● 「ご存知ですか、お嬢さん」 視界は揺れていた。否。滲んでいたのかもしれない。 御伽噺の王子様と言うものが本当に居るとしたら、それはきっと彼の様なのだろう。 美しい顔が笑っていた。手が、差し出される。 「魔女の呪いを解くには何時だって、愛と献身が必要なんです」 貴女の愛、私に見せてくださいますか? 純白のドレスは、固まり始めた血で紅より黒く色づいていた。 致命傷を負った筈の自分は何も変わらず生きていて。 同じ傷を受けた愛する人は、姿を変えつつあった。口が裂ける。牙が覗いた。 嗚呼。これは悪魔の囁きなのかも知れなかった。 けれどそれでも。選択肢なんて、有って無いようなものだった。 「――どうしたらいいの?」 目の前の美しい顔が、酷く優しく微笑んだ。 「ねえひさおみ! 今度のやつすてきね、どこでみつけてきたの?」 モニター越し。作り上げた『玩具』の出来に嬉しそうに笑う少女――『ジョンブリアン』羽月・奏子は、傍らに立つ忠臣を見上げる。 優しく微笑む男は、内緒です、と唇に指を当てて見せる。 泣き叫ぶ声が聞こえた。唸り声も一緒に。嗚呼本当に愉快だ、と男は思う。 少し、お膳立てしてやっただけなのに。この幼いマッドサイエンティストは、こんなにも狂い狂ったモノを作り出す。 歪み切った無垢な少女が、男は嫌いではなかった。 「満足行く結果なら、これで遊びに行きましょうか。私も付いていきますよ」 恭しく手を差し出す。嬉しそうに握られた手を取って、男は歩き出す。 今日は楽しいお遊びだ。六道のオヒメサマが望む余興だ。 精々、楽しく踊るに限るだろう。肩を竦めて笑った。 ● 「……お集まり頂きありがと。とりあえず、今日の『運命』聞いて行って」 挨拶もそこそこに。資料を握る『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は口を開いた。 珍しくきっちりとかけられた眼鏡に、伸びた背筋が事態の重さを暗に示している。 「六道の『キマイラ』がまたこんにちはしてんのよ。前回までが仕事で研究だとするなら、今回のは……嫌な言い方をすれば『遊んで』いるみたいね。 現場にはメインとなるキマイラ『美女と野獣』、及びその配下『庭の薔薇』が居る。 近くには自分の作品を見たがる研究員の少女と、お目付け役――『御伽噺』来栖・久臣も居るけど、こっちが手を出さないなら大丈夫。 まぁ、あんたらに頼みたいのはこの趣味の悪い『お遊び』を終わりにしてくる事ね」 状況説明は以上。そう言葉を切って、フォーチュナは資料を捲る。 「次、エネミーデータ。まず『美女と野獣』なんだけど、時間経過と共に醜い野獣になっていく本体の腹から、女の人が生えてる。 本体と女性は移動のみ一緒に行うけど、ダメージや、呪いは全て別に受けるみたいね。勿論攻撃も別。 野獣の方は、大体デュランダルだと思ってくれて良い。所謂脳筋。その分、凄まじい攻撃力を持ってる。 美女の方はマグメイガスかな。但し、威力は通常のソレと桁違い。高速詠唱と同等の能力を所持しているわ」 再び、資料の捲れる音。 険しい表情を崩さないまま、フォーチュナの声は続く。 「……で。もう一個残念なお知らせがあってね。こいつら、まぜこぜにする時に一緒に粘菌のエリューションらしきものを入れられてるみたいで。常時、自己回復の恩恵を受けてる。 次に『庭の薔薇』だけど、これは戦場に咲いてる。数? 申し訳無いけど、分からなかった。 元はエリューション。ただ、其処に……まぁ、言わば『外来種』でも混ぜたのかしらね。こいつらは戦場全体に常に呪いの花粉撒いてる。効果はまちまちだけど、大体動きを鈍らせたり、魅了してきたりするみたいね。 但し、火炎系の攻撃には弱いみたいで、火炎付与出来れば解除されるまでは大人しくなるみたい。あ、あと、一応回復の花粉も持っているみたいだけど、それも火炎系で止められるわ」 大体そんな感じ。そう、言葉を切って。リベリスタを見遣ったフォーチュナは細く、溜息を漏らした。 「……まぁ、補足程度に聞いて欲しいんだけど。今回のキマイラの素になった人、結婚式の最中だったのよ。不運にも屋根が崩れて、下敷きになった2人の運命は分かれてしまった。 1人は運命に愛されたけれど。もう1人は、望まれないままもう一度、目を覚ましてしまったのね。 ――『彼女』は『彼』を救おうとしているの。野獣は美女が求婚を受け入れてくれなければ死んでしまう。 でも、出来ないの。彼女は口付けられない。永久の愛を誓えない。こんなに近くに居るのに。……違うわね。もし、そんな事が出来たとしたって、」 運命はそんな簡単に微笑んではくれないから。もう全て手遅れで、誰も救われないお話は始まってしまった。 赤銅が伏せられた。気をつけて行って来て頂戴。一言だけ残して、フォーチュナはブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月21日(水)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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