● 夜の帳と雲に包まれて、それはそっと降りてくる。 身長一メートルに満たない「小人さん」は、アザラシのような姿をしている。 つるりと油をまとった毛足の整った表面。 顔のところだけ開いていて、人のような顔をしている。 むっちりとしたほっぺが3D。使命感に燃えたまなざしと口元はきりりとしつつ、あどけない。 そのちょっとむっちりしたフォルムは、まさしく浜辺に打ち上げられたアザラシ。 もしくは、歩く寝袋。 いや、さすがにこんな小さいサイズはないだろうが。 足は二股に分かれていて、とっとこ走る。 椿の果肉はもう枯れ果てて、黒くてつやつやした黒い種子が地面に転がっている。 爪先を使って、持参の袋に蹴りこむ。 ちょこん、ちょこんちょこん、ちょこん。 多分、これが今年で最後。 その様子をじっと見つめる黒スーツ黒いサングラス。 アザーバイド専門リベリスタ集団「彼ら」だ。 かなりいい人達なのだ。 発見したら即襲撃って訳でもない。 送還出来るものは送還するけど、やけに時間に几帳面で、発見から24時間以内に事態を収束させないと世界が崩壊すると妄信している点が玉に瑕。 一般人に極力危害を加えないので、その点は安心できる。 小さな椿の実を爪先で蹴り蹴りしながら集めるとかどれだけ時間がかかるんだ。 「が、がんばれ」 『彼ら』は、基本的には季節ごとに定期的に現れる友好的アザーバイドに極力接触しない。 タイムリミット30分前に、ようやく動き出す。 「――時間だ」 愛用の黒のセダンから降りて、『彼ら』は武器を構える。 「ごめんな、ごめんな、ごめんな」 ● 「『彼ら』が涙と鼻水たらしながら『処分』しようとしたら、予想外の抵抗を受けて――」 顔見知りと言えなくもない『彼ら』は、そのまま帰らぬ人達になってしまう。 「アザーバイド。識別名『しーるず』。おててあるけど、ないないしてて使わない。異文化は尊重するべき」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情。 「この世界の椿油がお気に入り。そのため、世界のどこかに現れて、木にヘッドバッドや体当たりをかまして、実を落として、拾って、去っていく。短時間だし、規模も大きくないし。今年もすでに一度到来を確認。E・フォースがらみに巻き込まれそうになってたけど、そちらも問題なく解決している」 ちょっとした行き違いがあって、泣かしちゃったけど。 推定幼稚園児くらいの知能と精神構造のもちもちほっぺっぺをあ~んあ~んと泣かせちゃったけど。 「頭突きに定評がある」 確かに。 九月にきたとき、直撃を受けたリベリスタは報告書で語る。 『背中から、はらわたぶちまけそうになりました』 「『彼ら』は基本的には監視が主体。そもそも戦闘向きじゃない。スターサジタリーだしね。後衛職だからなおさら、あのスーツ、アーティファクトじゃないし」 「普通の服なの!?」 「サングラスはアーティファクト」 世の中、そう神秘が転がっている訳じゃない。 アークってすごいなあ。普通の組織ではとても真似できない。 「『彼ら』は、地道なリベリスタ組織。『しーるず』もよもや死ぬとは思っていない。『しーるず』に罪を犯させないで。そのためには」 時間切れにならなければいいのだ。 「椿の種子を拾うの、手伝ってあげて。『彼ら』だって、『しーるず』を処分なんてしたくないんだから」 秋の友達だもの。 「泣かせっぱなしじゃ、気分悪いし」 報告書読んで涙ぐんでた女子高生。マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「うお、初めて見るが、何これかわいい」 かわいいものを堂々と「かわいい」と言えるおじさん、かっこいい。 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070) は、ニコニコしている。 「ちっちぇーし毛並みいーし、ほっぺ触り心地よさそーだし。抱え上げてもふもふしてーけど、ビビっても死にそーだから我慢だな……」 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581) は、動物園で彼女にこんな笑顔フリマ書いて欲しい的スマイルを浮かべ、彼女にはこんな感じで動物に近づいて欲しい的駆け寄りをした。 「わー、しーるず達って本当にかわいいなぁ! あ、歓迎してくれてるのかな? こっちに向かって走ってきてる!」 しーるずは、種族全体の盛衰を担った命懸けの戦士である。 不用意に近づいてくる者あらば、これを排除するのは義務だ。 前回の報告書を真面目に読んでなかった智夫くんは、真正面からしーるずの頭突きを横隔膜で受け止めました。 「はらわたをぶちまけ゛ろ゛っ゛?゛!゛」 しかし、どんなにホーリーメイガスと区別がつかないと言われようとも、智夫君はクロスイージスです。 柔らかくても、クロイーです。 ちゃんと急所はずらしてます。 え、正面からどんと止めてこそのクロイー? あーあーあー、聞こえない。 (これ、たしかに経験積んでない後衛職なら一撃で死ねるかも) 気がついたら世の東西の癒しに精通しちゃってた智夫は、真っ白に吹っ飛ぶ視界の隅っこで、頭突き、ダメ、絶対。と、危険認定するに至っていた。 ● 「うおぉー、『彼ら』だ、一回会ってみたかったんだよな!」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は、黒塗りセダンを見つけると、ひゃっほーっと歓声を上げた。 なんというか、気になる存在? 「めんどくさい奴等」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)はにべもない。 (けど、アザーバイド専門で24時間以内に退去させる事に固執してる以上の情報がない。それなりの資金力と情報網はありそうだね。アザーバイドの滞在時間を気にしてるし、フォーチュナが仲間に居るか、出現を感知するアーティファクトを所持してそう) 11歳の綺沙羅がじーっとセダンを凝視する。 「俺、この人達のやってる事そんなに間違ってるとは思わないんだよな。影響を及ぼすのが24時間と決め込んでるけど、24時間て結構長い。及ぼす時間なんて個体によって違うし、俺達だってよく分かってない。見守るのだって自然の観点からすれば間違っては居ない、あとあまずっぱいとか!」 「あまずっぱい?」 聞き返す11歳。 「あまずっぱい」 頷き返す19歳。 甘酸っぱい。そこが大事です。 綺沙羅ももうちょっと大きくなったらわかる。 「とりあえず『彼ら』に一言言わせて貰いましょうか」 『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)が、セダンを指差した。 こんこんとセダンの窓ガラスを叩く。 一回目はお坊さんだった。 二回目は女子高生だった。 三回目は外国人さんだった。 三回も同じことをされれば、さすがに「彼ら」も気づくというか諦めるというか、そろそろ来るんじゃないかなーと予測していた。 「アークの、ツァイン・ウォーレス」 「え、俺のこと知ってるの? ちょっと嬉しいかも」 「どうも、アーク所属の緋桐芙蓉です」 「これは、ご丁寧に」 頭を下げる芙蓉に、「彼ら」も頭を下げる。 ツァインは本題を切り出す。 「なぁアンタ達、この子達は種を集め終えたら帰れる。拾うのを手伝っちゃ貰えねぇかな? 頼むよ!」 ペコンと頭を下げるツァインに、顔を見合わせる『彼ら』。 「貴方達は悪い人ではないと思いますが……何かアザーバイドを手伝ってはいけないという決まりでもあるのですか?」 若い人の煮え切らなさに、芙蓉、若干口調におばあちゃんが出る。 「貴方達も見てるだけでなく、しーるずさん達を手伝えばしーるずさん達も早く帰れるんですよ?」 これだから、最近の若い人は。と言い出さないのはえらい。 「我々は、アザーバイドに対して野生動物に準じた取り扱いを心がけている。必要以上の交流は持たない。この世界に悪影響を及ぼすギリギリのところまで見守り、どうしてもどうしてもどうしてもダメだったら――」 くくぅと唸る「彼ら」を、芙蓉は目尻を釣り上げる。 「貴方達は、しーるずさん達を元の世界に戻してあげたいんですか? ……それとも、貴方達はしーるずさん達を駆逐したいんですか?」 「なるたけ無事に戻してあげたいに決まってる!」 サングラスの下の目が潤んでいる。 「……見てるだけでなければ、攻撃することもないはずなんです。流石に、何か理由があるんでしょうけど…最終的に泣きながら攻撃するのであれば、打てる手は打つべきでしょう」 今まで話を聞いていたツァインが、折衷案をだした。 「そんなら俺達アークの手伝いをして貰うってのはどうだッ?俺達の任務は椿の種子を拾い集める事なんだ!リベリスタ同士助け合っていこうぜ!」 その様子を少し離れた所から、ステラ・ムゲット(BNE004112)が見守っていた。 誰も言いに行かなかったら、意を決して自分で行くつもりだったのだ。 ちょっと話をするのが得意ではないステラとしては、ホッとしたというのが正直なところだ。 『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)は持参したビニール袋を取り出した。 上目遣いで困った顔をしている。 「一緒に手伝ってもらえない、かな」 古来より、女子の上目遣いは男の心臓を射抜くものである。 祥子は、てきぱきとビニール袋を「彼ら」のエージェント三人に分配した。 「なあ、あんたらもこいつらに無事に帰ってもらった方が良いだろ?あんま死なせたくはねーんだよな? だったら種を拾うのを手伝ってやれよ。こいつらの目的はそれなんだからさ」 和人は、セダンのドアを開けてエージェントを外に引っ張り出す。 「ほら、んな堅っ苦しい事顔してねーでさ! 道具なら一通りあるぜ、用意良いだろ?」 箒と熊手、どっちがいい? ● 「簡単な仕事と似たような感じだし、楽勝だよね。とても簡単、アハハ、ハ……」 ポンポン押さえてうずくまっている智夫の目に、ハイライトは既にない。 あれ? でも見慣れたアークのお兄さんも、イヴちゃんの馴染んだ口上もなかったし? ということは、これは、不眠不休で働き続ける「簡単な仕事」じゃないんだね? きゅるるんっと、三高平市名誉女子第二号の目にお星様。 「さーて、誰もがハッピーに終われる様にしようじゃねーの」 注意深く距離をとっていたから、しーるずを怒らせなかった和人はそう言って、気合満々のディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)に笑いかける。 それに、エルヴィンは大きく頷いた。 少し前の話だ。 まだ椿の実に青さが目立つ頃、エルヴィン達先任チームはしーるずを殺害する椿の古木のE・フォースの発現の阻止に成功したが、しーるずとの仲良し作戦に若干失敗し、ぶっちゃけ泣かしちゃったのだ。 (あの時、しーるず達に椿や皆の気持ちを理解する事を促しながら。その俺達が、彼らを理解しようとしていなかった。あの涙はその代償) 実害はなかった。 椿の古木は健在だし、あの件で死んだしーるずもいなければ、怪我を長引かせたリベリスタもいない。 だが、あの「言う通りにできなくてごめんなさい」と泣くシールズの顔が脳裏に焼きついていたのだ。 (今度こそ、涙では終わらせない) ● 「やあ、こんばんは」 また会った。 その、会ったことがあるがゆえの人見知りの気配。 上目遣い。 「このあいだはごめんな」 エルヴィンはずっと言いたかった謝罪を口にした。 「椿の種をとりにきたんだよね? 俺達にも手伝わせてほしいんだ」 もじもじ。 嬉しいけれど、また悲しくなっちゃったらどうしよう。 お互いに顔を見合わせるしーるず。 だが、リベリスタもちゃんと考えてきたのだ。 おててを使わないしーるずが、椿の実をできるだけ効率的に集めるための方法を。 ツァインはどきどきしていた。 この日のために、仲間がプレゼントしてくれた踏み台をAFから取り出す。 (うぉぉ……泣かせちゃったらゴメンよぉぉ~~!!) それは、階段状の踏み台だ。 足元にはキャスター付き。 上に載ればロックがかかる安全設計。 それほど大きくないから、頭突きや蹴っ飛ばしで十分移動可能だ。 「こーやって転がして……登って……ペシペシする! 分かるかな?」 シールズ、踏み台の上にトントン。 じっと見守るアーク及び「彼ら」のリベリスタ。 頭でぺしぺし。枝、べよんべよん。 あんまり効果的じゃない。 お口で枝噛み切る? おいしくなさそう。 じわ。 「そう言えしーるず用に購買で熊手買ってきたんだった」 綺沙羅は、あ。と声を上げた。 酉の市で売ってる縁起物のあれだ。 「何か飾り用っぽいけど……。まあ、いいや。このサイズの方が使いやすいかも」 邪魔な飾りをばりばりひっぺがすバイオレンス。 熊手に縄を結びつける。 えっと。 どういう風に結びつけたら、やりやすくって、しーるず達だけでできるの? 試行錯誤。 アークのリベリスタ、喧々諤々。 「タ、タオルとか巻いてあげた方が安定するし、痛くないんじゃ……」 おずおずと、「彼ら」のエージェントCが発言する。 手にタオル。 「あ、あくまでアークさんに手段の提示というか。前にご飯分けてもらったりしましたし、我々は対象に干渉してないってことで……」 大人の事情ですね、わかります。 結果、たこさん鉢巻きして結び目のところに熊手付けて、頭ペシペシとかぐりぐりとかぴょんぴょんすると熊手に引っかかって実が落ちる。 しーるずのお目目が全開、お口も全開、ほっぺ真っ赤。 できた。 地面に落ちた実と、リベリスタを交互に見る。 できた。 嬉しげな気配が、意思疎通系スキルを持たないリベリスタにもビンビン伝わってくる。 リベリスタたちも、所属組織を問わず、万歳を繰り返した。 「口や足だけで集めるよりはマシでしょ。役立ちそうだからプレゼントよ」 綺沙羅は、木からもぐ方法を次回までに考えておくつもりだったのだが、期せずして解決するに至った。 「よかったぁ」 祥子は、胸を撫で下ろした。 「木に成っている実を取るにはカポエイラを習得するくらいしか思い付かなかったけど、残念ながらあたしもカポエイラはできないから。もうこの季節に来るしかないと思ってたのよね」 いや、その発想はなかったわ。 ● さて、今度は落ちた実の回収だ。 下に袋引いといたけど、その中に落ちるとは限らないし。 ちなみに、アークのリベリスタがシールズのための方法をああでもないこうでもないとしているあいだに、「彼ら」のエージェントは開き直ったようにザカザカと椿の実を拾い集めていた。 こうなった以上、シールズを無事送還することに目標を修正したらしい。 その様子に満足気に頷くと、芙蓉はきちんと実の分布を確認した上ごっそりと熊手で掻き集めていく。 「これってどうかしら」 祥子が用意したのは、野球部のトンボを小さくしたような道具にベルトを付けたもの。 「これをお腹にこう巻いて、お腹で押すの!」 ずずずっと前に押されるトンボに椿の実が貯まる。 「足元に袋を広げてその上に種を集めるようにすれば、おててが出てなくても簡単にあつめられそうじゃない?」 「えっと」 智夫がほかのシールズをそっと呼ぶと、その足元にしゃがみこんで、蹴る足に刷毛をそっとくくりつける。 「これなら袋に入れやすいんじゃないかな」 刷毛はよくしなり取り落としなく、実を袋の中に入れられる。 これで、回収はいい感じなんじゃないか!? あつめられる。 これくれるの? 「プレゼント」 しーるずは、リベリスタ達にペとんとくっついた。 そしておでこで、おなかグリグリして嬉しさを表現した。 にがいすっぱい胃液ではなく、甘酸っぱい何かが胸から溢れ出てきそうだった。 離れたところにいるステラとしーるずの目が合う。 ステラの手に、たっぷり椿の種子が入った袋。 それまで黙々と拾い集めていたのだ。 ぱたたっと、背中の翼が震える。 しーるずの攻撃間合いに入ったら、すぐ空に逃げようと思っている。 だって。 多分当たり損ないでも、これが初陣のステラではしーるずの頭突きに耐えられない。 緊張感。 しばしの見つめ合い。 しーるずは小首をかしげた。 時間がない。 新しい道具の使い方を覚えなくちゃ。 『学ばぬ者に与えられる知は無く、学ばぬ者が得られる知も無い』 学究の徒よ。 願わくば、望むだけの神秘を受け入れる器と成長せんことを。 ● 「魔力の許す限り!」 綺沙羅量産型という名の影人、九人。 本人入れたら、十人。 それが、一番収集が上手い人物の選定に入っていた。 「彼ら」のエージェントBさん。あなた、なかなかお上手ですね。 エージェントBのモーションに合わせて、十人の綺沙羅が同じ動きで種子を収集する。 なかなか壮観だ。 (さりげなく初シンクロ) 綺沙羅は満足げに微笑んだ。 (非戦はロマン) ふと、シールズが種子を集める様子が目に入る。 (箒使ったほうが、効率的?) ロマンと効率は、大抵は並び立たない。 「そう言えば酸化してない油じゃなきゃダメなの?」 既製品じゃダメなのか。と、しーるずにたずねる。 「使えるかどうかわかんないけど、持ってきてみたわ」 祥子は、市販の混じりけのない椿油を持ってきていた。 キャップをとって、しーるずの鼻先へ。 シールズ、眉をコイル巻きにして、首をかしげる。 ん~? イマイチ、納得いかない顔。 それに、市販品だと、お金がないと買えないよ? 「どんなふうに油作ってるの?」 ボトム・チャンネルの方法が効率的なら教えてあげようと思っていたのだけれど。 タワー・オブ・バベルをもってしても、全貌を明らかにするのが難しい複雑怪奇な工程で作っているのだけはわかった。 他の世界の材料も使っているらしい。 しーるず。 これで、三千世界を股にかけた冒険家らしい。 「いろいろ道具引っさげた格好可愛いな! ほんと出来るならお持ち帰りしてぇ。写真ぐらいは取っていいかねー?」 和人の相好は崩れっぱなしだ。 「ここ、たくさんあるね。ねー? もうちょっと爪先上げて、さっさって。上手~」 智夫は、完全にジェスチャーで意思の疎通を図っている。 エルヴィンは、プレッシャーを与えないように細心の注意を払いつつ、しーるずに臨んでいた。 熊手やトンボにくくりつけた紐の具合を加減したり、しっかり縛り直したり。 ありがとう、できる。うれしい。 しーるずは、事あるごとに、エルヴィンに伝えた。 うれしい。うれしい。うれしい。 また会えて嬉しい。 ありがとうを言えて嬉しい。 優しくしてくれて嬉しい。 一緒にいてくれて嬉しい。 「アークの諸君。済まない。そろそろ時間だ。我々はこのまましーるずにお帰りいただきたい」 『彼ら』から、最終通告。 23時間25分が経過した。 楽しい時間が過ぎるのは早い。 サヨナラの時間だった。 ● リベリスタたちは、道中、みんなからのプレゼントの道具や袋を落とさないように、きちんとくくりつけるのも忘れない。 『ぼくたちは しーるず です。 つばきのみ や たねを あつめにきました。 こわいのや いたいのは ニガテです。 見かけた方はご連絡ください。 アーク:番号○○~』 最後に、エルヴィンは、用意していたメッセージカードをしーるずの首にかけてやる。 「今度こっちに来る時は、コレも一緒に持ってきな」 (これを見た人が、手伝ってくれる事を期待して) 「すまん。もう本当にギリギリだ」 振り絞るように、「彼ら」は声を震わせる。 かえるね。ありがとう。 前のような涙ではなく、溢れるほど笑顔を振りまいて。 地面に両足ジャンプすると、そこにしーるずにジャストサイズの細い小道が出来上がる。 ばいばい。 大きな大きな荷物を背負ってよたよたしながら小さくなる、歩く寝袋。 「満足してくれたら良いけど。またなー!」 和人は、大きく手を振った。 ● 「アザーバイドを手伝うというのは、危険があるかもしれませんが……最後に戦うくらいなら、一度は交流してみるのも良いと思いますよ?」 芙蓉は、そっと「彼ら」に言ってみた。 「何で24時間なの? 例え迷信だろうと迷信が生まれ、信じられるに至った経緯は存在する筈」 綺沙羅は疑問を口にする。 『彼ら』は苦笑する。 どこの組織にもそこの事情というものがあり。 だが、アークの地道な送還活動が、いつかは「彼ら」の有り様も変えるかもしれない。 「よしよし、リベリスタ集団として、お互い積もる話もあるよな!」 ツァインは、熱く激しく宣言する。 「よし! みんな、飲みに行くぞ!あ、未成年はソフトドリンクでね? あんたたちも一緒飲もうぜ! 運転手さんは飲ませてあげらんないけど!」 皆で乾杯だぁー! と、盛り上がるツァインに、彼らは何に乾杯。と、問いかける。 「シールズの無事の生還と笑顔に! そして、あんたたちの無事に!」 え、それってどういうこと。 青くなる「彼ら」に、まあまあと言いつつ、リベリスタは、ご飯屋さんを探し始める。 さらば、かわいい決死隊。 いつの日か、また椿の下で会いましょう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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