● 見えない。何も。 誰かいないの。 聞こえない。何も。 誰かいないの? さわれない。何も。 ねえ。 誰かいないの? 誰か。誰か。誰か。 ――誰か、いないの? ● 「この記事。知ってる?」 ブリーフィングルームの、テーブルの上に広げられた新聞。『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)はその紙に目を落とさないままリベリスタに問う。 「脳挫傷、か」 その記事の事を知っていなかった者も、今知った者も、その内容に目を通す。 女性の遺体が見つかった事件。書かれた死因を読み上げたリベリスタの目を、イヴはまっすぐに見た。 「――彼女は、両目を抉られていた。鼓膜は破れて、コンクリートが詰められていた。 両手も肩の付け根から切断されていた。彼女は、見る事も聞く事も触れる事も出来ない状態だった」 その異常な遺体は、異常であるが故に紙面に載ることも報道されることもなく。 ――故に、その話は現在、社会的には「ただの事件」である。 「他にも、彼女の全身には酷い打撲や傷が沢山あった」 「犯人の暴行か?」 リベリスタ達の表情が険しくなる。だが、イヴは即座にその首を横に振った。 「……違う。 全部、彼女自身が暴れ、壁や地面に自分の身体をぶつけて出来た傷。 死因になった頭部への強打も、それが理由」 誰かが息を呑んだ音が、静まり返ったブリーフィングルームに響く。 重い静寂が落ちた空間を見渡し、イヴの淡々とした声がそれを打ち破る。 「視覚と聴覚、それから腕を奪われたその子は状況に錯乱して、ともかく何でも良いから感触を、何かが触れる感触を求めたみたい。その思いは彼女自身が死んでもなお、残ってしまった」 E・フォースは生前の彼女の状態のまま、何も見えず、何も聞こえず、伸ばす両腕もなく、その足だけを動かしてさまよっているのだという。 誰かがいないかと。 たとえ誰かに触れることができたところで、もうそれを彼女自身が「恐ろしいもの」としか認識できない程度には、狂ってしまっているというのに。 「皆の仕事は、彼女の討伐。どうか、お願い」 狂った魂に、ぬくもりを。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)00:08 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● その声の確認と同時に、強結界が張り巡らされる。 「あぁあぁあ……」 四輪駆動車のヘッドライトと、懐中電灯の灯りが照らす中心。そこに、彼女はいた。 怨嗟のようにも聞こえる声の音量が一定しないのは、耳を封じられたせいだろう。 ――ハイネックのセーターは袖が綺麗に切られ、そこにあるべき腕はない。眼球のある部分には赤い空洞があり、耳は耳介ごと灰色の塊に塗り込められている。この状態で、それでも彼女は死ねなかったのか。凄絶な自死を遂げるその時まで、彼女はこの姿だったということか。 「あぁあ?」 千春は鼻をすん、と鳴らし、知らない臭いに気がついたのかリベリスタ達の方に顔を向けた。 「ぁあ!」 怯えたかのように――おそらく、実際に怯えたのだろう。唇をわなわなと歪め、身悶えするように体を揺らした千春が短い叫びをあげる。それと同時に、千春の周囲にぼんやりとした黒いものが現れ、小さな千春の姿を形作る。――3体の、悪意。 息をひとつ吸って、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が口を開く。 「もう、この子を救う事はできない」 それは既成事実。ここにいるのは千春の残滓。 噛み締めるような言葉と共に、循環を始めるエルヴィンの魔力。そして走り出す身体は、終わってしまった少女の産んだ『悪意』の前に立ちふさがる。 「だからせめて、恐怖と苦しみだけの世界を、終わらせるぜ!」 吠える。その声がコンクリートの奥に響けば良いとばかりに。 「死して尚苦しみに苛まされ続けるなんて、余りに哀れ過ぎるな……ここで休ませてやらないとな」 最前線へと飛び込んでいったエルヴィンの言葉に頷き、そう呟いた『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)の頭脳はあらゆる状況に対応した並列演算を開始し、加速する。『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は碧衣を追い抜いて、ゆっくりと前列に近づきながら攻撃動作の共有を指示した。 「エルヴィンさん、そのまま抑えて欲しいのダ!」 そう声をかけ、エルヴィンの前にいる悪意を『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が十字の光で撃ち抜く。強い光を受けた黒い顔がぎろりとカイを睨みつけようとした矢先、ずん、とその頭が衝撃に揺れる。 「何が原因でそれ程までに壊されてしまったのか知らんが。 その上こうやって延々と彷徨う羽目になるとは、とことん運命に見放されているな。 まあ良い、それもここで終いだ。さあ、狩りを始めよう」 動きを見切り、放たれた魔弾――最後方に立つ『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)愛用の火縄銃によるものだ。されど、悪意には先の光への怨みがある。目も何も無い黒塗りのその顔から、しかし凄絶な眼光が、そして聞くに堪えない怨嗟の呟きが向けられた様に感じてカイは思わず嘴を噛み締める。 「命は救えなかったガ――せめて最期の瞬間に芽生えた悪意を浄化しテ、千春さんの魂だけでも救いたいのダ」 哀しみの滲むインコ声。 「そんな異常な状態で、さぞや怖かったろうな……。 救ってやるなんておこがましい事は言えないが、俺達のやれる事をやるさ」 僅かに首を振った『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、エルヴィンの前にいるのとは別の悪意に肉薄した。大上段から振り落とされるメイスに込められた神聖な力が、黒い小さな女に強い衝撃を与える。 「邪魔!」 カイを睨む悪意が飛び上がり、目の前のエルヴィンへと手を突き出す。悪意達の手は、肩の先からすべてが直線で構成されていた。刃物を無理やり繋ぎあわせたような形状のそれで目の前の男を切り裂こうとする手に、エルヴィンのライオットシールドががちり、とぶつかった。神秘に補強されたポリカーボネートの透明な壁を間に挟んで、双方の顔は至近距離だ。義弘もまた、相対する悪意に切りつけられ――足首を狙った一撃はしかし、箱舟の種を植えつけた安全靴が阻んで浅い。 残る一体は、自分に向かって近寄ろうとしていた『心に秘めた想い』日野原 M 祥子(BNE003389)へと飛びかかった。ジリジリと縮めていた距離を一気に詰め寄られ、祥子は咄嗟に霜月ノ盾を構えたが――円形に重ね合わせるより早く、悪意はその隙間から祥子の懐に入り込んでいた。 「くっ――!」 ワンピースの胸元、生成りの生地ではなく素肌を切りつけられ、鮮血が流れる。 「若い女性をこんな姿にして殺す訳でもなく放置して……きっと陰から見て楽しんでたんでしょ?」 自動回復の付与よりも千春を呼び易い血を止めることを優先し、邪気を寄せ付けぬ光を放つ祥子。 「悪趣味なヤツがいるのね。彼女を送ったら、その変態を同じ目にあわせてやればいいのよ」 誰ともわからぬ『犯人』、まだ捕まっていないという誰かへと毒づきながら――もしそれができるなら、祥子は千春の心に直接呼びかけてやりたいと思っていた。そばにいるから、と。 「……しかし、酷いものであるな。斯様な殺され方をされるとは、何があったのか」 僅かに眉を顰め、『境界性自我変性体』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)が呟く。そのまま唇は詠唱を紡ぎ、一条の雷をその場へと呼び寄せた。荒れ狂う雷を、幾らかはしっこい悪意たちは容易に躱す。 雷を避けることなく――避ける術を知らないようにさえ見えた――千春は、髪が乱れたのを鬱陶しがって頭を振りつつ、周囲を嗅ぎまわる。 「あぁあ……ぁ……いるの? そこに、誰か、そこ……に……」 言いながらふらふらと歩む彼女は橋桁に強くぶつかり、その衝撃で橋桁を作るセメントにヒビが入った。 辺りを見回す。見えやしないのに、聞こえないのに、ただ、鼻をスンスンと鳴らす。 ――そして、祥子の方を向いた。 出血は止まれど、流れ落ちたそれは当然血臭を残す。 「いるのおおおおおおお!?」 喉を千切らんばかりの叫び、身を四散させんばかりの突撃。 「ぁぐっ!?」 猛進した千春の狙いは血の臭いを目印にしている――直撃は避けた、と誰もが思った。 しかし、叫んだその口に並ぶは、尋常ならざる硬さを得た歯。E・フォースの歯は祥子の武装を摺り抜けて直接その脇腹を抉った。深く、深く。 ● 「無事……じゃ、なさそうだな!」 体の自由を奪われた祥子を見たエルヴィンが、苦々しい表情を浮かべつつ神の光を放って彼女の体をめぐる麻痺毒を消し去る。碧衣の並列演算する頭脳は瞬時に最適を見つけ、意思を聖光に秘めて今討つべきものを焼き払う。千春が血の臭いに執着するのなら――狙いは分散させない方が良い。祥子を斬りつけた悪意以外のすべての敵に叩きつけた神気は、確実にエリューションたちの動きのキレを鈍らせた。 回避を得意としない祥子には、先のような装甲を意に介さない攻撃を甘く見ることができない。しかし足止めをできない千春が、万が一後衛に向かってしまえば――。アルフォンソもまた、その事を確認しながら色素の欠けた目を細め、彼我の力量と状況を見抜く。 「きつくなったらブロック交代するのダ」 「あたしなら、まだ大丈夫よ」 祥子を気遣いながらも、エルヴィンが立ちはだかっている悪意へとジャスティスキャノンを放つカイ、そこに龍治のアーリースナイプ。先と同じ組み合わせだが、一体ずつ着実に倒すには、するべきことにそうそう変化はないということ。義弘もまた、彼自身が足止めしている悪意へと魔落の鉄槌を振り下ろす。 「邪魔、邪魔、邪魔!」 悪意たちはイライラとした様子で、あるものはカイを睨みながらエルヴィンに斬りかかり、あるものは義弘に掴みかかる。碧衣の神気閃光のためか、それらは二人の男たちに深い傷を負わせることはなく。 だが、もう一体は違った。 「――――!」 祥子が顔を歪める。切り裂かれた脛から流れ出る赤。その色を眺めて悪意は両の口の端を上げた。 自身の怪我を癒そうと祥子は幻想纏いを確認するも、使えそうなものは自動治癒のみ。他に手もなく、流血の治療を優先する。 「暗闇の中に確かな何かを求めようとするのは自然な事だ。……私も似たようなものであるしな」 コーディには、己の脆さに自覚がある。記憶を無くした彼女に、実戦経験はあまりにも浅い。 もう一度放ったチェインライトニングは、今度は誰にも当たらない。 「せめて何かの安らぎを与えられれば良いが……私に何が出来るだろうか」 思うようにいかない苛立ち。コーディのつぶやきの中に、僅かに舌打ちが混じる。 「いるのおおおお? いるんでしょおぉおお!?」 泣き声のような叫びを上げ、またよろよろと周囲をふらついた千春は鼻を頼りに祥子へと噛み付いた。 「――そんなに暴れなくても大丈夫、みんなここに居るから」 明らかに命の危険を感じさせるほどに深く、首筋に歯を食い込ませられながら、しかし祥子の声は――否、だからこそ恐ろしく優しく戦場に響いた。 その場に漂う、はちみつにも似た香り。 「ぁあぁ……?」 怪訝そうに、千春がその歯を少し緩める。その香りの元をさぐる様に。 祥子の足元に香水のビンが落ちていた。噛み付かれた衝撃で懐から落ちた香水瓶は割れてこそいないが衝撃でいくらか噴霧したらしい。 「貴女が最後に感じるのが血の匂いでは悲しいから……」 だから、持って来た。血潮以外の匂いを感じて欲しいと。 今にも倒れそうに、薄れ行く祥子の意識。 千春は戸惑ったような反応を示している――後一押し、後一押しできれば、もしかしたら。 一縷の望みを賭け、祥子は千春の身体を抱き締めようと最後の力を振り絞り手を回し。 その手が、呆気なくエリューション・フォースの身体をすり抜けた。 「……ぁあぁあ……ぁあぅぐぅぅううう!!!」 千春にとっては、『匂い以外に何ら新しい感触のない時間』。 それは程なく限界が来た。柔肌に容赦なく、更に押し込まれる、歯。 そして祥子の身体が力なく、倒れた。 倒れるその身体すら摺り抜けさせ、だがそんな事には全く気付かず、気付けず、『独りぼっち』の千春はただ立ち尽くし、悲鳴とも怨嗟とも付かぬ声を上げ続ける。 カイが、嘴を更に噛み締める。 本当は彼も彼女を抱きしめたかった。そして彼女を悼む者がここに居るのだと知らしめたかった。 だが――もしそれができるのであれば、足止めもきっと叶ったのだ。 ● カイが前に踏み出し、祥子が担当していた悪意の抑えを買って出る。切り裂かれど怯まぬ鳥類より放たれる正義の光は碧衣の閃光と共に着実に悪意を照らし溶かし、エルヴィンの癒しは主に仲間の流血と麻痺を癒す。術式を切り替えたコーディの魔法の弾丸は際どいながらも悪意の身を抉り、それをさらにアルフォンソの放った真空刃が切り裂く。そして放たれる義弘の一撃、龍治の狙撃。 リベリスタの布陣は十分だったが、全てを見れば順調とは言いがたく。結局ふらふらと歩きまわる千春によって、アルフォンソが運命をすり減らす事態となっていた。 それでも理不尽の前に狂い死んだ少女の悪意は、1体、2体と次々に砕かれて行く。そして。 「……グ、ウ……!」 最後の悪意の消滅とほぼ同時、くぐもった声がアルフォンソの口から漏れた。 その脇腹に千春が噛み付いている。 そこに誰かが居るのだと、何かが在るのだと。確認するように執拗に、縋るように。 だが、死者の想いは生者には重すぎた。 アルフォンソの身体がぐらりと揺れ、倒れる。立ち上がる事は、出来ない。 「あぁぁあ、ああ、ね、ねえ何かなにか言ってよなにかいってよお!!」 千春が、喚きだした。倒れたアルフォンソの身体を揺さぶるようにその身をすり付け、だがすり抜け、ただ駄々を捏ねる様に泣き喚く。 リベリスタたちが千春に一言も声をかけなかったわけではない。 何を言っても彼女には、コンクリートの耳介には届かない。それが真実だった。 最後の魔力を弾に変えて放ったコーディは、その一撃が千春に刺さるのを見つめて思う。 (本当なら、誰かを求めるその身を受け止めてやりたい) それができないのなら。 「ならば私に出来る事は何か。一刻も早く、その苦痛を終わらせる事だけだ――!」 そう言ってガードロッドを構えて唸るコーディーの肩を軽く叩いたのは、碧衣だった。 「ここで眠らせてやる為にも、手を抜くわけにはゆかない――そうだろう?」 その会話を、コーディの心境を知ってか知らずか、エルヴィンは千春へと歩み寄る。 「エルヴィン?」 「――悪い、ちょっと無茶するぜ!」 呼び止める声に振り向きもせず、エルヴィンはミセリコルデで自分の指の腹を切り、血を垂らす。 新しい血の臭いに、千春は違うことなくまっすぐにエルヴィンの方へと顔を向けた。 「ぉおああぅ!!」 言葉にもならない声を喚きながらまっすぐに突撃する千春を、彼はそのまま受け止めた。 当然、抱擁は不可能だとは、エルヴィンにもわかっている。それでも。 (彼女の行動の元となっているのは、とにかく誰かに、何かに触れたいという事。 だったら、倒す以外にもしてあげられる事はあるはずだ……!) 麻痺毒にも、運を乱されることにも耐性のある彼だ。たとえ一切の攻撃を避けないと決めたとしても、身動きを制限され遅れを取る、などということはありえなかった。 たとえそれがジリ貧になるとわかっていても、回復を行いながら耐えることなど彼にとって造作も無い。 だがそれでも、傍から見る限りは。 「何をしてるんだ、エルヴィン! こんな様の千春を縛り上げるのは、正直堪えるんだが……!?」 碧衣が咄嗟に、千春を気意図で絡めとっていた。 ――傍からみればエルヴィンの行動は、火に飛び込む兎のようにすら見えたのだ。 だが、そんな状態にもかかわらず、千春は暴れ喚くのをやめ、すん、と何かを嗅ぎ続けている。 多くの存在を、異世界の者だろうと和ますエルヴィンの持つ独特の雰囲気が、千春の警戒をわずかに和らげさせていた。 『ここにいるのダ。みんな君の魂を救いに来たのダ』 唐突に、カイが呼びかける。その言葉が届いたかのように、千春はきょろきょろと頭を巡らせはじめた。義弘がその様子に怪訝な表情を浮かべ、「テレパスか何かか?」と口にする。こくり、と頷くカイ。 千春には視界がない。それでも発話が可能なら、意味はあるはずだと。 『教えて欲しいのダ。君をそんな目に遭わせた奴の事ヲ。 我輩はこれ以上被害者が増えないようにしたいのダ! ――君の悪意を吾輩に分けて欲しイ。そしテ、どうか安心して眠って欲しいイ』 カイ・ル・リースは三人の娘をもつ父親だ。だから周囲のリベリスタをぐるりと見回した彼が、感情の読みにくい鳥顔のまま激情の混じった声を上げたのも、当然のことだった。 「……被害者にとったラ、犯人がエリューションだろうが一般人だろうが関係ないのダ。 個人にとってハ、E能力を持たない快楽殺人者も十分驚異なのダ。 明日は自分の大切な者がターゲットになる可能性があるではないカ!」 「わたしをぉ、こうした……? 目を、腕を、返して、先生……! ぉぁあぁ……」 そう答えた千春の声には、一瞬の間だけ理性が宿っていた。 その理性もすぐに熔解したことを察して、エルヴィンは龍治に目配せをした。 (……やってくれ、八咫烏!) 「このまま滅するしか道のない者に、人の温もりを……か。良い趣味をしているな。 餞には丁度良いのかも知れんが」 龍治は目配せの意を察し、隻眼に火縄銃を構える。 「――気は済んだか。ならば、苦しまずに逝かせてやる」 たん、と火薬の破裂する音が響く。眉間を穿たれ、千春は苦悶の声を上げた。 ――まだ、彼女は死ねていない。 「言っただろう? やれるだけのことはやる、ってな。……打ち払う。その思いと共にな」 間髪入れず、義弘のメイスが唸りをあげ、遂に千春を討ち倒した。 ● 「最後くらいは血の匂いではなく、安らかなものに包まれて逝けた方が良いではないか。 ……私の手がそれに相当するかは判らぬが、何もないよりマシであろう、多分な」 碧衣がやはり何も見つからなかった、おそらくここには、死体を棄てただけなのだろう、と肩を落とし戻ってきた頃、コーディが香を焚き始めた。嗅覚と、触覚に頼っていた千春への慰みになればと。 「……アークには関わりのない事だガ、犯人を探し両腕を吹き飛ばしてやるのダ。 そうすればもう被害者は増えないのダ。――耳と目? 別に殺すつもりはないのダ」 憤りを隠せないままのカイが、橋桁のヒビを見つめてそう呟く。 「全てが無事に終わったら、花でも供えにこよう。彼女の事は知らないが、それくらいは許してくれるよな?」 義弘が、そう言ってカイの背を軽く叩いた。 「しかし、いったい誰がこんなむごい事をしでかしたのか……。 ただの犯罪者でも、フィクサードでも、異常すぎるな……」 僅かに視線を落としてそう続けた義弘の言葉に、エルヴィンが「先生、か」と呟いて眉を顰める。 ――せめて、その人物がフィクサードであることを願うくらいしか、今はできそうになかった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|