● なに? まったく、馬鹿な話をするものだ。 「キマイラでアークのリベリスタを打倒し得るか」だと? そんな質問に意味は無い。そんな馬鹿げたことを聞くものが私の部下とは嘆かわしい。そもそも今日の作戦は、アークを倒すことが目的ではない。 まぁ、良いだろう。作戦開始まで少々時間はある。それまでの時間を無為に過ごすことに意味は無い。暇つぶし程度の回答で良ければ、講義するとしよう。話半分に聞いておくと良い。 まず、エリューションとリベリスタの戦闘力について語る必要があるな。 強弱の話をするのなら、フィクサードとリベリスタを分けて考えることに意味は無い。信条の違いから便宜上区別しているが、両者の定義は「革醒しながら、フェイトという才能を得た人間」。基本的には同じものだ。この場では革醒者と呼んでおくか。 さて、それを踏まえた上で原則を語るなら、強力なのはエリューションだろう。崩界の影響による強制進化で得た力を、制限無しに使用するのだ。フェーズによる差はあるが、パワーやタフネスは並みの革醒者の比では無い。ものによっては高度な知性を「得てしまった」ものもいるだろう。 だが、それは必ずしも革醒者が劣ることを意味しない。 革醒者は自分で自分の能力を学び、鍛え、磨き上げる。それにより、自身の能力を完全にコントロールすることが出来、時にはエリューションの出力をも凌駕し得るのだ。中にはバロックナイツやクェーサーのような例外もある。一概には言えんだろう。 では、「キマイラでアークのリベリスタを打ち破れるのか」という話に戻ろうか。 なるほど、アークのリベリスタは運命の寵愛を受け、伝説を打ち破ったもの。いまなお、成長を続けており、革醒者としては極めて優秀と言えるだろう。『神の目』による情報収集能力も含め、油断できる相手でないのは間違いない。 そして、我らのキマイラだ。 これは今までのフィクサード、エリューション、アザーバイド、リベリスタといった軛を打ち破るものだ。エリューションは強大な力を持ちながら、それをコントロール出来ない。革醒者は力をコントロール出来る反面、突出した能力を得辛い。しかし、キマイラはその両者の利点を持つのだ。 もちろん、不安定なスキル、理性の喪失、ダウン現象、様々に問題はあったが、我ら『六道』はそれを乗り越えてきた。その結晶がアークなどに敗れるはずはない。 さて、そろそろ時間だ。 これ以上語ることに意味は無い。 今回用いるのは、捕えたフィクサードを利用したキマイラ。「本番」用の奴には劣るが、十分な成果を上げてくれるだろう。 さぁ、作戦開始だ。 ● 次第に冷え込んできた10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、『六道』のエリューション、『キマイラ』の討伐だ」 『キマイラ』、その言葉にざわつくリベリスタ達。 今年の頭位からちらほらと姿を見せるようになった、特殊なエリューションである。 主流七派の1つ、研究や鍛錬に命をかけるフィクサードが多い個人主義者の集団、『六道』。そして、『六道』首領の異母妹、『六道の兇姫』六道紫杏が関わっているのだという。 人為的な追加工程の上に成り立つ『研究の結果』である『キマイラ』は、多数の特徴を有し、幾度かアークを苦しめてきた。一時は鳴りを潜めていたのだが、最近になってまた観測され始めたのだという。 「ただ、今までの作戦と比べると、ちょっと違う印象を受けるな。何て言うか……『新しいオモチャが嬉しくってハシャいでいる子供』か? とりあえず、破壊活動を行っている、そんな印象を受けるんだ」 守生は端末を操作すると、スクリーンに地図を表示させる。そこには幾分か街の中心から離れた老人ホームが表示されている。 「今回の『キマイラ』が襲撃を仕掛けようとしているのは、この老人ホームだ。神秘とは何の関係も無いし、『六道』や他の組織の利害に関わるようなことも無い。ただ、ここを滅茶苦茶にするためだけに行動しようとしている」 元々悪い目つきをさらに吊り上げる守生。冷静を装ってはいるが、彼なりに怒りを感じているのだ。 そして、さらに端末を操作すると、『キマイラ』の姿が表示される。与える印象は「鴉の獣人」といった所だろうか。もっとも、ビーストハーフと違って、獣の特質は圧倒的に多いが。 何よりもリベリスタを驚かせたのは、そのフォルムだ。今までに現れていた『キマイラ』と比べて、洗練されたものになっている。これは明らかに完成度が上がっていることを感じさせた。 「これが今回の相手だ。どうやら、ナイトクリークの能力も持っているようだな。連続殺人鬼のフィクサードを利用したらしい。詳しい能力に関しては、資料を参考にしてくれ。他にもこいつに比べると戦闘力が低いのが一緒にいる。こっちはフィクサードの能力は持たないようだな。機動戦闘能力が高い連中だ。十分に気を付けてくれ」 そう言って資料を配布する守生。 「それと例によって、付近には六道のフィクサードが潜伏して、状況を監視している。向こうからちょっかいを出してくる様子は無いし、こっちから変に手出しする必要は無いだろう」 暴れること自体が目的である以上、リベリスタが『キマイラ』を迎え撃つなら、相手もまずはその戦闘を優先させてくるだろう。何も知らないでいる老人たちを守るには、必ず『キマイラ』を倒さなくてはいけない。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月12日(月)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「やはり、アークは来たか」 パリッとした導師服を着た「六道」の研究者は、E能力で戦場を捉える。 こうなる公算が高いのは、元より分かり切っていたこと。慌てるつもりなど無い。 「プランAの続行は無意味だ。プランBに変更する。準備をしておけ」 研究者は素早く部下に指示を飛ばすと、再び戦場に視線を戻す。 せっかくあの『アーク』がその実力の一端を見せてくれるのだ。神秘の探究者として、見過ごすわけには行かない。彼の目は既に状況を分析する研究者の眼差しだった。 ● 「では、皆さん油断なくいきましょう」 迫り来るキマイラを前に、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は仲間達に小さな翼を与える。 リベリスタ達の前に現れたキマイラ達は悠然とホバリングをしていた。飛行能力に対して、絶対の自信を持っている証拠である。こんな相手にわざわざ地の利をくれてやる必要は無い。 「今は老人ホームを守るためにも、ここは引けません」 リベリスタだから、キマイラと戦うというだけではない。医者としての彼女が、これから起きようとしていた事件を看過できないのだ。 「うん、そうだよねぇ」 凛子の言葉に『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は頷く。貧血でも起こしているかのようにフラフラと立ち、今にも倒れてしまいそうだ。そんな状態で、愛らしく指を口元に当ててしなを作る。 「老人ホームかぁ」 ふわっと浮き上がりながらシャルロッテは思う。今から自分が守ろうとしている建物は何のためにあるのかを。 老人の世話をするのに飽いた人々が作った、現代の姥捨て山なのか。 はたまた、幾多の出会いと別れを繰り返してきた老人達に与えられた、出会いの場の1つなのか。 どちらが正しいのか、幼い彼女には分からない。答えを出すものも人それぞれだろう。 「でも」 ふわっと浮かび上がると、シャルロッテは自分の手の甲へ、鏃を突き刺す。 「短いかもしれない命を、生きてる人達を犠牲にしちゃいけない」 彼女は自らの痛みすら武器にする闇の騎士。これで戦いの準備は万端だ。 そして、同じことを思っているのは、凛子やシャルロッテだけではない。 「胸糞が悪くなるとはこのことだ!」 怒りの声と共に、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)はキマイラ達に向かって、閃光弾を投げつける。その真っ直ぐな怒りは瞬く間に戦場を覆い尽くす。 怯むキマイラ達。 それを合図として、一斉にリベリスタ達はキマイラへと向かっていった。 「さて踊ろうか。か弱い少女が好みなのだろう?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はするりと、自分よりも巨大なキマイラの懐に入り込むと挑発的にクスリと笑う。 そこへ振り下ろされる鍵爪を避けると、軽く蹴りを入れて距離を取る。 「それとも、弄られて不能になったか? 『六道』を調子付かせるのは気に入らないが、結晶の証明に手を貸そう、無駄な努力のな。アークの方がよほど性質が悪いということを教えてやる」 ユーヌの言葉への怒りを炎と変えて返してくるキマイラ達。 そこへ横から小柄な影が飛び掛かる。 「ふぉぉぉ……どっさいっ!!」 気息を整え、呼気を溜め、気合と共に一気に叩きつける。 『キマイラスレイヤー』滝沢・美虎(BNE003973)だ。 称号もキマイラに向けて名乗り直し。 「……なんかやな感じだな」 衝撃でふらつく鴉型キマイラの様子を、両手を高く上げるムエタイの構えで伺いつつ、機嫌悪そうに呟く。 幼い美虎にだって、分かる話だ。 『神秘とは何の関係も無いし、「六道」や他の組織の利害に関わるようなことも無い』 フォーチュナの告げた情報。 それは、老人ホームを襲うのが目的だったのではなく、襲うことが目的でたまたまその場所が老人ホームだったということだ。そんなこと見過ごせるはずも無い。 「何の実験をしてるのかは知らないけど、やっつけてやるっ!」 ひゅっと息を吸い込むと、そのまま息もつかせぬ勢いで蹴りを繰り出していく。 その横でキマイラと戦う『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)も負けていない。 小柄な体と可憐な外見に合わないその武器の名前はアンタレス。 大型な柄と邪悪な外見を持つ、彼女の相棒だ。 それでをまるでナイフか何かのように、軽々と振り回す。 「情け無用! ここを通りたきゃ首の4つは置いてくんだねー」 一層スピードを上げたハルバードは鋭い衝撃波を生み出してキマイラを襲う。 キマイラが派手に血飛沫を上げる姿を見ると、大地にアンタレスを突き立て、岬は叫ぶ。 「どこにいるのか知らないけど、見てんだろ―? 期待以上に期待以下だったって見せつけてやろうぜ、アンタレス!」 少女達の気合は十分過ぎる程に十分。 キマイラという新たな脅威を前にしても一向に怯むことは無い。 負けじと鴉型のキマイラ達は体内に埋め込まれたアーティファクトを起動し、炎のエレメントを活性化。そんな彼女らに向かって、炎の弾丸を放つ。 派手な爆発と共に、轟っと炎が上がる。 「カァァァァァァ!」 そして、その爆炎に紛れるようにユーヌを狙う獣人キマイラ。素体となったフィクサードの性質を考えると、趣味と実益を充たしていると言えなくもない。 それぞれに強力な反撃を与え、溜飲を下げるキマイラ達。 しかし、そんな彼らの不意を狙って、炎の中からトランプが飛び出してくる。 いや、トランプではない。その縁が極限まで研ぎ澄まされた、鋭いナイフだ。 急な不意打ちを躱そうとするキマイラ。しかし、それはフェイント。 背後から伸び上がった影が、キマイラの頭を撃ち抜く。 「油断し過ぎだ」 短く呟くと、アーサー・レオンハート(BNE004077)は何かに注意を払いながら、追い撃ちを掛けるように「Last Eclipse」を投げつける。大きなダメージこそないが、急所を狙った攻撃。走る痛みに痛苦の呻きを漏らすキマイラ。 「あぁ、分かってるよ」 そんなキマイラの姿を確認した『STYLE ZERO』伊吹・マコト(BNE003900)は、誰かに向かって頷く。アーサーに対して言ったものではない。その声色は恋人に向けられているのかのように優しく、そして甘い。 スチャッと懐からヘビーボウガンを取り出すマコト。 そして、キマイラ達にその先端を向けると、マコトの生命力が矢の代わりに装填されていく。 「ありがとう、チャンスは逃さない」 マコトがボウガンの引き金を引くと、集まったエネルギーは暗黒の弾丸となってキマイラの中へと飛び出す。さらに、キマイラ達のど真ん中に届くと瘴気へと変じて広がって行く。 苦しむキマイラ。 そこへ炎の中を突っ切って『親不知』秋月・仁身(BNE004092)は姿を現わす。E能力の生んだ炎が燃え盛っているというのに、彼には一切の影響が見られない。 「炎対策はばっちりですよ、僕のコンセプトは特殊耐久型だそうので」 巧みに周りのリベリスタと距離を置きつつ、仁身は矢を番える。 「実験動物ですか、その生き方は窮屈でしょう?」 そんな言葉が出てきたのは、彼自身モルモットとして生かされる辛さを知っているからか。 「解放、してあげますよ」 ● 轟音が響き、その度に呼応するようにリベリスタ達の声が木霊した。 さすがにキマイラは強敵である。 しかし、リベリスタ達は決して負けていなかった。『六道』のフィクサードが語る通り、地力ではエリューションそして、その特性を持つキマイラの方が優れている。しかし、エリューション化しつつも『人間』であるリベリスタ達は、策と勇気でそれを超越することが出来る。 「老人ホームか……ロクに動けない人を狙うなんて、また悪趣味だね。利点があるならともかく、そういう訳では無いともなると理解し難いね」 どうにか押さえていたが、『六道』の所業を思うと、怒りが抑えきれなくなってきたのだろうか。 少しイライラしたような表情で、呪いの弾丸を精製するマコト。 その表情が唐突に和らぐ。 「あぁ、うん、食い止めれば良い。それだけの話だね」 虚空に返事を返し、冷静さを取り戻すと、正確に鴉型キマイラの胸を穿つ。 マコトに呼びかけているのは、彼の「頭の中にいる恋人」。常に影となり影のまま、彼の戦いの力となっている。 そして、その一撃で大地へと落ちる鴉型キマイラ。 残すは獣人キマイラだけだ。 それに気付いたのか、獣人キマイラは必死に自分を取り巻く呪印を破り、天に飛ぶ。 「カァァァァァ!」 このキマイラの特筆すべき点は、高い機動性。並みのエリューションが十分に力を発揮出来ない空中であっても十分な力を発揮することが出来ることだ。 その有利を存分に発揮出来る条件を整えた上で、全身からエネルギーを解き放つ。 その力が呼ぶのは、偽りの赤い月。 崩界を告げる月の力がリベリスタ達を打つ。 キマイラ化の影響か、威力は想像以上。リベリスタにも痛打を与え、中には倒れるものも出てくる。 「実験動物に成り下がってまだ殺すか! この田吾作が!」 キマイラの素体への怒りを力に変えて、立ち上がる仁身。自身の打たれ弱さは承知の上。だからこそ、相手との間合いには注意を払っていたが、相手も元は悪辣なフィクサード。抜け目の無さと悪知恵は受け継いでいるのだ。 そして、それはキマイラという存在の完成が近づいていることを意味していた。理性や自我こそ感じられないのは相変わらずだが、今までのキマイラとは比べ物にならない知能だ。 「チッ、やってくれる……だが」 偽りの月の威力を前に大地に臥せるアーサー。 彼の瞳が見据える先は、何故か自分を攻撃したキマイラではない。別の方角だ。 「奴らの場所は分かった……こんな所で倒れていられるか」 薄れゆく意識を必死に繋ぎ止めると、折れた膝に喝を入れて立ち上がる。 倒すべき敵は目の前のものだけではない。こんな所で倒れていられるか。 「あはは、あははははは……」 その時、唐突に笑い声が聞こえてきた。 少女の、どこか壊れたような悲しい笑い声。 シャルロッテのものだ。全身を痛めつけられながら、彼女は陽気に笑う。 「あはは、痛い痛い痛い」 とても痛みすら楽しむかのような笑い声。そんな声で笑う彼女を漆黒の闇が覆い隠していく。 「あはははははははは! この痛み、貴方達に何倍にシテアゲルよ」 指揮者のようにシャルロッテが手を振ると、闇の中から槍が現れ、キマイラを貫く。彼女の言通り痛みはおぞましい呪いへと変じて、キマイラを蝕んでいく。 「どこ行くんだよー。変態なら変態性は貫けよ。どんな格好になってもー」 さらに真下からキマイラに斬撃が飛ぶ。 岬は真空の刃でその翼を狙う。 「もっとも、ここで終わらせてやるけどなー」 岬の執拗な攻撃に、キマイラは身を小さくして回避を試みる。飛んでくる真空の刃の狙いは的確。機動で回避しても、それを読んでくるかのようだ。それゆえの回避方法だ。 しかし、それはこの場においては間違った判断だった。 「鴉? 間違いだろう? とんだチキンだ。素体が三流では折角の技術も意味がないな?」 ユーヌが素早く印を結ぶと、キマイラの周囲に再び呪印が浮かぶ。 「今度は私の間違いだな。素体も技術も纏めて雑だ。いや、雑の世界一を目指せそうな辺り奇跡的なのか?」 そして、念を凝らすと呪印は集束し、キマイラの身体を拘束する。 キマイラの能力と言えど、二度三度脱出できるような甘い代物ではない。動きの取れなくなったキマイラにリベリスタ達の苛烈な攻撃が襲い掛かる。 「もう一息です。後ろには守るべき人がいるのです」 凛子の呼び出す癒しの息吹は、リベリスタ達の後押しをするかのように戦場を駆け抜ける。 そして、その風の後押しを受けるように、美虎は舞い上がる。 「これ以上ちょこまかと……動きまわるなぁああっ!!」 鋭い蹴りはかまいたちを生み、キマイラを真っ二つに切り裂く。 夜を翔ける鴉は、翼を失い大地へと落ちて行くのだった。 ● 「ふむ、思っていた到着タイミングとの誤差は8秒。良いものを見させてもらった」 「探求心に頭が下がるな。そろそろイグノーベル賞間近か? ゴミを散らかす研究に掛けては世界一だろうに」 戦いが終わって休む暇も無く、リベリスタ達は『六道』のフィクサードが隠れていると思しき場所へと急行した。アーサーが戦闘中も周囲の索敵を行っていた甲斐はあり、潜伏場所を突き止めるに至ったのだ。 「『今までの常識を破った新機軸』だから優れているってのは典型的な馬鹿の考え、だって馬鹿兄ィが言ってたー。そもそもわざわざ連続殺人鬼を使うとことか様式美のレベルで旧態依然としてるだろ―」 「一部には同意するが、無意味な話だ。逆だよ。我々の研究の成果は優れていた。それがたまたま常識を破ったに過ぎない」 そして、『六道』の動きも早かった。 とっくの昔に撤収準備を済ませ、互いの戦闘距離に入らない内に撤退しようとしている。そこで岬が挑発するが彼らはどこ吹く風。アークの戦闘力を恐れているのか、あるいは他の狙いがあるのか。 「ボク達を誘っての実験だということはよく分かっている。すでに何度も新しいキマイラとは相対した」 E能力で新しいキマイラを観察していた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、いくつかの結論を出していた。現在現れているキマイラは、初期に現れたプロトタイプと比べると圧倒的に進歩している。 知性は上がっているし、不安定な細胞による自壊は見えない。例によって戦闘不能になると消滅してしまった訳だが。 ここに至るまで、どれ程のおぞましい『実験』が行われたのだろうか。 だからこそ、赦せない。 「巫山戯るな。人は玩具じゃない」 「1つだけ、答えておこう。アークの諸君」 そんな純粋な怒りを意にも介さず、研究員は機械的に淡々と答える。 「これは紫杏様の余興だ。闇の社会に『老人ホームでの虐殺事件』という形でオープニングを見せつけるためのな。『箱舟との戦闘』もまずまずだ」 上司の命令について、特に感情を抱いている風ではない。 命令されたからやった、そんな印象を与える。 「テストデータは必要な分、揃っている。もちろん、キマイラが君達を打ち破り、材料として持ち帰ることが出来たのなら我々の作戦は大成功と言えたわけだが」 「やっぱりお前ら、僕の一番嫌いな人種だ」 怒りを露わに仁身は弓に矢を番える。 その横で、マコトは普段の眠たげな眼を鋭く光らせて研究員を睨みつける。 「キマイラ使って、何をするつもり? いつ? 場所は?」 「リーディングとの併用か。尋問としては悪くない手だな。しかし、ここで時間切れだよ」 そう言うと研究員はやって来た車に身を躍らせて乗り込む。瞬間、男の機械の右手が見えた。 「直に分かる。その時にまた会おう」 「行かせるか!」 美虎はかまいたちで狙うが、この距離では防がれてしまう。 マコトも相手がE能力で思考を隠していたことを悟り、悔しそうにしている。もっとも、再び虚空に話しかけ、『恋人』に慰められているようだが。 「これ以上は追っても無駄か」 千里眼で『六道』のフィクサードの逃げ道を見たアーサーは、冷静を努める。連中が他にも無事に逃げる準備をしていたのは明らかだったからだ。それを聞いて、凜子もこれ以上のため息をついて、追跡は無意味と判断した。 「そうですね。任務は達成です。気にかかることは多いですが、引き揚げましょう」 凜子の言葉に頷くリベリスタ達。 目の前で起きようとする悲劇。間違いなく、それを食い止めることは出来た。 しかし、このままキマイラを放置していては、またどこかで悲劇を起こそうとするのだろう。 そんなことを思うリベリスタ達は、遠くで鴉が不吉な声を上げたような気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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