●一節 星は何でも知っている。 星は何でも識(し)っている。 ――嗚呼、それで。知っていたから、何になる? ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ ●星に願いを 「そういう訳で、皆の出番」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)の言葉は今日もやはり突然だった。モニターには彼女が――カレイド・システムが視た神秘なる光景が広がっている。ブリーフィングに集められたリベリスタに求められる種類が少ないのは確かなのだが。 「今回現れたのは厄介な相手よ。 見ての通り。闇の中に瞬く光。不定形の光。『星』の名を持つアザーバイド」 未来という名の『現場』を映すモニターは奇妙にディテールを滲ませていた。カレイド・システムの映す光景は現実であって現実では無い。厳密に言うならば、起き得るかも知れない可能性その一端を覗いているに過ぎないからか―― 「星ね。これだけ見て、それだけ聞けばロマンチックかも知れないが。 実際、そんなにいいもんじゃないんだろ? どんな相手だ」 「アザーバイド――識別名『17、The Star』は人の心に強力な影響をもたらすの。 正位置のカードが希望、ひらめき、願いの成就を表すなら、これは逆。 失望、無気力、高望み――嬉しくない現実を知り、教えるそんな存在。 『星』に正しく立ち向かう人は例外無く心の強さを求められると思う」 イヴは17、The Starの領域に踏み込んだ人間が実力を十全に発揮する事は難しいという。 アザーバイドの結界の中では不安が容易に嘲笑し、我が身を無気力に呪うという。 「『星』の属性は神秘。攻撃も魔法的なものが多い。 だけど、今回有効なのは神秘攻撃だよ。どうしてかは分からないけど」 「中々、苦労しそうだな」 イヴはリベリスタの言葉に頷いて少し思案し、もう一言だけを付け足した。 「星の代わりに、あなたに願いを」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月14日(火)21:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●緩慢なる廃滅のDarkCard 目の前の真深き闇の中で無数の光が瞬いていた。 人の魂(こころ)を容易に鷲掴み、人の運命を容易に狂わせる。 「星か……古の時、人は星の動きでその未来を占ったと言うが……」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は民俗学の類を専門にしてはいない。 だが、日々神秘と荒事に身を浸す彼が色濃い魔性を秘めた光を見違える筈も無い。 「さて……この夜空を傍迷惑な預言者(ノストラダムス)はどう読むだろうか」 神秘に相対するもの、仇なす者。リベリスタが倒すべき、倒さねばならない存在を前に―― 彼は詮無く考えた。古代、中世の魔術師達の眺めた空はこれと同じように暗かったのだろうか――と。 遥か頭上に瞬く星は手を伸ばせば届きそうでいながら絶対に届く事はない高みに在る。 人の尺度では大凡届き難い遥か彼方より、気の遠くなるような距離を走る輝きは――夜に瞬いたその時には既に過去と成っている。 アーサー・エドワード・ウェイトはタロット図解で星を「希望、明るい見通し、瞑想、霊感、放棄」と解釈した。タロット占いにおいて希望の意味を見出す星の光は、しかして一度逆位置にその身を落とせば――その逆を無慈悲に反映するのだ。 まさに世の中の二面性は上下逆さまになるだけでその顔を全く別のモノに変えてしまうカードの不条理そのものなのだ。 「求められるは心の強さ、中々ハードだな」 言葉とは裏腹に『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)の口角は吊り上がり、まさに不敵といった風。 「お星様ってのは夢とか希望の象徴なんだよ。失望を与えるお星様なんて私は認めない」 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニスの言葉は或る意味で『酷く少女らしい』――夢見がちであるのかも知れない。 「皆でやっつけてやったー! って言える様に頑張るよ!」 だが凛と気を吐く彼女の表情はランディの言った求められるモノをこの場に示しているかのようだった。 「嬉しく無い現実かぁ。いろいろ思い当たって結構ピンチ、かな」 一方、人の心を侵し、失望でその身を縛ると言う星を油断はせずに眺めながら、間宵火・香雅李(BNE002096)は何処か軽く呟く。 「星は遠くて届かない。掴めるのは発する光だけ――なんてね。 触れる星ならまだ絶望じゃない。絶望も、正面からしっかり掴んで正位置に直しちゃうよ」 「失望、無気力、高望み? そんな楽しくないこと俺が絶対に許さない!」 香雅李の言葉に『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)が威勢よく応えた。 「どんなに絶望しても希望を捨てたらダメなんだ! ……うわ、何この台詞……」 言っておいて気恥ずかしくなる――決め切れない彼はある意味で何時もと同じ平静を保っていた。 次々と言葉を投げかけるリベリスタ達にも星の光は応える事はない。 果たして言葉が通じているのか、いないのか。 「……ま、こういう相手だよな」 ラキ・レヴィナス(BNE000216)は小さく肩を竦め、 「Dark Cardの一体ということは……こいつのような輩はまだ多いのか? 厄介極まりない事だ」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は書の神聖を携えて呆れたように呟いた。 人気の無いオフィス街に俄かに漂い始めた魔気は『格別の予感』を感じさせるに十分だった。 あと幾らも経たない内に存在を賭けた死闘が始まろうとしている事は誰にも疑う余地は無い。 謂わば死戦を前に辛うじて赦された最後の猶予である。戦い慣れてきた彼等はその表情を引き締めながらも揺らぐ様子は無いのだが。 (心を試される戦いなんて緊張するな……いや、気持ちで負けてちゃ始まらねぇ) 何処か超然とした二人に比べれば内心で気を入れ直す『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)は年齢なりの気負いを見せていた。 彼がちらりと視線を向けたのは小さく一つ頷いたゲルトだった。 強敵を前にパーティは十分な打ち合わせと連携のパターンを用意している。 ゆらり、ゆらりと闇に光を滲ませながら――剣呑な存在感を強める敵に負けじと得物を握った静は声を張る。 「今回は特に大事な役割があるんだ、絶対負けねーぞ!」 余りにも分かり易く、余りにも鮮烈な宣戦布告にパーティの誰かが笑みを零した。 戦いの時はやって来た。相手が何であろうとも――敗れる気が無ければ、まさに静の言う通り。 「さぁ、時間だぜ!」 ラキは目を大きく見開いた。 目前の星、遥かな光――動き出した『偽者』のその正体を破るべく! ●スターライト 此の世の理を知らぬ者、異世界からの招かれざる客――アザーバイドは成る程、非常識に満ちていた。 生命体と呼ぶ事すら正解かどうか判断しかねる『小さな星の光の集合体』は概念であり、存在である。 (……ちっ、相変わらず訳分かんねぇな……!) ラキが舌打ちするのも仕方のない事。 彼の眼力は敵の性質と正体の奥を見通そうとしたが――完全に看破したとは言い難い。 彼の力が届かなかったというよりは、目の前の星が不明だらけだったと言った方が正しいだろう。 とは言え、予め目星をつけていたのは幸いした。敵の能力の全てを解する事は出来なかったが、予想は少なからず当たっていた。光が濃い部分――星の渦の中心の部分こそ敵の泣き所と彼は見た。 「カードの星は一つの星を中心に、複数の星が回ってるんだってな?」 口の端を歪めた彼の言葉の意図を察し、仲間達は頷く。 そして。 降り注ぐ失望の光を号砲に――パーティとアザーバイドの戦いは既に始まっていた。 アザーバイド『17、The Star』に相対するのは合計十二人のリベリスタ達。 圧倒的な敵に立ち向かうパーティには細心の連携が求められる。 「今夜は――オレが守ります!」 「本来、守りは俺の領分だが今回は頼りにさせてもらうぞ、静」 その身を苛みかけた呪いの光を撥ね退けて、一早く動き出した静がゲルトへの斜線を封じるように前に出た。 本人の言う通り、鉄壁堅牢なる――『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマンが庇われる事等、平素は無いに等しい。 まず総ゆる攻撃に身を晒し、仲間の盾となるのがクロスイージスの矜持である。されど、今夜ばかりは話が違うのだ。 (勝負は、何処まで……支えられるか) 精神を侵す呪い、ばらまかれる失意のスターライトは戦場の誰をも逃さない。 致命的失敗を容易に起こり得る常識へと変える恐るべき力は攻防両面に多大な影響をもたらす敵の切り札であった。 立ち向かえるのは彼の神気。恐怖を払う聖なる光こそがかの星光に抗し得る力である。 「集合体には核か。道理だな」 その怜悧な美貌に冷静さを湛えたまま、オーウェンが続いて動き出した。 彼の明晰なる頭脳を極限の集中が更に研ぎ澄ます。 奇跡的な身のこなしはコンセントレーションを纏った彼に連動する次なる動作を約束した。 「……っ……!」 気合の呼気と共に夜よりも深い暗闇に狙撃の気糸が撃ち込まれた。 素晴らしい命中力で放たれた一撃は確かに命中を果たしたが、生物的でないそれにどれ程の影響を与えたかを即時に推し量るのは彼の直観力を持ってしても難しい。 「……確かにやり難い相手だな」 口元に浮かぶのはシニカルな笑み。 戦いの趨勢を決めるのはモメンタリーである。先手を撃った事は奏功するだろう。 「これでもくらって大人しくしなッ!」 そして当然動き出したのはオーウェンだけでは無い。 一声と共に手にしたクロスを構えたのは俊介だった。 パーティを打ち据えた失望の魔光を跳ね返し、対抗するように放たれたのは神気を帯びた閃光である。 鮮烈な光は目の前の闇と闇の中に瞬く光を一瞬飲み込みかかったが、押し返す闇にやがて光は食われ夜に残滓を残すばかりだった。 「ちっくしょ……!」 星は神秘に弱いと聞く。 牽制に放った光ではあったが、失望スターライトの効果が影響をもたらしたのは否めない。 おおおおおお……! 空気が揺れる。夜が震える。星より噴き出す濃密な魔気に誰かが小さく息を呑む。 放たれた銀色の光――星の嘲笑にパーティは少なからぬダメージを免れない。 失望スターライトに侵食されていては『確率論上』痛打を完全には否めない。 同時に腹の底から沸き上がる酷い怒りにランディが小さく呟く。 「ああ、御機嫌な化け物め」 頭が煮える。目を剥き、歯を剥くようにして恐るべき戦気を纏った彼の背中に、] 「落ち着け。ここからだ」 庇った静の献身を受け、怒りの影響を何とか回避したゲルトの声が掛けられた。 「主よ! 偉大なる我らが父よ! 我が仲間を守りたまえ!」 光が満ちる。こびり付く恐怖を次々と漂白していく。 朗々たる声は運命に訴えかけるかのような強い意志を秘めていた――失意を奮い立たせる勇気の声そのものだった。 「失望だと? 高望みだと?」 片手でバイブルを開いた彼は鋭さを増したその双眸で星の光を睨み付ける。 「仮にも世界を守ろうという人間を――リベリスタをなめるなよ!」 僅かな攻防の時間は辛辣なる状況をリベリスタ達に教えていた。 今夜の解決が簡単に済まない事を教えていた。 だが、それでも…… 「同感だな」 連携を意識し、敢えて行動を遅らせていたラキは不敵に頷いた。 「言ったんだよ。そんな光は認めない」 「うん。燃え尽きるばかりの星には――負けられないし」 ウェスティアは、香雅李は頷いた。 逆向きの星に希望は無い、仲間は無い。リベリスタには望む未来も、仲間も居る―― ランディは気を吐いた。 「俺は負けるのがこの世で一番大嫌ッいなんでな!」 ●さよならの星 「お星様。きらきらきれい。 本来でしたら、さおりんとの未来をお願いしたい所ですけど――」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が気を吐いた。 「逆向きのお星様にはお願いしてやらないのです。ロマンチックはおでいとの時まで取っておくのですよ!」 彼女の天使の歌は傷みを増したパーティを強力に賦活する。 「刺し違えても敵は討つ――それが矜持だし、それ以外には興味も無いわ」 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の放った魔力の弾丸が星の光を撃ち抜いた。 戦いは激しさを増し、佳境を迎えようとしていた。 その姿形からダメージの分かり難い星ではあったが、度重なる攻撃は堪えたのか抱く光が弱っている。 最大の脅威である失望スターライトを避ける為にパーティの多くが考えた待機と連携の駆使はここまで一定の効果をあげていた。 しかし、この方法をもってしても速度に優れないゲルトの動きを待つ間のタイムラグを埋める事は出来ない。失望の光の影響を免れない状態で星からの攻撃を受ける状況の多くなったパーティには既に多くの余力が残されていないのも確かであった。 運命が燃える。星が燃える。 燃え尽きるのは一体どちらが先なのか――? 「っと、大丈夫かよ! ああ、聞くまでもねぇか!」 「我が王道に失望などない! 高望み? 高く望むから人は己を磨くのだ―― 痴れ者め。屑星の如き輝きが、この王の光を喰えると思うなよ!」 降り注ぐ混乱の星をランディ、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)はその身で止めた。 或いはその強靭な鋼の心で混乱の影響を食い止めた二人の背後にはウェスティアと香雅李の姿がある。 「やっちまえ!」「――星を、撃て!」 口を揃えて敢えて言われるまでもない。 盾が止めたならば貫くは矛。役割は誰も分かっている。 ――――♪ 無明の夜に静謐と声が響く。 美しく澄んだ声で魔曲を奏でる。香雅李は歌う。十字を手にして。 「全ては過ぎ去った昔の事――今のボクは星屑を謡おう」 狭い夜空で緩やかに燃え、滅びに向かって輝き続ける星を凛と見据えて少女は光を撃ち出した。 淡いその輝きさえ塗り潰す、まさに鮮やかなる四色の光。四つの呪いを従えた魔光は、 「一気に――行くんだよ!」 連携良く同時に魔光を放ったウェスティアの助力を受けて――合流してその密度を倍とする。 圧倒的な魔光の奔流には流石の星も強かに傷む。 強烈にそれを叩いた魔曲は唯の四重奏(カルテット)に留まらぬ崩壊の交響曲(シンフォニー)。 戦いは続く。 パーティはダメージに揺らいだ星を見逃さず、尚も攻め立てる。 「失望なんて、何度したか覚えていないけど。今ここにいる、それが答え」 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の征く道にこの時ばかりは迷いはあるまい。 「砕けて流れる星になるのなら、その一カケラでも星見る誰かの希望に変わるといいな……」 傷付きながらも静の闘志は、意志は僅かばかりも曇っていない。 「盾でだって攻撃できるんだよ!」 「ふむ。大分弱ってきたか?」 誘導や呪縛といった様々な搦め手を繰り出してきたオーウェンが「ふむ」と頷く。 「俺は自分の心を信じる。絶対に負けない。星なんかに」 威力ある魔力の矢が俊介のクロスから撃ち出された。 「星に代わって、御仕置きよ!」 「簡単に倒れてる暇ねぇんだよ」 当然の事であるかのようにラキが言った。 「星の逆位置の意味は知ってるさ――それは確かに失望かも知れねぇ。……だけどな」 グリモアールが光を放つ。まさに精密なる射撃を可能にするプロアデプトのピンポイントはコンセントレーションをその技に乗せて、 「気にいらねぇ結果なら何度だってやり直しちまえばいいのさ! 少し躓いたぐらいじゃ、へこたれてやれねぇな!」 星の中心を射抜いていた。 だが、それでも。 パーティに加わる負荷は星を相手にしている以上変わる筈もない。 どれ程強く意志を持とうと誓っても、攻撃の幾らかは完全に逸れ、防御は致命的失敗をもたらす。 呪いのようにその認識に滑り込む衝撃は彼等の動きを鈍らせる。 「これで打ち止めだ!」 ゲルトの声は継戦の限界を意味していた。 「チッ!」 舌打ちするランディ。 「降魔! 合わせるぜ!」 連続攻撃に出た仲間達に続き、彼と応えた刃紅郎はその全身の膂力を爆発させて星へ向かう。 ――その直前に。 星がまさに威圧を増す。 信じ難い程の存在感をこの期に及んで示す。 ラキの警告が響いた。見るに分かる呪殺の星にランディは怒鳴り声を上げて飛び込んだ。 炸裂した光はパーティを飲み込み、悲鳴を幾つも重ねさせる。 だが。 パーティと星の間、数十メートルにも足りない距離は人と頭上の星との距離に比べれば余りに近い。 運命に寵愛を受けた王はその身を揺らがせながらも、その姿勢を持ち直す。一撃。 そして、ランディ。 「届かねぇ、距離じゃねぇんだよ――!」 鬼気を纏った――もう、一撃。 光の残滓が糸を引く。 砕け散った星の輝きは闇の中に光の屑をぶちまけた。 それで、さよなら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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