● 落ち葉に埋め尽くされた森の一角に、異界に通じる穴が開いていた。 先ほど、小さな生き物たちがそこから飛び出していったのだが、一向に戻ってくる気配はない。 初めて見る世界に浮かれて、冒険を楽しんでいるのだろうか。 あるいは、道に迷ってあたりを彷徨っているのだろうか。 異界の穴は沈黙を保ったまま、ただそこに佇んでいる――。 ● 「――今回の任務は、ボトム・チャンネルに迷い込んだアザーバイドご一行の送還だ」 アーク本部のブリーフィングルーム。集まったリベリスタ達を前に、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言って話を切り出した。 「アザーバイドは、仮称『ケサランパサラン』。名前の通り、掌に乗るくらいの大きさをした動く毛玉だが、こいつが森の奥に三十体ほど隠れてる」 ケサランパサランがボトム・チャンネルを訪れたのは、まったくの偶然である。 見知らぬ世界に出た彼らは、ぐるぐると周囲を探索するうちに帰り道を見失ってしまった。 これ以上動き回るのは危険だと判断したケサランパサランは、とりあえず身を隠して様子を見ることにした――という経緯らしいのだが。 「連中、異空間に隠れる能力を持っていてな。ここに隠れている間は食べ物とかも必要ないんで、放っておけば何ヶ月でも篭城しかねない」 さらに悪いことに、ケサランパサランはこの状態でも崩界を促してしまう。つまり、早いうちに彼らを元の世界に戻す必要があるわけだ。 「ただ、連中の『身を隠す能力』は完璧だ。流石は上位世界の住人と言うべきか、こっちの世界に存在するスキルでは、まず存在を感知することができない」 身を隠していると思われる一帯は分かっているので、範囲攻撃で薙ぎ払うという選択もなくはないが、その場合は三十体という数がネックになる。一撃で全滅させるのは不可能に近いし、攻撃を加えた時点で残りには逃げられてしまうだろう。 「そんなわけで、攻撃して殲滅するという線は今回は無し。引きこもってる連中に働きかけて、自分から出てきてもらうことにした」 ケサランパサランは非常に警戒心が強く、なかなか姿を現そうとしない。 接触するには、隠れている彼らに『自分達は危険な存在ではない』とアピールする必要がある。 「具体的にどうするか、だが。――まず、現場に到着したら心を落ち着かせることだ。 連中、周りの生き物の感情をぼんやりとだが読めるみたいなんでな。 聖人君子になる必要はないが、イライラしたり、攻撃的な気持ちになってたりすると余計に警戒を煽りかねない」 危険な思考を持つ存在がいないと思わせることができれば、この段階はクリアだ。 「次に、ケサランパサランは『人間以外の動物』の幻を作り出してくる。自分と異なる生物に対して、どのように振舞うかを見るわけだな」 様々な動物の幻が現れるが、たとえ猛獣であってもこちらに襲い掛かってくることはないし、直に触れることもできる。動物達と思い思いにコミュニケーションを取り、友好的であると示すのがこの段階の目標だ。 「ケサランパサランの警戒を解くことができれば、連中は姿を現してこっちに寄ってくる。ディメンションホールまで誘導することは、そう難しくない筈だ」 ディメンションホールは、現場から数百メートル離れた場所に開いている。ケサランパサランがリベリスタに気を許せば、大人しく付いてきてくれるだろう。 全て送還を終えれば、あとはディメンションホールを塞ぐだけだ。 「――とまあ、少しばかり手間はかかるが、特に危険はないんで安心してくれ。 逆に、こっちが強い敵意を露にしたり、暴力的な行動をとったりすると、異空間に隠れたままどこかに逃げられる可能性がある。そうなると打つ手がなくなるんで、そこだけは気をつけて欲しい」 念を押した後、黒髪黒翼のフォーチュナはリベリスタ達の顔を見た。 「動物とかは好きな方だし、今回は俺も手伝うよ。どうかよろしく」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 落ち葉が深く積もった森の中は、ひっそりと静まり返っていた。 安全靴を履いた『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112)が、足元を慎重に踏みしめる。 この森に隠れている小さなアザーバイド達に思いを馳せ、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が呟いた。 「ケサランパサランか、懐かしいな」 雑誌のオカルト記事を信じ、謎の生き物を求めて野山を駆けた少年の日。 別物だと知ってはいても、当時の夢を叶えられるようで胸が躍る。 「崩界に関わる一大事と刹那焦りが生じたが、どうやら杞憂に済みそうだ」 安堵の声を漏らしたのは、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)。 アザーバイド三十体の来訪はリベリスタとして見過ごせぬ事態には違いないが、迷子になった小動物の群れを巣に帰すと思えば、かなり平和な部類の任務である。 「……帰り道が分からなくなったとか、想像するとちょっと可愛いね」 森の中で右往左往する毛玉たちを頭に思い描いた『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が口を開くと、『超絶甘党』姫柳 蒼司郎(BNE004093)が虚空へと呼びかけた。 「心配せずとも大丈夫、ちゃんとおうちの入口まで送っていってあげますからネ」 警戒して隠れているケサランパサラン達を安心させてやるのが、今回の仕事。 「奥地さんも、今日は見るだけじゃないね」 同行する『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)を、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が振り返る。 このような任務でもなければ、戦えぬフォーチュナが現場に出ることなど許されなかっただろう。 「どちらも気兼ねなく一緒にお仕事できる。ふふ、いい日だ」 寿々貴の言葉に数史が頷きを返すと、『紫苑の癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も柔らかな微笑を浮かべた。 「怯えている親しき隣人を、ご一緒にお助けすると致しましょう」 ● 「――さあ、気を落ち着けますよ」 この場の全員に向けて、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が声を放つ。 一切の攻撃的な思考を封じ、ケサランパサラン達に警戒を緩めてもらうのが第一の目標だ。 マイナスイオンを発して雰囲気を和ませながら、神代 凪(BNE001401)が大きく深呼吸をする。今回、彼女の“幻想纏い”に武器は収められていない。攻撃に用いるスキルすらも、メモリーから全て消すという念の入れようだった。 (やっぱ、見た目とかも重要だと思うしねー) 大切なのは心とはいえ、形から入るという作戦も今回は大いに有効だろう。同じく、丸腰で任務に臨むミカサが、薄く色のついた眼鏡のレンズ越しに頭上の枝を見る。 あの枝の陰から、ふわふわの毛玉が隠れて様子を窺っているのだろうか。 もともと攻撃的な性質でもないが、ケサランパサランのそんな様子を想像するといよいよ敵意など向けようがない。これが人に害をなす生き物なら、そうも言っていられないだろうが――。 胸に手を当て、ステラが自らの心を落ち着かせる。楽しく遊んでいれば済む仕事ではあるが、今からはしゃいでいては障りがあるかもしれない。 静寂に包まれた森の中は彼女にとって心地良く、気を鎮めるのは難しいことではなかった。 ステラの傍らで、シエルが『楽園乃小枝』を手にそっと目を閉じる。武器を持たぬことも考えたが、御神木の枝から作られたこの杖は、かえってこの場に相応しかろう。 一方で、なかなか落ち着けないメンバーもいる。 ――たとえば喜平。そう簡単には平和な思考に至らない、荒みきったヤサグレハート(自称)を抱えた彼は、任務のために奥の手を解禁。 「奥義『ピンキィーラヴァー!!!』解放ォォォォ!!!!」 説明しよう! 奥義『ピンキィーラヴァー!!!』(※原文ママ)とは、脳内をひたすらピンク色に染め上げ、己を闘争とは無縁の平常心(?)に導く自己暗示のテクニックである! 「唸れ、諸々のピンクパッション!! 好きなあの娘の笑顔!! 好きなあの娘の……!」 相手が相手なら別の意味で危険視されそうな気もしなくもないが、まあ少なくとも攻撃的でないことは確かだ。 いつもの無表情のまま、どこかソワソワした様子で周囲を見渡すうさぎの姿もある。 聞いた話では、ケサランパサランは動物の幻を生み出すということだった。この後に何が現れるのか、気になって仕方がない。 「……フカフカかな、モフモフかな、 おっきいかな小さいかなかわいいかなこわいかな毛が長いかな短いかな……」 思い切り本音だだ漏れな自分に気付き、慌てて深呼吸。 「どんな子が来るかなあ……」 まったく落ち着く気配すらないが、敵意を持たないのは先方にも伝わるだろう。 そんな折、雷慈慟がぽつりと呟く。 「……不味いな」 彼も凪と同様、武器や攻撃スキルの一切を封じてこの場に立っているが、問題はそこではない。 自他ともに認める動物好きである雷慈慟にとって、危惧は別のところにあった。 ケサランパサランが織り成す幻は、実在の動物に限らぬという。 仮に、もし仮に。既に絶滅した動物たちと、直に触れ合うことが可能だとしたら――? 高鳴る胸に身悶える彼を見かねて、数史が「……あの、もしもし?」と肩を叩く。 たちまち我に返った雷慈慟は、必死に気を鎮めながら天を仰いだ。空を飛ぶ小鳥を呼ぶように、そっと口笛を吹く。 蒼司郎もまた、期待に逸る心を落ち着かせてじっと立っていた。 「俺は――俺達は君達を傷つけない、脅かさない、虐げない」 目に映らぬ異界の住人たちへと、静かに語りかける。 「ただ、ちょっと仲良くなりたいだけ。怖がらないで出ておいで」 微かな風が、足元の落ち葉をふわりと舞わせた時。 リベリスタ達の目の前に、様々な動物たちが姿を現した。 ● 体長二メートルのパンダを前に、うさぎが「パンダー!」と歓声を上げた。 「ぱんだ! もふもふ! でかっ! かわいい! 近くでよく見ると怖い! パンダ!」 すかさず地を蹴って飛びつき、全身でふかふか毛皮の感触を楽しむ。 「怖い! 可愛い! 相撲取りますか!? パンダ! 熊ですよね!!」 どこの金太郎だよ、と突っ込みが入りそうな台詞を交えつつ、大はしゃぎでパンダの頭によじ登るうさぎ。呆気にとられた顔でこちらを見つめるミカサと、ふと視線が合った。 「……何ですかその目は」 死んだ動物の供養を日常的に引き受けているがゆえ、『生きた動物』に触れる機会は少ない。埋葬の後などは、体に染み付いた死臭で動物に避けられてしまうからだ。 そんな事情を抱えたうさぎが、もふもふで、可愛くて、革醒した身でも遠慮なくじゃれ合える――まさに打ってつけの幻を前にして、黙っていられる筈があろうか。 「わたしわるくない」 外聞を憚ることなく毛皮に顔を埋めるうさぎを見て、ミカサはそっとしておこうと心に決めた。 気を取り直し、自分の近くで気ままに身を横たえている猫を眺める。毛が長くて、ちょっと不細工で、そこがかえって何とも言えない愛嬌を醸し出している、太り気味の猫。 屈んで指を擦り合わせると、猫は興味を惹かれた様子でのっそり近付いてきた。 頭を軽く撫でてやり、猫じゃらしを手に取る。そこに、色々な模様の猫たちを両腕に抱えた凪が通りがかった。 「……誕生日プレゼントにもらったんだ。わざわざこの為に買ってきた訳じゃない」 訊かれてもいないのに言い訳しつつ、猫じゃらしをぱたぱたと動かす。やや緩慢な動作でじゃれつく猫の喉から、小さな鳴き声が漏れた。 どうして――こういう猫に限って、こんなに可愛いらしく鳴くのだろう。だが、そこが良い。 その様子を眺めていた凪は、心底和んだ様子で表情を綻ばせた。 「動物はいいよねー。可愛いし、心が落ち着くよ」 柔らかな落ち葉に腰を下ろし、膝の上の猫たちを一匹ずつ丁寧にブラッシングする。 ゴロゴロと喉を鳴らす彼らに、凪はそっと猫の言葉で語りかけた。アザーバイドの生み出した幻とまともに話ができるのかと一瞬心配になるも、反応はボトム・チャンネルの猫とそう変わりはないようだ。リベリスタ達の思念を元にして生み出されているためだろうか。 「まあ、細かい事はいいかー」 今はゆっくりと、猫たちとの時間を楽しもう。 感動に打ち震える雷慈慟の前には、今や地球上に存在しない動物たちの姿。 「近づいても宜しいか……触れても……?」 胸の高鳴りを必死に抑えつつ、彼らの言葉で呼びかける。遠い時代に失われた美しい毛並みに、雷慈慟の掌がそっと触れた。 確かな温もりに、思わず本物と錯覚しそうになる。 「なるほど……ココを撫でられると気分が良いのか、よしよし……」 幻とはいえ、とうに絶滅した動物に接する機会など、神秘の力なくしては決して訪れまい。 たとえ、これを生んだものが崩界を招くアザーバイドであろうとも、感謝せずにはいられなかった。 一方、喜平は狐と向かい合う。 「任せろ! 技量の全てをかけて思わずお腹を見せたくなる位の技を見せてやる!!」 敵対心が皆無であることを全身でアピールしつつ、わきわきと接近。 微妙に脳内ピンク色から回復しきっていない感もあるが、狐は嫌がる素振りもなく彼に身を委ねる。後は、誠心誠意撫でくり回し、心赴くままにモフモフを堪能するのみだ。 その傍らでは、蒼司郎が眼前に立つライオンを見つめていた。 猛獣の姿をしていようと、幻である彼らに攻撃の意思は無いと分かっている。となれば、楽しまなくては損というものだろう。 蒼司郎は目線の高さを合わせると、驚かさないように下の方からそっと右手を差し出した。 相手の反応を確かめつつ、顎の下に触れる。ライオンが気持ち良さそうに目を細めると、彼は優しい手つきでそこを撫でてやった。このライオンとは、仲良くなれそうだ。 一人と一頭が交友を深める隣で、寿々貴はゆるり笑みを湛えて雪豹を眺める。 褐色の模様で彩られた淡灰色の毛皮が、しなやかな動作に合わせて波打つ様は、見ていて飽きるということがなかった。自身の対極に位置する生き物に対しての、ほのかな憧れも含まれているかもしれない。 仲間達と少し離れた場所では、ステラが犬に似た獣をじっと眺めていた。 ――これは、いつか本で見たニホンオオカミだろうか。 静かに腰を下ろし、あちらから近付いてくるまで辛抱強く待つ。そろりと歩み寄った獣を、白い手が撫でた。 毛皮の手触りは違えど、表情を窺うかのようにこちらを見上げる仕草は、犬のそれによく似ている。 しばらく撫でられるままに任せていた獣は、おもむろに立ち上がると静かに踵を返した。 こちらを振り向き、ふさりとした尻尾を揺らす様は、まるで「ついて来い」と誘っているようで。 駆け出した『彼』の後を追い、梟の少女は走り始める。その姿を遠目に見守りつつ、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が足元の仔犬と遊んでやっていた。 「わんこと戯れるのは得意なのです」 自分の尻尾にじゃれつこうとする無邪気な仔犬をもふりつつ、「あたしはわんこではないのです」と慌てて否定。 それはそれとして、将来は愛しい人と一緒に可愛い犬を飼いたいなと、そあらは思う。 幸せな未来を心に描く彼女の隣では、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、同胞たるシベリアン・ハスキーと『取りに行くぞ』遊びに興じていた。 投げたボールを取りに行かせるのではなく、共に取りに行くのである。 「――では行くぞ!」 ボールを放り、ハスキー犬と並んでわーいと森を駆ける。途中、長毛の灰白猫を頭に乗せた数史とすれ違った。 「あ、同志奥地。貴方もいかがですか?」 楽しげに尻尾を振りつつ、『取りに行くぞ』遊びに誘う。「俺の足じゃきっと追いつけないなあ」と言って、彼は笑った。 殆どのメンバーが哺乳類と戯れる中、こんな例外も。 「……綺麗」 うっとりと目を細めるシエルの視線の先には、『楽園乃小枝』に小さな巣を張る蜘蛛の姿。 たとえ変わり者と言われようと、自然が織り成す芸術を愛でる気持ちは変わらない。 「あああ、シエルさあああん!!」 不倶戴天のアザーバイドを前に、冷徹な世界の守護者たるリベリスタが「はにゃーん」するなどありえない――と息巻いていた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、思わず叫ぶ。 驚いたようなシエルの声が、そこに重なった。 「え!? あの大きいのは……もしかして……」 何事かと視線を向ければ、そこには世界最大のダンゴムシと言われる大王具足虫が。 「舞姫ちゃ……こほん、大王具足虫様、可愛いのです……」 天使の慈愛に満ちたシエルの表情を見て、舞姫も陥落。 「ああ……世界は愛に満ちています」 ――その愛の名は、シエル・ハルモニア・若月。 ダンゴムシと戯れる舞姫を微笑ましく見守るシエルの視界に、ふわもこの羊が映る。その姿に恋人の姿を重ねつつ、彼女はそっと手を伸ばした。 森を走る獣は、気紛れに遠ざかってはまた近付き、時には足元に纏わりついてくる。 危うく転びそうになったステラは、咄嗟に翼を広げてバランスを取った。 体勢を立て直した彼女の瞳に、兎の尻尾のような白い毛玉が映る。 もしや、これが――? ふと視線を巡らせると、周囲には様々な色のケサランパサランが浮かんでいた。 ステラが差し出した掌に、純白の一体が音もなく舞い降りる。 少女に挨拶をするかの如く、異界の小さな住人は微かに身を揺らした。 ● 「初めましてこんにちわ。やっと会えたネ」 姿を現したケサランパサラン達に、蒼司郎が優しい口調で語りかける。 「ふわっふわの毛玉なのです」 そあらが、淡い色の一体をつんと指で突付いた。 「パンダさんはまだ消さないで下さい!」 慌てて懇願するうさぎの言葉を、舞姫がテレパスでケサランパサランに伝える。 『放っておいても害はないし、時間が経てば自然に消えるから残しておきますね――』 通訳を介してそれを聞いたうさぎは、再びパンダにしがみつきながら安堵の溜息を漏らした。 ようやく警戒を解いてくれたというのに、彼らにはお引取り願わなければならない。 「折角来てくれたのにごめんね」 こちらの事情を説明しつつ、凪が心の底からすまなそうに詫びる。その真心が伝わったのか、撫でられていた一体が彼女の掌にそっと身をすり寄せた。 「どうだい、帰る前に君を……もふもふさせてくれないか」 喜平の丁重なお願いを聞き届け、少しやんちゃなケサランパサランが彼の手に飛び込む。柔らかく温かな感触が、指先から伝わってきた。 束の間であっても、この世界で良い思い出を残してもらえるようにとリベリスタ達は心を尽くす。 小さき隣人が止まった『楽園乃小枝』を揺り籠のように動かすシエルの隣で、凪が優しく語りかけながら一体ずつ丹念にブラシをかけてやった。 しばしの交流を楽しんだら、いよいよお別れの時間。 ケサランパサラン達をディメンションホールに誘導する間、ミカサが頭の上に乗せた一体を愛でる。 「……もふもふした物を頭に乗せると何か落ち着くんだ」 森の中に開いた異界の穴を前に、蒼司郎が肩越しに振り返った。 「もう迷子になっちゃだめですよ」 フードにすっぽり収まっていたケサランパサラン達が、ふわり、ふわりと宙に舞う。 うちの一体が、別れを告げるように彼の頬に触れた。 元の世界に帰っていくケサランパサランを、リベリスタ達は動物の幻と共に見送る。 雷慈慟のマフラーにくっついて行動をともにしていた最後の一体が、とうとう離れた。 「楽しかった ありがとう」 心からの礼を述べる雷慈慟に続き、凪が笑顔で手を振る。 「またね」 再会を願う彼女の言葉を咎める者は、この場には誰一人としていなかった。 「うう……さようならケサランパサラン。さようなら……」 涙目で俯くうさぎを慰めるように、パンダの幻が身を寄せる。彼も、もうじき消えてしまうのだろう。 名残惜しさを感じつつ、喜平がディメンションホールを破壊する。 しんみりとした余韻が場を包む中、ステラが共に過ごした獣を撫でた。温かな感触を胸に刻みつつ、同行するリベリスタ達の顔を眺める。 どこか寂しげではあるが、皆、それぞれに満足しただろうか――。 軽く息をつき、雷慈慟が数史を振り返る。 「貴兄の視る力のお陰で此度貴重な経験を得た。礼をさせて頂ければ幸い」 場を変えて一献傾けようと誘われ、数史は肩に灰白猫を乗せたまま目を丸くした。 「皆の話も聞きたい。暇ならば是非」 雷慈慟の言葉に、ミカサが頷きを返す。 「寒いし、少し温まりたい。奥地さんのねこの話も聞きたいしね」 写真とか無いんですかと問えば、猫飼いフォーチュナは「こいつにそっくり」と肩の猫を指した。 「……本物よりかなり大人しいけど」 「おぉ、いいですネ。猫の話、俺も聞きたいな」 手を上げる蒼司郎に続き、凪も参加の意を示す。言うまでもなく、未成年はジュースだが。 そあらやベルカ、寿々貴らも乗り気なのを見て、「それじゃ、お言葉に甘えて」と数史。 その直後、動物たちの幻が宙に溶けて消えた。うさぎが、思わず声を詰まらせる。 「さようならパンダさん……」 この手で触れ合った、彼らの温もりを胸に。十三人のリベリスタは、そっと落ち葉の森を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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