● セリエバ。それは運命を食らうアザーバイド。 それを召喚すべく七派フィクサードの『六道』『黄泉ヶ辻』『剣林』の一部が手を組む。 『六道』のバーナード・シュリーゲンはアザーバイド召喚技術を求め。 『黄泉ヶ辻』のW00は運命を食らう異世界の猛毒に興味をもち。 『剣林』の十文字晶はその猛毒に侵された娘のために槍を持つ。 召喚場は『万華鏡』の届かない海の上。当てもなく探すには、海は広すぎる。 しかし手がかりはある。 召喚場に向かう船。その船が持つ情報。 それを集めれば、セリエバ召喚場への道を見つけることができるだろう。 ●死神の足音 海原を行くのは、古臭い型の船であった。それも数年どころではない。数十年は前の代物であろう。 その船には怨嗟の声があふれていた。 船員たちは皆、動く死体……すなわち、エリューション・アンデッドであったのだ。口々に語られるのは、生者をうらやむ声。帰るべき場所に帰れることに嫉妬する声であった。 そんな死者の船に、生きた者が1人だけ乗っていた。 鋭いものが風を切る音が、淀んだ空気を切り裂いている。 1人の男が、鋭い大鎌を振り回しているのだ。まるでボールペンを回しているかのような気軽さで、彼は凶器を振り回している。 「W00さんも、ずいぶんと面白いことをしてらっしゃるようですねえ」 目深にかぶった黒い布の下に浮かんでいるのは嘲笑だった。 「世界が滅びれば、僕ら『死神』にとっては生きやすい世界になるでしょう。有難い話ですね」 甲板の上を彼は静かに歩いていく。 男の行く先にいたのは、朽ちた制服らしきものを着た男。 胸元についたネームプレートには船長と記されているのがどうにか見てとれる。苗字は河村というらしいが、下の名前はもう読めなくなっている。 「調子はいかがですか、船長?」 「順調だ。……本当にセリエバとやらを呼ぶのに協力すれば、我々は故郷に帰れるんだな?」 外れかけた眼で男を見つめる船長。 「ええ。こんな海の真ん中で朽ちていくのは嫌でしょう? 『死神』に魂を売れば、見返りがあるものですよ」 薄笑いを浮かべ、男は応じる。 「ああ……帰るんだ。懐かしい場所に……」 呟きと共に、水面が渦巻き始めた。 水柱が立ち上り、幽霊船に付き従う。 「せいぜいがんばってください。その執着が強ければ強いほど、『死神』の支配下にあるアンデッドは強くなるのですから。……アークに勝てば、本当に帰れるかもしれませんし」 大鎌の男は大して興味もなさそうな声音で船長に背を向けた。 「ま、帰るときにはただの死体に戻ってるでしょうけどね」 黒い布を跳ね上げて、男の背からカラスのような黒い翼が広がった。 ●ブリーフィング アークの一室にリベリスタたちが集まったところで、『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)が語り始めた。 「セリエバという言葉を聞いたことはありますか?」 主流七派のうち『剣林』『黄泉ヶ辻』『六道』が協力して召喚しようとしているアザーバイドである。 「彼らは『万華鏡』の範囲外である海上で儀式を行おうとしています。その上、海洋上に幽霊船を配置して特殊な光で魔法陣を描こうとしているようです」 けれど、その海に向かう途中の船ならば、万華鏡で察知することができる。 船を襲って情報を集めることで、儀式の全容を把握することも可能になるはずだ。 「皆さんには、こちらで用意した船で幽霊船の1つを襲撃していただくことになります」 虹乃はディスプレイ上に表示した海図にラインを描く。 「察知した船はこのルートで移動します。モーターボートで追跡し、襲撃をかけていただくことになります」 船の上にはアンデッドが10体乗っている。 うち9体までは、特別な力を持ってはいない。とはいえ、彼らの爪には麻痺と猛毒の効果があるので油断は禁物である。 河村という名の船長が振るう爪は、麻痺と死毒、呪殺の効果を発揮する。 それに、彼は指揮をすることで仲間全員の攻撃力や防御力を上昇させることができる。 なお、全員が銃器を装備している。 「それからエリューション・エレメントの水柱が4体、船の四方を守っています」 彼らは敵意を持って近づく者に襲いかかってくる。 大津波による攻撃は戦場全体にを吹き飛ばした挙句に、犠牲者を圧倒する。近づいて包み込み、呪縛してくることもあるようだ。 「エリューションの他に『死神』を名乗るフィクサードがいるようです」 彼は『黄泉が辻』に所属するフィクサードだ。詳細は不明であるが、どうやら『死神』というのは組織名であるらしい。 「彼らはアンデッドを操る技術を持っているようです。そのために、船のアンデッドたちは『セリエバ』を召喚することで生き返ることができると思い込ませています」 もちろん、真っ赤な嘘だ。死者が蘇ることなどありえない。 けれどそう思い込ませることが必要らしい。 「身のこなしや外見から、フライエンジェのナイトクリークであると推測されます」 不利になればこの男は飛んで逃亡を計るだろう。もっとも、陸地までたどり着けるかどうかは微妙なところだが。 「今回の目的は敵を倒すことではなく、船にある敵の情報を手に入れることですので、彼がどうなろうと問題はありませんので、余裕がなければ逃げるに任せてもいいでしょう」 あくまで今回は情報収集。 セリエバ召喚阻止のための、前哨戦に過ぎないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月12日(水)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●小船は一路 アークが用意したモーターボートで、リベリスタたちは幽霊船を目指していた。 「『黄泉ヶ辻』所属の奴はどうしてこう……気に入らないけど相手したくなるんだろう」 前髪の下から、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は彼方を見ていた。 七派の中でも『黄泉ヶ辻』が奇怪な集団ということは、リベリスタなら誰でも知っていることだ。 「益体もない奴らが随分と集まっているのねぇ、セリエバの周りには」 金髪の女性がため息をついた。 「前の船の死人は六道が用意した連中で自意識の一つも無かったけど、今度の『死神』は知性と心残りがあるのを操るというより利用しているみたい。数は多くなくても厄介だわね」 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は、以前にもセリエバ絡みの船と交戦したことがあるようだった。 銃の形をしたアクセス・ファンタズムの引き金に彼女は指をかける。 そして、幽霊船のことを思い出すリベリスタはもう1人いた。 「去年の幽霊漁船事件を思い出すな。『死神』ども、また死人を誑かしやがって…ぶっ潰してやるぜ!」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が思い出しているのは、もっと古い事件だ。 今回遭遇するはずの『死神』なる連中は、必ずしもセリエバ絡みだけで行動しているわけではないらしい。 彼の手にしたタロットより、ナイフと銃がすでに姿を現していた。 「まあ、どうであれ撃倒して暴いてやるだけなのだわ。幽霊船のシージャックと参りませうか」 エナーシアは聖別された銃を両手に構える。 彼女の言葉に、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は無言でうなづく。 話せないわけではないが、沙希は言葉を発して会話するのが好きではなかった。 「セリエバ関連も随分と活発になってきましたね。止められる内に止めてしまいませんと……」 「……セリエバの……召喚を……防ぐため……この戦いに……勝ち……しかるべき……情報を……得ないと」 メイドの衣装を身につけた2人が言葉を交わす。『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)とエリス・トワイニング(BNE002382)だ。 アークのリベリスタには、何故かメイド服を愛用する者が少なからず存在する……男女を問わず。2人もそんな者たちの一部であった。もっとも、エリスは服は好きでもメイドそのものには懐疑的だったが。 遠くに幽霊船が見えてきた。 「そろそろですね」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が仮面をかぶる。戦いに際しては、子煩悩な素顔を隠し、感情を抑えて挑むのが彼の常だった。 「全く、アザ―バイドを呼び出そうだなんて阿呆な事を考えるねえ。ナイトメア・ダウンの時に、何が起きたか忘れたのかね」 呟いたのは金色の騎士だった。『イエローナイト』百舌鳥付喪((BNE002443)は重そうな鎧は、揺れる船上で時折かすかに音を鳴らしていた。 「まあ、覚えてる上での凶行なら、それだけの実力が有るのか見せて貰おうか。もし私達に負けるようなら、土台無理な話さ」 「とりあえずはさっさと敵を倒して船を止めるとしましょう。船内はそれからじっくり調べませんとね」 付喪の言葉に、五月がうなづく。 「幽霊船で宝探しかー、まるでガキん頃に読んだ御伽噺みてーだ。……なーんて、悠長に思い出してる場合じゃねーな。とっとと片付けっか」 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)はパーマのかかった頭をかくと、取り出したタバコに火をつけた。 「次は勝利の一服といきたいところだ」 くわえ煙草の『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が、言葉と共に煙を吐き出す。スキットルの蓋を開けて、ライフルを取り出した。 2条の煙は、敵船が射程に入る直前に揉み消された。 ●踊る水柱 京介が小さな翼を仲間たちに与える。 影継は魔力のナイフをかまえて、もっとも近い水柱へと突進する。 すべての水柱が動き出す。さすがに、狙った水柱以外動かないというほど甘くはないらしい。 動き出す水柱が、まるで腕を伸ばすかのように伸ばしてきた塊をかい潜る。 「影なる刃は水をも断つぜ。邪魔をするなら叩っ斬る!」 魔力のこもったナイフを振るう。端から見れば、それは小振りの刃物にしか見えないだろう。 しかし、敵に触れた瞬間、魔力と闘気が爆発する。 半ばから両断した水柱はすぐにつながり合ったものの、その容積は明らかに元の姿よりも少なくなっていた。 「……邪魔をするな」 「悪いが、邪魔させてもらうぜ」 そのまま影継は甲板に降り立つ。逆手に抜いた銃を、不死者の船長につきつけた。 七海は船長の近くに着地した。 剛弓の弦を引きながら集中力を高める。 他の仲間たちも次々と甲板の上に降り立つ。 「はじめから全力でいくわよ」 朽ちた箱を利用して遮蔽をとったエナーシアの手がひらめき、目に映る敵全てに銃撃をくわえる。 「まず最初に言っとくけど、あんた達騙されてるよ。死人が生き返るなんてある訳ないだろう?」 魔陣を描き出しながら、付喪が船長や近づいてくる船員たちに宣言する。 「弱点……これといって、なし……でも……水柱は危険……早く片付けたほうが……いい……」 エリスが告げる。 水柱から倒そうというリベリスタたちの作戦が裏付けられた形となった。 星龍が銃弾が船上を焼き、沙希が魔力を活性化させる。 仲間たちがそれぞれの役割を果たす間に、七海は船員たちの動きを見ていた。 炎が宿った矢じりを放つ。 それは火の雨となって降り注ぎ、すでに弱っていた水柱が海水に戻る。 さらに炎はマストの1本を燃やし始める。 船員ゾンビが数体、あわてて火を消し始める。アンデッドとなっても船を大切に思う気持ちは変わらないようだ。 「うまく、船員たちの気を引けたみたいだな」 半身にかまえて、七海は呟いた。 炎は、叩きつけるように放たれる大津波のせいもあって、ほどなく消し止められてしまったが。 沙希は『死神』が飛来する羽音を聞いた。 低空を回り込む動き。 (敵が来る!) とっさに放った念話が果たして届いたのかどうか。少なくとも、支援効果という意味では京一が言葉にして出す指示のほうが上だ。 ただ、和人と影継がその前にたちふさがったのは事実だ。 和人は油断なく、装着したアームガードで守りを固めている。 「どーせ引っ付いとくなら綺麗な女が良いが!」 死神の鎌がまとった漆黒の気が振り下ろされたのを、彼は受け止めてみせた。 無傷とはいかないだろうが、痩身に似合わず彼は頑丈だ。 「さすがはアーク。簡単には死んでくれないようですね」 黒い布の下で彼は笑っていた。 影継の銃撃を受け止め損ねて、黒布が赤く染まった隙に、沙希は彼の心を読もうと試みる。 (……っ!) 彼は1つのことだけをひたすら考えていた。 リベリスタたちが、船長たちが、そして彼自身が無惨に朽ちる様だけを。 (本当に、読心で得をすることなんてないわね……) ねじ込まれるような不快感。 今までの人生で、読心で得をしたことなどなかったが、やはりロクな事はない。 次は船長……の心を読む前に、彼女は愛用の万年筆を軽く振り回す。 空中に大天使を描き出す。鎌で傷つけられた仲間たちを息吹が癒した。 京一は仮面の下から戦場の状況を観察していた。 マストの火を消したゾンビ船員たちも、戦いに加わるべくリベリスタたちに近づいてくる。 けして強敵ではない。 しかし、その爪にはリベリスタさえ猛毒に冒し、麻痺させる毒が仕込まれているのだ。 エナーシアと七海は動きを止められることなく戦い続けていたが。 星龍と七海の放つ攻撃が水柱とともに彼らを炎に包んでいる。だが、船長の指揮によって守られた彼らを倒すことはけっして容易いことではなかった。 付喪や五月を麻痺させた船員たちが、京一のみならずエリスや沙希にも迫ってくる。 その一撃が沙希に直撃した。 「……くす」 倒れてもおかしくないほどの打撃を受け、彼女は目を細めて笑っただけだった。 「そのくらいで私たちを止められるとは思わないでください」 感情を押し殺した声。手にしていた杖が輝きを放つ。 麻痺していた仲間たちが再び動き出し、なおも敵を削っていく。 津波が甲板の上に立つリベリスタたちを押し流そうと襲い掛かってくる。 エナーシアは流されようとしているのが自分たちだけであることに、すでに気づいていた。 アンデッドや死神は流れに押されることはないようだ。 彼女は押し流されても落ちないような位置取りを確実に選ぶ。 もちろん遮蔽を取ることも忘れない。 「ずるいですね。でも、負けませんよ!」 五月が千切れそうなマストの紐をつかんで体を支えていた。 「そろそろ倒れてもよさそうだが」 星龍のライフルから放たれた弾丸が、炎と化して戦場をなめる。 付喪が生み出した雷鳴も駆け回っていた。 たたらを踏みながら甲板に着地した五月の脚がうなりをあげ、水柱の1体を切り裂いて水に還す。 残りは2柱。 「一気に片付けてあげる。兵は神速を貴ぶ、侵攻するなら特にだわ」 遮蔽からエナーシアが身を乗り出す。残る水柱をまとめて視界に捕らえて、銃が一瞬のうちに幾度も銃声を響かせた。 砕け散る水柱の一方。 ほとんど間を置かずに、最後の1体をエリスの放った魔法の矢が貫いていた。 ●心残りを砕け 水柱が砕けても、アンデッドたちはひるむ様子を見せなかった。 少なくとも、数だけならばまだ敵のほうが多い。 ダメージが蓄積しているのは互いに同じ……とはいえ、回復役の有無という差はあった。 エリスはひたすらに回復を続ける。 回復は、彼女にとってただ1つ自信の持てるものだ。 疲れることのない死者たちの群れがどれだけ爪を振るおうと、大天使の名を冠した書を手にしたまま回復を続ける。 「やれやれ、こんなに攻撃しているのに殺せないなんて、厄介ですね」 平坦な声で死神が告げる。 いつの間にか、その体には影がまとわり付いていた。 影から闇のエネルギーが放たれる。それは彼の頭上に固まって、赤い月を形作った。 半数ほどの仲間たちが毒と麻痺に襲われている。呪いの力を秘めた月の一撃は、それによってさらに強化されるはずだ。 だが、影継は死神よりも一手早かった。 「黙って見逃すとでも思ったか? 新品のシードだ。たっぷり味わってくれよ!」 自己強化にわざわざ手数を割き始めたのは、それだけの攻撃をするつもりだと予測はつく。 胸元に突きつけた銃が火を吹いて敵が衝撃によろめく。 それでも発動した赤い月がリベリスタたちに不吉を告げていた。 付喪が膝を突く。 「……死神のお迎えにはまだ早いのでね」 金色の騎士はまだ倒れない。そして、倒れていないならエリスが治せる。 「付喪……倒れさせない……」 周囲のエネルギーを取り込む技を身につけたエリスにはまだまだ余力がある。 魔道書を介して接触した意識体の息吹が仲間たちを癒すと同時に、麻痺からも解き放っていた。 星龍は船長へと狙いを定めていた。 全体を焼く炎は、とうに決めていた回数使い切っている。 船員たちはそれなりに数を減らしていたが、まだ半数以上は生き残っていた。 「あまり連発もできないからな」 千丁に一丁製造されるといわれるライフルは、狙った敵をけして外さないと言われている。少なくとも命中精度が非常に高いのは間違いない。 今は、その銃を炎に包まれた船長に向けている。 銃口に凝縮されていくのは魔力と呪力によって作り出した弾丸だ。 引き金を引けば、彼の銃を用いてそれを撃てば、生半な相手にはかわされることはない。 彼に向かってこようとした船長を、五月が止めている。 船長が燃え上がっているのは五月の炎の腕によるものだ。 その背後から、星龍は弾丸を放った。 弧を描いて飛ぶ弾丸が死者を呪う。 「私の呪いがその炎を消させない」 少しずつ、船長の体力は削れていっていた。 和人は死神と切り結んでいた。 実力は確かにある。1対1では勝ち目がなかっただろう。だが、2対1なら圧倒できる。 不気味な大鎌を、銃身で受け止める。 エリスやエナーシアによればただの武器ではないらしいが、といってなにか特別な力を発揮する様子は今のところなかった。 鎌がひらめき、死の刻印を刻んでくる。 「あいにく頑丈にできてるもんでね」 軟派な風貌に似合わず、彼はクロスイージスだ。頼れるだけの頑健さがある。 頑健さを頼りに彼はアームガードで殴りつけ、銃撃を繰り出す。もっとも、彼の役目は牽制だ。 ひるんだところに、影継が踏み込んだ。 「斜堂流、デスクラッシャー!」 気合とともに切りつけたナイフの刀身が爆発する。 黒い布が吹き飛んで、素顔が見えた。死者のような冷たい目がリベリスタたちを眺める。 死神が翼を広げた。 「逃げる気か?」 「ええ、こちらの負けは明白です。死ぬならもう少し価値のあるところで死にたいですので」 逃亡していく敵の背後から、和人と影継は銃を撃った。エナーシアの銃も翼を傷つける。ふらつきながら飛ぬ敵が陸地にたどり着けるかどうか、怪しいところだ。 付喪は群がってくる敵の攻撃を、金色の鎧で受け止める。 まだ死神につけられたダメージは残っていたが、動けないほどではない。 さらに、風が付喪に吹き付けてきた。 沙希の起こした清らかな微風が残った傷を完全に癒してくれる。 船員たちは攻撃に巻き込まれてすでに数体が減っていたが、まだまだ数が多い。 五月が振るう炎の腕と、七海の炎の矢が敵を焼いている。 それでも敵は動きを止めなかった。 最初に告げた、騙されているという彼女の言葉を彼らが信じることはないようだ。 「信じようが信じまいが、悔いも何も残らない位、派手にぶっ飛ばしてやるから覚悟しな!」 騎士が手にした分厚い魔道書から生まれ出るのは、雷鳴だった。 船の上を駆け抜けた雷は、すでに弱っていた敵を完全に吹き飛ばした。 五月は船長をブロックしていた。 とはいえ、必要はなかったかもしれない。 エナーシアに足を撃ち抜かれた船長は、歩きにくそうにしている。 「なあ、還りてーんだろ? 『死神』に何言われたか知らねーが、あいつに付いてっても同じ事だぜ。あんたらはもう、生きちゃ戻れねーんだ。だから、せめて眠らせてやる」 狙い済ました和人の銃撃が船長を撃ち抜く。 影継も五月の横に並んで痛烈な一撃を叩き込んでいた。 「帰るんだ……私は……!」 死者に諦めるという言葉はない。強力な毒のこもった爪が五月の服を引き裂き、肌を傷つける。 しかし、京一の放つ輝きが毒を癒し、傷はエリスが治してくれる。 死神によって力を与えられた敵は、いやらしいことに動きを縛るような技は通じない。 ならば燃やすだけだ。 「アンデッドばかり。燃やしてあげた方がいいでしょう?」 手甲に生えた鋼の棘が恐るべき業火に燃え上がる。 薙ぎ払った五月の腕は、炎に巻かれた船長をさらに燃やし、焼き尽くしていた。 ●船内にて 壊れかけた舵を観察して、影継はそれがまだ機能していることを知った。 「自動操縦ってわけじゃないらしいな。操作するやつらがいなくなれば、後は海流に乗ってただようだけ……か」 神秘の力で補強されてはいるようだが。 「中の調査次第だな」 他のリベリスタたちは手分けして船の中を調査していた。 「今回必要そうなのは儀式場よりも儀式に関する情報だよな。日時だとか供物だとか」 七海は自分のランプを五月に貸し、船内を見て回った。 儀式に使うのであろう謎の品々が貨物スペースには積まれている。 セリエバ召喚の儀式についての詳しい情報は、すぐこの場で確認するのは難しいだろうが、アーティファクトらしきものがあれば彼はとりあえず回収して回ることにしていた。 「死神のいた部屋にはなにもないですね」 ランプで部屋を照らしている五月が言った。 死体の絵が壁一面に描かれているのは、暇つぶしに描いたものか。 彼はあくまで護衛、あるいは助っ人でしかないというところなのだろう。 (だいたいの航行ルートは、河村船長の頭の中に入っていました。ただ、海図がないと解析に時間がかかりそうですが……) 沙希が念話を送ってくる。 「見つかった。日誌と一緒に海図も置いてあったぜ」 航海日誌を確認した和人が仲間たちに声をかけた。 日誌自体も……アンデッドとなってもつけていたらしい。ほとんどは単なる航行記録でしかないが、精査すればセリエバ召喚の手がかりが見つかるかもしれない。 「……身元なんかもこいつがあれば調べやすいかもな。家族のこととかも書いてある」 プライベートを覗くようで、あまり気分はよくないが。 発見した海図を手に甲板に戻る。 付喪と影継が、死体から遺品を回収していた。 「持って帰るんですか?」 「そのつもりだ」 京一の問いに影継が応じる。 「まあ、あんなに帰りたがってたしね。故郷に帰してやっても良いんじゃないかい?」 ネームプレートは朽ちかけて読めないものも多い。それでも……持って帰れば、身元を調べる方法はあるだろう。 死者は死者に還り、そして故郷へと帰っていく。 リベリスタたちと遺体を載せたモーターボートは、幽霊船から波を蹴立てて離れていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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