●都内某所『オフィス・サウザント』 「……ええ、まぁ、そういう訳で……」 『景観を乱す前衛的な建物の無くなった』外の風景を何となく眺めながら千堂遼一は電話口の相手に今一つ歯切れの良くない受け答えを繰り返していた。 「はぁ、まぁ、その。お元気ではいらっしゃるようですが……」 受話器の向こう側から響いてくる重苦しく厳しい言葉の数々に些かの苦笑いを浮かべた彼は自身が承った『特別な仕事』にちらりと思いを馳せてから深い溜息を吐き出していた。 「……多少、元気があり過ぎると言うか…… 言葉を選ばないなら無鉄砲な所があると言うか…… 何です? そこが可愛い所だろう? はぁ、まぁ…… 確かにそれをバランス良くフォローするのが僕の仕事なんですけれども」 孫とは『目に入れても痛くない程可愛いもの』とは良く言ったものである。 日頃、如何なる行動においても理を求め、冷徹な判断力を揺るがせる事は無い通話相手が全く話の通じない『唯の好々爺』になっている辺りはそれを実感してやまない彼である。 (……まぁ、軽い気持ちで仕事を請けた事を後悔する程度にはね) 内心だけで肩を竦め、何とか通話を切り上げた千堂は革張りの椅子に腰掛けて思い切りロッキングを傾けた。ぼんやりと天井を眺めて「どうしたものか」と思案する彼の耳にけたたましく廊下を駆けてくる忙しない足音が飛び込んできていた。 (三、二、一……) そのカウントダウンと、 「せんどー!」 オフィスのドアが乱暴に開け放たれたタイミングは全く同時だった。 「どうしました? 壱子お嬢様」 「その名であたしを呼ぶなですぅ! あたしは謎の美少女怪盗なのですぅ!」 「……どうしました? 怪盗ストロベリー」 「あたしは最強華麗な美少女怪盗なのです」 「そーですね」 「えらいおじいちゃまがそう言ったので間違いないのですぅ」 「……そーですね」 「ですが、何故かりべれすたになめられたり、チンピラにいじめられたりしたのです」 「……………」 「あたしは最強なのです。なので、これは唯の仮定なのです。 ですが、実はあたしは馬鹿にされているのではないのかとか思ったのです」 「……つまり?」 「あたしのつよさを思い知らせてやるのです。おともするです。せんどー!」 「あぁ……」 千堂遼一は燃え上がる少女を前に大層嫌そうな声を発していた…… ●バランスのいい提案 「えー、ちょっと珍しい仕事が来ましたよ」 『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)の切り出した話はリベリスタ達にとっても寝耳に水の内容だった。彼女が仕事の話をリベリスタに伝えるのは何時もと同じではあったが…… 「仕事を提案したのがですね、アークじゃなくてフィクサードなんですね」 「……は?」 「より厳密に言うならフィクサードが話を提案してきた、と。皆さんも良くご存知の――『恐山』のエージェント・千堂遼一様がですね。『ちょっとした仕事にアークの力を借りたい』と」 「……何だ、それ」 千堂遼一は食えない男である。フィクサードの中ではこのアシュレイと並んで取り分けアークには『友好的』な部類の人間ではあるがその本質が『悪』に属するのは間違いない。『相模の蝮』事件以来、幾度と無くアーク側にコンタクトを試みてきている彼は確かに『取引相手』としての実績は持っているのだが…… 「悪事の片棒なんて担がないぞ」 「まー、どちらかと言えばアークにも得な話なんじゃないですかねぇ」 「……どんな内容だよ」 「何でも、遼一様とあともう一人と一緒に『裏野部』のフィクサードをやっつけて欲しい……との事で。『恐山』の利益とバッティングする悪事を企んでいる連中を懲らしめにいきたいみたいですね」 「……自分の兵隊を何故使わないんだ?」 「政治的な理由、だそうです。恐山は直接対決を好まない派閥ですからね。 あんまり荒事を表沙汰にしたくはない……みたいで。 千堂様も覆面姿で参戦するとか何とか余談ですけどね。 まぁ、それもさる事ながら重要なのはもう一つの理由みたいです」 「もう一つの理由?」 首を傾げたリベリスタにアシュレイは説明を続けた。 「何でも、重要なのは連れの意向らしく。 その方が『自分の実力を見せつけるのですぅ』と聞かないようで。 千堂様の要求は『裏野部の部隊を攻撃する事』とその『連れの方を極力無傷済ませ、いい気持ちにさせて終わらせる事』。見返りは『恐山』で企図されている『アークの困りそうな作戦を二つ止める事』だそうです。まぁ、元々相手は『裏野部』ですからね。沙織様も『いいんじゃねぇの』の二つ返事だったそうですが」 「……アイツは接待でも命じられてるのか」 「どちらかと言えばお守り、ですかねぇ」 「……気になるいい方をするな」 「皆さんも知っている相手ですからね。連れの方」 「……もしかして」 「怪盗ストロベリー」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月18日(日)23:28 |
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■メイン参加者 11人■ | |||||
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●それ行け! 怪盗ストロベリーご一行様I 世の中には実に多くの理不尽が転がっている。 それは時に道で躓くちょっとした不運だったり、気が難しく気の短い上司であったり。 兎にも角にも努力やら何やらでどうにかならない事は世の中に幾らでもあるのである。転がっているのである。 運命のあやがそれを望めば実にあっさりと、拍子抜けする位にあっさりと―― 「確かに志願した。私は任務に志願した。志願したのは確かなのだが――」 ――こめかみに指を当て、目を閉じて三回それを繰り返したヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)の表情はまさにこの世界の作りを実に端的に表しているかのようである。 「――どうしてこうなった!?」 冷静沈着に凛とした元・名家の騎士は普段の様には不似合いに実に面白い反応を見せていた。 尤も外見から受ける印象よりは随分抜けた所のあるヒルデガルドの場合、ここに吸引されたのは運命なのかも知れないが…… ともあれ、彼女の頭痛が『今日、彼女が受けてしまった仕事』に起因するのは確かである。 「利害の一致は事実だけどさ。接待ゴルフみたいなもの……なのかもね。 ああ、知ってる? 日本のビジネスマンは忍耐強く修行めいた時間を過ごすものなのさ」 ヒルデガルドに取り成すように言った『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)がちらりと視線を投げたその先には―― 「ふっふっふ、やっとあたしのつよさがわかったですか! あたしのためにあつまってくれたりべれすたしょくん! そしてせんどー! おまえらはみんなあたしについてくるといいのです!」 ――露骨にひらがなの多い、見た顔が小さな胸をふんぞり返らせていた。 「わかっているですか、せんどー! そしてりべれすた!」 『怪盗』ストロベリー・キューティ・ベリーズ(nBNE000602)とそのお供、覆面を被ったバランスマンこと千堂遼一である。 「はい。得意種目は平均台、阿倍零児です。今日のお仕事は恐山系の怪盗ストロベリーさんをよいしょす……る…… ふぉおおお! 千堂さんがいるじゃないですか! 宜しくお願いします! 千堂さん!」 「せんどー!」 「えーと、ストロベリーさん。あと阿部君? 出来れば僕の事はバランスマンって呼んで欲しいんだけどね」 「はい! バランスマンさん!」 名が体を表し、千堂に好意的な『Average』阿倍・零児(BNE003332)が素直に大きな声で頷いた。 「ながいのですぅ!」 「あはー、相変わらず緩ーい♪」 「やあさいきょうの怪盗イチゴベリー! はじめましてになるな! あたしは言うまでもなくアークさいきょうのひよこさんだよ! よろしくね。 えーっときみとバランス芸人をぶっ飛ばして、フィクサードもぶっ飛ばせばいいんだっけ? あれどっちもフィクサードか。やることが減ったぞ! 超余裕だよ!」 「さいきょうはあたしだけで十分なのですぅ!」 「ふっ、イチゴベリー君はまだ世界を知らないと見えるな!」 やはり理不尽なままのストロベリーに『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が相手程にも緩い調子で言い、『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が争いを同レベル同士で発生させれば……嗚呼、ヒルデガルドが頭痛を禁じ得ぬ理由は最早言うに及ぶまい。 「彼女が恐山の面白枠って最近まで知りませんでしたよ。千堂様も大変ですね」 「……兎に角、今日は頼むぜ。僕だってこんな仕事したくないんだが」 「ま、善処はしますよ」 ストロベリーに聞こえないようにトーンを落とした『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が千堂の言葉に少し同情したように肩を竦めた。彼女に言わせれば『面白』の面倒を見るのは自分も慣れている――といった所なのかも知れない。但しこのモニカは『信頼出来ない語り部』であり、その『相手』に言わせれば全く事実はひっくり返るのがポイントである。 自称バランスマンがアークにコンタクトを取ってきたのは暫く前の出来事だった。『謀略の恐山』と呼ばれる主流七派きっての策謀家である恐山斎翁の信頼の厚い『エージェント千堂』――大物フィクサードからのメッセージはアーク本部に一瞬緊張を走らせたのだが、現在進行形で進むこのクソくだらねー風景を見れば一目瞭然に分かる通り今回に限っては余りにもどうでもいい話だったのは言うまでもない。 「ってもまあー利益が出るならそりゃもー大いに仕事だよねー。 僕ちゃんの人生に潤いと平穏を巡らせる為にも。今日も楽しいお仕事お仕事ー★」 「クソ、他人事だな。恨むぜ」 楽し気な甚内に千堂がブツブツと呟いた。 そもそもがこの『怪盗』ストロベリーとはアークとも幾らかの面識交流のあるフィクサードなのだが、頭の緩さに定評のある彼女は大抵の場合無害で、大抵の場合放置していても問題の無い人物なのである。しかし人物の経歴とは中々分からないもので、このストロベリーは実は千堂を顎で使える程の『生まれ』をしていたらしい、という新たな事実が判明したという訳だ。 どうにも自身の実力というものを鑑みない彼女は口にしている通り『自分を最強だと思い込んでいる』。当人曰く「えらいおじいちゃまが言うのだからまちがいなのですぅ」との事だが、そのおじいちゃまの目が孫可愛さの余り曇りまくり、節穴を極めまくっているのは余りに確定的に明らかであった。 かくて千堂が請け負ったのは『ストロベリーを満足させる』というしょうもない仕事となった。 ストロベリーは「りべれすたにあたしのつよさをおしえるですぅ」と言い出し、千堂は私兵を使う事で話を大事にするのを嫌った。彼は彼女の我侭を叶えるついでに『恐山の邪魔になる』裏野部のフィクサードをターゲットにする事を思いつき、アークに共同作戦を提案、代わりに恐山の謀略の二つを未然に二つ止める事を約束したのだ。 従ってアークの今日の仕事はストロベリーと素性を隠す(笑)千堂――バランスマンと共に裏野部のフィクサードを蹴散らす事。 そして、可能な限りストロベリーを満足させながら……彼女を護衛するという実に接待めいた内容になっていた。 「ご老人も普段は凄い人なんだが……」 「心中お察しします。私の義兄も普段は如何にも大企業の総帥然としていますが(以下彼の名誉の為に省略)」 財界の著名人の人に言えないアレでソレの方はさて置いて。置いてね! 「兎に角、大丈夫なのですぅ! しぇんどう! マスクかぶったしぇんどうも素敵なのですぅ……わたしがしぇんどうの仕事をクリアするのですぅ! 皆様! 絶対に! 壱子様が最強だと見せつけましょ~! えいえいお~!」 仕事内容がどれだけくだらなかったとしても、この『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)のように理由があれば別である。 (しぇんどう! しぇんどう! しぇんどう!!!) 大きな瞳をキラキラと輝かせ、傍らの彼の横顔を見上げるロッテは実に実に判り易い人物であった。 何処と無く間抜けなマスク姿も『素敵』と言って憚らない辺りはあばたもえくぼも実に効果的に効いている。 「今日は壱子にいいところを見せればいいのだな! いや、違うな。壱子がいいところを見せれるように取り計らうのだな! うむ、天才的に取り計らうのだ! 陸駆もいるし、ばっちりなのだ!」 「うむ。恐山壱子。僕もご祖母堂は好きだ。尊敬するリベリスタなのだ。 お前が御尊祖父を敬愛する気持ちは分かるぞ。だから大船に乗った気でいるといい。 御尊祖父のように僕たちを指揮させてやろう。僕は天才ゆえ貴様の指揮には十全で応える事を約束しよう」 「壱子言うなです」 「それより恐山とか言うなよ。皆気を使って言わないんだから」 「そうか。分かったぞ、壱子!」 「うむ。恐山程の大物の孫娘なのだ。才能はあるに違いないからな」 何事もやる気たっぷり、人の話を余り聞いていないと言えばこの二人のてんさい(笑)――『おてんばクラウン』アリア・オブ・バッテンベルグ(BNE003918)と『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)も同じである。類は友を呼ぶと言えばいいのか、何と言えばいいのか。どうしてこんなのばっかり集まってきたし、と言わざるを得ない面々は結局の所、喧々囂々和気藹々と戦いの前の時間を楽しんでいた。 「いちご欲しいです?」 「よこすですぅ!」 「あげな……いえ、どうぞです。ストロベリーさんの為に持ってきたです」 むぅ、と複雑な顔をした『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)がやかましいストロベリーに旬じゃないので高い苺を与えている。 「これは後でさおりんに苺を貰わないといけないレベル……」 「しゅしょーなこころがけなのですぅ!」 「そあらさんが二人?」 「あたしとりべれすたを一緒にするなですぅ!」 零児の言葉に苺をもぐもぐとやるストロベリーが抗議の声を上げた。 「……ストロベリーが二人?」 「あたしには双子も妹も親戚に頭が弱い子もいないのです」 首を傾げたヒルデガルドに今度は苺をもぐもぐとやるそあらが抗議の声を上げている。 「似ている人は世の中に三人居るって言うけどね…… お前は一応、組織として事を構える訳にはいかないんだろ? だったら、バランスマンはアークのリベリスタ、って事にしといた方が都合がいいんじゃないかな」 何時の間にか自身もマスクを被った快が「この通り、力の二号だ」と厚い胸板を張った。 少女達の有様に呆れたような顔をしていた千堂はそんな彼に興味深そうな視線を送る。 「それもいいかもね」 フィクサードらしくないと言えばその通りだが、この千堂はどうもアークに好意的な所がある。 上から下まで眺めても、快と千堂――元々似ている二人はこうして見ると殆ど区別はつかない。 「まぁ、君達はこういう連中だよ」 馬鹿にしている風でも無く、かといって完全に肯定している風でも無い。 しかし、とても呉越同舟とは思えない風景に肩を竦めたフィクサードは機嫌良さそうに笑っていた。 ●それ行け! 怪盗ストロベリーご一行様II 埠頭倉庫の扉をやや乱暴に開け放ち、彼女は何時もと大して変わらない――実に大仰な見得を切る! 「あたしは怪盗ストロベリー! 世界でさいじょーでさいきょーでかれーなのです!」 りべれすた共を従えて(笑)まさに気分は最高潮。ストロベリーの顔は全くもって(`・ω・´)である。 「ようくちばしのないけものども! 千どげふん、バランスマンとストロベリーと愉快な仲間達がきみたちをボコるぞ! 理由はよくしらないが!」 「怪盗ストロベリーご一行様だ! 神妙に縛に付け!」 どかどかと勢い良く騒がしくストロベリー以下十人のリベリスタと一バランスマンがフィクサード・針山藤次の『やさ』に踏み込んだのはそれから暫く経っての出来事だった。 「おあ!? 何だテメー等は!」 腐っても天下の裏野部の構成員である。いきなり溜まり場に訳の分からない集団が吶喊してくる等、藤次達にとっては寝耳に水の出来事だったのだろう。苺とバランスとリベリスタ達を見る彼等十六人は敵襲かどうかも一瞬把握しかねて訝しむばかりであった。 「何だ、お前等は! 芸人か!?」 集約された藤次の一言にヒルデガルドが小さく呻いた。 「……生まれて初めて裏野部から正論を聞いてしまった……」 ストロベリーは言うに及ばず、裏野部一二三の台詞を華麗にパク……インスパイアする比翼子、快にいたっては語るに落ちている。怪盗が逮捕するとか何処にも怪盗の自覚は無く、贔屓目に考えなくても普通逆である。 「あー、いや。このシナリオ多くを真面目に考える程にバランスが悪い気がするし、敵って事で手を打たないか、針山さん」 覆面の千堂の台詞はあんまりと言えばあんまりな一言だったが背に腹は代えられなかった。 史上稀に見る程にどうでもいいアークと裏野部の邂逅は盛り上がりという面で早くも致命的な傷を負っていた。 「……じゃあ、一応、お前等は俺達の敵って事で解決するから」 「最初強く当たって後は流れでお願いします」 何故か丁寧に何処かで聞いたような説明を繰り広げる零児。 数度咳払いをした藤次と一行はすぅと深呼吸して―― 「何だお前等は!」 「あたしは怪盗ストロベリー! 世界でさいじょーでさいきょーでかれーなのです!」 「ようくちばしのないけものども! 千どげふん、バランスマンとストロベリーと愉快な仲間達がきみたちをボコるぞ! 理由はよくしらないが!」 「怪盗ストロベリーご一行様だ! 神妙に縛に付け!」 「……何なの、お前等は」 嗚呼、やっぱりダメだった。 ●それ行け! 怪盗ストロベリーご一行様III 駄目だろうと駄目じゃなかろうと戦わなければならないのは人の常である。 有史以来人類の歴史とは即ち闘争そのものであったのだ。如何なシリアスを飛ばそうとも今更無理だよ諦めろなんて声も聞こえてくるが、諦めたらそこで壱子はストロベリーなので、もうちょっとやみがんばゆ。 「よし、壱子! アリアはいつでもいいぞ! 指示を!」 「よし、りべれすたども! 敵に向かってずがーん!どっかーん! とやってしまうといいです!」 「アリア・オブ・バッテンベルグなのだ! バッテンベルグ家の代表としてお手合わせ願うのだ!」←指示とかあんま関係ない 「壱子って言うなです」 閑話休題――藤次一派とアジトに踏み込んだリベリスタ+αの戦いは済し崩しの内に始まっていた。 どちらが因縁をつけたのか分からないような始まりと状況であるのは確かだが、針山藤次は裏野部の構成員である。裏野部に所属しているという時点で何らかの罪に手を染めたかこれから染めるのだから問題は無い。きっとそうに違いない。今決めた。 「つまり、裏野部に人権とか無いから!」 「何だと!」 「テメー等、勝手に攻めて来て何て言い分だ!?」 正々堂々フィクサードに向かうアリア、飛び出して挑発を決めて怒りを一身に集める快に続き…… 「天才ファントムレイザー!!!」 前に出た陸駆の不可視の刃が広域に殲滅の斬撃空間を作り出した。 「痛ッ!?」 「快を巻き込んだ気もするが……僕は天才なので気のせいだったのだ。 僕の天才的なフルIQで計算したから間違いはない。間違いはない! 僕のIQは53万で……」 「痛いよ!?」 「……フツー仲間を巻き込むか!?」 明らかに統一感のない、明らかにおかしな集団の妙な動きに面食らったフィクサード陣営はそれなりに混乱していた。 「ブンブンブブブン♪ さー始めるぞー! 今夜は楽しい! パーリターイ★」 バイクに跨り歌い出す甚内。 「あー……そーそー 今回の一件!君達の生き死に関係ーないから!」 調子にノリノリの甚内。 「ってな訳でーストゥーベィーちゃん陣頭指揮宜しくおまっせー♪」 「う、ウインクめっちゃされてるのです……何も見えないのです……目があったら……やられる……」 バチバチと目配せを送る甚内。怯えるロッテ。 「助けて! しぇんどう!!!」 「僕はバランスマンだよ。ロッテちゃん。このバランスのいいサプリメントをおあがり、ロッテちゃん」 ……コメディだからこそ何の咎も無く許されよう空間は早々と恐ろしいまでのgdgd感を辺りに醸し出していた。 (あれだけ相談したからしょうりはかくじつなのです。りーだーはまんなかにいるです。 でもねらわれたらこわいのです。せんどーどうにかするです。ちらっ、ちらっ) 「じゃあ、ここは君に任せよう。バランスマン。やったね」 「……あー、僕バランスよい護衛するからね、今日はね」 「ストゥベィーちゃんかわいいねー」 何かを言いたげなストロベリーの視線と比翼子の要請に応える千堂、軽く笑う甚内。 一方、何とか反撃に出ようとするフィクサード達である。 「うおおおおおおおおお!」 裂帛の気合を従えて――面倒臭いから描写カット。 「ええええええええええええええッ!?」 これぞ、やみ奥義・ヤオフィクサード! ギャーギャーと騒がしい前衛達の後方では、 「いいですか、壱子様。合図を頂ければ私が一気にぶっ放しますので、一つお願いします」 「やっつけろですぅ!」 「はい、ではそのように」 『バカでも使えるハサミ』を自認するモニカが「よっこらせっと」大型の自動砲を敵に構えた。 ぶっちゃけ言ってしまえばストロベリーの指示はクソの役にも立たない自己満足に過ぎまいが、ことこのメイド大雑把に複数の対象を徹底的に破壊する事に関しては並々ならぬ自信と自負がありまくる。鉄の咆哮を吐き出しまくる彼女の九十七式自動砲(ハニーコムガトリング)は「いいから何とかしろ」系の命令と特別な親和性を発揮していた。 「ぬあああああああああ!?」 「ヒィ、お助けええええええええッ!? ――つまる所、『弾幕屋』のやる事は同じなのである。 「流石あたしの作戦なのですぅ! メイド、ほめてやるです。でかしたのですぅ!」 「はいはい、壱子様のお陰、壱子様の仕業」 「すごいのですぅ! さすが超ベリー! リーダーぱねえですぅ!」 片目のスコープ越しに奇声を上げるフィクサード達を眺めるモニカの表情は淡々としている。←でも結構感情豊か すかさず合の手を入れるロッテにいよいよストロベリーはふんぞり返る。 (うう、こんなに近くに千堂が……いつもよりもっと殺る気満々ロッテですぅ! カッコイイ所見せないと! 頑張れわたし!) 甚内から突き刺さる不穏な期待に浮かぶ冷や汗を拭いつつ、気を取り直したロッテが手近な敵をきっと見据えた。 「いっけぇ! いつもより張り切りプリンセス☆ピンポイントォ!」 「おー、やるねぇ」 「……えへへ、しぇんどう……」 「ラブコメしてんじゃね――ッ!」 悲痛な叫びが届かない。 実力を考えれば藤次及び藤次一派はひとかどのものもあっただろう。 しかし、彼等は出会ってしまった相手が悪かった。余りにも悪過ぎた。 「怪盗ストロベリーは話を聞くに調子に乗りやすい人。 対する裏野部フィクサードの針山もノリが良い方だとか。 つまり……この場は平均的にアッパーな空気が場を支配すると見ていましたが……」 零児の口にした推察はまさに正鵠を射抜く至言であった。 その場のノリという固有結界、お笑い苺空間は針山藤次というフィクサードを、裏野部のフィクサード達を完全に飲み込んでいた。 「いいぞ、さすが壱子なのだ! 素晴らしい指示で快く戦える!」 「当然なのですぅ!」 アリアの言う指示は、専門用語で放任とも言う。 「流石ですね、ストロベリーさん」 「何だかよくわからないですがほめられたのです。もっとほめろですぅ」 「……いや、本当にすごいと思いますよ。バランスマンさんの心の平均は心配ですけど……」 「おかしいだろ。こんなの絶対おかしいよ……」 零児の言う通りシリアスとギャグのバランスの悪いこの空間に見ればバランスマンは露骨にイライラしているではないか。 「はああああああ――ッ!」 辺りがどれだけアレであろうとソレであろうとヒルデガルドの戦いは変わらなかった。 藤次と部下目掛けて彼女は光のシャワーを撃ち出した。複数の精密射撃を達成するそれは彼女の得手。 防御姿勢を取りかけた敵さえ見事に射抜くまさに渾身の一撃だった。 「……やるな……!」 「わたくし自身は至極真面目に戦闘をする!」 「ああ……」 「どうしてこうなった!?」 「……ああ……」 ヒルデガルドとツッコミ疲れを見せる藤次の間に何か分かり合い空間が広がっているのがいとおかし。 「アリアは貴族で天才だからな!」 「裏野部は名前言いにくいから許せないのだ! うらのべかうらべのかごっちゃになるのだ! 行くぞ、天才ピンポイント! そして天才フラッシュバンなのだ! 今がチャンスなのだ、壱子!」 「ついにあたしの出番ですかぁ!」 アリアと陸駆の仲良し二人がチャンス(笑)を作り、ストロベリーを促した。 「真のつよさとはなにかおろかなりべれすたにみせつけてやるのですぅ! いちごもってるやつはまず、あたしによこせです。 あたしのためにいちごをもってきたやつはほめてやるです。 年下の二人はおねーさんが守ってやるです。 さいしゅーおうぎはそう簡単にはみせてやらないですぅ! でもそんなに見たいならみせてやるですぅ!」 「わー、きゃー、壱子様ステキー」 無表情棒読みで煽りを入れるモニカ。 「新技はトドメの場面で満を持して披露するものです。 私が露払いをして差し上げます。ここまでお膳立てしたんですから決めて下さいよ。必殺の――ヤバ。 必殺の何でしたっけ? 全然効果とか知らないんですけど、私」 「いちごマシンガンってなんです? まさかいちごをばら撒く危険な技ではないですよね? ばら撒くまではいいです。衝撃で潰れて食べれなくなるとか……ショックであたし立ち直れないです。 大事なのです。いちご。特にこの季節旬じゃないから高いのです! 技として使用して食べれなくなるとか本当にもぅ、本当にもぅ! そんな危険な技ではないか見極めてやるのです。 いちごを無駄にしないように! いちご好きなんだからきっとそんな事はないはず! あたし信じてるです。さおりん大好き!」 最後のワンフレーズが全く事態に無関係なのは言うに及ばない。 可愛らしく小首を傾げたモニカが、言いたい事全部主張したそあらが究極奥義(笑)を繰り出そうとするストロベリーの大仰なアクションを見守っている。 「ひっさつひっちゅー! 数で勝負ないちごだいさくせーん! ですぅぅ! いくです! ひっさつのいちごマシンガン!」 ストロベリーの珍妙なポーズから無数の苺(っぽい)弾丸が放たれる! 「うわああああああああ!」 「ええええええええええええええ!?」 「ヒョー!?」 7【いちごマシンガン】A・1・神遠『味敵全』 命+999、神攻-999、弱点、BS『苺』 射程範囲内の対象全てにいちごの弾丸を浴びせます。対象にいちごへの渇望を植え付け、でもあたしのだからあげないですぅ! 見慣れない、見てはいけない効果が――仕様のフォローを超えた世界がそこに広がっている。 「苺食べてえええええええええええええ!」 突然、藤次が叫び出した。 「僕にはビタミンが必要だ」 「ああ、今すぐ苺パフェが食べたいんだ」 突然、千堂が呟いた。快がおもむろに頷いた。 「甘くて酸っぱいのだ、天才的に考えて!」 「早く買いに行かないとなのだ!」 陸駆とアリアも変わらない。 「……まぁ、女の子は苺が大好きなものですしね」 アラフォーのメイドが頬を掻く。 要するにこの状況に一人だけきょとんとしているのは 「あれ? 皆どうしたです? いちごあげないですよ?」 何事も無かったかのように佇むそあらだけで……兎に角、その後もずっとgdgdだった! ●そんでもって感動のエンディング かくて虚しい戦いは終わった。 裏野部の割に悪辣さが足りなかった……と言うか、シナリオの都合上どうにも被害者にも見えた藤次は後味とか色々考えて結局殺されるまでは到らなかったが、戦いは紆余曲折の末にリベリスタ+α側の勝利となったのである。 「まぁ、あたしのうみよりもふかいこころにめんじて今回はゆるしてやったのですぅ」 調子に乗りに乗っていよいよふんぞり返る苺に顔を見合わせたリベリスタ達は苦笑いをした。 これにて仕事はおしまい。オーダーした千堂も「ふぅ」と溜息を吐いて漸く安堵した様子であった。 「最近、三高平に酒屋開いたんだけど。この後……これからどう?」 「……まー、呑まないとやってられない気分ではあるね」 相手が『微妙に敵』という部分をスコンと忘れ……或いは気にせずに労う快に千堂は疲れた調子で呟いた。 とは言え相手は相手であるし、状況は状況である。自覚が無いのは快のみならず、 「バランスマンちょーかっけーのだ! 僕も大きくなったらバランスマンになるのだ! 正体は誰なのだろう! 取り敢えずサインくれなのだ!」 「ああ! サインとは名案なのだ! さすが天才なのだ! アリアも! ほしい! サイン! バランスマンは正体を明かしてはいけない、謎のヒーローなのだ!」 天才タクトと面白貴族の方も全く同じかそれ以上である。 二人の場合、それに全く回りの話を聞いていないというオマケがつくのは言うまでもない。 「しぇんどう! しぇんどう!」 「なあに、ロッテちゃん」 「バランスマンのサインを……違う! わたしにはサインの代わりにお姫様抱っこでいいのですぅ! はい! はやくっ! 写真? わたしも撮って! 一緒に撮って!」 「はいはーい皆寄って寄ってー。バランスマンもいいけど、ストゥベィーちゃんの勇姿を称えて記念撮影しよーねー」 「あたしはなぞのびしょーじょ怪盗ですが、かわいくとるならゆるしてやるですぅ」 「ストゥベィーちゃん、『怪盗』は漢字で言えるんだね」 カメラを構えた甚内が緩い空気に小さく笑う。 「皆の好きな食べ物はー?」 『苺!』←さっきの後遺症 些か悪趣味な甚内は写真を恐山斎翁辺りに送りつけてやれれば……とも思っていたが、それは兎も角。 小さなシャッター音が切り取った風景は『リベリスタとフィクサードが案外仲良くやれる可能性』なのかも知れなかった。 「やれやれ、だ」 呆れたようなヒルデガルドがしかしそう嫌では無さそうに肩の力を抜いた。 「まぁ、たまにはこんなのも……」 こっそり尊敬する『バランス感覚の男』と轡を並べた零児も概ね満足そうである。 「いちごマシンガン……彼女、本当は天才かも知れないです」 「まぁ、血は争えない……といった所でしょうかね」 きゃいきゃいと騒ぐストロベリーを眺めながらモニカはそあらの言葉に相槌を打った。 (確かに彼女の資質は恐ろしい。とんだアホでも気が付けば魅せられる。まさに大物の器……?) 厳密に言うならばこのモニカが『結構アホを愛好する』という可能性自体は否めないものの、若年にして自身の技を編み出し、千堂程の男を何だかんだで従える……事実を見れば彼女の考えもあながち間違っているとは言い切れない。 「今日は、お疲れ様でした。壱子様」 ストロベリーに歩み寄ったモニカはそこまで言って一瞬だけ躊躇した。 躊躇はしたが、やがてその後を話し出す。 「……バロックナイツのような単騎無双ばかりが強さではないという事です。 こうした集団の中で実力を発揮できるのも強さの一種です。かくいう私もそういうタイプですしね」 モニカは自分自身「仮にもフィクサードに何を余計なアドバイスをしているのか」とやや自嘲していた。 しかし、ストロベリーは見ていて危なっかしく、危険な目に遭うのは望まない程度には好意の持てる『女の子』なのだ。 モニカはストロベリーが薄々持ち上げる自分や周囲に気付いていると考えていた。 何故ならこのシナリオのタイトルは『怪盗ストロベリーの憂鬱』である。 自身も含めての猿芝居、常識的に考えて気付かないアホは居ないからである。 「……信頼に足る仲間を得れば貴女は本当に強くなれ」 「あたしはさいきょうなのですよ?」 捻くれ屋の発した珍しい好意の台詞は他ならぬ『実は居てしまったアホ』によって遮られた。 「ぱろっくないちゅなんてあたしにかかればらくしょーなのですぅ」 「……」 絶句するモニカ。 そんなストロベリーを見て比翼子が微笑む。 「フッ……今度あった時にはあたしのうちゅうさいきょうのスキルをみせてやろう! まあそれほど先の話ではないだろうけどな!」 そう言えば比翼子は『ひよこデイブレイク(EX)』とか持ってたような。 (そして、私は……) 『幼女の毒舌メイド仕様(EX)』とか持っているじゃありませんか。 これは大物の条件には全然関係が無さそうだ! 「……やっぱり気のせいかも知れませんね」 ――溜息が夜の埠頭に解けて消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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