● 夜の闇は、何処に誰にでも齎される。 それは公園にとっても同じ事だ。点々と電灯が存在するとはいえ、訪れる子供達のいない場所に於いて、その灯りは余計不気味さを演出させる一要素となってしまっている。 と、そこへ。 茶色に所々黒い毛が混ざった、おそらく日本犬の雑種と思われる一頭の犬が内部へと入り込んだ。 主からはぐれた飼い犬にしては独り歩きに慣れている様子で、野良犬にしては毛並みが整い然程汚れていない。どちらにしろ、彼には土地勘がないらしい。犬は若干慌てている様子で、ふんふんふんと辺りを忙しなく嗅ぎ回っている。 しばらく周囲を走り回った後。用事は済んだのか、中型犬は公園を後にしようと出口の方向へと走り寄り、不意に動きを止める。 凍り固まったかの如く動けない犬のおよそ五メートル先。そこには彼と同程度の野犬が五頭、繋がっていた。 否、「溶け合わせ、再び固まらせた」といった言葉の方が正しいか。 兎に角通常とは果てしなく異なる怪物が、竦み上がる犬の方へと唸り声を上げ睨み掛かる。 それは、まるで獲物を狙うかの様で。 「ギャワーン!!!!」 我に返った彼は、閑静な空気を切り裂くかの如く悲鳴を上げ。 すくりと二足で立ち上がり、直ぐに逆の方角へ走り込んだ。 ●イヌゥ 「犬が出た」 「……は、はぁ」 開始一言、何を言い出すかと思いきや。真剣な目で放った『リンクカレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の比極シンプルな言葉に、リベリスタ達は一瞬呆気に取られる。 「それも怖い犬と怖くない犬の二体」 「……そうか。で、どんな犬なんだ? そいつらは」 「怖い犬はE・ビースト。五頭の犬が一つにくっついているの。足が別の頭から生えてたり、頭が別の胴体に生えてたりしてる。……何と言うか、気持ち悪い」 己の視た状況を思い出してか、イヴは若干眉を寄せている。想像してか、リベリスタの方でも微妙な顔をする者が数人いた。 「E・ビーストのフェーズは2。威力と命中力が高い噛み付き攻撃と、数人巻き込んでの突進、怒りを付与させる遠吠えを使って来るみたい。一体(?)だけでも相当強いから気をつけて。それから、怖くない犬はアザーバイド。人間だと高校生くらいかな? 偶然ディメンションホールを発見した後、それとわからないままボトム・チャンネルに迷い込んで来たの。力はあまり強くない。一見普通の犬と変わらないんだけど、二足だと速く走れるって所はちょっと違うかな。あと名前はアンドゥルフ」 「随分格好良い名前だなおい」 雑種のくせに! イヴに突っ込みを入れつつ、リベリスタは普通の犬が二足で全力疾走する姿を想像してみる。ちょっと、否かなりシュールな光景だった。 「私が視たのは、この子がE・ビーストと遭遇する所。急いで逃げたみたいだけど、逃げ込んだ先は公園の広場。行く先を封じられる以上、追い付かれて殺されるのは時間の問題かも。ディメンションホールは公園内にあるから、すぐに見つかるよ」 リベリスタ達が辿り付くのは、E・ビーストとアンドゥルフが遭遇した直後。E・ビーストは犬を優先的に狙って来る分、何とかして彼から引き離す行為が必要となるだろう。 イヴはお願いをする様にリベリスタへ向かい合うと、真剣な目で彼等を見つめて言った。 「お願い、どうかこの子を助けて。そして元の世界に帰してあげて。……知らない場所で、きっと不安がってると思うから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:裃うさ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月30日(金)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夜。 等しく降り立った闇の中で、二つの影が大きく音を立て蠢いていた。 一つは己の体内に取り入れるべく求める様に、もう一つはその牙先から必死に逃れる様に。猛烈なスピードで繰り広げられるそれは、まさしく獲物と捕食者の関係に等しいと言った所だろうか。 しかし、それと相違する点が一つだけ存在する。 それは両者共に「犬」である、という事だ。……尤も、後者はもう犬とは言い難い物体なのかもしれないが。 腕に、胴体に、足に生えた五体の頭は涎を垂らす程に口を広げ。不揃いに上げる唸り声が彼を一層追い立てる理由となった。 しかし彼は今走っている場所が何処か、何処に行けば逃れられるのかわからず、ただ同じ敷地内を走り回っている訳で。更にそれの頭から、胴から、背中から生えている足は見た目に反して彼より速く、じわじわと距離が縮んでいく。 ――もう駄目だ、やられる。 一瞬そんな思いが過ぎったのか、自分の考えを振り払うかの様に彼はスピードを上げた。しかし、その速度も歪に揃う十本の足には勝てず。 彼が断末魔の悲鳴を上げようとした、その時だった。 「よっ! 助けに来たぜ、アンドゥルフ」 暗い闇の中には不釣り合いに明るい『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)の声が、己の速さを活かし異物と彼の間を割って入る。彼はウサギであり、執着対象からは外れる様だ。乱入者へ向かい邪魔をするなとばかりに唸り声を上げ、突然の出来事に立ち竦んだ彼、アンドゥルフの方へと飛びかかろうとする。 「……おっと、そっちには行かせられないな」 しかし、またもや今度は『闇狩人』四門零二(BNE001044)に行く手を遮られた。苛立ちを抑えきれないといった形相で、その牙は彼へ向かい力尽くに退けようと試みる。が、 それよりも零二が一歩踏み出す方が早い。彼はそのまま握りしめたナイフを異物へと突き刺した。 強かに刻み付けられたそれは、まるで縫い付けられた様に動けなくなる。それを好機と捉えてか、零二は後方に居るアンドゥルフに向かい、背を向けたまま語りかけた。 『アンドゥルフ、この先を真っ直ぐ行った突き当りの場所に大きな木が立っている。あのあたりで隠れてなさい』 アンドゥルフは異なる世界の生き物だ。ましてや人間の言語など判断できる筈もない。……しかし、この時は違った。彼の耳には、確かに零二の言葉が聞こえている。それを裏付けるかの如く驚いて零二の方を見上げる。本当に良いのか、信じても良いのかと言う様に。 『ヤツはオレ達が止める。そしてキミをオレ達が護る。……信じてくれ』 その言葉は嘘が混じるにはあまりにも真摯に響き渡る。やがてアンドゥルフは僅かにだが、緊張感を解していった。 『あんどうさん、聞こえる?』 そして未だ戸惑っているアンドゥルフの耳へと、更に柔らかい女性の声が届く。 『貴方は私たちが守るわ。……だから大人しく待っていて、ね?』 「よく此処まで頑張りましたな。後は私達に任せて、あなたは隠れていて下さい」 自分の名前がやや短縮されている事に最初は驚いたが。『似非侠客』高藤奈々子(BNE003304)の優しく気遣う声は、彼の固まった気を緩めさせる決め手の一つとなった。そして『怪人Q』百舌鳥九十九(BNE001407)は自分を指差し、その後に後方へと向かいジェスチャーで自分の意を伝える。今まで見た事のなかった生き物を初めて見て、特に九十九の外見に一瞬アンドゥルフは怯えかけた。が、自分に襲い掛からない事を確認すると、無害な人物だと判断したようだ。 「さあ、どうぞこちらへ! 敵が動けないうちに、早く!」 『幸福の残滓』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)の誘導の声とともに、アンドゥルフは彼等を信じる、と言う様にじっと見つめかけると踵を返し指示された方向へと走り出す。 「そう、遠くに居てくれたら問題ないのよ。何かあれば3号さん達が塞いでくれるから」 「どうも犬3号ですー……って、わしはキツネやがな!!」 どんどん距離が離れていく姿を眺め。4号もとい奈々子がさり気なく口にした3号という言葉に、『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が漫才風のノリツッコミを綺麗に決める。誰も突っ込みを入れてくれなさそうな事を危惧してのセルフツッコミだった。しかしボケ要因ならたくさんいるから突っ込み放題である。やったね! そしてその横では超幻視による即席犬面の零二が、逃げていくアンドゥルフを見守っていた。さり気なく5号である。その姿は、突っ込み待ちをしている様にも見えた。 「……いやー、走ってるな。二足歩行で」 麻痺して動けない異物から迅速なスピードで遠ざかっていくアンドゥルフを見送りつつ、『住所不定』斎藤和人(BNE004070)が呟く。彼は両手(両前足?)をばたばたと振り、文字通り立って走っていた。二足歩行ならず二足走行である。「そして日本犬の見た目でアンドゥルフって。畜生何だよそれ、可愛い!」 しかし、和人にはツボに嵌ったらしい。後で絶対もふる! と意気込み予め付与しておいたオーラを鎧に己の体勢を整える。遠くの木陰にたどり着き、身を隠したアンドゥルフがなんかされる!? と一瞬身震いしていた。 「……さて。あんどうさんは上手く隠れたみたいだし」 「ほな、戦闘の続きといこか」 隠れる事に成功したアンドゥルフを、横目で確認し安心すると同時に。リベリスタ達はすぐ前面に存在する異物へと視線を戻し、それぞれの武器を向けた。 ●アンドゥルフ(訳:闘犬) 闘う術を殆ど持たない無害な犬は、木陰で心配そうに様子を伺っている。仁太はその姿に向かい、後は自分達に任せろとサムズアップ。 歪な風貌をした異物は、先程の零二による先制攻撃の反動で動けない。これは明らかに好機であり、そもそも今ここで目の前にいる敵を撃破しなければ何れ彼が牙の餌食になる事は明確で。 「……獣を嫌う因果は知らぬが、その殺生に益はない」 己の仁義を胸に奈々子は呟く。それは罪なき隣人の為に。自らに運命が引き寄せられていく事を感じ取ると狼は力強く、吠えた。 「豺狼が一人、高藤奈々子。義によって異界の者に助太刀させてもらう!」 「お犬さん1号があんどうさんで、2号が敵。……2号って頭が5つもあるんだ。てか5頭くっついてるんだ。なんかキモチワルイ」 気持ち悪い。とても真っ当に的を射ている言葉を放ったのは『もう本気を出す時じゃない』春津見小梢(BNE000805)。確かに気持ち悪いのは仕方ない。しかし、あんどうさんを逃がすために、その気持ち悪さと向き合わなくてはいけないのだ。 「うー……。帰ったらアークのカレー食べよう」 自分の好きな物を頭に浮かべつつ。小梢は己の敵と向き合う事にした。 「ほーら追いかけっこだ! 獲物のウサギはこっちだぜ!」 痺れから解放された異物の周りを、ヘキサは素早くぴょんぴょん跳ねて挑発する。が、そこは果てしないそれ特有の執着か。ウサギにはやはり興味がないらしい。異物は遠く離れた木陰から、不用心にも頭を覗かせている茶色い影が気になって仕方ない様だ。 「糞、こうなったら仕方ないな。アレを使うか」 「……え? ちょ、アレって何」 ヘキサの言葉が終わらないままに。零二(犬頭5号)は背筋を丸め、体勢を整える。そして、思い切り上半身を反らせ声を振り絞り叫ぶ。……頭には幼い頃に聞いた、仔犬を護る母犬の咆哮を思い浮かべて。 「ア オ オ ォ ォ ォ ォ オ オ ン ! ! ! ! 」 本物を模した、否それは確実に犬が発する遠吠えその物だった。その半ば捨て身の努力を、或いは彼を立派な一頭の犬と認めてか。異物の塊はそれぞれ大きく口を開けて牙を剥き、零二の方へと襲い掛かる。 「ぐ……、は……っ!」 零二の脇腹に目がけて獣の牙が襲う。たった一撃のその威力は彼の体力の半分以上を奪っていった。 「零二さん!」 「……大丈夫だ。まだオレは、充分に闘える」 腹部から溢れる鮮血が地面にぽたり、ぽたりと落ちていく。リベリスタの叫びに反応してか、その様子を見かねてか。アンドゥルフは悲痛な叫び声を上げて飛び出そうとするが、零二はジェスチャーで制止を促した。 すぐに小梢が零二の方へと涼やかな風を運ぶ。零二は軽く礼を告げると、あらためて異物の方へと向かって行った。 ――倒れるならば、全力を尽くしてから。 「……なんか、本当は別々の犬だったんかなあ。そう思うとちょっと可哀想になって来た」 和人は異物にすら憐憫の情を向ける。犬で形成される異物には、それ以外の要素は含まれていない。要するに、それはどこまでも犬であって。それぞれの犬がかつて在っただろう姿を思い浮かべ、和人は眉に皺を寄せる。 「でも、手加減はしねーから。ごめんな」 その感情を振り切る様に放たれるは、天上から降り落ちるが如く強烈な一撃。真正面からまともに喰らった異物はぐらりと後退し、おぼつかない足取りで体勢を整えようとする。が、リベリスタはそれすら赦さない。 「……我紡ぎしは、秘匿の枠。エーテルの四重奏……喰らえぃ! Walkürenritt!!」 レオポルトの掲げた杖から、光の四重奏が繰り出される。和人による一撃の反動から回復されないままの異物は、それを避けられる事が出来ず強かに全身を穿つ。 「その多すぎる頭、一つ潰させて貰いますか」 「全くだわ。……それに顔は首の上に、よ!」 続いて繰り出されるは九十九による精密射撃。腕からはみ出る頭を貫通し、一頭が悲鳴を上げる。更に間髪を入れず、奈々子の銃撃が異物を襲う。目にも止まらぬ速さで放出される弾丸は、確実にそれを撃ち抜いて行った。 やがて異物が怒りを鎮められたとしても、ヘキサや零二の挑発からは逃れられず。痺れから解放されてもヘキサから、零二からの斬撃とレオポルトの光条で再び動けなくなる事を繰り返し、ほぼ無抵抗状態で体力を削られていく。そしてそこに仁太による無数の弾丸が逸らされる事なく撃ち込まれ。幾ら硬い異物であれど、蓄積していくダメージは少なくない。 しかし殆ど致命傷と言っても何ら可笑しくない程の損傷を受けても、麻痺から解放される都度にそれは立ち上がる事を試み続けた。 おぼつかない足取りで、それでも確りと地面を蹴り駆け出そうと試みる。歪ではあるが、その姿はまるで生を願う「犬」の様で。 「……本来なら、別の形で逢いたかった」 零二はその光景に痛ましさを感じざるを得ない。もしもそれがかつての姿でいてくれたならば、別の出会いがあったのではないか。……それは今となって叶わない願いであるが故に、せめてこの様な哀れな姿で居させたくはない。 だから、今。 「終わりにしよう、この悪夢を」 零二の手から放たれる高速の刻みは、残す事なく異物へと縫い込まれ。残りの力を振り絞り異物……否、5頭の犬は痙攣しながらも尚立ち上がろうと両足を動かすが。 やがてそれすらも行う余力を失って全身を脱力させると同時に、この世界から消え去った。 ●かわいがり 『もう大丈夫やから、出ておいで』 木陰から覗く小さな頭に仁太によるハイテレパスが送り込まれる。アンドゥルフはやや躊躇する様に頭を出したり戻したりを繰り返した後、その先が安全である事を確認すると四足歩行で駆け寄ってきた。リベリスタ達への警戒は完全に解いている様で、心配していたとでも言う様に、おずおずと頭を上げ甘え声を出す。 「わー、かわいいですねー」 「とりあえず! 撫でさせろ!」 まずはヘキサや小梢がアンドゥルフを取り囲み、頭を撫でる。今まで自分を中心に囲まれるという経験のなかったアンドゥルフは、最初は驚いたものの、好意を返そうと尻尾をぱたぱたと振っている。それへと返す様に小梢も馬尾をふりふり、ヘキサは兎耳をぴくぴくと動かして。ビーストハーフの少年少女と雑種犬のやりとりは傍から見てとても微笑ましい光景だ。 「じゃあ、俺も少し」 少年少女達のきゃっきゃうふふとした遣り取りを見て耐えかねたのか、和人もその渦中へと飛び込んで行く。怖がらせないかと少し躊躇しての撫で具合だったが、アンドゥルフとしては前述の二人で慣れていた様で、嬉しそうに目を細めて頭を預けている。 「ほら、ペットフード食うか?」 存分に撫で回した後、満足したヘキサは懐からドッグフードを取り出す。アンドゥルフは最初、何事かと出された物を嗅ぎまわり、試しにと一口齧った後大丈夫と判断すると、一気にがつがつと食べ始めた。奈々子の翻訳によると若干乾いていたが、味は悪くなくむしろ美味しく食べられたらしい。 「あ、私も持って来ていたんですよ。ドッグフード」 美味しそうにヘキサのドッグフードを食べている姿を見て思い出した様に、九十九も自らのドッグフードを差し出した。おかわりといった様にアンドゥルフは、尻尾を振り九十九のドッグフードへと齧り付く。そこですかさずもふる九十九だった。 『……ねえあんどうさん。あなたの居る世界はどんな所なの?』 奈々子はアンドゥルフの住んでいる世界に興味を持ったのか。お腹一杯の所をどんな世界にやって来たのか尋ねてみる。聞いてみた所、自然の豊かな場所で犬のみの群れを形成して生活しているとの事が理解出来た。他にも様々な動物が生息しているが、この世界の人の様に色とりどりの格好を装っていたり、電灯の様にまぶしい物や硬い人造物は存在しないらしい。あとは今回遭遇した異物と似た生き物はどこにも存在しない、怖かったといった旨を聞けた。その答えを聞いて奈々子はお礼を言う代わりにアンドゥルフの頭をもう一撫でする。そして、最後に公園の端まで競争を持ち出した。狼頭の成人女性と完全たる雑種犬(ただし二足歩行)の猛ダッシュ。その光景はなかなかシュールだったと後に他のリベリスタが語る。 『お疲れ様。おいで、アンドゥルフ。グルーミングしよう』 一生懸命走り終えてくたくたになっているアンドゥルフを、リベリスタ達が暖かく出迎える。その中で、いつの間にか犬頭を解除している零二がブラシを持って待ち構えていた。梳く気満々である。当然だがアンドゥルフは、ブラッシングなどされた事がない。未知の物体に何をされるのか戦々恐々としていたが、目がマジだったのと彼は悪い事をしないだろうという信頼感からとりあえず身を任す事にしてみた。しかし零二の手つきは丁寧で痛くない。気持ちいいと解ったら陥落は早かった。最終的には零二の腕の中で半分寝掛かる始末である。 「健やかに大きくおなり。弱きを脅かす為ではなく、何れ出会う愛しい者を護れる様に」 手を動かしつつ、零二は語りかける。そう在れなかった者達の悲しい呻き声を頭に浮かべ。 アンドゥルフは聞いているのかいないのか、目を細めされるがまま状態で。 そしてその顔や腹をヘキサや和人達が和やかな顔で撫で回す。 そんな楽しい、本当に楽しいひと時だった。 だけど、彼は迷い込んできたアザーバイドで。 ……帰る時間は、すぐ傍に来ていた。 ● 『起きて、あんどうさん』 眠りに落ちる寸前、奈々子の優しい声でアンドゥルフは目を醒ました。 ぼやけ眼の彼に、もうお家に帰る時間だと説明する。もう少し此処にいたかった様だが、長居を許しては世界に影響が出る事をリベリスタは知っている。 「先程みたいに、得体の知れない輩に襲われてはいけませんからな」 不服そうなアンドゥルフだったが、このレオポルトの一言が決め手となった。相当トラウマになっていた様で、二足で飛び上がり。それはいけないとリベリスタ達の要求を受け入れた。あと完全に目覚めた様である。 「じゃーな、あっちでも元気でな」 「もうサヨナラかぁ……なんか、名残惜しいな」 最後の一もふりという様に。和人とヘキサはアンドゥルフのふさふさした頭に触れる。気持ち良さそうに手を受けた後、彼はお礼にか足元に擦り寄った。 九十九はせめてお土産にと、食べ残したドッグフードを一つの袋に纏めて咥えさせた。アンドゥルフは気に入った様で、群れの仲間にも奨めてみるそうだ。 「もう、不用意に入ってはいけませんよ?」 ゲートの手前、レオポルトが優しく諭す。 ディメンションホールは、直ぐ近くに発見された。リベリスタ達はアンドゥルフを案内し、此処から先に進めば元の世界に帰れる事を説明する。アンドゥルフは少し躊躇ったが、またレオポルトが先程みたいに……と囁きかけた所、驚いて一歩先に踏み入る事が出来た。割かし動かせやすい。 『運命が繋がったら、また逢いましょう』 奈々子の言葉は最後まで聞こえただろうか。アンドゥルフは何か言いたそうに口を開いたところで、ゲートは閉まる。 「あ、ドッグフード落とした」 最後まで締まらない犬(おとこ)であった。 ●グッドドッグ 誰もいなくなった公園内。喧噪が終われば、また静かな日常へと一戻りだ。 「また来いよ、アンドゥルフ!」 レオポルトによって壊され、今は誰もいないゲートのあった場所にヘキサが呼びかける。 「あ、やっぱさっきのナシな! また帰すの面倒だから!」 が、直ぐに撤回された。楽しい思い出は今此処に在った物で充分だから。 散り散りになってリベリスタ達が帰路につく中、零二は振り返り。彼の居た場所を眺め、グルーミングの際に話した言葉を思い起こす。そして瞑目し、また渦中へと戻っていった。 「バイバイ、グッドボーイ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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