●雷斧、天に据え その存在が上空に現れた時、リベリスタ達は勝利を目指し天を仰いだ。 その存在が猛威を揮った時、リベリスタ達はその驚異に背筋を凍らせた。 その存在がそこにあり続けることは、リベリスタにとって……否、世界にとって禍根というべき存在である。 故に、それは何れ駆逐されねばならず、それは何れ火の海を睥睨するものである。 然るに、それは加護を呼ぶ斧である。 然るに、それは稲光を呼ぶ槌である。 其の名、ウコンバサラ。 破壊と再生を一手に携え、天から見下ろす大雷斧。 ●観測記録;甲 アザーバイド『ウコンバサラ』、出現時より相当時期経過。 リベリスタ第一次接触より、リフレクトミラーの増殖現象を除き大きな変化はなし。 ピンポイント攻撃の確定値より、より正確な情報が求められる。 幾度目になるだろうか。 地上に突き立てられた炎の槌の焦げ痕たるや、その威力が並ではないことを理解させる。 だが、それがリベリスタに向けられたことは、かつての戦闘からここまで、一度も発生していない。 まるで、放出することそのものが義務であったかのように。 まるでそれは、怒りよりも怯えを感じさせるものだった、とでも言えようか。 そして炎は、再び天から降り注ぐ。 ●Rit. 地上に点在する焦げ痕、嘗て撮影された姿、そして降り注ぐ炎の映像。 情報としては余りに多く、整えられたそれはそれだけの禍根を残してきた存在であるということを伺わせた。 「アザーバイド、『大雷斧ウコンバサラ』。機動衛星型アザーバイドで、周囲に四基のリフレクトミラーを装備。主兵装である砲門からのレーザーを、リフレクトミラーによって多方向に反射する特性を備えています。 リフレクトミラーには神秘攻撃のリフレクト効果を有し、接近に対し積極的攻撃を行ってくることが確認されて……まあ要するに、『物理で間近からぶっ潰す』ことが最優先課題となります」 背後に投影されたデータ、手元の多量な資料に片手を載せ、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は静かに言葉を紡ぐ。 「こいつ、何時からここに居るんだ? その言いようだと、随分とよく知ってるようだけど」 「そうですね……概ね十ヶ月は居るでしょうか。一度遊撃作戦を展開しています。ただ、その時は接近できませんでした。もろもろ原因はありますが、そこは飛ばします。重要なのは、事ここに至って未だにあちらが、大きな動きもなく留まっていること、ただ一点です」 「放置は……無理そうだな。どうして今までほっといたんだ」 傍目には呑気とも取れなくない言葉に、リベリスタの一人が呆れたような声を出す。だが、返答は心底嫌そうな表情だったりもする。 「見込みも、計算も、予測も、足りなかったからですよ。ああでもないこうでもないの繰り返しで、やっと見通しが立ったくらいで」 「なら、その『見通し』とやらを教えてくれ。そこまで言うなら、倒せるから俺ら呼んだわけだろ?」 「辛辣ですね、何かあったんですか? ……まあ、いいでしょう。 前回の状況から、最大出力の攻撃は本体が無防備になる代わりにリフレクトミラーが異常に厄介であることなどが判明していますが……データ収集を進めた上で、多少なり穴が存在することが明らかになりました」 「穴? 話聞いてた限り、近付く前に穴だらけになることしか予想できねえよ」 「ええ。少なくとも前回のデータだと、そうです。ただ、あのレーザー……ボトムに適応したせいもありましょうが、空気によるエネルギーの減衰が起こることが確認されました。 少なくとも、接近に際してはるかに効率良く出来る可能性が高いです。今度こそは、確実に撃破できるように対策を進めていますし、十分出来る、と思っています」 「近づいてぶっ叩いて、バランスを崩す……で、その後どうなるんだ、これ。この超エネルギーが地面に落ちたら」 「そうですね。辺り一面神秘と破壊でえらいことになりますね。ですから、墜落までに破壊する必要がある」 自由落下を行うエネルギー体、といえば分かりやすいか。 そんなものが神秘の坩堝、三ツ池公園へ落下すればどうなるかなど考えるまでもなく最悪だ。 故に、それを止めろと夜倉は言う。かなりの無理をおして、だ。 「つってもさ……これ、飛んで近付くなら『時間切れ』の可能性があるんだろ? その辺については?」 「その辺りは、適任が一人。以前、アークで保護したリベリスタが、ね」 その言葉に合わせたように、ブリーフィングルームの扉が開く。 靴音は高らかに、向けた視線は鋭く正面に。 その姿は、悲壮を経て殻を割った雛鳥にも似たしたたかさを感じさせた。 「顔なじみの方が居るかも知れません。嘗てアイドルグループ兼リベリスタチームとして活動し、フィクサード集団『ツァラトゥストラ』により襲撃され、結果その道を固めた少女達の一人――」 「『兵藤 宮実』ともうします。宜しくお願いします。クミ、と名乗ったほうが通りがよいでしょうか?」 少女は静かに頭を下げる。 殻を破れなかった少女達――『エンジェリカ・レイン』だったそれは、翼を広げるのを待ち望んでいる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月07日(金)23:32 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●飛来する本能 遥か天上から見下ろす影は、その大きさから想像以上にゆっくり動いているように見えた。 或いは、全く動いていないのだろうか。 厳かにその場に影を落とすその主は、果たして何のためにそこに現れ、何を思ってそこに留まっているのか。 識る者は居ない。ただ、『在る』ことを知っているだけだ。 ブリーフィングルームに残された一枚の提案書は、果たして受理されたかは別の話として……作戦結構当日、空には薄雲がかかっていた。 これから起こるべくして起こる騒乱を予感させもする、『どうにでもなる』雲の色だ。 「待ち、に待った再戦……」 茫洋と、或いは恍惚としているようにすらとれる声は『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)のものだった。 二つに結った髪は、上空から吹き降ろす風で揺れ動く。その乱れが、これから来る戦いの騒乱を表しているようにすらとれるのは、彼女の持つ独特の空気からなのだろうか。 未だ地についた足を見て、次いで上空に視線を向ける。遥か高みに鎮座するその影は、確かな悪意――ではない。 ウコンバサラは淡々と攻め、撃ち落としにかかってきた。それは彼女も覚えている。 あれは確かに本能で自分たちに攻撃を加えてきていた。それは分かる。彼女にとってそれは、近親感を覚えるものではないだろうか、とも。 戦うことに猛り、勝つことを夢見て、敗北すら己の糧にしてきた彼女にとって、共感するならばより確固たる勝利を得なければならないのは当然ではないのだろうか。 「……感傷が、過ぎる、か」 ここに居ない者、嘗て戦った仲間を静かに思い、頭を振る彼女に感傷は見られない。少なくとも、外見では。 「凄まじい威圧感だな」 同じく、空を仰いだ『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)の大斧は、彼の手の中で軽く音を立てた。 彼自身が揮ったのではなく、彼に向かって吹きつけた風がそうさせたのだろう。 まるで、上空のそれが『向かって来い』と言っているかのようだ、と彼は感じ取る。 それが偶然であれ必然であれ、彼は戦う為にここに居る。 天に座す雷の斧。己が構え、築きあげてきた世界の全てと名を同じくする存在はただ、そこに『在る』という存在感を保っている。 近づけば容赦なく。遠くにあっても慎重に。光の束を地面に打ち込むその様は、暴虐であり怯えでもあったのか。 ……どうでもいい話、なのかもしれない。その答えを代弁するかのように、びょう、とグレイブディガーが啼いたような気がした。 「衛星型アザーバイドとは、厄介な」 魔銃と布をそれぞれに携え、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)はコンパクトに構えを取り、上空を仰ぐ。 幾度か、空中で閃光が閃き、届かずに空気に流され散ったのを視界に収め、目を細め……その熾烈さに眉根を寄せた。 仮初の翼を得ずとも自らを重力の楔から放つ術を持つ彼女は、その力を持つ意味を知っている。こと、この戦いに於いては重要な力でもある。 天へと向かい翼を手折られたのがイカロスであれば、届けるべき場に拳を突き上げ天上を叩き落とす彼女は、宛ら神を拳に捉える逆徒にも似ている。 「長いようで短かった、一年の締めくくりね」 ほぼ、この年を通し空中に在り続けたその存在力と意地だけは認めなくもない。そんな言葉を漏らしそうな『薄明』東雲 未明(BNE000340)だったが、彼の存在がどれだけのものを見てきたかは、ほかならぬ自分たちが知っているというものだ。 異世界からの来訪者も、彼のような異邦存在も、変化する世界のあり方も、それは見たのだろうかと思う。 この世界に現れ、そこに居座る存在はさながら居直り強盗のようにもとれなくもないか。だが、只管に攻撃を繰り返し、その度空中に消え、或いは逸れて散っていく光の乱舞は、その存在なりの意思表現なのだろうか、とも思う。 だとすれば、何と不器用で無様であることか。脅威を感じこそすれ、憎悪に至らないのは斯様な理由あってこそだ。 そして、並び立つ『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が見据えるのは、天空を支配する相手……では、ないだろう。 恐らくは、並び立つ筈だった仲間を、戦いに赴くべきであった少女の姿を幻視していると思われた。 志半ばに消えていった者を想い、それでも消えないその意思を引き継ぐのは彼らの役目である。 「最期に一緒に戦った身として、代わりに終わらせちゃる」 しかし、そんな「義務感」だけで動くリベリスタではない。縁が彼らを突き動かす糧なれば、それは何より尊くもあるのだ。 「空を飛ぶのって大好き。いつだって風が優しく私を包んでくれるんだ」 空を愛する。それは、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が翼を持つものだから得た感傷ではないだろう。 持って生まれた気質、或いは翼は後付けの要素でしか無く、彼女の意思そのものの具現なのかもしれなかった。 だから彼女は空を仰ぎ空を思慕する。大仰に、世界を護るということを声高に叫ぶためではない。 ただ、想うべき空を護るために、である。その腰に佩いた刀は、その決意を受けるに足る器である。 彼女は、賢明であり、聡明であった。ただ、惜しむらくはそれが『現実的な範囲で』という接頭辞がつく程度。 並のクラスを超えてはいる、というのは事実だろう。 「親の失敗は子が雪ぐ。たとえ、それが会った事のない人だとしても」 親の因果が子に報い、などという十人並みの感想が『親不知』秋月・仁身(BNE004092)にあるわけではない。ただ、そんな奇遇や彼自身の意思がここへ呼び寄せたわけではあるまい。 それ以上に、因果があり現実がありめぐり合わせがあり偶然があり、そして決断があったのだ。 雪ぐべきは親の失敗ではない、のだろう。恐らくは、彼の信じるべきもの、負うべき現実と追うべき背中の残照だ。 親や子やソレ以外の要素を差し引いても仁身はアザーバイドを嫌う。外界の来訪者は、外界の王達は、彼の母の人生を狂わせて消し飛ばした。 知る由もないところで。知っている事実として。それが縁かは知らずとも、憎むべき素地は確かにあるのだ。 「……ですから、俺が守りますよ」 そう、努めて柔らかく、だが鋭さを残す瞳を向けた先にはこの作戦に於ける要――と、仮に考えられる兵藤 宮実の姿がある。 一線級のリベリスタに比べれば装備も実力もあるとは言えない。せいぜいがアークの平均に至るか否かの彼女が、ここに居るのは似つかわしくないのかもしれない。 それでも、彼女はただそこにいる。力強くうなづいている。 「彼からしたら自分に与えられた使命を果たしてるだけなんだろうけど……」 仲間が対峙した。それだけで、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)がこの場に居るのは十分だった。 終わらなかった物語は、自身で終わらせることを求めようと想う。そして、ただ義務を果たすだけの存在であろうとも、世界に幸福を与えない存在は、倒す以外の選択肢は許されない。 救えればという選択肢は既に途絶えて久しいが、(リベリスタの基準という観点からすれば)愚かしくも敵となった存在にその意義と救いを求めるのは、さして珍しいことではない。 少なくとも彼には。少なくとも、アークでは。 だから、彼は数え切れないほどその『折り合い』を付けてきたに違いない。 だから、彼は今回もそうするに違いなかった。 「加速だけじゃないところモミセネートナ」 雪辱という点のみで見れば、『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)もまた例外に漏れない存在である。 高みへと至ろうと想い、その身をより高く、願った果てにその姿は地に落ちた。落下する感覚は、果たして覚えているか否か。 だが、人は云う。落ちるのは、這い上がるため。より高くへと至るため。 であれば、それすらも糧にしているから今この地に立つことが出来たのだろう。再びの戦いに赴くからこそ。 光すらも置き去りに、翼の在り方すらも虚構にするほどに、速度を求めた在り方は、再び高く舞い上がろうとしていた。 「機械ゴトキニ私ヲ捉エル資格ハ無ェ」 ただ不遜な言葉は、確たる真実を伴って吐き出された。 「よもやリアルで縦STGとはね……面白いじゃない」 仮初の翼を与えられ、直ぐにでも飛び立とうとするリベリスタ達の中にあって尚不敵な『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の存在は異質だったと云わざるをえない。 否、彼女が余りにも普通すぎたが故だろうか。異質を是とするリベリスタ達の中では殊更浮いて見えるのだろう。 その身を幸運と不運の巧妙な細工に押し込めたが故の歪みか、生来のそれかは分からずとも……ただ言えることは、彼女はこの状況すら『楽しんでいる』。 仮初の翼が広がる感覚が、意識の加速が始まる聞こえざるクロックアップの音が、魂の燃える音がリベリスタ達に熱を与える。 地から足を離した時点で彼らは天上の敵となる。唯一無二の意思持つ槍となる。 振り下ろされる雷を巧妙に奪い取る、それがための戦いが始まるのだ。 「……皆さん」 「近付くまでは守る、余計な事は考えずに全神経を注ぐぜ」 宮実の震えが交る声をランディが制す。 何も云わずについてこい、と。無骨な男の背が語った気がした。 「機械ゴトキニ私ヲ捉エル資格ハ無ェ」 そして、不敵な狐の声も。 ●振り下ろされる、大戟 真っ先に加速し、全速で飛翔したのはリュミエールとランディのニ名だった。守りと攻めに長け、砲火を抑えるに何より適す男と接近速度では随一を誇る少女との取り合わせは、考えうるプランとしては最上といって良いだろう。 が、それに沿うようにして等しい領域に飛び込んだのは、終だ。失策ではなく、彼の本質の一つとして。肉体の加速が、彼に前進を促したに過ぎない。 少なくとも、それが枷になることはないと知っている彼は、二人と並び立ちながら守りの構えを取る。 「……最初、から、か。上等」 「開幕ボムなんてボスのやることじゃないのだわ。焦っているのかしら?」 そして、その直下から上がった天乃とエナーシアの声は、確かに全員を戦慄させるに足る情報だった。 自らを狙ってきた光の一射をゆうゆうと交わしたリュミエールですら眉根を寄せる。ランディもまた、先んじてそれに曝されることを理解し、構えをとった。 曰く、第一射からの――マルチレーザーの準備行動。踏み込んだか否かから既に構えたそれが、如何に彼らを警戒しているかが見て取れよう。 「縦シューティングじゃなくて盾シューティングですね」 冗談めかして仁身が口にするが、この状況は冗談で片付くほど甘いわけでもない。 確実に回避できるであろう射線を想定し、宮実を先導する役割を持つ彼の働きは、そのまま戦況にすら直結するものだ。 そして、それは仁太にも言えること。パンツァーテュランの銃身が大きく影を作ることで、上空の様子を大分正確にトレースできているが、油断出来ないことは彼とて理解している。 たった一発のレーザーで空から蹴落とされてしまうなら、尚の事警戒せざるを得ない。それだけの敵だ、ということ。 「こんな高く飛ぶのは初めてよ。緊張するわね」 びゅう、と強く風が吹き、未明の頬を、体を叩く。 飛び立ったことで冷えていく空気は、冬の入口に立った彼らには未だ辛い領域の寒気を感じさせるが、それ以上に寒気がするのは、落下してくる凶悪なレーザーだろう。 後続半ですら高度三十メートルに至り、間近に迫るレーザーに自ら突っ込んでいくことになる彼らは決して、正気ではない。 二発目の陽光反射を斧で振り払ったランディは、直ぐにでも到達するそれに視線を向け、流れるように斧を自らの前に掲げた。 「もうちょっと引きつけられる……かな……?」 動きに制動をかけた終は、少しずつ接近する光の波濤を冷静に観察する。まだ、踏み込める。踏みとどまるには未だ早い、と理解する。 「先行する二人は防御準備、同タイミングでレーザーが飛んでくるけど消えるから無視して構わないのだわ!」 「場合によっては私達が交代に回る、無理するな」 進軍を続けつつ、既に数十秒を掛けてレーザー特性の大凡を理解したエナーシアが、先行する二人に指示を飛ばす。 続き、より高くを目指さんと杏樹、そして天乃が構え、交代可能な旨をその身を以って伝える。 「兵藤ちゃんはもしもの為に待機しといてくれんか? もしもがあったらかなわん」 「……は、はい!」 仁太が声をかければ、即座に状況判断に動き、対応に動く宮実。戦闘慣れはしていないのだろうが、指示を聞き受ける柔軟さは備えているようだ。 当座の懸念は回避できたとして、問題は次々と襲いかかる反射光だ。空模様からやや精度は落ちていると理解できるが、それでも宮実の傍らを一射、抜けていったことは事実だ。 接近するに従い激化するとすれば、確実に対応せねばならない。仁身もまた、同じことで。 それと前後して、セラフィーナは移動しつつラジコンヘリを放とうとするが、高度が高度だ。制御自体は可能だとしても、上昇するに従って勢いを増す風や、その大きさを、果たしてウコンバサラが認識するかは微妙なところであろう。 尤も、リベリスタ達はそれを承知の上で手にしているのだろうが。 光の波が、先ずランディとリュミエールに襲いかかる。断続的に近づいてくるそれは、リュミエールの袖口を掠り、ランディの斧へと叩き込まれる。 思わず仰け反りかねない威力だったことは、認識した。だが、自らが従える浮遊感が落下に切り替わらないことに遅まきながら気付いた彼が声を上げるが早いか、既にそれは後続のリベリスタにも到達していた。 「――消えるってわかっててもぞっとしねえな」 収束した光が眼前で露と消える様は、たとえ彼であっても寒気を与えるに足るものだった。或いは、後少し踏み込んでいたら到達していただろうか。タイミングとは、恐ろしいものだ。 「全く、好き勝手してくれるわ」 やれやれといった様子で閃光を振り払う未明は、決して芳しい状況ではないことを理解していた。 一発目の極大レーザーは一人の欠員も出すこと無く凌ぎ、杏樹と天乃が後発で入れ替わろうとしている状況だ。 先行する二人が滞空姿勢に入った位置で後発のレーザーを凌いでいるところを見れば、あの位置が通常のレーザーの限界射程であることは明らかだ。 あそこから先は、正に決死点ということだろう。 同時に、再び光を収束させるウコンバサラの姿を、一人ならず既に目指している。間髪入れずに、とまでは云わないが明らかにオーバーペースだ。 ……だが、ことここに至って確実にリベリスタに利する情報とて存在する。 「癒し手がガス欠、麻痺じゃあ全滅必至ですから必死にもなりますよ」 「魔力はこっちが請け負うから、宮実ちゃんは回復に集中して、お願い!」 「この調子なら、まだ行けるで!」 後発に位置する宮実を中心に、仁太、セラフィーナ、そして仁身が前進し、各々の言葉で彼女に指示を、加えて励ましの声を飛ばす。 彼女の回復力は微力であろうが、それでも全くのゼロよりは相当ましだ。 最大の懸念事項である魔力切れは、インスタントチャージに裏打ちされたセラフィーナの潤沢な供給が十二分に補うことができるだろう。 運命の強制力に頼らず、陣形を確たる状態で保ち、更なる領域へと踏み込んでいく彼らの状況は、二射目のマルチレーザーを前にして、最上に近いといってよかった。 ●至れ、神と雷槌の高みへ 「……百秒……ッ!」 その叫びは、果たして誰のものだっただろうか。 二射目のマルチレーザーは、一射目より鋭かった――言い換えれば。それだけ彼らが肉薄していたということの裏返しにもなるのだろう。 その体制を整える前に次々と接近するレーザーをいなし、受け、払い、守り、リベリスタ達は更に高みへと登っていく。 既に数名、運命の寵愛に頼らざるを得なかったが……元より、ここまでは覚悟の上、想定内。 それどころか、だ。 二射目のマルチレーザーを受けたリフレクトミラーの一基は、その瞬間に自壊している。 彼らが与り知らぬところであるが……それらは、二射目のマルチレーザーを耐え切るほどに堅牢ではない。消耗戦を前提としたサブエンジン。 ウコンバサラの行動をブーストさせ、或いは補助する役割にあるそれらは一基ずつが高負荷に耐えうるものだが、この状況はそれらをして想定外だったと言えよう。 既に、天乃と杏樹は彼女らの述べるところの『全速移動圏内』へと踏み込んでいる。ランディ、程なくしてセラフィーナと仁太も到達するだろう。 だが、裏を返せばそこは決死圏。暴風雨の如く降り注ぐ各々のレーザーを凌がなければ、接近すら許されない。 「お久しぶり、なんて……通じるとも、思ってなかったけど」 気付いてくれたのだろうか、とほくそ笑む天乃。空中でありながら鮮やかに連続する反射光をかわした彼女は、『はいている』状態である。 つまるところ、彼女なりの掛け値なしの全力をこの戦いに持ち込んでいる。何より鮮やかな戦いの記憶を刻むべくここにいる。 だから、手なんて振ってしまうくらいには猛っているのだろう。 「パターンさえ割れてしまえば弾幕なんてただの花火とかわりないのだわ」 「……私ハ瞬神光狐、イケヌ所ナド有ハシナイノダカラ。疾ウ二全テヲ抜キ去ッタ……!」 奇跡と幸運、時に不運に見舞われてもエナーシアは不敵である。 リュミエールは、浮遊感と加速感で既に風と、否、光と等しいほどになっているといって過言ではない。 そして、語るべくもなく、仮初の翼は新たな形を象って久しい。ウコンバサラへの接近は、確実なものとなりつつあった。 「凄まじいな、だが、退かん!」 ランディが吠える。大きく振るわれたグレイヴディガーがレーザーを打ち払う。僅かに閃光が肩を灼くが、彼にとってダメージとは呼べない代物だ。 杏樹が放った閃光弾は、弾避けには『若干の』役には立った。精々十秒、ほんの数発のレーザーを逸らすだけだったが、驟雨を霧雨に変える程度には役に立っていた、とも言えよう。 リベリスタ最高到達高度、二百三十メートル。 到達推定時間、大凡百三十秒――三度目の天の光は、リフレクトミラー二基の構えを以て準備体制に入った。 二基のリフレクトミラーが、高速でウコンバサラの周囲を巡る。回転を繰り返し、全速で反射をサポートせんとする。 ウコンバサラの基底部が光を湛え、次弾の準備を整えようとしていた、正に、その時。 「戻してあげられないなら……オレ達が倒すしかない……!」 それは悲鳴や咆哮にも似て鮮烈だった。 それがその人物の声であると、誰もが最初は気付かなかった。 彼自身の、彼らしい声であるというのに、だ。 そして、自身でも。それが叫びだったなどと気づけなかった。 天へと『堕ちる』ように、その影は飛び込んだ。 まるで流星のように、二振りのナイフが交差した。 それは、誰あろう――鴉魔 終その人だった。 ギリギリの間合いだった。二度目の行動を彼の肉体が許して、間合いに入ることのできる、まさに限界。 第三射が放たれる、刹那の前。光源に叩きこまれた高速の一撃は、確かに、そう、確かにその動きに楔を打ったのだ。 収束した光が三々五々に散っていく。 発射前に比べ圧倒的に弱まったそれは、何処へ向けられることもなく散り急ぐ。 「一心不乱の――」 「邪魔すんなら――」 状況を飲み込んだリベリスタ達が、たじろぐように動きを鈍らせたリフレクトミラーの間を縫って射界へ、そして鮮烈たる間合いへと踏み込む。 エナーシアが、部分遮蔽を掲げた間合いで銃を引き抜く。 仁太が、パンツァーテュランを盛大に構える。 「大連射を!」 「落とすぜよ!」 両者のシャウトが空を舞う銃弾の波となる。ウコンバサラを完全に捉えるには未だ浅かったろうが、リフレクトミラーを削るには十分な打撃となったに違いない。 「邪魔だ!」 ランディが叫ぶ。 レーザー発射の余波で砕けたもの、そこから生き延びた三基のリフレクトミラーは彼の咆哮と共に引き裂かれ、空を舞う破片と成り果てた。 振り上げたグレイヴティガーの勢いは、それを以って止まる様子を見せないで居る。 「お互い守る者があって大変ですね」 凄惨な傷跡を物ともせず、飄々と仁身は構える。その背に宮実を負いながら、堂々たる立ち姿は抗えぬ神秘性をまとっている。 ここまでくれば、それは最早意地である。守り切ることができる、と信じてやまぬ。倒れるわけには、いかないのだと。 「つか、まえた」 天乃の指が、ウコンバサラにかかる。 引き千切るように、ではない。負債を与える様に、そっとその指は触れられ、離れていく。 そこに、命を削った爆薬を残し。炸裂は連続する。 ――その存在は随分と長く、三ツ池公園の上空に存在し続けた。 だからこそ、盛大に、その巨体が傾いだ瞬間に世界は、転換期を迎える。 ●天が堕ちていく 「墜落する間もなく此処から消し飛ばす!」 落下を始めたウコンバサラに肉薄したのは、杏樹だった。 高高度から落下するそれを肉薄する彼女の拳が、真っ直ぐウコンバサラに叩きこまれ、炸裂する。 「お互いがよく見えるようになったわね」 未明が全力で追いすがり、刃を振るって叩きこむ。 その巨体のあまり距離感が曖昧になるが、斬撃が届くほどの距離で叩きこんでいく。 すでにその体表に足を接した彼女が、そこから離れることはありえない。毒を食らわば皿まで、だ。 「隙間を狙え! どんなデケェ奴でも傷口を広げていけば倒せん道理はねェ!」 「ここで一気に落とすよ……!」 亀裂に手をかけ、ランディが全力の一撃を叩き込む。ひび割れた隙間から内奥へと向けられた刃は、中核を着実に、激しく傷つける。 続けざまに向けられたのは、セラフィーナが放った七色の刃。亀裂を次々と割り砕き、亀裂を広げ吹き飛ばしていく。 ウコンバサラの全体から火花が散る。ヒビが広がっていく。 めきめきと音を立てて崩れ落ちていく。 「ブッ潰レロポンコツ!」 リュミエールの叫びが地へ向けて響き渡る。堕ちていく風景がめまぐるしく、激突すべき地上が徐々に見えてくる。 地上へと堕ちていくウコンバサラに追いすがるのは、決して容易なものではない。 当然として、最後まで追いすがれるものは限られてくるが……それでも、リベリスタの意地は自然現象を、状態の定義を容易く超える。 周囲をめぐり、次々と刻印を叩きつける天乃。 閃光が如き勢いで刃を叩き込むリュミエール。 大きく振り上げた刃を構え、叩きこむランディ、そして未明。 暴れ兎の赴くまま、連続して拳を振るう杏樹。 パンツァーテュランを向け、怒号の如き銃弾を振りまく仁太。 引き絞った弓から次々と矢を打ち放ち、宮実を背に追いすがる仁身。 着実にひびを広げ、決定打へ向けてカウントするセラフィーナ。 「残 念 だ っ た わ ね! 残機制なのよ、此方は!」 一度だけの撃墜など、物の数でもなく圧倒的だ。 何度だって立ち上がる。勝利のためにそうしてきた。 エナーシアの叫びが反響し、最後の一撃を叩き込む。 空中で四散するウコンバサラを尻目に、激突する勢いで降り立った終は、その破片を静かに眺め黙祷する。 死すべき運命に最後の弔いを。 終るべき勤めに、ねぎらいを。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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