● いらっしゃいませ。 当店は貴方のような特別なお客様のために運営されております。 お客様のお悦びがため、そして当店が最大限のサービスをご提供するため、二つのルールを守って頂きます。 ひとつめ、この店の中で見たもの、聞いたことは他言しないこと。 ふたつめ、当店に関して一切の質問をしないこと。 みっつめ、、当店の『人間』を持ち出さないこと。 以上でございます。 「…………」 例えばそれは、家畜に似た扱いであった。 猫と戯れる軽食屋のように、鷹を見られる洋食屋のように。 首輪と手足の鎖枷をひと繋ぎにした少年少女が椅子の周りをうろうろとしていた。 衣服らしきものはなく、代わりにゴム製の拘束器具だけが装着されている。強いて言うなら、それを服と呼べるかもしれない。 彼等が自発的にできる動作は張って歩くことのみだ。 口は枷が嵌っていないが、不思議と誰も、一言も口をきかなかった。 乾いた、それでいてどこか色狂いをしたような目で、私の脚ばかりを見つめているのだ。 「お待たせしました、アメリカンコーヒーでございます」 身なりの良い制服をきたウェイトレスがマグカップをトレーに乗せて運んでくる。進路上にあった『人間』を器用に避けて、まるで何事もないかのような振る舞いである。 確かに、何事もないのだろう。 店主らしき男はニコニコと笑って言った。 「お寛ぎ下さい。ご存じの通り当店は時間制となっております。その間であれば、『人間』をどのように扱われても自由です。できれば殺傷を避けて頂けると助かりますが、どうしてもお望みでしたら専用のコースをご紹介しますよ?」 結構だと首をふる私に、店主は更に言った。 「お優しい方ですね。如何でしょう、『人間』をひとつ飼われてみては。当店は優秀なブリーダーによって躾けられた『人間』を扱っておりまして、一部のものは買い取ることもできるようになっております。勿論そのためには審査やある程度の常連客である必要がございますが……」 それも結構だと首をふる。 すると店主は眉を八の字にして笑った。 「謙虚な方だ。先ほどから全く手を付けていらっしゃらない。コーヒーにも……『人間』にも」 店主がコトを言い終わる前に、私はベルトバックルからナイフを抜いた。入り口での持ち物チェックに引っかからないような植物性の極薄ナイフである。 目にもとまらぬ速度で繰り出した私のナイフは店主の喉に突き刺さ――らなかった。 「おやおや」 店主は笑顔のまま、白手袋の二本指でナイフを掴み取っていた。私の腕は、たったそれだけで動かなくなる。 「『そちら』をお望みでしたか」 周囲で、五人のウェイトレスが其々同時に動いた。 視界に入ったのは一人だけだが、それで『何が起こったか』を把握するには充分だ。 すとんと両腕を下げ、袖から金属製のトンファーを出現させたのだ。 五つの気配が私へと飛び掛り、そして全く同時に繰り出された。 脚の骨が砕かれ、横転する。 カチンと刀を鞘にしまう音がして、視界が奇妙に裂けた。 最後に映ったのは、私の『娘だったもの』が乾いた目で見下ろす光景だった。 四つん這いの、拘束器具に塗れた彼女より。 私の方が、下に居た。 どうやら、私の首は切り取られ、床に転がっていたようである。 それ以上のことは。 わかりようもない。 ● 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と説明をする。 一般人を何年にも渡って飼いならし、会員制カフェとして運営するフィクサード集団が存在する。 彼等の非道な行いを潰すため、リベリスタ達の手を必要としているのだ。 デスクには地図その他の情報が並べられ、店の雰囲気や広さを示した図もある。 「フィクサード六名。これを全員排除することが課題になるわ。それ以外の『あらゆる事態』に対しては有無を問わない……いえ、成功条件に問わないわ。好きにして頂戴、ただし、あなたの出来る範囲で」 迂遠にではあるが。 『何事も』自力で行わねばならないという意味を、それは孕んでいた。 「あとは……お願いね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月15日(木)22:59 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●現代における奴隷売買 『人間カフェ』なる、調教された人間を自由にできるカフェを経営するフィクサードがいる。 彼らは神秘の業を駆使して人間を愛玩動物のように仕立てあげているのだとし、アークの摘発対象……否、抹殺対象となったのである。 だがそんな、神秘の介在が無かったとしても。 「人間を飼い慣らし商品にするなど、断じて見過ごすわけにはいかん!」 『境界性自我変性体』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)は強く拳を握り、ロッドを地面に突き立てた。 そんなコーディの様子に気圧されることなく、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は端末をポケットに入れた。 「素敵なご趣味ですね。ですがそのお店も今日で閉店です」 「素敵な趣味か……まあ人ぞれぞれだ、そこは否定するつもりはない」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は腰の銃に手をかけつつ、口の中でロッドキャンディを転がした。 「だが、それでも唾棄すべき邪悪は存在する。きっちり潰させてもらおう」 『人間カフェ』に看板は無い。 勿論ホームページもチラシ広告も無く、明らかに飛ばし済みと思われる携帯電話番号が存在するのみだった。 だからというわけではないが、地図で見ても異様に場所が分かりづらく、位置を座標認識していても数度ウロウロと彷徨わなければたどり着けないような奥の奥、その裏の裏の隅といった……非常に分かりづらい場所に存在していた。 ……だと言うのに、『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は適当なメモ片手にすいすいと迷うことなく道を進んで行く。 「こういう手合いにも困ったものですよねえ。裏社会の末端だと言うならまだしも、神秘を使うとあっては放っておけないわけでして……」 同じく、道に迷うような様子を少しも見せずに隣を歩く『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)。 「非道には非道ってぇ感じっすかね。できればスマートにコトを運びたいっすけど」 「『罷り通らぬが世の定め』というやつでしょう。いやはや」 「血なまぐさいやり方しか知らないっすからねえ、うちら」 「ふん……」 自分の唇を指で拭う『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)。 「外道を殺せか。仕事内容にも払いにも不満は無い。ヤマの仕事といこうか」 低く、単調なトーンで、何事も無いかのように、ヤマは言った。 一定のリズムで歩く『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)。 その横を、『SCAVENGER』茜日 暁(BNE004041)がゆらゆらと歩く。 「ねえ、ペットとか飼う? 犬とか猫とかって手がかかるって言うよねえ、でも人間ってさ、ペットとして最高に優秀じゃない? ビジネスとしてはかなりいい目の付け所だよねぇ」 「…………」 一見して、暁と結唯が親しげに会話しているように見えるかもしれないが、実際は暁が一方的に語りかけているだけだった。 視線だけを寄越して沈黙する結唯。 そして、今回のことを考察した。 世界のあらゆる史実において、奴隷売買は大小様々な形で行われてきた。船の『動力』として使ったり、小麦生産の『動力』として使ったり、無論性目的による玩具とするケースも少なくない。 某国の富豪が百人近い少年を買い取って毎夜とっかえひっかえ犯して遊んでいたなどと言う話は、別に珍しさはない。 弱きもの。人間性を失ったもの。心の無くなったもの。それらの末路としてはたぶん、マシな部類に入るのだろうとも思う。 放っておけば野ざらしになって死ぬのだから、まあマシ、だ。 翻って今回。 人間カフェというスタンスからして、犬猫を鑑賞もしくは撫でまわして楽しむ喫茶店のような場所だと思われる。法的に許される範囲内のものかはさておくとして、かなりの中毒性依存性を持つものだろうことは想像に難くない。 「…………」 「ねえ聞いてる? あ、でも話題無くなって来たな。しりとりでもしようか? シから始まる……あっと、そう言えば、メアリ君どこ行ったの?」 ●人間カフェ、オープン。 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)はカフェでコーヒーを飲んでいた。 と言っても、一般的に想像されるカフェではない。 「あらあら、まあまあ」 傍に寄って来た少年の頭を撫でまわす。裸体の、拘束具をつけた人間である。だと言うのに髪や肌はよく手入れされていて、まるで人間の形をした芸術品のようだった。 話を聞いた限りでは汚物や人垢に塗れた石壁の下水道のような場所を想像していたのだが、店内は非常に清潔で整っている。気品のある家具や調度品が並び、それでいてアーティスティックなソファや絵画も飾られている。足元を這いつくばっているのが人間でなければそのままカフェとして運営できそうなレベルだ。 「お客様、ご満足いただけていますか?」 店主と思しき男が慇懃に頭を垂れてくる。 薄笑みを浮かべるメアリ。 ここまで、持ち物検査や感情探査を受けたが、ペルソナでもってチェックを潜って店内に潜り込んでいた。他に客はいない。 広い店内だと言うのに。 「所でお客様、大変失礼ですが……」 店主が眉を寄せる。 はいと言って顔を上げ、メアリは小さく舌打ちした。 店主の目の奥に、殺意を見つけたからだ。 「当店ではリベリスタの来店は固くお断りしております。それも……アークの方などは特に」 「あら、あら、それは……」 すっくと立ち上がるメアリ。 前方に店主がひとり。 左右、後方、それぞれ壁から微妙な距離をもってウェイトレスが取り囲んでいた。 「失礼――したぞよ!」 カモフラージュ用に着ていた衣服を引き千切るように脱ぎ捨て、神気閃光を発射。 ウェイトレスたちはそれを其々にガードして急接近。まずメアリの腹にトンファーが叩き込まれ、くの字に折れ曲がった彼女の身体を別のウェイトレスがモップのついた錫杖で突き上げてくる。 宙に浮く一瞬。その間に刀持ちとナイフ持ちの二人が素早く交差し、メアリの全身を複雑に切りつける。 店内に噴き上がる大量の血。 「おやおや、そんなに店内を汚されては困りますな、お客様」 最後に店主がメアリの顔面を鷲掴みにし、後頭部をテーブルへと叩きつける。 跳ね上がったフォークを逆手に掴み、振り上げる。 「では当店特別コース。『調教』をお楽しみくださ――」 チュイン、と音がした。 フォークが柄の部分で折れ、背後の壁に突き刺さる。 同時に数発の銃弾が通り過ぎ、周囲を囲んでいたウェイトレスが一斉に飛び退いた。 「悪いがそいつはキャンセルだ。というより……店ごと摘発させてもらう」 ドアを開け放ち、福松が立っていた。 視線を向けるメアリ。 「お……遅いぞ」 「お前こそ勝手なマネするな。客に成りすますなんて聞いてないぞ」 「次やる時はちゃんと教えておいてくださいねっ」 福松の後ろからひょっこりと顔を出した麻衣が回復を寄越しながら言う。 「はい、と言うわけで」 鞘走りの音。 それを敏感に聞きつけた刀ウェイトレスが身体ごと振り向き、鞘から刀を抜いた。 刃同士がぶつかり合い、いつのまにやら1mと言う距離にまで接近していたロウが糸目のまま笑った。 「どーもー、ヒッサツ特掃でーす。遊び過ぎて壊れたおもちゃや溜ったゴミなど、特殊なお掃除御入り用じゃありません?」 「いええぇ結構です。うちのウェイトレスが働き者なもので」 店主はそう言うと、手を宙へ翳した。 否、高速で繰り出されたナイフを指でつまんで受け止めたのだ。 ナイフを握ったまま、フラウが舌打ちする。 「御機嫌よう、愛すべき糞野郎共」 「皆様、そちらをお望みということで、よろしいのですか?」 「それでいっすから、さっさとくたばってくれないっすかね」 「これは驚いた。勝てるつもりでいらっしゃる」 握り込んでいたメアリの頭をフラウ目がけて叩きつける店主。 フラウはそれを素早く屈んで避け、相手の手から離れたナイフを再び繰り出す。 上半身のスウェーだけで回避する店主。その後ろではロウと刀ウェイトレスが互いの刀を強かに弾き合っていた。 戦闘に乗じて踏み込む結唯とヤマ。 杖とフィンガーバレットが同時に向けられるが、トンファーのウェイトレスとナイフのウェイトレスは足元を這っていた『人間』を蹴り上げ、首輪を掴んで盾とした。 心を失っているとはいえ一般人。 こうして完全に盾にされれば巻き込まずに戦うのは至難の業。 ……だが、しかし。 「邪魔だ」 結唯はまるで、そこに何も居ないかのように発砲。『人間』を貫通し、その後ろのウェイトレスに射撃を浴びせた。 更にヤマが椅子を蹴倒して突撃。ウェイトレス二人がトンファーとナイフで杖を受け止めた瞬間、ガチンを奥歯を噛んだ。 爆発。 神秘攻撃への耐性など微塵もない『人間』は元が何であったか判別がつかない程にパーツ分解され、防御の効くウェイトレスたちも背後のテーブルを薙ぎ倒しながら吹き飛び、窓に激突してガラスを破壊させた。 ちらりと振り返るヤマ。 「仲間は巻き込まれておらぬか?」 「ああ」 まるで、仲間と敵以外はそこには居ないかのように。 彼らは言った。 「極力助けたいが……味方の命が優先だ、やむを得ん!」 コーディはロッドを握りしめ、チェインライトニングを発動。 錫杖を持ったウェイトレスが掴み上げようとした『人間』も含め、雷撃のもとに攻撃した。 攻撃した、などと柔らかく言いはしたものの、結果として出来上がるのは皮膚剥がれ肉焼け血沸き煙たつ焼死体であり、焼き殺された人間以外の何物でもない。 「ふうん、圧し切る手間を省いてくれたんだ。ありがとね」 椅子を駆け上がりテーブルに乗り、暁はバールを構えた。 「それとも、人間焼きたくなっちゃった? 君の場合そこまでする必要、別に無かったのにね」 「……ッ!?」 コーディが何かを云おうとする前に、暁はバールをスイング、魔閃光を発射して人間の焼死体もろともウェイトレスにぶち当てた。 背後の椅子を薙ぎ倒して転倒するウェイトレス。 暁は額に手を翳し、へらへらと笑った。 「ナイスショーット。ま、攻撃の邪魔になるなら仕方ないよねえ。でもなるべく殺したくないんだ。僕ってほら、優しいから」 コーディは彼の横顔を、きつく睨んだ。 睨んだまま、何も言わなかった。 ●人間カフェ、クローズ。 「メアリさん、大丈夫ですか」 「かは……やりたい放題やってくれおって……」 メアリは店内端のソファーに座らされ、麻衣の回復を受けていた。自分でも回復しているが、まあまあ戦闘に加われるかどうかというレベルだろう。 一応、仲間と敵の戦闘は互角かちょっと下と言った具合で、麻衣とメアリの回復が必要な局面も多い。 彼女達は黙って回復に専念することにした。 無論、『人間』たちはこの保護対象に含まれていない。 ロウとウェイトレスは2m前後の距離で向かい合っていた。 「こんなお店が店主一人で切り盛りできる訳がない。ここを庇護する誰かが居て、利益を吸い上げている筈です。恐らくそれは神秘の秘匿など屁とも思わず好き勝手する手合いでしょう。そう言う連中はいずれ叩かなくてはならない」 「はあ、そう言われましてもサッパリ分からないのですが」 向かい合い、会話をしている。 しているが、一言を述べる間に一閃、いや二閃三閃、目にもとまらぬ程の高速で刀が振るわれていた。 そしてそのすべてが、互いの刀で弾かれ、いなされていた。 恐るべきことに、すぐにでも逃げるべきキルゾーンに居ながら両者一歩もその場を動いていないのだ。 「人を家畜みたいにするのはイケナイと思いますし、法律も守った方がいいと思いますけど、神秘を隠さなきゃいけないのはなんでです? 誰か困ったり、してるんですか?」 「おや知識が無い?」 「崩界の知識ならありますけれど……そんなの」 スパン、と。 ロウの頬に大きな傷が走った。 「なるようになるでしょう?」 首をかしげるウェイトレス。 糸目がほんの僅かに開かれる。 「お掃除のしがいがありますねえ……」 初めて、ロウが一歩前へ踏み出す。 無謀に踏み込んだかのように思える一歩だが、それは剣の打ち合いにおいてこれ以上ないと言う程絶好のタイミングであった。 そのままウェイトレスの横を一回転しながら通り過ぎ、刀を振り切りの態勢のまま固定。 彼の後ろで、ウェイトレスがどさりとうつ伏せに倒れた。 切断された首が、ごろごろと転がって行く。 其れを見下ろした『人間』が、無言でロウを見上げた。 ヤマと暁が倒れたテーブルを飛び越える。 同時に発射されたピンポイント・スペシャリティと魔閃光を、ウェイトレスはトンファーと錫杖でそれぞれ払い除け、二人へと飛び掛った。 空中でぶつかり合う、杖と棍、バールと棍。 互いに弾き合って地に足を付ける。 「ヌシらをここで逃がしゃあ台無しだ。次に見つけるまでにこの倍は死ぬ。ここにいる人間全てを殺してでも、ヌシらを殺す」 「怖い! 道徳活人という言葉が無いんですか、あなたたち!」 「え、なに聞えない。冒涜殺人?」 足元の人間を拾い上げるウェイトレス。 「だからそれ、意味ないって」 暁はバールを大きく振りかぶり、『人間』もろともウェイトレスの顔面をかち割った。 ごしゃりという、人間の頭部を鈍器で殴った時に出る至極当然の音と共に、人間の頭部を鈍器で壊した時に出る至極当然の血肉脳漿の類が壁と天井に飛び散った。 ハッとして身構えるウェイトレス。 しかし彼女の口には既に、ヤマの杖の先端が捻じ込まれていた。喉を突いているのだろう、嘔吐を催すような苦しげな声が漏れた。 「ただしコレは……貴様等が余計な足掻きをせなんだら、死なずに済んだ命ではあるなあ、おい」 ピンポイント・スペシャリティ、乱射。 血肉が飛び、壁を再び汚した。 ――その一方。 結唯の連射する射撃を、ウェイトレスはナイフで次々に弾き飛ばしていた。 ナイフと言っても、任侠映画に出るようなドスでも、不良映画に出るような果物ナイフもどきでもない。出刃包丁を五割増しにしたような長さと幅をもち、分厚くどっしりとしたウェポンとしてのナイフである。故に、いくら銃撃を弾いてもろくなダメージを受けていない。 が、それが二人がかりとなると流石に捌くのも難しい。 「外道が」 福松は側面から銃を乱射しつつ、テーブルへ乗り上げる。そのまま跳躍してウェイトレスの顔面を殴打。 よろめいた所に結唯が素早く接近し、更に腹へ殴打。 体勢を立て直す暇も与えず、二人がかりで押さえつけて滅多打ちにした。 顔の形が保てなくなるほどに殴り潰され、地面に転がるウェイトレス。 無論、息はしていない。 「ふう、これはこれは、お強いですね」 ゆっくりと間合いを保ちながら、しかし高速でソニックエッジを連射してくるフラウをいなし続ける店主。 彼が店の出入り口へ移動しようとしたその時、コーディのマジックミサイルが足元に着弾した。 「すみません、そろそろお相手をしている余裕が無くなりました。お引き取り頂いても?」 「は? 客を差し置いて退店とかないっすよね? 接待して下さいよ、最高のヤツ」 「はあ……」 店主は横目で出口を確認したが、そこには別のコーディが立ち塞がっている。 そして進路上には、フラウがナイフを片手に立っていた。強行突破は難しい。 「仕方ありません」 店主は身構え……ることなく、両手を上げた。 「逃がすかトドメを刺すか、どっちかにして下さい」 ●末路 フラウは、店主の首に突き刺さったナイフを苦労して抜いた。 よく狙って突き刺したので、それはもう間違いなく即死だったが、奥まで食い込み過ぎてうまく外れなかったのだ。 「で、役に立ちそうな情報とか何かあったすか」 「残念ながら」 店の奥から麻衣やメアリたちが姿を現す。 「顧客名簿はおろか店員のデータすら無い。資料に残すべき情報を全部暗記でやってたっていうのか……」 「いやあ、見習いたい仕事ぶりですねえ」 糸目のまま微笑するロウ。 そんな彼の足を、じっと見つめる誰かが居た。 『人間』である。 「こいつは……?」 「問題ない。一般人だ。幻想殺しで確認したが、ステルスの心配はない」 福松が頷きながら言った。 仮にE能力者であった場合でも、見ていればその程度は解るものである。 『人間』は少女であった。 年端もいかぬ、子供であった。 コーディは複雑な表情で、乾いた目の少女を見やる。 「そうか……」 直後。 少女の頭が銃撃によって吹き飛んだ。 「――ッ!」 はっとして顔を上げる。 結唯がフィンガーバレットを少女に向けたまま、無言でもう一発撃った。 所謂『まかり間違って生きていたらいけないので、念のためもう一発』である。 「な、なにを……」 「この『人間』にもう尊厳は無い。動く死体と言っていい。人間として生きることも死ぬこともできないなら、壊しておく他ない」 「そん……今回の報酬を使えば少しは引き取るアテを探して」 「そうだね、少しは保つね。一ヶ月くらいかな?」 とりあえず死亡確認をとる暁。 「引き取るアテなんて言うけどさ、どこそれ? でもって誰がその維持費稼いでくるの。人間カフェでも開く?」 「…………」 沈黙するコーディ。 それを背に、ヤマは店の扉を開け、外へ出た。 冷たい外気が頬を撫でる。 「……」 彼女は何も言わず、消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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