●父のために 険しい山の斜面を登るうちに、彼女の足元はパンパンに膨らんでしまっていた。ゴツゴツとした感覚が足元に溜まって、気持ち悪さと同時に痛みがやってくる。 「……いたぁ~」 悶絶しながらも、彼女は足元をしっかりと地面に置いて斜面を進んでいる。つらい道であり、実際彼女は辛い思いをしながら山を登っているのだが、諦めることはない。 というのも、家族のためだ。 「待っててね。パパ……」 彼女の名は香織。その胸は豊満である。 今山を登っている彼女の父は今、病院のベッドの上で眠りに付いている。現代の医療では難しい、重い病気だそうだ。 そんな父親の力になるために、彼女は昔父と共に登ったこの山に咲く花を摘みに来ているのである。思い出の詰まった物なら、きっと喜んでくれるだろうと信じて。 「ふう……。ここを登れば、一安心かな。見ててね、パパ」 その思いを抱えて急な斜面を登り切り、後ろを見渡す。ほとんど崖だ。 しかし、険しい道になったものだと香織は思う。昔登った時はこんなにも急斜面はなく、ちゃんとしたハイキングコースがあったはずなのに。 「それに、こんなにデコボコ道だったかな?」 ちょうど腰掛になるサイズの岩があったのでそれに座って水筒を取り出す。急いではいるが、焦ってしまっては事を仕損じる。 落ち着いて周りを見渡す。 「やっぱり、変だな」 明らかに昔登った山とは違っている。まるで、何か巨大な力に叩かれて作られたような、小さなクレーターに崩れたような急斜面。 何かが、いる。 そんな気がした時、お尻のあたりがぐらついた。座っていた岩が、ふわりと浮いたような――、 「何……!?」 慌てて下を見ると、そこにはさっきまで座っていた岩を持ち上げる巨大な、 「怪物!?」 その怪物は岩の上にいる香織の姿を見つけると、にやりと笑って。 「キャーっ!?」 岩を投げた。 ●凶悪タイタン 巨大な岩を持ち上げ、鉄球を抱える怪物の姿をアーク内のモニターは捉えていた。それは巨大な人型生物であり、同時に神秘によるものだと直感させる。 「これが今回の敵ね。分類はアザーバイド」 一言で言ってしまえば巨人である。4mほどの筋肉隆々とした姿は横にも縦にも大きく、巨漢と言えるだろう。その腕には鎖で繋がれた鉄球があり、これを使って攻撃してくるのは想像に難しくない。 解説をしているのは『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)である。乃亜は手に持った資料を覗き込みながら、このアザーバイドに関する情報を出していく。 「名前は、そうね。アークの研究室は仮にタイタンと名付けたわ。神話に出てくる巨人の名前よ」 タイタンと呼ばれたこのアザーバイドは鉄球を振り回し、現れた山岳地帯の環境を破壊しているという。その為、人が通り難くなり、人が近寄らない場所になってしまっているのだとか。 「だけど、タイタンはこの世界の生き物――人を優先的に攻撃する習性があるらしいの。しかも、弱い者を狙うみたい」 弱い者から倒すという習性をもつ巨人は、神秘の力を持つものよりも一般人を狙う。更に言えば、神秘の力を持つ者でも打たれ弱い者から狙うという。 「それで、悪いことにこのタイタンと少女が出会ってしまうわ。それは既に確定された未来よ」 病気の父のために山登りをしている香織という少女がいる、ということを乃亜からリベリスタたちは伝えられる。その胸は乃亜より少し控えめ。 「あなたたちリベリスタにお願いする任務を伝えるわ。この山に向かってタイタンを倒し、香織という名前の少女を保護して。今回はタイタンが一般人の命を優先的に狙ってくるから気をつけて」 乃亜はリベリスタ一人一人の目を見てから、深く頭を下げた。 神秘を守るものとして、何の力を持たない一般人の命を守ることは正しいことだろう。 だけど、それができなくて皆に伝えるしかないのが乃亜だ。だから、その思いも込めて頭を下げる。 それに対して、リベリスタたちは――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月25日(日)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●山登る想い 父への思いを胸に、勇気を出して山へと登った娘の勇気。それはリベリスタたちの心にも影響を与えていた。受け取り方は様々であったが、それでも心を打たれ、力になろうと思わせたのは確かだ。 現場へ向かうその足も勇ましい。 「罪も無い一般人が被害に合うのを見過せない。希望を繋げる為にも彼女を助けるよ」 助けを待っている人がいる。それだけでヒーローは走り続けられるのだ。『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)はそれを体現している。その爽やかな顔を歪ませようとも、短髪が山風で揺れ動こうとも、決意をエンジンに胸の炎を燃やす彼の足は急ぐ。親を思う娘を助けるために。 「一般人とか弱い人を優先的に狙うなんて、弱いものいじめですよう、やーん」 疾風がぐいぐいと進む後ろで、弱い者いじめへの不平を漏らしながらくねくねと飛んでいるのは『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)だ。空に近い場所であるため、太陽の光が強く眼鏡を照らし、イスタルテの表情を覆い隠している。 「4mとか凄く大きな体なのに、器が小さいですよ~」 そんな眼鏡の下からえぐえぐと涙を流しているのは、自分の身もそう頑丈ではないからだろう。狙って攻撃されると分かって向かうのは、ちょっと怖い。 それでも、一般人の香織を助けるため、幻で隠した翼を広げて進んでいる。怖くても、何とか力になりたい。 「お父さん想いの、とてもお優しい方ですねっ♪」 親を想い、その想いを力に変える。両親がリベリスタで、その想いを引き継いだ『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)はその力に心当たりがある。胸の内に、今も残っているものだ。 凛として一見クールな流であるが、それでも普通の女の子。そんな流が戦い続けられたのは、そんな親の影響があるのだと思う。 「そんな方を邪魔する輩は許しません! 大人しく成敗されてくださいっ」 だからこそ、その想いを踏みにじるアザーバイドが許せない。守り手に憧れる流は、絶対に守ってみせるぞと意気込んで紅白の翼を広げた。 「あっ、と……」 勢い余って出した翼だが、謙虚にそそくさと戻すのは流の性格を表しているのだろうか。 「家族愛からの山登りが一転して……というのは好ましくない」 鞘に収めた剣に手をかけてながら、山風に長髪が揺れている『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の姿は山登りの最中であっても優雅で綺麗なものだった。オッドアイが太陽に反射して、スレンダーな体型が山道をすいすいと進んでいく姿は、どこか神々しくも感じる。 だが、そんなアラストールの本質は祈り。今も、家族愛の為に山を登った少女の祈りを感じ取っている。 「助けたから父君が目を覚ます訳でもありませんが。いずれ来る再会の芽が詰まれる事ないよう、助け、守りましょう」 真面目にその後のことも考えているアラストールは、少し先の心配までしている。それも、人の守り手故にだ。だからこそ、まず最初に守りぬこうと剣に誓う。 「タイタン……。確か、巨大な体を持つギリシア神話の神々の事でしたね」 一方で急ぎながらも、アークのブリーフィングルームで見た資料を改めて思い返しているのはアラストールに劣らず真面目な『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)だ。山をスキップをするように駆け抜けると、特徴的なポニーテールが揺れて山を登る駿馬のような印象を受ける。 アークの研究者がアザーバイドの特性からタイタンという名前をつけたのだが、その辺りについてリセリアは納得するように首を縦に振っていた。 「これほどの巨人なら、確かにそう呼ぶのも判ります。こんなものがいる世界もあるんですね……」 モニターで見た4mの巨体を思い出して、自身の胸に手を当てる。自分もああいった巨大で強靭な敵と戦えるだろうかと、少し不安になったのだ。 リセリアの憧れ、養父や姉は恐れずに戦うだろう。 「何時か、養父さんや姉さんと肩を並べて立てるように……」 リセリアは胸の中にある家族への想いを力に変えて、刃を手にする。いつかあの頂に登る為に。 「こいつは凄まじい相手が出てきたもんだな」 リセリアと同じくタイタンのデータを思い出し、モニターで見た姿を思い返すのは『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)だ。鍛えた背中を向けて、一歩一歩確実に、しかし素早く歩いて登っていく姿は堅実で、しかも逞しい。 そんな彼が一目置いているのだから、タイタンという奴は強い肉体を持っているのだろう。肉体だけの話ではないが。 「自分の住処を作り上げたいだけかもしれないが、それでこちらに危害を加えるつもりなら放ってはおけないな」 変わってきた地形を見渡して、仲間たちに声をかけながら義弘は考える。今回の戦いは単純な、生物的な縄張り争いなのかもしれない。 だけど、そこに一般人を巻き込むというのなら話は別だ。 「ただ奴等の眼前へ、突き進め」 対抗する力を手に、突き進むだけだ。守るために。 「縄張り? 勝手に人の家に入り込んで図々しいものだよねー」 縄張り意識のところに反応する山川 夏海(BNE002852)は、子供っぽくも一人の組員だ。縄張り、という言葉には人よりも反応が早い。 「さっさと強制退去しないとね」 ヤクザな戦いを経験している夏海にとって、タイタンは図体こそでかいものの、理解できるしどんな相手かも分かる。性能的な話ではなく、心情的な話で。だからこそ、 「……排除する。ただそれだけ」 機械のように、そう呟いた。居場所に固執して、縄張りを守ろうとする者は凶暴でわがままだ。それを止めるには、排除しかない。普段は子供っぽくすいかな胸を揺らしている夏海も、今回は裏の顔である。 「……ところでなんで胸の事が強調されてるんだろ?」 それはそうと、資料の中でやたらと沙織の胸の大きさについて記述されていた。そんな沙織よりも胸が大きく、先程から山登りの最中に揺れ動いている夏海はちょっと気になる。 「意味があるのかな……。狙われやすいとか?」 狙われやすいならいいんだけど、と呟きつつ、そうじゃないんだろうなとどこかで思うのだった。単に、おっぱいが好きな人が関係者に居たのだろう。 「……到着した。時間がない、急ぎ作戦を開始するぞ」 「香織さんは何処だ?」 さて、そうして皆がそれぞれの心情を山に向かって言っている内に、目的地へとたどり着いていた。 そんな状況の中で真っ先に『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が指示を出し、アラストールに向かって頷いた。 「……頼む」 「――祈りこそが我が存在。参りましょう」 タイタンの巨体と、足を怪我した胸の大きな女性の姿が見えてくる。鉄球が振り回される音も聞こえるし、今すぐにでも悲劇が起こりそうな場面であった。 「……想いを蹂躙などさせん。……例え相手が誰だろうとも」 「気を引き締めて参りましょうっ!」 そこに、リベリスタは介入する。悲劇を回避するために。 ●タイタンとの戦い 巨体が振り回す鉄球の攻撃は厄介なものだった。 「趣味の悪い巨人だな。ここからは此方の相手をして貰うぞ。変身!」 「俺は盾だ。侠気の盾を自称するだけの働きはしてみせるさ」 それでも香織を逃がす時間は稼げた。義弘と疾風がブロックに出て、その攻撃を受け止めに行ったからだ。二人は派手に吹き飛ばされてしまったが、ダメージはそれほどでもない。 「大丈夫、私達が貴女を守ります」 「……はっ、は……いっ」 王子様のように、凛とした声色で香織に気を遣い、手を差し伸べるアラストール。性別不明の王子様は、こんなところでも姫の心を掴みに行く。天然で。 香織はその手を掴み取り、引っ張られていく。 「でも、足が……」 「わかっています。さあ、行きましょう」 二人はそのまま離脱するため、移動を開始する。お姫様を抱いて進む王子様の形で。 その二人に、タイタンの影が迫った。一般人を狙う声質を持つタイタンが、ブロッカーを吹き飛ばして近寄ってきたのである。 「……こんなもの!」 その前に出たのは、リセリアだ。香織の元に全力で駆けつけ、いざというときの防御をするためにやって来たリセリアは鉄球を自ら受けることで、その攻撃を逸らした。 「あっ……。大丈夫、ですか……?」 それによって救われた香織は、感謝しつつも心配になった。この人達は大丈夫なのだろうか、と。 「ええ。頼れる仲間です。ですから――」 そんな心配を打ち消すように、アラストールは急いでその場から去っていく。 そうしなければ、神秘を隠すためにも仲間たちが全力で戦えない。 「は、はいっ」 大きな胸を揺らし、大きく深呼吸をして……香織はアラストールと共にその場を逃げ出した。 そして、ここからが本番だ。 鉄球の威圧感もあるだろうが、近くで見るタイタンの存在は大きく、同時に威圧的でもあった。 「活路を見出す!」 エネミースキャンによってタイタンの力量を図っていた零二がソニックエッジを使って攻撃を始めて、確実な打撃を与えていく。相手の再生能力を上回るように、できる限り柔らかい部位を攻めているのだ。 周りに声をかけて、うまくこちらからの攻撃が通るように零二は気を使っていた。 「弱点がわかれば……!」 それに応えるように、疾風居合い斬りで攻撃を始めたのは流だ。先程から牽制を兼ねて撃っていたのだが、ここから本気でその体力を削り切るべく放っている。 そんな流に向けて、鉄球が飛んでくる。攻撃のために前に出ていた零二を吹き飛ばしたその鉄球が、流にも向かってきたのである。 「こんな使い方もあるんですよ……っと!」 これをまともに受けてしまい、流は吹き飛んだものの……羽を広げブレーキのようにして衝撃を和らげた。能力の工夫だ。 「足場は良くないようですし……。まずは、こういう援護も大事ですよね」 さて、羽の使い道を後ろから見て感心していたイスタルテは翼の加護を使う。元々戦う時に使っていたので、影響を受けていない仲間に向けて使っていた。その目的は、浮かせることで穴だらけの地形での動きを補正することだ。 しかし、イスタルテはそうしながらもタイタンを不安そうに覗き込んでいた。というのも……。 「メガネビームとか……言わないですよね?」 知性がある相手なので、なにか眼鏡に言及されそうな気がしたのである。たぶん気のせい。 「排除させてもらうよっ」 さて、その翼の加護を受け、低空を派手に飛んでいる夏海は大きな胸を派手に揺らしていた。なので、流は少し羨ましくなって唇に指を持っていっている。 ともかく、夏海はフィンガーバレットから弾丸を放ちバウンティショットを使用する。それは精密射撃であり、タイタンの部位を狙い撃ちしていく。 「効果十分。威力の低さはカバーできているね」 タイタンはのけぞり、傷を追ったことで動きが鈍くなったので、夏海の狙いは成功と言えよう。 「ウォォォォ……!!」 しかし、タイタンはそこで傷を癒し、再び鉄球を手に穴だらけの山道を重戦車のごとく突き進んでくる。 「ふぇぇ……! やっぱりこっちですかー! やーん!」 その鉄球攻撃で次に吹き飛ばされたのはイスタルテであった。その身は地面に叩きつけられ、フェイトを使って立ち上がざるを得ない。 「……うー。まだ、まだですよう」 天使の歌を使いつつ、味方の方を見る。すると、戦前に復帰したアラストールや、吹き飛ばした仲間たちが戻ってくるのが見えた。 反撃開始だ。 「目の前の敵を無視して余所見ですか」 アル・シャンパーニュを使いつつ、リセリアはイスタルテへ向かっているタイタンの前に現れる。 「種として強いが故の余裕ですか? 戦いではなくただの狩りか遊びである、と。なら……それが如何に愚かな事か、身を以て思い知らせてあげます」 リセリアは凛とした表情を崩さず、しかしタイタンへの怒りを心の底で燃やしている。 「――舐めるな!」 だからこそ、刃に力が篭る。思いを載せて放たれた技は、タイタンを華麗に切り裂いていく。 肉体が千切れるほどに。 しかし、それでも肉を裂かれたタイタンは鉄球を振り回してリベリスタたちに迫る! 「元の世界に帰る気は無い、か」 本能のままに暴れ回り、周辺と人々に被害を与える脅威と化しているタイタンを見据えて、アラストールは改めて剣を抜く。 「この世界の人々を守るためにも。行きましょう」 そして剣からジャスティスキャノンを放って攻撃をしていく。 「惜しみなく行く!」 それに合わせて、義弘も位置を調整しながらリーガルブレードによってタイタンの体にダメージを蓄積させる。そのダメージは再生能力を上回り、タイタンに大きな負担を与えていくのであった。 これまでの様々な攻撃を受け、大きな負担を受けたタイタンの傷は深い。出血と怒りによって血が登って吹き出し、その肉体もボロボロであった。 「想いを届かせるためにも……繋げる!」 そして、その身にとどめを刺すために疾風の壱式迅雷がナイフに載ってタイタンを襲う。スーツ姿の疾風が巨人に立ち向かうその様は、まるでTVの中のヒーローのようであったという。 疾風の如き速さで踏み込んだスーツの一撃は、閃光のように通りすぎていき……タイタンの肉体を破砕した。 異世界から来た凶暴な巨人との戦いは、こうして決着がついたのだ。 ●思いを繋げて 戦いが終わった後も、リベリスタたちはそれぞれ積極的に動いていた。その理由はもちろん――、 「父が待っているんだろ? 想いは力に成り得ると自分は信じている」 先に救った香織を助け、父への想いを届けさせる為だ。変身を解き、さわやかに頷く疾風の顔を見て、香織は少しドキドキとしている。アラストールの時もそうだったのだから、少し惚れっぽいのかもしれない。 「……は、はい」 だけれども、様々な理由でその胸の思いは届くことはなく。 そっと胸に秘めて。 「お花摘み、手伝うよ」 「ありがとう。でも、なんで……?」 「折角だしね」 ひょっこりと顔を出して軽いウインクをした夏海と共に、目的の花へと向かう。足を怪我した体で花を摘むのも大変だ。 「それにしても羨ましいお胸ですね……!」 「そ、そうかな」 流もそれを一緒に手伝いながら、香織と夏海の胸を見ていた。大きいのでちょっと奥歯を噛む。 「それはそうと。お父さんの病気が良くなりますよう、祈っておりますよっ」 「ありがとう!」 胸のことは置いておいて、流は素直な気持ちを伝えてにっこりと笑う。 「……必ずキミの脚もきちんと診てもらうんだよ。花や思い出以上に、愛する娘の元気な笑顔と願いこそ最良の薬だろうからね」 さて、香織の怪我をした足を支えている零二は眼鏡を掛けており、戦闘中とは違った優しい表情をしていた。その渋くて優しい声に、香織は少しドキドキする。 「……なんだか、お父さんみたい」 その感想に少しだけ複雑な顔を見せる零二であった。 「でも、きっとお父さんも待っていますよ」 リセリアも顔をひょっこりと出して、自らの胸に手を当てている。 「ところで、今回のことは少し黙ってて欲しい。世の中には不思議な出来事はあるもんだしな」 同じく足を支えながら手伝っていた義弘は、優しく口止めの言葉を紡ぐ。言葉にもしたが、この世には不思議な事もあるものだ。 「ちょっとだけ検査も受けてもらいますねー」 続いて、イスタルテも補足する。仕方ないとはいえ、神秘に触れてしまった人間なのだから相応のことが必要だろう。 「……はい」 二人の言葉に頷いた香織は、しかし明るい顔であった。 少なくとも、この詰んだ花は父に届けられる。 「山の下まで送りましょう」 アラストールがその手を取って、山の下へ向かうように引っ張っていく。 きっと、この娘と父親には良い未来が待っているのだろう。 「おねがいしますっ」 香織の笑顔を見れば、そう信じられる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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