●晩秋に染まる 広場の一角で、ぼんやりと『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)が立ち尽くしていた。 一応、通行人の邪魔にはならないような位置を計算し、割り出した上で立っているらしいのだが。それはさて置き、そんな彼女の視線の先には散る紅葉。 この界隈では、もう紅葉も終わってしまった一帯、いやいや寧ろ今が見頃だと真っ赤に染まる一帯、これからだと色付き始める一帯があるが。 紅葉の時期、である事には違いない。 しかし、筝子は次の瞬間、ぽつりと呟いた。 「……やっぱり、私は黄色い方が好きだなあ」 そして彼女はそのまま、右手に持っていたパンフレットに目を落とした。 ●祭りの日に どうやら近日中に、近くの寺で秋の夜祭りが開催されるらしい。 規模は決して大きくはない。しかし、出店等も並ぶのでそれなりに人が集まり、賑わうようだ。 そして、寺に根付く木々はその全てが、イチョウの樹。 丁度、今が見頃のようで、寺一帯に広がる黄色は圧巻の一言だと語られる。 夜空の元、柔らかな白い光に照らされ華やかに浮かび上がる黄色は、昼間に見るものとはまた違った趣があるだろう。 また、祭りは祭りである。と、来れば勿論、出店も並ぶ。 とは言え、食事関係のものばかりなのだが。それでも、食欲の秋とも言うし、冬が訪れる前に、心置きなく食べ歩きに精を出すのも良いだろう。 広がる木々の黄色の下で、何をするのも貴方次第――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月20日(火)23:20 |
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■メイン参加者 20人■ | |||||
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●晩秋に華やぐ 「おぉ~、まさに黄金樹林! って感じだなぁ~」 空を仰げば黄金は朧気に淡く光を纏う。 その光景にツァインは焼きそば片手にその足を止め、感嘆の溜息ひとつ。 「新田酒店でーす。甘酒の屋台出してまーす」 快が飲み物の屋台に立っている。目玉商品は『吟醸甘酒』。 吟醸酒の酒粕から作られて、風味も豊かで旨味もたっぷりだ。未成年でも楽しめるノンアルコール。 「おっす快さん、出張ご苦労さんです。いいね、商売しつつ黄葉見れるっつーのも」 「今月からとうとう、新田酒店も店舗開店と相成ったんでね。ちょっと営業に力入れないと」 「こんばんはツァインさん、新田さん」 筝子が近寄ってくる。 その視線が大きな寸胴へ。甘酒はこれで煮込んでいる。 「その場でコップに酌んでのご提供。生姜の風味もぴりりと聞いて、風邪の予防にも持って来いだ。成希さん達も一杯どう?」 秋の夜は肌寒い。有難く頂く事にする。熱いけれど、ふわり広がる旨味。 「甘酒頂きつつ黄葉を見て一息、これもまた乙ですなぁ」 「美味しものを味わいながら風流を楽しむの、良いですね」 「有難う。美味しかったら宣伝してもらえると嬉しいな」 白い甘酒に黄色い銀杏の葉、なんて対比もなかなか綺麗。 「アークの皆さんも多く見掛けますね。皆で遊びに来たみたい」 「こんなけ知ってる顔チラホラ見かけたら確かにそこまでぼっちって気はしなくなるな!」 行き当たりばったり、顔を合わせた仲間達と話して、美味しいものを食べて回る。 それも悪くない。 「なーんて、そんじゃご馳走さんっ」 からからと笑って、歩き出したツァインを快と筝子は見送った。 (ぼっちが流行みたいだからそれに倣おうかしらね) 流行かは謎だが実際独り身が多かった。 兎も角、エーデルワイスは食べ歩きに精を出す。 奇抜な服装の女性が黙々と食べ続ける姿はシュールだが、声は掛からない。 (邪魔する無頼漢には天誅、焼きそばを鼻から突っ込むですよ) 続く屋台を目指す彼女の体重は気になる所だが。 (NGワード言った奴はB-SSで撃ち抜くわ) 駄目です公共の場です! 「私の様なアークの模範生にそんな酷い事言う人がいるはずなんてないんだものね、いちゃいけないのよねー、あはははははは……」 貴女性質が混沌の方に11(※出発時点)も傾いてるでしょうがっ。 「メタルフレームだから太ったり、重くなったりしないのよ、大丈夫なのよ」 哂いながら練り歩く彼女に声を掛ける者は今宵、終ぞ無かった。 「祭りって言ったらやっぱり屋台だろ! ボクはこう見えて食にはうるさいんだぜ?」 金糸の如き髪を揺らしながら、秋火は屋台を巡り歩き、吟味。 「まずはそこのたこ焼きから行こうか」 屋台で焼き立てたこ焼きひとつ買って、頂く。 「あ、これなかなか美味しいな。たこの大きさも食べやすい感じでグッドだぜ。はふはふ……ん、ご馳走様」 満足げに手を合わせる秋火。だが食べ歩きはまだまだこれから! 「やっぱり定番と言えばとうもろこしだな!」 早速とうもろこしもお買い上げ。香りも程良く香ばしく、味も甘くて美味しい。 その後も秋火は色々な屋台を回って、食べ歩く。ふと彼女は思う。 (どれもこれも美味しいな。……まあ、祭りで食べるという風情がより一層美味さを引き立ててるんだろうけどな) 戦いの日々にあって、のんびりした日は珍しく、貴重なものだから。 (たまには戦いの喧騒を忘れてこういうのも悪くないね) (『食欲の秋』。良い言葉だが……) ほくそ笑むシェリー。手には既に半分以上無くなっているたこ焼きのパック。 (伸縮自在の胃を持つ妾は『食欲春夏秋冬』と言っていい) つまり、他の食べ歩き参加者にも、その食いっぷりでは負けずとも劣らないという事だ! 「妾ともなれば、この程度の制覇は余裕だがな」 こういった祭りの出店の傾向はシェリーは熟知している。新鮮さには欠けるが、変わった店を探す楽しみがあるというものだ。目指すは全店制覇! 完食したたこ焼きのパックをゴミ箱に捨てて、次の店へ。食べ歩きながらも零さぬよう、尚且つ彼女の最高速で、戦利品を頬張る。 「以前見かけたアイスの店は、なかなかよかったな」 リンゴ飴をも林檎のように小気味良い音を立てて噛み砕きながら、目に留める餃子の店。 B級グルメのようだ。 「よし、喰らい尽くすぞ」 全てその胃袋に収めるまで、シェリーは止まらない! 本尊に申し訳無いかとは思うも。 「ふっ……祭りと言えば屋台! 屋台と言えば食べ物である!」 ベルカも食う気満々。食欲の秋! 後で賽銭でも投げておこうと思いつつ、美味しそうな匂いの漂う方へ。 「ふふふふ、全屋台を制覇してくれるわー!」 早速幾つか買った焼き物を堪能していると、財布を覗き込んでいる少女が。 「あんまりお金ないんですよね……飲み物ひとつ買って、のんびり歩くだけにしましょうかね」 懐具合と相談して、温かい飲み物でも探そうと歩き出す少女――佐里。 「寂しい事を言うな! 折角の祭りだ。良ければ私の奢りでどうかな?」 「え、でも……悪いですよ」 ベルカは気にするなと笑って、リンゴ飴をプレゼント。 そして食べ歩きに戻るベルカにぺこり礼する佐里。 その後佐里は新田酒店にて甘酒を購入。金と見紛う黄色の下で、一息。 (この街に来て、一週間。リベリスタの多く集まる場所だから、活動拠点に選んでみましたけど……) 判らない事も多く、先は見えない。 (これからどうなるか分からないけど、自分なりにやっていかなくちゃ) 時は等しく過ぎてゆく。ならばその中で、自分に出来る事を為したい。 (……ん、夜風が気持ちいい) 少し冷たい位が、秋の夜長。 此処で祭りの賑わいを、静かに眺めるのも一興。 飲み物が無くなるまで。それまで、のんびりと。 甘酒とたこ焼きを手に辺りを見渡すルーナは、目を離した際に姿を眩ませた妹を探す。 (折角外に連れ出す理由にして誘ったのに) 近くには居ないかも知れないと、遠くまで足を延ばす。すると、本堂近くの石段に、彼女を発見した。 ライトアップの灯りを頼りに、いつも持ち歩いている本に視線を落としている。 それを残念に思いながらも、ルーナは彼女の下へと歩み寄った。 ●秋夜に舞う ステラは、石段に座り込み本を読んでいた。 初めからこうするつもりだったわけではないが、姉とはぐれたから。 元々独りで居るのが好きな性質。姉を待つ間、黄金を照らす明かりを頼りに愛読書を読み始めた。 姉が温かそうな飲み物食べ物を持って近付いてきたのに気付き、彼女は本を閉じた。 見つけたその姿に、亘は声を掛けた。 「こんばんは、成希さん」 「あ、こんばんは亘君」 和やかに笑む亘の手には温かいココアと、何故かおでん。 「とても素敵な夜ですね……お隣失礼しても宜しいでしょうか?」 その問いに、筝子はこくりとひとつ頷く。 安堵しつつ、隣へ。ココアを手渡し、時々おでんを摘んで過ごす。 「成希さんは、黄色がお好きで?」 「うん、一番好きな色だ」 「黄色だと田んぼにはった波打つ黄金色の稲が好きですが。銀杏の明るい葉が月明かりに照らされ散るのも、幻想的で良いですね」 違った趣、違う美しさ。 「と、亘君が勧めてくれた本、読んでみたよ。なかなか面白かったな」 「ああ、それは何よりです」 他愛の無い世間話、何て事無い時間さえ、長く続くよう、亘は願う。 (黄葉し始める頃の銀杏も、好きだけど……) 染まり切った銀杏も、素敵だと。 そよぐ秋風の中、羽音がのんびりしていると。 「よ、羽音」 最愛の人の声。 僅かに息を切らせた俊介が飛び切りの笑顔を向けた。 「俺と一緒に、秋を見に行かん??」 偶然の出会いのよう、だが真実は、姿を見かけた時、無意識に追っていた。黄色の道を駆けて、羽音の下へと。 「うんっ、喜んで……♪」 貴方と共になら、何処へでも。 二人、黄色の下を寄り添い歩く。 手を繋いで歩くだけで心は満ちる。 羽音が持参したホット烏龍茶を片手に、それでもまだ少し秋夜は寒いから。 「寒いなら俺で暖とってな」 「……ふふ、じゃあ、お言葉に甘えて」 腕を絡めて擦り寄る羽音。 俊介には、銀杏の良さが判らないけれど。愛しい羽音が綺麗と言うなら、唯の葉っぱにしか見えないそれも、素敵なもののように思う。 銀杏の花言葉は『長寿』。 隣り合わせの死がいつ魔手を伸ばすか判らないからこそ。 「俊介と、沢山の季節を迎えられますように。お互い、しわくちゃになるまで、一緒にいられますように……」 「しわくちゃかあ、年取るのかな。それよりも、ずーっと一緒にいような」 来年もまたきっと見に来よう。約束を交わす。 「はいっ。お守り代わりに、どうぞ」 綺麗な銀杏の葉。二人、お揃いで。 「枯らさないようにしないとな」 「押し花にすれば、枯れないかな?」 思い出も、枯れぬよう、大切に。 「黄色い葉もまた、いとおかし。うむ、趣があるね」 のんびりと、竜一は季節の移り変わりを目に焼き付けて。 晩秋は肌寒く、夜ともなれば尚更。心の隙間にも風は吹く。 アンニュイな気分になるのも仕方無く、竜一もまた然り。 (今は散り行く草木と言えど、また来年には同じような色を成すのだろう。であれば、俺が今抱いている感情もまた、いずれは移り変わるもの) 良くも悪くも。 (願わくば、再びこの景色を見る時に。救えたもの、救えなかったもの、好きなもの、嫌いなもの、愛するもの、大事なものに、一喜一憂出来る俺でありますように) 笑って泣いて怒っていられる、結城竜一という一人の人間であれるよう。 「ま、それ以前に、生きて見られれば重畳なのかもしれないけどな」 けらり、笑う。 「こんばんは、成希」 「新城さん。それに風宮さんも」 拓真と悠月。二人の声を、姿を認めて筝子は破顔。 「すっかり秋入りして、肌寒くもなったが……風邪などは引いていないか?」 「大分、空気が冷たくなってきました。秋も深まって……終わりも近い」 「お陰様で。でも油断は出来ませんよね」 移りゆく時の流れに思いを馳せつつ、拓真は、一ヶ月前に筝子と会った時を思い出す。 管轄外の任も請け負う彼女に、杞憂かとは思うが、時には肩の力を抜かせてやれないものかと、悠月と共に考えて。 そんな折の、誘い。 「黄葉狩り、というのもまた良い物だ。ゆっくりとした時間を楽しむのが好みでもある訳だが」 口元に微かに笑みを浮かべて、誘いへの感謝を述べ。 選別だ、と温かい緑茶を水筒ごと差し出せば、筝子も礼を返す。 「それにしても、見事な黄葉です」 昼に見る、陽光を受けて輝く黄金と、この夜の宵闇に光を受けて照る黄金は紅のそれとも趣は異なる。 「成希さんは、此方の方がお好きですか?」 悠月の問いに、筝子は頷き。 「何だろう、自分と色が似ているからかも」 「……成希さんが宜しければ、少しお話しませんか?」 「世間話か、もし悩みがあるのなら聞いても良い」 筝子には、少なくとも此処に二人、味方が居るのだから。 黄金の下、三人、石段に座して言葉を交す。 「どこもかしこも一面黄金色だー☆」 はしゃぐ終は本当に楽しげで。 「イチョウ並木って風情があるよね☆ なのに何故かぼっちが多いのは三高平的な呪いか何かなのかな??」 オレ? ぼっちです(>▽<) いぇーい☆ ふと終は桜紅葉を観に行きたいなあ、と思う。 (毎日紅葉具合を見るの楽しみにしてるんだよね。綺麗に色づいた葉っぱから落ちちゃうのが切ないけど……) (>▽<)から(´・ω・`)に変わる表情。 「うう、ちょっと寒い……」 快が出す甘酒の屋台を思い出し、駆け出して。 彼は、見た。 ――黄金の葉が舞い散る木々。物憂げな美少女は、アンニュイにその様を眺める。 それは自分らしさの演出か。彼女の生き様は、それ自体が一編の詩のように―― 「……ぼっちからの現実逃避だけどな!」 がくんと崩れ落ちる舞姫さん。 顔を上げれば賑やかな祭りの光景。いや寂しくなんかナイデスシ? 「わたし、孤独を愛する少女ですしー少し陰のある孤高の美少女キャラですしー」 ……あ、涙出てきた。 「あ、ぎんなん」 これ拾ってかえろ……と、手を伸ばし。 「ふおお、臭いぃぃいいいい!! ……『ぎんなん』と『いちょう』って、どっちも『銀杏』で、めっさ解りにくいよね……って、わたし、誰に話しかけてるのかしら」 泣いてないです。強烈な臭いで涙が出ただけです! ……終は、舞りゅんにも差し入れ持っていこ、と決めた。 歩くフツの表情は、穏やかそのもの。 (折角の景色だ、一所に留まってるのも勿体ねえ) 熱燗代わりに熱々の甘酒を供に、ゆっくり見て歩こう。 コーディも同じく、前方より来る。 (孤独は寂しいものではない。どうせ誰かの記憶も無いのだしな。ベ、別に強がっているわけではないぞ) 「よう。お前さんも一人かい。どうよ、ここからの銀杏の眺めは」 「あ、ああ」 悪くない、と短い答え。 見れば一際大きな銀杏の樹が、長く広く枝を伸ばし、黄金の空。 「へえ、こいつは見事なもんだな。お前さんに気づかなきゃ、この眺めにも気づけなかったぜ。ありがとさん」 そう言ってフツは、コーディに甘酒一杯差し出す。 「この甘酒、この前できた新田ンとこの酒屋のなんだ。ウマイぜ」 コーディが静かにそれを呷ると、フツはまた、歩き出す。コーディもまた、独りになる。 緑である筈の葉は、この時期は金色に身を包む。 (毎年の事であるのに、全く記憶に無い。記憶の欠落故なのか、本当に知らなかったのか……) それさえ、判らず。 (今の私は今の私だ。……そうは言っても不安になるのだ) 来年、今年“も”この季節がやってきた、と思えるだろうか? 記憶もこの葉のように、散るのなら、 (考えても詮無き事なのだろうがな) 疑念を、振り払う。 「……銀杏よ、来年また“私”で会えると良いな。覚えておいてくれ」 頷くかのように、黄金が揺れる。 宴も酣、お開きの頃。 綺麗な黄色を二十枚程抱えて、クルトは帰り支度を始めた。 最後に彼は、今一度照らし出される黄金が空に棚引く様を見る。 「約一年ぶりだな、この独特の黄色は」 ドイツの銀杏を思い出す。しかし此処の銀杏もなかなか負けていない。 手の中の葉に目を落とす。欧州のイチョウ茶には日本の葉が使われているらしく、自分で作ってみようかと、集めた。 それを仕舞って前を見る。其処に別の金色が見えた。 「筝子」 声に、クルトに気付いた筝子は、ふわり踵を返して彼の下へ。 「こんばんは。今お帰りですか?」 「ああ、収穫もあったし楽しめたよ。また良い所があったら紹介してくれ」 ――Heute ist die beste Zeit. クルトの故郷の言葉に、筝子はにこり、笑って頷く。 そして。 「君が今日見たかったものは見れたかな?」 その問いに、筝子は笑んだまま。 「はい!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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