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<逆凪>騒がしい子供達


「此れがレポートにあった『バグズ・フレア』か。あー、なんだ。その、実に、……醜悪だな」
 電子顕微鏡から目を離した男は、傍らの研究員に向かってバツが悪そうに感想を述べた。
 申し訳無さそうにしながらも余りに率直な男の感想に、研究員も思わず苦笑いを浮かべる。
 けれども、
「えぇ、けれどこのウイルス、『バグズ・フレア』が我々<逆凪>にとって有用なのは確かです」
 研究員はこの研究に自信を持っていた。
 ウイルスとは他の生物の細胞を利用し、自己を複製する微小な構造体だ。
 生物学上は、生命の最小単位である細胞を持たない為に非生物とされるが、遺伝子を有するという生物としての特徴も持ち合わせている不可解な存在。
 ウイルスの語源はラテン語の毒液、または粘液から来ているとされ、一般人の認識で言うならば病気の元だ。
 そしてこの『バグズ・フレア』が他のウイルスと違う点、研究員が逆凪にとって有用だと断言する根拠は、
「このウイルスには、アーティファクトとしての因子が組み込んであります」
 其れが神秘の力を拠り所として生み出されたが故に。
 バグズ・フレア。其れは逆凪がフォーチュナ能力からの隠蔽を目的として開発した新種の細菌兵器である。
「私は個人は騒がしい子供達と呼んでいますが、このウイルス一つ一つが、其れこそ一個のアーティファクトに近しいレベルで波長を周囲にばら撒くんです。騒ぎ立てる子供の様にね」
 単体でなら、其処に一つのアーティファクトの反応が出るだけに過ぎないが、此れはウイルスだ。実際に運用されるとなれば、運用範囲内には千や万、否、億や兆でも効かぬ数の自己主張激しいアーティファクト反応が出現する。まるで地図を塗り潰すかの様に。
 しかも厄介な事に、ウイルスであるバグズは自己複製の際に少しずつ自らを変化させ、出す波長も微妙に変えて行くのである。
「無論欠点も幾つかあります。一つは使用範囲の制限が難しい事。不可能じゃないですけどね。2つは能力者にはバグズ・フレアが感染出来ない事。3つは実験データの不足で変化範囲の予測が未だ完全で無い事です」
 欠点を述べながらでも、己の研究内容を語る研究員は誇らしげだ。
 けれど不可解な点もある。1と3は兎も角、使用が想定される状況において2は然程デメリットに感じられない。
「あぁ、其れはですね。本来このウイルスは敵対組織フォーチュナへの感染を狙って研究されていたんです。体の中から無数の反応を絶え間無く感知し続ければ、其のフォーチュナを廃人に出来るんじゃないかって、ね」
 …………。
 主流七派が最大手、逆凪派。全てを内に含んだ伏魔殿。万魔が巣食い蛇蝎が相食む。
 人が良さげに見えるこの研究員も、其の表情の奥に牙を隠しているのだろう。
「さて、ではそろそろ本題、今回の依頼をお話しましょう。このバグズ・フレアの大規模な実験をお願いします。舞台はある地方の村落。人口は300人ほどですね。既に小規模な人体実験は済んでいるんですが、この規模は初めてです」
 其の人体実験はレポートで既に見た。治験を装って選び抜いた健康な成人男性少数での実験。
 少し高めの熱が出る以外は、人体に影響が無かったと記されていたが……。
「先の実験は最小限の規模でした。確実に安全に運用出来る確証を得れていません。特に調べて欲しい項目は、感染者の『何割』程度が、……アーティファクトの影響で革醒してしまうのか」
 嗚呼、また研究員の表情の奥に毒牙が覗く。
「バグズの制御方法と、もう一つの使用方法もお教えします。先ずはバグズの力の解放からお見せしましょう」

 ―――ザーッ……―――
 映像にノイズが混じり、音声も不明瞭になってしまう。放出されたのは、探知を誤魔化す数の力。
 フレア。囮の役割を果たす欺瞞装置の名をつけられたバグズが、其の効果を発揮したのだ。


「ふむ、実に小賢しい話だ。諸君、ごきげんよう。随分と冷えて来たが体調を崩さないようにな」
 何時に無く丁寧にリベリスタ達を出迎える『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)。
 けれど片方しか露出していない目を見ればわかる。今、彼は何時に無く不機嫌だ。
「では、本題に入ろうか。ある村落で、<逆凪>が何かを行っている。……何を行っているかは、判らん」
 ぎらり、と逆貫の目が剣呑に光る。
「情報が読めぬわけではに。だが忌々しい事に、実に小賢しくも忌々しい事に、其の情報が実に多くのダミーに食われて解読が非常に難解なのだ」
 握り締めた手が震えるのは、怒りのせいだ。
 彼は、陽立・逆貫と言う名のフォーチュナは、自分の役割を奪われる事、果たせ無い事を酷く嫌う。
「無論多少のダミーでどうにかなるカレイドスコープでは無い。時をかければ、或いはカレイドスコープの力を多く割けば、欺瞞情報をより分けて真実を見出す事は出来る……。出来はするが……」
 言いよどむのは後ろめたさか。
 其れが出来ぬ理屈に、彼はリベリスタ達に申し訳なさを感じるのだろう。
「キマイラが再び姿を見せ始め、大きな動きを予感させる今、そちらに必要以上のリソースを割り振る事は難しい。特に今回の相手は逆凪だ。万に一つではあるが、この逆凪の動き自体がキマイラ事件の為の陽動である可能性も否定は仕切れん」
 キマイラ事件においては、六道の姫と逆凪の御曹司が蜜月である事が知れている。勿論全く関係ない可能性が高いが、彼等は何時も想像の斜め上を行くので油断は出来ない。
 キマイラばかりが問題では無い。セリエバを巡るフィクサードの動き、今、国内のフィクサード達の動きは活発化しつつあるのが現状なのだ。
「諜報員を送り込みたい所だが、皮肉にもその村落に逆凪の精鋭が入った事は読み取れたのだ。並みの者では諜報活動すら不可能だろう」
 つまり今回の任務は、
「諸君等に情報を渡し、サポートするのが我々の役割だ。その諸君に情報収集を頼むなど……、恥にも程があるが……、頼む」


 資料

 村落
 人口300人程度。比較的年寄りが多く子供が少ないが、限界集落と言うほどではない。
 田畑、民家、村役場、集会所、小さな診療施設、小さな学校など、その集落が単独で成り立つ程度には施設も揃っている。 

 フィクサード
『中庸』陸風・循:逆凪派の精鋭。4人の特徴的な部下(前衛2名、後衛2名)と行動を共にし、彼等の意見から状況に即した物を取捨選択する。彼自身は前衛・中衛・後衛の全てをこなせる駒。また指揮能力が非常に高い。
 EX『陸風循環』:仲間全体にリジェネとチャージを付与するEXスキル。


「資料は何時もと違い非常に不完全だ。何をしてくるかは全く判らん。情報を集め、其の上で出来る事をしてくれ。……情けないが、私に出来るのは諸君等の健闘を祈る事だけだ」




「さぁ、行くぞ貴様等。我が4つの心。我等が掲げる旗印、<逆凪>の為に方向を示せ」
 男が呼ぶは己が配下にして、4つの心。
 善、悪、法、混沌。
「医者として現地に入りましょう。村民への影響を最小限に抑え、僅かなデータも見逃さぬ為に」
「先ずは村長を押えるべきだ。心を繰り、村からの出入りを禁じる令を出させよう」
「いらなくねー? なるべく手を出さずに見守るべきだって。データだって手ぇ加えない物のがいいんじゃね? どうせど田舎、態々出ねえよ。弱い奴は死ぬし強い奴が残る。それより侵入者を見張るべきだね」
「何でも良いが、最期には全て滅ぼすべきだ。全ての証拠を隠滅し、後には何も残さない。盛大に殺して燃やせば良い」
 男女を取り混ぜた4人が次々に問いかけに応じる。
 4人は意見を述べるのみ、決めるのは央の男。4人の、己が心の代弁者たる彼等の声に、男が下す決断は……。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月21日(水)23:44
 成功条件は情報の入手ですが、今の段階では何の情報が幾つあるかが明かせない為、手探りで色々集めてもらう事になります。
 状況は不透明でややこしく、そして敵は強いです。

 考えてください。想像してください。その通りであるとは限りませんが、予測無しでは動けないでしょう。
 何を求めて、如何動くか。

 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ダークナイト
スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)


 視界が霞む。長時間の凝視による目の疲れに左の目頭を押さえ、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は首を振る。
 同じく隣で村を監視する『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が未だ平気な風であるのを見るに、両者の疲れの違いは千里眼とイーグルアイの違いが齎しているのだろう。
 元より千里眼はイーグルアイに比べ、高性能の透視により扱う情報量が格段に増えるが、今回はそれだけでは無い。
 村には無数の『バグズ・フレア』、アーティファクトの因子を備えるウイルスが満ちている。無論其の大きさは微細であり、通常であれば視界の妨げにはならぬだろう。
 けれど透視を使おうとすれば少しだけ話が異なる。建築物の表面に付着して覆うウイルス達が泣き叫ぶ子供の様に自己主張し、千里眼の視界を妨げるのだ。
 完全に見通せぬ訳では無い。所詮は小さなウイルスの仕業、完全に覆い尽くせる程の面積は持たないが、しかしそれでも薄い膜、或いは靄がかかった様な視界に、舞姫は想像以上に神経を酷使させられていた。
 だが其れは舞姫の負担と強いる一方で、結果的にリベリスタ達の助けともなっている。
 快のイーグルアイ、獲物狙う猛禽の瞳が捉えるは、小学校の屋上に陣取り周辺を警戒する一人の男……E・能力者の姿。
 こちらを振り返る其の男に快は思わず頭を低くするが、気づいた風も無く彼の視線は通り過ぎていく。
 恐らくあの男が使用しているのはイーグルアイだ。仮に千里眼を使っていたとしたら、山の木々に潜む快や舞姫にも気付いただろう。千里眼の前には多少の迷彩等何の意味も持たないからだ。
 けれどバグズ・フレアが舞姫の目に負担を強いるように、村の中に居る男も千里眼を使用すれば目の疲れは甚大である。長時間の見張りに適するとは言いがたい。
 故に、彼はイーグルアイで周辺の警戒をしているのだろう。通常は其れで充分なのだから。

 快からの合図に、隠れていたリベリスタ達が動き出す。
 だーるまさんが、こーろんだ。見張りの男が逆側を見張る隙に、少しずつ、少しずつ物陰に潜みながら村の周辺へと。
 無論其れは困難を極める作業だ。雑多な町とは違い、開けている村の周囲は物陰に乏しい。
 虫に食われながら、茂みの中に潜り、泳ぐ。泥に塗れながら、地を這う。
 そんな苦心の甲斐があってか、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)、『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)、四人の超人的な聴覚の持ち主……、天乃に限れば集音装置では無くマスターファイヴである為、聴覚のみならず視覚触覚嗅覚の全てに優れてはいる……が、村の四方を取り囲み、内部の音を拾い集める。
「ついてねえ。こんな辺鄙な村に新型のインフルエンザが流行るなんてな」
「村医も倒れたけど、村長が知り合いの医者達を呼んでくれて助かったぜ。何でも都会の大学の偉い先生方だそうだぞ」
「はい、口をあけて見せて……。う……ん、一寸症状が重いから、申し訳ないんだけど小学校の体育館……、隔離場所に行って貰う事になるわ。大丈夫、心配しないで。熱は其のうち治まるわ」
「ごほっ、ごほっ」
「一人追加か。意外と少ないな」
「まだ判らないわ。体力の少ない個体から革醒してるし、熱で体力を奪われる人が増えたら一気に増える可能性があるわね……」
「えらいべっぴんの先生らしいの。一寸楽しみじゃ」
「次の方、どうぞ」
「熱いよう。体が痛いよう」
「見張る意味なんてあるんかいねえ? どうせ余所者なんて滅多にこんて」
「封鎖してるって事自体が必要なんだと思うぜ。万一の時に責任追及されない為のポーズだろ。村長って意外と小心なトコあるし」
 etc。無数の声を拾い上げていく。
 遥か遠方より村を探る舞姫の千里眼は女医が端末にデータを打ち込む様を確認し、次に視線を移す。女医の傍には助手の姿をした大柄の男。二人とも能力者だ。
 そして小学校の体育館で隔離した患者達を見張る白衣姿の男、此れも能力者である。屋上で村を見張る男と合わせて4人。……事前情報よりも、一人足りない。
 アレだけ纏まった情報を渡せぬ事を悔やんでいたフォーチュナが、よもや得られたわずかばかりの情報の受け渡しを損なう事は無いだろう。ならば恐らくは……、
「ステルスか?」
 苦い表情の舞姫に、快は状況を察したのだろう。彼の言葉に頷く舞姫。
 成る程、此の状況で伏せ札の存在は非常に厄介だ。ステルスの使用、唯それだけの事が楔となっている。無論防具の使用が出来ないという欠点はあるのだけど。
 今現在小学校の屋上でイーグルアイを用いて見張る男、アレを能動的な防衛策とするならば、姿は見えど判別の出来ぬ最後の一人は受動的な防衛策といえるだろう。
 何時来るかも、そもそも来るかどうかも判らぬ敵に備えて、きちんと伏せ札を用意するあたりに今回のフィクサード達の性格が透けて見える。
 拾い集めた何かをサイレントメモリーで読み取り続ける『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はまるで砂漠の中から一粒の宝石を見つけるが如き、心を削る作業に没頭している間にも、時間は刻々と過ぎていく。
 やがて、日は徐々に赤みを帯びて西に傾きはじめた。
 深淵ヲ覗キ、見通ス其ノ瞳デ、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は村に満ちる……されど村の境界から外には一切存在しない、明らかに何らかの方法で制御された無数のバグズ・フレア達を見やり、
「予知妨害を行うウィルスか……いいね。六道のキマイラよりもよっぽど好み」
 呟く。……けれど、其の時、彼女は自身の言葉に何らかの違和感を感じる。
 まるで見落としていた事を自身で指摘してしまったかの様な、奇妙な感覚。何処の深淵からの囁きか、綺沙羅の表情が僅かに翳った。
 だがそんな彼女を置いて時は歩む。西の山に、日は其の身を沈め、闇が訪れる。
 もし、仮に、其れに彼女が気づいていればこの先の未来に変化はあったのだろうか。
 バグズ・フレアがウイルスの特性を備えた微小アーティファクトではなく、アーティファクト因子を組み込まれたウイルス、二つの別種を混ぜ合わせた新たな存在である事の意味に。
 否、矢張り未来は変わらぬだろう。其れは要素の一つに過ぎない。欠けたピースが一つ埋まれど、複雑なパズルは完成しない。


 家畜や野生動物への感染は確認されなかった。仕掛けられた爆発物等は無し。村人の割合に対し、体育館に隔離されたノーフェイスの比率と、其のノーフェイス達が特殊な薬品で眠らされている事等。
 雑多な情報を集めた彼等は、しかし当初からの予定通りフィクサード達への強襲を決行する。
 其れは真に重要な情報、例えば報告用のデータ等を握るのがフィクサード達だからと言うのもあるが、……矢張り彼等は優しいのだろう。
 陽動の戦いを行い、其の隙に情報を掻っ攫う事を選ばず、敵フィクサードに打撃を与えての強奪、或いはあわよくば倒し切る事を選んだ彼等は、このままでは恐らく情報隠蔽の為に皆殺しにされる村人を助けたかったのだ。
 フィクサード達の集まる小学校を目指し、静かに夜道を駆けるリベリスタ達。
 舞姫にはわかっていた。この強行は無謀無策だと。……けれど感染と革醒の進行を黙って見てなどいられない。
 バグズ・フレアによってノーフェイスと化した村人達を思い、壱也の拳は怒りに震える。こんな実験は許さない。其れは未だ失われては居ないけど、もう既に救えぬ命。本当は軽い命なんて一つもないのに、切り捨てなければならない命。
 フィクサードにも色々な人間が居る様に、リベリスタにも人により様々な異なる考え方がある。一つの組織であるアーク内とて其れは同様だ。
 其の中でも、失われる命を想い怒れる彼等は、きっと正しく正義の味方なのだろう。
 しかし、だからこそ彼らの想いは踏み躙られる。今宵の運命は悲劇を望む。
 打ち砕く為には力が必要なのだ。圧倒的な、唯只管に強い力が。

 体育館の扉を蹴り開けたリベリスタ達の眼前に並ぶは、等間隔で並べられた白い簡易ベッドの群れ。凡そ其の3分の一程度に、横たえられた人影が眠る。
 そして其の中央には……、
「ようこそ、……恐山、黄泉ヶ辻、剣林、裏野部、三尋木、どれも違うね。ははぁ、成る程。では君達が箱舟か」
 椅子に腰掛け足を組む、逆凪フィクサードと3人の部下の姿が。
 例え深夜だとて、警戒するフィクサード達に悟られずに強襲するには矢張り工夫が足りなかったのだろう。余裕を持って待ち受ける彼等に、リベリスタ達が武器を構える。
「こんばんは。『中庸』陸風・循さん?」
 そんな中で敢えて一歩前に出、語りかけるは『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)。
 内心の弱気を殺し、余裕たっぷりに振舞う彼女の狙いは2つ。
 一つは情報隠蔽に安堵しているであろう相手の名を呼び、動揺を誘わんと。そしてもう一つは、スペードの背後でヒソカに準備する彼女からの注意をそらす為だ。
「バグズの『もう一つの使用法』、ご存じかしら?」
 さらに踏み込んだスペードの言葉は思考を誘導する為の、リーディングで望む情報を読み取る際の常套手段だ。
 スペードの言葉に、動揺する部下の3人、善、法、混沌。
 其の瞬間、傍らの舞姫が循に対してリーディングを使用する。
 けれど循は、スペードの言葉に、そして舞姫に頭をまさぐられる感覚に、……破顔した。
「『成る程、其処まで判っているなら話は早い。君達の目的もはっきりしている」』
 舞姫の耳に、二つの同じ声がステレオで響く。彼の口から漏れる声と、舞姫が読み取る心の声にブレが無いのだ。
 ペルソナを使用している訳では無く、唯単に全く動じず冷静に、一番効率の良い方法を、この場の最適解を、部下達の献策を選び取ると同様に選んでいるだけ。
 相手が噂の神の目を持つアークであるならば、下手な隠し立てに意味は無いと。
「『そんなに見たければ見せてあげよう。バグズ・フレアのもう一つの力を!」』
『……テレジアの子供よ、我が意を伝えよ』
 真っ直ぐにスペードを指差し、思考を読む舞姫にだけ聞こえるもう一つの声で、循は確かにこう言った。テレジアの子供と。
 彼が脳裏に浮かべるは、研究室で見せられたバグズのもう一つの力が発現した、あのおぞましい光景。
 一頭の立派な雄牛が、研究員が指差し、テレジアの子供を使ってバグズに命じた次の瞬間、無数の牙を剥いた極小サイズのE・キマイラ『バグズ・フレア』にたかられて皮膚裂け、肉溶け、骨すらも喰われて消滅したあの光景を。
 予知を妨害するウイルス……、否、ウイルスにアーティファクトを掛け合わせる事で出来た極小サイズのキマイラ、バグズ・フレアのもう一つの能力は、予知妨害環境下に潜入した敵を効率よく排除する為の手段。
 ウイルスの正体と其の能力を知った舞姫は、けれど同時にこの先仲間の身に起きる悲劇をも知らされてしまう。
 其れを知らぬスペードには、不意に周囲の空間が濃くなった様に感じた、……恐らくは周辺のバグズが彼女の周囲に集まったが為にそう感じたのだろうが、次の瞬間、彼女を耐え難い苦痛が襲う。
 皮膚を裂いて、或いは目から、耳から、毛穴から、全身のありとあらゆる隙間から潜り込み、内部の肉を食らうバグズ達。そして肉を喰らっては、ダウン現象で周辺を焼く酸のみを残して消えて行く。其れはまるで外敵を討つ為に毒針を打ち込んでは命を散らすミツバチの様に。
 リベリスタは、比較的タフな生き物である牛と比較しても、比較にならぬ程の強靭さを誇る。強力な前衛であるスペードは其のリベリスタの中に置いても、更に頑強な部類に入るが、其の彼女を持ってしても暴虐とさえ言えるバグズの喰い散らかしの前には運命を使用しての踏み止まりを余儀無くされた。
 踏み止まれど、服焼き溶かされ、肉食われた仲間の凄惨な姿に、思わず息を飲むリベリスタ達。
 使い慣れぬ筈の逆凪の者が使ってさえ此れなのだ。もしバグズを仮にあのキマイラの生みの親である六道の姫が使ったならば……。
 けれど彼等の数多の戦いの経験が、動揺に負けず咄嗟に彼等の身体を突き動かす。
 スペードにトドメ刺さんと動いた混沌、デュランダルの一撃を、速度を活かしていち早く割り込んだ舞姫の脇差が受け流した。
 循を守る法、クロスイージスの眼前では、リミットオフで自らの限界を取り払った壱也が刃を振り翳す。
 降り注ぐ光、善、ホーリーメイガスの放った神気閃光からは、快が自らの身を盾としてスペードを守る。
 そしてフィクサードの最後の一人、ステルスを使用したまま簡易ベッドに横たわっていた悪、マグメイガスに対しては、其の小さな、本当に小さな詠唱と仕草を聞き逃さず、見逃さなかった、マスターファイヴの使い手、天乃の一撃が、慌ててベッドから転がり落ちた悪の代わりに簡易ベッドを粉々に粉砕した。
「バグズ再使用には時間がかかります」
 傷付いた口内から漏れる声はくもぐる。痛み等と単純な一言では言い表しがたい苦痛に苛まれながらも、抜け目無く周囲の状況を見て取ったスペードは今の戦況に関わる情報を仲間に伝えた。
 確かに周辺の空気が先程とは違う。この辺りのバグズは先程の一撃で消費されたのだ。無論、然程の時を経ずして再び集まって来はするのだろうが、ならば其の前にケリをつけるのみである。
 戦況を有利に運ぶ為に放たれるはユーヌの魔力を秘めた毒舌、アッパーユアハート。
 更に綺沙羅の呪力は凍て付く雨と化し、体育館内に氷雨が降り注ぐ。
「ありがとうスペード」
 スペードの肩に手を置き、彼女に感謝を告げるは、雷音。
 スペードが敵の動揺を誘い、注意を惹き付けんとしたもう一つの理由こそが、雷音の邪魔をさせぬ為。
 仲間の、友の献身に、準備を終えた雷音が口を開く。
「陣地、作成」


 光が、氷の雨が、闇が、雷光が、気糸が、飛び交い刃が翻る戦場。
 傷を帯びぬ者が居らぬ程の激しい戦い。
 雷光を帯びた壱也の一撃が、循を庇った法を打ち据え、唯只管にしぶとかった彼に漸く膝をつかせる事に成功する。
 けれど法を倒した壱也とて、リミットは近い。横合いから叩き付けられるは、混沌が放つ渾身の一撃、デッドオアアライブ。
 また一人、リベリスタが限界を迎える。
 はじめての異空間に戸惑うフィクサードに対し、序盤はリベリスタが優位に戦いを進めはしたのだ。
 けれど異空間が何ら戦いに影響を及ぼさぬ事、E・キマイラであるバグズ達は問題無く陣地内にも侵入出来る事を理解した彼等は、循のEX、陸風循環によるリジェネとチャージ、善の全体回復で粘り、逆に補給の無いリベリスタ達を追い詰めた。
 最初に倒れたのは、深い傷を負ったままのスペード。綺沙羅の影人達も、悪が放つ黒鎖に貫かれて符に還る。
 ユーヌも敵を引き付け粘りはしたが、彼女を庇う快も無限の盾では在り得ない。
 やがて陣地の効果が切れる頃、周囲には充分なバグズが再集結しており、次に指を差されたのは雷音。

 …………。
 無策無謀。舞姫が思った通り、或いはそれ以上に、逆凪の精鋭達の壁は厚く、彼女達の持つプランでは打ち破れぬ物だった。
 撤退を余儀無くされる彼女達。例え命惜しまず戦ったとて、其の先に待つのは無駄死にのみ。其れに何より、自分達が手に入れた情報だけでも、其れが彼女達が望んだ物には程遠くても、届ける事無く果てる訳になどいかぬ。
 引き上げていくリベリスタ達を追撃しようとする混沌と悪を、けれども循は手で制する。
「宜しいのですか?」
 疑問は当然だ。古来より戦意失った相手への追撃戦こそが最も効率の良い戦闘である事は幾度となく証明されて来た。
「アーク程の組織なら、ニの矢、三の矢は間を置かず放つだろう。何より、彼等の目は死んでいない」
 だが其れは、相手が戦意を失っていればの話であり、手負いの獣には当てはまらない。
 其れに何よりも、
「直ぐに撤収の準備を」
 アークが動き出したのなら最も渡せぬ情報の隠滅が最優先である。
 この村の、バグズ・フレアに罹って、其れを克服してしまった村人が持つ、免疫と言う名の情報を。
「矢張り、生かす方法は無いのですね」
 溜息を洩らすは善。彼女は主の、循の良心を代弁するを自負するが故に。
 バグズは命じてダウンさせれば何も残らない。だが村人が体内に得てしまった免疫だけは、彼等自身を消さねば処分の仕様が無いのだ。
「恨みますよ。……プリンス・凪」
 親交ある家の出である主に協力を願い出た凪のプリンスが、一体何を目論んでいるのかなど見当もつかないが、善はそう呟かずには居られなかった。
 海風と陸風の切り替わる無風状態、凪と呼ばれる其れの頼みが、逆凪の利益に繋がると信じぬ訳では無いけれど。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 敵の撃退や強奪を狙えぬ面子では無いとは思いますが、調査にもがっつりプレを割きながらだと余程の工夫が無い限りは厳しいですね。
 逆も然りです。
 結果はこうなりましたが、お気に召したら幸いです。