● 「見てくれよ叫喚君。此れが僕の『キマイラ』アラクネだ」 アラクネ:女神アテネと織物勝負で争った末に、其の不敬故に蜘蛛と化した女。ダンテの『神曲』にもアラーニェと言う名で煉獄に登場する、上半身が裸の女で下半身が大蜘蛛の化物だ。 よれよれで何が原因かわからない得体の知れない染みの付着した白衣を、悪い意味で違和感なく着こなす研究員の言葉に、叫喚は溜息を吐く。 「アラーニェ、いや、アラクネか。……此れがキマイラの完成品かね?」 けれども其の溜息に籠められたのは、以前『プロトキマイラ』を目にした時とは違い、感嘆だ。 以前見せられたプロトタイプのキマイラは、姿も蕩け爛れ、実に醜悪な化物だったが、このアラクネは違う。 「そう、僕の完成品の二体目。君達地獄にはアラーニェの方が通りが良いかな? キマイラ研究は一先ずの形を見たよ。無論改良の余地はあるし此れからも強化研究が続くけれど」 隠し切れない喜びと自信に満ちた研究員の姿に、叫喚は僅かに皺を寄せるが……、それでも今回のキマイラには咄嗟の皮肉が思いつかない。 姿形に崩れも無ければ、バランスの乱れも無く美しい。それどころか其の瞳には、僅かながら知性すら感じる。 アラクネの……、更に其の奥には今も調整中の戦闘型のキマイラの影。 「アラクネは増殖型キマイラだから、ヘカトンケイル程の戦闘力は無いけどね。でも小さな子供レベルの知能もあるし、其れに何より、彼女は獲物を使って増殖出来るんだ」 嬉しそうにその増殖法、下半身の蜘蛛が女性の腹部に繁殖針を打ち込む事で、其処にキマイラ用に調整した蜘蛛のエリューション因子植え付ける仕組みを解説する研究員こと『エンスージアスト』長谷村零司郎。 やはり、彼にはどうしても気持ちの悪さが付き纏う。 「始めて君の研究を褒めるが、見事だな。相変わらず君は気持ち悪いし、その趣味嗜好もおぞましいが、それでも此れは見事の一言に尽きる」 無論其の増殖では仮の、完成度の低いキマイラが生まれるのみであるが……、無事に帰還すれば調整を受けて完成体へと生まれ変わる事が可能である。 生み出された仔キマイラは、親キマイラであるアラクネの命に従う。 「あはは、君に褒められると凄く照れるね。でも嬉しいよ。そうそう、丁度紫杏様から、完成品を使用して盛大に遊べってご指示も来たのさ」 続く零司郎の自慢話。 けれども、そうだ。キマイラの研究が完成したなら、人としての彼との別れも近いのだろう。 叫喚は知っていた。友人である彼にだけと、零司郎が教えた真の目的。 キマイラの増殖研究を進める零司郎の本当の目的が、キマイラと化した自分が六道の姫に最強のキマイラの胤を植え付ける為である事を。 研究の名目で、自らの歪んだ欲望を充足させる為である事を。 無論其れは、無茶で無理で、自分にのみ都合のいい願望で、幻想に過ぎないのだ。 研究と言うお題目があれば、自らの歪んだ思いを六道紫杏は受け入れてくれるとの夢に縋る哀れな零司郎。 例え零司郎が最強のキマイラと化そうとも、其れが叶うとは叫喚には到底思えない。 しかし、地獄の沙汰も金次第。不要な忠告などしはしない。 雄弁は銀で、沈黙は金なのだ。 「友人よ、君の執念最後まで見届けさせて貰うぞ」 其処に益が生まれるのなら、友人のフリでもしながら狂った妄念を最後まで見物しよう。 ● 「諸君はタワーマンションと言う単語をしっているかね?」 集まったリベリスタ達に問う『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)。 モニターに映し出される静止画は、ある超高層マンションの写真だ。 超高層マンションとは従来のマンションと比べて際立って高い住居用高層建築物の俗称であり、其の別名をタワーマンションと言う。 厳密高さの定義は存在しないが、57m以上、或いは97m以上とされる場合が多い。 この国には、150mや200mを超えるタワーマンションも幾つか存在する。 「其のタワーマンションに、……ふむ、随分と久しいが、あの<六道>の生物兵器が出現する」 沈黙期間の間に其の完成度を大幅に増して。 主流七派が一つ『探求者』六道。彼等の生物兵器である新種のエリューションであるE・キマイラはアザーバイドや既知のエリューション等の、複数の因子を内包する人為的に生み出された怪物だ。 「奴等の狙いは此れまでと違ってはっきりしない。ただ、そう、ただ完成度を上げたキマイラを見せ付けたい、或いは其の暴れる姿を自分等が見たいだけの、無目的な蛮行に私は感じる」 巻き込まれる方はたまったものではない話であるけれど。 資料 『キマイラ』アラクネ:巨蜘蛛の下半身と女性の上半身を持つキマイラ。 E・ビーストでも無く、ノーフェイスでも無い。無論当然人にも非ず、複数の因子を併せ持つ新種の化物。 細く強靭で粘着性のある糸や、非常に強力な毒を使う。キマイラの特徴である強い再生能力と、更には繁殖針を備える。 自在に壁面や天井を這い回る事も可能。 上半身に使われた女性の名前は荒根・美子。織物でアートを作る芸術家。下半身の蜘蛛に名前は無い。 繁殖針を胎に刺された女性は、約一分~三分程で下半身を蜘蛛と化して低い仔キマイラになる。 その際繁殖針を刺された臓器が蜘蛛のエリューションと化し、その後蜘蛛のエリューションが融合しながら神経を支配してくる為に、非常に強い苦しみが女性を襲う。……が、同時に流し込まれる麻痺毒の為に、苦しみを感じながらも動く事も叫ぶ事も不可能である。 麻痺毒はキマイラ化が済めば耐性により無効化されて動き出す。 仔キマイラ:巨蜘蛛の下半身と女性の上半身を持つキマイラ。 アラクネに支配され、彼女の意思のままに動く。 能力はアラクネに準じるが、アラクネに比べれば力が劣る。 「諸君等の任務はE・キマイラの討伐だ。今まさにE・キマイラと化しつつある女性達もすべて含めて、処理してきて欲しい。戦場は特殊な場所であり、状況も刻々と変化する厄介な物だ。……諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月04日(日)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 風が吹く。 未だ冬に至らぬとは言え、深夜の、高所での、風は身を切る様に冷たい。 「……いた」 地上までは果たして何mあるのだろうか? 目測ではにわかに計りがたいが、優に100mは下らないであろうその高みから、『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が壁面を這い回るキマイラ、アラクネとその子供を見つけ、小さく呟く。 彼女の横から、2人の翼持つ少女がバサリと宙に舞い上がる。 不意に吹いた強い風に、水着姿の天乃のパレオが大きく揺れた。 変わらぬ表情とは裏腹に、高鳴る鼓動、緊張感は、強敵との戦いを前にしての高揚か、それとも始めての壁面をメインにした戦闘への好奇心か、……其れとも、水着すら着用しない下半身、敢えて穿かないを隠すパレオが何時重力や突風に捲れたり飛んでいってしまうかへの恐怖と期待か。 屋上から踏み出した一歩に、世界が90度傾く。 武器を叩き付けられたドアが破砕する。 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が叩き潰したドアを潜り、部屋に飛び込んだ『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の鼻を血臭がつく。 この一家の主であろう男性の生首が、手が足が、肉片が、そこら中に転がり壁は血塗れだ。けれど其れより何より悲惨なのが、既に腹が大きく膨らみ変化を始めた女性と、同じく腹を膨らませた……、まだ幼い少女の姿。 悲鳴も上げず、身動きすら出来ず、だがその瞳は雄弁に恐怖を語る。 だからこそ、リュミエールは躊躇わなかった。彼女に為し得る最速の動きで、ダブルアクション、行動の限界を取り払ったリュミエールは、ほぼ同時に母と娘、二人の命を無に返す。 母を先に殺せば、母を失った恐怖に娘の心は晒される。娘を先に殺せば、娘を目の前で殺された母の無念は如何程か。 何をしようと自己満足には過ぎない。所詮は殺す以外の方法はない。其れでもリュミエールは……。 「はーい、次は隣ね~☆」 扉の向こうから『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の、場にそぐわぬ陽気な声が響き、ディートリッヒが隣のドアを叩き壊した。 落下の様に、加速する。 「玩具だな」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の小さな呟きは風に紛れて掻き消えた。 けれど、その言の葉に乗せた魔力は、そして悪意は、違う事無くアラクネを、更にはその仔の一匹を捉えて注意をユーヌへと引き付ける。アッパーユアハート、ユーヌが良く使う技の一つ。 キマイラ達がユーヌに向けるは、怒りに、敵意に満ちた瞳。其処には明らかに感情が、知性の光が宿っていた。 しかし、だ。 仔キマイラの周囲に幾重にも展開する呪印、ユーヌと同じく屋上から落下するように飛来した『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の呪印封縛がその技名通りに、縛って、動きを封じんとする。 確かに、一目見ればキマイラの完成度が上がっている事は判る。以前と違って蜘蛛の様な何かでは無く、アラクネの下半身は紛う事なき蜘蛛だ。 上半身の造形も崩れずに美しく、知性を持つ。だが、けれど、其れが何だと言うのだろう。やる事に変わりは一つとしてないではないか。 雷音の魔術知識を持ってしても、キマイラの全容は見通せない。唯、吐き気を催すほどの犠牲の上に、この存在が成り立つ事だけは容易に想像が出来る。 許されざるは、この哀れな化物を生み出した六道だ。 ● 千里眼で見通し、僅かに眉を顰める『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)。 頷く彼女に、こっそり紫月の後ろ髪を弄ったり匂いを嗅いでいたへんt……、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が2刀の武器で部屋の扉を切り、蹴り倒す。 葬識達もそうだったが、騒音を気にせぬ彼等の行動には理由がある。先ず第一に、ゆっくり開けていたのでは仔キマイラに変異の時間を与えるだけであり、そもそもピッキング等の手段も持ち合わせていない。 そして何より最大の理由は、……アラクネや、変異済みの仔キマイラに這い回られた数階層はもう既にほぼ全ての部屋が彼女達の被害を受けていたからだ。 変異が可能な女性は全て針を受け、そうでない者は引き千切られて殺された。 その数階層を、葬識達は上から、紫月達は下から、千里眼で見通し、虱潰しに針を受けた女性を、変異前に始末していく。 ……心を凍らせ、自らの行為に関しての疑問を封じ、一人、一人、命を刈り取る。 身に絡み付く糸が強く引かれ、振り回されたユーヌの身体が叩き付けられて壁面にめり込んだ。 器用で、さまざまな局面に対応が可能な反面、耐久度に酷く難のあるユーヌにこのダメージは重い。彼女の口からゴボリと零れる鮮血。 「ユーヌ!」 仲間の身を案じる雷音だが、彼女とて危機は迫りつつある。ユーヌが敢えて引き付けから外した一匹の仔キマイラが雷音に向かって切り裂く様な鋭い糸を吐いたのだ。 其れは、地上であれば或いは回避が可能だったかも知れない。……けれど、この高度での飛行に、姿勢の維持に労力を必要とするこの現状で回避を行うには些か厳しいものだった。 身が裂け、血が舞う。雷音の速度は仔キマイラに勝るが、呪縛が確かにかかったにも関わらず平然と動く相手を止める術が彼女には無い。 彼女達の想像以上に厳しい、特殊環境での戦闘。 だが、その時だった。 「しづっきー!」 警告の声と共に竜一が紫月を突き飛ばす。 竜一に喰らい付くは、彼等の眼前で今正に変異を終えたばかりの仔キマイラ。下半身には蜘蛛が、肩口には女が、其々喰らい付いては竜一の体内に麻痺を流し込む。 紫月や竜一に油断があった訳では決してない。ただ、この家庭は4人もの女性……、母、高校生の長女、中学生の次女、小学生の三女がおり、処理が間に合わなかったのだ。 突き飛ばされながらも紫月の放った矢が貫くは、眼前のキマイラ……、では無くその奥で次いで変異を完了しかかっていた三女の頭部。 「オラァッ!」 強引な踏み込みで間合いを一気に奪い、ディートリッヒは眼前の仔キマイラに刃を叩き付ける。 その圧に怯み、動き鈍らせた仔キマイラの隣を駆け抜け、大鋏の刃を閉じる葬識に、少女の生首が宙を舞う。 仔キマイラの咆哮は、同類となりつつあった個体を潰された怒りか、はたまた眼前で娘を殺された母の怒りか。 けれどリベリスタ達はその感情の真意に頓着などしない。唯粛々と、処理を続けるのみだ。 躊躇えば躊躇う程に、被害は、悲劇は拡大する。一つの悲劇に嘆く暇は、今の彼等には与えられていない。 「アア、分かっている。お前らは悪く無い。何時かきっと遊び心でお前らを殺したアイツをトメテヤルヨ」 リュミエールが振るう刃に仔キマイラの上半身、女性の両腕が切り飛ばされ、……ズドンと、再度踏み込んだディートリッヒの一撃に身を守ることすら許されず上半身が断たれた。 噴出す鮮血が、彼等を更に朱に染める。 「はいはーい、次はあっちね~☆ 俺様ちゃんほんと働き者」 ● ユーヌを捕えていた糸を断ち切り、アラクネを縛り上げるは幾重にも撒き付く気糸。 冷たい壁面を素足で捉え、アラクネの懐に潜りこんだ天乃が放つデッドリーギャロップに、アラクネの悲鳴が木霊する。 天乃がユーヌや雷音の2人より到着が遅れた理由は唯一つ。壁面に仕掛けられた粘着性の糸によるトラップの存在。 アラクネの素体にされた女性、織物の芸術家である荒根・美子がこしらえた壁面のトラップは大胆かつ精緻で、神話でアラクネがアテネに対して織った其れを思わせすらする、トラップを避ける為には大きく回りこむより他なかったのだ。 壁面のトラップは飛行の出来ぬ飛べず、壁面を足場にする天乃にのみ効果があった。しかし、其れが故に、天野は飛行する二人と違い地上と何ら変わらずアラクネ達と戦う事が可能である。 呪縛は効かずとも、アラクネの反撃の喰らい付きを身を捻って掠らせるだけに留めた天乃。牙が掠めた肌から血が舞い、食い千切られたパレオの切れ端が風に流され落ちていく。 「來來氷雨」 天乃の行動で変わった流れを逃さず、雷音が放つは陰陽・氷雨。潜り抜けて来た数多の戦いの経験が齎す嗅覚が、彼女に勝機を教えたのだ。 常の氷雨は敵の頭上に落ちる。けれど、この壁面では雨は敵に対して正面から降り注ぎ凍て付かせていく。 更には雨を切り裂いて飛来する物体は、ユーヌの式符が生み出した鴉。肩口を貫く其れに、アラクネが怒りの瞳を向けるも、既にユーヌはベランダに降り立ち、しっかりとした足場を確保していた。 中の住人を戦闘に巻き込む恐れは、ない。何故なら此処等一体の部屋は既に、アラクネの手により壊滅状態にあるのだから。 「……あー、拙いね」 双眼鏡から目を離し、ぼやく『エンスージアスト』長谷村零司郎。 今、リベリスタと死闘を繰り広げるキマイラ、アラクネの生みの親である六道の研究員は、向かいの高層ビルより双眼鏡で戦況を覗いていた。 当然、零司郎は他の誰よりもアラクネの強みと、そして弱点を知る。 「善戦はしていたが、其れも足場の優位が在ればこそか。しかし……、それにしても相も変わらずこう言う場でなら容赦の無い」 喉の奥に引っ掛かったかの様な笑いを洩らす叫喚が、其の肉眼で見通すは今もマンション内で仔アラクネに変異しつつある女性の処理に当たるリベリスタ達の姿。 壁を隔てた遥か先を千里眼で見通す叫喚と、女の首を刎ねた葬識の視線がぶつかる。 自らの喉を二度叩き、大鋏をジャキリと閉じる仕草をする葬識の布告に、叫喚の笑みは一層深く。 「それにしても、随分あっさり数を減らしてくれたよねぇ。僕でももう少し実験体処分には躊躇うよ。アークってのは気狂いばかりなのかい?」 壁を透かす目を持たぬ零司郎は、叫喚の笑みの意味に気付かぬままに。 「自らの行いを振り返らぬ愚者か、正義を妄信する痴人か、何れにしても私なら正面からの相手はお断りだね」 力で彼等とぶつかるのは、非常に割が合わない行為だと叫喚は知る。 けれど零司郎にとってはだからこそ、意味があるのだ。 「だからこそ、僕のキマイラの優位を証明するに相応しい相手だね。……まあアラクネには悪いけど、こんな余興でコケられても興醒めってものさ」 アラクネの、そして彼女に仔とされた犠牲者達の、叫び声は此処には届かない。 ● 足場の枷を解かれた、そして増援に駆け付けたリベリスタ達の圧に負け、アラクネは強引に室内を突破してベランダからの逃走を試みる。 「一度狙いを決めた獲物は逃がしません──御覚悟を」 降り注ぐは炎の矢。紫月の放つインドラの矢が、アラクネと、仔キマイラの糸を燃やして肉を貫く。 壁面に乗り出しながら揺らぐアラクネ。其れは、確かに千載一遇の好機の様に見えたのだ。 駆ける竜一がアラクネに対して両手を広げたタックルを試みた。まるで其れは、救いの無い美子を抱き締めんとするが如く。 竜一の狙いは、アラクネ諸共の地面への落下! 「アイキャンフラーイ!」 けれど、である。I Can Fly、其れは割と飛び降り自殺的行為に対して使われる言葉なのだが、此処でそんな事を言うのはフラグでしかない。 体勢を崩しつつ、数mの滑落をしつつも、竜一のタックルを避けるアラクネ。勢い良く宙に飛び出した竜一の時間が一瞬止まる。 「あ……? あ、ああああああああああああああっ!?」 断末魔が高速で遠ざかっていく。ちなみに1G環境での重力加速度は9.8m/s2位らしい。 被告の罪は、同じ任務に彼女が従事する中で他の女性へのセクハラとかまあそんなの諸々。きっと向かいのビルでも爆笑である。 しかし、竜一の行為は今度こそ確実に、アラクネに大きな隙を作った。其れはもし仮に、ほんの数瞬の猶予が与えられたなら立て直せる隙。 だが無謀行為を行う、頭の配線が飛んだリベリスタは竜一だけではなかったのだ。 滑落を、8本の脚を踏ん張る事で何とか食い止めたアラクネに対して更なる重みが加わる。 「自由落下、の旅……と、洒落込もう?」 垂直に壁を駆け下り、アラクネの身体を捉えたのは天乃。其の勢いに、ギリギリで踏み止まっていた蜘蛛の脚に最後の一押しが加わり……、足の先が壁から離れた。 ふわりと、体が宙に浮く。 感じた事の無い感覚には勿論戸惑う。けれど不思議と不安は無かった。 だって、何故なら、自分を抱き締める女、リベリスタ天乃の唇が、普段は無表情な彼女が、ほんの僅かに微笑んでいたから。 100mの落下には、5秒と時を必要としない。なのに其の時間は不思議と長く感じられ、……ぐしゃりと肉が潰れて骨が砕けて意識も消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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