● 絡めた指を握る。強く、強く。 洩らす吐息すらをも逃がすまいと、貪る様に口付ける。 汗浮く素肌に、早打つ胸を押し付けて、時を忘れるほどに掻き抱く。 嗚呼、柘榴の甘さに酔い痴れて。 ● 「他人の情事を覗く趣味は無いので此処までだ」 不意に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)の顔がアップで眼前に現れた。 一つ、咳払い。 「今のはある<逆凪>のフィクサードなんだが、……ああ、先程のアレを見れば判ったと思うが、彼は異形の女性、つまりはノーフェイスにしか欲情出来ない男でな」 oh…… 「まあ、気に入ったノーフェイスを見つけて保護しては、どういった手段かは知らんが手懐けて、あんな感じになる訳だ」 非常に、気まずそうで、説明のし難そうな逆貫。 しかし<逆凪>と言うよりも、どちらかと言えば<黄泉ヶ辻>に近しい気持ちの悪さではあるけれど。 「確かにそうだな。けれど最大手逆凪は全ての要素を含み、数の力を持つ。黄泉ヶ辻に所属するよりも、逆凪の方が己の性癖を満たせると考えたのだろう」 其のフィクサードは戦いの才には乏しかったが、電子の妖精等の手段を持ちいて主に金稼ぎの分野でのし上がった。 己が欲の為に適職を選ぶ、其の合理性は確かに逆凪らしいと言えなくは無い。 「とは言え、だ。如何に逆凪フィクサードの保護下に在るとは言え、世界に影響を撒き散らすノーフェイスをそのまま放置は出来ない」 ばさりと、リベリスタ達の前に放り出されたのは資料とある高級ホテルのマップ。 「彼と彼女はこのホテルの一室で秘め事に及んでいる。……そして何より厄介で逆凪らしいのは、このフィクサードの子飼いの部下達がホテル中に散って警備している事だろう」 資料 『偏食』刳木・流離 ノーフェイスにしか欲情出来ない逆凪派の男性フィクサード。 戦闘能力は5lv相当でしかないが、便利な非戦能力と損得勘定の早い頭を使ってそれなりの地位を持つ。 ノーフェイス:柘榴 フェーズ1、其の肌は、唇は、瞳は、甘い。人とは異なる赤い肌と、魅了の力を持つ。 <グループA> ホテルロビーで警備 A・リーダー:高城・衣笠 逆凪派女性フィクサード。ジョブはソードミラージュ。実力は18Lv相当。 B・リーダーとは恋人関係にあるらしい。 部下はプロアデプト、実力は13Lv相当。 <グループB> ホテル屋上で警備 B・リーダー:山城・司 逆凪派男性フィクサード。ジョブはデュランダル。実力は18Lv相当。 A・リーダーとは恋人関係にあるらしい。 部下はナイトクリーク、実力は13Lv相当。 <グループC> ターゲットの居る部屋前で警備 C・リーダー:和槻・宗 逆凪派男性フィクサード。ジョブはクリミナルスタア。実力は25Lv相当。 部下はクロスイージスとホーリーメイガス、何れも実力は18Lv相当。 <グループD> ターゲットの居る階のエレベーター前で警備 D・リーダー:相馬・咲 逆凪派女性フィクサード。ジョブはインヤンマスター。実力は20lv相当。 部下は覇界闘士2名、何れも実力は15Lv相当。 <グループE> ホテルの外壁に面接着を用いてターゲットの部屋の窓の外を警備。 E・リーダー:藍川・貴一 逆凪派男性フィクサード。ジョブはナイトクリーク。25Lv相当。 部下はクリミナルスタアとスターサジタリー、何れも実力は18Lv相当。 「さて……、きついな。前振りとは無関係に厳しい任務だが、諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月22日(土)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 激しい行為を終え、柘榴と絡み合う様にしてベッドに寝そべり至福の時を過ごしていた『偏食』刳木・流離は、不意に響いた異音に、ベットの脇、サイドテーブルに置いた通信機へと手を伸ばす。 「……どうした?」 常日頃逆凪の為の金策や内部勢力との政争、そして部下の人心掌握にと、様々な事柄に神経を磨り減らす流離にとって、この時間は他の何にも変えがたいものだ。 自然口調には不機嫌さが滲み出る。仮に連絡が信頼する2人腹心の片割れ、和槻・宗からで無ければ決して内心を悟らせるような対応は避けるのだろうけれど。 「ロビーの高城から連絡がありました。襲撃です。藍川側からの避難を」 流石に和槻は心得たものだ。流離の内心を理解した上で、其れでも必要な事のみを告げて見せた。要するに事態はそれなりに逼迫しているのだろう。 出された名前はもう一人の腹心、藍川・貴一の名前。 しかしまずは状況をより正確に把握する必要がある。流離は枕元の電話回線から、ホテル内のネットワークを掌握してロビーの状況を探り出す。 「あらん」 咄嗟に頭を下げた『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)の頭上で、フロントのパソコンが気糸に貫かれて砕け散る。 考えてみれば別に電子の妖精を使うならパソコンを目指す必要は無かったのだと、壊れさてから気付いたが、もう仕方が無い。自分でもこんな才能があったのかと驚く程に、使い慣れない能力なのだから。 リベリスタ達の誤算は、ロビーを避けるか強襲するかをはっきりと統一して決められて無かった事にある。 搬入用の裏口から侵入し、人目を避けた彼等。 仮に強襲すると定めていれば、彼等にとってロビーを守る高城・衣笠と其の部下は大した障害にもならなかっただろうし、連絡の阻止も出来たかも知れない。 けれど出来れば戦闘を避けたいと願う気持ちは、彼等の出足を鈍らせた。ステイシーがパソコンを用いて情報収集をしようとするなら見つかるのは必至であろうに。 ロビーの監視カメラが壊される直前に捉えた映像に、流離は思わず胃を押さえる。 あれはアークだ。顔を隠して居たが故にはっきりと判らない奴も居たが、あの禿頭だのなんだのの数人は前に見た資料にはっきりと載っていた。 算盤を弾く必要も無く理解する。非常に拙い事態だ。 「全員に告ぐ、相手はアークだ。狙いは恐らく俺の持つ逆凪の情報だろう。すまないが逃走時間を稼いでくれ。危険だと思えば逃げるか降伏して良い。金で解決出来るなら身代金は必ず払うと約束しよう」 幾らリベリスタとは言え、全く何の理由も無しに降参した護衛を皆殺しにしはしないだろう。 ノーフェイスである柘榴は捕まればついでであろうと間違いなく殺されるだろうが、部下達は強襲の目的外の筈。 裏野部や黄泉ヶ辻の連中の様に、何らかの事件を起こした訳でもないのだから、……多分、大丈夫だ。 ● フィクサードは殺し、一般人はスタンガン等で気絶させ、動く者の居なくなった1Fロビーのエレベーター前で『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が衣笠の死体に対して交霊術を使用する。 死体の主との意思の疎通を図る事が出来る交霊術。拒絶さえされなければ、明瞭な情報を入手出来るこの術。 ……だが当然の事ではあるけれど、返って来たのは強い拒絶と恨みの念のみ。自分を殺した相手をどうして恨まないでいられようか。 生きていれば脅して尋問も出来るのだろうが、死者の拒絶を覆す方法は流石のフツも持ち得ていない。 出来る事と言えば精々念仏を唱える事位である。 よもや流離も全くの無意味に部下が殺されるとは想像の埒外であっただろう。其の点で言えば、流離はリベリスタ達よりも随分と甘い。 一方のステイシーもパソコンから流離の居場所を割り出す事は、まあ不運にもパソコンが壊れてしまい出来なかったが、しかし運良く向こうが電子の妖精でネットワークに接続してくれた為に、アクセス地点は知る事が出来た。……まあこちらの事もばれたけど。 兎に角、此処からは時間との勝負である。 流離の部屋を目指し、エレベータと階段、囮と本命の二手に分かれて駆け出すリベリスタ達。 後に残されたのは、衣笠と部下の物言わぬ骸のみ。彼女の懐の通信機からは、屋上警備のリーダーであり、衣笠の恋人、山城・司の必至の呼びかけが虚しくロビーに響く。 ―――チン――― エレベーターの扉が音を立てて開くや否や、其の内側に氷雨と2発の斬風脚が叩き込まれる。 万一人違いだろうと構わぬとばかりの、エレベーター前を守るフィクサード、相馬・咲と2人の部下の先制攻撃。 避け様も無い狭い空間への容赦ない攻撃は、中に居た4人に致命的な命中の仕方をし、更にエレベーターをスクラップに変えた。 しかし、である。 「相馬・咲だな。お前らを倒して流離の下へ行かせてもらう」 凍結し、出血を確かに受けながらも何ら問題ないさげに告げるは『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)。 其の余裕は演技でもなく、痩せ我慢でもなく、ただの事実として、3人のフィクサードの攻撃では、どのような命中の仕方をしようとも彼の耐久度を半分も削れていないだけだ。 ゲルトだけでは無い。 ゲルトと同じくクロスイージス、一言で表現するなら盾である『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)や、アークでもTOPクラスの前衛である『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)等も、凍結しながらも平然としている。 3人に比べれば耐久に劣るステイシーだけは痛手と呼ぶべき水準のダメージを被ってはいるが、それでも動きに支障が出るレベルではありえない。 壊れてしまった狭い箱から歩み出て来る絶望達。 其処に至り、漸く咲は己の甘さに、失策に、……気付く。エレベーターがこの階に辿り着く前に、扉をこじ開けてエレベーターを引き上げるワイヤーを叩き切るべきだったのだ。 それで相手を倒せるか否かはさて置き、少なくとも時間は稼げただろうから。 不意を討てば何とか成るだろうとの咲の考えは実に甘かった。恐らく流離の配下で彼等に抗し得る実力があるのは2人の腹心のみだろう。 此処までの実力差があると知れていれば、最初からあらゆる手段を躊躇いはしなかったのに……。 だが全てはもう遅い。 ゲルトと心、2人のジャスティスキャノンが、咲の2人の配下を引き付ける。刃を振り被った竜一の下へと。 勝ち目が欠片も無い事は嫌と言うほど理解した。眼前の光景に心を占めるは絶望ばかりだ。 けれどそれでも、少しでも削り、ほんの少しでも多くの時間を稼ぐ為に、咲は符を手に術を唱える。 辺りに、魔の力を秘める氷の雨が吹き荒れた。 一方、階段を駆け上がっていた本命部隊のリベリスタ達は思わぬ妨害に遭遇していた。 怒りに吼える司の刃が、実力的には遥かに格上である『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の身体を切り裂き血飛沫を舞わせる。 階段を駆け下りてきた司と言う想定外の障害に、スピードと高さを活かした勢いある攻撃に、虎鐵の防御が今一歩間に合わなかったのだ。 しかし、だからと言って其の程度で歴戦の兵である虎鐵が揺らぐ事は無い。 負った傷等まるで気にせぬが如く放たれたのは、全身の力を武器に集中させる一撃、メガクラッシュ。 圧倒的格上からの避け様も無い其の一撃は、司の身体を弾き飛ばして階段の壁へとめり込ませた。口から大量の血を吐きながらも、司の唇に浮かぶは笑み。 何故なら彼は一人では無く、屋上を共に警備していた部下のナイトクリークを一人伴っていたからだ。 実力的には格下である司から受けた予想外の手傷に、虎鐵の注意はそちらへと向いている。ブラックコードを構えて上階から飛び降り、彼の喉首を狙うナイトクリークに虎鐵は未だ気付いていない。 けれど、一人で無いのは司ばかりではない。 虎鐵を狙うナイトクリークの落下速度よりも遥かに早く、階段を蹴って空中へ舞い上がった『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)のスピードを載せた飛び蹴りが、ナイトクリークの顎を砕いて階段へと叩き落した。 屋内での立体機動戦闘は不慣れと言うカルラだったが、其れでもナイトクリークと彼の間には圧倒的な開きが存在する。 詠唱で清らかなる存在に呼びかけ、虎鐵の傷を塞ぐは『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)。この状況に、彼は小さく溜息を吐いた。 出て来なければ良かったのに……。 資料を思い出せば、虎鐵と戦うフィクサードはロビーで殺したフィクサードの恋人だった筈。怒り狂うのも無理は無いだろう。 俊介は無駄な殺しは好まない。殺す理由が無いのなら、フィクサードだとて生かして置きたい。 今の襲撃者は自分達で、しかもこの実力差が明確な現状ならば尚更だ。 だがフィクサードに強い恨みを持つカルラは納得しないだろう。例えリベリスタに色々居るようにフィクサードにも色々居ると当たり前の事を言ってみたとしても、彼にとってはフィクサードだと言うだけで殺すには充分足るのだろうから。 ロビーで交霊術の為にフィクサードを殺したフツも然りである。 気分の良い物では勿論無い。……誰だってそうだろう。でもこんな所で無駄に時間を食うわけにも行かない。 そして死体が二つ増えるのに、然程の時間はかからなかった。 ● 先に戦闘音が止んだのは階段側だ。 流離がいる部屋の前を守る宗は、握り締めすぎて血の滲む拳を開き、右手にナイフ、左手に拳銃を構える。 階段側も、エレベーター側も、同僚達が圧倒的不利な状況にある事は判っていた。彼と彼の部下達が救いに行けば、或いはどちらか片方なら戦況を有利に変えれたかも知れない。 しかし流離の腹心としての宗の任務は主が逃げる為の時間を稼ぐ事であり、この場を放棄するのは論外だ。 そして所属組織である逆凪の一員として考えても、最も失ってはならないのは護衛達では無く流離であり、彼のもつ情報が敵の手に落ちる事は防がなければならない。 目先の感情よりも任務を、そして逆凪フィクサードとしてのプライドを優先させた宗が、飛び出してきたカルラ、虎鐵に対して神速の抜き打ち、バウンティショットスペシャルを放つ。 左肩口を銃弾に打ち抜かれながらも速度を緩める事無く駆けたカルラが嵐の様な拳の連打、魔力鉄甲でのソニックエッジを宗に向けて放つが、けれども其の拳が届く寸前で割り込んだのは、宗の部下であるクロスイージスのフィクサード。 彼はカルラの拳の連打を浴びながらも、そして相対するだけで吐き気を催す様なキチガイじみた威力を誇る虎鐵のメガクラッシュに、直撃こそは避けつつも掠めただけで腕の骨を持っていかれながらも、耐え切って見せた。 クロスイージスをすかさず癒すは、同じく宗の部下であるホーリーメイガス。 けれど其の程度ではリベリスタ側の勢いは止まらない。癒し手はリベリスタ側にも存在するのだ。 宗の部下よりも遥かに優秀なホーリーメイガスである俊介が。彼の聖神の息吹は、宗の部下の天使の歌を圧倒的に上回る。 更にフツの展開した特殊な結界、素早い動きを禁じる陰陽・結界縛がフィクサード達の動きを鈍らせた。 予想はしていたが、余りに大きな戦力差に宗は思わず歯噛みする。 そしてふと気が付けば、エレベーター側での戦闘音も止んでいた。廊下を曲がり、姿を見せるは心の、ちっちゃい身体を重装備に包んだ、愛嬌のある可愛らしい姿。 けれど其の姿は、宗にとっては死神の其れにしか見えなかった。 心に続いて次々と到着するゲルト、竜一、ステイシー。全員揃ったリベリスタ達に、宗は咆哮を上げて手の拳銃を乱射する。 どれだけ粘ろうとも稼げる時間が些少である事は知りつつも。 ● 部屋のドアが蹴り破られた。 各個撃破の形になったとは言え、ほぼ全てのフィクサード達を相手取って来たリベリスタ達は大きく時間を浪費している。 頭を過ぎるは任務の失敗。恐らくは既に蛻の殻であろう室内に踏み込んだリベリスタ達。 けれど、しかし、彼女は其処に居た。 彼女をベランダの縁から外へと連れ出そうとする流離の部下に対して頑強に抵抗し、愚図る赤い肌の少女、ノーフェイス柘榴が。 柘榴はノーフェイスになって直ぐに流離に保護され、彼の寵愛を受けた。流離は何時も優しく、そして情熱的に彼女を求める。 柘榴は何も知らないままに、ただ与えられる優しさを貪る籠の中の小鳥であったのだ。 そんなノーフェイスと化してはいても、知識としての神秘を知らぬ彼女が、不意に慌て出した庇護者である流離の姿や、あろう事かこの高所から外壁を歩く人間に抱えられて逃げると言う行為に恐怖を感じぬ筈が無い。 現れたリベリスタ達の姿に、フィクサードは柘榴の説得、連れ出しを諦め、外壁を駆け下りて逃走する。 流離はとっくに逃走済みだ。流離が如何に柘榴を大事に思っていても、部下達を損耗してまで稼いだ時を無駄にする行為に付き合ってこの場に残れよう筈が無い。 呆然と裸のままでベランダにへたり込み、近寄るリベリスタ達を不思議そうに眺める柘榴。 ―――ごめんな――― そして、柘榴の実は赤くはぜる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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