● 「今しかないよ」 それは指を三本突き立てた。 少年だった。 死体だ。 死体が動いている。 見ればわかる。 頭からだくだく血を流し、中身がはみ出したままへらへら出来ようか。 アークのリベリスタでも無理だ。 それが、みるみる治っていく。 いや、表面だけだ。 体裁が整えられていく。 「俺が俺なのは、三分だけだ」 『それ』は、死体の持ち主とは別の精神体だ。 死体の主は、すでに三途の川を渡るか天に昇るかしているのだろう。 空き家をのっとった不法滞在者。 今、死体を修復しているのは、とりあえずの住処を掃除しているのに他ならない。 「だから、俺を殺したきゃ、三分で」 彼は死んでいるのだ。 エリューションとの戦いで、敵を倒しきって、そこで力尽きた。 それが動き出すのを、彼の仲間達は呆然として見守るしかない。 「それを過ぎると、俺の意識はこの体の元の持ち主の記憶飲まれちゃうんだよな。俺は俺じゃなくて、元の奴を束の間生き返らせることになっちゃうのさ」 そうなったら、俺は殺せないよ。と、親切にそれは言う。 「俺は、なんなんだろうなぁ。俺には今しかないんだ。細切れの三分間がたくさん」 やれやれ。と、それは首をすくめる。 「まさに今を生きているのさ」 ● 「E・フォース。識別名『ベルダンディ』。ようやく倒せる状況になった」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに手書き模式図を書き始めた。 「力は非常に弱いんだけど、なかなか倒せる機会にめぐり合えない。死んだばかりの死体に取り付いて、しばらくその死体が生きてる状態を整えて、その体が限界を迎えると、またどこかに消えてしまう」 まず、時間制限がある。と、イヴ。 「それに、普通の人が死ぬときって病院で枕元に家族がひしめいてる場合が多い。そこに乱入するのはさすがに――。弱いから優先順位低いし――」 そんな家族押しのけて、生きてるように見える死体に攻撃なんて、神秘秘匿の観念から無理だ。 「でも、今回はもう逃せない好機。今回は、今回取り付かれた死体は、アークのリベリスタ。知ってるかもしれない。野々宮正太郎」 リベリスタの何人かは、無言で拳を握り締めた。 イヴは無表情。 「戦闘中に命を落とした。彼の側に生き残ったリベリスタが一人。彼女――先坂キリコは、多分みんなの妨害をする」 イヴは無表情。 「彼女には彼に伝えなければならないことがある。彼から聞かなきゃいけないことがある」 こんなこと第三者が話題にすることじゃないけれど。と、付け加える。 「でも、それが出来る状態になったら、『ベルダンディ』を逃がすことになる。次の機会がいつになるか見当もつかない」 イヴは無表情。 「『ベルダンディ』の優先順位は確かに低い。けれど、有象無象の別もなく、発見したエリューションは倒す」 ● 「三分たったら、また正ちゃんにあえるの? 正ちゃんとお話できる?」 先坂キリコは、彼の死体にとりついた何かに尋ねた。 「正確には本人じゃないけど、本人と全く同じ受け答えは出来るだろうね。でもそんなに長い時間は、一時間も持たないよ?」 「十分。聞きたいことはたった一つだから。それで十分」 「ああ、そうなの。だったら有意義な時間を過ごしてね。後、2分30秒」 血まみれの死体に宿った『ベルダンディ』と名づけられた精神体は、小首をかしげた。 「お客様だね。彼らは、俺に用があるのかな」 キリコは振り返る。 知った顔がいる。 リベリスタ。 誰かが気がついたんだ。 うちの、アークのフォーチュナは優秀だなぁ。と、ぼんやり思った。 そして、声を限りに叫んだ。 「お願い。見逃して。見逃してぇ!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月15日(木)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 見逃して。 何度聞いた言葉だろう。 それに、何度、それは出来ないと、返したことだろう。 『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、ため息交じりで見ている。 (意中の彼と同じ姿をした“何か”に、望む回答を求めるか。なんだかねえ。『恋は盲目』ってやつか) 「キリコ」 目が厳しい。 「メイだ。お久しぶりだ。悠長な挨拶はできない。君の望みを叶えてやれない」 『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)は、知っている者に対しての遣り難さを感じている。 「それは無理ですよ」 (キリコさんだって分かってる筈なのに……相当焦ってるんですね) 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は、目をすがめる。 「エリューションは、本人とは似て非なるもの。彼らが親しい人にそう言い聞かせ、自分に言い聞かせて折り合いをつけてやってきたはずよね」 来栖・小夜香(BNE000038) は、長く息を吐いた。 「私も、貴女も、その言葉を嘘にしちゃいけないわ。今までの事を否定する事になっちゃう」 会えば、立ち話する2年生――『覇界闘士-アンブレイカブル-』御厨・夏栖斗(BNE000004) が、いつもどおりというには難のある顔をする。 「今日は御機嫌斜めだね、キリコちゃん」 先坂キリコは、大きく頷いた。 「厄日よ。チームは瓦解。ちょっとプラトニック系少女マンガ的展開を期待したら覗き見されてて、あんた達が来て、自分でもありえないこと叫んじゃって、今かつてない規模で自己嫌悪中よ」 厄日以外のなんだって言うの。 ● E・フォース。識別名「ベルダンディ」 「今」を司る女神の名を与えられた死体に寄生する精神体は、三分間だけしかその存在を保てない。 夏の日向の水溜りのようにはかない存在だ。 その三分の間に倒せなければ、また逃げ水のようにどこかに行ってしまう。 夏栖斗がいいえて妙な表現をした。 (今だけの命を渡り歩くだけの存在) 死体に浮かぶ屈託のない表情は、そのまま『ベルダンディ』の性質なのだろう。 (何も悪いことはしないけど、倒さないといけない。それがリベリスタなんだよな) そうだと言ってくれる誰かはいない。 (わかってるけど、そこに命が存在していないのはわかってるけど) 悪くないけど、消えなくてはいけない存在がある。 「ドラマ、最高」 現在絶賛死体修復中の寄生思念体は、ぱちぱちと熱の入った拍手をする。 野々村正太郎は、こんなぞんざいな言葉遣いはしなかった。 顔の右半分だけを赤く染め上げた血があごを伝って、ヘビーガードの上に滴り落ちている。 『設楽? 次の基礎数学、休講らしいよ?』 履修している講義の傾向が同じだったのだ。 通り過ぎ様、言葉を交わす程度。 友達かと聞かれれば、それほどでは、と、答えるしかない。 (嫌だな、知人と同じ顔をした敵っていうのは。それが、本人じゃなかったとしても) 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は、お化けは大嫌いだ。 だが、今は。 そんなことは、ちらとも頭をよぎらない。 目の前に居るのは、エリューションだから。 (でも、嫌だからって誰かに任せるなんて出来ない。だから、ちゃんと終わらせよう。見たくない現実をしっかりと見て) アークのリベリスタは、不死身なんかじゃない。 死ぬときは、本当にあっけなく死ぬのだ。 もう野々宮正太郎が、すれ違い様、悠里に休講のお知らせをしてくれることはない。 ● キリコは、あたし、バカねえと苦笑した。 「ごめんね。バカなこと言っちゃって。みんなが『うん』 なんて、言えるはずないのにね!」 その笑顔が、珍粘――那由他・エカテリーナ(自称)の胸を締め付ける。 ダークナイトになったばかりの 珍粘に戦いの手ほどきをしてくれた年下の先輩だ。 『なゆなゆですか? ほんとに呼んじゃいますからね!』 ダークナイトらしからぬ朗らかな少女だ。 そんなキリコが泣いている。 正太郎が死んだから泣いているならまだいい。 『ベルダンディ』は、キリコのリベリスタとして大事なものを穢した。 リベリスタなら、一度や二度は、どうしようのない案件に遭遇している。 どこにもハッピーエンドなんかない、最悪よりも少しましな結果を泥の中から引きずり上げる。 切り捨ててきた命も想いも、『崩界を防ぐため』と乗り越える。 だけど、自分の口から出た言葉に耳をふさぐことは出来ない。 残響がいつまでも残って、キリコを苦しめているのが珍粘には見て取れた。 「かかって来たらどうですか、ベルダンディ?」 剣と盾を手に珍粘は、今すぐ壊れる体を取り繕う思念体を挑発する。 要は、こいつさえいなければ。 「貴方の身体の能力は、戦闘に適した物のはずでしょう? 戦わずして、どうやって人生を満喫するって言うんですか」 ベルダンディは、いやいや。と言った。 「おいおい。いくら戦えるからって、人生を満喫する手段が戦闘一択って、どこの戦闘民族だ? 人間らしく、もう少し、皆でおしゃべりを楽しもうぜ」 正太郎愛用の大剣は、その足元に転がっている。 「正太郎君の記憶って、引っ張り出せるの?」 『0』氏名 姓(BNE002967)が、ふと疑問を口にする。 「もう二分数十秒余りお待ち下さい。それより、俺を構ってよ。もう少しお話しよう。人生盛りだくさんの方がいいに決まってる」 ベルダンディは体など持たない存在のくせに、やたらと「人生」を連発する。 「もちろん戦うってのでもいいけどさ」 ● 「間柄は知っちゃぁいる。待ってやりたいとも思うがね、どうにも因果な商売だ」 かつて、共に敵陣につっこんでいったこともある。 『足らずの』晦 烏(BNE002858)がそう言うと、キリコは少し辛そうに眉を寄せた。 「どういう風に見えましたか? 晦さんには、あたしと正ちゃんはどういう風に見えましたか?」 キリコちゃんと、正太郎は呼んでいた。 共に前衛。 『キリコちゃん、ボロボロだねぇ』 『ダークナイトだもの』 『晦さん? キリコちゃんは戦闘中に血ぃだらだらたらしながら笑うんですよ。怖いんです』 『女子に怖いとか言う!? とにかく、かばったら、絶交だからね!?』 任務の後でそんな軽口を叩いていた。 初々しい二人だった。 「あたしは苦しかった。正ちゃんに言ったらいけないと思ってた。正ちゃんはいつもあたしの隣で辛そうだったから。あたしが正ちゃんを好きだと言ったら、正ちゃんはもっと傷つくと思ってた」 握り直す、小回りの効くブロードソード。 「ごめん、君も言葉を交わしたいと思うんだろうけど」 夏栖斗は訴える。 突然の死。 吹き出してくる『ああすればよかった』、『こうすればよかった』を、後三分足らずで解決できるかもしれないのだ。 「僕もさ、キリコちゃんと同じ気持ちだ。3分位とか思うよ。ベルダンディは次の機会に倒せばいいとも思うよ。けど、そうしたら関係のない誰かがキリコちゃんみたいな思いを抱える かもしれないんだ」 リベリスタは、それが我慢できない。 目をそむけることが出来れば、世の中ずっと簡単なのに、それが出来ないから、自分の体に傷を入れてまで、叩き潰さないと気がすまない。 「『今』しかないのかもしれない。わかってるのに、リベリスタってむつかしいよね」 ● 義衛郎は体内のギアを切り替える。 五月から吹き上がる闘気に、姓からあふれる戦闘計算に思考回路を切り替える気配に、キリコは安心したような顔をする。 「分かってくれとは言わない。今、オレは君の恋心を殺してるのか。ごめんとは言えない。 これはオレの我儘だ。ここでベルダンディを倒したいって云う我儘だ。だから、謝らない」 五月は、笑っている人を見るのがすきなのに。 (何処まで行けば、誰も泣かない世界を作れるんだろう) 「私達に刃を奮ってくれて構わない。Eフォースを倒せなかったら答えを貰う時間をあげる。それは私が約束する」 姓はそう請合った。 「アークは健在だね」 リベリスタにとっては唐突に、キリコはそんなことを言い出した。 「ねえ。たくさんの仲間がサヨナラも言わせてくれずに会えなくなったね。そのたびに、一緒にチームを組んでた子達の心が壊れて戦闘に出れなくなっていった。無理して出てた子から死んでった」 ね。と、キリコは笑う。 過去形で言う。 リベリスタそれぞれの胸に、いつの間にか本部で顔を見なくなった者達の顔がよぎる。 「もうあたし、折れてもいいよね。みんなが始末つけてくれるんだよね? だって、皆やる気満々だし」 リベリスタの基本戦術だ。 最初の十秒で、自分の能力を底上げする。 次に集中。 そして、直後に、最高の状態で殴りつける。 噴き出す闘気は、示威行為だ。 20秒は攻撃しない。 それはチーム内の申し合わせで、キリコのあずかり知らぬことだ。 キリコに見えるのは、確実にベルダンディを滅するために全力を尽くそうとしているリベリスタの姿だ。 あるべき姿だ。 だから、キリコは微笑んだ。 「うん。それでこそアークのリベリスタ。もう、正ちゃんもいないし、あたし終わってもいいよね」 キリコの目がよどんでいくのに、晦は声を荒げる。 「気持ちは分からないでもないが、アークに所属したその日から死が二人を分かつ覚悟は出来ていただろう?」 「だって、ほんとに死ぬなんて思ってなかったもの!」 何度死にそうになっても、フェイトを使って正ちゃんは立ち上がってきたもの。 あたしだって立ち上がってきたもの。 「必要な事は過去に縋る事じゃねぇ、託された遺志を受け継ぎ未来へと歩むことじゃねぇのか?」 ああ、きれいな言葉だ。 綺羅星のような言葉だ。 その言葉に頷いて、前を向けたらどんなにかよかっただろう。 「あたし、託されてないよ。正ちゃんはあたしに何にも言ってくれてない!」 「アークのリベリスタ!」 「こんなあやふやな心じゃ、リベリスタでいられない!」 「――ああ、ドラマだね。この人生は、なんて素敵なんだろう」 皆、当たり前に動いてるだけなのにね。 ベルダンディは、なんて美しい人生と目を細めた。 ● 「君が邪魔をするのは止めないけど、僕たちも止めれない」 夏栖斗は、キリコの前に立ちふさがる。 ニコニコ笑って状況を見守っている『ベルダンディ』を、キリコの視界から消すように。 「だから、キリコちゃんも覚悟を決めてよ。僕たちが正太郎倒していいの? できないのなら僕らで倒すので構わない。けど、後悔しない?」 「後悔なら、もうしてる」 キリコの口からこぼれる言葉。 「正ちゃんから離れればよかった。いつか巻き込むとわかってたのに。口でかばうなって言うだけじゃなく」 キリコの口からこぼれる言葉が瘴気になって、キリコを守る鎧となる。 「残念。今はその答えは誰も答えられない。今は、『俺』のかけがえのない3分間だから」 ベルダンディが、待ってね。と、笑う。 「これでサヨナラなんていや。答えが欲しいの!」 キリコだけが気づかない。 まともに顔を合わせたこともない姓にでも察しのつくことだ。 アークでは、望まなければ、同じ戦場になど送られない。 正太郎が望んで君の横に立ち、望んで君をかばい。 きっと、君の無事を喜んで死んでいったのは、君が一番わかりそうなものなのに。 「君は、答えを知りたいんじゃないだろう」 悠里は、まっすぐにキリコを見据えた。 彼の天使は、彼をなくしたらこんな様子で取り乱すだろうか。 「正太郎くんの口から、答えを、応えを聞きたかったんだろ?」 『正ちゃんは、どうしてあたしと一緒の依頼に入ってくれるの?』 『キリコちゃんは、無茶だから。かばうと怒るし。じゃあ、怪我する前に、片っ端から僕が倒しちゃえばいいんだなーと思ってさ』 『だから』 どうして、そんなに心配してくれるの? 「それはもう、聞けないんだ。君の望みはもう叶わないんだ」 「叶うかもしれないじゃない! 正ちゃんの声で、言葉で聞きたいだけなの」 悠里は、息を吐く。 (正太郎くん) またねぇ。と、肩越しに手を振る姿を思い出す。 (君の顔で、君の体で、君の友達に、君じゃない誰かの言葉を聞かせたりはさせない) それが、常々君が思っていたことに相違ないものだったとしても。 (もし、僕が君なら、僕の体を使って、僕以外の誰かが恋人に愛を囁くなんて耐えられない) それが、限りなく限りなく本人だったとしても。 (僕はそんなところを見たくない) 「だから、必ず止める」 キリコが、そんなモノを心に刻み込んで生きることのないように。 そのためならば、この身を金剛と化すのも厭わない。 ● 「あっはっは。すごいね、こんなことも出来るんだ!」 初めてジェットコースターに乗った子供のように歓声を上げるベルダンディ。 剣風が吹き荒れ、リベリスタを切り刻む。 野々宮正太郎は優秀なデュランダルだった。 先坂キリコは優秀なダークナイトだ。 アークの並のチームなら、正太郎の体で時間稼ぎを図る『ベルダンディ』をかばうことに徹する先坂キリコとの戦いに苦戦したかもしれない。 しかし、高難度依頼仕様と言って過言ではない面子からの一点集中攻撃の苛烈さで、たかだかリベリスタ二人を追い詰めるのにどれほどの時間が必要だというのだろう。 (護り、癒す……この身に課した誓約を果たしましょう) 「福音よ、響け! ベルダンディ以外の皆を癒すわ!」 小夜香の召喚した福音が、キリコを含めたリベリスタの傷を癒す。 「なんで、あたしまで……」 呆然と呟くキリコに、小夜香は口を開く。 「気持ちはわかるわ。私だって同じ状況なら同じ選択をするかもしれない。でもだからこそ止めるのよ」 大事なものを護る為に生きる小夜香がそれを失ってしまったら。 自分で考えても恐ろしい。 「私が過ちを犯しそうになった時、誰かに止めてもらう為に。その時は……貴女が止めにきて」 この局面を乗り越えたキリコの声なら、きっともしものときの小夜香に届く。 だから。 「死なせてなんかあげるものですか!」 ● 『僕たちが正太郎を倒していいの?』 いい訳ないじゃない。 『もうかなわないことなんだ』 わかってるわよ。 『そうだろう、アークのリベリスタ』 ああ、もうほんとにアークのリベリスタは。 「例え本人と同じような受け答えが出来たとしても、本人ではありません。そんな彼に質問し、答えを聞いたとして……」 キリコに教わった技だ。 魂よ、燃え尽きよ。 精神体のベルダンディを追い詰めるには、もっとも効果的な技。 「貴女は、本当にその答えを彼のものだと信じる事が出来るんですか!?」 ――なんてお人よしで、融通が利かず、諦めが悪いんだろう。 「わかってるわよ! この件、あたしがしっかりしてれば、そもそもあんたたちの出番はなかったことくらい!」 それまで背にかばっていた正太郎――『ベルダンディ』に、キリコはしっかりと向き直った。 「残り、20秒だけど?」 ベルダンディは、今まで自分を散々かばって血まみれになったキリコに笑顔を向ける。 「夢、見せてくれてありがと」 「いえいえ。盛りだくさんで楽しい三分足らずだったよ。ちょっとお姫様気分だったし。冒険だった」 「それならよかった」 キリコが刃を掲げるのを、晦は見守っていた。 義衛郎も、空へ躍り上がるための足を止めた。 姓も、握った卒塔婆と骨を下ろす。 とどめは、キリコにさせたかった。 「これは、あんたの最終回だから。さよなら。もう二度と出てこないで」 キリコが放った一撃は、どこに出しても恥ずかしくない、お手本のような。 見事な、ソウルバーンだった。 ● 姓は、消えていたベルダンディに思いをはせる。 (誰でもなくなる前に、彼は自分として死にたかったんじゃないのかな) それはもう憶測に過ぎないけれど。 三分間の間に自らの死まで盛り込んだのなら、なかなかの名監督だ。 「五月?なゆなゆ? 怒ってないし、もう馬鹿なことはしないから、離して欲しいかなー……なんて」 キリコがそう言うと、 珍粘は、余計にしがみついて、ぶんぶんと首を横に振る。 「キリコ、想いだけでいいならば今でも伝えられる。誰か、正太郎の友人だったなら聞いてないかな」 五月もキリコの背中にへばりつくようにして抱きしめている。 義衛郎は、てきぱきとアーク本部に連絡を取っている。 「野々村さんを連れて、帰ろう」 彼に勲章の一つも出してもらわねば。と、申請書式の確認を始める。 死体運搬用の黒い袋に詰められた正太郎の顔は、生前の穏やかなものに戻っていた。 「さようなら正太郎くん。君と友達になりたかった」 悠里は、その顔にポツリとそんなことを呟く。 「正ちゃんは、そう思ってたと思う。ノートくらい貸してあげるのになー。とか、今度学食誘ってみようかなーとか、誘えばよかったね、お勧めは実はBランチの方で……? なにそれ」 キリコは変な顔をした。 しばらく口をぽかんと開けて、声も発せない様子のキリコをリベリスタは固唾を呑んで見守るしかない。 見開かれた目からぽろぽろと涙が転がり落ちた。 「正ちゃんのばか……。あたしによこしてどうするのよ……」 『だって、心配なんだもん』 死んだアークのリベリスタは、如何なる神秘の働きかけか、大事な誰かに記憶を残す。 「託されたな」 晦の言葉に、キリコはようやく素直にうなづけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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