● ちょっと面白いの作りたいって思った。 面白くて、強いの。 「余興ねぇ、余興。ふふふふふああははははは。笑えないなぁ」 簡単に言えるけれど、超難題だ。 何が足りないのだろう。研究に研究を重ねて、改善はされてきたが。 だから、適当に答えを出して、適当に実験すればいいやって思ったんだ。 六道、その道は貪るような探究。答えが出ないなら、やってみればいい。そうだよね。 話は変わるが、家畜は家畜であるから家畜なのだ。 難しいことは言っていない。ペットは家畜になれない。そこに愛が生まれてしまえば、きっと扱いは変わる。それは実験用のマウスも同じだろう。 そこでだ、実験用の人間も同じだろうか? ……残念だが、この男――奇堂みめめには期待しない方が良い。 ぶかぶかの白衣の中で、髪の色は白髪。いつもかけている大きな眼鏡を取り外しながら、男は鋭い目つきで助手の女を見た。 「いやいやいや、キミってさ、すごくいつも尽くしてくれるよね。感謝感謝ありがとう。 実験もそうだしボクの身の回りの世話もそうだしベットの中までなんちゃって」 いきなり何を言っているのだろう。だが、彼の目が鋭すぎて怖い。 「あー絶望が足りない、憎悪が足りない、悲しみが足りない。 あーあーあー足りない、無いんだ無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い」 まさかね。 そんなまさかね。 でもそのまさかは的中する。 「キミさぁ、実験材料に」 な て れる よ ? ?? っ く ね ? もう一人の助手がそれを聞いて咄嗟にみめめの前に立つ。その顔面は蒼白。 「みめめ様、それオカシイですって!」 「え? じゃあきみがなってくれるの??」 「……っ、い、いえっ」 「だよねー」 ……悪夢だ。 と、いうことで。 「まあ、みめめの手にかかれば「イャァァアアア」イラなんて「アアアアアアアアアアア」し前だし「アアアアアアアアアアア!!!」やってすぐ「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ぁ」……うるさいなあ」 材料は材料として見ているからなんだってできる。 例えそれが数秒前まで助手だとしても、できる。 「あ、ミスった。彼女妊娠してたんだ」 「あはは……みめめ様って、黄泉ヶ辻でもやってけますよ」 「えーうそーほめられちゃったー? いやーん照れるー♪」 出来上がったのは、女とも、虫とも思えないモノ。 「名前はイヨだよ。おいで、愛してあげる。 さ、行こうか。遊びのついでに戦闘能力の実験でもしようか。そうだね、消極的にカップルだらけの公園でも襲おうか、引き裂きにいこう」 ● 「正体不明のエリューションの出現を確認しました。できれば二度と見つけたくないものですけれどね……」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が集まったリベリスタ達にそう告げる。 「形はカマキリ……のような、女の人のような……何かです」 身長160cm前後、頭部は逆さまについた髪の長い女の頭があり、頬からはカマキリの目が両頬にひとつずつ着いている。腕はカマキリの刃で、上半身は女性の肌が晒されている。下半身は完全にカマキリのものになっていて、やたらと肥大した腹が気持ち悪い。 「型に当てはまらない、つまりはEキマイラ。識別名は『十四』。 六道のフィクサードも見えましたので、おそらくそれで間違いありませんね」 十四は夜中の公園に出現する事が解っている。そのまま一般人を襲わせる事が目的か。十分にリベリスタが誘われているような気がしてならない。 「それでも、放置はできません。討伐を、お願いします」 万華鏡で覗いたものによれば、十四はレイザータクトの様なスキルを使ってくるという。それだけには留まらず。リベリスタの質問攻めが始まる。 「カマキリって、肉食だよな?」 「捕食しますね」 「カマキリって、翅があるよな」 「飛びますね」 「「……」」 「産卵」 「し……ないと言い切れないです……やたら膨れたお腹は気になります……」 警戒は必要だろう。 ともあれ、まずは一般人の安全を作る所から始めなければならない。 「お急ぎください、今からならまだ間に合いますので。それでは、いってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月12日(月)00:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● がさ、がさがさ、がさがさがさがさ。 『いいかな?いいかな??殺して、殺して、殺し尽すんだよ』 女とも虫とも言えぬモノが夜道、じゃりの多い道をひたすらひたすらとおりゃんせ。 『そのうち能力者も来るでしょ、いやー来るよね、倒してね?』 歩くのが慣れていないか、まるで生まれたての小鹿のようにあっちにふらふら、こっちによらよらしながら、時折鋭い両腕を地に無様に着きながらも六つの足で前へ行く。 『愛しているよ、十四番目の娘であり息子、はは、ははははは、おっかしー!!!!!!』 逆様の女の脳では恐怖と悲しみと憎悪が渦巻いていた。誰がために、なんのために、こんなことになった。 『あ、まあ、できなかったら』 そのまま廃棄だから。 「イヤギャァァァアアァァァアアアァァ」 咆哮か、叫びか、夜の公園に音から生まれた震動だけが虚しく木々を揺らした、だけ。 夜空に浮かぶ、頼りにならない灯りの下。 はぁ、と息を吐いてみれば、微かに目の前が白色に眩む。肌に刺さる寒さがなんとやら。 「敵は現在進行形で広場のベンチで居座るカップルへと進行中です。最短経路は見つけましたので着いて来て下さい!」 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の指の先が冷気を裂きながら奥を指差す。その瞳は見えぬものを見通す神秘そのもの。 「うむ! 此処で止めなければ日本国の少子高齢化問題が更に悪化してしまうのじゃ。それだけは止め……はやっ!!」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が最近の日本の状況に心を痛めつつ、どさくさに紛れて翼の加護を放った瞬時に、舞姫の背中は暗闇に消えていた。 「戦場ヶ原は速いなァ!」 「おいおい、感心している場合じゃ無いだろう?」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が歩き出した所で、『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)も物申す。 「……」 そこに居た『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)は目を閉じ、手で帽子を強く頭へ押さえつける。 刹那。びゅっ。 「フラウも超速いな!」 「はいはい、お仕事しに行くっすよ」 フツを引っ張る『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)が、虚空を目にしながら舌打ちを一回。日々のストレスを発散する前に、一般人の退避が優先だ。逆に言えば、一般人さえいなければもう戦えていた……のだろうか? 「なんで……一般人を狙うかなぁ……うん、うん。とりあえず、なんとかしないとだよね……うん、大丈夫、解ってる」 「もうちょい待っててくれ深緋。そんなに怒鳴らなくても良いだろう?」 マコトと、フツ。二人は何処か、あさっての方向を見ながらぶつぶつ、ぶつぶつ。 「お二方は、何方と言葉を交えているのでしょうか……」 「きっと、私達じゃあ想像つかないものでしょう」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が二人へ疑問の目を向けながら、『非才を知る者』 アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は生暖かい目を向けていた。 「……ん。北西の方角から救援信号」 エリス・トワイニング(BNE002382)もエリスで何かを受信したらしい。 かくかくしかじかでその場に今は一人だけ。ぽつんと取り残された『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が、くるりと後ろを振り向く。 フードを片手で少し上にあげ、影から赤色の瞳がこんにちは。そして瞬時に見開き、見えぬ先を見ようとすれば、一秒も満たない時間の中で、瞳の下の口が弓月の様にひん曲がったのだった。 「ジャムパンは好みじゃないの? バランスのいい食生活を、ね?」 わざとゆっくり言い、わざとはっきり口を動かす。 手をひらひら横に振りながら振り返り。皆早過ぎるよね、首狩れなくなっちゃうと笑顔で皮肉を吐き出しながら敵の下へと走っていった――。 ――ぐじゅ。 「うわあ、何やってんですかみめめ様!?」 「ぐふふ……殺人鬼、よく見つけてくれるよね。 愛しすぎてミンチにしてみめめの糧にしてあげたいくらい。でさっ、次はジャムパンを用意しよう!!」 六道のイカレタ研究員、奇堂みめめは手の中のあんぱんを握り潰した。これでも機嫌が良すぎて心臓発作で死にそうなくらい。出てきたあんこを舐めとりながら、口端が引き千切れる程にニヤケが止まらない。まるでステーキを目の前にした腹を空かせた子供の様。 「んふふふふふ、じゃむぱんは勿論、リベリスタの血肉で作るんだぁ」 ● 足が引き千切れるんじゃないかって思う程全力で走った。 地を蹴り、砂を撒き散らし、突き刺す風を押しのけて進んだ。 だが、前方で容赦無く湧き上がる絶叫。ターゲットである十四の刃が大きく高く振り上げられていた。救えないのか、そう過ると胃が掴まれたように痛み出す。 「待っ!!」 冷気に爪痕を作りながら手を伸ばした。常人以上のスピードで走ったからには急には止まれない。 「こっちむけ!!」 範囲内に入った瞬間に先手のアッパーユアハート。 そのままのスピードで片足を軸に急カーブ。ごりりと嫌な音が体から響いたが関係無い。そして勢いが乗ったまま、舞姫は十四へと突進した。 それよりもコンマ何秒速くフラウは十四の背に乗り、その翅を引き千切らんとしていた。 間一髪。敵の刃は一般人では無く舞姫の胸を掠り、服さえ引き裂かれたものの一般人の命は二つ程絶命の運命を回避させた。 ●其の頃 「あ~もしもし、キミ達かえりなさ~い!」 今なら名曲に登場した警部の気持ちがよく解るよ。いちゃつくのは良いけれど、其の内凄く怖いもの見る前に帰りやがれカップル。 ゴホンと、咳をわざと出しながら存在をアピールし、そこからそう一言だけ言ったメアリ。 「う、うるせ! こっち見てんじゃねえ!!」 <●><●>←メアリ 「見んじゃねえって……言って」 <●><●>←瞬きを忘れている 「見せもんじゃ……ごめんなさい帰ります」 <。●><●。>←ちょっと涙ぐんできた ● 場所は戻って戦場。 舞姫とフラウが助けた一般人にはフツと、碧衣が対応している最中である。 「私が安全なルートを案内します。さあ、こちらへ!」 にこにこ、きらきら。みめめ曰く、後光が見えたよとの事。 それでいて、その場に居たリベリスタが、私!!?と同じ気持ちを持ったのはこの一瞬だけ。 「こういう時は考えるよりまず走れッ!」 それにあわせて碧衣も急かす。むしろあまり深く考えないでくれと願いながら、男の服をぐいぐい引っ張った。 二人は手際良く、訳も解っていない一般人を口車に乗せながら公園の外へと誘導していく。コツはフツ曰く、彼氏を立ててやることだそうだ。 去り際にフツは、十四のチェイスカッターを掠って髪の毛が綺麗に数センチカットされたアルフォンソへ、任せろと言わんばかりにサムズアップ。 こくんと頷いたアルフォンソは、大きく息を吐き出した。吐く息には大きなやりきれない感が篭りつつ。 「やれやれですね。近頃は厄介なものが多すぎる」 一つの大きな出来事が終わろうとしている中、また一つ難題が見えてきた。ともあれ、それも潰すのだろう。 アルフォンソの意識は周辺のリベリスタと繋がり、攻撃の精力を大きく伸ばす糧と成る。 「任せたよ」 アルフォンソよりも少し後ろで、ユーディスはヘビースピアに十字の光を乗せながら構えていた。矢から手を離せば、空気を切り裂きながら直線を走る光。その光の余韻を残しながら、十四の肩口に風穴を空ける。 金きり声で叫びあげる十四に対し、ユーディスは二本目の十字を用意しながら言葉を紡いだ。 「十四というのは……貴方の名ですか」 答えなんて期待していない。それでも話かけたのは、元より材料が人であることを知っているからなのだろう。 難儀なものだ。人であったときの記憶は、虫であったときの記憶は、どちらが残っているのだろう。 「経緯は問いません。もはや意味の無い事です」 ともあれ、これは進化では無い。成り下がりだ。見てみれば解る、もはや人語は消え、見た目も……。本当、悪趣味極まると言う他無い。 「終わらせて差し上げます。二度とそんな苦しみに苛まれぬ様に」 ユーディスの青い瞳に風が触っていった。きらりひとつ、光るものが流れ落ちていく。 フラウのナイフが、舞姫の黒曜が、突き刺さったその後で。 「今後どうなるんだろうね、この憐れな生き物は」 アルフォンソの、防御を司る意識がリベリスタへリンクしたと同時に、二発目の怒りが十四の懐に突き刺さった――。 ●其の頃2 「事情は話せないっすけど、すぐにここから離れてほしいっす」 「え、ええ……意味わかんないし」 「マジ超さげぽよなンすけど!! マジ死んで欲しいッスけど!!」 意地でも帰らないカップル一組にマコトは手を焼いていた。あれを言えばこう言われ、下手に下手にさっさと帰れとオブラートに包んで言ってみたものの、全て弾かれる。ストレス超溜まる。 「言っておくっすけど、好奇心で見に来るとか命の保証出来ないっすよ。ヤーさんの抗争みたいなもんっすから、堅気が首突っ込むもんじゃねーっす」 「今時抗争とかワロス!!」 「きゃーこわーいあはははー!!」 ブチィ。何かが切れた音がした。 こんな事している場合じゃないのに。ヤーさんの抗争よりも恐ろしいものが居るってのに。 「熾喜多、やれ」 「はいはい、リア充は首刎ねようか~☆」 マコトの一言で、遅すぎたハロウィンが急遽到来してきた。両腕には得体の知れない錆が着いた特大の変形ハサミを持って。 恐ろしい事はそのハサミが容赦無く、カップルの女の首を落とそうとした事だ。ガチ殺しだ、ガチ殺し。 「ストップ、ストーップだ!!」 あまりにも遅いからと、直感で居場所を探ってきた碧衣が間一髪。葬識の服を後ろから全力で引っ張り止めた。 どうやらこれで、避難するべきは最後らしい。 「あ、焦燥院ちゃん? 避難オッケーだよー」 『おっけおっけ! じゃあ』 AFごしに会話をし、アチラでフツは遠慮無く、その体から光を放った。 ● エリスの厚い回復が仲間を守り、戦況は大いに順調。とは言え、相手も捕食を行い、何もせずとも傷が治るために体力面ではあまり進展が無い状況だ。 メアリから与えられていた翼を駆使して夜空に舞う事を防ぎ、怒りにてその攻撃の優先をいじくり、一般人に被害が皆無なのは誇るべき点であろう。 「堅っ」 舞姫の一閃が腹部を中心に放たれる。 魅了にかかり、静止しつつも、その魅了が消えた瞬間に十四は怒り狂った。 「やっぱり母は子が大事なんだな」 「……その様です」 舞姫と入れ替わるようにして、フツが魔槍を使わずして念じる。 呪術が高らかに大地を駆ける。広がった結界はその周辺の敵全てに影響するが、今回は単体であるので小規模に展開されていく。 凡字を乗せた魔法陣の様なものが十四を縛りつけ、その速度を下げに下げる。もはやフラウは元より、舞姫、アルフォンソより遅く動く事を余儀なくされるのだ。 更に、ショックが効いているためにアルフォンソのフラッシュバンが外れる事が無い。この時点で、麻痺、怒り、ショック、魅了に、不吉と不運が重なった。ちょっとリベリスタ頑張り過ぎ。 結界の中で更に縛られていて、魅了が効いていて手を出してこない敵を前にして。 「妾達いなくても大丈夫そうじゃの!?」 「そんなことありませんよ、堅すぎてなかなか十四は倒れてくれませんので……」 驚愕しつつ、とりあえず消えかけそうな翼の加護をもう一度放ったメアリ。苦笑混じりにユーディスはメアリを宥めた。 「わたしの精神力もあと少しで尽きますし」 「大丈夫だ、インスタントチャージなら任せてくれ」 若干息荒げに動く舞姫の背中に、碧衣の手がそっと添えられ、力を分け与える。まだ、まだ戦える。 「お待たせ、殺人鬼ちゃん頑張っちゃうよ☆」 「悪いっす、やけに居座る奴等の対応が大変だったっす」 マコトは戻ってきた瞬間に、アルフォンソがかけ損なったリベリスタ達へと二種類のドクトリンを放った。 現場へ戻ってきた一般人避難班。これで全員が揃った。 さあ、最後の仕上げをしよう。 もはや戦況はどう見てもリベリスタが有利。 容赦無く駆け出すフラウが差し出した片手は十四が刃で阻む、だがもう片方の手に握られたナイフが速さ任せに十四の顔を切り裂く。 金切り声をあげる十四だが、攻撃は止まる事を知らない。 いきなり顔を切られたかと思えば、腹部に伝わる伝線。舞姫の差し出した腕に握られたナイフが魅了の呪いと共に切り裂く。 ビリッ 舞姫が縦に一閃をいれた所で背後から横の一閃。 「後で……恨み辛みは聞いてやるからな」 フツの魔槍が同じく呪いを乗せてカマキリの腹部へと刃を走らせた。 ビリビリッ 「強敵(とも)よ、我が血肉となるが良いぞ!!」 迷わず向きだした牙で、十四の人である首筋へと噛み付く。顔さえ見なければ、なんと美しい女性のラインか。 ビリビリビリッ 「今日は本当にやれやれな事が多いな」 碧衣が陣を敷き、毒が詰め込まれた光の罠が十四の動きを完全に止めた。ギギギと蠢く十四は痛みに揺らいでいるよう。その痛みって。 ビリビリビリビリッ 十四と同じ、虚空に刃を召喚すれば勝利への道を切り開く一撃とも成ろう。アルフォンソのカッターは空を突き破り、十四の脳天を引き裂いていく。 「できるのなら、来世は穏やかに……」 祈りを乗せて、鮮やかに打ち出されるのはこれまで何度も放ってきた十字。 「や、やめてぇ……」 そこで初めて、十四は掠れた声で、小さく、小さく、そう言った。 貫かれたのは思いか、体か。波打つ悲しみを表に出すことさえ叶わない彼女に、永遠の眠りは近い。 「奇堂ちゃんの趣味はほんとにおもしろいなぁ~☆」 葬識の生命力を力へと変換。真っ黒の刃が腹を裂く、その一閃。ハサミが皮を食い千切り。 ビリビリビリビリビリッ 「お待たせ。死ぬ覚悟はお済っすか?」 夜明けに消える命へ、後方からの呪いで固められた矢が豪速で吹き飛んでは、しなやかな胸、心臓のあるべき場所を射潰した。 ドクン。 何かが、動く。 リベリスタの予想はだいたい当たっている。その腹、どう見たって。 「葬識さん、離れて!!」 手答えを感じて抜きとったハサミ。 背後からの舞姫の声。 前方からの金切り声。 刹那。 ドッパァ、と暖かな水とやたら粘つくものと共に流れ出てきたのは大量の、大量の。 「謎スキル!! た、大量の子カマキリなのじゃー!!?」 メアリが閃光の詠唱を即座に始める。 キーキー鳴くそれ達の、見た目は母と同じく、大きさは小さく。 「うわぁ……テレビ以外で産卵とか始めて見たっすけど。もっと生命の神秘ってのは感動的で有って欲しかったっすね……」 マコトは口元を手で押さえつつ、漆黒のオーラを刃とする。だが数は恐ろしい程に、気持ち悪いほどに、虫の絨毯が蠢いていた。 まともに浴びた葬識の服の中に虫が入っていく。その中で葬識は数匹を掴み取り、ぐしゃりと握りつぶす。 「普通の命だったら、良かったのにね?」 そのすぐ後方。 「う、うあ……うああああああ!!!!」 本当は願った。できれば子供はフェイトを持った人が生まれてくれば良いと。でも、こうなるとも解っていた。 歯を食いしばった舞姫は、迫るそれらに仕掛ける怒りを向けさせる技を放つ。躊躇いはしない、することなんかできない!! 続く、フツが、碧衣が、ユーディスが、アルフォンソが、フラウが、十四へ攻撃を仕掛けるその手前。 十四の、死に物狂いで出した見えない刃が、子をリベリスタごと切り裂いていった。舞姫の魅了か、それとも。 母親も願っていた。 子供だけは、せめて――人であって欲しかったと。 ザクザクザクザク……… 巻き上がる鉄臭。飛び散る肉片。 「ギィィィィィィィィィィィィイ!!!!」 絶望の淵で母は子のために、逆様の顔で涙を流した。 ● あああーっはっはははははは!! 良いものが見れた、いやーたのしかった!!! 六道は最高だ!! 「……何が可笑しい」 ぶっはははははは!!! うん、うん、良い、良い殺意と憎悪だ、みめめはそういうのが欲しい、欲しいよ! そう、実験により更に恐ろしいアワセモノの作るためにね!!! 目指すのは最強の『獅子』だ!!! 「巫山戯るな、外道が!」 咆えた舞姫のその言葉はみめめには聞こえていない。 その言葉を最後に、みめめは倒れて姿を消した。もう、一方的なリーディングは通らない。 何処か、遠くの屋上に転がったみめめは小さな笑いが込み上げてきて、段々止まらなくなっていく。最終的には腹を抱えて屋上の床をごろごろ転げながら笑った。 笑って笑って。 「みめめ、欲しいものできた」 笑って笑って。 「『リベリスタが作った忘れ物』は回収してね、あれは『トウゴ』に食べさせるからさ!!」 犠牲はまだ続く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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