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月の兎と小さなヒーロー


 光あってこそ、闇ができる。
 いつも上にあったのに、落ちてきた光。
 なんとしてでも下に留めようと、沢山の影が群れを成す。

 存在意義の、お話。

「待ってくれ、たべないでえええ」
 砂利が口に入っても、傷から血が耐えず流れても、今はどうでも良い事。
 大降りの雨の中。体力が尽き、地に伏せた少年は震える手を伸ばした。けれど、悲しいほどに小さい少年の腕は、愛しいそれには届いてくれない。
 彼をそんな体勢にさせたのは、無数に起き上る影達だ。それらは真っ白の兎を囲み。
「それだけは、それだけはやめてくれ!!」
 食いちぎり、食いちぎり、食いちぎる。
 泣きながら叫んだ。それで影達が止まってくれる訳も無い。足の無い下半身を引きずりながら、それでも、それでも――。

 だらりと、影の顎に首を噛まれてぶら下がった兎の、どんよりとした赤い目が此方を見た。
「ごめんね、ありがとう」
 唖然とした。空いた口がガクガクと震えた。違う。違うんだ。
 こんな状況で聞きたいんじゃ無い。そんな言葉。
 こんな形で終わりたくなんて無い。トモダチと。
 泥を殴った拳に爪が食い込み、肉を抉る程に強く握った。

「誰でもいいから、助けてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 未来の少年の叫びは、きっと誰かに届くはず。


「ごめんね」
 出会いは長月の最後の日。風が荒れ、雨で、とても寒い日だった。
 雨合羽に身を包み、見上げる兎と目があった。
 最初はただのうさぎって思っていた。だけれど喋れて、表情豊かで、きっとこのうさぎは特別なうさぎ。そういう事を知っている家計に生まれ育ったボクだからこそ、好奇心と遊び相手欲しさに匿っていた。
「ごめんね、僕は帰らないといけない。また来年会おうよ」
 謝らないで欲しいよ。
 キミの事情はボクの小さな頭でもよく解っているから。だから、一緒に出口を探しに行こう。
「ごめんね、そこまでしてくれなくていいよ」
 こればボクが決めた事だから。
 暗い道だって、寒い夜だって、怖い怪物だって、絶対に耐えてみせる。
 だから、謝らないで欲しいよ。
 ボクはそんな言葉が聞きたくて一緒に居る訳じゃ無いんだ。聞きたいのは。

 ごめんねよりも、ありがとう。

 たったの、たったの。五文字だけなんだ。


「……アザーバイド一体を抱えた、E能力者の少年が一人。それがよく解らないものに追われています」
 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は資料を見つめながら、集まったリベリスタ達に話を始める。今回のお相手は兎型のアザーバイド。
「あの兎を食った影が、よく解らないものか?」
「影がある場所かつ、兎が居る場所で、夜中の零時過ぎに永遠と増えるのです。そういうものです、としか言いようが無いです。
 兎もそうですが、影も此方の世界の存在で無いので、一応アザーバイドとしておきます。
 ……黒い影は白い兎を捕食したい様です。理由はよく解りません、ですが察するに光と影の関係に同じかもと真白室長が……」
「よく解らないな」
「杏里も説明していてよく解りません、すみません。事情は当事者に聞くのが一番かもしれませんね」
 申し訳なさそうに杏里は俯いた。

「少年はリベリスタの家計の子ですので、特に神秘を伏せるとかそういうのはいりませんし、向こうもアザーバイドが崩壊を招くというのはよくご存知でしょう」
 少年はある日、兎を元の世界に返すための穴を探しに、兎と一緒に家を出た。その決断には、家族に迷惑をかけたくないという思いもあるのだろう。
 杏里が見た未来では、少年はそのまま影に襲われ敗北し、家に帰る事ができなくなる未来が見えていた。
「少年は雨の中、傘も刺さずに森の中を逃げていますので、そこへ向かってください。場所と時間は杏里が特定しましたので、言われた場所に行ってくれれば、兎を抱えて、まだ逃げ続けている彼と一体に会えると思います」

「依頼の目標は?」
「アザーバイドは送還か、討伐ですね」
 成否はいつもの如く。ただし、その道の先はリベリスタの選択に任せよう。
「それでは、お急ぎください。全てが手遅れになる前に」
 そう言いながら、杏里はブリーフィングルームの出入り口を開けた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月28日(水)22:31
 夕影です。たまにはしっとりしたお話を
 以下詳細

●成功条件:兎の送還か討伐

●リベリスタ:比良坂 雫
・10歳の、マグメイガス×ジーニアス
 RANK1のスキルまで使用、実力はレベル5程度
 正義感が強く、警戒心も強く、人見知りがあるので友達は少ない方
 タワーオブバベル、異界共感持ち

●アザーバイド:兎
・真っ白で、一般的な大きさの兎
 歩けますが、雫にずっと抱えられています
 戦闘できますが、打たれ弱いです
 会話はタワーオブバベル必須

●影
・真っ黒の大小形様々な影
 実力はフェーズ1程度です
 動きは鈍いですが、兎がいなくなるまで永遠に増えます
 最初の時点で10居ます。1ターンで4ずつ増えていきます

●場所:森
・雨が降っています、暗いです

●その他
・リベリスタには事前に杏里からDホールの場所を教えられています
 森からDホールまでの距離は長く、Dホールも森の中にあります
 道を作ってやるも良し、問答無用で殺すも良し

 それではよろしくお願いします
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
マグメイガス
宮代・紅葉(BNE002726)
レイザータクト
朱鴉・詩人(BNE003814)
レイザータクト
伊吹 マコト(BNE003900)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)

●兎は何見て跳ねる
 誰か助けてくれよ。
 未来の少年の叫びは、確かに聞こえていた。
「大丈夫、なんとかするっす」
 『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は暗視ゴーグルをその顔に着けた。
 その願い、その運命を。捻じ曲げるために――。



 大降りの雨の中。
 右足を出した後は左足。なのに何故かいつもできているそれができない。
「はっ、はぁっ、は!!」
 全速力で駆け、足が縺れる度に気合で足先を地面に留めて。せめて腕の中に居る友達を転んだはずみに押し潰さない様に願って。
 さあ後ろからは影が追ってくる。それは止まずに、増える一方。
『しずく、まえ、まえ!』
『前!?』
 視界の悪い山道は、少年の目を疎かにしていた。必死に逃げるという事態もそれを加速させていたに違いない。
『ぶつかる!!』
 ばふん、とひとつ。その内何か柔らかいものに勢いのままにぶつかった。寒さと痛みに赤くなる鼻を押さえながら、少年――比良坂雫は見上げる。
「私はおウマさん。君を助けに来たんだよ」
 気怠そうな声が響く。
 『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)が、両腕で雫を受け止めていた。
「杏里さんが特定した場所に本当に来るって、予知ってすごいねー」
 小梢はフォーチュナと万華鏡への絶大な信頼を口にし、腕の中から雫を解放した。背後を見やれば闇の中から蠢く、敵。背後へ雫を隠しながら、さあ来いと小梢は反射を纏う。ただ――。
「はぁー面倒」
 ただ――まだ小梢が本気を出すべき場所では無い様だ。
「……」
 小梢の背中で、雫の間にシワが重なるのをリベリスタは気づかない。
「比良坂雫くん、ですよね?」
 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は優しい目線を雫に向けた。そして、きょとんとした彼に笑顔を向けて。
 敵では無いと、味方だと思わせるそのために。
「ここからは、わたしたちも加勢させてください」
 大丈夫と、力強い声を乗せて。舞姫は、追って来るまたは、這い出して来る影達に黒曜を煌めかせた。
「厄介だな、数が多い……」
 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は舞姫の後に続く。今現在、闇夜は影ばかり。光ある場所に影は生まれる、その事柄と酷似しているが如くに闇が収まらない。
 しかし櫻霞は怯まずに、神秘を纏う。その闇達を滅ぼすのが役目であるからして――。
「ドーモ、アークのリベリスタでっす☆ミ」
 『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)の軽い声が戦場に木霊した。
 雫の背中を一度叩き、足を止めるんじゃないと笑顔を向ける。守るなら全力で、確かにそうなのだが……。
「神秘界隈に関わってるなら聞いたことあるっすかね? うち等はアーク所属のリベリスタっすよ」
 ぎこちない動きをする雫に、フラウは大丈夫だと言う。危害を加えに来ていない、手伝いに来た、けどそれって……。
「私達が、あなた達を『出口』まで援護します。その間、その子はあなたが護ってあげてください」
 更に電撃を奔らせる『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が雫に声をかけた。あくまでアークはお手伝いに過ぎないのだ、少年の思いを尊重するための。
「折角の友情、悲しい終わりになんてさせません……そんな音色、わたくしの音楽で掻き消して差し上げます」
 『旋律の魔女』宮代・紅葉(BNE002726)は奏でる。少年のために、一つの戦火を。
 悠月の電撃に合わせて、二つの紫電が地面を奔り、暗黒を砕かんとす。
 それだけで四体の影が怯んだ。流石はフェーズ1相当、倒すのにはそう時間はかからないのだろう。ただ――守るべき対象の近くで増える事柄だけは厄介。
 そして、リベリスタが完全に気にしなかった汚点がある。それは正直に、致命的汚点であった。
「アークくらいボクでも知ってるよ。でも、アークアークって、本当にそのアークなのかよ!?」
 警戒心が強く、人見知りをする。それにプラスされる正義感は次の事柄を誘発する。
 友達を還す、守る、責任感が悪方向へと容赦なく誘うのだ。
 ネガティブだと笑っても良いだろう。今をときめくアークだからこそ、その名を利用する紛い物だって居る『かもしれない』。
「突然信じろってのも無理あるけどね。まぁ、こっちの任務はその兎を元の世界に戻す事だけだから、安心してよ」
 『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)は的を得ていた。
 警戒心が強いのであれば仕方ない。例え信じてもらえなくても、それでもリベリスタは少年の手による送還を望んでいた。
「僕にはどれが本当か、解らない……」
 切羽詰まった状況で、何に頼り、何を信頼しろと。
 必ずしもアークである事実は少年には理解できない。幼い子供の前では、名声など無意味と同じである。
「だから信用なんてしない、べーっだ!!」
 雫が走り出したのは、不運にもバグホールとは真逆の方向。違うんだと、手を伸ばすリベリスタの苦戦は此処から始まる。

●少年の心はひたすらに純粋で
「お待ちを、そっちは違う方向です!」
「うるさいっ」
 悠月の横を、小梢の手をすり抜けて、雫は走る。
 走り出したと同時に、庇い役でもある小梢も続いた。はぁとため息を一つ。面倒な事態が更に面倒になったのは、気が滅入るのだ。
 起き上がる影の腕が、小梢の頭上に振り落とされた。打撃を受け、目の前が揺らいだのは刹那。
「早く帰ってカレーが食べたいんだけどなぁ」
 はぁ、と。二回目のため息。前方から向かってきたのはまた違う影の腕――ガッ。
「ひい、今嫌な音が響きましたよ!」
「構うな、あれなら大丈夫だ。それより……少年は?」
 紅葉が耳を押さえつつ、その目が少し潤う。
 その手前で櫻霞は雫の姿を探した。もし、送還ができないのであれば、この手でやらねばならない事があるからだ。そのために櫻霞は雫を、いや、その腕の中の兎を見逃す訳にはいかない。
 見つけた。
 闇の奥に消えていく雫と、その後ろから赤色の液体を零しながら走る小梢の姿が。
 櫻霞は走り出す――が不必要な影のブロックが壁と成る。おそらく、影はリベリスタを敵だと認識した。
「有象無象が、邪魔だ」
「はーい、任せて下さい! わたくしの歌で痺れさせてあげましょう」
 櫻霞の前に一歩出た紅葉は、また一つの詠唱を奏でる。
「さあ、観客は少ないですけど……森の音楽会といきましょうか」
 雷電の轟音が響くその中。

「いやあ、少年には早さが足りないね。足りないと追い付かれちゃうよ!」
「うるさーい!」
 詩人は雫の背中を見ながら笑った。
『そちらの、兎さんはトモダチだよね?』
『おどろいた、ことばがわかるとはね』
 詩人は今度は兎を見て笑う。
 ただ、彼は雫よりも興味があったのはその腕の中の兎だ。
『私達はDホール経由で送還するつもりなんですけど。あの影、Dホールに送れば追ってこれないんです?』
『でぃーほーるってなんだい』
『ダメだよ、あんなのの言葉聞いちゃ!』
 成程、そこから説明するべきなのか。詩人はそう思った所で雫の背中を追いながら、精密たる弾丸を放った。

 マコトは辺りを見回すが、どうやら雫に光を当てて影の出現を制限してくれる人がいないようだ。すれ違いがあるのなら仕方ない。冷たい空気を吸って、一言。
「目には目を……ってね」
 身体の内に眠る闇を、具現化して弾丸とする。
「消えなよ、邪魔だからさ」
 イライラからのストレスをぶつけるが如く、マコトの暗黒は闇を砕く。
「夜の闇を作る、光ですか。まるで月の兎」
「そうだね。長月の最後……十五夜に出会った兎、ね。いや、偶然にしては面白いよね」
 雫の後ろをつけ、絶えず夜の闇に電撃という光を照らす悠月はマコトに追いついた。
 もし、目の前の兎が月の兎だとしたら。今日は見えないが、本当に頭上に輝くアレの住人だとしたら。
 少しはこの歪んだこの世界も、楽しくなるだろうか。
 そうだと、マコトは思い出したかのように悠月と並走した。
「流石。第三の月、エターナルムーンさん」
「いえ、違います」←きっぱり

 何故少年は一緒に戦う事を許してくれると、過信してしまったのだろうか。
(甘かった……!)
 だが後悔する暇など無い。もはや少年が護れる範囲から消えないように、着いて行くばかり。
 舞姫は雫の後を追いながら、照明弾を用意していた。
 敵が影から生まれるのであれば、その影さえ消してしまえばきっと……!
「撃ち上げます!!」
「りょーかいっす」
 舞姫の声に、フラウは一度顔を縦に振る。
 撃ち上がる明かりに、一瞬だけ目を眩ませながらフラウは走る。
 例え照明弾を使ったとて、完全に闇を消すことは不可能なのは解っていた。どうあがいても這い出るのは影、影、影。
「まだアレらがなんなのか聞いてないっす。このまま終わらせる訳にはいかねーっすしね」
 おそらく今、アークの最速なのだろう。フラウの一蹴りは、とてつもなく速い。勿論、自分が弾丸の様に速いのであれば、落ちてきている雨粒でさえ当たれば痛いはずだ。それを弾き、暗視ゴーグルが眼を守っていたのはフラウでさえ予想外の出来事だがさておき。
 風の様に舞い、地面を抉りながらつま先でブレーキ。
 あっという間に雫の目の前を征したフラウは、もう一度だけ雫に声をかけた。
「雫。待って欲しいっす。本当に、手伝いに来ただけなんっすよ」
「……そう言って油断させ」
 て。そう言おうとしたが、それまで逃げる事に躍起になっていたからこそ気づかなかったこともまたあった。
「え……なんで、血」
 小梢が、守ってきたのはたった一人の少年。
 その怪我を負わせた、影の数を減らし続けたのはリベリスタ達。
「治すよ。大丈夫」
 マコトの一言は誰に向けられたものか。その脳内に佇む、おそらく私たちでは解らない誰かの声がマコトには聞こえていた。
 言葉が終わった時、静かな詠唱が始まる。
「――」
 言葉は小さく、聞き取れない。
「――癒しの、力を」
 吹き荒れたのは、上位世界の天使の加護。それは完全までいかずとも、小梢の傷を癒していく。
 揃ったリベリスタ達の顔を見回してから、雫は俯く。
「ごめ」
 んなさい。なんて今更言える訳が無い。
「大丈夫っす。任せて、欲しいっすよ。きちんと送還を約束するっす」

 大雨が降っている。雫の眼からも水が流れている。それが涙なのだと、フラウは気づく。
『しずく、しんようしてもいいとおもう』
「……ん」

 しかし、背後には迫る影が七。
 フラウはナイフを構えた、そして目の前の影に飛びつき、突き刺す。
 彼の、ために。

●だからこそ、悪堕ち
「だるかった仕事だなぁ」
 影の腕が、ついには小梢の体力を貫いた。咄嗟にフェイトの光に包まれたが、彼女が起き上がる事は無い。
 庇いの壁が消えた時。その影の腕は兎に伸びていた。
「悠月さん!」
「はい!」
 紅葉と悠月がほぼ同じ詠唱を奏でた。
 それは幾度となく飛ばしてきた紫電の祝詞。そこから生まれた二色の雷は影を貫く。だが、新しく出てきた体力のある影を削りきるには、今まで同様にできない。
 伸びる手は、止まらないのだ。
「う、うわあああ!!」
 雫の叫び声に、悠月の鼓動が早くなる。低レベルであるマグメイガスの耐久なんて、己自身が一番よく知っているはずだ。
「まだ、終わった訳じゃあないですから!」
 兎を庇えと言った。それは少年をギリギリまで、己の力で守らせてあげたかったための舞姫の意思。
「雫くん、今庇い役を交代しま……くっ、邪魔だ!!」
 彼の下へ行くには、壁があった。影という、数の壁が。ブロックしているのは、舞姫とフラウのみ。その二つの壁を超える数を抑えるのは厳しい。手から沢山零れていく、大切なもの。
 悠月と紅葉の電撃に侵された影を切り込み、散らすのは舞姫とフラウにはできよう。だが、その切り込んだ先に見えた光景は――兎が影に引っ張られているその最中だった。
「駄目、間に合わない!?」
「それは困るっす、約束したっすから!!」

 ……考えた。
 もし、そういう状況になったのなら。
 俺は容赦なく、リベリスタとして役目を全うする、と。

 ガァンッ!!


 弾丸ひとつ。それが兎を――射抜こうとして、庇った少年を貫いていた。
「櫻霞、さん!?」
 舞姫はその弾丸を放った主の名を呼んだ。
 一撃で仕留められば容易いものを、雫はやはり友達を庇っていた。
 まるで苦虫を噛んだような顔をする櫻霞。その目線の先で、倒れる雫と、影に持ち上げられる兎がひとつ。
 思わず、紅葉が声を荒げた。
「送還するんじゃなかったでしたっけ!?」
「兎が喰われて失敗か、それとも討伐か……。悪いが、後者をやらせてもらう」
 もう一度、その銃口は『兎に向けられた』。

「何、した?!!」
 繋がりは完全に途絶えた。
 泥土に塗れた顔を上げ、叫ぶ無力な雫。

 少年の純粋さは時に不幸を招く。

 例え、何を犠牲にしても。守りたかったものがあった。それは少年も、リベリスタも同じ。 
 ただその思いが、すれ違いを生じさせたのも事実だ。

 さあ、サヨナラの時間だ。

「邪魔っす!!」
 立ちふさがる影、影、影。
「駄目、それは、駄目!!」
 舞姫とフラウは手を伸ばす。その腕の短さに、絶望したのはこれが最初だろうか?
 数とは脅威だ。だからこそ彼を守る事に徹したリベリスタはけして間違っていなかった。それができなかったときの選択も、間違ってはいなかった。
 櫻霞は今まさに、影と重なって雫の目には鬼が映っただろう。影に奪われた兎は、無力に口に放り込まれたら一体何が起きていたのか。
『しずく、もういいよ』
「やめて、やめて」
 迫る影、迫る鬼。最悪の事態がリベリスタの脳裏に過る。
『しずく、ありがとうね』
「やめろ、やめろよお!!」
 もはや、兎が影の群から抜け出せる事、叶わず。身長の小さな少年は、大きな影に手を伸ばしても仕方ない。
 ただ一つ、リベリスタ達に幸運があったとすれば。影が光(うさぎ)に意識が向いていたからこそ、櫻霞の攻撃はスムーズにできたということ。
 そして。

「この不条理な神秘世界に、絶対なんてモノは存在しない」

『ありが……どッぉ』
「う、うわあ、うわあああ……」

 ……ブチィ!!!

 兎の命を貫いたのは、影の顎では無い。
 櫻霞の、弾丸。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 誰でもいいから助けてくれよ。
 けれどもう巻き戻すスイッチは無いから。
 力が抜けたように、フラウは濡れた地面に膝をついた。その隣で、舞姫が行き場を無くした伸ばしていた手を、力無く解く――。


 雨は続く。影は光が無いと存在できないようで、いつの間にか兎を追うように消えていた。
「うう」
 形さえ残らなかった、友達のため。今日の雨はとても塩辛いのだ。
 突如、一つの神秘が放たれた。
 櫻霞は片腕で向かってきた攻撃を振り払う。当たったが、大して痛くも、痒くもない。それは雫の意地でもある――ポイズンシェル。

「僕は、アークを許さない」

 生んでしまった悪を、孕んでしまった狂気を。その小さすぎる背中を、『リベリスタと逆へ向かう』足を、追う事はできなかった――。


 AFをぎゅっと握りしめて、紅葉は雨に打たれていた。
「温かいお茶……もってきたのにな……」
 誰にも聞こえない小さな声で、紅葉は俯く。
 その横で、詩人は後頭部を掻きむしる。折角の新たな神秘を、逃したのなら仕方ない。
 謎は謎のまま、終わらせてしまったから。


 全ての起因となったバグホールは、静かに潰され、消えていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした。
結果は上記の通りになりましたが、如何でしたでしょうか。
兎と影のお話は少し続きます。フィクサードも。

それが無ければ失敗していたのも、事実。
また違う所でお会いしましょう。