●ブリーフィングルーム閑話休題 「え、えー!? メルちゃんもお姉さまも忙しいの!?」 「そうなの、アタシは狩生サンに呼ばれててね」 「(色んな意味で)少々事件ですぞ」 「そんなぁ……せ、折角ハロウィンパーティーをしようと思ったのに」 暖かい珈琲――勿論砂糖多め――のカップを両手で持ちながら女子力(笑)を振りまくフォーチュナは唇を尖らした。大好きなお姉さまと大好きなお友達は其々ハロウィンに向けて何か準備を進めている様である。 ――折角のイベントなのに。 聊か子供っぽい思考だが催し物大好きな彼女は視線を下げ座ったまま足をふらふらと揺らす。 「え、ええと、世恋。そういえばこんなチラシをね」 「そうですぞ! こんなイベントが」 友人二人が差し出したチラシには『ハロウィンイベント!』の文字。ぱあ、と瞳が輝く。 \そうだわ! 皆にお菓子を貰えばいいのよ!/ ガッツポーズ。そして、にっこりと笑って幼さの残るフォーチュナは手を出した。 「トリック・オア・トリート」 ●Trick or Treat. 立食パーティー形式の貸し切ったホールから不思議の国のアリスは飛び出した。 水色のエプロンドレスの裾を揺らして、カボチャのランプを手に夜の街を走る。アスファルトの上で踊る様に、普段と違う衣装を纏って、楽しげに。 「メルちゃんは忙しそうだし、お姉さまも何かの準備をしてるだなんて」 不思議の国のアリスの衣装を纏い髪を下ろした普段と違う装いで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は走っていく。揺れる桃色がかった白髪が、夜の少し肌寒い風に揺れた。 電灯の灯ったパティスリーにひょこりと顔を出し世恋は実年齢にそぐわない満面の笑みを浮かべて、手にしたランプを掲げる。 「トリックオアトリート!」 さあさあ、不思議な夜をはじめようか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月06日(火)00:43 |
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● Trick or Treat! 飾り立てられた市内は、ハロウィン一色と言っても良いだろう。お化けや、悪戯っ子が待ちの中を走り回り、南瓜のランプを手に、あちらこちら。 南瓜の馬車に乗った終は道化師の格好をして街中の視線を集めていた。 「さあ、みんな寄ってらっしゃい☆ お菓子が欲しいなら魔法の一言を忘れずに☆」 ジャグリングをする道化に子供達は嬉しそうに魔法の言葉を告げていく。 Trick or Treat! ――その声に笑みを浮かべて、南瓜のお菓子をどっさりと両手一杯に渡す。 どっさり。 余りの多さに驚いた子供達へとくすくすと笑う。 「これは一種のいたずらも兼ねてるのでした!」 (>▽<)てへへ、なんて顔を浮かべる彼は近くの予見者にも笑いかける。遠慮せずに持って御行き、とまたもどっさりと彼女の手に渡したお菓子。 「これから、他の場所も廻るんだよね☆ 頑張ってね、皆!」 微笑んで、南瓜の馬車に積み込んだお菓子を配る彼は、とん、と地面を蹴りあげる。其の侭一回転し、ふわりと一礼する。 「ハッピーハロウィン☆ さあさ、皆々様、どうぞ楽しいハロウィンをお過ごしください☆」 ――さあ、楽しい夜をはじめよう? ハロウィンの夜は違う街に来た気分になるなあと周囲を見回した。黒と白を基調にしたドレスを揺らしながら、瑠輝斗は飾り立てられた街の中を見回した。 「あ、月鍵さん、こんばんは。……Trick or Treat!」 走り寄り、合言葉を告げる瑠輝斗に予見者はどうぞ、と南瓜包み紙のキャンディを数個差し出す。明るい青の瞳を瞬かせ、貰うだけだと悪いからと南瓜の形の入れ物からお菓子を数個取り出す。 「えっと……好きなお菓子をどうぞ……です」 「ふふ、有難う。Trick or Treatね」 にこりと笑って、手にしたのは可愛らしいお化けのパッケージのお菓子。よければ、ご一緒にと未だ慣れない市中を見回す瑠輝斗に微笑みかけ、二人揃って街の中を往く。 「月鍵さんのアリス、可愛いですね……」 「瑠輝斗さんのそのお洋服もとっても素敵」 いつかは月鍵さんみたいなお姉さんになりたい。その言葉に瞬いて、お姉さん、の響きに嬉しそうに頬を緩める。 「でも、同年代に見えてしまったのは、ごめんなさい……」 「むう、べ、別にいいんですもん」 でも、瑠輝斗さんなら私なんか適わない位に素敵になる。だって、今でも素敵なんだから。 ピン、と張った白いシャツ。決してアーク内で見られた彼シャツではない。もう一度言おう彼シャツではない。 ちょこっと気取った青色のスーツに背の高いシルクハット。蒼の翼をふわりと広げてカツン、とブーツを鳴らして、亘は小さなアリスへと声を掛けた。 「こんばんは、月鍵さん。ふふ、今日の貴女はいつにも増して可愛らしいですね」 「あら、お上手」 楽しい夢の一時へと誘う様に、亘は笑う。 「宜しければご一緒してもいいでしょうか?」 答えは勿論OKだ。市中をぐるりと見回しながら、合言葉を繰り返す。 \トリックオアトリート!/ 楽しげな予見者を見ながら、市中でお菓子を貰う事を目的としていた亘でも、其れだけでは物足りなくて、思わずシルクハットから鳩がこんにちは。 「わあ……っ」 驚きの声を上げた子供達の前で彼は様々なマジックを披露する。勿論見てくれた観客にはハロウィン用のクッキーを配る。笑顔が溢れるその場所に、亘は幸せそうに笑った。 少しでも笑顔あふれる時間にしたい。その時を感じて、作り出せたら最高に幸せだろう。ハロウィンだから、今は彼の『魔法』にかかってみせて。 和人は吸血鬼のコスプレをして夜の街を歩く。昔の知り合いに頼んだ衣装の出来は素晴らしい物で子供達も思わず凄いなあ、と見惚れてしまう物だ。 黒を基調に刺繍を散らした細身のスーツも、裏地が落ち着いた赤のマントも、白い手袋も黒の革靴も、隅から隅まで本格的にデザインさせたものだ。 牙のマウスピースも付けて、本当の吸血鬼に為り切って、心は躍っている。 年甲斐もなくはしゃいでいると周囲には言われるだろうか。嗚呼、それでもこういうイベントは遣ると決めたら全力を注ぐタイプだ。 吸血鬼の様な仕草をし、子供達に声を掛けられるたびにお菓子を配っていく。だが、可愛らしい女の子を見つけた時は其れもちょっと休憩だ。 「お嬢さん?」 声を掛けるのだって、仕方ない事だろう。足をとめた彼女に笑みを浮かべて合言葉を告げよう。 折角の夜なのだから、存分に堪能していかなければ! 燕尾服にマントをつけて、お菓子をたくさんつけたバスケットが腕で揺れている。ケットシーに扮したレイチェルは隣で白い狼耳と尻尾をつけたエルヴィンを見つめる。 「ふふ、兄さんとお揃いだね」 猫の耳を揺らしながら、スタイリッシュな白狼と共に市中を行く。ジーンズにふさふさファーの付いたブルゾン。 背中にはお菓子をつめた大きなリュックを背負ったエルヴィンは子供に声を掛けられるたびにお菓子を配っていた。 「悪戯なら此方のお兄さんへどうぞ。多少無茶しても大丈夫ですからね」 「さあ来い。どんな悪戯でも受け止めてやるぜ」 人のよい笑顔を浮かべたエルヴィンに小さな子供達は楽しげに突撃していく。ふと、レイチェルは顔を上げる。数ヶ月前にアイスクリームを兄と共に食べに行ったパティスリー。 「兄さん、行ってみましょう?」 兄を連れて、パティスリーの入り口で、レイチェルは優しく微笑んで見せる。 トリックオアトリート。南瓜を使った甘いお菓子を差し出して、これで良いかな、と微笑む彼にレイチェルは頷いた。 クッキーを口に含みながら、隣で三高平の景色を写真に収めるエルヴィンの様子を見つめる。 ぽちぽちと、何時もの如く送っているメール。メールの本文は『甘くて魅力的な悪戯は如何?』 そのメールの返信は、未だ、無いけれど。 ――話したいと思う。焦っても仕方ないから、今は未だのんびりと待とう。 「頑張れ」 妹は、そんな兄の様子にマメだな、と思いながらもため息を付いた。 話す口調から悪い人たちじゃない事は解っていた。アークに来てほしいと望んでいる事も妹は理解していた。だから、何時か、彼が望む未来が来ます様に、と少しだけ考えながら。 「こんばんは、アリス。とりっくあおとりーと?」 「やあ、可愛いアリス。トリックオアトリック?」 赤いドレスに猫耳と王冠で鏡の国のアリスの仮装をした旭はアリスこと世恋へと声を掛ける。続けて、遥紀はチェシャ猫の仮装をして顔を出した。 「まあ、お菓子じゃ駄目かしら」 くすくすと笑いながら可愛い赤の女王(かいねこ)達へと向き直る。悪戯するなら悪戯する覚悟もあるよね、と告げる彼に望む所よ、と予見者は笑った。 「ね、一緒に回っていーい? トリート用にクッキー一杯持ってきたの」 「勿論、ご一緒しましょう?」 猫耳を皆につけるんだ、と張り切る旭が猫耳をつけている理由は単純明快。可愛いからだ。自分が。 それじゃ、皆も可愛くしなくちゃいけない。チェシャ猫さんや赤の女王と一緒にしよう。猫耳を旭が担当するなら尻尾かな、と笑う遥紀に旭は頷く。 「かわいーもん。ねー?」 「そうだね、確かに仲間が増えるのは良いね。けど、可愛い二人と一緒だと男連中に恨まれそうだ」 満足そうに笑って旭と共に歩きだす。二人揃って思い出したように、アリス、と呼んだ。 旭から親愛なるアリスへと送られるのはクッキー。プレーンはプラリネ、チョコ生地はドライフルーツ入りのトランプの柄のクッキー。 赤の女王にぴったりの其れに嬉しそうに笑うアリスの掌に可愛らしい蝙蝠のコサージュと携帯ストラップが落とされる。 「魔法瓶からなみなみ注ぐ、暖かなカフェオレと此方」 アリスを誘惑するのはチェシャ猫のお仕事だから、と片目を瞑り笑みを浮かべる。 「世恋。誕生日おめでとう。素晴らしい一年となります様に」 瞬いて、幸せそうにほほ笑みを浮かべる。嗚呼、何て嬉しいのかしら。チェシャ猫の誘惑って、とっても怖いのね。 緑色の髪を揺らして、かぼちゃ色のメイドは子供達へとお菓子を配る。彼女の髪よりも明る色のエプロンと白い羽を揺らしながら、優しい微笑みを浮かべる。 ――だが、大人に会ったら強奪……いや、微笑んで頂くしかない。だって、お腹がすくから仕方がない。 ニニギアにお菓子を差し出したハロウィンの参加者の表情が、その背後の南瓜の妖精に向けられて固まるのも致し方ないだろう。 「なぁ……これ着て回らないとダメなのか?」 「ふふ、駄目。きっと三高平一、『かぼちゃのようせい』が似合う男性だわ」 自慢の恋人にくすくすと笑いながら、背後霊の様についてくるランディの手を引く。楽しげにはしゃぐニニギアの様子には癒されるが、恥ずかしいとか格好悪いなんてチャチなモンじゃなくもっと大事なナニカを失った気がして、ランディは項垂れる。 ニニギアが貰ったお菓子を袋に詰めて、背負っては彼女のはしゃぐ姿を見つめる。 「トリックオアトリート!」 扉を開いて、可愛いメイドと南瓜の妖精。ぷいぷい~と魔法を掛けてくるその妖精の姿にびっくり顔を浮かべる彼らの様子がニニギアは楽しくて堪らない。 ニニギアの様に真似をするか、と南瓜のステッキを振るいながら子供に向かったランディ。 「とりっくおあt……おい、コラッ! 逃げるな!」 ――あまりに強烈だったようだ。逃げる子供の様子を見てくすくすと笑うニニギアにヤケになったランディは更にステッキを振るう。 「ぼくは かぼちゃの ようせいさんだよ! わるいこは このまほうのすてっきで いたずらしちゃうぞ! ゆんゆん!」 心の傷が、出来た。 「ゆんゆん!」 くすくすと笑いながら、そっと手を伸ばす。お疲れ様と微笑んで、沢山のお菓子を彼へと見せる。 「みて、こんなにも沢山貰えたの」 とん、と浮きあがり、彼の頬に――ではなく、かぼちゃの頭にキスを送る。こんなにたくさん貰えても、やっぱり最後は貴方が良い。 「トリックも、トリートも、両方。ランディにはいちばんたくさんしたいの!」 「ん、そう言われると嬉しくなるだろ。俺もニニには沢山お返ししなきゃな」 笑いながら抱きしめてくる優しい腕。引き寄せて、唇を寄せる。だから、あなたにトリックオアトリート。 ゆんゆん~。 日が落ちるとすっかり冷え込む様になってきたけれど、其れでも甘いお菓子の前では寒さなんて関係ないのだろうか。子供は風の子。 甘い匂いに誘われて、お菓子を大量に抱えてあちらこちら行く不思議の国の少女の格好をした予見者を見ると特にそう思う。――実際はもう二十代半ばの筈なのだが。 「Une farce ou une friandise?」 目の前を通りかかった世恋に、呼びかけて。その言葉を理解できずにぴしりと固まった所を、氷璃はくすくすと笑いながら一番上のお菓子を口に含む。 甘いカボチャの味がするクッキー。何が起こったのか、と目を白黒させる世恋に氷璃は色づく唇を歪めて、じっと見つめる。 「油断大敵ね、世恋」 驚き過ぎてショックを受けて居るのか、ぽかんと口を開く彼女の頭を撫でて、慰める。 「“お菓子くれなきゃ、悪戯するぞ”と言ったでしょう?」 「え、あ、え……!?」 仏語のその台詞の意味をやっと理解したのだろうか、慌ててお菓子を差し出そうとするものの両手にいっぱい抱えた状態では差し出す事も適わない。だから、悪戯と称して食べ続ける、と上から順に食べる氷璃に慌て半分、泣き出しそうな表情を浮かべたりする予見者。 (――ふふっ、表情がコロコロ変わって面白い子だわ) 本当に幼子の様な彼女の様子に満足して、食べた倍の量のお菓子を世恋の腕へと収める。肌寒さを感じる首元へo(・∀・)oのボンボンが付いたマフラーを巻いてやりながらもう一度頭を撫でた。 「ほら、此れが悪戯よ?」 ● 立食パーティーの会場は外ほど騒がしくないが、楽しげに談笑する声が響いていた。 「トリックオアトリート。碌でもない悪戯はしないようにな」 ユーヌの声を聞いているか聞いていないのか、竜一は楽しそうに変身ポーズを華麗に決める。南瓜ヒーローの仮装をした彼はユーヌへ向けて突進する。 「お菓子あげるからイタズラさせろー!」 本末転倒であった。 「スカート捲りッ!」 その声に、呆れる事もなく、常の無表情でユーヌは「見たいなら見せても良い」とさらりと告げる。但し部屋でだけだ。なんて甘い言葉なのだろうか。何処かの桃色の魔お……天使様が腹パンを喰らわせたい気持ちが少しだけ理解できる。 「ユーヌたんのスカート捲くってパンツ見ていいのは俺だけ」 「ああ、外でさせる気はない」 ならば、と様々な装飾具をつける悪戯だ、と勢いが侭にメガネを掛けさせる。 以下、竜一君の煩悩溢れる一部始終をご覧頂こう。 「先ずはメガネ! メガネっ娘かわいい! ぺろぺろ!! 次は猫耳! にゃーんって言って!」 \にゃーん/(無表情) 「ぺろぺろ!!! ツインテール! かわいい!! ペロペロ!!」 ――されるがままのユーヌも凄い。普通ににゃーんと鳴いてみたり、これがいいのか、と首を傾げて聞く彼女に仮装だから普段と違うユーヌが見たいのにと唇を尖らせる竜一。 「そろそろネタ切れか?」 ヒーローの仮面に『恥』と書いたユーヌは項垂れた彼を見つめる。仕方ない、と膝に抱きあげられ。仮面を外した彼の膝の上で困った様に笑う。 パーティーの料理を一緒に食べようというのに膝の上は食べにくくないか、そうは言いつつも寄りかかるのだから、小さな恋人が可愛くて仕方がない。あーんと開いた口にきちんと料理を運んでくれるユーヌ。 「可愛いなあ!」 「……食べるかキスか一つに絞れ」 ちゅ、と笑みを浮かべて唇を寄せる彼に、呆れ顔を浮かべながらもユーヌは唇を寄せた。 色気を重視した吸血鬼的なドレス。妖艶な蝙蝠の翼や尻尾を装備して、頭には山羊の様な悪魔角のヘアバンド。 「Shall we dance?」 淑女の笑みを浮かべて、今宵を共に踊り明かそうと声を駆けるのは伸暁。自身をtrickしてるというそのマントを開いてくれるかしら、とエーデルワイスは笑みを浮かべる。 「貴方の心も一緒に開いて欲しいわね、うふふふ」 「こんな夜だから、sessionだって熱くなるな。このtrickは俺をtreatしているから魔法が解けたらこの夜も終ってしまうだろう」 エーデルワイスは笑みを浮かべる。NOBUのリードに合わせて一曲。曲目はNOBUの楽曲のクラシックバージョンでどうかしら、と彼女は視線を配る。 難しいリクエストにNOBUも「Oh……」と漏らすことしかできない。どんなセッションだ。 「嗚呼、それと、最期に貴方の魂の歌を生で聴きたいな。これは欲張りかしらね?」 今夜くらい、サービスしてよね、男の子! なんて笑うエーデルワイスにNOBUはいいぜ、と決め顔で答えた。NOBUだから。 「うふふ、似合うしとっても可愛いわ!」 ジャンが去年来ていたハロウィンのメイド服を仕立てなおして壱和に着せていた。 執事のジャンとメイドの壱和のセットはとてもかわいらしい。 「ジャンさんの執事服も似合っていて格好いいですよ」 ちょっと恥ずかしいですね、と身をよじらせる壱和ににこりと微笑んで、二人揃って料理を取りに行く。 「アタシ、このカボチャのシフォンケーキがおすすめよ! 黄色も綺麗だし種も香ばしくて美味しいのよ」 「ジャックランタンのクッキーも美味しそうですね」 掬いあげられたシフォンケーキを口に含み、美味しい、と微笑む。お返しにとフォークを差し出せば、ジャンはにこやかにほほ笑んだ。 「あ、ちょっと動かないでね?」 そっと口元にハンカチを宛がわれる。ケーキの破片を取り、よしと微笑むジャンに気恥ずかしそうに壱和は視線を下げる。 「本当ならボクがお世話する方なのに、されっぱなし、ですね」 「あら、気にすることないのよ」 何時も何時も気を使ってくれるから。だから、これ位甘えてくれても良いのに、と微笑みかける。 「でも、そうねえ……ふふ、何か困った事があればお世話して貰おうかしら?」 よしよし、と頭を撫でられて、壱和は微笑んだ。 「はい、困った事があればなんなりとお申し付けくださいね。ご主人さま」 その一言に瞬いて。嗚呼、とんだトリックだわ、とジャンは微笑んだ。 友人たちと談笑しているミュゼーヌの仮装は南瓜をイメージしたオリエンタルな踊り子。ふわりと揺れる紫の飾り布がアクセントになるものだ。 ふと、空腹を感じた事を友人に告げれば、何か取りに行く?と問われるが彼女は首を振る。 「……ああ、お腹空いたわね。魔人よ、美味しい物を一杯持ってきなさい」 手にしたランプをこすって、まるで演劇の様に呼ぶ。ランプから出てくる訳ではないけれど、ハロウィンのパフォーマンスとしては上出来だろう。 「お呼びでしょうか、ご主人様」 ランプの魔人の仮装をした三千が優しげに微笑んだ。彼女の恋人の登場に友人たちはわぁ、と声を上げる。 (今の僕はミュゼーヌさんの忠実な部下である、ランプの魔人……) ご執心ざまの望み通りに動くのがその役目。ロールプレイだと思えば人に見られる事も恥ずかしさもなかった。 にこりと微笑んで、胸を張って、手にはジュースとお菓子を持っている。 「好きなものばかり……」 用意された食べ物はミュゼーヌの好物ばかりで、素で驚いた表情を見れたからか三千は幸せそうにふふ、と笑う。 「勿論、ご主人様の好きな味ですよ、ふふー」 「まぁ……私、何も言ってないのに」 「わざわざ指定されずとも、このランプの魔人にとってはお安いご用です」 にっこりと笑う彼のロールプレイは余裕が湛えられている。流石は魔人ね、と言えば彼は更に嬉しそうに笑った。 ――けれど、ランプの魔人のロールプレイを崩してあげよう、と意地悪くミュゼーヌはそっと近寄る。 「ふふ、流石は願いをかなえる魔人さん。内容もばっちりだわ」 ご褒美に、と頬に唇を寄せる。その後、顔を覗き込んで、ミュゼーヌは満足そうに笑った。 紫の髪を揺らして、小さく笑みを浮かべたシエルの格好は普段の世恋を真似たものだった。 袖口のフリルを揺らし、くすくすと笑いながら、ホールの中を進んでいく。不思議の国の少女の背中は何処だろう。 「ふふ……っ、不思議の国の少女が、鏡越しの自分に出逢うとか、あっても良いですよね」 浮かべた笑みを其の侭に、立食パーティーの会場で楽しげに周囲を見回す背中にそっと近寄る。 \トリックオアトリートッ♪/ びく、と肩を揺らして振り返れば、其処には通常の自分と同じ格好をしたシエル。 「えっ、えっ、わ、私!?」 「――どんな怪我でも治してあげる。さぁ、目を閉じて?」 鏡たる彼女はブリーフィングルームで世恋がよく口にする言葉を真似て告げて見せる。 慌てふためく予見者が「シエルさん」と名前を呼んだ所で、何時も通りの笑みを浮かべてチョコレートクッキーを差し出す。 「私も世恋様とご一緒しても?」 「ええ、是非。……わあ、何だか驚いてしまったわ。私、なのね」 指先をも隠す袖口を口元に持って行き、シエルは笑みを浮かべた。柔らかな夜の帳は悪戯にもってこい。こんなに騒がしくも楽しい夜なのだから、小さな可愛い悪戯をしたって良いじゃないか。 「世恋様の鏡……見事こなしてみせましょう♪」 シエルの言葉に、くすくすと笑って、それじゃあ宜しくね、と囁き合う。 そんな二人の所へと、立て襟のフォーマルを纏った吸血鬼が顔を出した。 「よう、月鍵」 仮装に対しては普段と代わりないだろうか、と思いながらもリオンは人込みから目当ての姿を見つけた。 少しの食事と酒を手にした侭に近づいて、世恋に扮したシエルに視線を送りくつくつと笑う。 「……相変わらず人気者の様だな?」 「まあ、ご冗談を」 不思議の国の少女を見つめて、可愛らしくて似合っていると告げれば、年齢以上に外見も、性格も幼い予見者は嬉しそうに笑った後に、子供じゃないのよ、と告げる。 「いや、一緒に食事や酒でも、と思ったが、相変わらず人に囲まれている様だからな」 「リオン様もよろしければ」 「ええ、ご一緒にどうかしら」 シエルと世恋の誘いに手をひらひらと振って彼は背を向ける。 「何、気にするな。今の時間を大切にするんだ」 自分と話すよりは楽しかろう、と向ける背に、そんなことないわ。ご一緒しましょう、と袖を引く。お話しは沢山の人でした方が、きっと楽しいから。 仮装すると何だか気恥ずかしい気がすると龍治は自身の服装を見つめた。 「もう一つの衣装は駄目なのか?」 む、と唇を尖らす木蓮にアレは婚礼衣装だから、駄目だと首を振った。 「まあ、此れもお気に入りなんだ、頑張って用意して良かった」 尻尾だって自前の尻尾に上手く付けたから動くぞ、とふりふりとする。木蓮が身に纏っているのは龍治の普段の仕事着だ。似合っているけれど妙な気恥かしさに頬を掻いた。 「龍治も似合っているぞ。へへー、格好いい」 二人揃って笑いながら、適当に料理を見繕う。木蓮も料理を共に眺めているが視線の先に在った酒を見つけて、とってくると手を振った。 「これ、お前の好きなやつだよな?」 「む、良く覚えていたな」 頭を撫でて礼を云えば、嬉しそうに目を細めた。二人で端の椅子に腰かけて、料理を口にしている時に、龍治、と木蓮は呼んだ。 「あのな、俺様達が出逢ったからそろそろ一年になるんだ。付き合い始めるのはもう少し後だけど」 凄く大切なことだから、送りものだ、と視線を逸らして、頬を赤らめながらそっと差し出す。 驚きに瞬いたものの、直ぐに、箱を受け取る。 「お前が何時でも集中して引き金を引けるように、シューティンググローブを見繕ってみた」 「……出逢ってからもう一年か、もうそんなに経つのだな」 気づかいが嬉しくて、微かに微笑んで受け取った。グローブは確かに彼の手に馴染むもので、彼女がくれたとなればきっとこれからの戦いでも役に立つだろう。 「……しまった、こちらは何も用意していない」 頬を掻いてから、木蓮、と呼んだ。近いうちに共に買いに行こうと約束して。 珍粘……失礼、那由他・エカテリーナはハロウィンらしい黒と橙を基調にしたドレスを身に纏いホールの中を歩んでいく。目の前にはアークが誇る(訳の分からない)フォーチュナ。 「隠されてると、気になるのが人情ですよねえ」 本日の伸暁の仮装は黒いマント。中?――嗚呼、そんな物『俺が俺をtrickしている』から知った事ではない。 そろそろと近づいて、彼のマントを捲くろうと那由他は背後から襲撃! 「いえーい! とりっくおあとりーとー!」 だって、気になるから仕方ないではないか。悪戯ついでに面白い事になると自分の勘が告げるがままに捲くり上げる。 そもそも自分自身をtrickとは何だろう。来年は自分自身をtreatするのだろうか。まあ、其れでも楽しいから、どんと来い!という所なのだが。 マントの中身は―― 「trickを破ったら折角のmagicすら悲しくなってしまうだろう。だから、これは君と俺の奏でるsymphonyに隠したsecretさ」 ――つまりは、秘密と言う事で。 くすくす笑いながら、食事を手にとって、イヴや世恋を見かけてはにこりと笑う。食事も可愛い少女も楽しめて、何て良い夜なのだろう。 「あ、おかわりあります?」 隣に立っているtrickマシーンは頷いて何故か(凄まじく綺麗に)盛りつけられた皿を差し出した。 「こんにちは、世恋ちゃ……さん! トリックオアトリート!」 白いスーツを纏った姿はまるで怪盗。ついつい油断しては予見者の年齢を忘れてしまうからと慌てて、呼称を変えた悠里に世恋は小さく笑って「ちゃん」でもいいのに、と告げる。 「ちょっぴり遅くなったけど、お誕生日おめでとう!」 「まぁ、有難うっ」 近くにあったグラスを引き寄せて適当に注いだお酒で乾杯する。度数の低いアルコールが喉を通る感覚が心地よい。そこで、ふと怪盗の悠里が一人だという事に首を傾げる。 「ねえ、エンジェ……彼女さんは?」 「ああ、恋人は仮装とか恥ずかしがるから今日は一人だよ。最近誰と会っても彼女は如何したのって聞かれるんだけどさ、別に四六時中べったりって訳じゃないからね!?」 ホントだからね、と告げる悠里に小さく頷いて。其れでも慌てた様子に面白そうに笑う予見者に困った様に悠里は頭を掻く。 「そ、その格好可愛いね。僕の格好どうかな? 似合う? 世恋さんのハートも盗めそう?」 「まあ、盗んで下さるの?」 冗談めかしたやりとりで。別にどちらも本気と言う訳でもないけれど、ハロウィンの仮装なのだ、役になりきるのも悪くはないだろう。 不思議の国の少女と怪盗は互いにくすくすと笑った。 \なんと! 突然のゆーしゃなのです!/ 「なんと! かくれんぼするのです! 世恋さんも一緒なのです!」 「え、え!?」 「いってらっしゃーい。……僕が参加するには若さが足りなかったよ」 ――そして、突然『アークかくれんぼ協会』が幕を開けるのだった。 ● 荒野に風が吹く――妄想をした。 「ふふ……」 うっすらと笑みを浮かべたフラウはにやりと笑みを浮かべる。 「アーク鬼ごっこ協会だけだと、何時から錯覚していた? 馬鹿めっ! アークかくれんぼ協会もあるっすよ!」 \開会宣言/ ドヤッとした顔で、水色のエプロンドレスを揺らしたフラウは周囲の目線にへらりと笑う。 「今出来たんすよ」 折角だから世恋もNOBUもイヴもおいでと手招いて。『アークかくれんぼ協会』主催のかくれんぼが今、始まった。 「ええ、かくれんぼをするわ。別に雑記とか関係ないんだからね!!」 壮絶なるメタファーを含んだ糾華だって一応やる気十分だ。鬼が居なかった時はNOBUに拒否権を与えずにこの(終りなき)かくれんぼの鬼という名誉職を与えたことだろう。 「さあ、乗るしかねー、このかくれんぼウェーブに! 折角だし楽しもうぜ!」 マントで仮面で怪人ルックの創太のやる気も十分だ。 其処に突然現れるバイデンクイーン。ハロウィンだしバイデンでいいよね!ときゃぴっと笑う壱也。 クイーンならば致し方がない。クイーンだから。まじ女王だから仕方ないのだ。 鬼が少ないなら鬼になろうかな、なんて言っているがバイデンだしなの視線を受けて壱也はじたばた。 大丈夫です、似合ってますよ。女王。 「NOBUのスタイリッシュオーガをお願いしたい所だ」 「嗚呼、俺は輝きが強すぎて隠れられないからな」 鬼が、増えた。 ベルカの仮装は祖国に伝わる労働妖精のキキーモラだ。つまりは働かない奴死すべし!状態。恐ろしや。 「うおおお、働かない子はいねがー! お菓子をくれない子はいねがー!」 鬼は、ここにいた。 「さー行くよー!」 ――だが、かくれんぼ協会を罠に陥れる刺客が存在していた。 トリックかトリートか? 勿論、トリックを選ぶね! 路地に並べられた南瓜。ずらっと並んでいる其処にはお化け達が潜んでいる。可愛らしい青のドレスの上に何故か簡素な白い布を被った大和。 「悪戯側に回るなんて、なんかドキドキしますね……」 「わくわくするわね! だって、思いっきり吃驚させても怒られたりしないんでしょ!」 童話のお姫様が来そうなものを動きやすくしたふわふわのドレスに身に纏い雅はそわそわとしている。 そして路地に現れたのはミリィとはいぱー馬です号と羽衣だ。 ぽぅ、と突然輝いた南瓜にミリィと羽衣(と馬)が驚く。突如鳴り響く琵琶の音。 「ハッピーハロウィン!」 その声と共にマントを靡かせて屋根から飛び降りる。トマトを齧って血に飢えたヴァンパイアが突然現れて羽衣の脚が、じり、と引いた。 優希に驚いて、うまーうまーと鳴いている馬は兎も角して、少女二人はきゃあ、と声を上げて、寄り添った。 「Trick or Treat。今宵は特別に、闇のアイテムを分けてやるとする」 遠慮なく受け取れ、と赤い星のクッキーを差し出した。イチゴ味、スイカ味、激辛唐辛子味とランダムな其れを口に含み――辛さに悶絶する羽衣(と馬)。 「いやァ、今ので怖がらないなんて流石ッスね!」 「やった! 大成功ですよ……ってあれ? う、馬……?」 フツが差し出したハロウィンのお菓子は可愛らしく包んだ生キャラメルだ。南瓜色の其れに南瓜かな、と口に含むと、咥内に広がるのは柑橘系。 「南瓜、オレンジ、マンゴーのどれが当たるかはお楽しみだ」 二重に驚くってわけさ、と笑った彼に頷きながら、大和は白で統一されたマシュマロ、ホワイトチョコにミルクキャンディーを差し出した。 「ほら、大福も持ってけ泥棒!」 現れたのがイーリスの愛馬・はいぱー馬です号だった事に驚きを隠せないままに大和はミリィと羽衣へとお菓子を差し出した。 ――其処に忍びよる影! そっと背後から近寄って、雅は声を駆ける。無論、少女達にだ。馬にではない。 「ハッピーハロウィン!」 だが何故か驚いて逃げる馬。肩をびくりと揺らして「ひい!」と叫んだミリィにくすくすと笑いながら黄色の何かを適当に渡す。 「何が入ってるかはおたのしみ」 存分に味わいつくそう。来年はこうやって楽しめるか解らない――いや、来年もまた、こうやって楽しめます様にと思えるように。 南瓜の明かりは消えている。見上げた空にはもう星が昇っていた。 \トリック・オア・トリート!/ びょーん、と上から降ってくるのは『吊らされた男』の仮装で夜の街角に紛れていた快。 息を殺し、気配を殺し、守護神は今、夜の闇に同化して獲物を待っていたのだ――主に世恋を。 「―――ッ」 言葉にもならなかった。眼を見開く世恋と童心に帰っていた糾華。さりげなく愛用の武器を構えた所で一生懸命に手を振り回す。 「違うっ、サンドバッグじゃないよ!」 「はっ、腹パ「言わないで、桃子さんがくるよ!?」 一生懸命に暴れる吊らされた男から逃げる少女達。 ハッとフラウと快の目線が克ち合う。程ほどに逃げ回ってお菓子を配ればいいかな、なんて考えるフラウの目の前に突然現れた吊るされたサンドバッグ――快。 「うちの完璧なかくれんぼスタイルを見つけるとは! やりおるなっ!」 ※通りかかっただけ。 見つかったからには仕方がない。お菓子を相手にシューッ! 吊るされる男の口の中にチョコレートが突き刺さった。 「十凪を探す事が隠れミッション……」 フライエンジェだと飛んでるのかな、ときょろきょろと見回す。見つけたら引き摺っていこう。捕えてしまおう。 そう考えると神様は壱也の味方なのか目の前には創太の背中。入口の銅像の振りをしているのだ。なんて解りやすいのか。 「私から逃げようったってそうはいかないよ! あと、トリックオアトリート! お菓子頂戴!」 慌てて逃げ出す創太の目の前には創太のmissionであるNOBUの姿。 ――NOBUから逃げてこの南瓜色の明かりに埋もれる夜を彩りし甘き囁き(おかし)を守り抜く事ができるのか! 「ほら、NOBU! お前にはすぎるかもしれねぇがこのTreatで、お前の眼は囁きに溺れるだろう」 ハプニング(壱也)から逃走しながらも、彼はNOBUへと華麗にシュート。堂々としていた俺様を追いかけるバイデンクイーン。 パーティー会場に波乱を巻き起こしていた。 そんな中でもかくれんぼは5歳の時の想い出だった糾華は仮装が目立つ為に大胆な事はできないと考えていた。勿論そんな彼女の隠れる場所はパーティー会場だ。 仮装パーティーの中であれば、仮装の彼女は正に『樹を隠すならば森の中』状態。 「ふふ、これで勝つるわ!」 ニコニコしながら、料理がおいしい、デザートが美味しいと手に取っていく。パーティーって素敵とほんわかしながら、色んなものを口に含んでいく糾華の目の前にバイデンクイーン。 「あ」 「あら、見つかった……」 じゃあ、一緒に十凪を捕まえよう!とやる気十分の壱也に糾華は頷いた。――逃げて、十凪くん。 ● \だが、私は鬼ごっこを選ぶぜッ!/ ――こう宣言するのはアーク鬼ごっこ協会で開会宣言を務めたミリィだ。 「けれど、今回はなんとっ! 皆でかくれんぼをしているのです!」 鬼をスニーキングして隠れながらも街の皆からお菓子を貰ってほくほくしている彼女。 先ほどは南瓜のお化け達に出逢った彼女でも、しっかりバッチリかくれんぼ続行中だ。 「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃいますっ!」 「どんな悪戯?」 首を傾げた世恋に、考えてますよ、と慌てて付け加える。 「もの凄い悪戯なのですよ! タクト的に!」 ――考えては、無かったのだろうか。 迫り来る鬼にお菓子を渡して逃げる。これぞ、ハロウィン的なかくれんぼですよね、とミリィは微笑んだ。 ダイジェストでお送りしよう。走って逃げていると華麗にこけたルアは涙を浮かべながらも、私泣かない。泣きそうだけど、だって女の子だもん、の勢いで懸命に隠れた。 ――だが、緑のツインテールが露出していたので頬を膨らませながら逃走を図り、二度目の顔面スライディングを決めたのであった。見事、鬼となった彼女は現在探索中だ。 そんな彼女が探しているのはイーリス(と馬)だ。かけっこは得意だけれど、探すのは如何だろう。きょろきょろと周囲を見回しながら、辿りついたのは勇者の銅像の前。 「なんと! わたし! 隠れるのです!」 流行りなのか銅像。銅像の横に同じポージングで立っているイーリス。ドヤ顔である。 木を隠すなら森の中。絶対に見つからないとでも思ったのか――ご覧、あの銅像。勇者だけれど、あれはイーリスに似ているとても似ている。ルアの心はざわめいた。 「ほも!」 「ほも!!」 「イーリスちゃん見つけたっ! あうっ!」 おおっと、此処でルア選手の華麗なる顔面スライディング。しかし、イーリス、勇者だから仕方ない。 心を鬼にして、鬼になるのだ。 「……はいぱー馬です号……今は、敵同士なのです」 彼女の馬は今、何処にいるのだろうか―― 白樺の所に木に沿って後ろ脚だけで頑張って立っている馬。かなりフルフルしているし必死な形相である。 うまー、と思わず鳴き声を上げて心細くてちらっちらっとあたりを見回す。鼻息だって荒い。 誰か早く馬を見つけて遣って欲しいと願うばかりだ。 \うまー……/ちらっ! 「かくれんぼかぁ、昔はよくやったなぁ」 怪盗みりゅーん3世は世恋とイヴを連れて物陰に隠れていた。ひそひそ話しをしながらもイヴの可愛らしさに逸る気持ちを収められない御龍。 「その衣装、可愛いねえ」 「有難う。智親と選んだ」 似合っているなら嬉しい、とあまり表情は変わっていない様にも思うがその顔には笑みが浮かんでいる。 そんな様子も可愛くて、お菓子をあげようね、と取り出したのは和風のパッケージの梅の飴。 「これは不思議な飴だよぉ。きっと二人とも好きになっちゃうぅ」 そっと手品を見せた所に、鬼になっていた隆明が顔を出す。 「トリック オア トリイイイイイト!」 びく、と肩を揺らした三人の前に。非戦フル活用でエクストリームかくれんぼを行っている彼。折角の祭りだからと言ってテンションは倍増だ。直ぐに飴を渡して逃走を図る御龍とイヴ。 近くに隠れていた羽衣がひょこりと顔を出して、世恋逃げましょう、と手を差し出す。しかし隆明もここでは引かない。 「捕まえたらくすぐりの刑だ!」 「やだー!?」 「可愛いよ世恋ホント可愛いよ世恋楽しそうに目を輝かせる世恋かわいいよ世恋」 「可愛いって言わないでー!?」 照れるわ、と大げさに慌てふためく世恋へと笑いながら隆明はお菓子の詰め合わせを差し出した。受け取りながらも居心地が悪そうな彼女の手を引いて、羽衣は逃げろとばかりに走り出す。 「ねえ、お腹が空いてると戦えないでしょう」 植木の影を二人で歩みながら羽衣はミッションは沢山あるわ、と笑う。 「鬼が沢山居るわ、隠密よ! 大丈夫、隠れて上手くやれば兵糧ゲットなのよ!」 羽衣は走り出す。隠密行動(笑)をしながらたどり着いたのはパティスリー。こそりと近寄って小声で魔法の呪文を唱える。 「かくれんぼをしてるの。お菓子をそうっと頂戴」 そう言えば、そっと差し出されるお菓子。 お礼を言って羽衣は世恋の手をとって街の明かりに溶け込んだ。 見つかったって楽しい。 だから、皆でもっと一杯遊ぼうね、と仲間達の輪の中に、ふわりと翼を揺らして走っていく。 「………その、うん、だれか……」 そして、一人置いてかれているこの男は未だに吊るされていた。 「誰か、お願い。気付いて……」 ハロウィン(とかくれんぼ)は未だ終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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