● 赤い風船、白い風船。 闇に浮かび上がる、オレンジ色のかぼちゃランプが、街中にぶら下げられている。 お化けの扮装をした子供達の行進。 パパとママと手をつないで、アーケード街を練り歩く。 トリックオアトリート。 商店街の店先で、配られる小さなお菓子の包み。 お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ。 バスケットに溢れるお菓子。 笑顔。 親子連れ。 「トリックオアトリート」 澄んだ声。 にっこりと愛らしい顔には、ピエロのメーキャップが施されている。 中世ヨーロッパの道化のような、こった衣装。 (殺気はお姫様が通って言ったしなぁ。貸衣装もあるのかねぇ) それでも、子供達にお菓子の包みを渡す。 ありがとうとぺこりとお辞儀する様子も愛らしい。 「――おじさんにもトリート」 お菓子が置かれた台の上に、子供達は次々と飴を置いていく。 小山になった飴に店主が何か言う前に、大人たちが子供達を呼んだ。 ピエロの格好をした子供達は、かぼちゃのおみこしを担ぎながら横道にそれていく。 机の上にはやけに陽気な包み紙の、パンプキンヌガー。 横道の奥は、どこまでも続く暗闇。 後を追おうと言う気分にはどうしてもなれなかった。 トリックオアトリート、トリックオアトリート。 よくしてくれなきゃ、ひどい目に合わすぞ。 ● 「『ささやかな悪意』が、パレードに『パレード』を紛れ込ませた」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉に、リベリスタのうちの何人かの表情が険しくなる。 世間は、ハロウィン。 あのふざけた連中が、乱痴気騒ぎに出てこないわけがない。 去年は、食べないと爆発する、それはそれは食べにくいかぼちゃキャラメルのべとべとしたのを街中に大量にばら撒いた。 パレードを倒した後、リベリスタ達は町中を手分けして、時限爆弾のような菓子を回収して回り、アークのリベリスタは、戦闘職ではない一般職から研究職、技術職まで駆り出され、最終的には、この手の処理に特化訓練されたリベリスタ達が目を白黒させて食べて処理した。 この一連のハロウィンの出来事で、「ささやかな悪意」にささやかではない敵意を燃やすリベリスタ及びアーク職員が急増したのは余談である。 そして、またこの季節。 「今年も、あれがばら撒かれている」 またかっ! 「ただ、今回は『いつもの面子』じゃない」 イヴは難しい顔をしている。 「パレードは、以前のものより耐久性と知能が上がっている「改」なんだけど、その他にノーフェイス。年は……中学生くらい。みんな、ぬいぐるみを連れている」 既視感を感じるリベリスタ達が顔を上げた。 「この間、ハッグ予備軍のグルマルキンが誤作動を起こして、その娘と契約しかけるって言う案件があった」 グルマルキンは撃退。 娘は助かったが、ハッグ予備軍の母親は神秘を受け止めきれずに自己崩壊した。 「万華鏡に引っかからなかったケースがあったかもしれない。ハッグより強力。神秘との親和性が高い。『楽団』の後継と考えてもいいかもしれない。向こうも対応してきていると言うこと」 指からこぼれた、助けられたかもしれない人達の成れの果てを見つけるのは辛いことだ。 しかし、立ち止まっていては、意味がない。 「今作戦より、このノーフェイスを識別名「ライナス」とする」 あの子は毛布が放せなかったけど、こいつらはぬいぐるみが放せないと言う訳だ。 「デュランダルと覇界闘士とホーリーメイガス」 王子様とチャイナ服と妖精が小さなピエロを連れて歩いている。 「ピエロを盾にして、逃げる」 楽団とやることは同じだ。 子供の死体を使い捨て。 「逃がさないで、倒して。エリューションは広まる」 イヴは、端的にそう言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月11日(日)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 赤い風船、白い風船、黄色い風船。 「去年も同様の事件がありましたが、アークにより無事解決しました。今回のハロウィンを悲劇にしないよう、やれることをやります」 報告書にきちんと目を通した魔女の衣装を身につけた風見 七花(BNE003013))は、気合十分だ。 ジャーナリスト志望者たる者、記録の重要性はきちんと認識している。 更に、『塔の魔女』の秘儀を習い覚えたのを、これから試すのだ。 一般人がひしめいている。 こういうときに使うべき術法だった。 「ささやかな悪意、ねえ。どこが『ささやか』なのか教えてほしいもんだ」 九曜紋入りの陣羽織。烏帽子に帯刀。 『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、三高平のハロウィンパレードの衣装だ。 「ささやかな悪意に、パレード。それに、ライナスですか。ささやかとは言いますが、やっている事はささやかでも何でもありませんね」 白兎の侍従姿の『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は、表情を引き締める。 これから仲間達と別れて一人で行動するのだ。 死体の行列の怒りを一身に受けて、子供ゾンビ「パレード」と、ノーフェイス「ライナス」を分断する重要な役割が11歳の少女に託された。 『ささやかな悪意』とは、カスパールとメアリ、二人のフィクサードを頂点にした愉快犯だ。 おもちゃや菓子にエリューションを仕込む。 それは爆発したり、革醒を促したり、どこまでも飛んでいく風船で子供を空に飛ばしてしまおうとしていたこともあった。 『僕らのすることなんか、ささやかなものだよ』 サイレントメモリで背景を探ろうとするリベリスタを嘲笑するように仕掛けられたおぞましい記憶に、何人ものリベリスタが嘔吐感と格闘している。 だから、皮肉も込めて、識別名は『ささやかな悪意』に決定した。 「ハロインに紛れて爆発する飴を配る悪意なんて、ぜんぜんささやかなんかじゃないぞっ! 何がしたいんだ……『ささやかな悪意』ってのはっ!」 『ヌエぐるみ』滝沢 美虎(BNE003973)の衣装はこっている。獅子は虎、おなかは狸で尻尾が蛇。 二つ名通りの『ヌエぐるみ』だ。 おなかのお菓子がはみ出したポッケが何かを想起させるが、狸である。 「遊んでるんだよ」 図らずもずっと関わりあっている『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)は、パンク風味のピーターパンだ。 「もしくは退屈しのぎかな」 冗談ととるには、アウラールは真顔だ。 いつまでも子供でいるには、ボトム・チャンネルは辛辣すぎる。 「今回は、去年の意趣返しって所かな」 スクール水着の『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は顔をお面で覆う。 再三、『ささやかな悪意』の邪魔をしてきた虎美は顔が割れているだろう。 いや、去年もそんな格好だった。バレバレだ。 「去年は逃げられたけど、今年は逃がしてやらないんだからっ。超真面目にいくよっ!」 頭から脳内嫁的兄の存在が消え失せている。 甘える余地を断ち、自らを追い込んでいる。 虎美は、アークで一番ヤンデレブラコンとして知られているが、それ以上に、一遍に何度も弾丸を叩き込んでくる二丁拳銃使いとしても知られているのだ。 「元を断たないとどうにもならないけど、どうにもできないのがもどかしい。どうするにせよ、被害を拡大されたらたまったものじゃない」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の衣装はジャック・オ・ランタン。 機械部分が露出する首から上を隠しつつ、不意に光っても不自然ではなく、マントで装備隠せる、非常に合理的な衣装だ。 しゃべらないと誰だかわからないのが玉に瑕だが。 ● 会場でも目立つ存在。 人の波にまぎれて、包囲するようにリベリスタは進む。 近づくまでの間に準備を……。 と思い、それぞれの力を活性化させようとした矢先。 「ヤッホー、リベリスタ。詠唱なんか始めちゃったらバレバレ。ハロウィン会場からみんなを追い出そうなんてあんまりじゃない?」 妖精が軽やかにステップを踏む。 手に持っているのは不釣合いなほど大きな剣。 「残念だね。乱痴気騒ぎの楽しさがわからないなんて。仕事しすぎなんじゃない?」 王子様が華麗にトンボを切る。 曲芸と思われているのか、周りから大きな拍手が飛んでくる。 七花の詠唱は終わらない。 大規模な術だ。 いかに魔術師として修行を積もうと、それ専門の技能を持たなくては端折ることは出来ない。 「たまには、はじけるといいんじゃないかな!」 腹の底から。 チャイナ服からほとばしる神威の光。 その真白い闇を切り裂くようにかぼちゃのみこしが近づいてくる。 今まで見えなかった細かいところが、見えてくる。 幻視は、一般人の目はごまかせても、革醒者の目はごまかせない。 だから、超幻視ではなく、あえて幻視だ。 オレンジ色のお化けかぼちゃが、キャンディ・バーのようにラッピングされた担ぎ棒にくくりつけられた子どもみこし。 中にパンプキンヌガーと卵がたっぷり詰められたそれをはしゃぎながら小さなピエロの集団は、一般人からみたら非常に微笑ましいものだろう。 革醒者の目には、太鼓腹の成れの果てにしか見えない。 たっぷりと肥え太った男の首を切り取り、腕を切り取り、足を切り取り。 中をくりぬき、血抜きをし、腹踊りよろしく腹に目と鼻と口を書き、お化けかぼちゃのように仕立て上げた。 肉の塊。 リベリスタの五感に訴えかけてこないということは、防腐処理と防臭処理は完璧なのだろう。 中には、かわいらしい色をしたハトロン紙が何枚にも重ねられ、配るパンプキンヌガーには血の一滴もつかないように飾られたオブジェ。 あえて、一般人の目をごまかして、公衆の面前に死体をさらして喜ぶ悪趣味。 いや、そもそもそれを担いでいる子供たちだって死体なのだ。 動くか、動かないか。 エリューションか、そうでないかの違いしかない。 気がつかない一般人をみて、含み笑いするいたずら。 気がついて顔色を変える革醒者を指差して笑ういたずら。 よくしてくれなかったから、ひどい目にあわせたぞ。 「やれやれ」 いつもの着崩した着物姿はそのままでも十分ハロウィンの扮装として機能する。 『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)は、子供のいたずらに辟易した母親のような声を出した。 「何とも芸の無い真似をしよる。妾達で遊ぼうとするのはいいが、たまには違う趣向も凝らして欲しいものじゃ」 その一言で、肉で出来たかぼちゃは、つまらないものに相対化された。 言葉で世界を構築しなおす魔術師たる者、相手のすることに飲まれてはいけない。 逆に飲み込み、噛み砕き、取るに足りないゴミにかえるのが第一歩だ。 「まぁ良い。遊んでやる」 視線が、戦闘官僚に注がれる。 大人っぽいせいで忘れられがちだが、実はミリィは怖がりだ。 戦えるのは、みんながいるから。 今も、みながミリィが口火を切るのを待っている。 「トリックオアトリート。―――おいで、小さなパレードさん達。私が貴方達の悪戯を受け止めてあげる!」 下から突き上げる言葉の拳が、パレード達の腐った血管に怒りという血を流す。 「むかつく!」 「あの子嫌い!」 見開かれた瞳孔は動かない。 口に笑いを貼り付けた子供のゾンビが哄笑を上げる。 「やっつける!」 ミリィにつられたパレードは三人。 「Trick or Treat! ちょっと遊ぼうじゃないか」 王子様の前に立ちはだかる戦国武将な義衛郎。 「経験則からして、バラバラに逃げるのを警戒してたのよ」 ミリィの挑発を免れた妖精の前に、彩歌。 更に、アウラールが立ちふさがる。 リベリスタは、後生大事にみこしを担いだままのパレードの脇を通り過ぎ、チャイナ服の癒し手に殺到しようとする。 まずはあれから倒すのだ。 虎美の二丁拳銃が火を噴き、吐き出された銃弾が流星と化す。 ビスビスと音を立ててピエロの装束に穴が開く。 「ピエロ達! おみこしだ!」 王子は、ピエロ達をけしかける。 歓声を上げながら、パレードとみこしはくるくる回る。 担ぎ棒を上下させながら、 追突してくるおみこしの中から転げ落ちる卵。 黄色い風船がペイントしてある。 砕けて落ちる腐敗臭。 リベリスタの上に降り注ぐ不快感。 腐った卵? いや、これは。 「硫黄か!?」 風船の黄色の模様は硫黄が塗ってあるのだ。 よく見れば、中も黄色い硫黄の――いや、おそらくそれに似せたろくでもないアーティファクトの産物――塊だ。 ゼルマは顔をゆがめる。 戦闘終了後、探そうと思っていた。 黄色い風船模様の何か、あるいはそのものを。 (妾は間違っておった) ゼルマは、直近の事件で見たヴィジョンを思い返す。 (硫黄の匂い。 数え切れない黄色い風船が、青い空を埋め尽くす。 爆発爆発爆発爆発――) 「奴らの手がかりを追っているつもりじゃったが、前回の事でようやく気づいた」 馬鹿笑いする子供の哄笑。 幻覚だ。おそらくはカスパール。 「これは奴らから、わざと送られてきたヒントじゃ」 僕たち、これからいたずらするぞ。 止められるものなら、止めてごらん。 「全く、馬鹿にされたものじゃな」 自嘲している暇もあらばこそ。 不快だ、卵の腐ったにおいが不快だ。 きゃっきゃと笑う子供たちに腹が立つ。 リベリスタにまんべく撒かれた混乱の渦。 それを切り裂く、幾千条の気糸。 空気を塗り替える、柔らかな凶事払いの光。 「効かないわ」 彩歌の聡明さは揺るぎない。 「皆、頑張れ! この子達のふざけたメイクを落として、早くあるべき姿に戻してやろう」 絶対者であるアウラールには通じない。 白い闇も、臭いも、不快感も。 そんな子供のいたずらでは、アウラールの動きを妨げることは出来ない。 「例え物言わぬ死体でも、こんな風に利用され続けるよりはずっとましだろう」 誰かの盾になるために、怒りに任せて叩き潰される為に立ってるよりは、死体の方がましだ。 「人間は玩具じゃないんだ!」 アウラールの叫びに、パレードは声を上げて笑う。 「じゃあ、俺達は人間じゃないんだ?」 「人間じゃなくて、死体だよー」 きゃっきゃと笑うパレードを見て、あははと笑う、三人のライナス。 「もっと楽しむといいよ、ピエロ達」 「僕らも、まだ踊り足りない」 「最後の最後まで、楽しく踊り続けるの。あたしたちには時間がない」 去年は二人に逃げられた。 パレードの壁を破れなかった。 しかし、リベリスタは成長した。 恐ろしい勢いで進化を遂げる。 彼女はこう言っていたではないか。 『今年も阻止する』 と。 いつの間にか、詠唱は終わっていた。 「お待たせしました」 その場にいた革醒者は、自分達を取り囲む空気が異質なものに変わっているのを感じた。 一般人たちは自分たちがなぜ移動を始めたか意識してはいないだろう。 七花を中心とした半径50メートルは七花の領域だ。 七花と同等かそれを上まわる魔術の心得を持たない限り、出入りは許されない。 らいなすたちは、とじこめられてしまった! ● チャイナ服に叩き込まれる打刀「鮪斬」。 義衛郎の獲物は包丁ではない。打刀だ。 王子様の一瞬の隙をつき、義衛郎の体が宙を舞い、次の瞬間には元いた場所に降り立っている。 ライナスたちはきょろきょろと視線をさまよわせているが、陣地の抜け道は彼らには見つけられない。 時間制約のくびきから解き放たれたリベリスタによる万聖節の再殺は、しめやかに執り行われた。 回復請願詠唱を始めるチャイナ服に向けて突進してくる美虎。 その前に立ちふさがるパレードのピエロ。 (みんな巻き込んで数減らす……っ!) 「とらぁ………」 深く息を吸う。深く息を吐く。 手足に雷をまとい、一気に放散するのが真骨頂。 ピエロも、チャイナ服も、生者も、死者も。 皆まとめて。 「じぇのさーいどっ!!」 雷光が空間を檻のように取り囲む。 パレードの一人が膝から崩れ落ちた。 地面に付いた衝撃で、黒焦げの膝から崩れてぐずぐずとそこにわだかまる。 束の間、美虎の眉がよる。 それでも。 「うりゃりゃーーっ! 次はどいつだーーっ!!」 美虎は声を張り上げる。 「このぉ……何してくれんのよ……」 チャイナ服が毒づく。 腰からぶら下げられたぬいぐるみの下げ緒が焼け焦げて、地面に落ちた。 「あ……」 美虎の方が速かった。 「飛んでけーーっ!!」 覇界闘士の一撃でぬいぐるみは、ばらばらに千切れながら飛んでいく。 「きゃああああああっ!?」 悲鳴が美虎の耳をつんざく。 チャイナ服の白目が真っ黒に染まっている。 瞳孔は金色に。 口は、音を立てて横に裂けた。 チャイナ服が、膨れ上がった筋肉で引き裂かれる。 ノーフェイスは、化け物だ。 泡を吹く喉の唸りが詠唱。 傷は急速に癒えていく。 逃がさないということは、向こうからの攻撃を受けるということ。 どちらかが殺しつくされるまで、戦いは終わらない。 鉄火と拳と魔法で以って、恩寵なき革醒の息の根を止めよう。 ● 「おまえなんか、おまえなんかっ!」 怒りを買っているから当たり前なのだ。 自分と同じくらいの年頃の子に囲まれて何度も何度も引っかかれる、髪を引っ張られる、噛み付かれる。 ミリィの技には、隙を与えることはあっても、敵を傷つける力はない。 まずは、逃げようとするライナスから。 みんなで決めたのだから、全うしなくてはならない。 視界の端に化け物に変わったチャイナ服が倒されたのが見える。 後二人。 それまで、この場をもたせなくちゃ。 もうパレードはおみこしを維持できない。 だから、この目の前のパレードをひきつけておけば、みんながライナスを倒しやすい。 「んっ、もう、もうすぐ死んじゃうんだから、何したっていいでしょお!?」 巨大な剣が振り回される。 触れる風で避ける皮膚。 自分を守るパレードさえ巻き込んで、妖精は血を求める。 「殴らせろよ、殴らせろよ。世界は等価交換なんだろ!? だったら、僕が今まで殴られてきた分、殴らせてくれたっていいだろっ!?」 王子様は、怒りの雷撃を手足にまとわりつかせて、駄々っ子のように暴れて回る。 ノーフェイスは、己の欲望だけを見つめる。それを核にして肥大していく。 ゼルマの唇に乗る詠唱が、魔法の矢から回復請願詠唱に切り替わる。 ライナスをかばうパレードの数が減る。 切り刻まれ、蜂の巣のごとく穿たれ、気糸で貫かれ。 逃げられなくなった時点で、命運は決まっていた。 恩寵なき革醒者よ。 世界とは理不尽なほど不公平なものなのだ。 「――おまたせ」 三体のパレードを同時に刺し貫い手、普通の死体に変えた彩歌が、それまで身を守ることもできずに挑発し続けたミリィに声を掛ける。 「はい」 ぐしゃぐしゃにもつれた血まみれの髪。 怒鳴りすぎのがらがら声で、ミリィはぽつんと返事した。 ● 陣地があるうちに、地面に落ちたヌガーを拾ってしまおうと、リベリスタは地面に這う。 踏み潰されたのを回収するのは難儀すぎる。 去年、義衛郎の机の上にも、爆発するので絶対食べてください。と、このお菓子が置かれていた。 「……面倒だなあ」 これ、拾って帰ったら、また役所で配られるんだろうなぁ。 「さあ、拾い終わったら、会場に散って、このパイとヌガーを交換してもらうのじゃ。ヌガーに問題があったと言ってな」 リベリスタの手の上にどさっと交換用の一口パイが載せられる。 すでに去年の教訓から、別働班がヌガー交換のため、街中を走り回っている。 「後は、手がかり回収じゃ。片っ端から行くぞ」 虎美は、歯を食いしばりお化けかぼちゃに手を伸ばす。 物品からの記憶読み取り、それを念写。 人体損壊、死体加工。 サイレントメモリは、「物品」の記憶を読むものなのだ。 だから、読み取れるのもみこしの記憶だけだ。 拙いイメージを焼き付けても、ほとんどは使い物にはならない。 喉元までこみ上げてくる何かを飲み下す。 のどの灼熱感は、パンプキンヌガーがもたらすそれとよく似ている。 何か得るものはないか。 これ以上の犠牲を出さないために、リベリスタは手がかりを探す。 いくらパレードを倒しても。 いくら楽団を倒しても。 いくらハッグを倒しても。 今またライナスを倒しても。 カスパールとメアリは痛くもかゆくもないのだ。 いくらでも補充できるのだから! 余裕ぶっているといい。 リベリスタの執念が、必ずその尻尾をつかむ。 「あーもー、どんだけアメちゃん撒いてるのさー!」 ぶつくさ言いながらも、美虎はぽいっとパンプキンヌガーを口の中に放り込んだ。 「あ……っ」 かつて食べたことがあるリベリスタから、思わず知らず声が漏れる。 「ん! 甘ーいっ!」 かぼちゃのほっこりとした甘味、ヌガー特有の歯に粘りつく食感。 おいしいけど、すごく濃い。 ちょっと舌を滑らせれば、喉に詰まってしまいそうだ。 子供とか年寄りは危ない。 おいしいという一点で、この菓子に含まれている悪意が巧みにごまかされている。 摘み上げるパンプキンヌガー。 「陽気なパレードは、まだ終わらない……」 ミリィは声を振り絞る。 大嫌いと笑うパレードの顔が、まぶたに焼き付いていた。 「悪意の連鎖に終止符を」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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