●『こえ』 鬼さん此方、と誘う声に耳を傾ける。 その声が、堪らなく愛おしくて。駆ける。この目に『その声の主』を映す事なんて、できないけれど。 ――鬼さん此方、手の鳴る方へ。 凛とした声が、誘う。 ぱん、ぱん、と手招く声に誘われて、裸足で土を踏みしめて。転んだって、その声のする方へ。 追いつけたなら、抱きしめようと思う。 ぼくは、まだ、『呼び声』の正体を見た事はない。 ●『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は恋愛小説を嗜む 「声に恋する。ロマンチストならば発狂して喜ぶ様な題材かしら?」 手にした恋愛小説を机の上に置いて、謳う様に紡いだ予見者はお願いしたい事があるの、と続けた。 モニターに映し出されたのは、赤い布を目隠しに巻いた少年が裸足で走っている様子。一生懸命に、何かを追いかける様にも見える其れ。だが、何を追いかけているのかは映像からは読みとれなかった。 「彼は、ノーフェイス。名前は『近重』よ。彼は元から目が見えないの。それと耳が聞こえない。 けれどね、何かに呼ばれる様に走っていくの。不思議よね。聞こえないのに、追いかけている」 「――聞こえないのに?」 その声に頷いて。テレパスの様に脳内に直接響き渡る声があると告げる。 ――鬼さん此方、手のなる方へ。 その声に誘われて、森の中をずっと走っていくのだという。 その声に聞き惚れて。一歩一歩、土を踏みしめる。 見えなくたって、生まれた恋心。それを否定する事はできなかった。 「彼が追っているのはE・フォースよ。赤い着物を纏った、長い黒髪の少女。 皆にお願いしたいのは近重とE・フォースの討伐よ。――一つ、注意してほしい事があるわ。 増殖性革醒現象ってご存知かしら。近重は其れを引き起こすの。……彼が『彼女』と出逢ってしまったらフェーズが進行してしまう」 だから、彼らが出逢う前に、近重が彼女を抱きしめる前に、殺してほしいと予見者は告げた。 「猶予は3分よ。3分あれば、近重は彼女を捕まえてしまう。その前に、どちらかを殺してほしい。 どちらでも、いいの……二人の間を、遮って。出逢わせないでほしい」 叶うなれば、近重は彼女の存在を『確かめたい』だろう。声しか、脳に響く声しか、知らないのだから。 見えなくて、聞こえなくて、他の誰を触れなければ確かめることが出来なかった近重。 初めて聞いた声は、優しげで、そして澄んだ声だった。 だから、確かめたい。自分に『音』をくれた人だから。 ――きっと交わることのない彼らだけれど。 「願わくば、ただその声に溺れて居たい。そんな感じなのかしら?」 それでも、夢は醒めるものなの、と予見者は寂しげに眼を細めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『ソレ』だけしか聞こえなかった。 鼓膜を擽る声音に恋をする。不思議なものだと『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)はぼんやりと思った。 「見えねば、声に恋をするものなのかしら」 湛えた微笑の上に浮かべるのは、何処に向けるでもない落胆の色。目を覆って、耳を澄ます。聞こえるのは只、風が木の葉を落とす音。 ――其れだけだった。 「見えないからこそ、余計に、か」 「きっと、それが救いだったんだろう」 見る事も、聞く事も叶わない世界はどれほど暗く、寂しく侘しいのか。その世界で『唯一』だった。その気持ちは分かる。願わくばハッピーエンドを与えたい。視線を揺れ動かして、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は小さくため息をつく。 出来れば、その願いを叶えてやりたいと思う。仲間を守る事を誇りと思う様に、彼の気持ちも護ってやりたいと、そう願う。 「逢いたい、か。……逢わしてやりたいが、すまない」 叶えられない願いが。届けられない想いが。初めて知った、『音』はどれほど尊いものなのか。 知らないから、知る事もなかったから。知ってしまっては、その想いは止め処なく。 「……自分の知らぬ『音』を教えてくれた存在に一目逢いたい……寂しさゆえに誰かを呼ぶ……」 嗚呼、其れだけならよかったのに。 それだけであれば――『境界性自我変性体』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)の金の瞳は揺らぐ。 もしも、自身が『何でできているか』のヒントを誰かが遺して行ったら、自分だって求めるのだろうか。死に物狂いで、断片を拾い集めるのだろうか。 この手が、何かを救えるのであれば。 自身に遺されていた、誰かの為に、その感情が胸の内を渦巻くというのに。 その、誰かの願いを邪魔する事になるのは、コーディとしても遣る瀬ない。途方もない感情が、ただ支配するだけ。 「逢いたい、寂しい、それだけなら、人の恋路を妨げる理由もないのだが……」 「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて――か。やれやれ、馬には蹴られたくないもんだが……」 肩を竦めて『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)の指先は魔力のナイフを弄ぶ。恋路と言うのは見守るからこそ周囲も大変よろしい想いができるものではあるのだが、如何せん『仕事』であると言うなれば、馬に蹴られに恋路自体を通せんぼ、だ。 「仕方ないな」 吐いた息は寒空の下、やや、濡れた感触がした。肩が下がり、脱力感と同時に、今から仕事だという緊張感という相反する感覚がその体へと訪れる。 碧衣の肩を叩いて、ゆっくりと歩む。木の葉を踏みしめるたびに『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)の胸に浮かぶのはノーフェイスの少年の想い。 ――おにさん、こちら。手の鳴る方へ 声が自分を呼んでいるんだって、知った時、どんな事を思ったのか。暗闇に差し込む光か、それとも彩られる世界か。其れは彼しかわからないだろう。けれど、其処で終わっていたならば美談で済んだのに。 「遣る瀬ないね、ホントにさ」 世渡りに必要なスキルは粗方身につけたつもりだった。だからこそ、幼い少年たちの可愛らしい恋愛には口出ししたくもないし、微笑ましいとさえ思えたのに。 「許されない想い、ねぇ。有り触れたテーマだ。切なくて、苦しくて――丁度良い時間じゃないか」 汚れた白衣がふわりと揺れる。『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)は赤い瞳を細めて、一歩踏み出した。 終止符を打とう。其れに丁度良い夕刻ではないか。薄ぼんやりと橙と青が混じるその時に、彼は、笑った。 ● 記憶の中、胸の内を抉り取る様に御伽噺が如く、すとんと胸に落ちる恋心。黒い髪を揺らしては、小さく息を吐いた。 「昔を、思い出すな……」 自分が自分じゃなくなる様に、追いかけたい。『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の体は酷く重く感じた。 過去の想い出か、それとも今から遮らねばならぬ純粋な想いの果てを思ってか。其れは解らないけれど。体が、酷く重たく感じた。 目を塞ぐ、耳を塞ぐ。其れだけで世界はまっさらだった。 何もなかった、空っぽだった。だから、その世界に『色』をくれた彼女が、声の主が堪らなく、愛おしかった。 「アイツにとっては、きっとソレだけの話しっすよね」 ソレだけでも。ソレしかなかった。『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は確認するように呟く。 淡い想いだった。もしかすると恋にも満たない想いなのかもしれない。今から、もしかすれば大きく育つかもしれない恋心でも。 「此処で、終りっす。想いが世界を壊す――だなんて、上手くいったモノっすよね?」 上手くいっても、どうしようもなくて。風が如き速さで走ったフラウの目の前には、赤い布で目隠しをし、よたよたと何かに誘われる様に走る少年。 ――ちくり。 胸が痛む。どうしようもないほどに、切なさが過ぎる。近重の方へと走る。気配を感じ、風を感じ、足をとめた少年は口をぱくぱくと動かした。 「ハローハロー、ご機嫌いかが?」 テレパスを持っていない。その姿を映す事もしないから。声も姿も、言葉も解らないだろうけれど、それでも和人は声をかける。 その声に、反応は示されない。聞こえない、映せない。『近重』という少年は周囲を見回して、増える気配に惑うのみ。 「こんにちは、恋焦がれる少年よ。恋に障害ってーのはつきものっすよね?」 聞こえなくても、言う。伝わらないと分かっている、それでも言いたかった。――言わなければならないと思った。 とん、地面を蹴って舞いあがる。握りしめた魔力のナイフを振るって舞う蝶々を切り裂く。澱み無き攻撃は赤い蝶々の翅を傷つけて、空を夢見る事さえも奪ってしまう。 「うち達がその『障害』っすよ? 君の想いが本物だって言うなら、うち達を――障害を乗り越えて、キミの想いを証明して見せろ」 少女と少年の狭間に揺れる幼さを残したかんばせは只、無を映した。きっと近重が焦がれる様に、フラウも焦がれる物がある。フラウにとっての障害は仲間だ。何よりも早く、何よりも凄く。何よりも―― 「我が身が最速で或る事を証明するが如く、キミも証明して見せろ、近重ッ!」 届かぬ事を知っていても、ただ、語りかける。其れこそがフラウの流儀だ。 先陣切ったナイフの切っ先を見つめながら、碧衣の脳内に構築されるプランニング。並列される演算式で冴えわたる中、目にするのは惑う蝶々の中、懸命に追い求めようとする少年の姿を見据える。 「見えず、聞こえず……だからこそ唯一自分に届いた声に惹かれたんだな」 其れしかその世界になかったのか。そう思う。其れが、どれほど辛い事なのか、痛いほどに分かる。 「お前の願いを叶えさせるわけには、いかないんだ」 「そう、終わらせるにはお誂え向きですからね」 喜劇と悲劇で満ち溢れる世界を飾り立てるように。悲劇は常に喜劇に、喜劇は常に悲劇に。それはどちらともなく表される。 『やあ、こんにちは。ご機嫌如何かな?』 攻撃の効率動作を瞬時に共有する。眼鏡の奥の瞳はただ、見据えながら、優しげな声で詩人は語りかけた。善性と悪性を持ちあわせる彼の指先はメスを弄ぶ。 聞えた声に惑いながら、「あ」と漏らす近重に視線を揺らせる。義衛郎は握りしめた鮪斬を容赦なく近重へと振るった。 ――恋路を邪魔すると馬に蹴られる。 碧衣の漏らしていた言葉だ。良く言う言葉。勿論、それは良く分かっているけれど。 「君の想いを気づつける様で、悪いけどね」 頬を切り裂く蝶々の翅よりも赤い液体が滴り落ちる。削り取る様に、振るう剣先に、近重が嫌だと駄々を捏ねる様に身を捩る。 「――須賀さん」 「ああ、来たんだ」 呼び声の主が、近づく事に気がついて、振り仰ぐ。纏う着物の裾を揺らして近重を求める様に、手を伸ばす。 ――おにさん、こちら、てのなるほうへ。 「――ぁ……」 「聞こえないのは分かっているけれど、すまない。行かせられない」 踊り出し、正鵠鳴弦で射抜くのは蝶々。燃え盛る炎は蝶々の翅を千切らんばかりに降り注ぐ。その炎は七海の想いか。ごうごうと燃え盛る其れは、一瞬で燃え付かせんばかりに熱く、そして鋭い。 せめて、苦しみは短い方がいいから。一瞬で与えておきたい。踏み躙るではなく、恋文を引き裂く様に一瞬で終わらせたい。その想いの果てを一瞬で付きつけるが如く。 言葉をかける事が出来ないのは寂しくて、そして、虚しい。聞こえないから話せない。恨み事すら漏らしてはもらえない。其れすらも、聞こえないのは、哀しくて。 「……貴方の初恋。本当は応援したいのですが、滅茶苦茶にさせて頂きます」 もう耐えきれない。彼を守る蝶々だって、傷ついて、倒れ始める。元から耐久力の低い彼は世界に影響を当たるだけで、弱いのだ。身を捩り震える。殴り掛からんとするその手。残る蝶々の切り裂こうとするそれ。 背に碧衣を隠しながら、ゲルトは俯く。嗚呼、なんて悲しいのだろうか。 なんて、恐ろしいのだろうか。 分からないのだ。見れないから。聞こえないから。見る事も聞く事も適わずに、ただ、己の身が傷つけられる感覚だけがその身に降り注ぐ。なんて恐怖だろうか。 「そうだよな。お前はまだ、少年なんだよな……」 年端もいかぬ少年にそんな思いをさせるなんて、そんな目に合わせるなんて、心が痛まない筈はなかった。 一点の曇りも帯びぬ鮮烈な輝きは、切り裂いていく。 降り注ぐ雷も、全てが近重の身を傷つける。痛みを感じないで逝かせてやりたかった。 「それすら、できないのか。……やらなくちゃ、ならない」 ただ、護りたいと思ったから。この世界を。綺麗事だと言われてしまえばそれで終わりだ。だが、それでも、自身の信ずる道だからこそ。護り切ろうと思うのだ。 『近重――』 ぴたりと、動きをとめた近重は覆われた目で声の主を探す。呼び声と違う声。 『……分かるか? 今の状況。分かるからこそ、君はそうやってるんだろうな』 寂しげなコーディの声音に近重は不安を覚える様に頭を覆った。 「――ッ、あ……」 声に為り切らない声が、聞こえる。リベリスタ達の攻撃は止まない。ここで、辞めるわけには行かないから。目隠しに滲む水滴が、彼の涙だと気づいてコーディは目を逸らす。 『こんな事をして済まない。君の望みは叶えられないんだ。赦してくれとは、いわない』 静かな声だった。赤い蝶々を打ち落とした雷は、轟く。その音は聞こえないのに、痛みだけがただその身を苛んでは彼に現実を見せ付ける。 なんて、非常な事なのか、それでも、コーディは語りかける。唇を結んで、貼りつける『冷静』の表情。 『こうなったのは君の焦がれる『音』の持ち主の所為ではない。だから――だから、彼女を恨んだりしないでくれ』 届けばいいと、想った。呼び声が、遠ざかる。 ――おにさんこちら、てのなるほうへ。 呼び声が、遠く、消えていく感覚がした。 『君、何か伝えたい言葉はないっすか。無意味だって、うちも分かってる。……ないっすか?』 フラウの声を届けながら、コーディは立ち竦む。存在を探す自分の目の前で無意味であろうと、届けたい物があると告げるフラウ。 年若く、少年と少女の顔を持ちあわせたフラウは笑った。それは冷笑か、嘲笑か。それとも―― 振るわれるナイフの切っ先が、深く、近重の胸に突き刺さる。 「ここが、お前の行き止まりだよ」 行く先、その恋路の行き止まり。立ちはだかって、碧衣は青い瞳を細める。勝気な表情に浮かべたのは、切なさ。常なれば内に秘める想いが止め処なく溢れだし、表情にも零れ出した。 ● 君のを纏った少女の髪がはらりと舞った。 「こんばんはお嬢さん。私は、朱鴉。お名前を教えて?」 その言葉にふるふると少女は首を振った。名前がないとでも、言う様に、首を振って悲しげな顔をする。 打ち抜く其れさえも、なんて虚しさか。 「……無様だな、私が」 嗤える。嗤ってしまって悲しくなる。エゴでしかないのに。研究材料に拾ってくれとへらへらと笑う。優しさは胸に隠した。後で埋めよう。此処でない何処かに下らないけれど。 「畜生……ッ」 下らなくて下らなくて、救われるのなんて自分でしかないのに。分かってるけれど、遺品を一緒に埋めよう。 共に居られます様に、と。 「なあ、なんであの子だったんだ?」 蝶々の中で義衛郎は舞う。もうすぐで仲間達が駆け付けるだろう。けれど、聞きたい事が沢山胸の内を占めていたのだ。何故あの子だったのか、どうしてあの子にしたのか。 「……好きだと、想ったの」 一目見たときから、好きだと。そう思う。惹かれる物が、あったのなら仕方がないと義衛郎は眼を閉じる。 寂しさを紛らわせるなら誰でもよかった。いっそそんな理由の方がよかった。その方がこの胸はまだ安穏を抱けた。回復手が居ない中、傷つけられるその身を厭わずにただ剣を振るった。運命さえも差し出した。 「逢瀬は悲願で与えるから。だから、生きてる間に名前くらい教えてやったらどうだい?」 細めた瞳に射抜かれた少女の目線はうろついた。名前がないから、寂しくて堪らなかったのに。 「ねえ、貴方が名前を頂戴。彼に、伝える為の名前」 「――……『 』」 小さく、呼んだそれに嬉しそうに微笑んで。とてもいい名前ねと、彼女は泣いた。 やまない攻撃に、自身の身を削られても、それでも尚、寂しさを満たそうと少女は攻撃を続ける。満たされる様に、嗚呼、一人じゃないのだと、分かるから。 背後から走る音が聞こえる。 「ほら、逢いに来てやったっすよ」 その音と共に一番に辿りついたフラウはナイフを蝶々に振るった。耐久力の高い蝶々に繰り出される攻撃。 この世界には悲しみが多過ぎるから、その悲しみを減らそう。常に世の中はハッピーエンドでなければならない。 ゲルトの切り裂くリーガルブレードは鈍く輝きを放つ。彼の瞳と同じく、青く、煌めいて、想いを湛えた。 「せめて、安らかな祈りを与えたいんだ――Amen」 その言葉に少女は悲しげに瞳を細める。嗚呼、沢山の人が居る、けれど『彼』がいない。 何故かしら。この人たちは、何故、こうしているんだろう。 「嗚呼、そうだ。君が呼んでいた者……『近重』と言うがな。君と彼が逢う事は許されないんだ」 「――そう」 納得できるのかと聞かれたら否だった。けれど、駄々をこねても彼はもう来ないのだと分かっていたから。 何か、罪滅ぼしをしたい。残った赤い布を握りしめてコーディの視線は彷徨った。嗚呼、伝えられる言葉が喉元から零れ出す事を拒否する。 初めて、呼んでくれたから。 どれほどそれが彼にとっての転機になったのだろうか。幸せだと感じさせたのだろうか。 「結局さ、こうなっちまう運命だったんだろうよ。ま、悲恋だったって覚えとくくらいなら、出来なくもねーけど」 神秘に愛されない世の中だからと憂う仲間達を見やりながら和人は小さく息を吐いた。 きっと、神秘が絡まねば、交わる事もなかった。近重が『トリガー』でなかったとしてもそうなる運命だった。 そう考える事が一番最適なのだろう。 ――けれど、覚えておこうと思う。 「……忘れぬように、せなばな」 糸を手繰り寄せる様に、コーディは視線を揺らす。伝えたい事を、伝え切れたから、いい。 蝶々は散りゆく。炎は少女の身を焦がした。ぶつけられるその熱さにも少女は幸せそうに目を細める。 「――一人じゃないんだね」 「そう。一人じゃない。貴女は何を、其処に遺したのでしょうね」 放たれる矢はその想いをぶつける様に、逃がさぬように、降り注ぐ。彼女を守護する蝶は全てその身を地面に散らしてしまっている。 「やれやれ、儘ならないものだな……」 今生で逢えなかったのだから、せめて、あちらで。其れさえも、綺麗事なのだろうか。 碧衣は眼を細める。気糸は彼女の動きを遮った。寂しげに眼を細めて、どうしたらいいのか分からないとなく少女。 これは、仕事だから。感情を隠す様に胸の内に沈める言葉。これは。仕事だから。 落とされる鉄槌に少女は痛みを堪えることなく、只、泣いた。放たれる四色の光が和人のその身へと降り注いでも、彼らは攻撃をや増すことなく語りかけた。 もうボロボロになった少女は、胸を押さえる。叶わぬ恋の果て。如何する事も出来ずに、ただ、立ちすくんで。 「おいで、寂しいなら――」 受け止めようと両手を広げる。逢いたかった想う彼とは違うけれど。其れでも寂しいなら、両手を広げて、名を呼んで。傷を負っても、其れすら気にしないとフラウは手を伸ばす。 彼の想いは本当だった。本物の想いすら世界の為に奪わないといけないなんて、世界は何時だって儘ならない。なんて、理不尽だ。そんなこと、嫌でも分かっていたのに。 「腕の中で、殺してやるっすよ」 その腕に啜り泣く、傷だらけの少女が滑り込んだ。目を細めて、背をあやす様に撫でる。世界の為だから、そうは言えなかった。けれど、寂しいならば、彼じゃないけれど―― 握りしめた魔力のナイフが鈍く光を帯びて。 ――深く、突き刺さった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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