憑鬼”と呼ばれるその細胞は、宿主の同族の血肉以外を栄養として受け付けない。かくて人は鬼へと堕す。
「……ああ、そうだな。そろそろ夕餉にしよう」
「まァ後ハ好き二すルと良イヨ。精々聖櫃に気ヲ付けなガラネ」
 男より受け取った巨大な黒い剣。それを引き摺る様にして、道化は身を退ける。
 残った親娘は手を握り、歩み行く先は摩天楼。今宵も、狩りの時間が帳を落とす。

「……サテ、準備は整ッタ」
 手にしたのは研究の成果。死せし者を起こす禁忌の技法。
 如何なるリスクが有ろうとも、それを欲して身の重み程の金を積む者は後を絶つまい。
 彼の役割はあと1つ。それは実は必要とは言い難く、或いは唯の我侭だったのだけれど。
「ソレで君達はどうスルのカナ、英雄の雛諸君?」
 災厄の踊り手、喜劇に舞う不吉の道化。悪夢を詠う曲芸師は――神の目へ向けそう問い掛ける。

●CaseR
 彼は瞬き、周囲を見回す。暗い部屋、蝋燭が並ぶ部屋。
 自分はどうしてこんな所に居るのか。まるで分からない。理解出来ない。
 けれど幾つか分かる事がある。彼の傍に、何時も何も言わなくとも居る筈の黒い大きな影が居ない。
 そんな事は有り得ない。彼が彼女を守る為に、自分の力はどうしようが必要な筈だ。
 別に利用し合う関係でも良かった。それが贖罪だと思っていた。けれど、その彼が居ない。
 最後の記憶は確かそう。あの“曲芸師”と合うと言って隣の部屋へ向かったその真っ黒の後姿。
 赤いジャンパーを羽織った少年。『預言者』赤峰悠は状況と記憶を組み合わせ憶測を立てる。
 そうか、彼は裏切られたのか。そうか、自分は彼と引き離されたのか。
 2つの符号は何ら共通項のある出来事では無かったにも関わらず、続いて頭に浮かんだのはまるで。
 長い推理小説の犯人が暴かれる直ぐ直前の様な、そんな予定調和めいた閃きだった。
 そうか、僕はここで死ぬのか。
 そう思い至るのを待っていたかの様に、部屋で唯一の扉が開く。其処に居たのは女。
 側頭部に穴の空いた、中年の女が立っている。それを見て。ああ、と悠は呟いた。
「母さん」
 それは彼が見殺しにした人。それは彼が殺した家族。それは彼の罪の証明。
「あなたの失敗は、僕を生んだ事だよ」
 薄ら寒いほどに、他人事の様な言葉が口を衝く。可笑しくなって喉の奥が引き攣る。
 涙が滲む。結局、こうなるんじゃないか。
 見れば、ボロボロの布に身を包んだ母親は所々腐敗していた。それを“憑鬼”が無理矢理動かしている。
 酷い有り様だった。余りにも哀れだった。けれど、

 全部自分が悪かったのだと、そんな事とっくに分かっていた。
 誰を犠牲にしても生きたかった何て、そんなのただの我侭だったんだって分かってた。
 いっそ生まれてこなければ良かった。そうすれば母親にだって他の未来が有った筈なのに。
 ずっとそうだ。いつもそうだ。彼はただ生きたいだけなのに。それによって多くの人が死んで行く。
 まるで死神か疫病神ででも有るかの様に、彼と関わった人間は直ぐに彼の『預言書』から姿を消す。
「皆そんなに、未来が欲しいの?」
 赤峰悠には分からない。
「皆そんなに、安心が欲しいの?」
 預言者には分からない。
「皆そんなに、正解が知りたいの?」
 幼い彼には、分からない。
「馬鹿みたいだよそんなの。何時死ぬか何て分かっても、良い事何て一つも無かった」
 けれどお互い様だ。未来を知る事が出来る人間の苦悩など、誰にも分かりはしない。
 殺したく無かった何て、言う資格は無い。嫌いじゃなかった何て、言って良い理由も無い。
 でももし彼に未来を見る力なんて無くて。
 近い未来父親に去られた母親に、首を絞められる結末を迎えていたとしても。
 もしかしたらその方が、
「……もう、疲れちゃった」
 ずるりと、母親の屍骸が足を引き摺り距離を詰める。
 “憑鬼”に憑かれた生き物が死体だった場合、変質するまで1週間。動き出すまで約10日。
 見た所動きは未だ鈍い、処方後9日半と言った感じだ。となると、まともに動き出すまで後数時間。

 扉は、生ける屍と化した母親の向こう側にしかない。
 フォーチュナである悠が彼を掻い潜れる可能性は――ほぼ、皆無。
「……お姉ちゃん」
 呟く声は、何処か寒々しく。虚ろな眼差しは老爺の様な笑みと共に。
「これでも、未来は変えられる?」
 開かれた預言書の自分のページ。そこに記された文字は『終』の唯一つ。
「これでも、僕は生きていて良いの?」
 力を抜き、壁にもたれる。ずるりと更に一歩、死した女が歩みを進める。

●CaseX
“そこが、中間地点。そしてターニングポイントだ”
 東北地方、とある小都市の一角。
 普段ブリーフィングルーム外――或いは三高平外ではまず聞く事の無い声が響く。
“平凡で退屈な日常、けれど少し何時もより多くの物に目を向ければ、
 生きてるって言うのはドラスティックにドラマチックだよな、良くも悪くもさ”
 こんな言葉を吐く人間が『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)以外に居る訳も無く。
 では、逆に何故リベリスタ達は何時も通りブリーフィングルームに居ないのか。
 理由は明快である――万華鏡がこの一件を感知した時には、状況は余りにも切羽詰っていた。
 猶予がまるでない。逆に言えば何故其処まで探知が遅れたのか。
 この場には『神の眼』を阻害する『預言』が関わっていたからに他ならない。
“状況は酷く不安定だ。ただ現時点で分かってる事は2つ。
 まず其処から車で30分程の位置にあるショッピングモールで、とある“アザーバイド”が暴れる。
 これの手引きをしているのは黄泉ヶ辻の『屍操剣」――黒崎骸だ”
 フィクサード組織主流七派の一角、閉鎖主義の『黄泉ヶ辻』
 その幹部候補とされる黒い男と、アークが初めて事を構えたのは1年を跨ぐほど前の事。
 死者の蘇生と言う禁忌を求める彼らとアークは幾度も交戦し、時に勝利し時に敗れた。
 だが、その際最大の難点となっていたのが彼に従うフォーチュナ『預言者』の存在である。
“今回、『屍操剣』の傍に『預言者』は居ない。チャンスと言えばこれ以上は無いな。
 ただし、代わりに侍らせているアザーバイドがハンパじゃない”
 伸暁の声に冗談めいた響きが無い。その意味を解し、沈黙が落ちる。
“アザーバイド、識別名『屍鬼童子』。どう考えてもこっちの方が『屍操剣』よりヤバい。
 と言えば多分その厳しさが理解出来るだろ。ハードでへビーなライヴになる”
 
 だが分かって居る事は2つあると言った。それで未だ半分だ。
“もう1つ。やっぱり車で30分程度の位置にある洋館に、子供が一人囚われてる”
 子供。そして状況を鑑みれば、それは。
“『預言者』赤峰悠。そっちに居るのは『憑キ鬼』と、人形だ”
 憑キ鬼――『屍操剣』の生み出した人より変じた食人鬼。
 それに加えて人形――意識も命もある他人へ気糸を繋げ意のままに操るその神秘は、
 人形遣い(ドールマスター)と呼ばれるフィクサードの十八番である。その、混成群。
“不幸中の幸いかな、洋館には人形遣いその物は居ない。
 ただ、その物量は脅威だ。下手をすると全員で掛かっても押し切られる”
 集められたリベリスタは僅かに10名。2つの事件に応対するなら倍は欲しい所だと言うのに。
“一応、呼べるだけの援軍は頼んでおくけどね、過度の期待はノーセンキューで頼むぜ。
 言ったろ? ここはお前達にとっても分岐点なんだ”
 伸暁が告げる。。
“結論から言えば、お前達を失う事の方がアークにとっては重い。
 だからどちらの事件を解決に導くのかお前達で決めるんだ。この選択にアークは関与しない”
 二者択一。普段であれば必ず無茶を振ってくる伸暁をもこう言わせしめる事態。
 であれば、それは言葉以上に現状の厳しさを雄弁に語る。
“今回取り逃がせば、『屍操剣』はまた姿を晦ますだろう。黄泉ヶ辻らしくね。
 けれど、救わなければ程無く『預言者』は死ぬ”
 犠牲者は、大勢か、1人。アーク“らしさ”で言うならば問うまでも無い。
 あまつさえ、犠牲となる1人はフィクサードなのだ。
 だがそれを解して尚、幻想纏いから響く伸暁の声は問い掛ける。
 どちらを殺し、どちらを救うのか。
 何を以って是とし、何を以って否とするのか。

 至るは地獄の一丁目。
 ――――黄泉の交差路に、逃げ道は無い。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:VERY HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年12月12日(水)23:16
 78度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 <黄泉ヶ辻>憑鬼シリーズファイナル。どうか後悔無き決断を。

●Danger!
このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。

●作戦成功条件
・アザーバイド『屍鬼童子』の討伐
・『預言者』赤峰悠の救出
・『屍操剣』黒崎骸の討伐
・アザーバイド『憑キ鬼』の殲滅

 上記中2項の達成

●『屍鬼童子』
 初出シナリオ:<黄泉ヶ辻>預言者は指し示す/表
 黒崎綾芽と呼ばれた中学生ほどの少女。死して尚動く人喰いの鬼。
 黒崎骸の「黄泉返り」の研究の結晶。完成された『憑キ鬼』。
 非常な敏捷さと半端では無い回避能力、物理的な意味で重い一撃と、
 アークのリベリスタ10名を相手取っても遜色無い戦闘能力を持ちます。
 が、素体が女子中学生である為決して頑丈では有りません。

・攻撃手段
 連続行動(P):常時2回行動します。

 噛み付き:物近単、命中中、ダメージ特大【状態異常】[失血][死毒]【追加効果】[HP大回復]
 引き裂き:物近範、命中高、ダメージ中【状態異常】[ショック][致命]
 蹂躙:物遠貫、命中高、ダメージ大【追加効果】[ノックバック]
 EX 黄泉路返し(P):フェイト消費による復活を行った対象に対し攻撃力大上昇。
 
●『屍操剣』
 初出シナリオ:<Blood Blood>赤と黒
 黒崎骸。30代後半。『黄泉ヶ辻』の研究者であり元外科医。
 黄泉ヶ辻の幹部候補として名前が挙がる程の実力者。黒髪黒眼に黒服の男。

・特殊スキル:領域結界
 A、持続2。黒崎の保有する一般スキル。結界スキルの一つの到達点。
 能力者を中心に半径500m以内の、特定空間からの離脱を阻む結界を張る。
 この結界からは魔術知識か陣地作成のスキルを持つ者以外出る事が出来ない。

・保有戦闘スキル:パーフェクトガード、戦鬼烈風陣、リーガルブレード

・EX 死想剣、物近複
 武器に自らの死を注ぐ事で攻撃力を増幅させる『屍操剣』本来のEXスキル。
 多量のHPを代償に文字通り必殺と称するに相応しい一撃を繰り出し、
 これが100%命中した場合失ったHPの何割かを取り戻す。

●『預言者』
 初出シナリオ:<Blood Blood>赤と黒
 赤峰悠。7歳。洋館に囚われたフォーチュナの少年。
 生きる事を諦めつつあり、一定時間の経過で死亡します。
 過去に<黄泉ヶ辻>と表示のあるシナリオに参加した事がある場合、
 赤峰悠はそのリベリスタの様々な情報を「読む」事が出来ますが、
 今回彼がそれを自発的に読む事はありません。

●『憑キ鬼』
 初出シナリオ:<黄泉ヶ辻>憑キ鬼
 人間や死体にウイルス大のアザーバイド『憑鬼』を寄生させた物。
 鬼に転じた人の果て。食人鬼。一般人に対し『憑キ鬼』は血液感染します。
 また五感が常人離れして鋭く、気配遮断に類似した能力を有します。
 1対1であれば格下の相手ですが、洋館には計8体が徘徊しており、
 物音がすれば室内に居る1体を除いて其方へ向かいます。

・攻撃手段
 剛腕:物近複、命中中、ダメージ大、反動有【状態異常】[隙]
 噛み付き:物近単、命中中、ダメージ中【状態異常】[流血]【追加効果】[HP回復]
 自爆:物近範、命中高、ダメージ小、使用した場合爆発四散する【状態異常】[鈍化][圧倒]

●人形
 初出シナリオ:<相模の蝮>悪夢再び
 人形の様に決まった行動を繰り返す一般人。洋館内各所にばらけて居ます。
 自分の力で人形化から抜け出すことは不可能。総勢は10名ほど。
 リベリスタが近くに居れば組み付いてきます。
 組み付かれた場合、移動可能距離半減。回避に-50のぺナルティを被ります。

●戦闘予定地点
・ショッピングモール
 時間帯は夜。既に『屍鬼童子』が狩りを始めており、犠牲者も出ています。
 それ以外の一般人が20名ほど逃げ惑っていますが、結界により外に出られません。
 光源有り、足場安定、障害物は多数有りますが視界が通らない程ではありません。
 但し人垣に囲まれた場合は通らなくなる可能性が有ります。
 大半の店は表の騒動に気付きシャッターを閉めてしまっています。
 『屍操剣』は狩りには参加していません。

・洋館
 何らかの神秘的隠蔽処理がされているらしい、街外れの古い洋館です。
 2階建ての建物ですが、2階は無人となっています。出入り口は表玄関のみ。
 隠蔽処理の効果か千里眼で透視程度の範囲しか内部を見通す事が出来ず、
 透視では何も見えません。内部は薄闇。足場は安定。
 『預言者』は表玄関から入り、1階の一番奥の部屋に囚われています。
 家に窓は有りますが、特殊な鉄格子が張り巡らされており窓からは入れません。
 玄関から最奥までの距離は直線距離で300m。
 現状ままなら到着から20ターン後に『預言者』は自ら憑キ鬼に襲われ死亡します。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
★MVP
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)

●死戦・縦路之壱~Law Line - 1~
 銃を持つ。武器を執る。人を殺す、それを手にする。
 それは潜在的に、人を殺める事を肯定すると言う選択の筈だ。
 他者を傷付け、時に殺す。其処に是非等無いだろう。例えどんな理由を付けたとしても。
 武器をその手に取ったならば、それは既に他者を害する者である。

「――――そうか、貴様だけか」
 けれどそうではない。確かに、銃は武器だ。人を殺す、兵器だ。それに間違いは無い。
「存外、情に厚いな聖櫃。それが、リベリスタであると言う事か」
 だとしても。
「なるほど、確かにこれを人は英雄と呼ぶのだろう」
 だとしてもだ。
「俺とて、俗人の内に在ったならばお前達を賞賛しただろう。
 例えそれで如何なる犠牲が出たとしても……お前達は己が正義に従い最善を尽くしたのだ、とな」
 彼が銃を持つ理由、それは――
「遺言は、残して来たか?」
「いいえ」
 結界を越えれば、気付かれるだろう事は予期していた。
 悲鳴は徐々に減って行く。到着した直後に掛けた声に従い、数名は閉ざされた店舗に逃げ込んだろう。
 それだけで、幾人かが救われた。それだけで、幾つかの悲劇が回避された。
 けれど全て終わった訳ではない。心は酷く騒いでいた。『童子』の声。それは紛れも無く嗤っている。
 人を喰うと言う行為を必然として、当たり前に認めていた。悲しみ嘆く素振りも無い。
 それが何処までも哀しい。
「僕は何時だって、次なんて描いていませんから」
 此処を見逃せば、或いは“次”は、楽に勝てたのかもしれない。
 その可能性に賭けたとしても、恐らく誰もそれを否定する事は無いだろう。
 けれど死に逝く人々に次など無い。だから、彼にもまた――次など無いのだ。
「そうか」
 ずるりと抜いたのは黒い片手剣。型が様になっている。恐らくソレがこの男の本来の獲物なのだろう。
 だが、それが分かった所で栓無き話だ。事、此処に至ってしまったならば。
 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)の銃口が動く。
 
「――黄泉ヶ辻、『屍操剣』黒崎骸」
「――――アーク所属、ヴィンセント・T・ウィンチェスター」 
 それが始まり――それが、終わり。
 黒二つ。剣戟と銃声。
 武器を手に取ったのは、そこに救える人がいたから。

●屍線・横路之壱~Chaos Line - 1~
「本当に、悪趣味な趣向」
 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の呟きは、初冬の風に吹き消される。
 眼前に聳える洋館は、明らかに異様で有りながら不自然さを感じさせない程度に風景に融け込んでいた。
 それが可笑しいと、思わない。思わせない。恐らくは神秘による認識を歪める迷彩。
 けれど、客観的に見れば其処には違和感しか存在しない筈だ。
「まず優先すべきは助けられる命の安全の確保を」
「……悠君を助けて、皆で生還する。これが絶対条件です」
 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の言に、『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が頷く。
 洋館の内部は仔細が不明だ。踏み入ってみるまで分からない。
 何をすれば良いかは分かっている。その難しさも。その途方も無さも。けれど。
「積もる話はあるけど……悠は見つけ次第、拳骨する」
 拳を握った『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が兎の魔銃を携えて館の二階を睨み付ける。
 アークと『預言者』との因縁の長さは『屍操剣』とのそれに全く等しい。
 その最初の一件に、彼女は関わっていた。手にする銃すらが元は彼の持ち物だ。
 抱いた感情は長い時間の間に酷く混沌としており定まらない。けれど間違い無いだろうこと。
 杏樹は想う。子供が甘えを口に出来ない。こんな結末は、絶対に間違っている。
「神秘を識る者一人の生涯なら、より多くのものが救える」
 他方、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の見解はまた異なる。
 子供とて、彼は『預言者』だ。強制する気はなくとも、其処には万金を超える価値が有る。
 彼は犠牲以上を救う事が出来る。凶悪とも言えたその力は、表裏を違えれば世界を守る術になる。
 その一事を以ってこの救出行に是を下す。其処に多少の犠牲がでようとも。
 残酷なまでに、彼女の正義は厳正だ。
 けれど恐らく、ノエルの正義と杏樹の理想は相容れまい。それもまたアークと言う組織の必然。
 混沌の坩堝とすら言える多種多様な価値観を束ね、けれど彼らの意思は統一されている。
 多くの命を切り捨ててまで此処へやって来たのは、唯一つを救う為

「今はただ……悠くんを救うことだけに全力を」
 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は誰よりも、この選択の意味を知る。
 此処に集った9人が力を尽くせば、きっとより多くの罪も無い人々を救えたのだ。
 彼女らをセイギノミカタであると考える者に対しては、これはきっと手酷い裏切りなのだろう。
 それでも、見捨てられなかった。諦めた様なその眼差しを。振り返った小さな影を。
 切り捨てる事だけはどうしても出来なかった。 
「どっちみちバッドエンドかハッピーエンドかなんぞ主観の問題やしな、おぃ」
 あたかもその気負いを解す様に『√3』一条・玄弥(BNE003422)が嘯く。
 けれど勿論そんな意図はない。彼からすれば、正直どちらを選んでも大差はないのだ。
 他人の都合等一々気にしてはいられない。仕事を達成出来る事が最優先。利益主義者はシンプルだ。
 金になるから仕事をする。同じ報酬なら危険度が低く楽であるに越した事はない。
 その観点からすれば今のこの状況、玄弥はまるで問題を感じない。悩む必要すらない。
「ま、仕事しまひょか」
 くけけっと、奇妙な笑いを上げながら永楽通宝をじゃらりと鳴らす。
 俗物を自負する金色夜叉にとって、人の情など二束三文にも及ばない。
「どんな選択をした所で……あの道化師なら、嗤うのでしょうね」
 悔しげに唇を噛み、リセリアが愛用の西洋剣を抜く。例えこれが、何者かの想定なのだとしても。
「だとしても、今はただ死に物狂いで手を伸ばすだけだ」
 選んだ以上は、前に進む。それしか出来ない。怯えている、暇はない。
 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が視線を向ける。
 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が頷く。深呼吸。喉から声を絞り出す
「――――まだ! 終わってませんっ!」
 響き渡る声は、神秘の欠片も含まれない唯の肉声。
 自らの所在を示すかの如き無謀と言うべきそれ。館の内側で複数の生き物が動く気配がする。
 悠里が扉へ拳を打ち込む。開かれた視界の方々から、歪に膨らんだ人――屍の鬼が駆け寄って来る。
「預言書を見て下さい、未来はいくらでも変えられる!
 あなたが未来を信じてくれるなら、わたしたちが! あなたの未来を切り拓く!」

 声を張り上げたまま突貫する。人形、鬼、人形、人形、鬼、人形。玄関前の空間は既に完全な敵地。
 その間を仲間達と縫って駆ける。人形が触れる、スタンガンを叩き込む。
「私たちはアークですので、助けられる命があるのならそちらを優先します」
「選べるものは数少ない。望むものがあるならば――」
 ジョンの放った閃光が人形達の体躯を灼き、その動きを鈍らせる。
 ノエルの槍が進路上に立ち塞がった鬼を弾き飛ばす。悠里がニニギアへ牙を剥いた別の鬼を抑え込む。
「ニニさん、行けっ!」
「設楽さん、そのまま動かないでください!」
 閃光、と評するべきだろう。打ち込まれた刺突の一撃がリセリアの速度を乗せ、鬼の腕を貫き穿つ。
 身体を駒の様に回したその脇を、舞姫を先頭にニニギアと杏樹、慧架と玄弥が駆け抜ける。
「悠君!」
 声を上げる。解れる足を一歩でも近付けたくて。
「どうしてって、聞いたよね!?」
 残り時間、凡そ3分。

●預言書は差し示す~Fortuner The End~
 窓がきしきしと鳴く。外は風が強いらしい。
 『預言者』赤峰悠はただ静かに、膝を抱えていた。眼前の“それ”は壁にぶつかり、地にのたうちながら、
 けれど徐々に、確かに、身体の自由を取り戻そうとしている。
 此処に居れば、死ぬだろう。間違いなく、紛れもなく、確実に。
 それは彼の携える羊皮紙の書物。『預言書』が確かにそう示している。
 誰かが覆さない限り、この未来は変わらない。
 誰かが打破しない限り、この結末は揺るがない。
 そして何より――悠にはその未来に、抗う意志がまるでない。
「―――ァ―――ァ――――――――」
 屍が呻く。徐々に体に憑鬼が馴染んで来たのだろう、タイムリミットは、もう後数分と言う所か。
「は……」
 息が漏れる。後数分で死ぬ。だったらいっそ、自ら命を絶てば良い。
 なのにどうして、待っているのだろう。これも贖罪のつもりだろうか。
 馬鹿馬鹿しい、自分が死んでも母親は戻っては来ない。こんなのはただの自己満足だ。
 ただ、死ぬのが恐いだけだ。ただ、自分で自分に区切りが付けられないだけだ。
 ここまで到ってまだ――――何て。
“……だ”
 風に紛れて、届いた声。
“終――てませ――っ!”
 翳んだ様な意識を繋ぎ合わせ、ほんの少し、窓の外へ意識を向ける。
 大きな声。叫ぶ様な声。断片的に届く言葉。
“預言書――て下――、未来は――らでも変えられる!”
 預言書。と言う語句に、意識が向く。瞬いて腰を上げる。
 在り得ない事だ。彼はフィクサードなのだ。そして彼の傍に黒崎は居ない。
 なら、今頃きっと狩りの最中だろう。こんな所で道草をくっている暇など有る筈がない。
 彼女達に、そんな余力が有ったとも思えない。

“あなたが未来を信じてくれるなら、”
 だったら、これは何だろう。
“わたしたちが――あなたの未来を切り拓く!”
 だったらこれは、何だろう。
“――悠君!”
 喉の奥から、掠れた様な笑いが漏れる。こんな気持ちを抱いたのは、何時以来だろう。
 彼に選択肢が有ったとするなら、其処が最初の分岐点。胸の奥に仕舞った始まりの言葉を思い出す。
“どうしてって、聞いたよね――?”
 冗談の様なこの現実に――射した光を思い出す。
「……凄いや」

 それはまるで映画の様で。
 僕にだって、何かが出来る気がしたんだ。

●死戦・縦路之弐~Law Line - 2~
 銃声二つ。
「動けない人には手を貸して! シャッター内に避難してください!」
 喉よ嗄れろと声を上げる。視界の半分は赤で染まっていた。 
 目を傷付けた訳ではない。誰が見ても、そこは赤い世界でしかなかった。
 その中央にワンピースの少女が立っている。喉を鳴らして何か呑んでいる。
 それが人の心臓であると気付いて、次の瞬間奔り抜けた剣戟。
 一撃を間一髪弾き、けれど続け様に放たれた連撃を避け損ね脇腹を深く切り裂かれる。
「――づ、っ」
 声を殺す。対峙する男の技量は一級品だ。戦士として半ば完成されている。
 これが僅か数年で研がれた剣才で有ると言うのなら、誰に妬心を抱かれたとしても可笑しくはない。
「余裕だな」
 掛けられた言葉に、脇を押さえた手を離す。呼吸の度に血が流れる。
 ショック症状か体躯にも痺れが出始めている。即致命傷とは行かずとも長引けば危うい。
「……、まさか。これで精一杯ですよ」
 追撃は来ない。『屍鬼童子』を呼びもしない。いや、1対1で十分所ではない。
 『屍操剣』はかつて杏樹、ヴィンセントを含むリベリスタチームと1人で対し半ば無傷で退けた。
 彼とてその時より大幅に成長しているとは言え、一騎打ちを挑むには余りに分が悪過ぎる。
「ですが、貴方こそ分かってるんですか」
 だとしても、ここは退けない。
「悠さんを失えばアークの目から逃れることはできません……貴方はもう、詰んでいます」
 黒崎骸の持つ、恐らく最大のアドバンテージ。『預言者』が失われれば、
 相手は非常に強力であるとは言え1フィクサードに過ぎない。
 何れは追い詰められ、狩られるは必定だ。神の眼は其処まで無力ではない。が――
「それがどうした」
 心底に理解出来ない、と言う様に毀れた声には感情の色が無い。
「未来の安全の為に己が望みを棄てる。そんな男がこの様な逸脱を為すか」
 如何なる不利も、如何なる窮地も関係が無い。ただ。
「立ち塞がるならば打破するのみ。それが例え、神や悪魔であろうとも」

 ただ、己が望みさえ果たす事が出来るなら。
 ただ最愛の娘を、救う事が出来るなら。
 武器を執ったのはただ、そこに救いたい人が居たから。

 けれど、
 ――それは
 ――――――違うのだ。

「貴方は――」
 気持ちとして、家族を愛しむその感情が分からない訳じゃない。
 その為に全てを捧げ、己の出来得る事を――あるいは手段すらも選ばず注ぐ事。
 それを否定する事など出来ない。その所業がどれ程人の道を外れていたとしても。
 出逢い方さえ違ったなら、自分が其方に立っていたかもしれないとすら、思う。
 だからこそ。
「本当に“あれ”が綾芽さんだと思っているのですか」
 だからこそ。

●屍線・横路之弐~Chaos Line - 2~
 蝋の香りに混ざり、つん、と漂った強い腐臭。杏樹が足を止める。視線の先には通り過ぎようとした階段。
 駆け続けている人間は5名。残りは殿を担い玄関に集まった憑キ鬼達を食い止めている為遅れている。
 攻撃に手を割けば全力を移動に費やす者に対してどうしても動きは鈍くなる。
 其処に来て、杏樹にはどうしても気になっていた事があった。つまり、この屋敷の「2階」だ。
 2階には誰も居ない。人は居ない。そう聞いている。では――人以外は?
 まるで、誂えた様に全力を尽くせばギリギリ間に合う人質が死ぬまでのタイムリミット。
 それを敢えて設定した者が居る以上、其処に何も無いと言う事があり得るのか。
「皆、先に行ってくれるか」
 “死”の香りを嗅ぐ。通り過ぎようとした舞姫が視線を上へ向けて凍り付く。
 ず……と。天井が撓む音が、鳴った。
「……最初の事件で犠牲になった人って、何人居ました?」
「確か、悠の母親を含めて――」
 29人。
 では果たして、彼の母親の遺体『だけ』が回収されている等と言う事が有り得るのか。
 その答えは、天井一枚を千里眼で見通した舞姫だけが知っている。
 突入して30秒、既に動き出している。分かっていた事だ、これは罠だと。
 二階の憑キ鬼がまともに動き出すまでは数時間掛かる。だがそれは「まともに動き出すまで」だ。
 いずれ階下に降りて来るだろうそれ、もしも2階や天井から突入していたら。
 結末は想像するだに難くない。そして同時に、その殲滅と言う任務達成の難度が跳ね上がる。
「行きましょう」
 二階へ上がろうとした杏樹の腕を引き、慧架が頭を振る。
 階下から状況が把握出来た以上は、一人で上がるなど明らかに自殺行為だ。
 そして、彼女らには時間が無い。
「邪魔、しないでっ……死なせない! 絶対に!」
 人形にスタンガンを持つ手を掴まれたニニギアが足掻く。其処に振り抜かれる、鋭い爪。
「人形も、頭壊れたらしまいやろ」

 ごろんと、地に転がった人形の頭部。目を見開くニニギアを余所に玄弥が喉の奥で笑う。
 頭部を失い配線でも切れたか、ごとんと倒れる遺体から噴き出す血飛沫。
 返り血を背に浴びて、駆ける。きっと彼らは何も悪い事などしてはいない。
 一般人だと聞いている。罪などない。運が悪かっただけだ。罪悪感が胸を衝く。
 それでも、それでも。例え他の命を、見殺しにしたとしても。

「皆さん、退がって下さい!」
 落ち着きながらも鋭いノエルの声に、リセリアが跳び退き、悠里とジョンが身構える。
 舞う様に振り抜かれた穂先に3体の憑キ鬼が巻き込まれぐしゃりと潰れる。
 だが、それは仲間をも撒き込む諸刃の剣。悠里はこれを掠めるに留めるも、ジョンの受けた傷は深い。
「ですが、これで残り半分を切りました」
 憑キ鬼7体と人形群。その編成が馬鹿に出来ない戦力である事に真っ先に気付いたのがノエルだった。
 彼女は類稀なる攻撃能力を持つが、一方で回避は半ば捨てている。 
 其処に来て人形の組み付きを受けると、憑キ鬼の一撃はその全てが痛打に変ずる。
 特に剛腕の振り回しが問題だ。隙を付いて重ねられる重い一撃は、瞬く間に彼らの命を削る。
 時間制限のみが問題ではなく、4人で7体を相手取るのは相当に厳しい。
「今の所、順調かな……ん?」
 悠里のアクセスファンタズムが反応する。直ぐ様繋げば焦った様な慧架の声。
“気を付けて下さい、伏兵が……!”
 更に21体。その数字に頬が引き攣る。この仕事の難しさは理解していた、心算だ。
 あるいは100体以上と言われるのに比べれば易い。だが、それにしても現状苦戦しているこの3倍。
「……行けますか」
 ジョンが閃光を放ちながらも問う。果たしてやれるのか。
 出来なければ退くしかない。けれどその問いに、リセリアが、ノエルが頷く。
「自分の意志で、選んだ道です」
「徹底して、手を尽くしましょう」
 全てを救おうとして何もかもを喪う位なら。その想いと共にここまでやって来た。
 終われない。まだ戦える。剣が触れる。槍が振るえる。運命の加護すら残っている。
 ならばその、死線の先に到るまで。
「やろう、僕らで退路を切り開く」
 ぎしりと、ぎしりと。天井が鳴く。
 無数の死を抱き、それを鬼へと変じながら、屍人の館は囚われ人を誘い込む。
 残り時間は、後1分。

●神の眼は射し示す~Fortune Re Birth~
“どうしてって聞いたよね?”
 その問い掛けを忘れない。だって不思議でならなかった。
 僕は人を、母さんを殺したんだ。生きる為に殺したんだ。僕は悪くない。
 最初はそう開き直れた。開き直れるつもりでいた。
 けど何度も夢に見た。何度も掌を確かめた。自分の罪を直視した。
 僕は所詮、罪人だ。
“名前を訊いた時、目があった時、心が触れたと感じた気がした時から”
 なのに。
 どうして、あの時振り返ったんだろう。
 どうして、あの時問いかけたんだろう。
 どうして、貴女はいつも僕の事を追って来るんだろう。
 どうして――――今、僕は。
“迷惑かもしれないけど私、悠くんを弟みたいに思ってる”
 古い羊皮紙の感触。開いたページに記された言葉。
 呆然とその言葉を見つめる。額縁の、向こう側の世界を見つめている。
 現実味何て感じた事はなかった。いつも何所かフィルター越しに全てを見ていた。
 それは、母さんを殺しても変わらなかった。死が迫ってすら変わらなかった。
“もう二度と、大事な人を見殺しにしたくない”
 死んでしまうのが、消えてしまうのが嫌だった。けれどそれでも。
 その結末さえ心の何所かで物語の様に感じていた気がする。
 だから、生きる事諦める事だって出来たんだ。
 だから、もう止めようって思う事だって出来たんだ。
 なのにどうして、今更そんな事を言うの。
“それは私が生きる理由、信念を捨てる事と同じなの”
 私も他の命を見殺しにしてきた
 でも、どうしても救いたい命のためにその時できることを必死でやる”
 どうしても、欲しい物何て何も無かった。
 夢も、希望、未来も無かった。最初から沢山の、持ち切れない程の物を与えられて、
 持っていない物に手を伸ばす事すら許されなかった。だから諦めた。

“失った人の代わりはないけどできる限り命を救い続ける。
 そうやって生きてきたし他にどうしていいかわからない”
 そうやって、諦めてきたし、他にはどうして良いかわからない。
 自分で得た物何て一つも無いから、誰一人救う事も出来やしない。
 それでも。
“悠くん、望んでいいのよ”
 それでも僕は、生きてて良いの?
“独りで苦しむ日々を終わりにしよう。”
 それでも僕は、足掻いても良いの?
“助けたいの、助けさせて。文句も理屈も後で聞くから”
 人殺しなのに。それでも。
“最後の最後まで、一緒に生きる未来を私は諦めない”
 ――それでも後ほんの少しだけ。
 ――――――未来を、信じても良いの?

●屍線・横路之惨~Chaos Line - 3~
 けれども、世界は誰に対しても惨酷な位に平等だった。

「え」
 先頭を駆けていた舞姫が足を止める。
 止めざるを得ない。一番奥の部屋。焼ける蝋の匂い。間違いなく、其処が終着点。
 時間は残り30秒。間に合った。彼らは、彼女らは間に合った。
 間に合った――筈だ。此処がただの、偶然に仕立てられた戦場であったなら。
「…………えっ」
 全力で駆けていた慧架の足が止まる。止めざるを得ない。
 其処に居たのは、多過ぎる程の人影。8体の人形が扉の前に張り付いている。
 多過ぎる。通路は半ば鮨詰めだ。潜り抜ける等、到底現実的ではない。
「――っっっ!」
 ニニギアが口元を戦慄かせる。突破しなければ、室内へは入れない。
 けれど1つ倒すのに1人、5人でも20秒はここで消える。だったら。だとしたら――。
 部屋の中に居ると言う憑キ鬼を排除する前に、タイムリミットは訪れる。
「くわばらくわばら。時は金なりとは良う言ったもんやねぇ」 
 動きを止めた四人を置き去りに、玄弥が踏み込み躊躇無く人形に爪先を突き立て蹴り飛ばす。
 スタンガン等使えば扉の前から除けるだけ時間が掛かる。
 死体であれば一々遠慮する必要はない。任務達成を一義に考えるその判断は早い。
 だが、誰もがその様に割り切れる訳では、無い。

「そん、な――……」
 誰一人。
 誰一人犠牲にするまいと願ってやって来た。
 その手で一般の人々を。“人形”を殺せるか。物の様に除ける事が出来るか。
 舞姫の短刀の切っ先が揺れる。誰も、彼の為に死なせない。赤峰悠自身の為に。
 それは尊い願いの筈だ。それは価値ある祈りの筈だ。けれど、世界はそれを認めない。
「――やるぞ、運が良ければ殺さないで済む」
 杏樹が動く。銃を使わず肩に拳を叩き込む。
 ノックバックなど無くとも、戦闘不能になった者に移動を邪魔する事は出来ない。
 鈍く響く骨の砕ける音。手加減をした所で相手は一般人だ、死ぬ時は死ぬ。
 だが、その可能性を落とす事なら出来る。
「わかり……ました!」
 慧架が踏み込む。掴み掛かって来た人形の腕を取り、背負い投げの要領で地へ落とす。
 やはり鈍い音がした物の、恐らく死んでは居ない筈、だ。
「こんな……こんな事……っ」
 何を恨めば良いのか。何を憎めば良いのか、舞姫にはもう、良く分からない。
 けれど今はただ。彼に告げた約束を果たす為に。
 未来を――切り拓く為に。
「うあああああああああああああ――っ!」
 その為の、その手で以って、守るべき人々を傷付けるのだ。
 殺さない為に。苦しめない為に。救う為に。力の無い別の誰かを退けるのだ。
 立ち塞がる者を斬り捨てて、心に抱く逡巡を斬り捨てて、痛みも涙も斬り捨てて、けれど一体。
 あと幾つ斬り捨てたら誰も失われないで済むのだろう。
   
「酷いよね、こんなの」
 そうして拓かれた道を、駆ける。
「酷過ぎるよね」
 そうして繋がれた糸を、手繰る。
「それでも、願ってしまうの」
 ニニギアが、最後の扉を押し開ける。
「……お願い、生きて、一緒に行こう!」
 ――――其処が、タイムリミット。

●死戦・縦路之惨~Law Line - 3~
「――――」
 数合。打ち合わせられたのは幸運ではない。
 運命を削り、命を捧げ、意地と魂を燃やし尽くして対した結果だ。
 元より近接戦は得手ではないのだ。その上相手は近接戦をこそ牙城とする『屍操剣』。
 自覚していたこと、分かっていた事だ――運命は歪曲を許さない。勝ち目は、無い。
 けれど或いは望む所だ。ここまで近ければ耳を塞ぐ事すら出来はしない。
 ヴィンセントは銃口の変わりに、言葉の刃を振り上げる。
「……外科医だった貴方が――外見だけで」
 胸を貫いた剣先が押し込まれる。
「――っ、あれが、自分の娘だ……と?」
 視線が交わる。黒い瞳と、青い瞳。互いの瞳の奥に良く似た光を見る。
 けれど決定的に違うのは、覚悟の強さ。青は揺るがない。ひたりと見据えたまま揺るぎもしない。
「せめて父親として、……彼女を……貶めるのを、止め……――ッッ!」
 言うやずぶり、と更に刃が深く入る。刃先位は背へ抜けただろうか。
 痛みは既に麻痺して久しいが、それでも流石に限界だ。跳ねそうになる身体を意志だけで抑え込む。
 そもそもが全身血塗れだ。今ならきっと、黒翼である事すら誤魔化せる。
「お前に、何が……っ」
「――お前の、妄執に、綾芽さんと、悠さんを……巻き込むな」
 本当は、本音を言ってしまえば。
 この愚かな、非道な、黒い男を憎み切れない。
 出来る事なら、手を差し伸べられる間に出会えたなら良かった。
 そうだったなら……けれどそれはもう、終わってしまった事。
 だから。これはきっと悪足掻きでしかないのだろう。
「認めろ黒崎」
 震えが止まる。体温が落ちて行く。足元に出来た血溜まりが彼の思考も言葉も奪っていく。
 けれど、まだだ。夜は更けたとて星が落ちるには早い。『Star Raven』はまだ羽ばたける。
「お前は――失敗したんだ」

 ず、っと彼を貫いていた剣から力が抜ける。
 いや、『屍操剣』が武器から手を離す。交わった視線、けれど両の足で立っていられない。
 倒れそうになったその体躯。両肩を黒い男が掴む。
「……見ろ」
 無理に身体を動かされる。その度に鋭い痛み。視線は『屍鬼童子』へ向けられる。
 少女の様に見えるそれは“食事”を終え、夜空を見上げている。呆、っと振り仰ぐ。
「動いている。言葉を紡げる。呼吸をしている。喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも感じられる。
 どれも失われた物だ。どれも奪われた物だ。全てこの世界に不当に搾取されたものだっ!!」
 それは、まるで慟哭の様に聞こえた。
「それを取り返す事が、全てだ! それの何が悪い、いや、悪であろうと構わない!
 例えそれで、綾芽が変わってしまうのだとしても、それが一瞬の幻であったとしても!
 どうして手を伸ばさずにいられる! どうして掻き抱かずにいられる! どうして――っ!!」
「貴方は、救いたかったんじゃない」
 その手には、銃が有った。
「救われたかったんだ」
 照準を合わせる必要なんかなかった。何度、何十度、何百度、何千度。
 彼は、彼の目の前の誰かを守る為に、その引き金を引いただろう。
 慣れた仕草だ片腕が動けば事足りる。指先に力込められればそれはもう、運命の奇蹟と言うべきだ。
 斜線は通った。縦線は繋がった。
(――帰れなくて、ごめんなさい)
 心に抱いた大切な人の笑顔。それを守り続けられなかった事だけが、悔しい。
(皆さん、どうか――)
 黒崎が、その動きに気付く。だが、剣と言う武器は近過ぎれば振るえないのだ。
「――――貴方を、救いたかったです」

 銃を持つ、本当の理由は。
 ――――其処に、救いを求める人がいるから。

 銃声、一つ。

●死線交差路~Cross Line~
 世界は誰に対しても惨酷な位に平等だった。
 けれどそれでも。僕らはここで生きていくしか、無いんだから。

「――っ、遅いよっっっ!!」
 涙混じりの必死な声は、けれど部屋に響き渡る位に大きく。
 喰らい付く憑キ鬼の口腔に挟まれた重厚な羊皮紙の本が全てを物語っていた。
 リベリスタ達が証明している。破界器と言う物は余程の衝撃を受けない限りそうそう壊れはしない。
 とは言え大人と子供の膂力だ。憑キ鬼の攻撃全てを受け切る事は出来なかったのだろう。
 半泣きになった悠の体躯には、深い傷跡が残っている。恐らくは運命の加護を削ったのだろう。
 生きたいと、望まぬ者に世界は決して微笑まない。
 けれど、最後まで足掻き続けるならば――或いは。
「ニニギアさん、早く!」
 慧架が扉を潜る。立ち塞がる憑キ鬼。乱れていても分かる中年女性の服。
 今は気にしている暇が無い。幻想纏いから悠里の声が響く。玄関は既に激戦を繰り広げている。
「悠君」
 差し出された手。血に塗れて、けれど無理矢理に笑ってみせる。
「私が迎えに来る未来、見えた?」
 自らの血で赤く染まった少年が、無言で小さく頭を振る。見えなかった。見なかった。
「でも、来てくれるって」
 信じてた。それは『預言書』にすら見通せない、ほんの小さな可能性。
 繋がった手を引く。もう離さないと言う様に。

 ――それは決して、容易い道程ではなかった。
「正直言えばね、戦いは嫌いだ。覚醒しなかったら、僕は戦う必要なんてなかった」
 組み付いてくる屍キ鬼を捌き、組み伏せ牙を突き立てる。
 悠里の体躯に命が満ちる。けれどそれとて瞬く間に削られて行く事を彼は知っている。
 ――それは決して、優しい生き方ではなかった。
「遠い背中を追いかけて。剣を選んだ最初の理由は、きっとそんな物だった様に思います」
 間一髪、かわした爪の側面を軸として刃先を奔らせる。
 散った火花すら置き去りに振り抜く剣閃は死せる鬼すら魅せる程に冴え。
 ――それは決して、合理的決断ではなかった。
「手を抜いて生きる事は楽でしょう。けれどだからこそ、私はこの組織に居るわけです」
 編まれた無数の気糸が正確極まる精度で以って鬼の群に突き刺さる。
 次から次へと迫り来るそれを捌くには、彼の精神を癒す神秘は必要不可欠だったと言えた。
 ――それは決して、賞賛され得る理念ではなかった。
「我が運命は世界の為に。我が槍は世界の敵に。わたくしは世界を守ると決めたのです」
 槍を揮う度に1つの命が潰える。それは或いは造られた物であったのだとしても。
 生き物を殺す事に変わりはない。けれど、だから何だと言うのだろう。
 普遍的正義など求めない。己の命は。力は。その槍は、世界を繋ぐ為の道具で良いと。

「――それでも、狂おしい程に思うんだ。
 誰かの幸せを守りたい。誰かの命を守りたい。負けたくない! 運命なんかに!」
 膝を付いて、けれど立ち上がる。血塗れの体を揺り動かす。
 それは臆病でも強靭な『拳』が掴んだ一筋の光。死線を照らすには、十分過ぎる。
「――けれど、自分で選んだ以上は背負いましょう。
 それがどれ程痛みに満ち、甘えの許されない未来だとしても。何時かそれを誇れる様に!」
 剣は血に滑り、積み重なった掠り傷が全身に重く圧し掛かる。
 けれど速く。一歩でも一瞬でも速く次の一撃をかわす。命尽きるまで『蒼銀』は舞う。
「――恐らくは理知的判断とは言い難い。けれどわたくしめは思うのですよ。
 万人に認められる無難な選択ばかりでは、人生はつまらない」
 変人と呼ばれて臆面も無い。『無何有』がそれを厭うては始まらない。血の味を噛み祝福を呑む。
 倒しても倒しても沸いてくる屍を撃ち抜き、照らし、磨耗した精神を継ぎ足して。
 その先に救える者が居るならば。苦労を背負う価値はきっと、ある。
「――とは言え、こんな所で死ぬわけにもいかないのですけどね
 わたくしにはまだ、やらなくてはならない事が沢山ある」
 世界を守る。その術を得る。言葉にするは容易いが、それを達成するには多くが足りない。
 『銀騎士』の正義に果ては無い。或いはそれを人は強欲と呼ぶだろうか。
 けれど殉教者の如き真摯で以って、彼女は己を貫き通す。刹那の死すらその歩みを止められない。
 揮われ拳、薙がれる剣、張り巡らされた気糸の狭間を槍が穿つ。

 彼らは己が全てを賭した。その上で尚、無数の屍の鬼達はその上を行く。
 幾度も幾度も繰り返し、精も根も尽き果てて。ノエルが遂に膝を付く。
 それは、そんなタイミング。
「来ないなところで死にとうはないわなぁ」
「どん底から一緒にでましょう。まだ絶望するには早い」
 玄弥の爪が漆黒を宿し、鬼の体躯へ突き刺さる。その命の幾許かを吸い取り低い声で嗤ってのける。
 慧架が鬼の腰を掴む。流れる様な仕草で力を逃がし頭部から大地へ叩き付ける。
「死神も疫病神もぶっ飛ばしてやる。私達を見てろ」
 後ろを振り返り、杏樹が口元だけ笑んでみせる。血に塗れた、死に触れ過ぎた。
 シスターなんて言えなくなってきたけれど、くずれだとしても説教くらいできる。
 子供を導くのは、大人の仕事だ。
「……うん」
 その声が背を押すならば百人力だ、どれだけだって戦える。
 顔も見えない誰かの為に、戦い続けた彼の背中は未だ遠くとも。杏樹には杏樹のやり方がある。
「邪魔立てするなら、神様でもぶっ飛ばす!」
 射線が通った全ての鬼が銃弾に貫かれ姿勢を崩す。
 内幾つかの鬼が決死の自爆を試みるも後方に控えたニニギアの癒し。
 聖神の息吹が残り少ない憑キ鬼の攻撃を相殺する。憑キ鬼達に、屍人の館に、彼らを殺す術は無い。

 盤面は――――――此処に決した。
 死線もう、交わらない。 

●死戦・縦路之死~Law Line - Lost~
 声は無い。
 息も無い。
 既に無い。
 ぽかんとした仕草で、少女は己の右目を穿ったそれを見つめていた。
 ぱたり、ぱたりと血が滴る。それを唖然と見下ろし、戦慄く手でもう一度確かめ。
「……ひっ」
 引き攣った様に『屍鬼童子』が笑った。
「ひひ、あれ。おかしいよ。パパ」
 血塗れの世界。それは自分が築いた物だった筈なのに。
 血塗れの世界。それは余りにも赤く。赤く。赤く。
 血塗れの世界。見えないその半分を、驚き、確かめ、理解出来ず、何度瞬いても元には戻らなくて。
「うあ、あ、やだ、何これ。何これ。ええ、何、これえ、あ。あああああああああああああああああ」
 狂乱していた。混乱していた。ギリギリで保たれていた理性が変化した世界について行けず焼き切れる。
 そもそもが、彼女が『黒崎綾芽』の人格を残したのは、精密かつ繊細な調整の上で辿り着いた結末だ。
 脳に一発銃弾が割り込んだだけで、破綻する程度のガラス細工の天秤だ。
「ああああああああああああああああああ――――……あ」
 その視界に、黒い姿が2つ映る。片方は、駄目だ。何となく、多分、今食べたら駄目だと思う。
 けれど、もう1つ。何かを手に持った、羽の生えた、それ。
 おかしなそれが、それのせいで、それのせいで、それのせいでそれのせいでそれのせいで
 あかいあかいあかいせかいがあかくていたいやけるみたいにいたいいたいいたいいいいいいいい

「――――、待て、綾芽!」
 エリューション化した人間は、もう人間ではない。
 ノーフェイス然り、リベリスタ然り、フィクサード然り。であるならば。
 人間に憑いた『憑鬼』は本質的に革醒者を喰わない。命を吸う事は有ろうとも、それは食材ではない。
 だが――
 がぶりと。それは喰らいついた。灼熱するような狂乱のままに。 
 本来喰えぬ筈のそれに噛み付き、我武者羅に、牙を立て、呑み込もうとした。
 それは、『憑キ鬼』であるそれにとって、毒でしかないと言うのに。
「ッ、やめ、ろ、綾芽っ!!」
 『屍操剣』が半ば無理矢理に、死せる黒翼の青年と鬼と化した己が娘を引き剥がす。
 だが、暴れるそれは手が付けられない。
「いやっ! やだっ! 殺してやるっ! 離せっ! 離せっ!! 離せええええええええええええええっ!!」
「その男はもう死んでいるっ!」
 暴れる『童子』を捕らえ、引き摺る様に、黒い男が惨劇の街を後にする。
 全て残された青年には知らぬ事。彼が何を望み、何を求め、何所へ手を伸ばそうとしたのか等。
 死戦の果て。一人は救われ、一人は逝き、そして。
 
 リベリスタ達が赤と黒とに染まった街に辿り着いたのは、その凡そ一時間後の事である。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ベリーハードEXシナリオ『<黄泉ヶ辻>死戦交叉路』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

正直に申し上げます。単独で残ると言う選択は想定外でした。
それをする事で何が残せるのか。それをして何が救えるのか。
そう考えた時に、出来る事は本当に少ない。
ダイスの出目を幾度確認しても、奇蹟は起きませんでした。
ですが、その限られた状況下で死力を尽くした事は伝わって来ました。
素晴らしいプレイングだったと思います。MVPを差し上げます。
幾度も貴方の物語を紡がせて頂けた事に感謝を。御疲れ様でした。

また、もう御一方。執念とも言えるだろう尽力で以って、
足掻いて足掻いて足掻き続けた貴女に心よりの拍手を。
この結末に到ったのは、皆さんの試行錯誤と努力の結果です。
救われた彼がこの後どうなるかは不明ながら、先ずは一幕。
生き残った赤と黒ともう一人のお話は、また後日とさせて頂きます。

『預言者』赤峰悠の救出、アザーバイド『憑キ鬼』の殲滅達成。任務は成功です。
この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。