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君に問う、正義のカタチ


 ――ざがん、と言う、音が響いた。
 酩酊する視界。微かに聞こえた風の音。
 奇妙とも思えるほどの寒さにぶるりと身を震わせれば、それに覚醒する私の意識。
 まず最初に捉えたものは、満点の星空だった。
 木々の葉っぱに隠れて覗く、私の世界とは違う、空。
 次いで、音。
 さわさわと響く風の音、さくさくと聞こえる、葉が擦れる音。
 ……そして、ざ、ざ、と聞こえる。軽い足音。
(……)
 見えたのは、少年だった。
 生まれて年月は如何ほどが経っているのだろう。十か、それより上か。
 笑えばさぞかし善い顔となるであろう少年は、しかし、汗を一筋垂らし、強張った――否、鬼気迫ったとも言える顔で、此方を睨んでいる。
「……?」
 私は。
 それを、笑顔で、見つめ返す。
 どうかしたの?
 何か、怖いことでも、在ったの?
 小首を傾げて、視線で問うて。
 少年は、それを見て、顔を伏せた。

「……やめろよ」

 呟かれたコトバは、私には解らない。
 世界の違いが在るのだ。それは自然と、解りつつも。
 苦しそうな表情を見る度、何一つ返せないこの身を、今は、歯がゆく思ってしまう。

「そんな目で見るなよ。こっちを向くなよ」

 語る。語る。解らない言葉を、淡々と。
 拳を握って、身体を震わせて、歯を食いしばって。
 瞳に涙を、ため込んで。
 だから、
 だから、私も、その姿を見る度、何故か。

「僕は、お前を――」

 何故か、無性に、悲しくて。

「お前を、利用、するんだぞ」



 伸ばされた手が、強引に、私の手を引いた。


「皆さんに、聞きたいことがあるんです」
 無機質なブリーフィングルーム。
 幾名のリベリスタに相対するフォーチュナ、『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)は、唐突にそう問うた。
「……その前に、先ず、依頼の説明からしましょうか。
 今回の依頼は、ある一人のアザーバイドがフェイトを得るまでの間、私たちでそれらに因る影響の対処を行う、と言ったものです」
 ファイリングされた資料を捲りながら、和泉は淀みなく解説を始める。
 ――フェイトは兎も角、影響?
 そう問うたリベリスタに、和泉は是と頷き、モニターに未来映像を映し出す。
 まず最初に見えたのは、暗く深い森。
 鬱蒼と――それこそ異常なレベルで生い茂る木々に隠されたように、小さな少年が、小さな少女の腕を引いている。
 少年は、ずっと顰め面で。
 少女は、ずっと笑い顔で。
 互いに、涙を、零しながら。
「……アザーバイド、『ミタマ』」
 訥、と。
 言葉を、再度始めたのは、和泉。
「彼女らはその文化等に於いて、私たち人間と全く変わりはありません。
 唯、一つ。彼女らには、『生命を他に与え続ける』と言う能力が、備わっているだけで」
 ――しん、と、静まりかえる室内。
 未来映像を見直せば、映る光景、生い茂る木々は、今なお遅々として――だが、目視でもハッキリと解ってしまう速度で――成長を続けている。
「能力が能力である以上、彼女らの寿命は非常に短命です。長く生きても、二十を超えることは先ず無いでしょう。
 それでも……その僅かな時間をこそ、欲する人は、沢山います」
「……コイツは?」
 リベリスタが、少女の手を引く少年を指差した。
「ええ。彼もその一人です。
 急病を患い、その命を失いつつある母親の為に、彼の少女の時間を、彼は欲しているんです」
「……」
 和泉は解説を続ける。
 アザーバイド、『ミタマ』は現在、フェイトを得ていない。
 其れが得られるのは、これからおよそ数時間後。それはボトム・チャンネルの影響を鑑みて、許容できるラインだと、アークは判断した。
 けれど。問題は其処までの間。
 フェイトを得るまでの数時間、『ミタマ』の能力は此の世界に於いてある種の暴走状態を呈しており、このまま放置し続ければ、彼らが居る森一帯は異常繁殖した木々に押しつぶされることになるのだという。
「……件の少年は、フォーチュナです。戦闘能力には期待できません。
 なので、皆さんにそれらの対処をお願いしたいんです」
 繁殖し続ける木々の始末。其れが、この度リベリスタ達が負う任務だった。
 不幸なことに、この森はある市街地の環境保全の一環として、街の中心部に存在している場所である。
 負担軽減のため、不用意に『ミタマ』を動かせば、人里にまで彼女の能力、ひいてはE属性までもが影響する可能性が高い。
「対エリューションやフィクサードのように危険度が高いわけではありませんが、根気の要る任務です。参加には十分考慮して下さい。
 ……それでは、ここからが『私の』本題です」
 事務的な口調より、一変。
 和泉は――それこそ年相応の女性のように、少しばかり、大人びた笑みを見せる。
「アザーバイド『ミタマ』は、本作戦が成功した場合、フェイトを得て一般社会にとけ込めます。
 皆さんは、それに対してどういった行動を取りますか?」
「……? どう、って」
「単純に言いましょう。『神秘の力を介したズルを許容するか、神秘にすら縋ろうとした意志を壊すか』です」
「………………」
 和泉は笑っている。
 普段、其の柔和な表情と言動で、アークのリベリスタを穏やかな気持ちにさせる、その表情が、
 何故か、今はとても、恐ろしくて。
「リベリスタとして活動を初めて幾年、皆さんは多くのフィクサードを、意志持つエリューションを、アザーバイドを見てきました。
 悪事に手を染めてでも、神秘に手を汚してでも、叶えたい純な願いに、皆さんは尊いと想ったことも、在ったと思います」
「……」
「ならば、今はその好機です。
 強い願いを持つ少年が、誰も被害に遭わせることなく、その願いを叶えることが出来ます。それは、皆さんが待ち望んだ『ハッピーエンド』ではないでしょうか?」

 ――けれど。

 ――嗚呼、けれど。

「果たして、皆さんは、『アークのリベリスタ』は、その願いを容認して良いのでしょうか?」
 ……氷のようだ、と、誰かが思った。
 時期的には冬。気温は低くとも、室内は空調が効いており、現在もリベリスタ達に適温の空気を流し込み続けている。
 けれど、それでも、寒いと、そう思ったのは。
「……ずっと、考えていたことです。
 彼の異世界で、唯己が本能のために、暴力を、殺戮を振るい続けた種族。それらを救いたいと、皆さんが言い出したときから」
 和泉は、
 和泉は、泣き笑いのような表情を浮かべて。
 冒頭の問いを、投げかける。



「『リベリスタ』って、なんですか?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月17日(土)22:46
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
『増殖樹』の異常成長阻止

場所:
某街の中心部にある小さな森です。
森付近に於いてはアークの根回しが済んでいるため、音や光などで気をつけることはありません。
時間帯は夜です。

対象:
『増殖樹』
下記の『ミタマ』によって成長し続ける樹木です。
この対象はE属性こそ無いものの、『戦場全体』が本対象であるため、対処には幾らかの問題が付属します。

・この対象は一定HPを有するエネミーとして扱われる(HP上限無し)。能力は超リジェネレート、BS完全無効。
・この対象のHPが一定値以上に達した場合、戦場に居る全てのPCは近接範囲以上の距離を持つPCまでの視界を遮られ、また移動も出来ない(非戦スキルによる例外はあり)
・特定の非戦スキルに対する耐性を有する

数時間の仕事になるため、スキルを使い続けるなどは難しいでしょうが、かといって通常攻撃のみで倒せるほど易しい相手でもありません。ご注意を。

その他:
『ミタマ』
アザーバイド。何処かの世界から此方に落とされてきた。
外見年齢十二歳。言葉を理解できず、常に明るい笑顔を浮かべている。
『自身の生命を他に与え続ける』と言う能力を有しており、これにより現在彼女らが居る森は異常繁茂を続けている。
フェイトを有することによって、この能力はかなり小さな範囲(触れ合う距離)まで抑え込むことが出来るとのこと。
見知らぬ世界に於いても動揺していないことから、世界間の移動は納得の上だったものと思われる。
下記『少年』に対する悪感情はない。

『少年』
フォーチュナ。アークよりも一手早く『ミタマ』の存在を察知し、それを捕まえに来た少年。
片親だけに育てられた生活を送り、その母親が今回末期の病気を患っていたことを知り、行動に出た。
倫理観は一般人の其れと大差なし。唯母親に関してはそれらが多少緩みがち。
最悪、自身の身を売ってでも母親を救う覚悟にある。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
覇界闘士
白 凛香(BNE000962)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)

●序
 ――あたしの信じる正義、リベリスタとしての正義。

 『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は、謳うようにそう呟いた。
「どっちが正しいのか、なんて答えは出せないけど、少なくとも、あたしはあたしらしくいたい。……そう思ってるんだ」
 語られた相手、天原和泉は、その言葉に唯、瞑目する。
 出立の直前、彼――『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004)に呼び止められた和泉は、自らがもたらした問の答えを、救世者達にそれぞれ返されていた。
「許容するのはリベリスタとしてどうなのか。それは理解してる。
 だけど、誰も……世界すら傷付かないのなら、俺は悩まないよ」
 元々、リベリスタとしては不出来な方なんだ。そう言って肩をすくめるのは『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)。
「リベリスタ、もフィクサード、も大差ない。
 大義が、正義が、言動が、受け入れられるか、どうか……他人の評価、ただそれだけ」
 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)もまた、然り。
 ……『定めきった者達』。
 語るは易く、成るは難し。幾多の戦場を、其処に潜む激情を身に、心に負い続けたが故に得た決意は、死地を味わうことが出来ぬ予見視の女性に、何を教えているのだろう。
「……僕はさ、リベリスタだけど、そのまえに御厨夏栖斗なんだ」
 それじゃ、答えにはならない?
 問い返す、夏栖斗の目を、迷いながら、それでも逸らさない和泉。
 アークで最も多くの勇名を集めた彼の、リベリスタとしての出自は、彼女とて勿論知っている。
 母親を革醒者に殺され、皮肉にも間に合うことがなくなった後に、抗する力を得た少年。
 仮に、その革醒が一息でも早ければ。
 それとも、今から過去へと戻れるのならば。
 力を研鑽し、多くの人々を助け、世界を守り、
 それ故に、その仮定はココロを穢す毒になって、彼に悔恨の爪痕を残し続ける。
 ――けど。だから、こそ。
「誰かがさ、不幸になるのを放置できないんだ」
 自らと同じ存在、斯く在りうる存在。
 無理矢理片方の選択を強いるよりも、自らの手で為せることを為して、そうして終末を迎えたならば、其処には救いはあるのだと。
「……私は、フォーチュナです」
 和泉が、
 言葉を、ぽつり、呟く。
「唯、見ることしか、識ることしか出来ない私に、その気持ちを理解できるのかは、解りませんけど」
 それでも、有難う御座います、と。
 誠意を持って語られた意志に、彼女は深々と、礼を返した。

 ……現場へ向かう送迎車に、リベリスタ達が乗り込んでいく。
 一人、また一人が二台の車両に乗り込み、最後の一人――『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)もそうする前に、足を止めた。
「どっちが正解だなんて簡単に答えを出せる事じゃない。今も、答えはわからない」
 でも。そう逆接で繋いだ言葉を、紡いで。
「伝えないといけない事がある。それだけは、はっきりしているんだ」
 彼は、今日も『境界線』に臨む。

●間
 ――手を引く彼をじっと見ながら、私は歩かされている。
 周囲には草と、木。
 時と共に急成長を続けるそれらを、くそ、と彼は毒づいて、早々とその場を動き続けている。
(……ねえ)
 伝わらない言葉。そんなことは解っている。
 だから、思うだけ。想うだけ。
(私を、『どうしてくれるの』?)
 答えなど無くて良い、問い掛けだけれども。
 最早終わってしまった私に、意味を無くした私に、
 眼前の彼は、何を与えてくれるのだろう、と。
 唯、そればかりを、夢見ていた。

●起
 歩みは海豚のような進みから、徐々に徐々に亀の其れへと変わっていく。
 生い茂る木々は少年と少女、二人の歩みを悉く阻み、それを払う少年の腕は既に傷の様相を超え、血に濡れそぼっている。
「ちくしょう、ちくしょう……!」
 少年は、
 それでも、少女の手を離さない。
 其れは、自分の母親を救うためか、
 或いは、背後の少女を導くためか、
 彼自身にも、解らない思いを以て、唯。
「――――――、」
 それでも、歩みはやはり、阻まれた。
 枝葉が、蔦が、野草が、行き先を無くして縦横無尽に走り回るその様は、正しく一つの『壁』の機能を呈して、少年達を追いつめた。
 逃げ場を失した絶望。
 行き所を無くした諦念。
 綯い交ぜになった負の感情が、彼の足を折る、その刹那。

「そこで膝を折るのかい?」
「ッ!!」

 絶望の壁を切り裂いて、舞った飯綱の向こうに、声が響く。
 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)。語られる称号をそのままに、振るう脚より鎌鼬を喚ぶ彼の術技を追うように、他の仲間達も彼を越して、少年のカバーに、その周囲の木々の破壊に従じ始める。
「お前達、リベ……」
「ええ、アークのリベリスタです。この樹の成長が収まるまで今はじっとしていて下さい」
「ご心配なく、その子を殺す心算は御座いませんわ」
 反駁しかけた少年の言葉に被せて、源 カイ(BNE000446)が生真面目に返し、『喧嘩シスター』白 凛香(BNE000962)がちらと笑った。
「貴方と、その子と、わたくし達(リベリスタ)。
 三者がハッピーになりうる結末に向かって、職務を全うさせていただきましょうか」
 呟き、次いで、蹴撃。
 クルトの斬風脚が術技によって現れる風の刃なら、彼女の其れは強引な力業だ。
 一に直接蹴りを叩き込み、二で其処を起点に強引に風を取り集め、爆発。
 千々に放たれた真空の刃は、一定の規則性を持った草木の壁をずたずたに引き裂いていく。
「……なんで」
 少年は、それを忘と見つめていた。
 フェイトのない、アザーバイド。
 死を迎えるべき存在、それを守らんとする『リベリスタ』は、彼にとって思いも寄らない存在でしかなかった。
「その子……ミタマは、フェイトを、得る」
 ――黒気の爆手を振り抜きながら、応えたのは天乃。
「それまで、私たちが、守る。
 今、街中に行くと、被害が出る……から」
「……」
 其れを聞いて、少年は座り込んだ。
 手を繋いだまま、何処か、後味の悪い顔をしながら。
(リベリスタとは、何か)
 構えた籠手――『UCW-Armgun Ver.Ⅱ』から銃口を展開し、自身の影人形をまとわりつかせての弾幕拡散。
 破壊される木々を、それを驚嘆の眼差しで見る少年少女を横目に捉えながら、彼は迷いをひとたび閉ざす。
(生きているうちに、答えを出せると良いのですがね)
 純な感情を見せる両者に、苦笑を浮かべながら。
「たった数時間がどうした、長丁場位なれてんだ!」
 咆える夏栖斗は、木々の群れに片手を強引に突き刺し、其処から収奪の能力を展開する。
 萎びた周囲の木々に反し、血色を、気勢を取り戻す夏栖斗は、次いで自重によって落ちてきた上方の幹を『炎牙』で耐え、その間に『炎顎』を以てその殆どを朱色の風に捉えた。
「巻き込まれんなよ……!」
 武器の色彩が、名が故か。
 虚空――真空のセカイを作り出す其処には、朝焼けの如き紅すらも、刹那、其処に覗いていて。
「ふ……っ!!」
 圧倒的。
 そうも思わせる彼らでありながら、しかし、其処には当然継戦能力の限界が存在する。
 ウェポンマスター。百器すらも携えうる技巧を有した絢香をして、繰り出す技は時と共に荒さが目立ってくる。
「絢香さん!」
「あたしは大丈夫、あの子達を優先してあげて!」
「っ、……解った!」
 吸血による回復能力を有する悠里、夏栖斗、ミカサはそうそう折れる事はないにしても、それとてやはり二人だけの話だ。
 単純に、このままごり押しで進める展開ならば、やはり彼らが木々の生長に封殺される可能性は大いに高い。
 ――そう、その展開『ならば』。
「……チャージするよ。意識を空にして」
 語るはミカサ。繰るは神秘を以て異能の根源を呼び戻す呪法。
 インスタントチャージ。意識の同調によって呼び起こされる気力が、闘う者達の双手に、より一層の力を与える。
「っ……!」
 誰一人もが、全力を出して闘う最中。
 少年は、其れを見ているばかり。
 見て、矮躯をかたかたと揺らしている、そればかり。
「……怯えてる?」
 その最中、ミカサが問う。
 問われた側……少年は、その言葉にびくりと身を震わせた。
 露骨な反応だ。ミカサはそれに表情を微か、緩めて、言う。
「大丈夫だよ。此処に集まったみんなは、強いからね」

 零したその言葉より、時間は経過し続ける。
 一時間、二時間、三時間、四時間。
 五時間目、星々の光は消えずとも、空が僅かに白み始めた、その時を以て、
 少年は、ミカサの言葉を真実と、理解させられたのだった。

●承
「ミタマさん、運命の加護を得られましたか?
 おめでとう、ようこそボトムチャンネルへ!」
 木々の成長が止まる。
 即ち、少女――ミタマの能力がフェイトを得ることによって制限された現在。
 凛香は、喜色を満面にした面立ちで、少女のアザーバイドと友人のように接していた。
「……犠牲は、免れない、よ」
 それを、遠巻きに眺めるのは、少年。
 そして、彼に語りかける、幾名かのリベリスタ。
「母親を、救うなら、彼女の自由は、母親の、今の居場所は、失われる。
 彼女の自由を、望むなら、母親の命が、失われる」
「……解ってるさ。そんなの」
 天乃の言葉に、頭を振る少年。
 彼自身、その行いを正当ではないと、理解はしているのだ。
「正直に言えば、僕は君に諦めて欲しい」
 だから、悠里はそう告げる。
「君はお母さんを助ける為に、人殺しをしようとしてる。
 命を奪うって事はね、本当に辛い事なんだよ。だから、僕はそんなものを負って欲しくない」
「……」
 真摯な思い、なのだろう。
 少年は、視線の高さを合わせる悠里をじっと見つめて――そうして、言う。
「……違うよ、それ」
「……?」
「僕のチカラとか、お兄さんのチカラとか、そう言うものを持った時点で、僕等はもう、どろどろに汚れてるんだ」
「それは――!」
「違うって、言えるのかよ?」
 返そうとした悠里は、真っ直ぐに過ぎる少年の言葉に、一瞬だけ気勢を削がれる。
 その、一瞬こそが大事なのだと、解りながら。
「武器なんて無くても、人を殺せる力が在って。
 僕みたいに、曖昧でも未来を見られる力があって。それで、どんなに軽くても、悪いことをしようって、そう思ったことは一度もない? 本当に?」
「……君は」
「僕はあるよ。たくさんある。
 抜き打ちテストの内容を知ろうとしたり、明日のニュースのお話を教えてみんなをびっくりさせようとしたり、近くのスーパーの品物が何時安くなるかを探したり、他にもたくさん」

 ――だから。

 ――力を持つと言うことは、それを利用すればと言う仮定を考える。人より強い『欲』を得て、悪に堕ちると同義なのだと。

 理想しか知らない、子供。
 故に、語る言葉は潔癖に過ぎても……悠里は、其れに返す言葉を知らなかった。
「だから、母さんには綺麗でいて欲しかった」
 あの女の子を利用したのは僕だ。
 アイツの命を犠牲にするのも僕だ。
 もう『悪い』僕なら、これ以上、どんなに悪くなったって構わないから。
 母さんだけは。
 僕なんかを、たった一人で育ててくれた、母さんにだけは。
 せめて、最後に、少しでも長く、自由でいられる時間を。
 愚かさを自分で笑いながら、少年は、泣いていた。
 そんなことは、決して母も望むまいと、解っていたが故に。
「……たまにはズルしていいんだよ」
 それを、とん、と。
 夏栖斗の手が、少年の頭に、乗せられた。
「ずっと正しい壗じゃなくていいんだ。
 僕はね、君がやりたいこと、手伝いたいって思ってる」
「……っ」
「ただ、ミタマちゃんや君たちが悪者に利用されるのだけは避けたい。
 君の覚悟があるなら、三高平……僕達みたいな異能を使う人たちが集まる街に、来て欲しい」
 ――居場所を奪う、と、天乃は言った。
 それはつまり、少年と、少女……アザーバイドを庇護しやすい土地へと動かし、管理すると言うこと。
「……解ってる」
 それでも、
 少年は、迷わなかった。
 悠里の言う、自らの行いを罪とするならば、
 今一度罪を重ねることに、最早惑いは無いのだと、そう思って。
「もちろんミタマちゃんが帰れるなら元の世界に帰ったほうがいいと思うけど……」
 どうかな? と夏栖斗が目で問うた先には、ミタマと、五人のリベリスタ達が。
「……」
 彼らは、沈黙していた。
 言葉に迷う、そのように見えた彼らに、少年を含めた四名が怪訝な表情を浮かべるものの。
「……ディメンション・ホールは既に閉じているらしいし、本人にも帰る気は無いみたいだよ」
 最初に言葉を返したのは、ミカサだった。
「君の手伝いが出来るなら、そうしたいって、そうも言ってる。
 ……でもね。この子自身は兎も角、俺は君に対して、気に入らないことが一つある」
 言って、ミタマの側から、少年の側へと近づく、ミカサ。
 怜悧な瞳と、高い痩身。
 ある種の威圧感を持つ彼に対して、僅かに震える少年へ、けれど、ミカサは視線を合わせた。
「ねえ、何で悲しい顔をしてるの。
 拒絶されるかも知れないし、頷いても彼女の命を削る、自由を奪う行為だ。覚悟の上なんだろ」
「……っ」
「今なら通訳も出来る。『お母さんを助けて』って彼女に言いなよ」
 非道を気取る少年。
 けれど、其処に迷いなんてものを介在させるくらいならば。
 せめて、頭を下げて、願いを乞うて、
 そうして、許して貰うことが、せめてもの道理なのだと。
「……僕は」
 少年は、何かを言いかけて、
 けれど、それに頭を振って、
 ミタマに近づき、言った。

「……母さんを、助けてください」

●転
「……さっきの話、だけど」
 ひとまず、少年とミタマを現在の家へと帰したリベリスタ達。
 この後、彼らはアークの計らいによって、一家共々三高平へ居住を求められることとなるのだろう。
 その果てで、何を望むのかは、未だ解らないけれど。
 そうして、それを見送った後、クルトが、口を開いた。
「彼女……ミタマ君はね。捨てられた存在なんだって」
「……なんだって?」
「彼女たちの世界。寿命、二十年くらいしかないって言ってただろう?
 それが理由で、種族の存続のために、子を為すことが重要視されるんだ」
 普段より幾許か『冷めた』表情で、最早姿を消した少年達の行き先を覗くクルト。
「女性は初潮を、男性は精通した段階で子供を為すことを義務づけられる。
 生まれた子供は、先にも言ったけど寿命の関係もあって、個々の親に任せた教育なんてしてる暇はない。自然、専門の教育機関に預けられて、自らの『役目』を教えられる。それがあの世界の通例」
「……だけど、偶にね。子供を作れない女性とか、男性も居るらしいの」
 あたし達の世界にも居るでしょ? そう問うた絢香。
「そうした人たちは、此の世界に必要ない。只の無駄飯食いに過ぎないからって、そのまま異世界に突き落とされるんだって」
「……あの子は」
「うん」
 夏栖斗が呟く言葉に、絢香は渋面でそう返した。
 ――情報は、ミタマに対して積極的な質問をしていた凜香からの解答だ。
 淡々と、笑顔で当然のようにもたらされたその定めに、聞いた者達は返す言葉を知らなかった。
「彼女を母親のために拘束するなら」と、凜香は言おうと思っていた。
 或る意味で、其れは間違っていたのだ。
 少年は、ミタマを利用することを望み、
 ミタマは、少年に利用されることを望んでいた。
「……自分が役に立てるなら、と。喜んでましたよ。彼女は」
 嘆息。
 カイは、自身の幻想纏いを手の中で弄びつつ、ぽつりと呟く。
「情に流される、綺麗事を言う事がリベリスタとして失格なら、僕は一生リベリスタにはなれなせんね」
「あはは、同感。こんなんじゃアークに怒られちゃうね」
 その言葉は、少年に対してのみ、向けられたものではなく。
「でも、それを無くしてしまったら、きっとあたしはあたしじゃ無くなってしまう」
 ――人の世界に生きるのなら、迷いは永遠に避けられない。
 一つ、一つをすり抜けようと、幾多の蜘蛛の巣を更に乗り越え続けなければならない。

「それでも、あたしは救いたいんだ」

 『禍を斬る剣の道』。絢香が選ぶ、正義のかたち。
 禍を斬るならば、其れに迷える者の悲しみも共に斬ろうという、その意志こそが。

 ――陽の光が森を覆う。
 八人は、その何れもが眩しそうに朝焼けを見つめる。
「......Wer die Wahl hat, hat die Qual」
 クルトが、その最中で、小さく呟く。
『選択の自由には、苦労がついてまわるものだ』。独逸にて語られる諺の一つは、正しく此度の苦悩を具現したものだった。
 救世者の名を持つ者とて、届ける手の限界がある。
 救えない者、救いたいもの、守りたい者、守れないもの。
 一つ一つ、悩みながら、それでも彼らは、進むしかないのだ。



 ――惑いの夜。それを越えた先に在ろう、この朝日の様な光を信じて。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れさまでした。
基本的に焦点は少年の側に向けられていますが、少女の側も側で案外ヘビーな設定が敷かれておりました。
皆さん知ってるとは思われますが、この依頼、正解等というものは存在しません。
有るのは個々人の最適解。其れが正しい、若しくは其の選択を背負う覚悟、そうして進んでいく存在が、きっと本質的な『正義』なのではないかと、田辺は思います。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。