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ドリームワールドへようこそ!

●とある世界の裏側で
 その戦いは草木も眠る逢魔刻、30階建ての高層ビルの屋上で人知れず繰り広げられていた。

「深淵より生まれし魔黒の毒蛇よ、我が意志に応え此処に顕現せん……蛇毒の魔弾(ポイズンシェル)!」
 打ち出された鈍色の弾丸に薄紫のオーラが渦巻く。その残影は蛇の顎を思わせ対する男に食らい付く。
「ぐうっ、覚えたばかりの魔術を其処まで自在に操るとは!
 流石は『堕落(おち)たる黒きアスクレピオス』の異名は伊達では無いと言う事か……
 だが!俺とて『永劫無朽のワールウィンド』と呼ばれた男。この程度の傷……ッ!」
 男は膝を付きつつも野太刀を支えとして立ち上がる。その瞳は隻眼なれど、鋭い眼光は揺らぐ事を知らず。
 しかし、気力が保ったのは其処までだ。にぃっ、とアスクレピオスの口元が三日月を描く。
「愚かなりワールウィンド。その御託、遺言へと費やすべきだったな。
 東方の疾風、剣の舞い手、猛き風纏う剣豪よ、偉大なる我が掌で踊れ――!」
 ばさり、と羽織ったローブを翻し、手にした漆黒のスタッフを向ける。指で切るのは魔術印。
 その手馴れた仕草にワールウィンドが瞠目する。瞳に浮かぶ蛇を模した魔法陣。彼独自の術式、それは確か――

「永久の常闇に瞬きし我が宿星よ、降りて輝け天蓋の冥槌。愚かなる者共に黄泉の標を。
 闇天照らせ蛇の星々(スターダストヴァイパー)!」
「ぐああああああああ―――っ!」
 降り注ぐのは光、光、光。虚空に浮かんだ黒紫の無数の星が落ちては爆ぜ、輝いては散り、
 夜の闇を紫とも死とも言えない色に染め上げる。
 そうしてその流星群が消えた跡には、ぼろぼろに焼き切れたワールウィンドの姿。
 ゆっくりと倒れ伏す男にアスクレピオスが被った三角帽子の唾を下げる。
「……静かに眠れ、ワールウィンド。貴様の名、暫しの間は留め置こう」
 屋上を吹き抜ける風が長いローブをはためかせる。夜空を見上げ、アスクレピオスがぽつりと呟く。
「ふん、癪に障る風だ。この街の夜は、明る過ぎる……」
 告げながら屋上より飛び降りる。摩天楼の上へと広がるは漆黒の翼。その姿は何処まで孤独に夜へと溶け――

●はいはい邪気眼邪気眼
「……大体こんな感じ」
 ナニソレ。と言うツッコミを許さない口調で淡々と語ったのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)
 モニターで展開されていた衝撃映像と言うかB級ファンタジー映画みたいな物を指して曰く。
「アーティファクトを持って逃亡中のフィクサードの討伐、ないし捕獲」
 それがあの14歳を大きく上回ってる年齢の男性2名による薄ら寒い熱演と何の関係があるのか。
「あれは実際に行われた戦い。わーるうぃんどって言うのもフィクサード。
 同じアーティファクトを取り合っていたみたい」
 差し出されたのは資料。そこに写真入で描かれているのは真っ黒な宝石だ。
 良く見ると先ほどモニターで痛い台詞を連発していた、アスクレピオスとか言う男の杖にこんなのが付いていた気もする。
「ドリームジュエル。半径10m内の人の妄想を、力に変えるアーティファクト」
 妄想。妄想である。ドリームである。何故想像でないのかは深く突っ込んでは行けないらしい。
 ごくり、と集められたリベリスタの一部が喉を鳴らす。それは、ちょっと欲しい。
「大仰な詠唱とか、二つ名とか、キャラクター付けとか、そういうのが強ければ強いほど能力に補正がかかる。
 ……あの2人がやりあってたのも多分そういう事情」

 とある病を拗らせてリベリスタになったりもする世界、そんなアーティファクトもあるのだろう。
 あくまで補正。あくまで底上げ。元々力を持っていない人間が持ってもそれほど大きな影響は無い。
 しかし、これが妄想逞しいフィクサードの手に渡ったら――その結果が件のアスクレピオスである。
「アスクレピオスは、マグメイガス。当人もそこそこ力のあるフィクサードだけど……
 ドリームジュエルの所為で立派な脅威になってる。しかも魔法使いの癖にかなり頑丈」
 マグメイガスと言うとそもそもが全体攻撃のエキスパート、更に硬いとなると難敵には違いない。
 冗談では済まない様だと居住まいを正すリベリスタ達に、イヴの更なる追撃が襲い掛かる。
「ただ、ドリームジュエルの効果は無差別。皆でも……その恩恵を受ける事が出来る」
 なんですと?
「妄想爆発」
 ぐ、と親指を立てるイヴ。つまり妄想をある程度現実に反映出来る。と言う意味らしい。
 勿論本来の所有者より補正そのものは小さいのだろうが……
「……妄想の完成度によっては、アスクレピオスを屈服させる事も可能……かもしれない」
 つまり、その空間では患っている者程強い。ある意味シンプルなルールである。
「アスクレピオスは、夜間、高いところに良く出没するフライエンジェ。倒して、回収して」
 持って帰ったら駄目だよ。との念押しを忘れずイヴは資料を差し出すのだった。
 これが全ての始まりと気付かないままに。はいはい邪気眼邪気眼である。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月12日(日)23:39
11度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
ネタ?何を仰られているのか皆目見当もつかないシリアス依頼です。
くっ、奴に付けられた古傷が疼く……ッ!以下詳細となります。

●依頼成功条件
 ドリームジュエルの回収、アスクレピオスの討伐か捕縛

●ドリームジュエル
 半径10m以内の人間の妄想力を測定し、力へと変えるアーティファクト。
 0~5の六段階評価。評価値×10の補正が、物攻、神攻、物防、神防にそれぞれかかります。
 また、アスクレピオスは所有者の為×20で+80の補正がかかっています。

●アスクレピオス
 本名不明。20代後半の男性。自己称号は『堕落(おち)たる黒きアスクレピオス』
 服装はローブ+唾広の三角帽子+丸型サングラス+杖。と言うウィザードファッション。
 初級スキルは全て習得したものの、パッシブ無しのマグメイガスです。
 ドリームジュエルによって強敵となっていますが、代わりに挙動が遅いです。
 EX:闇天照らせ蛇の星々(スターダストヴァイパー)
 要詠唱。ターン最後に半径10m全範囲攻撃。状態異常[呪縛][毒][猛毒]

●詠唱とか口上とか設定を語るとか
 集中扱い、1ターン行動を消費します。
 基本沢山語ればそれだけ修正を受け易くなりますが、上限はあります。
 一度上がったドリームジュエルの評価は落ちず、常時修正を与え続けます。
 攻撃時、スキルにルビを振りたい場合は行動を消費せず対応致します。

●戦闘予定地点
 深夜の高層ビルの屋上です。基本人目は気にせず問題ありません。
 光源はほぼ皆無、月明かり程度です。万が一落ちたら戦闘復帰は困難でしょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
マグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)

源兵島 こじり(BNE000630)
★MVP
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
覇界闘士
奥瀬・樹(BNE002376)
ホーリーメイガス
氷夜 天(BNE002472)

●闇天に仔羊は踊る
 空は遠く、近く、夜の闇に月は瞬く。見上げているのは唾広の三角帽子を被った黒衣の男。
「……ふん、来たか」
 予期していた訳ではない。けれど身を伝う生温い風。その内に仄かな死臭を感じ取る。
 殺し滅ぼし生き延びて来た者特有の気配。自身と同じく世界の裏側に身をおく者が近付いている。
 強き者、力在る者、そして勝利を渇望する者は自然と彼の存在に気付く。それは必然。それは摂理。
 全ては彼が持つ夢幻の宝珠(ドリームジュエル)に導かれ――
「月明かりが素敵な夜だね。ただ、私には少し眩し過ぎるかな」
 ――かくの如く、舞い降りる。
「問おう、貴様は何者か」
 漆黒のローブが風に吹かれ踊る。給水塔の上に立つ影には一対の翼。それは選ばれた者の証。
 彼我は同族。しかしだからこそ相容れぬ事も、ある。
「私は『黒き奏者』ウェスティア。この夜空も貴方の運命も私の奏でる魔曲で絶望に染めてあげるよ」
 凛と響く『黒き奏者』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)の声音、彼は笑う。黒と来たか。
 如何にも挑発的な名乗りに、取り出すのは一本の杖。
「良かろう。我が名は堕落たる黒きアスクレピオス。宝珠に導かれし奏者よ、我が礎と――」

 言った瞬間、屋上へと続く扉が開かれる。現れ出るは七人、彼を囲む様に布陣する。
「……ほう」
 その動きは一朝一夕の物ではない。察する。彼らもまた導かれし狂信者達である事を。
「今宵は良い月夜だ。獲物を狩るに相応しい。貴様もそう思わないか?」
 夜の闇より尚深い黒翼が空へと融け、『神喰ラウ漆黒』クリス・ハーシェル(BNE001882)が進み出る。
「我が名はアーデルハイト・フォン・シュピーゲル。闇夜に浮かぶ、銀の月。
 さあ、踊りましょう。土となるまで、灰となるまで、塵となるまで」
 控えし『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)が戯れる様に囁く。
「ふっ、私の封印を解くとは……よほどの事態のようですね、樹」
 無意識(ディラック)の海より覚醒めたもう一人の自分が語るは『Fatal Arts』奥瀬・樹(BNE002376)
「麗しき乙女達の守護者…『幸運の星』僕、見参!」
 『幸運の星/絶対運命選択者』氷夜 天(BNE002472)が腕を組んで立ち塞がる。

 そしてその間、唯一人ゆったりと煙草に火を着けていた女が――不遜な仕草でにやりと嘲笑う。
「わらわは『絶対静止の観測者』グレイプニル。ギリシャの医神……アスクレピオスか。
 だが異教の神であろうとも、わらわの鎖は全てを縛る」
 告げる『絶対静止の観測者』依代 椿(BNE000728)の言葉の向こう、鎖の音がじゃらりと聞こえる。
 その“現実”に、囲まれて尚悠然としていたアスクレピオスの瞳に戦慄が走る。
 現実を侵食する夢幻。それはドリームジュエルの加護を受けた証。椿――否、グレイプニルは、
 唯の一言で宝珠の加護を引き寄せたのだ。その言霊、込められた力の量はどれほどか。

「面白い、月呑む巨狼をも捕らえし絶対の縛鎖。我が宿星を捕られられるか試してみるがいい!」
 アスクレピオスは翼を広げると大きく飛び退く。それが余興の終わり、そして戦いの始まり。
 夢幻の宝珠在る所、世界は歪み、条理は捻れ、力と力は螺旋を描く。

●月灯の下幻想は輝く
「我が血よ巡れ。闇夜の力をもて、肉体を満たし、魂魄を満たせ――魔力覚醒(マナブースト)」
 アーデルハイトの言葉が力を生む。覚醒した魔力が身体を巡る。
 満ちて欠けるは銀の月。夜に在って、満ちたりた彼女を妨げられる物は無い。
 一方初手を準備に費やした彼女とは裏腹に、すぐさま突貫する者も在る。 
「黒(ノワール)が通じぬはずはない!」
 黒いマントを棚引かせながら『素兎』天月・光(BNE000490)が一足飛びに距離を詰め、
 『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)のショットガンが火を噴く。
 弾丸ばら撒かれた弾丸はローブへと絡め取られるも、光の振るったブロードソードはアスクレピオスを捉える。
 そうして響き渡る高い金属音。その感触に頬が引き攣る。
 硬い、異常な硬さである。まるで金塊を殴った様な鈍重かつ硬質的な手応え。
「世界を味方に付けたこの俺に、そんな爪楊枝が通じるか!」
 言って向けるは黒き杖。先端の宝珠が虹色に輝く。
「灼熱の業火、じっくり味わってみなさい――獄炎塵(インフェルノ・ブレイク)」
 其処に割り込むのは樹の炎拳。やはり感じるのは恐ろしい程の頑強さ。
 しかし灯った炎は過たずローブの裾をちりちりと燃やす。
「ふっ。愚かな。闇夜は私の味方。漆黒の濁流に飲まれ、消え去るがいい」
 その隙を縫う様に、影を翼に宿したクリスがそう告げた時だった。夢幻の宝珠が光を放つ。
 分かる。その秘めたる力の一端が。包み込む様な全能感が。
「顕現せよ、神打ち滅ぼす螺旋の慟哭、冥府より暗き深淵を我が手に」
「馬鹿な、因果の螺旋(アカシックレコード)に干渉すると言うのか――」
 アスクレピオスが瞠目する。だが、もう遅い。死の因果は奏でられた。
「喰らい尽くせ、『屠龍神滅・羅刹恐慌覇』!!」
 影絵の龍が男を貫く。絶対的な防御を誇ったアスクレピオスのローブが、ずたずたに切り刻まれる。

「くっ、貴様もまた、同族……か」
 一歩退いたその身に、告げる声は高く低く、声と共に鋭い眼差しが向けられる。
「かつて主神の肩に宿りしもの、雷鳴の如くこの場を駆け、全てを知りて怒りを誘わん――」
 一際強いその言霊は時に男の世界をも凌駕する圧力で以って降り注ぐ。
 久しい痛みに歯を食い縛り、けれど笑む。グレイプニルの存在感に抗う様に、男もまた詠う。
「其より疾き物未だ知らず、其より猛き物未だ現れず、故に神は告げる。汝を以って災いと呼ぶ――」
 互いの在り方を改めて問う。奇しくもこの場で合間見えたのであれば。
 いずれの世界が強固であるか、答えは宝珠が証明してくれる。
「陰陽・鴉(フギン・ムニン)」「死罰の天雷(チェインライトニング )」
 爆発的に膨れ上がった電雷の網目を影の双鴉が翻り飛ぶ。
 二条の黒と眩い白が入り混じり、そして――

「ちぃっ」
 引き分け。彼我の世界強度は拮抗していた。だが此処で、本来の所有者と挑戦者との差が出る。
 退いたのはグレイプニル。だが彼女は未だ被害を抑えた方だ。
 宝珠の加護の少ない数名、特に樹と光の被害は甚大である。
「天地を統べし全ての命の水源(みなもと)よ」
 だが、運命を選択し得るのは彼らばかりではない。
 幸運と言う単純にして絶対の星に見込まれた彼が居る。銀の髪を棚引かせ、祈りを込めてかく謡う。
 世界をこの手に、運命をこの手に、勝利をこの手に――天の声に力が宿る。
「其の大いなる御手にて全ての運命に祝福を!」
 その歌を神ならざる宝珠が後押しする。集った光が戦友達を癒す。傷の凡そ半分が奇蹟の様に消えていく。
「魔弾の射手達よ、我が元に集いて戦列を成し、我が命に従いて砲火を交わせ――」
「ほら、聞こえる?全てを絶望の淵に誘わんと幾重にも重なるこの調が――」
 続けて響く二重奏。静かに高らかに唱和する、アーデルハイトとウィスタリア。
 二人の指先がぴたりとアスクレピオスを捕捉する。
「魔弾砲火(マジックミサイル)」「魔曲、四重奏!」
 宝珠と奏でる二重の二重奏。ヴァイオリンの調べに乗って魔弾が奔り、戯れ、舞い踊る。
 それは地上に瞬く星の様に。それはあたかも、堕ちて流れる流星の様に。

●夢幻世界に神は啼く
 彼らは強かった。アスクレピオスが相対した内でも特筆して。それを認めぬ訳にはいかないだろう。
 だが。彼は未だ倒れない。夢幻の宝珠、ドリームジュエルは彼と共に在る。
 二度の雷撃、そして続く二度の爆炎。耐久に劣る黒き奏者が膝を付き、銀の月が血に染まる。
 幸運の星すらも一度は地へと伏せると、流れは一気に堕落たる医神の側へと傾いていく。
「……皆、いい考えがある」
 息も絶え絶えに光がアスクレピオスを振り仰ぐ。その瞳は未だ諦めを知らない。
「ぼくは誰も知らないドリームジュエルの秘密を知っている」
 その言葉に宝珠の加護を最大限に受けたグレイプニルとクリス、
 ギリギリで踏み止まる樹とこじり、倒れても立ち上がったの視線が集まる。
 それが事実であれば、或いは決定打になるかもしれない。
「良かろう、ならばわらわが彼奴をくい止める」
「僕は癒しを。でも次は厳しいな、あちらの攻撃が思ったより重い」
「だったら私も癒しに回ろう。多少の猶予は作れる筈だ」
「どうやら、本気を出さねばならないようですね」
 こくり、と首肯する。そして散開。最も速度に長ける光が宝珠の力を最大限に引き出す為の切り札を切る。

 -this is a pen-
 唯一の真実を示し
 -who am I-
 己を創造す

 織り紡がれる力在る言葉。其処に意味など無い。込められた想いにのみ宝珠の加護は宿る。
「呪われた力を封じるは誠意、印に誘われその身を委ねるも……」
 開始されるグレイプニルの詠唱。チャンスは一度きり、己が内に秘めた幻想を搾り出す。
「天地を統べし全ての命の水源よ――」
「彼の者は独り剣を執り、人を裁きし神をも断つ。その在り方を勇気と呼ぶ!」
 天とクリスの歌が傷付く者全てを癒す。だが、その言葉の終わり、聞こえたのはアスクレピオスの言葉。
 その響きを何処かで聞いた様な気がして、天が、クリスが、戦慄に凍り付く。
「……その御託、遺言へと費やすべきだったな」
 輝く両目、瞳に浮かぶ幾何学の刻印。口元が描くは三日月。
 彼は待っていた。待ち続けた。彼の敵の大半が動きを止めるこの瞬間を。
「この気配は……!」
 偶然にも反応出来たのは樹のみ。距離を開ける為に大きく跳び退く。その動作の最中響き渡る声。
「永久の常闇に瞬きし我が宿星よ、降りて輝け天蓋の冥槌。愚かなる者共に黄泉の標を――」
 止められない。黒き杖に据えられた宝珠が強く、激しく、発光する。
「生き延びて見せろ――闇天照らせ蛇の星々(スターダストヴァイパー)!」
 降り注ぐ暗紫色の光。落ちる、爆ぜる、吹き飛ばす。前半の焼き回しの様な流星群。
 使い手と受け手を置き換えた様な光景の果て、天が、こじりが、グレイプニルが、焼き切れた様に倒れ伏す。
 何とか耐え切ったのは唯一人、クリス。そして――

 -we are the world-
 世界は我のモノ
 -I am rabbit-
 全ての力を解き放つ

『―この世全ての嘘―』
 遂に詠唱を完成させた、光だった。言霊には力が宿る。その一撃はアスクレピオスを――
「ドリームジュエルの弱点! 満月が真上の時に10秒だけ力を喪う!」
 確かに弱体化させる。だが、そこまでだ。これが攻め手であれば、あるいは……とも言えただろうか。
「さて、良く我が秘奥を耐えた物だ……と言いたい所だが」
 見回し、見切る。動ける者は残す所僅か3人。そしてアスクレピオスは未だ健在。
 次の一手は耐え切れない。全滅、と言う語句が頭を過ぎる。絶望が空気を満たしていく。
「――――封じられること気付かず……縛られゆく身をただ嘆くのみ!」
 否、3人ではない、4人だ。それを証明する一手、詠唱を乗せた影の鎖が放たれる。
 その数は無数、避け様も無い鎖の海は狙い違わずアスクレピオスに絡み付く。動きを縛る、改心の一手。
「馬鹿な、貴様――あの一撃を生き延びて!」
「『絶対静止の観測者』を、甘くみるでないわ!!」
 上がった叫びは高らかに、グレイプニルが地を掴んで立ち上がる。運命の祝福を削って奈落より這い上がる。
「今じゃ! この瞬間を置いて次はない!」
 命賭けで切り拓いた最後のチャンス、光が、クリスが、樹が、己が全てを込め必殺の一撃を放つ。
「これより貴様に向かうは、あらゆる平行世界より抽出した『死』の因果。吼えろ――」
「炎に焼かれていれば、まだ楽に逝けたものを……――蒼穹衝(フィルマメント・インパルス)!」
「ぼくのとっておきを喰らえ!可逆不能(ソニックエッジ)!」
 三者三様、研ぎ澄まされた一撃が宝珠の加護を失ったアスクレピオスに突き刺さる。
 全てはこの一瞬の為に、運命は――定められた。
「馬鹿な……馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、この俺が――」
 四肢を繋ぐ鎖は解けない。理由は単純である。彼女の妄想は今此処に、男の世界を凌駕した。
「万全ではないからと、あまり見くびるものではないぞ?」
 血塗れの笑みに煙草が揺れる。掲げた掌に集う冷気。死世界の雨に覆われて、黒き医神は此処に――墜つ。

●そしてそれから
「じゃ、ちょっくら死んで来る」
「待った待った待った」
 爽やかに言い放って屋上からアイキャンフライしようとした樹をクリスが止める。
 転げ落ちた黒い杖から宝珠を取り外した光が周囲を見回せば、何とも酷い有様である。
 正しく間一髪。薄氷の上をスノーモービルで走るかの様なギリギリの勝利。
 アーデルハイトとウィスタリアは漸く身を起こせる様になったばかり。
 こじりと天に到っては未だ倒れたまま。背負ってビルを降りる意外に無いだろう。
「あー……」
 グレイプニルさんから開放された椿はと言うとこっそり設置しておいたカメラをドサクサに紛れて回収していた。
 勿論自分が何を言って何をやったか分からない筈も無い。何でこんな物撮ったのか。穴が有ったら入りたい。
 誰に見せても恥ずかしく無い立派な黒歴史の一丁上がりである。
「うん、帰ろう」
 誰が言ったかその言葉に誰もが頷く。大抵の場合、恥ずかしくなるのはノリにノったその後である。
 まるで何か悪い事でもした後の様に、そそくさと屋上を後にする。アスクレピオスは当然放置。
 しかして彼女達が、椿の撮ったカメラ映像がアーク流出した事を知るのは暫く先の話。

 後日イヴに「こんにちは、グレイプニルさんは元気?」と挨拶されゴロゴロするのも当分後の話である。
 邪気眼の御利用は計画的に。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『ドリームワールドへようこそ!』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

本当にギリギリの勝利でした。
恐らく最後の最後で呪縛の状態異常が出なければ撤退に追い込まれていた事でしょう。
邪気眼ここに極まれりの奇蹟的な勝利でした。
この結末を力尽くでもぎ取ったグレイプニルさんこと、
依代椿さんにMVPを贈らせて頂きます。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。