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【壇示・蠢く石室】きらめく鱗を叩き割れ!


 忘れていたときならそうでもないが、一度思い出してしまった食欲を我慢するのは耐え難い。
 腹が減った。腹が減った。腹が減った。腹が減った。
 供物を。
 腹を満たし、口腔を満たし、咽頭を満たし、脳髄を満たす供物を!


 天狗の鼻岩で、リベリスタ達は回収を待っている。
 まぶたを閉じても、先ほどまでの光の乱舞で眼球がキトキトと痙攣している。
 足元遥か、奇岩石室のある辺りの光が、瞬く間に拡散して集落に向かって流れていく。避難が開始されたのだ。
「……てことは、向こうもうまくやったみたいだね」 
「でも、向こうはこれからの連中がいるよ」
「うまくやってくれるといいんだけど……」
 残念ながら今の彼らの状況では、援軍どころか足手まといになる確率のほうが高い。

「後は頼むよ。キミ達の分のハンバーガーも買っておくからさ」
 蠢く石室を完全瓦解させて、危うくその餌食になるところだった集落の住人を避難誘導させていく血まみれのチームにねぎらいを叫び、背中に激励を受ける。
「ハンバーガーだって」
「肉を食べる気でいられればいいけどな」


「お待たせ。AF越しの変則で悪いけれど、手短に話す」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声がノイズに押されて途切れる。
「暫定E・ビースト……というか、その一部と言うか「うろこ」が下から飛んでくる」
 なんだって!?
「地面から、円盤状のうろこが沢山! 回転のこぎりの刃みたいに飛んでくる!」
 向こうも声を張ってくれたおかげで、明瞭に耳に入ってくる。
 あれですか。対空ミサイルみたいなもんですか。
「ひょっとしたら、イカを落とすためのものだったかもしれない」
 飛んでくるイカ。それを一刀両断するうろこ。
「――イカ刺し……?」
 いや、爆発するから!
 違うから。このイカ、ダメージはいるとすぐ爆発するじゃないか。
 違う違う、そうじゃない。
「とにかく、うろこの大きさは直径1メートル強。垂直に飛び上がってくる逆断頭台。非常に鋭利。くれぐれも気をつけて。切れたら最後、一気に失血状態になるからね」
 だから。
「みんなには、うろこを全て叩き割ってきてもらう。一度打ち出されたうろこは放物線を描いて飛んでいく。その方向に……」
 その方向に?
「高速道路の高架橋が通ってる……」
 あんまり山奥に縦貫道を無理やり突っ切らせるのはどうかと思います道路行政!?
「そうなったら……」
 重力加速のおまけつき。神秘起因の多重衝突事故なんてごめんです。
「――なあ、イヴ。地面の下には何がいるんだ」
 直径1メートルの鱗を持っている生き物ってどんな大きさなんだ。
 というか、それはまともな生き物なのか?
「見えない。不確定要素が多すぎる。他チームががんばってくれたおかげで、奇岩石室の束縛から解き放たれても、動き出すのにまだ時間がかかりそう。それがこちらのアドバンテージだけど」
 イヴが大きくため息をつく気配がした。
「正直、この鱗射出は、寝返りみたいというか、寝ている最中に頭かきむしってる状態というか……」
 意図してやっている攻撃ではないのに、こっちは命の危険を感じるレベルなんですね、わかりました。
「ちょっと平板だけど、もぐら叩きに勤しんで」
 クレー射撃、長短距離版。
 叩き割るお仕事が始まった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年11月01日(木)23:16
 田奈です。
 お待たせいたしました。
 「<蠢く石室>」の続きです。
 地面の奥から飛んでくるスライサーを華麗に避けつつ割るお仕事です。
 うっかりすると、体が右半身と左半身に生き別れますので、気をつけて下さい。

 「うろこスライサー」×たくさん
 *繊細な半透明のそれはきれいな雲母状の、触れたらざっくり切れちゃう、すてきなうろこですよ。直径1メートル。
 *1ターンに合計10枚が皆さんの各々の近接範囲に集中して噴き上がってきます。
  つまり、前衛後衛という考えは無意味です。
  全てが最前線です。
  誰かと近接範囲が重複しているなら、そこは密集してうろこが飛んでくるでしょう。
  共同責任!
*避けません。高速で移動しています。
  うろこなので、割れやすいです。
  更に、精神、麻痺、呪い、態勢無効。
  血もありませんので、出血、流血、失血も無効です。
 *うろこですので、割れたらそれまでです。回復しません。
 *切り裂くうろこ:物近範 失血付与
 *それが30ターン続くと思って下さい。
 *破壊しなかったうろこは、あらぬ方向に飛んでいきます。
  近接で破壊しそこなったうろこが、通常射程距離内(20メートル)にいるのは1ターンです。
  長距離射程距離内ならもう1ターンの猶予がありますが、かなり小さくなるので命中させるのに修正が入ります。 

場所・奇岩石室跡地
 *作戦決行は、夜間。
 *作戦時間は5分(30ターン)
 *成功条件、うろこスライサーの破壊。
 *範囲は、皆さんが立っているところです。
  移動できる範囲は30メートル四方くらいですが、あんまり分散すると、人のフォローが当てにできなくなりますよ?

成功条件:鱗の完全粉砕
 *飛んでいった枚数に応じて、高速道路上で起こる事故の規模が大きくなります。

<ご注意>
 時系列上、【壇示・蠢く石室】とタグがついている依頼に同時に参加は出来ません。
 前回参加者様は、PCが消耗し、回復する暇が無いため、今回は参加できません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
スターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
プロアデプト
御厨 麻奈(BNE003642)
インヤンマスター
一万吉・愛音(BNE003975)


 暗闇の森を駆け抜けると、一気に開ける視界。
 先ほどまでそびえたっていた石室は、すでにリベリスタによって完膚なきまでに破壊されている。

「因縁あるこの地に戦いに終止符が打てるかどうか。既に作戦行動を済ませた人たちの苦労に報いるには私たちも……」
『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は、自らも何度も踏んだ天狗の鼻岩を仰ぎ見る。
きっと、あそこで戦った者達は、今時分達に思いをはせている。

「1Mの鱗飛ばしてくる様な奴か。本当どんなのが潜んでんだろうな。興味があるぜ」
『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658) の鋭い眼差しが闇を見通す。
「寝ぼけ動作で大惨事とかどんだけのもんを封印してたんだよ」
『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)の口調はあくまで軽い。
「なかなか恐ろしい相手やね」
『他力本願』御厨 麻奈(BNE003642)も応じる。
 ものものしい暗視ゴーグル。
 全体のバランスを取る役を託されたのは彼女だ。
「愛音も寝相は良くないと言われるのでございまするが、人体を切断する勢いとは素敵な寝相でございまするね!」
『愛の一文字』一万吉・愛音(BNE003975)の場合、『素敵』が皮肉なのか本気なのかの判断が非常につきにくい。
 愛音の世界は、愛であふれているから。
「寝ていようと破壊活動はノーラブでございまする! 高速道路もお味方も、守りきってみせるでございますよ! LOVE!」
 愛音の強気な発言に、麻奈は頷いた。
「ま、完全撃破目指してがんばってこか」  
 コンビを組むA班『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)。
 暗示ゴーグルの下、子供っぽい顔に薄く汗が浮いている。
 緊張感がみなぎっていた。
 きっと、しくじったときの惨事でも想像しているのだろう。
 麻奈の様子との対比から、イスタルテの感じているプレッシャーがうかがえる。
 きゅっとつぼめた唇から漏れ出す詠唱が、リベリスタの背に仮初の翼をつける。
 怖気づいているのはない。
 任務の重さを噛み締めているのだ。
 頭の中は次にどう動くかで一杯だ。
 余計な私情を挟む余地もない。 
「まぁ、とりあえずは目先の危険を何とかしてからだな。危なっかしくてしょうがねぇぜ」
 中央に陣取る予定のモノマは一足先に走り出す。
 モノマの場所が決まらないと他の班が配置につけない。
「BとCが高速道路寄りな!」
 あっちだ!と、指差す方向にリベリスタは散っていく。
「まっ、今は好奇心より仕事を優先しますか」
 ブレスの言に、同じA班のイスタルテは彼に懐中電灯を差し出した。


(人を喰らう石室。そこに生贄を供給する為の謎の成分を含んだ水源)
『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284) は、粉々に砕けた石室を踏みしめ、周囲を見回す。 
(石室に向けて身を奉げに来てるとも、石室の中のものを迎えに来てるようにも見える海産物)
 空を仰ぎ見る。
 先ほどまで空を彩っていた爆発の気配は、もはやどこにもない。
(出来すぎてて笑える)
 これは偶然なんかではない。
(一体中には何がおわしますやら)
「しゅーてぃんぐ!しゅーてぃんぐ! うろこを撃ち落とすしゅーてぃんぐ! ……っていうゲームだったらよかったんだけど」
 急速に尻すぼみになる『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の声。
「飛んでったうろこが道とか破壊したらシャレになんないよねー」
 だから、仲間を生かす。
 それが、アリステアの仕事だ。
 すでに喚起された魔力の泉を感じながら、回復請願詠唱を唇に載せる。
 魔力に共鳴する魔力杖。
 その足元に迫っていた。
 
「音がする! 来るで!?」
 麻奈が叫ぶ。
「皆さん、低空飛行をお勧めします! うろこは近接範囲に沸き上がりますので……地面から出た直後に切り裂かれぬよう用心です!」
 イスタルテが率先して、地面を蹴った。
 音は後からついてきた。
「ひゃ……っ!」
 リベリスタが次々と地面を蹴る。
 ごく普通の地面から、生い茂る雑草を切り飛ばしながら、直径一メートルの生体サーキュラーカッター。
 ごく僅かな風斬り音。
 懐中電灯の光の中、ピシッとひび割れる肉。
 一拍置いて、噴き出す血柱。
 前衛も後衛もない。
 サーチライトに照らされた、まがまがしい七色透明レンズが夜空をゆがませる。
 ぼとぼとと地面に叩き付けるように赤い塊はリベリスタの血と吹き飛ばされた肉。
 それが急速に地面にしみこんでいく。
 地面が小刻みに、群発地震のように鳴動している。
 甘露。
 喜んでいるのだ。
 地下に住まう者が、神秘の樽で醸された美酒をほんの少しなめて。
 悦に入っているのだ。
「これ、寝返りってレベルじゃ無いよね……」
 綺沙羅はポツリと呟いた。
 麻奈の目が動く。
 チームに特に重装備で回避が難しいスタイルのものはいない。
 しかし、『苦手ではないレベル』では地面の下に生贄の血を捧げ続けることになる。 
「うちに任して! こんなん、まともにくらわな、たいしたことあらへん!」
 デジタルとアナログ。 
 勘と計算と経験で、最適解を早急に割り出して見せる。

「組むのがカワイコちゃんで良かったぜ。野郎だとテンション下がる」
 ブレスが軽口を叩く。
 何を言うのかと、イスタルテのごつい暗視ゴーグルの下の目はまん丸だろう。
「戦闘開始から1分間は俺様ターイム! なんちて!」
 くわえ煙草の灰がこぼれて落ちる前に。
 身の丈ほどある機関銃からフルオートモードで銃弾が吐き出される。
 シャンシャンシャンシャンと、銀の鈴で打ち振る繊細な音を立てて、剣呑な鱗の破片が地面に落ちる。
 まるで夜空の底が蜂の巣にされて落ちてくるようだ。
「スタートダッシュは俺が貰った!」
 早くも断言するブレスの視界を紅蓮が覆う。
 元の素材の問題か、あくまで戦闘能力の実を追及した結果か。
 地面を踏みしめるモノマの黒い金属の手甲と戦闘服で覆われた筋肉のラインに蟲惑が宿る。
 舐めるようにまといつく炎の蛇をあやすように僅かに笑んだ後、周囲にそれを解き放つ。
「鱗の炙り焼きってか? 酒にでもいれてみるかよっ!」
 炎にまかれてパンパンと音を立てて爆ぜる鱗が灰にもなれずに消えていく。
 残念ながら、鰭の代わりにはなりそうもなく、そもそも出汁は出なさそうだ。
 吹き上がる炎風にオレンジ色の髪をなびかせて、愛音は絶妙のタイミングで鱗をよける。
 髪一筋の絶妙さだ。
「まずは、守りを固めるのが肝要でございまする」 
 剣と盾を手に軽やかに逃げ惑いつつ踏まれた歩法により、この場の空気はリベリスタに味方する。
「一万吉。俺は後ろにいるからな。巻きこまねえようにすっけど、覚えとけよ!」
「ご存分に! 愛音は延々と量産型愛音を生み出し続けるお仕事でございます!」

 リベリスタの脳に直接麻奈の声が響き渡る。
『数が多いところに余計に出る。これから、量産型の愛音さんとこに集中するで!』
 足元から伝わる微細な揺れから割り出す射出ポイント。
 重ねた戦闘経験に裏打ちされた戦闘計算の結果を的確にリベリスタ全体に周知させる。
(指揮もやけど、口より早くて楽やしな)
 金色のポニーテイルが闇に跳ねる。
(それと出てきた枚数のカウントも、やね。数が決まってるんやし、終わりが見えればきつくても頑張れるかもしれん)
 正三角形の一端で、15歳の麻奈が戦場の天秤を計っていた。
「鱗だけでもこのサイズ……中の奴はどんだけ大きいんだか」
 綺沙羅は、呟く。
 鱗のエッジは思いのほか鋭利だ。
 ぱっくりと開いた傷からとめどなく血が噴き出す。
 世界最大の淡水魚といわれるピラルクの成魚は、3メートル前後。
 その鱗は、大体直径十センチと言われている。
 ならば、この下にいるのは……?
 今考えても仕方がない。
 途切れることないキーボートの打音が連なり、氷の雨を呼ぶ。 
 神秘の競演だ。
 モノマの炎と綺沙羅の氷は互いを侵食することもなく、並び立ちながら鱗を穿つ。
 イスタルテから光が放たれ、バトルスーツから滴り落ちていた綺沙羅の失血は程なくとまった。


 すでに暗視ゴーグルで光量補正され、星龍の視界はコマ送りだ。
 恐ろしく具合がいいリボルバーから射出される銃弾が、炎を呼んで夜空を焦がす。
 帝釈天の加護を受けた弾幕が、虹色の極薄ギロチンがすぐそこの高速道路に降り注ぐ前に粉々に破砕する。
 高速道路上を走る車の上。
 降り注ぐ微細な粒子が神秘存在の鱗だとは、余人は思わないだろう。

「鱗ニ枚、二人とも斬られました!」 
 リベリスタの声が飛び交う。
 銃弾を撒き散らすブレスをいつでもかばえるよう、イスタルテは半ば中腰になりながら、失血を止めるべく凶事払いの光を放ち続ける。
「こっちに五枚でございまするよ! やはり量産作戦は間違いではなかったのでございます!」 
 鱗の射出位置を先読みする上、挙動が早い。
 ぶれて見えるほど速い。
 それが、本人を合わせて四つ。
 残像が残像を呼び、にわかにオレンジ頭が八面六臂状態だ。
 量産型が、L・O・V・Eの動作。
 手文字だ。
 手旗信号よろしく、L・O・V・E、L・O・V・E。
「全力防御姿勢でございまする」
 術にはそれぞれ独特のやり方がある。
 効果があると本人が信じきっている限り、それは尊重されるべきだ。
 信じることが力になる。こと、神秘界隈では。
「さあ愛音軍団を見事捉えてみせるのでございます!」  
 血を吸わぬまま上空に上がっていくうろこは、モノマの格好の餌食になる。

 符を自分の姿に変えていく愛音はすでに魔力がカツカツである。
 技術はともかく、神秘の器は十分育ちきっていない。
 守りの結界維持と、三人の式神を作った時点でもう鴉を一羽出せるか出せないかの窮地に追い込まれている。
「優先順位、一番と二番が同一人物や!」
 麻奈は神経回路を愛音に同調させる。
 練成された魔力が仮想神経バイパスを通って愛音に注入される。
「ありがとうございます! もう一体くらいいけそうでございまするよ!」
 あと一時間前後は活動する量産型愛音。
 性能がいい分、非常に魔力食いだった。  
 魔力供給係は、麻奈一人。
 自前の魔力でまかなえればそれに越したことはない。
 それまで、機関銃を振り回していたブレスが方に銃床を当て、単発に切り替える。
 それを視界の端に捕らえた星龍の銃口から星光が尾を曳く。
「――五分で持てる魔力全部使い切る気でいますがね!」
 店に向けて打ち出される銃弾は天頂のポラリスを穿って八方に散り、赤をまとった透明な円盤を討ち果たす。
 綺沙羅の氷雨で凍てついた鱗のかけらは、キラキラと秋空を彩った。
「あたれー!!!」
 実践であまり撃つ機会がない魔法の矢を、気合とともに放つアリステア。
 光の矢が空へと上っていく。
 高速道路から見えているだろうか。
 自然現象ではない。
 人から別たれた者が繰り広げる神秘現象だった。


「ぺっぺっぺ! 高速回転した鱗は危険な上にまともに血を吸えないのでございまする!」
 愛音の泣き言が夜闇に響く。
 ちょっと失血、大惨事。
 鱗を齧ると、歯ぐきから血が出ませんか。
 あまりの絵面に、行為存在への請願詠唱をするアリステアが涙目だ。
 年齢制限?
 いいえ、全年齢対象です。
 うろこである。
 そもそも血など流れていない。
 神秘存在である以上、ある程度の魔力を含んではいるが、効率は非常に悪い。
「麻奈殿ぉ!」
 御厨麻奈のマナは、マナチャージのマナ。
 戦線は、麻奈の魔力供給で維持されていた。
 弾幕を張らなければ、大打撃だ。
 囮の式神とて、万能ではない。
 当たり損ないでも、何発か連続で食らっていれば式神はただの紙に戻る。
「私はタイミングがあえば。で、構いませんよ?」
 星龍は、集中を挟み、魔力の計画的な運用を心がけている。
「特に、この銃の持ち主である私は狙撃手としての意地と誇りにかけて――」
 絶対命中精度を誇る、存在が奇跡の銃の名の下に。
「――必ず打ち落とす」
 完全遂行を、何かに誓う。
「あ、俺はもう大丈夫!」
 ブレスが、供給対象から外してと声を上げる。
「最後まで、ハニーコム連射可能! ラストスパート!」
 フルオート。貰った魔力を弾丸に変え。
「さーて、残り時間は撃ちまくり天国だ。有り弾全部ばら撒くぞ!」
 
 鱗が割れる音が止まらない。
 銃声と詠唱と血と雲母のきらめきと。
 最後の鱗のかけらが地面に落ちる。
 
 静寂がやってきた。
 はるか遠くで、車の走る音がする。


「まずは解決でございましょうか」
 足元の揺れは収まっている。
 イスタルテと麻奈と綺沙羅が額をくっつけるようにして、検算をしている。
 三人はリアルタイムで、飛来枚数を報告しあっていたが、念には念を入れることにした。
 鱗一枚でも大惨事というのを、自分たちの体で味わっている。
 神秘によらぬ車など、豆腐のように真っ二つだ。
 時間も枚数も、予知の粋に収まっている。
 これ以上の鱗の射出はないだろう。
「お疲れさん! これにて大団円や!」
 麻奈はそう言って作戦終了を宣言する。 
「ぜーはーぜーはー。しゅーてぃんぐ! って、意外としんどいねぇ……」
 実際、アリステアは回復作業より、鱗の打ち落としに一役買っていた。
「ったく、やっと終わったか。こりゃ、骨が折れるな。おつかれさん」
 モノマは、まだ余力があった。
 それも、一切防御する負担がなかったゆえの余裕からだったが。
「愛があればこの程度問題にはならないのでございます! LOVE!」
 愛音本体の勝ち鬨にあわせて、量産型が追随する。
 その数、最終的に八体。
 分断されたものも何体かいたので、実際に練り上げた式神は、両の指では足りない。 魔力供給を受けてこその大盤振る舞いだ。
 本体も入れて、九人の手旗LOVE。
 視覚の暴力。.
 ちなみに愛音が消さなければ、あと約一時間はこのままだ。
「……ところでこれ、定期的な対処が必要になる気がするでございますよ?」
 愛音は足元を指差す。
 今回本体がここに出てくるはずだった。
 だが、目覚めることはなかった。
 憶測はいくらでも出来る。
『空飛ぶ海産物』が全滅された。
『蠢く石室』が、生贄供給装置としてまっとうする前に完全粉砕された。
 そして、今ここでリベリスタが流した血の量が起き上がってくるには少な過ぎた。
 とにかく、リベリスタには僥倖と言えた。
 鱗300枚で、魔力を使い果たさなくてはいけない。
 策と機を練り、人を割くべきだった。
 ――今は、まだそのときではない。

「……でも、きらきらして綺麗だから壊すの勿体ないなー」
 アリステアは、一枚拾い上げる。
 何かの拍子で、完全に割れることなく、比較的形を残している鱗。
 アリステアがしゃがめば陰に隠れられそうだ。 
「1枚くらいそのまま持って帰って、展示とかできないかなー」
「持っては帰るぜ-」
 モノマは、アリステアに声を掛け、自分の周囲を見回す。
 モノマの周囲の鱗は、炎でやかれるか雷撃交じりの拳骨で叩き割られているので、原形を保っているものなどない。
 黒の上に白の粒子が中央からA班に向けて降り積もっている。
「持って帰って分析して貰う。なんか分かるといいんだけどな」
 アリステアは、名残惜しそうに鱗をためつすがめつした。 
「カケラ持って帰ってお部屋に飾りたい。ちっちゃいのだったらいいかな?」
 これっくらいと、小さなアリステアの手のリサイズを示す。
「皆がダメって言ったらちゃんと置いて帰るよっ。ワガママはだめなのですっ!」
 アリステアが持って帰れるかどうかは、別働班との交渉にかかってくるだろう。
 サンプル量は十分だし、愛音がかぶりついて魔力も吸い取った指先くらいのなら、もらえるかもしれない。
 ちょっと愛音の唾液や血がついてるかもだが、洗えば問題ない。ないったらない!

「中の奴が起きだす前に離脱よ」
 綺沙羅がきびすを返す。
 すでにそれぞれの自前の魔力は底が見えている。
 麻奈の魔力供給も無限ではない。
 ここは退くべきだ。 
(何が出てくるかな? えぐい奴を期待)
 綺沙羅の脳裏に名状しがたきおぞましいモノ達が群れを成す。


 甘露。
 甘い、旨い、濃い、染み入る。
 ああ、満ちる。
 満ちる。
 束の間余韻に浸ろう。何度も反芻しよう。
 腹が減る。腹が減る。腹が減る。
 食いたい。食いたい。
 眠るより楽しいことを思い出してしまった。

 喰わせろ。
 眷属どもよ、わが僕よ。
 我が命じる。
 恍惚と共に命に応えよ。

 クワセロ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 無茶しやがって。
 今回は、チームの非常にバランスがよく、対象物に脳みそがなかったのでどうにかなりましたが、こんな手がいつも使えると思うなよ。 
 うっきい、悔しい!
 一人でも別の人だったら、もっと大惨事になってたのに!
 今回は、ご縁の勝利です!
 知り合った人達を大切になさいね!

 とにかく。
 石室はありません。
 目覚めました。
 腹減らせてます。
 それが、何を引き起こすのか。
 願わくば、地価の存在のまどろみが、少しでも長く続かんことを。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばって下さいね。